月琴WS@亀戸!2024年7月!!!
2023.10~ ウサ琴EX3 (7)
STEP8 ダザイさんとアンゴくんに逢ってきたウサ琴 さあて,間に修理やらなんにゃら入ったのもありますが,すでに最長,半年以上の時間がかかっている,ウサ琴EX3の製作です。 まあ今回はいままでのウサ琴の「量産するための工作」を知るためとは真逆に,「どれだけ丁寧にやったらどんなふうになるか?」の実験もコミてますので,時間がかかるのは織り込み済みとして----染めにも塗りにも,いつも以上に時間をかけてやっております。 以前なら数日でぶッとばしてた染めや塗りの作業を,より上質な方法で。一週間以上もかけてやっとるわけですが。作業自体は極端にじみ~で単調。 棹と胴体はスオウ染め,ミョウバン媒染,オハグロで重ね染め,と,ここまではいつも通りですが,乾性油で固着させたあと,塗膜の薄い拭き漆風の塗装で仕上げるあたりが違ってきます。 もともと楽器表面の塗装は木部の保護のためのもので,どっちかというと音には邪魔な部分ですからね,薄いに越したことはないのですが。 「拭き漆」っていうのは,ギターのフレンチポリッシュ同様「なかなか先に進まない」塗装技法の代表格みたいなもんですから。庵主,セッカチーナなんで,心のなかのアバレる君を押さえつけるのがタイヘンでしたよ。 三月弥生に染め初め,塗装作業は皐月五月にようやく完了。 6月に入って,ようやく組立てまで到達いたしました。 山口はずいぶん前に出来てはいたんですが,けっきょくツゲで作り直しに----先に作ってたトチの,染めがうまくいきませんで。 フレットは白竹。 A号はアーチトップが少し遠慮気味だったので,全体にやや高め(といっても,清楽月琴の基準だとかなり低い)となりましたが,ほか2面は高音域がこれでもかってぐらい低めですね。もともとそうなるように作ってはいるのですが,あらためて工作する段階になると,現物合わせで削りながら「ホントに大丈夫か,コレ?」って思いましたね----最終フレットなんてなんてツマヨウジより細くなっちゃってますもん。 月琴の場合は,このフレットの高低差にも,操作性や音色上の理由があるので,低音域はその効果がちゃんと発揮できるくらいじゅうぶん高くなってなくっちゃなりませんし,面板上の高音域は音の邪魔にならないようなるべく低くなってなきゃなりません。かといって弦高を無視して,むやみに高くしたり低くしたりすることもできないわけで----庵主がここまでしつこくやってきた,棹取付けの鬼調整が,ここでようやくその意味と真価を発揮するわけです。 フレットが取付けられた段階で,楽器として機能する部分は完成。 まだお飾りとかも付いてませんが,お外で思いっきり音出し試奏(燃料付き)で問題点を洗い出し,細かい微調整を重ねてゆきます。糸を張り,時間がたつとまた,わずかですが変化がありますからね。 さて,何度か書いてますが。 庵主は古物の清楽月琴のように,音の邪魔にしかならないお飾り類を,これでもかと満艦飾でへっつけるのには反対です。庵主にとってあくまで「楽器」は音を出すための道具です。鉋をスワロフスキーでデコったり,ノコギリをレースで飾っても,あんまり意味はないですな。 しかしながら,そうであると同時に----楽器には装飾がつきものです。 それは人間がそこに単なる「道具」以上の「美しいものを生み出すモノ」としての付加価値や,神事のような不思議な力を見出してきたからでもありますね。 まあ唐渡りの古い清楽月琴の場合は,「東洋の蛮族に少しでも高く売りつけよう」と,キラキラにデコってた面のほうが大きかったみたいですが。(w) とまあ,無駄なお飾りを付けるのは反対ですが,日本の「清楽月琴」には飾りがつきもの,として作られてきたことと,なにより庵主自身が,じつは「月琴のお飾りを作るのがダイスキ」という厄介な矛盾から,今回も必要最低限なお飾りが付くもようです,ハイ。 