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ウサ琴EX3 (1)

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斗酒庵 ことしもウサ琴づくり の巻2023.10~ ウサ琴EX3 (1)

STEP1 ウサ琴博士の異常な愛情

 今年は 早くから暑くなったのもあり,夏の草刈りから帰京してもなお10月なかばまで暑かったせいもあって,研究や修理はともかく,製作方面へ回せる時間が少なくて,ちょっとフラストレーションがたまっておりました。
 その解消第一弾が「なんちゃって阮咸」だったワケですが,これは所詮改装。完成したのも,月琴というよりは,阮咸というか双清みたいな楽器でありまして。それなりに楽しめたものの,月琴ジャンキー的にはかえってコレジャナイ感も残ってしまったワケですね。

 去年作ったウサ琴最終形態2作は,近々どちらも無事にお嫁に行ったのですが。
 2号が実家にいた間,練習もギグもずっと相方をつとめてもらってたせいで,気が付くと,いざいなくなったらなんか困るという身体になってしまっておりました。

 清楽月琴は基本5音階のフレット8枚,不完全な2オクターブの楽器,対してウサ琴は高音の「ファ」と「シ」を足したフレット10枚----たかだか2枚フレットが多いだけですが。実際に音楽の場で使用してるとやっぱり,あるとないとでパフォーマンスがずいぶんに違う。

 ふだん使ってるカメ琴も10枚フレットで,そこは同じなものの,これはエレキ楽器。スピーカー内蔵なので単体でも音は出せますが,ウサEXシリーズだとアコースティックでも,その内蔵スピーカーと同じくらいの音が出せますし,音もいわゆる「エレキの音」でなく月琴の生音。清楽月琴の弱みの一つである,ステージ上の音量不足の面でも,PAさんが首吊らなくて良いくらいには使えるわけです,ハイ。

 うん,やっぱウサ琴,作ろう。
 こんどこそ,自分用のをね。

----というわけで,製作開始。
 前2作は棹も胴体も過去に作ってあったものを使いましたが。今回は最後に残ってた胴輪1本のほかは,ぜんぶ最初からの製作ですね。
 イチからの製作は,10年ぶりくらいかな?
 前2作+なんちゃって阮咸改装で,EXタイプの仕様もほぼまとまってますので,製作過程も含めてその検証もしてゆきましょう。EXシリーズではそれ以前のウサ琴の製作より高い工作精度を要求されるので,同時製作数の限界(並ウサ琴では5面)も知りたいところではありますが,とりあえず3面同時進行ということで挑戦してみます。

 さて,ではさっそく胴体からまいりましょう。

 ウサ琴の胴体は,スプルースの板を曲げて円形にした材でできてます。
 通常の清楽月琴は4つの材を組み合わせて円形にしてますが,うちのウサ琴は継ぎ目が一つだけなのが自慢です。
 庵主がずっと使ってきたこの材は,かつてプログレスさんで販売していたものですが,現在では作ってないそうなので,今回3面作っちゃうと,残りはあと2面ぶん。これがなくなったら,ウサ琴シリーズもとりあえず打ち止めですねえ。

 幅5センチを半分に切って2枚にします。
 円形になっているとはいえ木ですし,長いこと保存してきたので,その間に変形もしてます。また接合部のあたりの曲りがもともと少し足りないので,全体をいちど湿らせて木枠にはめ,それらを矯正しつつ,接着して1本の輪っかにします。

 うん,そういえばこの木枠----修理ではずっと面板を接着する時の板クランプとして使ってきましたが,もともとこのために作ったんだったねえ。これも本来のお役目を果たすのは10年ぶりぐらいだと思う。


 継ぎ目の部分は,表面にブナの突板,裏がわにエンドブロックを接着して補強します。ここが楽器の中心の起点となるところなので,接着位置はけっこうしっかり定めますよ。

 輪っかができたら,次はエンドブロックの中心線を延長して,胴の天地を確定し,ネックブロックを接着します。エンドブロックはどちらもカツラでしたが,こっちは残ってた1本がカツラ,新作の2本はサクラとなりました。まあ加工時の感触が多少違うだけで,性能や音色にほとんど違いは出ません。

 ネックブロックに棹孔をあけます。
 今回の棹孔は23x12。表板との間隔が5ミリ,裏板がわが7ミリほどですね。ドリルで小孔を穿ち,表裏から刃物やヤスリで彫り込んで広げ,3面ともなるべく正確に,きっちりそろえます。ここが正確でないと,後々棹とのフィッティングで苦労するんですよねえ。

