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えいこうの月琴WS@亀戸!ラストワルツ!

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斗酒庵 WS告知 の巻月琴WS@亀戸・最終回! 2024年12月!!!



 

 

*こくちというもの-月琴WS@亀戸 ラストWS のお知らせ-*


 
 2024年,12月の月琴WS@亀戸は,討入もクリスマスも越えた28日(土)の開催予定です。



 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 長年会場を提供してくださっていたANZUさんが,年内でお店を閉じられるため,@亀戸での開催は今回でラスト!!----いまのところ1月以降はなんもかんも未定ですので,この最期の機会にどうぞお立ち寄りくださいませ~。

 なお,いつもどおりお昼さがりのゆるゆる開始ですが,ANZUさんフェアウェルとも重なるので,17:00までの早じまいの予定です。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器は余分にありますので,手ブラでお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!

 



 

 

 

月琴65号 清琴斎初記(5)

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斗酒庵,春秋を思ふ の巻2024.4~ 月琴65号 (5)

STEP5 ほんにそなたは枯野のススキそよぐばかりで心(しん)のない

 さてと,時系列と順番は前後しますが,今回はここから。
 この楽器,事前の調査で分かったのは,部材の加工や接合の工作はどこも丁寧精密で素晴らしいものの。明治流行期の他のにわか月琴師および儲け便乗の量産作家と同様,「月琴」という楽器に対しての理解不足からくる「足りない(あるいは余計な)工作」がいくつかあるということ。
 まあ,外から見えるカタチや寸法は簡単に真似できますが,そのカタチや寸法の意味や内部構造,ってのは,そのモノを正しく理解できてなきゃ,作者の想像や都合に流されがちになります。ストラディヴァリウスのヴァイオリンをスキャンして,3Dプリンタで内部ガン無視の樹脂のカタマリとして出力しても,「楽器」にはなりませんわな。
 その無理解による「足りない(あるいは余計な)工作」のひとつが,前回処理した「棹の傾きがナイ」ことですが,もうひとつがコレ----

 この響き線,ヤキが入ってません。

 いちおう軟鉄のハリガネではなく,鋼線ではあるんですよ。ただコレ現状,エフェクターとしてもリゾネーターとしてもほとんど機能してません……ほぼ楽器内部でぶよんぶよん揺れてるだけのシロモノですね。

 いつも書いてるように,月琴という楽器の良し悪しは,胴体がどれだけちゃんとした「箱」になっているか,でほとんど決まってしまいます。この楽器のそこらへんの工作は素晴らしいのですが。画龍点睛を欠くと申しましょうか,「清楽月琴の音のイノチ」ともいえる響き線がこの状態だと,「鳴りはするけど響かない」---月琴特有の余韻のまるでない,箱三味線みたいな音の楽器になってしまいます。

 さてこれはどうしたものか。
 響き線がサビサビか,根元が腐ってたりでもしてくれてたなら,躊躇なくヘシ折るなりぶッこ抜くなりできるのでハナシは早いのですが,表面に小サビ浮き,ヤキが入ってないものの,線自体の状態は健康そのもの。おまけに頼母木源七,基部固定の工作にもソツがなく,ちょっとやそっと引っ張っても抜けそうにありません。

 とはいうものの----まぁ,現状の取付けられたままの状態でも,なんとかやりようはありましょう。ただしそれは,表裏に板のついてる状態だと難しいので,板の補修の済んでない,胴が外枠フレームのみの時じゃないとできません。

 まずはライターで線全体をなるべく均等に熱します。
 よさげな温度になったところで,あらかじめ濡らしておいた布かキッチンペーパーですかさずくるむ!----ジュッ,とな----

