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名前はまだない(9):RE

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斗酒庵 阮咸を改装す製作 の巻2023.10~ 楽器製作・名前はまだない(9):RE

STEP9 エレキ阮咸>フルアコ阮咸計画(2)

 さて,今回はイチからの製作でなく,いまあるモノの改造がメインなわけですが。もとの楽器が実験・実証のための急造製作だったもので,作者のモチベは高くなく,各所あちこち,工作の粗がかなり目立ちます。
 ----うん,ちょっと4年前の自分,殴ってくるわ。

 棹はほぼそのまま使いますので,作業のほとんどは胴体部分の改修と改造だけですね。

 表裏板をひっぺがした胴体。
 スピーカーや回路を取り付けるための補強材に,内桁も取り払って,ほぼただの輪っかにしちゃいます。
 このまン丸い輪っかは,10年くらい前まで売ってた「エコウッド」という家具材料を加工したもので,材質はギターの表板なんかにも使われてる,スプルースという針葉樹材です。

 通常,月琴の胴体は4塊の木材を組み合わせて作られてますが,これだと合わせ目は1つ----胴箱が多少小さくても,振動の伝わりはこッちのほうが各段にイイわけですな。

 いまは売られてない材料で代替品も見つからないため,ストックから考えても,ウサ琴シリーズは作れてあと4面くらいで打ち止めかな?

 同じような素材があったら,どうか教えてください。

 新しい内桁を作りましょう。
 ウサ琴よりも長モノなため,弦圧は月琴やウサ琴よりも大きくなります。
 月琴はそういう縦方向への力を,胴体側部の板厚と表裏板の剛性によって支えてるわけですが,ウサ琴EX準拠だと,その表裏の板がふつうの月琴の半分くらいの厚みとなりますので,内部構造を少し頑丈にしておく必要があります。
 とりあえずは,棹茎を支える桁を少し厚めにするのと,もう一枚桁を足して,上下の2枚桁にしようと思います。

 内桁は真四角ではなく,真ん中が少し膨らんでるかたちにしてあります。
 大陸の天華斎の楽器なんかが同じようにしてますね。出来上がると表裏がごく浅いアーチトップ/ラウンドバックになります。この構造にはメリットもデメリットもありますが。難しいことをヌキに言うなら,このほうが音が良くなるし,見栄えも良い。
 ……工作がちょっとタイヘンになりますけど。

 強度の保つギリギリまで削り込みました。ほんとギリギリなんで,後で音孔の内壁を,樹脂で補強しましたね。工作時のアラやチップした箇所も埋め込んでおきましょう。
 取付けも,4年前は桁の左右端を削って,胴内壁にただ貼りつけただけでしたが,今回は胴のほうにわずかな溝を切って,そこにガッチリはめこむ方式にします。

 次はEXシリーズでもやった,胴構造縦方向への補強。
 裏板がわに「竜骨」となる薄い細板を通します。

 この板は上下のブロックと内桁に彫りこんだ凹にはめるわけですが,裏板にもしっかり貼りついていてくれないと意味がないので,まずは胴体のほうにガッチリはまりこむよう取付け凹を刻んで調整してから,あとで裏板の中心に貼りつけ,裏板といっしょに胴に組みこみます。

 板を作りましょう。
 平面的なサイズとしては,そのままで貼れるような大きな板もあるのですが,板を通常の半分ほどの厚みに加工する関係で,以前に買った古い桐箱をバラしたものを使います。

 いやね,板の幅があるとうちの手工具じゃ挽き割れないんで----これだと掛け軸の桐箱くらいの大きさの板が限界ですねえ。

 実際にやってみれば,どんなヒトでも数秒で思い知るでしょうが(w)。手ノコで,一枚の木の板を厚さ半分に挽き割る,という作業は,材質の硬軟を問わず非常にタイヘンなもんです。桐板ってのは木材の中でももっとも軟らかく,切りやすいものではありますが,5センチ程度の幅の板を2枚にするのに,2時間くらいはかかっちゃってます。

 ほいで,この出来た小板を横に接(は)いで,一枚の板に仕立てます。
 これも厚みが半分…てことはのりしろも半分しかないのでけっこうタイヘン。
 板同士の擦り合わせを相当繊細にやっとかないと,すぐにパリンですからねえ。

 手工具で挽き割ったものなので,さすがにけっこうアラがあります。
 凸を均したり凹を埋めたりして,全体なるべく均一になるように整形して使うんですが,特に裏板は音の反射のため表板より若干硬め(桐板としては)の材料を使ったせいで,かなりギリギリな状態----パテ埋め痕がイタイタしいですねえ。

 補強のため薄くて丈夫な和紙を,表裏板の板ウラの各小板接ぎ目と,横方向に2箇所通して貼りつけます。古書の補修なんかにも使ってるやつなんで,すごく薄いものですが,けっこう強いですよ。

 なんとか仕上がった表板を貼ります。

 分かります?----真ん中がわずかにふっくら,ちゃんとアーチトップになってますね。

(つづく)


名前はまだない(8):RE

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斗酒庵 阮咸を改装す製作 の巻2023.10~ 楽器製作・名前はまだない(8):RE

STEP8 エレキ阮咸>フルアコ阮咸計画(1)

