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2024年2月,月琴WS@亀戸!!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2024年 月琴WS@亀戸!2月!!


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 如月場所 のお知らせ-*


   2024年もあけましておめでとうございます!
 こんどの月琴WS@亀戸は,2月の末,24日(土)の開催予定です。


※※※1月は雪かき帰省のため,お休みしまあす※※※

 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼さがりのとろとろ開催。
 美味しい飲み物・ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 特にやりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の基本的な取扱いから楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。個別指導・相談事は,早めの時間帯のほうが空いてて Good です。あと修理楽器持込む場合は,事前にご連絡いただけるとサイワイ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

玉華斎2(終)

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斗酒庵 たまたま玉華斎にまた出会う の巻2023.11~ 玉華斎2 (終)

STEP7 タマモプラネット

 棹とのフィッティング,胴体の清掃も終わり,各部品の補作・補修も仕上がってきました。

 組立て作業その1は半月の再取付けから。
 まずはしっかりと楽器の中心を測り直し,半月の位置決めをします。

 見えますかね?----画像は半月を楽器の中心線上にセットした時。右がわに見えているのがオリジナルの取付け位置の指示線です。
 横方向に5ミリ以上はズレてますね。
 ふつうの「楽器」の工作では,いくらなんでも考えられないくらいの誤差ですが。棹とのフイッティングのところで書いたように,本器は製作当初,棹がまったく安定しない状態だったと思われるので,変に傾いてしまっていた時に位置取りをすれば,このくらいのことは起きてもしゃーない,とは思いますが,これも考えると,本器が「使われたことがなかった」理由はやはり,「使えなかったから」で間違いないでしょうね。いやはやよくもこんなのを,歩留りにもせずそのまま売り出したな,と。まあ原作者は後で殴っときましょう。

 ちょっと信じられないくらいの事態だったので,何度も測り直したのですが,いろんな方向から何度測り直しても新しい位置のほうが正しいようなので,庵主,あきらめて接着します。

 棹も清掃し,亜麻仁油で磨いてあります。準備万端。
 ナスビになってない補作の糸巻を挿し,山口も接着----ですが,これで糸を張ってみたところ,まだ少し棹が持ち上がるようなので,いったんまた分解し,延長材と棹基部にスペーサを追加しました。
 うん,原作者の野郎はぜったい殴らにゃいけません。

 ひつこいひつこい調整の甲斐もあって,こんどこそ棹は糸をキンキンに張っても動かなくなり,接着し直した半月もそれでぶッとぶこともなく----ようやく次の段階へと移れます。

 オリジナルでは,14号と同様にツゲ製のフレットが付いていましたが,今回もいつもと同じ工房定番の竹フレットでまいります。フレットなんかは半消耗品的な部品です。ツゲ材の枯渇が危惧されてもいる昨今,この先も楽器として使用することを考えたなら,材料の入手が恒久的に容易な方が良いでしょうし,そもそもウチの竹フレットは一見ツゲに見えるように加工されてますんで,見かけ上の問題もさしてないでしょう。

 ましてやちょうど「よりツゲっぽく見える染め方」も会得したばかりですからね。(ドヤァ)
 左の真っ白な状態が製作当初,右が染めて磨いたもの。色合いはけっこう高級なツゲ材っぽくなってます。

 上画像左がオリジナルのフレット配置,右が開放4C/4Gとした時の西洋音階準拠の配置となります。オリジナルでは,1~5フレットがほぼ等間隔に近くなっていた,というのが分かりますね。
 オリジナルの配置における音階は以下----

開放
4C4D+334E-164F+374G4A+455C+155D+55F+13
4G4A+224B-305C+285D+15F-475G+35A6C+2

 音階としてあちこちおかしい所はあるのですが……それでもまず,第2フレットの音が西洋音階と比べ「第3音が2~30%ほど」低いという清楽の音階の条件は,とりあえずクリアしてますね。
 さらに,第4は低音開放の5度上,高音弦の開放と合致しており。ついで開放のオクターブ上となる第6と,低音開放の2オクターブ上になる最終第8フレットの音も,じゅうぶんに許容範囲と言ってよい精度で合っています。これらはこれが「弦楽器として成立する」ものであるかを判断するうえでは,非常に大切な部分ではあります。
 ただし,ここまでの状況からかんがみて,これらの一致はおそらく,原作者が本器を楽器としてちゃんと調整した,ということではなく,組立て時に使用された,音階位置を表す型紙とか定規のようなものが精確であっただけであろうと思われます。なにせ何回も書いてるように,この楽器,製作時からマトモに音が出せるような状態ではなかったと推測されますので,とうぜん音合わせのようなことが出来たはずもないからです。