 さすがに気の抜けない瞬間ワザで。作業中の写真は撮れませんでしたので,作業後のでご容赦アレ。ほかには直接コンロにかざすとか,9V電池直結して線自体を発熱させるとかも考えたのですが,どれも安全性に欠けるため却下。理想的な加熱状態が得られなかったため,完全に満足のゆく結果とまではいきませんでしたが,それでも先端がガンブルーになるくらいの根性は入れれました。
 従前は弾いても,ぶよよんぼよよんと揺れるだけでしたが,焼き入れ後はキーンカーンとちゃんとした「響き線」の音が出るようになりましたよ。

 この楽器にとっては重要なものの,きわめて地味な響き線の補修と処理は完了。
 棹の調整もひと段落し,これで内部からしなきゃならないこと,出来ることは片付きましたので,いよいよ裏板を戻して,胴体を「桶」から「箱」に戻します。

 裏板は,右から2/5くらいのところで割れて2枚になっていました。接合部の上端から半分くらいのとこまで虫に食われてましたので,表板の場合同様,小板接合部の虫食い部分を埋めて整形・樹脂浸透で補強。そのほかの虫損は,内桁との接着部や周縁部に少しある程度で,表板ほどヒドくはありませんでしたね。
 あとはこれを1枚に接ぎなおしたこれを胴に戻せばいいわけですが。
 表板の時と違って,こんどは内部構造との位置関係がまったく見えない状態でやることとなるので,1枚に接ぎ直す前に,板ウラに残っている原作者の指示線や,元々の接着痕,そして実際に合わせてみた結果を頼りに,新しい接着位置の目安になるシルシをあちこちに付けておきます。

 胴や板自体の,板の中心とかは原作者の残してくれた指示線,ほぼそのまま使えましたね----これも元の工作や木取りが良かったため,変形による誤差がきわめて小さかったおかげです。ほんと仕事は丁寧だ。再接着の作業余裕として小板の間に噛ませるスペーサも,最小の2ミリ程度の幅で済みました
 赤いクランプぐるりと回し,一晩置いて接着完了!

 あとは胴側からわずかにはみ出した板端を削り,胴体は無事「箱」に戻りました。

 棹と胴体,楽器としての主構造部分の補修はこれにて完了。
 ではいよいよこれを「楽器」に戻すために足りないあれこれを作ってゆきましょう。

 まずは糸巻。
 そういやこの楽器がはじめて工房に到着した時,ネオクの画像のとぜんぜんちがうゴッつい琵琶の糸巻が入っててビックリしたもんでしたねえ(出品者さんが同時に出してた他の楽器のと間違って入れちゃったらしい)。

 数日後に届いた糸巻は,2本がオリジナル,あと2本は三味線糸巻を改造したものとなってました。
 オリジナルの糸巻は状態も良かったのでそのまま使い,2本を補作することとしました。部品入れあけたら,ウサ琴作りの時大量にこさえた予備の素体がまだ2本だけ残ってましたのでこれを使いましょう。

 いつものように,ナイフと鬼目のヤスリでだいたいのカタチに削り,途中から実器合わせで先端を調整しながら,全体を仕上げてゆきます。

 ジグソーも旋盤もないんで,1本あたり1時間くらいはかかりますが。今回は大キライな素体作りの工程がないんで実にキラク,じつに楽しい!----ああ六角形のウツクシさ!
 というわけで。側面わずかに反りのある多面体に悶えながら,最後に帽子(握り部分のてっぺん)を研ぎ出し,溝を刻んで完成です。
 材料はいつもの100均めん棒ですが,これ数年前より素材が硬いブナの類から軟らかい白楊等になってますんで,力のかかる先端部分を中心に,樹脂を何度も浸ませて強化しときます。
 これをオリジナルの色味に合わせて補彩。

 今回は茶ベンガラを中心に,スオウ染めを組み合わせて赤茶っぽくしました。現状オリジナルより若干色味が濃いめですが,数年してスオウが褪色したらちょうど良いくらいになるかと思います。