胴上につくのはニラミと扇飾り。胴表面板の左右に付けられる板飾りと,5・6フレット間の扇型の飾りですね。 だいたいですね。楽器として音を出す上である意味いちばん重要な「共鳴板」の上に,その振動を邪魔するようなモノをわざわざへっつけるのですから,これを最初にやった奴は頭がどうかしてるんじゃないかと思います。 しかも古物の月琴の高級品では,これが黒檀やら紫檀と言った高級木材で作られてたりもしてます----あたりまえのことながら,軟らかい桐板(しかもこのシリーズのはかなり薄い)の上にそんな大仰なモンへっつけたら影響が出ますし,さらに今回のEXシリーズでは,その下の板がふつうの半分の厚みになっているので,影響がデカいのです。 そうした悪影響を最小にとどめるため,まず材料は表面板と同材の桐板で作ることにします。そういえば,唐物の量産品なんかは,けっこう桐で作ってましたね。染めが無駄に上手く,剥がすまで唐木だと思ってたケースが何度もありました。今回はアレの究極を目指しましょう。 材料は表裏板の余り材をさらに削って,薄々にしてます。 ただでさえ桐は軟らかく木理も荒いので,そのままでは繊細な彫刻に向きません。しかも極薄----これだとアートナイフの刃でも,お祭りのカタヌキなみにすぐパッキリ逝ッちゃいますねえ。 そこで,これを樹脂で固めます----もちろん,ガチガチに固めちゃうと意味がないので,その時の彫る削るの細工が可能なくらいに固めながらの作業です。ただ,いちど樹脂を染ますと,硬化するまで一晩は次の作業が出来ないので,これもまたエラい時間を食う作業になりました。 ちな,ウサ琴では弾ける音楽の幅を広げるため,清楽月琴よりフレットを2枚足してるのですが。そのうち高音のFにあたるフレットが,ちょうどこの扇飾りの付くとこに入るものですから,元と同じ場所に同様のお飾りを付けるのには,デザイン上の工夫がちょっと必要になります。前回の製作(EX2)で作った,コウモリ型のお飾りがたいへんうまく行ったので,今回もコレでいきますね。 今回のウサ琴はウサ琴のきゅうーきょくを目指すもの----ですので,真名である「玉兎琴」にちなんで,はじめて「玉兎(ぎょくと)」を彫りました。月に棲むウサギ,西王母の眷属にして,不老不死の仙薬を搗いてるという,ワーカーウサギたちですね。 うん?----じつは「はじめて」なんですよ。 過去のシリーズではずっとこういう「波跳びウサギ」でしたからね。 だってほら,「玉兎琴」に「玉兎」を付けるなんて,いくらなんでもなんかベタ過ぎじゃないですか。(www) でも今回はベタでいいんです。まあけっきょく「究極」とか「至高」ってのはたいがい,そんな「ベタ」を突っ切ったさらに先に転がってるもンですからね。 画像はほぼ完成時の作業中。 ぐうぜんなんですが----うん,なんか絵面的にきわめてファンタジー(w) カタチが出来たら半月同様スオウ染めの後,黒ベンガラでちょっとシマシマを描きこんでから,黒染めしてゆきます。 裏面には染めの滲み出し防止と割れ防止のため,薄い和紙を貼り,表面は仕上げにラックニスをタンポ塗り。塗膜は作らず,染めを固着させるていどですね。 最後に蓮頭を作って取付け,完成です! 今回の蓮頭は,半月と対で意味を成すような絵柄にしてゆきます。中二病とカンブン屋お得意のイヤミ満開でね!! A号,半月は「扶桑樹」なんで,銘はまんま「扶桑」。蓮頭は「月桂樹」です。月に生えてる不死の木で,横に赤い糸持ったキコリが一人と,根元にカエルが棲んでます。地上と天空の世界樹(ユグドラジル)そろい踏みですね。添詩に曰く: 俯して滄浪を視れば,足を濯ぐに堪え 遥か扶桑を看れば,日の浴するが観ゆ 視・看・観,ぜんぶ「みる」で,ぜんぶ違う----面白いですよね。 俯瞰として見れば,半月のある一番下が地表,ってことになりますね。 