 フレットを適切な位置に修整・接着したら,さてあともう一息。

 左右のニラミは剥離時,赤いお汁を大量に滲ませて庵主の心肝を寒からしめましたので,少し反っていた裏面を整形した後,樹脂を染ませた薄い和紙を貼りつけ,補強を兼ねたにじみ止めをしておきました。
 同様の補修をしたオリジナルの扇飾り,中央の凍石の円飾りとともに,これを元の位置に貼りつけます。

 これでほぼ工房到着当初の姿に戻りましたね----まあ楽器としてちゃんと使えるようになってるかどうかのところが,一番違ってるわけですが。(w)

 工房から,本器の新たなる門出を祝って,些少ながら贈り物をしときましょう。
 なくなっている小飾りを足します。

 あのね,庵主は基本的に,音の邪魔にしかならないこうした余計な装飾を,ゴテゴテ楽器に付けるのには反対なんです----けど,こういう小飾りを作ったりすること自体は,大好きなんですよ。(w)
 今回の場合は残ってた接着痕も薄く,もと付いていたのが,どんなカタチのものだったのかの手がかりはありません。ので,ほとんどは以前に他の楽器の修理の時によぶんに作った天華斎風のものを使いましたが,上右の画像のコウモリさんは,14号およびほかの楽器にも付いていた,玉華斎のお気に入りと思われるデザインのを再現したもので,これは新作。そういや玉華斎は,名前に「玉」という字が付くだけあってか,小飾りの細工は意外と細かく,上手でしたね。

 あとスケールの関係で,2・3フレット間がかなり狭めとなったため,製作済みの小飾りのなかにサイズの合うものがなく,これも急遽新しくこさえました。
 各小飾りの並びは,いちおう類例となるような楽器のパターンを参考にしましたが----ふむ名状しがたき植物飾りの間に動物が3つ。上からコウモリ(蝙蝠)・ちょうちょ(蝶)・ナマズ(鮎魚)となりました。奇しくも「福疊年餘(おめでた重なり年ごと弥栄)」ですか……ナマズのところは正体不明の魚型装飾のことが多いですから,これを単に「魚(=餘)」と考えても,吉祥の意味合いはそれほど変わりませんね,ヨカヨカ。

 最後にバチ布を新しいものに貼り替え,摸作のラベルを貼り付けて,
 2024年1月2日。
 古渡りの唐物月琴・玉華斎,修理完了いたしました!

 上両画像ともにクリックで別窓拡大します。
 この人の楽器,ちゃんと調整さえされてれば,音は悪くないんですよ。音は----
 使ってる材料は良いものだし,意匠のセンスも良い。木工における作者の腕自体もけして悪いわけではない。
 ただやってることが徹底的に雑で,ガワの良さに比べて作業の始末がちゃんとなされていないので,本器なんかは楽器としてはほぼ使用不能なモノにまでなっちゃってたわけですね。
 今回も庵主,出来る限りの後始末はしました。
 ちょっとこの石工用のハンマーで,ボコボコに殴られてください。

 以下,使用上の注意ですが。まず一般的な清楽月琴に比べると棹が細く,これがこの楽器の操作性に,いろいろなをもたらしています。

 まず糸倉の真ん中,弦を巻き取るところである「弦池」がせまいので,糸替えがちょっとやりにくい。庵主の手指は,たいていの女性よりも小さめなくらいですが,一番下の糸巻のあたりは,その庵主の指も入らんくらいです。
 また同じ理由で,三味線のお糸を使用する場合,そのままの長さを巻き取ると,低音弦の2本が少し緩みやすくなります。糸巻に巻きつくぶんが多いと,巻かれた糸によって糸巻が押し出されたりしますし,固まった糸がゼンマイみたいになって,反対方向に回る力が付いちゃったりするからですね。低音のほうは弦池に入るぶんが半分ぐらいになるよう,ちょっと切り詰めといたほうが良いかもしれません。
(過去記事:「糸巻がゆるみやすいとき」参照)

 次に高低のコース間がややせまく,棹上の操作では,指が関係のないほうの弦に触れてしまうことがあり,そのせいで前の音が途中で止まったり,ハンマリング効果で不要な音が出ちゃったりしがちですね。