 半月のお手入れもしておきましょう。
 オリジナルの半月は紫檀製。材質も悪くないですし,工作も良い。
 オモテ面に細い溝を刻み,そこに銀の薄板を打ち込んで装飾としてあります。意匠はたぶん水面に咲く蓮の花ですね。
 損傷は下縁部右がわに少しカケによるヘコミがあるのと,装飾の左がわの端のほうで一部銀の板がはずれてなくなっちゃってるくらい。

 ヘコミのほうは唐木の粉をエポキで練ったのでちょちょいと埋めましたが,銀の板のほうは手持ちにちょうどいい材料がないもので,とりあえず象牙の板をうすーくうすーく削ったのを埋め込んで誤魔化しておきましょう。

 あと事前の調査から,弦高を下げる必要のあることが分かってましたので,ウラ面のポケットになってる部分にゲタを貼りつけておきます。

 今回は煤竹を使用。
 弦が当って擦れる面に皮の部分を向け,細く削って貼りつけます。
 これで半月から出た時の弦高が,少なくとも1ミリほどは下がるはずです。


(つづく)


月琴65号 清琴斎初記(4)

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斗酒庵,春秋を思ふ の巻2024.4~ 月琴65号 (4)

STEP4 板コいちまい冬ジゴク,ほい。


 はい,では清琴斎初記,分解の続きです。

 とはいえ,今回は胴の主構造の作りが素晴らしく精密・頑丈で,接合部の劣化等強度的な問題もないため,表裏板を剥いでしまった段階で分解完了です。

 裏板も剥がしましょう,ぺりぺりぺり----この感触,そして濡らすと白くなる表面。最初はニカワが劣化してるのかと思ったんですが違います。

 この楽器,表裏の板だけソクイ(米粉の糊)で接着されてますね。

 同様の工作は国産の月琴で時折見るんですが(唐物では見たことがない),おそらくこれは三味線の工作の影響。日本の職人さんの 「三味線の「皮」はソクイで接着するもの > なら月琴の板もソクイだな!」 というていどの,やや短絡した思考から来てる工作----所謂「ドグマ」ってやつにハグされちまった結果ですな。

 もともとほぼ考えナシでやらかしてるともいえる意味のない工作ですし,後々のメンテや修理の関係上不便なだけなので,ここはキレイにして再接着はニカワでやります。

 劣化していなければ,濡らしただけで何度も甦るニカワに対して,ソクイは接着力こそ強力ですが,一度剥がれたら接着力は戻りません。また,三味線の皮は張り替えることが前提ですが,月琴の表裏板は通常張り替えることのない部分です。そんなとこに,一部分でも剥がれたら「全面張り替え」が必要になるような技術使いますかね?----みんな勉強がなっちょらん!

 というわけで,バラバラになりました。
 さらには剥がした板も,虫食いのある弱った接ぎ目からバラしてゆきます。

 けっこうあちこち食われてましたし,表板中央部分なんかはそこそこやられてましたが,食害は幸いにも接ぎ目に沿ったものばかりで,全体に横方向への広がりはない----これならあまり手を加えないで修理できそうですね。

 まず木端口の細い虫食い部分に,桐塑(桐の木粉を寒梅粉で練ったもの)を詰め込みます。場所によっては表裏薄皮一枚,みたいになってますからね,ちょっとづつそッとですが,竹串やら爪楊枝も使い,なるべく奥までキチキチに…最後は乾燥によるヒケも考えて,木端口からあふれるくらい盛っておきます。

 中まで固まったところで平らに整形。
 もちろんこれだけではおが屑を詰め込んだだけのようなもの,この部分に強度はまったくありません。そこでここには樹脂を染ませて固め,強化しておきます。桐塑は水にも弱いんですが,こういう時は逆に樹脂が滲みこみやすくて助かります。