 清楽月琴,特に大陸の作家さんの楽器はここの加工が特に大陸的で,平行四辺形になってたり台形になってたりするんで,よく大陸まで筋斗雲に乗って殴りにいきたくなったものです。

 棹孔があいたところで,その孔の内壁と胴輪表面を木固めします。

 一日置いて,樹脂が固まったところで次の作業。

 内桁と半月下の補強材の取付け部を彫り込みます。
 各溝の内壁はやや斜めに切って,部材の端と噛合うように彫り込みます。

 なんちゃって阮咸では,長い棹と弦圧を支える関係で2枚桁としましたが,今回は弦長が短く弦圧の緩いいつものウサ琴ですので,1枚桁で半月の下あたりに補強材のつく前2作同様の構造です。

 表裏をごく浅いアーチトップ/ラウンドバックとしますので,内桁は真ん中が少し厚くなるように加工してあります。

 内桁に棹孔左右の音孔を彫り込みます。
 といったあたりで,今回はこれまで----


(つづく)


2023年師走の月琴WS@亀戸!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2023年 月琴WS@亀戸!12月!!



 

 

*こくちというもの-月琴WS@亀戸 師走場所 のお知らせ-*


 
 2023年12月,本年最後の清楽月琴ワ-クショップは,23日(土)の開催予定です!(1月は雪かき帰省のため,お休みしまあす)


 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼さがりのとろとろ開催。
 美味しい飲み物・ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 


 特にやりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の基本的な取扱いから楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。個別指導・相談事は,早めの時間帯のほうが空いてて Good です。あと修理楽器持込む場合は,事前にご連絡いただけるとサイワイ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。

  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 

 

 

名前はまだない(11):RE

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斗酒庵 阮咸を改装す製作 の巻2023.10~ 楽器製作・名前はまだない(11):RE

STEP11 エレキ阮咸>フルアコ阮咸計画(終)

 さて,従前の工作では,4単弦,4弦2コース,3弦など弦制による差異を検証するため,複種類の弦制に対応できるよう,たくさん孔を開けた半月(テールピース)を用意しました。

 月琴で「半月」,琵琶で「覆手(ふくじゅ)」と呼ばれるこの部品。材料は唐木のムク材をがんばって削ったものだし,清楽阮咸の4弦2コースの設定になる孔もちゃんとあいています。現状べつだん壊れてもないし,これをそのまま使うってのも良いのですが,この半月はウサ琴準拠の半月型(というか木の葉を半分にした形),いつもの月琴で見慣れた形状になってます。
 見かけは唐宋の阮咸に近いのに中身は清楽の阮咸で,そのうえ実際には阮咸でも月琴ですらもない(あえて言うなら「円胴の双清」ってとこでしょうか)という,清楽月琴以上のインチキ楽器でありますので,ここらでもう一段,後世の研究者を困らせるような悪戯をしておきたいと思います。

 テールピースを唐宋の阮咸風の形状に。

 正倉院のは,もうちょっと丸っこいかな。
 今回はホワイトラワンの端材に,端材の唐木板を貼りつけたもので作ります----ちょいとカタチが複雑なので,ウチの手工具じゃ黒檀から削り出すのがタイヘンですからね。いまはくっきりツートンカラーですが,あとで一見唐木のムク材から削り出しかのように,全力で誤魔化しますよ。
 ドリルでたくさん孔を穿って裏面から刳り,さらに真ん中を糸鋸で横からえぐって,横から見た時「ユ」の字みたいな形にします

 うん。画像で見てもらえると一目で分かりますが,文章で説明しようとすると難しいですね。

 さて,この形状。実質的には琵琶なんかで見る,Lを上下逆さにしたのと同じタイプになっています。接着面のせまい片持ち式に比べると,前方への張り出しが支えになるぶん,安定は良さそうですが,そのほかに何か意味があるのか,そのあたりちょっと興味が魅かれますね。

 では「ごまかし」作業開始!!!----まずは土台の部分をスオウで赤く染めます。

 この素材は染まりがいいのと,導管の感じが,黒檀とか紫檀と言った高級な唐木材に近いので,流行晩期のころの大陸製の月琴ではよく使われてますね。
 スオウの上から黒ベンガラ。これは小筆を使ってちまちま…わざとムラムラになるように塗ってゆきます。
 ベンガラが乾いたら表面を軽く拭き取り,定着させるため。表面に亜麻仁油を滲ませ。で,数日乾燥させると----