 つらつらと顧みるに。
 庵主がこの楽器を手掛けたのは4年ほど前。
 俗にある「(短い棹で円胴の)月琴は唐の阮咸から派生した」という説を実際に楽器で検証するための実験楽器としての製作でした。


 まあ,4単弦(弦が4本とも違う音階)の楽器が,弦の数同じのまま複弦楽器になった,ってのがまずおかしな話だし。
 日本では江戸時代にもう,「月琴と阮咸は関係ないんじゃないか?」と馬琴周りの連中が言ってたり,遠山荷塘が示唆したりしてますが。流行期に酢豆腐先生の清楽家たちが,お金儲けの権威づけのため,起源を古く偽ったせいで流布しちゃったのもあります。
 そもそもこの説,この起源のよく分からない楽器を,凍石のキラキラ飾りつけて東方の原住民に売りつける際に使われた「売り文句」みたいなものの一つでもあったのでしょうが,中国の古い辞典でも「現在の月琴は清朝のころ音楽のテンポが早くなったので,速弾きをするため阮咸が縮んだモノ」というトンデモが,いまもまかり通ってたりします。

 洋の東西を問わず,弦楽器が短くなる理由は,音のため(高音特化)可搬性向上のためのどちらかで,「速弾きのため」に短くなることはない----ということは,ギターでもやってれば実感としてすぐ分かるでしょうし。4単弦14柱の楽器が,2コース複弦8フレット,13コしか音の出ない楽器になったら,単純に音数から考えても,前の楽器と同じように演奏できなくなることくらい明白でしょう?

 まあ,シロウトとはいえ,実際に音楽をやってる者の常識からして,また文献上の遡及からでも,この起源説があやしすぎることは,ある程度分かってはいたんですが。
 庵主としては,音階や操作性の比較をしてみて----そこに何か共通項があるのか?----というあたりは,一度は実際に試して確認してみたいところではあるものの,正倉院とか国博に行って「ちょっと弾いてみたいんで阮咸(国宝)貸してください」とも言い難いですから,ならば作っちまえ,と。

 音階と操作性を確かめるだけですから,「音色」の部分はどうでもいいわけで。音階の確認だけなら,同じ長さの棒を用意して糸を張れば済むくらいですが,「操作性」のほうはそうもいかない。とはいえ,べつに「レプリカ」というほどのものでなく,細かい寸法や材質・構造の違いはともかく,同じようなカタチ格好をしていて,同様のスケールになってるモノがあればいいわけですな。

 というわけで,出来たのがコレだ。


 ほぼ純粋に知的好奇心からくる実験・実証のためのモノヅクリでしたんでなんせモチベが低い。なんせ音楽的に「こういう楽器が欲しい」というところが皆無ですからな。そのため,今見るとけっこう工作がアレですわい。

 胴の作りはまんまウサ琴。
 それも去年・一昨年のEXシリーズじゃなく,工作の実験でもあった古いタイプの量産型ウサ琴の工作。作り熟れてますので。あと,多少ギグの時,これ持ってったら目立つかな~という邪心のモト,エレキ楽器とすることにしたわけです,ハイ。

 ----爾来,約4年。
 とにかく音が出るところまで作ったら実験は出来ましたし,実験が終わっちゃったらある意味用済みなわけで,内部の回路とか中途半端なまま,壁の花となってぶる下がってたわけですが。

 せっかく作ったのにこのままジャマにしてるのもなんだかもったいなし----というわけで,このたびこれを再生することといたしました。
 コンセプトとしては----

 1)エレキ化は諦め,アンプラグドなフルアコ楽器に。

 先に手がけたウサ琴EXシリーズの製作で,オリジナルの月琴より小さいこの楽器でも,それ以上の音が出せることが分かりましたので,胴体をEX準拠で作り直して,このサイズと構造での激鳴り楽器を目指します。

 2)4単弦から4弦2コースに。

 実験は終わってますので,このモノが「阮咸」である必要はありません。清楽で「阮咸」と呼ばれる楽器は,唐宋の阮咸とは全く関係のない,現在の中国楽器の分類でいうと「双清」という楽器になります。
 4弦2コース,八角胴長棹,13柱。日本の明楽や清朝の宮廷音楽ではこちらが「月琴」と呼ばれてたやつですね。
 こっちの「阮咸」も初期のころに作ったことがありますね。大きさ的には同じくらいだし,スケールも同じようなものなので,改造が少なくて済みます。
 唐宋の「阮咸」と清楽の「阮咸」を,確信犯的に混ぜこぜにして,後世の研究者を困らせてやりましょう!

 ----というわけで,さっそく料理に入ります。
 スティーブ,刃物を用意してくれないか?

 ベリベリベリ。

 といったところで,今回はここまで!

(つづく)


月琴WS@亀戸2023年11月!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2023年 月琴WS@亀戸!11月!!


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 霜月場所 のお知らせ-*


   2023年11月,清楽月琴ワ-クショップは,25日(土)の開催予定です!

 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼さがりのとろとろ開催。
 美味しい飲み物・ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 特にやりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の基本的な取扱いから楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。個別指導・相談事は,早めの時間帯のほうが空いてて Good です。あと修理楽器持込む場合は,事前にご連絡いただけるとサイワイ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 WSには間に合うかもしれませんね~。
 現在,4年ぶりで製作再始動中のこの楽器…………

 仕上がってたら,お披露目しまーす。

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