 作業後に,食害周辺をケガキの先とかで触診してみましたが,充填不良個所や新たな被害は確認できず。食害がもっと横へ広がっていたら,表裏からほじって樹脂注入とかになっていたでしょうが,今回の楽器の桐板は,目の詰まった硬いもの----会津あたりの桐かな?----だったのもあり,さほど食い広げられなかった模様です。
 なるべく余計なところは削らないようにしましたので,食害が表面にまで達しているところ以外は,接ぎ直せばほとんど分からないくらいになるでしょう。

 これを順繰り剥ぎなおしてゆき,再接着用の作業余裕を作るため,3ミリのスペーサを間に噛ませて,1枚の板に戻します。

 上に書いたとおり,オリジナルのソクイじゃなく,ニカワで再接着します。
 スペーサのぶんはみ出た周縁部を削って,胴体は「桶」の状態になりました。

 いつもの作業からすると,多少拙速な感じがするかもしれませんが。上にも書いたよう,この楽器の胴体の主構造は,工作も良く頑丈ではあるものの,さすがに表裏板のない状態では構造的に不安定ですので。このままにしとくと,なんかの拍子に壊れちゃったり,気候状況等により変形しちゃう可能性もあるので,今回はとりあえず表板を戻し,少しでも安定した状態にすることを優先しました----いやあ,さすがに骨組みだけの状態では,棹の抜き差しや,響き線の調整するのもコワいですからね。

 安心して作業続行可能な状態になったとこで,次だ次。
 棹角度の調整をします。

 オリジナルは面板から棹の指板面まで,鏡のように見事な面一でしたが,これもこの楽器についてちゃんと勉強しなかった作り手のよくやる間違いで。本来は楽器の背がわに少しだけ傾いでいるのがベストです。
 もちろん現状の面一状態でも楽器としては使用可能ですが,ストレスなく演奏するためには色々と不都合がありますので,いつものとおり調整しようと思います----まああんまりにも精確無比な工作でしたので,正直このままにしてやろうかとも思ったのですが,楽器はあくまでも道具。いくら見事な工作でも,それが作者の無知のあらわれでしかないのなら,それを後世に残す意味もありません。

 とはいえ。
 こういう腕に自信のある巧い人ほど,一箇所を下手にいじると全体がダメになってしまうような,余裕のないギリギリの仕事をしがちです。
 元の寸法や強度に余裕がないので,こちらも常に全体への影響を俯瞰しながらのギリギリ工作しかできません。

 けっきょく,延長材の先端・表板がわ面を1ミリほど。内桁の棹孔も同様に表板がわを1ミリほど下げました。これによって棹を傾けることに成功。ほんとうはもう少し傾けたかったんですが,これ以上削ると延長材や内桁の孔の強度に問題が出そうでしたので。

 この作業の最中に,棹基部と延長材との接合部に割れが見つかったので補修しときます。数打ちの月琴ではよくある故障の一つですね。ここもちゃんと接着はニカワなんですよねえ----なんで表裏板だけ。

 最後に胴体の棹孔のひっかかる部分を少し削り,内桁の棹孔や棹基部にスペーサを噛ませて,きっちりスルピタ抜き差しできるよう調整します。
 いつものことながら,これでまだ第一弾の調整ですからね。
 この棹と胴体のフィッティングは,楽器としての使い勝手にダイレクトに影響しますので。この後もまだまだ,修理完了の直前まで繰り返されます。

 とりあえず今回はここまで----

 分解作業も終わり,当面の記録はだいたい採り終えましたので,恒例のフィールドノートを公開しておきましょう。(下画像,クリックで別窓拡大)

 表裏部分は例によって「真っ赤だな」(w)です。


(つづく)


月琴65号 清琴斎初記(3)

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斗酒庵,春秋を思ふ の巻2024.4~ 月琴65号 (3)