----どやぁ。
 これだけでもちょっと見なら分からんくらいですが,この時点ではまだ,表面のツヤに差があるので,補強を兼ねてラワン部分を中心に樹脂系の塗料を上がけして調整します。軽く模様もつながるような感じに塗ってるので,シロウト眼にはそうそうは分からん。
 何度も書いてるように,こういう誤魔化しを見破れるのは,同じ職人の上級者か,こういう騙し合いで場数を踏んだヤバい筋の人達だけです,気を付けてください。(w)

 同時進行で胴体側面を塗り直します。
 板の貼り換えやら穴埋めで,けっこうキズつけちゃいましたからね。

 スオウやベンガラで補彩した後,全体をカシューの透で塗り直し。

 地味に塗装がいちばん時間かかる作業なんですよね。
 四畳半一間,他の作業もやってるので,あるていど硬化するまでホコリがつかないよう,塗ったらすぐ箱の中に入れておきます。
 けっきょく三週間ほどかかりましたが,なんとか塗り直し完了。
 新しく貼り換えた表裏板を,ヤシャブシで染めます。

 桐板は基本的に小切れを接ぎ継いで作るもの,たとえ同じ木から切り出したものでも,小板ごとに色味がわずかに異なります。ヤシャブシ汁の主成分はタンニンなので,虫除け的な効果もあるようですが,ヤシャブシに砥粉とでんぷん糊を少量溶いたのを刷いて染め,木色の違いを分かりにくくします。

 これが乾いたら,あとは組み立てるだけですね。


----と,ここで非常事態発生!
 覆手の貼付けでしくじり(左に1ミリほどズレてた),やりなおしするハメとなりました。
 原因は,このカタチのテールピースの接着をするのがはじめてだったことで。どうやって保定するかのほうに夢中になるあまり,少し確認が雑になっちゃったようです。
 どんな作業でも最後に指さし確認・ヨシ!は必須ぅ----ニカワ付けが下手に上手くなっているため,はずすのに半日以上かかり,うれしいやら悲しいやら。

 さすがに二度続けて失敗はこきません。(笑)
 こんどはしつこいぐらいに測り直し,絶対ズラさないMAN的に当て木でギチギチに保定して,再取付け,成功しました。


 組み立てて試奏したところ----そのままでもまあ,ウルサイこと言わなければ,じゅうぶんに使えるレベル,とは思ったんですが----チューナーで測ると出るズレが気になり,けっきょく棹上についてたフレットも,一度ぜんぶハガして,フレッティングをし直しました。
 寸法で言うなら,元の位置から1ミリ動いたかどうかという違いなんですが,音の上だと最大で30%くらい差がでちゃってましたからね。

 そんなこんなはあったものの。
 2023年11月16日,なんちゃって唐宋阮咸,
 なんちゃって清楽阮咸に改装完了!

 以前の記事でも書いたように,この楽器のフレット間の音の関係は----

開放10111213
開放2律1律1律1律2律1律1律1律2律2律1律1律1律

----となっており,「1律」を短1度,開放弦を3Cとしたとき,

開放10111213
3C3D3Eb3E3F3G3G#3A3Bb4C4D4Eb4E4F

 となります。これに対して清楽の阮咸(双清)は

開放101112
開放2律2律1律2律2律2律1律2律2律1律2律2律

 上同様,開放=3Cとした場合の音階は----

開放101112
3C3D3E3F3G3A3B4C4D4E4F4G4A

----となります。清楽のほうは基本,月琴と同じく半音のない長音階なわけですね。

 清楽阮咸の調弦は月琴の「ド・ソ」と反対,「ソ・ド」の3G/4Cで音域は2オクターブちょいあるわけですが,今回のように,唐宋阮咸のフレット配置で同じ調弦にすると,最高音は5Fで2オクターブにわずかに届きません。フレットは清楽阮咸のほうが1枚少ないのですが,音域は長2度ほど広い……ふうむ,なるほど。
 今回の楽器のフレット配置で,清楽阮咸のG/C調弦にした場合の全音階はこうなります。

 10111213
開放(3G)3A3Bb3B4C4D4Eb4E4F4G4A4Bb4B5C
開放(4C)4D4Eb4E4F4G4G#4A4Bb5C5D5Eb5E5F