とすると片方の鳥はいままさに帰ってきたとこ,これからお風呂に入って葉っぱの上で眠るんでしょう。もう片方は次の準備。扶桑樹の向こうに月がのぼってるわけだ。ふぁんたじーですなあ。 B号,半月は「牡丹」,蓮頭は「荷花」,銘は「芙蓉」。この名前はフヨウのほかに色んな花を意味します。蓮花は「水芙蓉」とも言いますし,牡丹とよく取り合わされますね。そういえば,伝統意匠だとハスとボタンとフヨウの区別がつかないことがあるんですよ。花の部分だけだと特にそう,葉っぱが付くと分かるんですけどね~。添詩は: 天に接するの蓮葉,碧きこと窮まり無く 日に映ずるの荷花,別樣に紅なり 木目と染めの関係で,蓮頭のちょうど花の部分,下地の赤がほのかに透けて,偶然ですが,添詩のとおりになっちゃいましたよ。 C号,半月は「海上楼閣」,蓮頭は「秋草胡蝶図」。この1面だけ,銘ふくめてテーマが判じ物になってます----銘は「逍遥」。蜃気楼,月の影の見立てであるウサギ,そして花間を舞うチョウチョ,ぜんぶ同じ漢字一文字で表現できるものになってますよ。添詩に曰く: 知らず鐘鼓の天明を報ずるを 夢裏栩然として蝴蝶たり 一身輕ろし それぞれの添詩は,ラベルにして裏板に貼りつけてあります。各添詩の全文とか作者や意味は,ググってがんばって調べましょう。 今回の製作は,月琴の修理とウサ琴シリーズの実験で培った技術と知識の集大成でもありますが,もひとつの当初からの目的が,庵主自身の使う楽器を作ること,でもありました。 現在,ギグ用として使っている楽器には,古物の清楽月琴のほかエレキのカメ琴もありますが,このカメ琴同じ操作感でアコースティックな楽器も持っておきたいとこでしたので。なにせカメ琴・ウサ琴は清楽月琴より2枚フレットが多いんですが,このおかげで高音のFとBbがかんたんに出せる----それだけのことでも,やッぱずいぶんラクなんですよ~。 しばらく弾きくらべた結果,庵主は自分の道具としてA号「扶桑」を撰びました。 3面のうち常にこれが最初に作業に入るものですから,ほか2面と比べると,工作的に少し甘いところもあるのですが…逆に言うと,最初に作業するぶん,汎用性を考えず,とりあえずはもっとも手近な基準となる,自分の手に合わせて加工しちゃってますからね,出来上がりがやや固有寄りになるのは仕方のないことかと。まあ,たぶんそういう差は,作った本人くらいしか分からんレベルかとは思いますが。 さらに言うなら,カメ琴,装飾が「饕餮紋」なんですが,3面のうち,これだけお飾りの意匠が,同じように古代の伝説モチーフになってます----とーたるこーでねいと,ってやつ? *2024年7月7日,B号「芙蓉」C号「逍遥」,ともにお嫁入りいたしましたあ! それぞれ目指したところの違いから,操作性や音の差が若干ありますが,じゅうぶん実用に耐える出来になっていますよ。 Bのほうがやや低音強く,響きにうねりがあります。 響き線のセッティングを表板ギリにしてあるので,余韻がこう,すごいんですね。そのためもあって,3面のなかでは線鳴りしやすいほうですが,古物の清楽月琴みたいに演奏中に,ってことはまずないでしょうね。音のきゅーきょくを極めた感じ。 CはA・Bより,少し明るい音かな。 ほか2面より棹と糸倉を2ミリほど幅広に作ってますので,糸周りの操作性がかなり良いです。汎用性と操作性に特化したぶん,クセがあまりないですね。そのあたりは逆に好き嫌いが分かれるとこかも。 胴体の主材料である輪っかがもう入手できないので,20年近く作ってきたウサ琴シリーズも,今回のがほぼラストクロップですよ~。 お問い合わせはメールでも受け付けております。 (メアドは当ブログのWS@亀戸の記事中,もしくは拙HP「斗酒庵茶房」トップページ最下参照) 来月のWSにも持って行きます。夏帰省前の最終チャンス,試してみたいかたはどぞどぞ~。 (おしまい)
