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月琴65号 清琴斎初記(3)

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斗酒庵,春秋を思ふ の巻2024.4~ 月琴65号 (3)

STEP3 婿さん(逓信大臣)はグルメと盆栽に夢中。

 さて,前回に引き続き調査です。

 外がわから見えるところは,だいたい記録し終えましたので。とりあえず棹をはずして内部を覗いてみましょう。

 そういや以前ここの二記の楽器で,外がわはキレイなのに,中がホコリまみれ粉塵爆発寸前の真っ白!----なんてこともありましたね。あれは板の虫食いが見た目以上に酷かったのが原因でした。今回の楽器も,表裏板に虫食いが見つかってます……さあどうなってることか。

 思ってたよりずっとキレイですね。

 視界良好,ホコリもほとんど溜まってません。
 上桁の音孔の向こうに,少し太めな響き線が覗いています。これも基部のほうにちょっとサビが浮いているようですが,銀色に光っている部分も多く。表板に水ムレがあったことを考えると,こんなもんで済んでて幸いといったところです。

 以降の作業に支障ナシ,と判断いたしましたので,フィールドノートに諸元寸法書き入れ終わったところで,分解作業へと入ります。

 まずはいつもどおり。表面にへッついているものをへッぱがします。
 脱脂綿を細く切ったのをたくさん用意。

 はずしたいモノ周辺に筆でお湯を刷いたら,これで囲んで堤防を作り,それから中心部に水気をふくませてゆきます----なるべく余計な部分,濡らしたくないですからね。
 表面が乾かないよう濡らした脱脂綿で覆い,ちぎったラップをかぶせたら1~2時間放置します。

 はずれてくれるお飾りはヨイお飾り,はずれないお飾りはワルいお飾りだぁ!

----というわけで,接着がオリジナルのまま,あるいは修繕が加えられていたとしても,それが古い時代のものならば接着剤はニカワなので,たいていのモノはこれで接着がユルみ,ハガれてきます。

 胴上,中央上部のフレットは4枚現存,第4フレットのみ欠損で。残っているうち第5フレットには最近の修理痕…というか,なんか接着剤ハミ出てんぞオイ。
 というわけで2,この第5フレット以外もまあ下が桐板ですから,近世の接着剤が使用されてても,木地が緩んだらはずれてはくれましたが。
 ニカワでの接着痕は,布でぬぐうていどでキレイになるのですが,こういう最近の接着剤による接着痕はちゃんと除去しとかないと,次のニカワの着きが悪くなりますので,後始末がかえってタイヘンなんですよ。
 第5フレット以外では,楽器向かって左がわのニラミ(左右のお飾り)が頑固でしたね。どちらもニカワ付けではあったものの,右がわは点付けで,一度めの作業で比較的簡単にハガれてきたのですが,こちらは後で補修したものか,裏全面にべったりとニカワを塗ってへッつけたものらしく,部品・板の精度が高かったのも災いし,容易にはずれてくれません。

 ふだん苦戦することの多い半月(テールピース)なんかは,下地の板が虫食いで弱ってたためか,左がわが半分がほとんどついておらず,右がわの端っこだけで板についていたみたいなんですが……このへッついてた部分がなかなかに頑丈で,ここも最後まで残ってしまいました。
 というわけで3。あんまり時間をかけると,ただでさえ古くて傷んでいる板への影響が大きくなってしまうので。どちらもあるていどスキマができたところで,クリアフォルダを細く切ったものを挿し入れ,ゴシゴシと挽き切ってはずしてやりましたよ。

 さて次だ,前回書いたとおり,棹上のものはぜんぶ後補部品。その形状や寸法から見て,楽器として機能させうるようなシロオノではないため,最近になってから,カタチだけ整えるためにへっつけられたものだろうことは明らか。