 清楽曲しか弾かないなら,まあこれでも問題はないのですが。色んな音楽に合わせようと思うと,高音弦で2コめの高音の4B(シ)がないのがネックとなります。まあ音自体は,低音弦の12フレットにあるんですが,メロディラインを弾きながら,これを出そうと思うと,棹上の7~8フレットのあたりから,胴上の12フレットまでたびたび指を飛ばさなきゃならないのがかなり不便です。

 そこでまず,2律離れている8・9フレット間に14枚めのフレットを追加----これで高音弦で4Cから5Fまでの長音階が全部出せるようになりました。追加であることが分かるよう,フレットの工作も変えておきましょう。
 さらに低音弦を1度下げ,開放3F/4C(ファ・ド)の調弦として,音域を最低3Fから最高音5Fの2オクターブにします。改造後の全音階は----

 1011121314
開放(3F)3G3G#3A3Bb4C4C#4D4Eb4E4F4G4G#4A4Bb
開放(4C)4D4Eb4E4F4G4G#4A4Bb4B5C5D5Eb5E5F

 赤字のところが追加したフレットの音ですね。
 こんどは低音の「乙(B)」がなくなりましたが,ふだん弾きだとこっちのほうが断然使いやすいし,五音階中心のメジャーな清楽曲ではあまり出てこない音なので,さほど問題ありません。また,そうした曲の伴奏時には調弦をG/Cに戻せばいいだけのこと。
 清楽阮咸は明笛と同じ音階----つまり,中音域の月琴に対して低音パートを担当する楽器とされているのですが,このフレット配置で調弦を3F/4Cとした場合には,低・高弦間の関係が月琴と同じ5度となるので,通常のオクターブユニゾンになるパートだけでなく,月琴の5度下の和音をなぞることの出来る楽器としても使えるようになったわけですね。

 今回はなんちゃって阮咸なんちゃって清楽阮咸に改装し,しかも厳密にはそのどちらでもない楽器にしちゃったわけですが。フレット配置や調弦の差異からは,その二つの「阮咸」が,どういう関係にあり,さらにそれらが短い棹で円胴の「月琴」とどういう関係であるのかが,おぼろげながら見えてきたような気もします。
 こういうきっかけは字面で文字や記号を見比べていてもなかなか得られないものです。こんなふうに,実際に音を出して演奏してみれば,ホントに一瞬でつかめるモノなんですけどね。実験楽器としては,これだけでも十分な成果が出たかなあと思いますよ。

 11月のWSに持って行きますので,実物イジってみたい人はどうぞ~。

(おわり)


名前はまだない(10):RE

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斗酒庵 阮咸を改装す製作 の巻2023.10~ 楽器製作・名前はまだない(10):RE

STEP10 エレキ阮咸>フルアコ阮咸計画(3)

 さて,表板が貼れたので内部構造を仕上げてゆきましょう。

 まずは響き線----もちろん唐宋の「阮咸」には,こンなもん入っちょらんですよ。(w)
 胴体が小さく薄く,材質も針葉樹材で柔らかめ。箱三味線よりもずっと小さいですから,そのままではペコペコした小さな音しか出せません。響き線を入れて,音量の増幅と余韻に効果を与えてもらいます。つまりこの装置の本来の役割は,リゾネーター兼エフェクター(疑似スプリングリバーブ)ということです。

 前回の製作では胴内のスペースの関係から,この渦巻線を採用しました。1コしか入れられませんでしたが,手作業でこれ以上はムリ!ってくらい小さく密に巻いたのでけっこうな効果は得られたものの,この形状の響き線の欠点として,楽器がちょっとでも揺れると盛大にノイズ出しよるんで,演奏姿勢や動作に,けっこうな制限がかかります----つまりは音はイイけど弾きにくい楽器になります。

 今回は回路とかぜんぶとッぱらってしまったので,胴内空間に制限はありませんが,けっきょくウサ琴EXシリーズでおなじみの,Z線を左右に組んだ「天神」型にしました。

 これは国産の清楽月琴の内部構造をヒントに進化させたもので,直線タイプの響き線としては,リゾネーターとしての増幅効果がもっとも高いし,余韻にかかる効果も良い----しかも演奏中のノイズ,胴鳴りがほとんど起きないという優れモノです。
 響き線の調整は,板がついてないとできませんから。こればっかりは表板貼る前に仕込むわけにもいきませんが,明治期の作家さんには,この部品の機能をちゃんと理解してない人が多く,調整もしないで,ただ所定の位置にぶッこんでる場合も多々あって,線はいちおう入ってるのに,ちゃんと機能してない楽器もよく見かけますね~。
 ピアノ線を2本所定の形状に加工して,演奏姿勢で楽器を立てた時,最良の効果が出るようなカタチと取付け角度を探ってゆきます。ちょっとした変更が思わぬところにまで大きな影響を与えてしまう曲線タイプの響き線と違い,これは基本直線なので,調整が比較的ラクなのもうれしいところです。

