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玉華斎2(3)

GK02_03.txt
斗酒庵 たまたま玉華斎にまた出会う の巻2023.11~ 玉華斎2 (3)

STEP3 タマモベストプレイ

 依頼修理の玉華斎,調査の続きです。

 棹孔からのぞくかぎりでは,内部は比較的キレイ
 墨書の類はみとめられず,表裏板中央に指示線が入ってるくらいですね。

 内桁の響き線を通す孔が,やたら丁寧に四角くあけられているのが,唐物にしてはちょっと珍しいかな。一般的に,古渡りの月琴のこの孔は木の葉型で,工作はもっと雑なほうが多いです。
 響き線も多少サビが浮いていますが,現状健全な状態で,使用上の問題はなさそう。
 今のところ表裏板にも大きな故障は見つかってませんし,構造的に板を剥がして分解しようと思うとかなりの大工事となるため,今回は基本,内部にはタッチしません。
 以前修理した同じ作者の楽器・14号は,数年後に響き線がモゲましたが,ここはそのレベルの事態になった時,あらためて徹底的にやったほうがいいですね。

 胴体内部からは,木くずのほか穀物のもみがらと藁の欠片が出てきました。前者は製作時のものでしょうが,後者はおそらく運搬時に分解・梱包されたときの緩衝材由来じゃないかと考えます。

 外部からの観察や計測が済んだところで,まず何はともあれ,表面にへッついてるアレコレをひッぺがしましょう。
 いつものように,フレットやお飾りの周囲に筆で水を刷き,濡らした脱脂綿でくるんで----おや?左右のニラミにかぶせてた脱脂綿が,たちまち真っ赤になりました。

 かなり濃ゆく染められていたみたいですね。
 あんまり放っておくと下の板にまで滲みてしまいそうですから,さッさとひっぺがしたくはあるものの,ニカワが緩んでくれないと…

 胴上はほぼオリジナルと思われるニカワによる接着で,問題のニラミもふくめて,だいたい順調にはずれていってくれました。
 さて,残るは半月。その前に----と,バチ布をハガしたところ。

 ぎゃあああああッ!!(梅図顔)

 むし…虫食いがぁ……穴が開くほど深いのはなさそうですが,まあなんと,縦横無尽に食われちゃってますね。
 原作時点ではヘビの皮が貼られていたと思われますので,その時にやられたんでしょうな。バチ布の下ほぼ全域にわたるけっこうな範囲での被害ですが,虫食い溝の中に食った後の木粉等もまったく残ってないので,後で誰かが錦裂に貼り換えたとき,かなりしっかりとキレイに清掃したようです。
 ここほどではないですが,欠落している第6フレットの接着痕の右がわにも,小さな虫食いがありました。箱にしまわれた状態とかだと,ここまでのことにはそうそうならないので,比較的大事にされていたものの,それそこ長い期間,蔵か納屋みたいな場所で外界に晒されていたのじゃないかと思いますよ。

 半月はもともと右がわが少し浮いていて,ほぼ左端の一部分だけでくっついているような状態だったんですが,その左端の接着がかなり頑丈で,なんとか無事にはずれてくれたものの,けっきょく半日くらいかかりました。

 棹のほうは,フレット3枚のうち2枚が近年の再接着。
 ハミでるほどのボンドで雑にへッつけられていて,濡らしても緩んできませんので,ペンチでもぐようにはずしました。
 うん,やっぱりゴム系の接着剤ですねおのれがっでむやりゃがったな。
 山口と第3フレットはオリジナルのニカワ接着。こちらは通常の手順で,ちゃんとはずれてくれやがりました。

 蓮頭は取付位置が天地逆になっちゃってましたので,後の再接着だとは思ってたんですが----おそらく木瞬と思われる透明で硬質な接着剤で固定されていました。
 蓮頭がわの接着面に桐板を貼ってあるので,そっちを中心に濡らし,軟らかくしてからもぎとりましたが----古楽器に木瞬,ダメ,絶対!!!

 以上で,本格的な修理作業前の準備段階終了。
 ここまでで判明した要修理個所や注意点を,フィールドノートと言う名のメモに書き込みます。

 画像はクリックで拡大。
 うん,今回も----真っ赤だな!

 前回書いたように,玉華斎は高価な唐木材をけっこう贅沢に使います。天華斎に比べると加工に多少楽器より装飾品寄りな点はありますが,棹などもちゃんと背面がわに傾けて取付けられていますし,胴の構造や山口や半月も大陸の月琴の基本設定からさしてはずれているわけではありません。
 ただ「楽器」として使うのには,とにかく調整が足りない。キレイだな,と眺めるだけなら問題はありませんが,いざ道具として使うとなると,あそこにもここにもというくらい足りない不便なところが出てきます。

 まあ「足りない」といっても,「調整」がされてないのであって,音を出すのに必要なナニかが付いてない,という意味ではありません。むしろ上に書いたよう,モノは贅沢に作られてますから,ちょっとやそっと削ったくらいではぜんぜん分からんところです。たとえるならすごい質のいい刃物だけど,ぜんぜん研がれていない,って感じ。
 今回は,経年劣化や虫食い部分の補修のほかは,ひたすらそういう調整に専心することになりそうですねえ。

(つづく)


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