 これも含めての対策なのですが----

 通常,庵主は糸を押さえる時,下左画像のように,指の腹の部分を,糸に対し真っ直ぐ上から下ろすようなスタイルでやってます。

 しかしこの楽器の場合は,有効弦長が短い関係からフレット間のスィート・スポットがいくぶん狭めで,かつ楽器自体の音への反応が鋭いため,漫然とふだんの押さえかたをすると,音質の差がけっこう分かるくらいに出てしまいます。
 ふつうの月琴ですと,スィート・スポット以外のところを押さえてしまった場合でも,まあちょっと余韻が足りないかなあていどのものなんですが,こいつの場合,2本の糸の音が少しズレて聞こえたり,あるいは微妙な力加減の差で1/4音くらい音階が上下したりしますね。
 ですので,上右画像のように,少し指を立てて弾いてみてください。ただし「スィート・スポットが狭い」のに「指を立てる」ということは,その狭い一点をより正確に押さえなきゃ,ってことでもあります。ご鍛練あれ(さッ----と,熱した鉄砂を入れた洗面器を取り出す-民明書房刊『漢の月琴道』参考のこと)。

 あと,同様にスケールの関係から,ふつうよりいくぶん狭くなっている2・3フレット間(4F/5C)。ここのスィート・スポットが特に小さく,ちょっと指が滑ったり,力加減が適切でないと,うまく音が出ないことが多いです。これも頭に入れておいてください。

 いずれも楽器の形状,構造から来る「癖」レベルの問題であり,これらは別段「不具合」と言えるようなものではありません。この癖のために「扱いづらい」という面はありますが,かわりに扱いが適切なら最高の音を出してくれます。「プロ用の道具」みたいなもので,調整や改造でなんとかなる問題ではなく,その部分に手を入れてしまうと,逆に「扱いやすい」けど「クソも鳴らない」低級のお道具にしかならないという領域。これはこういうピーキーな楽器だ,と割り切って慣れるしかないです。

 貴重な材料を贅沢に使って作られているので,膝に乗せた時もずっしりとしてすわりは良く,楽器の取り回し(バランス)は悪くありません。またその音は,唐物月琴の代表格である天華斎の楽器に比べると,音ヌケでやや劣り,軽快さもありませんが,重厚余韻も長く,音量もけっこう大きく出ます。運指がうまくハマったときの響きはまさにヘビー級ですよ。

 ふだん弾きやすい/扱いやすい楽器で慣れてると,この楽器の「癖」けっこうな壁になるとは思いますが,そこを克服するためにも,まずはガンガン弾いてやってください。

 試奏の様子は YouTube の拙チャンネルにて公開中です。
 さすがに庵主も,初見の「癖」に,ちょっと苦労してますね。

 https://www.youtube.com/@JIN1S

(おわり)


玉華斎2(6)

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斗酒庵 たまたま玉華斎にまた出会う の巻2023.11~ 玉華斎2 (6)

STEP6 タマモイナズマ

 さてと----今回の修理,この玉華斎を「楽器」として再生するために必要な処置は,前回までのところでなんとか終わりました。

 ここでちょいと今回の修理での新技術情報を----
 今回の楽器,オリジナルの糸巻や半月・蓮頭はツゲで作られてるんですが,これがまた古い根付なんかでよーく見かける色になってます。

 木のこととか骨董とかよく知らない人は,こういうのを「古色」だとか言って,木が「年月を経ることで変色した」みたいなテキトウをほざきますが,そんなわけはありません。そもそも古物の道具で言うところの「古色」というのは,人の手によって使い続けられたことによる変色や風合いのことですから,楽器として使用された痕跡のない本器で付きようがありませんわな。

 よく木を描くとき,葉をミドリに,幹を茶色に塗ったりしちゃいますよね。
 でも,現実には「幹が茶色の木」っていうのはほとんどありません。
 わたしたちが木を「茶色」と思うのは,文化と歴史による「刷り込み」に近いものです。そもそも身近で見る「木材」も,板や角材のような素の状態では,もっと白っぽかったり灰色や薄黄色に近い色です。ではなぜわたしたちは木を「茶色」だと思うのか?----それはわたしたちが日常使う「木製品」のほとんどが,伝統的に「茶色に染められてきた」からなんですね。

