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斗酒庵 阮咸を改装す製作 の巻2023.10~ 楽器製作・名前はまだない(8):RE

STEP8 エレキ阮咸>フルアコ阮咸計画(1)

 つらつらと顧みるに。
 庵主がこの楽器を手掛けたのは4年ほど前。
 俗にある「(短い棹で円胴の)月琴は唐の阮咸から派生した」という説を実際に楽器で検証するための実験楽器としての製作でした。


 まあ,4単弦(弦が4本とも違う音階)の楽器が,弦の数同じのまま複弦楽器になった,ってのがまずおかしな話だし。
 日本では江戸時代にもう,「月琴と阮咸は関係ないんじゃないか?」と馬琴周りの連中が言ってたり,遠山荷塘が示唆したりしてますが。流行期に酢豆腐先生の清楽家たちが,お金儲けの権威づけのため,起源を古く偽ったせいで流布しちゃったのもあります。
 そもそもこの説,この起源のよく分からない楽器を,凍石のキラキラ飾りつけて東方の原住民に売りつける際に使われた「売り文句」みたいなものの一つでもあったのでしょうが,中国の古い辞典でも「現在の月琴は清朝のころ音楽のテンポが早くなったので,速弾きをするため阮咸が縮んだモノ」というトンデモが,いまもまかり通ってたりします。

 洋の東西を問わず,弦楽器が短くなる理由は,音のため(高音特化)可搬性向上のためのどちらかで,「速弾きのため」に短くなることはない----ということは,ギターでもやってれば実感としてすぐ分かるでしょうし。4単弦14柱の楽器が,2コース複弦8フレット,13コしか音の出ない楽器になったら,単純に音数から考えても,前の楽器と同じように演奏できなくなることくらい明白でしょう?

 まあ,シロウトとはいえ,実際に音楽をやってる者の常識からして,また文献上の遡及からでも,この起源説があやしすぎることは,ある程度分かってはいたんですが。
 庵主としては,音階や操作性の比較をしてみて----そこに何か共通項があるのか?----というあたりは,一度は実際に試して確認してみたいところではあるものの,正倉院とか国博に行って「ちょっと弾いてみたいんで阮咸(国宝)貸してください」とも言い難いですから,ならば作っちまえ,と。

 音階と操作性を確かめるだけですから,「音色」の部分はどうでもいいわけで。音階の確認だけなら,同じ長さの棒を用意して糸を張れば済むくらいですが,「操作性」のほうはそうもいかない。とはいえ,べつに「レプリカ」というほどのものでなく,細かい寸法や材質・構造の違いはともかく,同じようなカタチ格好をしていて,同様のスケールになってるモノがあればいいわけですな。

 というわけで,出来たのがコレだ。


 ほぼ純粋に知的好奇心からくる実験・実証のためのモノヅクリでしたんでなんせモチベが低い。なんせ音楽的に「こういう楽器が欲しい」というところが皆無ですからな。そのため,今見るとけっこう工作がアレですわい。

 胴の作りはまんまウサ琴。
 それも去年・一昨年のEXシリーズじゃなく,工作の実験でもあった古いタイプの量産型ウサ琴の工作。作り熟れてますので。あと,多少ギグの時,これ持ってったら目立つかな~という邪心のモト,エレキ楽器とすることにしたわけです,ハイ。

 ----爾来,約4年。
 とにかく音が出るところまで作ったら実験は出来ましたし,実験が終わっちゃったらある意味用済みなわけで,内部の回路とか中途半端なまま,壁の花となってぶる下がってたわけですが。

 せっかく作ったのにこのままジャマにしてるのもなんだかもったいなし----というわけで,このたびこれを再生することといたしました。
 コンセプトとしては----

 1)エレキ化は諦め,アンプラグドなフルアコ楽器に。

 先に手がけたウサ琴EXシリーズの製作で,オリジナルの月琴より小さいこの楽器でも,それ以上の音が出せることが分かりましたので,胴体をEX準拠で作り直して,このサイズと構造での激鳴り楽器を目指します。

 2)4単弦から4弦2コースに。

 実験は終わってますので,このモノが「阮咸」である必要はありません。清楽で「阮咸」と呼ばれる楽器は,唐宋の阮咸とは全く関係のない,現在の中国楽器の分類でいうと「双清」という楽器になります。
 4弦2コース,八角胴長棹,13柱。日本の明楽や清朝の宮廷音楽ではこちらが「月琴」と呼ばれてたやつですね。
 こっちの「阮咸」も初期のころに作ったことがありますね。大きさ的には同じくらいだし,スケールも同じようなものなので,改造が少なくて済みます。
 唐宋の「阮咸」と清楽の「阮咸」を,確信犯的に混ぜこぜにして,後世の研究者を困らせてやりましょう!

 ----というわけで,さっそく料理に入ります。
 スティーブ,刃物を用意してくれないか?

 ベリベリベリ。

 といったところで,今回はここまで!

(つづく)


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