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名前はまだない(10):RE

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斗酒庵 阮咸を改装す製作 の巻2023.10~ 楽器製作・名前はまだない(10):RE

STEP10 エレキ阮咸>フルアコ阮咸計画(3)

 さて,表板が貼れたので内部構造を仕上げてゆきましょう。

 まずは響き線----もちろん唐宋の「阮咸」には,こンなもん入っちょらんですよ。(w)
 胴体が小さく薄く,材質も針葉樹材で柔らかめ。箱三味線よりもずっと小さいですから,そのままではペコペコした小さな音しか出せません。響き線を入れて,音量の増幅と余韻に効果を与えてもらいます。つまりこの装置の本来の役割は,リゾネーター兼エフェクター(疑似スプリングリバーブ)ということです。

 前回の製作では胴内のスペースの関係から,この渦巻線を採用しました。1コしか入れられませんでしたが,手作業でこれ以上はムリ!ってくらい小さく密に巻いたのでけっこうな効果は得られたものの,この形状の響き線の欠点として,楽器がちょっとでも揺れると盛大にノイズ出しよるんで,演奏姿勢や動作に,けっこうな制限がかかります----つまりは音はイイけど弾きにくい楽器になります。

 今回は回路とかぜんぶとッぱらってしまったので,胴内空間に制限はありませんが,けっきょくウサ琴EXシリーズでおなじみの,Z線を左右に組んだ「天神」型にしました。

 これは国産の清楽月琴の内部構造をヒントに進化させたもので,直線タイプの響き線としては,リゾネーターとしての増幅効果がもっとも高いし,余韻にかかる効果も良い----しかも演奏中のノイズ,胴鳴りがほとんど起きないという優れモノです。
 響き線の調整は,板がついてないとできませんから。こればっかりは表板貼る前に仕込むわけにもいきませんが,明治期の作家さんには,この部品の機能をちゃんと理解してない人が多く,調整もしないで,ただ所定の位置にぶッこんでる場合も多々あって,線はいちおう入ってるのに,ちゃんと機能してない楽器もよく見かけますね~。
 ピアノ線を2本所定の形状に加工して,演奏姿勢で楽器を立てた時,最良の効果が出るようなカタチと取付け角度を探ってゆきます。ちょっとした変更が思わぬところにまで大きな影響を与えてしまう曲線タイプの響き線と違い,これは基本直線なので,調整が比較的ラクなのもうれしいところです。

 カタチが出来たところで線に焼きを入れ,ネックブロックのところの孔に,竹釘とエポキで固定。せっかく調整した位置や角度がズレないよう,エポキが完全に固まるまでは,当て木を噛ませて保定します。

 響き線が固まったところで,後ひと作業。
 エレキ阮咸だった時の名残のジャックの孔も塞いでおきますね。

 端材を刻んでコロコロ……埋め木を作り,とりあえずニカワを塗って孔につっこんでおきましょう。

 あちこち整形,もういちど内がわを精査確認したら,いよいよ裏板を貼りつけ,胴体を箱状にします。
 表裏が平らなら,接着の作業も一度で済むのですが,この楽器はごく浅いとはいえアーチトップ/ラウンドバックになっているので,接着作業は,最初に真ん中部分,それから周縁部,と二度に分けて行います。

 表板だけの状態なら,内がわへのアクセスもカンタンなので,少しばかり浮きやハガレが出来てもどうにでもできますが。裏板の時にはどうにもできませんし,こッちのがわには楽器の背骨,縦方向への支えとして大事な「竜骨」が真ん中に通ってますからね。ちゃんとくっついてくれないと困ります。多少の二度手間,三度手間があっても,後々のことを考えれば善哉善哉。

 表裏板がくっついたところで,胴体まわりに餃子の羽根みたいにハミ出てる余分を切り落し,削り落し,胴側と面一にします。

 さて,これで胴体のメイン部分はあらかた出来上がったわけですが。
 最初のほうでも書いたように,この楽器の胴体はもともと,旧来の量産型ウサ琴のスタイルで作られてました。
 それを今回,進化したウサ琴EXシリーズの基準で作り直してるわけですが。こっちの規格では,表裏の板が従来のシリーズの半分ほどの厚さしかありません。
 なもので,そこに棹を戻すと----

 ----と,いうことになります。あたりまえのことながら,それはもう見事に段差ができまくりですねえ。同様の事態は既成の棹を使った,先のEXシリーズでもありましたので,今回も同じ対処法でいきます。


 足りない分の厚みの板を,さも「補強板」のようなふりをして貼りつけます----いや,事実,ちゃんと補強にもなってるんですけどね。接合部の段差隠しの面のほうが大きいと言いますか。(w)

 同時進行で棹の再フィッティング。
 内桁も取り替えちゃいましたからね。そのあたりの設定はさほどいじってはいませんが,木材なのでどんなに正確に加工しても,前とまったく同じにはなりません。どのみち避けては通れない道ですので,今回もてってえてきにやります。

 古物の月琴で「シロウトさんの作った楽器」「ちゃんとした職人さんの作った楽器」を見分ける場合,けっこうポイントになるのが,この「棹の取付け」です。だいたいのシロウトさんは指板面を胴体面と同一水平面一に……まあカンタンに言うと「棹をまっすぐに」取付けちゃうんですな。しかしながら,三味線でもギターでもバイオリンでも,リュート型の弦楽器の場合,棹はかならず,わずかな角度をつけて取付けられています。
 三味線や三線では,この棹取付けの調整が職人の技量の最も顕著にあらわれるところとされてますし,月琴でも山口(トップナット)のところで3~5ミリ背がわ(裏板がわ)に倒れてるのが「マトモな設定」です。
 さてでは「阮咸」の設定は?----博物館にある楽器の場合,データがありますので各個楽器の数値は分かりますが,唐宋の楽器だとその例が少なすぎて,それが当時の標準であったかどうかは分かりません。まあ,今回の楽器は「なんちゃって阮咸」ですし,材質もサイズも構造も異なるので,とりあえずは近いサイズの三線や三味線のを参考に,試行錯誤してみましょう。

 ついでに,大事な棹基部の,前回の自分の工作の粗かったところもかっちり修整。
 うむ,我がことながら腹が立つ----ちょっと一発蹴り入れてくるわ(w)


(つづく)


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