 手順は同じですが,基本的には「ハズす」「ハガす」というより「モギとる」ってのが正しい表現ですかな?
 木地を湿らせるとこまでは同じですが,これは接着剤を緩めるためでなく,木を軟らかくしといて,モギる際の被害を抑えるためですね。また,こういう最近の修理者は,だいたい前からあった接着痕を清掃もせず,そのままへッつけちゃってることが多いんで,そこに前のニカワの層が残っていれば,多少ヤバい接着剤が上に盛られても,下にあるニカワの層がしみこみを止めてくれてるはず&そこは水で濡らせばゆるむので,比較的安全にモギれてくれやがるだろう,という算段があります。

 結果----山口(? トップナット)とフレットはこちらの想定通りにモギれてくれましたが,糸倉てっぺんのゴッコさんだけはビクともしやがってくれません。
 なんかコレ,ほかと違う,もっと凶悪な接着剤が使われたみたいですね。頼母木さんの下地の工作が精確すぎたせいもあり,これがもーばっちり密着・極悪接着されちゃってます。おまけにこのゴッコさん自体がなんかユルい染料で染められてるようで,濡らしたら脱脂綿に赤い汁が滲んできました。
 こりゃ通常の方法だと,下地が緩むまでに相当かかりそうです。この糸倉部分は,この手の弦楽器にとって重要ななしょですからね----方針を変えましょう。
 いったん乾かしてから,ぶッた斬ることにします。

 ごとん----
  へへ…へ。
  やったぜ,やっちまったぁ……


 うんむ,裏面に紐を通すようなクボミがありますね。
 もとは帯留か根付でしょうか。
 彫りからして,これ自体は古いものっぽいんで,犯人は古物屋かながっでむ。

 表板にじゃまものがなくなったところで,さらに分解を進めてゆきます。

 といっても今回の楽器,胴体の輪になった主構造部分は頑丈健全なので,基本的に表裏の板をハガしたところで終わりですね。表裏板とも接着の浮いているところ剥がれているところから刃物を入れて回してゆきます。
 ペリペリパリパリ,キモチ良いくらいハガれてきますねえ。表板は虫食いのところから割れちゃいましたが,このくらいは想定内。

 ハイ!表板剥けました!
 まずは概況ですね-----埃はある程度入ってますが,表面的なヨゴレのわりには,やはり少なめです。
 墨書の類はナシ。接合部や,内桁の孔をあけたところの周囲に番号・指示記号や線みたいなものはありますが,特に文章になっているような書き入れはありませんね。「浅草の観音様の下にこの世のすべてを隠してきた。」みたいなメッセージでもあったら良かったのに(w)----指示線はぜんぶ墨書きです。

 側板は薄めで4枚とも均等に形が揃ってますし,音孔なんかも指示線内きっちり同じようなカタチで貫いてあります。
 数打ちの楽器では手抜きされることの多い内部構造ですが,各部ともに仕事が丁寧ですね。
 響き線は楽器垂直方向の中心あたりから,下桁ギリギリのあたりまで,ごく浅いカーブを描いて伸びています。線が若干太めな気もしますが,このあたりは二記山田の楽器でも同じです。
 響き線の基部は小さな花梨か紫檀の角材。大きさは 11x15xh.15 くらい。側板の内壁に,かなりの量のニカワでがっちり接着してあります。響き線自体の固定は基部に穿った孔に直挿し。とはいえ,たぶん先端を潰すかして突っ込んであるんだと思います。しっかりと固定されていますね。後代の月琴だと,ここは大きめの孔を穿って線を挿し,四角釘や竹釘を添え打ちして止めていることが多いんですが,これにそういうものは見当たりませんね。

 線の長さや基部の取付け位置は,山形屋や柏葉堂等ほかの関東の作家とあまり変わりありませんが,ほかは上画像のように,弓なりになっているのがふつうで,この清琴斎のような中途半端な曲がりのものはほかで見たことがありません。直線・曲線ともにメリット・デメリットがあり,その形状でそれぞれの作家さんの目指す「音」が見えてくるところですが,正直このていどの曲がりなら,いッそ石田不識や鶴寿堂のように直線を斜めに挿したほうが加工や調整もラクだし,効果も高いんじゃないかとは庵主個人的に思います。

----といったところで,今回はここまで。

(つづく)


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