STEP3 婿さん(逓信大臣)はグルメと盆栽に夢中。

 さて,前回に引き続き調査です。

 外がわから見えるところは,だいたい記録し終えましたので。とりあえず棹をはずして内部を覗いてみましょう。

 そういや以前ここの二記の楽器で,外がわはキレイなのに,中がホコリまみれ粉塵爆発寸前の真っ白!----なんてこともありましたね。あれは板の虫食いが見た目以上に酷かったのが原因でした。今回の楽器も,表裏板に虫食いが見つかってます……さあどうなってることか。

 思ってたよりずっとキレイですね。

 視界良好,ホコリもほとんど溜まってません。
 上桁の音孔の向こうに,少し太めな響き線が覗いています。これも基部のほうにちょっとサビが浮いているようですが,銀色に光っている部分も多く。表板に水ムレがあったことを考えると,こんなもんで済んでて幸いといったところです。

 以降の作業に支障ナシ,と判断いたしましたので,フィールドノートに諸元寸法書き入れ終わったところで,分解作業へと入ります。

 まずはいつもどおり。表面にへッついているものをへッぱがします。
 脱脂綿を細く切ったのをたくさん用意。

 はずしたいモノ周辺に筆でお湯を刷いたら,これで囲んで堤防を作り,それから中心部に水気をふくませてゆきます----なるべく余計な部分,濡らしたくないですからね。
 表面が乾かないよう濡らした脱脂綿で覆い,ちぎったラップをかぶせたら1~2時間放置します。

 はずれてくれるお飾りはヨイお飾り,はずれないお飾りはワルいお飾りだぁ!

----というわけで,接着がオリジナルのまま,あるいは修繕が加えられていたとしても,それが古い時代のものならば接着剤はニカワなので,たいていのモノはこれで接着がユルみ,ハガれてきます。

 胴上,中央上部のフレットは4枚現存,第4フレットのみ欠損で。残っているうち第5フレットには最近の修理痕…というか,なんか接着剤ハミ出てんぞオイ。
 というわけで2,この第5フレット以外もまあ下が桐板ですから,近世の接着剤が使用されてても,木地が緩んだらはずれてはくれましたが。
 ニカワでの接着痕は,布でぬぐうていどでキレイになるのですが,こういう最近の接着剤による接着痕はちゃんと除去しとかないと,次のニカワの着きが悪くなりますので,後始末がかえってタイヘンなんですよ。
 第5フレット以外では,楽器向かって左がわのニラミ(左右のお飾り)が頑固でしたね。どちらもニカワ付けではあったものの,右がわは点付けで,一度めの作業で比較的簡単にハガれてきたのですが,こちらは後で補修したものか,裏全面にべったりとニカワを塗ってへッつけたものらしく,部品・板の精度が高かったのも災いし,容易にはずれてくれません。

 ふだん苦戦することの多い半月(テールピース)なんかは,下地の板が虫食いで弱ってたためか,左がわが半分がほとんどついておらず,右がわの端っこだけで板についていたみたいなんですが……このへッついてた部分がなかなかに頑丈で,ここも最後まで残ってしまいました。
 というわけで3。あんまり時間をかけると,ただでさえ古くて傷んでいる板への影響が大きくなってしまうので。どちらもあるていどスキマができたところで,クリアフォルダを細く切ったものを挿し入れ,ゴシゴシと挽き切ってはずしてやりましたよ。

 さて次だ,前回書いたとおり,棹上のものはぜんぶ後補部品。その形状や寸法から見て,楽器として機能させうるようなシロオノではないため,最近になってから,カタチだけ整えるためにへっつけられたものだろうことは明らか。

 手順は同じですが,基本的には「ハズす」「ハガす」というより「モギとる」ってのが正しい表現ですかな?
 木地を湿らせるとこまでは同じですが,これは接着剤を緩めるためでなく,木を軟らかくしといて,モギる際の被害を抑えるためですね。また,こういう最近の修理者は,だいたい前からあった接着痕を清掃もせず,そのままへッつけちゃってることが多いんで,そこに前のニカワの層が残っていれば,多少ヤバい接着剤が上に盛られても,下にあるニカワの層がしみこみを止めてくれてるはず&そこは水で濡らせばゆるむので,比較的安全にモギれてくれやがるだろう,という算段があります。