 うちで使っている染料で,黄や茶系の色を出したいときは,これまで茶ベンガラかヤシャブシ,もしくはスオウを媒染ナシでといった手法が多かったのですが。今回,この楽器の糸巻を染めるにあたり,このオリジナルの「染められたツゲ」の色合いがなかなか出せませんでした。
 はじめはオレンジ系の茶色なんでスオウ(赤)とヤシャブシ(黄)でイケるかな~,と思ったんだけどね……補作の糸巻はツゲじゃなく,例によって¥100均のめん棒で作られています。この材料,ツゲや唐木よりはだいぶん軟らかいので,補強として樹脂を浸透させて使ってるのですが,この樹脂がスオウと反応すると青っぽい赤に変色しちゃう----結果,染め色がオレンジというより緑色っぽくなっちゃうんですよ。
 ううむ,ふだんツゲって山口(トップナット)くらいでしか使わないので,庵主,いまいち不案内です。そこでツゲをよく扱ってるであろう,根付師さんに尋ねたところ,試してみィ,と紹介された染料がこちら----

 「クチナシ」ですね。そう,あの芋きんとんに色着けたりする。
 ちょうど年の瀬でしたので,そこらのスーパーでも買えましたよ。

 2袋…8コぐらい入ってたかな。
 これを布でくるんで,木づちで砕き,だし袋に移して煮出します。
 うん,芋きんとんってより小豆を煮てる時みたいなニオイがしますね。
 芋きんとんでも布でもなく,木に使うものですんで,4回抽出したのをぜんぶ煮詰めて,かなり濃い液を作りました。

 とはいえ,正直「クチナシ」と言うと,芋きんとんに使うモノ,くらいのイメージしかなくて,芋より布より染まりにくい木に使ったところで,けっきょく大したことはなく,薄くてがっかり~とかになる,と思ってたんですが----

 ためしに塗ってみたらこうですよ。
 ちなみにコレ右2本,筆でさッと一刷きしただけ。あまりにどぎついキ○ガイ・イエローに一発で染まっちゃったため,ちょっとパニックになったのは内緒です。
 まずこれで,木地色をツゲに似た黄色に染めることに成功。

 これにヤシャブシとか少量のスオウとかを重ねて----まあ,まだオリジナルの色とはちょっと違いますが,なんとか蓮頭や半月と並べても違和感のない,ツゲの古いものっぽい色に近づけることができました。柿渋とかも使ってるので,半年ぐらいたつともっと濃くなって風合いが近づくとは思います。
 クチナシ染め…芋きんとんのイメージが強すぎて,なんとなくスルーしちゃってたんですが,木のステイン材としては優秀なようですね。欠点は褪色しやすいことらしいですが,これも媒染剤とかトップコートを工夫するとかなり改善されるみたいですしね。ううむ良いモノを教えてもらった。

 そいでは修理の本筋に戻りましょう----
 はじめに取り外した各部品の調整や補修も進んでますので,組立てに向けて,胴体の清掃をします。
 いつものように,ぬるま湯に重曹を溶かした洗い液と,Shinex#400。

 まずちょっと手慣らしに,真っ黒になってた山口(トップナット)さんを拭いてみます。

 拭く前は分からなかった糸溝の構成が見えてきましたね。
 低音弦がわは一発で決まったようですが,高音がわは糸1本ぶん外がわに切り直してますね。
 そしてそれぞれのさらに外がわ,左右端ギリギリのところにもう一組薄くせまい糸溝痕があります。これが一番最初についていた糸溝のようなんですが,削られ修整されていますね。寸法的にはこの削られてしまった糸溝が,清楽月琴における一般的な間隔に近いのですが,おそらくは,この楽器の棹が通常より細くなってしまったため,そのまま使うつもりだった汎用の部品を削って修整したのじゃないかと考えます。
 ちなみにこの大外の糸溝に合わせた場合は,第3フレットのあたりで,外弦がほぼ棹の幅ギリギリのところを通ることになってしまうので,フレットの作りを特殊なものにしない限り,操作性にかなりの難が発生しますね。

 手慣らしも済んだところで,本体へまいります。
 洗液をShinexにつけては擦り,布で拭いながら百年の汚れを払ってゆきます。
 日本でこの月琴の桐板を染めるのに使われているのは,主にヤシャブシと砥粉に少量のでんぷん糊を加えたものですが,大陸の月琴では砥粉はほとんど使われておらず,ヤシャブシと同じタンニン系茶色系の染料に,なにか黄系のものを混ぜたのが使われていますので,日本の月琴よりやや黄色味が強いのが特徴です。
 この染料,メインとなる茶系のほうは日本と同じヤシャブシか阿仙の類だと思われるんですが,いままでこの混ぜられてる黄色味のほうの正体が分からんかったのです。それが----あ,これ,もしかするとクチナシなんじゃないかなあ,と気がついた今日この頃。