 カタチが出来たところで線に焼きを入れ,ネックブロックのところの孔に,竹釘とエポキで固定。せっかく調整した位置や角度がズレないよう,エポキが完全に固まるまでは,当て木を噛ませて保定します。

 響き線が固まったところで,後ひと作業。
 エレキ阮咸だった時の名残のジャックの孔も塞いでおきますね。

 端材を刻んでコロコロ……埋め木を作り,とりあえずニカワを塗って孔につっこんでおきましょう。

 あちこち整形,もういちど内がわを精査確認したら,いよいよ裏板を貼りつけ,胴体を箱状にします。
 表裏が平らなら,接着の作業も一度で済むのですが,この楽器はごく浅いとはいえアーチトップ/ラウンドバックになっているので,接着作業は,最初に真ん中部分,それから周縁部,と二度に分けて行います。

 表板だけの状態なら,内がわへのアクセスもカンタンなので,少しばかり浮きやハガレが出来てもどうにでもできますが。裏板の時にはどうにもできませんし,こッちのがわには楽器の背骨,縦方向への支えとして大事な「竜骨」が真ん中に通ってますからね。ちゃんとくっついてくれないと困ります。多少の二度手間,三度手間があっても,後々のことを考えれば善哉善哉。

 表裏板がくっついたところで,胴体まわりに餃子の羽根みたいにハミ出てる余分を切り落し,削り落し,胴側と面一にします。

 さて,これで胴体のメイン部分はあらかた出来上がったわけですが。
 最初のほうでも書いたように,この楽器の胴体はもともと,旧来の量産型ウサ琴のスタイルで作られてました。
 それを今回,進化したウサ琴EXシリーズの基準で作り直してるわけですが。こっちの規格では,表裏の板が従来のシリーズの半分ほどの厚さしかありません。
 なもので,そこに棹を戻すと----

 ----と,いうことになります。あたりまえのことながら,それはもう見事に段差ができまくりですねえ。同様の事態は既成の棹を使った,先のEXシリーズでもありましたので,今回も同じ対処法でいきます。


 足りない分の厚みの板を,さも「補強板」のようなふりをして貼りつけます----いや,事実,ちゃんと補強にもなってるんですけどね。接合部の段差隠しの面のほうが大きいと言いますか。(w)

 同時進行で棹の再フィッティング。
 内桁も取り替えちゃいましたからね。そのあたりの設定はさほどいじってはいませんが,木材なのでどんなに正確に加工しても,前とまったく同じにはなりません。どのみち避けては通れない道ですので,今回もてってえてきにやります。

 古物の月琴で「シロウトさんの作った楽器」「ちゃんとした職人さんの作った楽器」を見分ける場合,けっこうポイントになるのが,この「棹の取付け」です。だいたいのシロウトさんは指板面を胴体面と同一水平面一に……まあカンタンに言うと「棹をまっすぐに」取付けちゃうんですな。しかしながら,三味線でもギターでもバイオリンでも,リュート型の弦楽器の場合,棹はかならず,わずかな角度をつけて取付けられています。
 三味線や三線では,この棹取付けの調整が職人の技量の最も顕著にあらわれるところとされてますし,月琴でも山口(トップナット)のところで3~5ミリ背がわ(裏板がわ)に倒れてるのが「マトモな設定」です。
 さてでは「阮咸」の設定は?----博物館にある楽器の場合,データがありますので各個楽器の数値は分かりますが,唐宋の楽器だとその例が少なすぎて,それが当時の標準であったかどうかは分かりません。まあ,今回の楽器は「なんちゃって阮咸」ですし,材質もサイズも構造も異なるので,とりあえずは近いサイズの三線や三味線のを参考に,試行錯誤してみましょう。

 ついでに,大事な棹基部の,前回の自分の工作の粗かったところもかっちり修整。
 うむ,我がことながら腹が立つ----ちょっと一発蹴り入れてくるわ(w)


(つづく)


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