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玉華斎2(終)

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斗酒庵 たまたま玉華斎にまた出会う の巻2023.11~ 玉華斎2 (終)

STEP7 タマモプラネット

 棹とのフィッティング,胴体の清掃も終わり,各部品の補作・補修も仕上がってきました。

 組立て作業その1は半月の再取付けから。
 まずはしっかりと楽器の中心を測り直し,半月の位置決めをします。

 見えますかね?----画像は半月を楽器の中心線上にセットした時。右がわに見えているのがオリジナルの取付け位置の指示線です。
 横方向に5ミリ以上はズレてますね。
 ふつうの「楽器」の工作では,いくらなんでも考えられないくらいの誤差ですが。棹とのフイッティングのところで書いたように,本器は製作当初,棹がまったく安定しない状態だったと思われるので,変に傾いてしまっていた時に位置取りをすれば,このくらいのことは起きてもしゃーない,とは思いますが,これも考えると,本器が「使われたことがなかった」理由はやはり,「使えなかったから」で間違いないでしょうね。いやはやよくもこんなのを,歩留りにもせずそのまま売り出したな,と。まあ原作者は後で殴っときましょう。

 ちょっと信じられないくらいの事態だったので,何度も測り直したのですが,いろんな方向から何度測り直しても新しい位置のほうが正しいようなので,庵主,あきらめて接着します。

 棹も清掃し,亜麻仁油で磨いてあります。準備万端。
 ナスビになってない補作の糸巻を挿し,山口も接着----ですが,これで糸を張ってみたところ,まだ少し棹が持ち上がるようなので,いったんまた分解し,延長材と棹基部にスペーサを追加しました。
 うん,原作者の野郎はぜったい殴らにゃいけません。

 ひつこいひつこい調整の甲斐もあって,こんどこそ棹は糸をキンキンに張っても動かなくなり,接着し直した半月もそれでぶッとぶこともなく----ようやく次の段階へと移れます。

 オリジナルでは,14号と同様にツゲ製のフレットが付いていましたが,今回もいつもと同じ工房定番の竹フレットでまいります。フレットなんかは半消耗品的な部品です。ツゲ材の枯渇が危惧されてもいる昨今,この先も楽器として使用することを考えたなら,材料の入手が恒久的に容易な方が良いでしょうし,そもそもウチの竹フレットは一見ツゲに見えるように加工されてますんで,見かけ上の問題もさしてないでしょう。

 ましてやちょうど「よりツゲっぽく見える染め方」も会得したばかりですからね。(ドヤァ)
 左の真っ白な状態が製作当初,右が染めて磨いたもの。色合いはけっこう高級なツゲ材っぽくなってます。

 上画像左がオリジナルのフレット配置,右が開放4C/4Gとした時の西洋音階準拠の配置となります。オリジナルでは,1~5フレットがほぼ等間隔に近くなっていた,というのが分かりますね。
 オリジナルの配置における音階は以下----

開放
4C4D+334E-164F+374G4A+455C+155D+55F+13
4G4A+224B-305C+285D+15F-475G+35A6C+2

 音階としてあちこちおかしい所はあるのですが……それでもまず,第2フレットの音が西洋音階と比べ「第3音が2~30%ほど」低いという清楽の音階の条件は,とりあえずクリアしてますね。
 さらに,第4は低音開放の5度上,高音弦の開放と合致しており。ついで開放のオクターブ上となる第6と,低音開放の2オクターブ上になる最終第8フレットの音も,じゅうぶんに許容範囲と言ってよい精度で合っています。これらはこれが「弦楽器として成立する」ものであるかを判断するうえでは,非常に大切な部分ではあります。
 ただし,ここまでの状況からかんがみて,これらの一致はおそらく,原作者が本器を楽器としてちゃんと調整した,ということではなく,組立て時に使用された,音階位置を表す型紙とか定規のようなものが精確であっただけであろうと思われます。なにせ何回も書いてるように,この楽器,製作時からマトモに音が出せるような状態ではなかったと推測されますので,とうぜん音合わせのようなことが出来たはずもないからです。

 フレットを適切な位置に修整・接着したら,さてあともう一息。

 左右のニラミは剥離時,赤いお汁を大量に滲ませて庵主の心肝を寒からしめましたので,少し反っていた裏面を整形した後,樹脂を染ませた薄い和紙を貼りつけ,補強を兼ねたにじみ止めをしておきました。
 同様の補修をしたオリジナルの扇飾り,中央の凍石の円飾りとともに,これを元の位置に貼りつけます。

 これでほぼ工房到着当初の姿に戻りましたね----まあ楽器としてちゃんと使えるようになってるかどうかのところが,一番違ってるわけですが。(w)

 工房から,本器の新たなる門出を祝って,些少ながら贈り物をしときましょう。
 なくなっている小飾りを足します。

 あのね,庵主は基本的に,音の邪魔にしかならないこうした余計な装飾を,ゴテゴテ楽器に付けるのには反対なんです----けど,こういう小飾りを作ったりすること自体は,大好きなんですよ。(w)
 今回の場合は残ってた接着痕も薄く,もと付いていたのが,どんなカタチのものだったのかの手がかりはありません。ので,ほとんどは以前に他の楽器の修理の時によぶんに作った天華斎風のものを使いましたが,上右の画像のコウモリさんは,14号およびほかの楽器にも付いていた,玉華斎のお気に入りと思われるデザインのを再現したもので,これは新作。そういや玉華斎は,名前に「玉」という字が付くだけあってか,小飾りの細工は意外と細かく,上手でしたね。