 板を拭った布に,鉄媒染で使うオハグロを垂らしてみたところ,一部がモスグリーンに発色しました。ヤシャブシではこうなりませんが,クチナシは同じ媒染剤で同様の色変化を起こしますね。まあ,化学分析したわけではないので,あくまで素人推測ですが。

 そこで数日後行った表裏板の補彩では,ヤシャブシに少量のクチナシ液を混ぜてみたんですが,このせいかけっこう元の色に近くなりました。ほんとのところはほんと分かりませんが,結果としては成功ですね。
 布に染め液をつけては,表面を磨くように擦りこみます。ヤシャブシにはロウ分が含まれているので,このように半乾きの時に擦るだけで,けっこうなツヤが出ますなあ。

 裏板も同様に清掃して補彩します。
 残片となっているとはいえ貴重な,オリジナルラベルも貼りついてますので,こっち面のほうが作業はタイヘンだったかも。

 ----というところで,今回はここまで。
 次回いよいよ組立てです!
 さて「ほとんど飾り物」から「楽器」に再生された福州玉華斎,いったいどんな音を奏でてくれるのでしょうか?

(つづく)


玉華斎2(5)

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斗酒庵 たまたま玉華斎にまた出会う の巻2023.11~ 玉華斎2 (5)

STEP5 タマモナイスプレイ

 棹本体・延長材接合部の補修も終わりましたので,毎回恒例,執念のフィッティング作業に取掛ります。

 三線でも,棹と胴体を理想の設定できっちり合わせるという調整(ぶぅあてぃ)は,経験と年季の要る作業と言うことになっており----まあ弦楽器全般そうですね。地味なじみーな作業ですが,ここの出来如何で楽器の使い勝手が大きく変わりますんで,地味でも大切かつ重要な工程です。
 清楽月琴の作者には「楽器としての月琴」について熟知してないようなむきも多かったので,たとえプロの楽器職の作でもここがテキトウで。外見も構造もちゃんと月琴のカタチになっているし,材質もイイのに,楽器としては弾きづらいだけのシロモノになってたりする例が少なくありません。

 玉華斎というヒトも,「どこをどうすれば良い」という基本的設定については,さすがに本場のヒトですし,周りにふんだんにお手本があったでしょうから分かってたようですが。そのために「どうすべきか」のあたりの意識がきわめて希薄なため作業がテキトウ,という----思わず後頭部を殴りつけたくなるような性格をしています。
 さて,作業中の鬱憤と怒りのオーラを発散させるための粘土人形と,錆びて曲がった細工釘や縫い針を大量に用意して。
 作業をはじめるざんすよ,えこえこあざらく。

 まずは胴体と棹の接合部分。
 工房に来た時点で,この楽器の棹はいくらキッチリ挿しこんでも,ここにスキマができる状態で。表がわで1ミリ,裏がわも2ミリ以上,棹基部が棹口から離れていました。棹の本体部分が胴とどこも接触していない,つまりは「胴にささってるだけ」という状態だったわけです。

 まあ月琴は弦圧の低い楽器ですし,棹も胴体も主材は最強の唐木・タガヤサンですので,通常の使用なら棹が浮いてる状態でも強度的な問題はなかったでしょうが,棹と胴体が噛合ってないということは,振動が楽器全体に伝達されないということ----これではちゃんとした音は出せませんな。
 まずはここを,きっちりと密着させてやらなければなりません。

 とはいえ----カタい…さすが鉄刀木と書いてタガヤサン。それもきわめて削りにくい木口部分の作業。そのうえ,この木は硬いかわりにモロいというイヤな性質を持っており,下手に刃を立ててザクっと削れません。表面を何度も何度も擦るようにひっかくようにしながら,少しづつ削り減らしてゆかにゃならんので,刃物と手が42ます。

 数日かけてちまちま削り,なんとか胴体とのスキマを解消。胴と棹をしっかり噛合せることに成功しました。

 次に取付けの調整。
 この楽器の棹は,よく庵主が書いてるように,山口のところで胴の水平面から3ミリくらい背がわに傾いている----という,理想的な設定にいちおうなってはいるんですが。
 内桁の孔と延長材の太さがまるで合っていないため,糸を張るとそこからシーソーかやじろべえみたいに,あっちこっちにオモテにウラに,かくんかくんと動いちゃいます。