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2023.10~ ウサ琴EX3 (6)
STEP7 裏のある婚姻生活 糸巻や半月づくりとほぼ同時で,楽器本体の作業も進めてゆきます。 裏板を貼りましょう。 裏板の中心には,楽器の背骨となる黒檀の補強材が貼りつけてあります。 この黒檀の補強材は,胴体のトップ/エンド・ブロックおよび内桁に彫りこんだ溝にガッチリはまるようになっています。ただ----問題は,コレ,裏板の内がわに貼りついてるんで,作業中にどうなってるのかが確認できない,ってとこですね。 それぞれの補強材との噛合せについては,昨年末,表板を貼りつける前の状態で何度も実験・確認済みですので,位置さえ合えばちゃんとハマってくれるとは思いますが。 とりあえず,縦横取付けの目印になりそうなところにマスキングテープを貼っておきましょう。作業前にもちょっと実験してみましたが,完全な盲作業にはなるものの,なんとかなりそうではあります。 位置合わせでそれなりに時間がかかるかもしれないので,胴体と板の接着面には,いつも以上にしっかりとお湯をふくませ,ニカワがすぐ乾かないようにしておきます。 ニカワ自体もややユルめにして,と……板クランプが使えないので,我が家のC・Lクランプ総動員で固定!内桁のあたりには重しものせ,一晩置いて---- ふう----結果,二箇所ばかり浮いちゃってましたがどちらも周縁で,中心線や内桁との接合部とは関係なさそうな箇所だったから,まあまあ成功でしょうか。 棹口から覗いてみましたが,内桁もバッチリ接着されてるし,補強材もしっかり噛んでるごようす----よかったよかった。 裏板の余分を切り落し,木口・木端部分を側面と面一に整形したら,裏板の棹口のところに,半月型の小板を貼りつけます。 ウサ琴シリーズ,基本的に棹はオリジナルの清楽月琴と,ほぼ同じサイズ・工作で作ってますんで,ほんのわずか,胴体からハミだしちゃうんですね。 この板はその段差を隠すのがメインのお仕事。いちおう補強板も兼ねていますが,そちらのほうは…まあ「隠れた副業」ってくらいかな? ほかの2面も同様に。 そして棹と胴体の再度のフィッティングです。 ほんのわずか…ほんのちょっぴりずつ棹基部を削っていって,胴体とぴったり接合するよう調整するという,画像にするほどのこともない作業なのですが。毎度書いてるように,この手の弦楽器の製作では,トップクラスに重要かつ精密な作業となります。 ここまでもう何回もやってきてますが,まだこれで終わりではありません。 1面終わるのに5~6時間かかることなどザラ,製作通してで数えたら,けっこうとんでもない時間,この1ミリ削るでもない作業をやらかしてることになるでしょうね。 いつも以上に丁寧にやってるんで現状かなりピッタリですが,この後の作業でまたどうなるやら。 さて,胴体は箱になり,棹も完成しました。んでは----染色作業の開始です! いつものように,棹と胴体側面はスオウで赤染め,ミョウバンで色止めします。 半月もスオウ染め,糸巻は前回の玉華斎ではじめて使ったクチナシで黄色く下染めします。 C号の半月の飾り板もクチナシ染め…うん,これで染めるといきなりツゲっぽくなりますね。 赤がじゅうぶんに発色したところで,オハグロで黒染めしてゆきます。 オハグロ自体はかなり隠蔽性が高いので,お湯で薄め,木目を潰さないように,下地のスオウと反応させながら塗ってゆきます。 基本的に,塗っては乾かし,乾いたらまた塗っての単純作業ですし,木の質の関係で,どうやったって染まりムラは出ますが,それはそれで自然な風合いとも味ともなりますので,それほど神経質な作業にはなりません----とはいえ時間はかかります。切ったり貼ったりのほうが気はラクかもしれませんね。 (つづく)
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