 あとスケールの関係で,2・3フレット間がかなり狭めとなったため,製作済みの小飾りのなかにサイズの合うものがなく,これも急遽新しくこさえました。
 各小飾りの並びは,いちおう類例となるような楽器のパターンを参考にしましたが----ふむ名状しがたき植物飾りの間に動物が3つ。上からコウモリ(蝙蝠)・ちょうちょ(蝶)・ナマズ(鮎魚)となりました。奇しくも「福疊年餘(おめでた重なり年ごと弥栄)」ですか……ナマズのところは正体不明の魚型装飾のことが多いですから,これを単に「魚(=餘)」と考えても,吉祥の意味合いはそれほど変わりませんね,ヨカヨカ。

 最後にバチ布を新しいものに貼り替え,摸作のラベルを貼り付けて,
 2024年1月2日。
 古渡りの唐物月琴・玉華斎,修理完了いたしました!

 上両画像ともにクリックで別窓拡大します。
 この人の楽器,ちゃんと調整さえされてれば,音は悪くないんですよ。音は----
 使ってる材料は良いものだし,意匠のセンスも良い。木工における作者の腕自体もけして悪いわけではない。
 ただやってることが徹底的に雑で,ガワの良さに比べて作業の始末がちゃんとなされていないので,本器なんかは楽器としてはほぼ使用不能なモノにまでなっちゃってたわけですね。
 今回も庵主,出来る限りの後始末はしました。
 ちょっとこの石工用のハンマーで,ボコボコに殴られてください。

 以下,使用上の注意ですが。まず一般的な清楽月琴に比べると棹が細く,これがこの楽器の操作性に,いろいろなをもたらしています。

 まず糸倉の真ん中,弦を巻き取るところである「弦池」がせまいので,糸替えがちょっとやりにくい。庵主の手指は,たいていの女性よりも小さめなくらいですが,一番下の糸巻のあたりは,その庵主の指も入らんくらいです。
 また同じ理由で,三味線のお糸を使用する場合,そのままの長さを巻き取ると,低音弦の2本が少し緩みやすくなります。糸巻に巻きつくぶんが多いと,巻かれた糸によって糸巻が押し出されたりしますし,固まった糸がゼンマイみたいになって,反対方向に回る力が付いちゃったりするからですね。低音のほうは弦池に入るぶんが半分ぐらいになるよう,ちょっと切り詰めといたほうが良いかもしれません。
(過去記事:「糸巻がゆるみやすいとき」参照)

 次に高低のコース間がややせまく,棹上の操作では,指が関係のないほうの弦に触れてしまうことがあり,そのせいで前の音が途中で止まったり,ハンマリング効果で不要な音が出ちゃったりしがちですね。

 これも含めての対策なのですが----

 通常,庵主は糸を押さえる時,下左画像のように,指の腹の部分を,糸に対し真っ直ぐ上から下ろすようなスタイルでやってます。

 しかしこの楽器の場合は,有効弦長が短い関係からフレット間のスィート・スポットがいくぶん狭めで,かつ楽器自体の音への反応が鋭いため,漫然とふだんの押さえかたをすると,音質の差がけっこう分かるくらいに出てしまいます。
 ふつうの月琴ですと,スィート・スポット以外のところを押さえてしまった場合でも,まあちょっと余韻が足りないかなあていどのものなんですが,こいつの場合,2本の糸の音が少しズレて聞こえたり,あるいは微妙な力加減の差で1/4音くらい音階が上下したりしますね。
 ですので,上右画像のように,少し指を立てて弾いてみてください。ただし「スィート・スポットが狭い」のに「指を立てる」ということは,その狭い一点をより正確に押さえなきゃ,ってことでもあります。ご鍛練あれ(さッ----と,熱した鉄砂を入れた洗面器を取り出す-民明書房刊『漢の月琴道』参考のこと)。

 あと,同様にスケールの関係から,ふつうよりいくぶん狭くなっている2・3フレット間(4F/5C)。ここのスィート・スポットが特に小さく,ちょっと指が滑ったり,力加減が適切でないと,うまく音が出ないことが多いです。これも頭に入れておいてください。

 いずれも楽器の形状,構造から来る「癖」レベルの問題であり,これらは別段「不具合」と言えるようなものではありません。この癖のために「扱いづらい」という面はありますが,かわりに扱いが適切なら最高の音を出してくれます。「プロ用の道具」みたいなもので,調整や改造でなんとかなる問題ではなく,その部分に手を入れてしまうと,逆に「扱いやすい」けど「クソも鳴らない」低級のお道具にしかならないという領域。これはこういうピーキーな楽器だ,と割り切って慣れるしかないです。

 貴重な材料を贅沢に使って作られているので,膝に乗せた時もずっしりとしてすわりは良く,楽器の取り回し(バランス)は悪くありません。またその音は,唐物月琴の代表格である天華斎の楽器に比べると,音ヌケでやや劣り,軽快さもありませんが,重厚余韻も長く,音量もけっこう大きく出ます。運指がうまくハマったときの響きはまさにヘビー級ですよ。

 ふだん弾きやすい/扱いやすい楽器で慣れてると,この楽器の「癖」けっこうな壁になるとは思いますが,そこを克服するためにも,まずはガンガン弾いてやってください。

 試奏の様子は YouTube の拙チャンネルにて公開中です。
 さすがに庵主も,初見の「癖」に,ちょっと苦労してますね。

 https://www.youtube.com/@JIN1S

(おわり)


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