 まあうまくいい位置に誘導できたとしても,前回書いたよう,棹本体と延長材の接合部に大きなスキマがあったわけですから,そこからの調弦もきわめてイバラの道であったことでしょう。山口や半月に糸擦れがなく,胴表にバチ痕がないことから,楽器として使用されたことはほとんどなかったとは思いますが,このあたりから考えると,実際には「使わなかった」というより「使えなかった」んでしょうねえ。

 棹孔や棹の指板面から,正確な楽器の中心を採り,棹がその中心線に則って固定されるよう,延長材にスペーサを貼ってゆきます。
 うむ----最終的に,延長材の裏がわと左右に2ミリ近い厚みを足すこととなりました。
 今回はオープン修理でないので,この手でいきますが,次にぶッ壊れた時にはがばッと板をひっぺがして,内桁の孔のほうをなんとかしたほうがイイですね。
 ちなみにこのスペーサは,少しづつ調整するため薄いツキ板を積層してますが,1枚目はニカワで,そこから先はエポキで接着して重ねていますので,それこそ「次の時」みたいなことがあれば,通常の手順で根こそぎがぼっとはずせるようにしてあります。

 道具の修理はただ「いま使えるようにする」だけじゃなく,次に修理する人のことを考えてやるべきというのが,古臭いながら,庵主の方針ですので。

 今回もけっこうな時間がかかっちゃいましたが,がんばった甲斐もあって,ようやく棹は原作者が当初企図していたと思われる設定で固定され,力がかかっても動かなくなりました。
 いつものことながら,他の作業をやりながらではありますが,月琴修理の全作業工程をのべ時間にした時,その三分の一以上は,間違いなくこうした,棹と胴体のフィッティングに費やされてると思いますよ。

 続いて半月の補修です。
 まずは見て分かりやすいほうから----

 原作者が回紋彫ってて欠いちゃった部分の補修ですねがっでむこのやろう。
 このままでもなんとか使えなくはありませんが,高音低音で弦高がびっこたっこになるので,フレットを必要以上に低くしなきゃならなかったり,高低のピッチが微妙に狂ったりと,弦楽器としてあまり嬉しくない状況になる未来しか見えません。

 ここはお飾りの補修なんかと同じ……ただしお飾りと違い,よりにもよって,弦のかかる糸孔の前をしくじってくれてやがりますので,かなり頑丈にしなきゃなりません。
 まずは以前の修理で出た,ツゲの端材を削ってはめこみましょう。

 さすがに櫛の目を刻むことのできる木,この寸法でもかなり細かな加工が出来ますね。
 場所が場所ですので,抜けないよう微妙な細工をしたうえで強力な接着剤を使いますが,後で整形するので,補材は扱いやすいよう,けっこう大きめに採って,イヤミの出っ歯みたいにしちゃいます。

 同じ材ではありますが,木色のままだとかなり目立っちゃうので。削って均した後,てってえてきに補彩して仕上げました。
 どやぁ----ちょっとそっとじゃ分かるまい。

 もう一つの故障は,見た目からだと分かりにくいものなんですが----たとえばこう,現状の半月を平らなところに置いて,こっちがわを押しますと。

 反対がわがパカっと浮いちゃいます。

 はずす時,左端の一部分しかちゃんと接着されてなかった理由はコレですね。この半月,底面がちゃんと平らになっちょらんのです!

 裏面を見てみると,楽器についてる時に浮いてたがわの加工はかなり雑で,ひどい凸凹になってます----そりゃ,こんなじゃちゃんとくっつきはしませんわな。
 おそらくはこのあたりに節か,木目の混んだ部分があって,加工時ヘンな感じで割れちゃったのを,そのまま使ったんじゃないかと。

 まずこの凹んでる部分をパテ盛りします----骨材は同じツゲの木粉です。全体的には底面の中央部が,わずかに盛り上がったカタチになっていますので,大半は次の作業で削られちゃうとは思いますが,削った後のきわめて浅い凹みをあとで埋めるのより,キズが深いうちに埋めて後でギリまで削るほうが,よりキレイに仕上がるからです。

 途中で透かし彫りに入りこんだパテをほじくりだし,さらにきっちり磨いて水平を出しました。これで胴のほうの接着面も少し均しておけば,かなり強力にくっついてくれるはずですね。

 といったところで,次回に続く!----

(つづく)


玉華斎2(4)

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斗酒庵 たまたま玉華斎にまた出会う の巻2023.11~ 玉華斎2 (4)