 結果----山口(? トップナット)とフレットはこちらの想定通りにモギれてくれましたが,糸倉てっぺんのゴッコさんだけはビクともしやがってくれません。
 なんかコレ,ほかと違う,もっと凶悪な接着剤が使われたみたいですね。頼母木さんの下地の工作が精確すぎたせいもあり,これがもーばっちり密着・極悪接着されちゃってます。おまけにこのゴッコさん自体がなんかユルい染料で染められてるようで,濡らしたら脱脂綿に赤い汁が滲んできました。
 こりゃ通常の方法だと,下地が緩むまでに相当かかりそうです。この糸倉部分は,この手の弦楽器にとって重要ななしょですからね----方針を変えましょう。
 いったん乾かしてから,ぶッた斬ることにします。

 ごとん----
  へへ…へ。
  やったぜ,やっちまったぁ……


 うんむ,裏面に紐を通すようなクボミがありますね。
 もとは帯留か根付でしょうか。
 彫りからして,これ自体は古いものっぽいんで,犯人は古物屋かながっでむ。

 表板にじゃまものがなくなったところで,さらに分解を進めてゆきます。

 といっても今回の楽器,胴体の輪になった主構造部分は頑丈健全なので,基本的に表裏の板をハガしたところで終わりですね。表裏板とも接着の浮いているところ剥がれているところから刃物を入れて回してゆきます。
 ペリペリパリパリ,キモチ良いくらいハガれてきますねえ。表板は虫食いのところから割れちゃいましたが,このくらいは想定内。

 ハイ!表板剥けました!
 まずは概況ですね-----埃はある程度入ってますが,表面的なヨゴレのわりには,やはり少なめです。
 墨書の類はナシ。接合部や,内桁の孔をあけたところの周囲に番号・指示記号や線みたいなものはありますが,特に文章になっているような書き入れはありませんね。「浅草の観音様の下にこの世のすべてを隠してきた。」みたいなメッセージでもあったら良かったのに(w)----指示線はぜんぶ墨書きです。

 側板は薄めで4枚とも均等に形が揃ってますし,音孔なんかも指示線内きっちり同じようなカタチで貫いてあります。
 数打ちの楽器では手抜きされることの多い内部構造ですが,各部ともに仕事が丁寧ですね。
 響き線は楽器垂直方向の中心あたりから,下桁ギリギリのあたりまで,ごく浅いカーブを描いて伸びています。線が若干太めな気もしますが,このあたりは二記山田の楽器でも同じです。
 響き線の基部は小さな花梨か紫檀の角材。大きさは 11x15xh.15 くらい。側板の内壁に,かなりの量のニカワでがっちり接着してあります。響き線自体の固定は基部に穿った孔に直挿し。とはいえ,たぶん先端を潰すかして突っ込んであるんだと思います。しっかりと固定されていますね。後代の月琴だと,ここは大きめの孔を穿って線を挿し,四角釘や竹釘を添え打ちして止めていることが多いんですが,これにそういうものは見当たりませんね。

 線の長さや基部の取付け位置は,山形屋や柏葉堂等ほかの関東の作家とあまり変わりありませんが,ほかは上画像のように,弓なりになっているのがふつうで,この清琴斎のような中途半端な曲がりのものはほかで見たことがありません。直線・曲線ともにメリット・デメリットがあり,その形状でそれぞれの作家さんの目指す「音」が見えてくるところですが,正直このていどの曲がりなら,いッそ石田不識や鶴寿堂のように直線を斜めに挿したほうが加工や調整もラクだし,効果も高いんじゃないかとは庵主個人的に思います。

----といったところで,今回はここまで。

(つづく)


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