STEP4 タマモブラックタイ

 剥離の作業でけっこう濡らしちゃいましたので,一日二日,乾かしてからの作業再開です。

 まずはバチ布下のでっかい虫食い痕を,桐塑(桐の木粉+寒梅粉のパテ)で埋めましょう。

 一晩置いて乾いて固まったところで,「薄皮一枚」くらいまで余分を削り取り,埋まった虫食い痕に沿って小筆で樹脂を滲みこませます。ただ埋めるだけなら桐塑だけでもいいんですが,ここ,後でまたバチ布貼るのに濡らしたりもしますからね。

 裏板の周縁に接着のウキが2箇所ほどと,小さいですがヒビ割れが1箇所ありますんで,ついでに補修しておきましょう。

 さて,では棹のほうへまいりますか----
 まずなによりやらにゃならんのは,糸巻の製作ですね。

 オリジナルが4本とも残っているのに,それが4本ともナスビになっており,残ってるのに1本として使いモンにならんというのは………いッそ「糸巻全損」だったほうが罪がないというくらいで,やり場のない怒りが左腕に封印された邪龍を喚び醒ましそうです。
 原作者は後で殴る,ぜったいだ。

 ぐぬぬぬぬ----落ち着け,歴史の闇に潜み眠りし禍々しき魂のチカラよッ!!(左腕に巻かれた包帯と右目を抑えながら)いまはこのやり場のない哀しみと萌えあがる復讐をムネに,糸巻を削りまくるのだァ!

 怒りのパワーは素晴らしい…いつもニガテな素体作り,並行でやってるウサ琴EXのぶんもふくめて20本近く,イッキにやっちゃえましたね。(w)

 玉華斎の糸巻は,天華斎とほぼ同形---握り部分のお尻の面取りが違うだけですね----の六角丸軸。操作性も考慮して,オリジナルより少し長めにしてあります。

 それぞれの軸孔に合うよう1本いっぽん削ってゆき,削り終えたところでいちど磨いて,エタノールに2時間ばかり漬けこんだ後で樹脂を浸透させ,補強します。

 つぎに糸倉の天の部分の補修です。

 間木の接合が雑でスキマができてますので,これを埋めておきましょう。
 ここも現状ではいちおうくっついてるのですが,いつパチュンとはずれてもおかしくない状態なので,そのままにはしておけません。

 唐木の端材を薄く砥いで,ニカワを垂らして埋め込みます。

 同じような作業なので,同時進行で延長材との接合部の補修もやっておきます。

 棹と延長材の接着自体はしっかりしており,現状,割れても剥がれてもいませんが,延長材の先端部分にけっこう大きなスキマがあります。
 向こうからライトで照らすと,光が通ってきちゃうくらいのスキマです。

 棹本体のタガヤサンはきわめて硬く丈夫ですが,延長材に接がれているのは柔らかな針葉樹材です。それでここに,こういうスキマがあるとどうなるか?
 以前にも似たような例があったのですが,こういう場合,糸を張るとその力で,硬いほうが柔らかいほうに食い込むようなカタチになって棹が浮き上がり,いつまでたっても調弦が決まらない,という事態になります。
 ふつうに楽器として使用されていたモノであれば,通常操作が繰り返されるうちに,接合部分が割れたり延長材がはずれたりと,目に見える故障になってくれるものなのですが,本器のように,あまり使われたことのないモノだと,原因が分からないまま,あとで不具合だけが発生するといった状況になりがちです。

 手順は糸倉の間木と同じですが,ここは楽器の操作に直接影響の出る箇所なので,かなり丁寧に埋め木を削って,きっちり埋め込みます。

 ついでに棹背の大きなエグレも埋めておきましょう。

 ここも弾く箇所によってはかなり指がひっかかります。

 このあたりにはおそらく元材からの大きな割れ目があったようです。残ってる痕跡からすると,加工ちゅう,原作者も思ってなかったほどかなり大きく割れたらしく,この楽器の棹が細めなのも,棹背のラインがやや不自然にのたくっているのも,それをリカバーするための処置だったんじゃないかと推測されます。このエグレも,ここをこれ以上削ると棹背が薄くなり過ぎちゃうので,妥協で残ったところみたいですね。

 唐木の粉を骨材にしたパテを,少し多めに盛っておきます。

 といったところで,次回に続く!----

(つづく)


ウサ琴EX3 (4)

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斗酒庵 ことしもウサ琴づくり の巻2023.10~ ウサ琴EX3 (4)

STEP5 棹だけ屋のヒミツ

 今回は,胴体と同時並行で作ってた棹の作業記録です。
 そういえば,前2作はウサ琴と関係なく,資料として作ったまま忘れてた,唐木屋や鶴寿堂の棹の複製を使いましたので,棹自体の製作はありませんでしたね。
 唐木屋の棹の複製品を使った1号ちゃんは実際使いやすかったし,デザイン的にもトラディッショナルで無難,機能的にも実用第一なので,今回も唐木屋やその元となったであろう関西の松音斎・松琴斎あたりの棹をモデルとすることにします。

 斗酒庵謹製の月琴棹は基本的に3ピース---実際の数で言うと,5つの部品で構成されてますが---ちょっと硬めの中心材を,カツラやホオの板でサンドイッチにした構造で作ってます。

 今回はカツラの板を買ったら,銘木屋さんが杢の入ったいかにも良さげなカバの端材をオマケで付けてくれたので,これを中心材にして2本,カツラの同材で1本作ろうと思います。

 中心材は14~15ミリ厚。この厚みがそのまま弦池(糸倉の弦のおさまる部分)の幅となります。清楽月琴の平均がだいたいそのぐらい。すこし広めのほうが,弦の交換などの操作がやりやすいですね。

 次に,型紙をもとに,左右の部分をカツラの板から切り出します。
 こちらの板は昔買った粗材で,厚みは7~8ミリ。
 切り出した左右の板を2枚づつ両面テープで接着し,左右対称になるよう整形します。
 部品が揃ったところで,中心材と左右を接着して一カタマリにします。

 ニカワでもできますが,ここらへんはエポキでやってます----ここの3P構造は,別にメンテの時にバラす必要がありませんしね。ただし,糸倉の天につく間木はニカワで接着します。国産の楽器でまれにある一木造りの棹だと一体で作られますが,本来ここは蓮頭といっしょで,糸倉に衝撃がかかった時,はずれることで被害を少なくする役割もあるところですので。

 左右がくっついたら,上面をキレイに均して指板を接着します。
 今回は黒檀ですね。
 むかーし,銘木屋さんでもらってきた端材がまだあります,ありがたや。

 盛大に木粉が飛び散りますので,この後の整形はお外でやりましょう。
 いちおう棹の形になった四角い物体---棹の素体---を削ってゆきます。

 最初にまず,棹背部分の余分を削ぎ取り,胴にささる部分----棹基部になるところに切れ目を入れます。
 つぎに,山口(トップナット)が乗るところ…三味線だと「ふくら」にあたる部分の左右側面に区切りの溝を刻みます。

 この区切りの溝のところが起点となって,左右側面のテーバーが決まったり,糸倉と握りの境目----「うなじ」の曲面へとつながったりしてゆきますので。ある意味ここが,棹の製作において全体のフォルムを決定するもっとも重要な箇所と言っても過言ではありません。

 どんどこ削ってゆきます。

 棹背を削ぐの以外はほぼ各種ヤスリのみによる作業で,画像ではそう見えませんが,足元はもうけっこうな量のおがくずだらけです。

 最後のほうになると,もう寸法とかじゃなくて,手で握り指でなぞって,実際の感触を確かめながらの作業になっちゃいますね。
 同じ型紙から作っても,木の目や整形時の削り加減で,一本いっぽん微妙に違うものになっちゃうあたりは,むしろ手作りゆえの特徴,と思っていただけるとサイワイ(w)

 二日ほど夕方の公園に通って,3本なんとか完成!
 ここでいちど樹脂で木固めをして,糸倉の背やうなじ部分など細かいところをさらに削り込み,表面を磨きます。

 胴体に表板がついたところで,基部を各胴輪の棹孔に合わせて整形。それぞれきっちり入るようになったら,V字の刻みを入れて延長材を接続します。

 前2作では針葉樹材を使いましたが,今回はホオでいきましょう----いえ,別に意味はなく,端材入れの中からちょうどいいサイズのが見つかったので。

 最後の部分はちょっと作業を急ぎました。
 と言いますのも,このあたりで修理の案件も入り,作業スペースの関係から,こっちの3面を早く画像の状態にまでしておきたかったんですね。
 ここまでやっておけば,胴体を棹と別にして横置きする必要はなく,いっしょにどこかにひっかけておけますからねえ。なにせ工房兼住居の四畳半一間,ただでさえせまいとこに,楽器3面の同時製作+古楽器の修理となると,まさに足の踏み場もなくなっちゃいますのよ----しくしく,あすこがアタシの寝床です。


(つづく)


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