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依頼修理の月琴(2)

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斗酒庵,重たい月琴に出会う の巻2024.11~ 依頼修理の月琴 (2)

STEP2 キミをもッと教えて(ハァハァ)

 さて,前回庵主のもとに届いた唐木製・超重量級・満艦飾の高級月琴。

 前回はこの楽器がどのようなモノなのか,というあたりをざっと概観してみたわけですが。続いて今回はこれが現状「楽器」としてどうなっているのかというあたりをふくめ,各部順ぐりに見てゆくこととしましょう。

 まずは糸倉と棹から。
 弦楽器として大切なところですからね,しっかり見てゆきましょう。

 鉄刀木製の蓮頭が紫檀製の糸倉にへっついており,ふつうはどちらも接着の悪い材なので容易にはずれてしまいそうなものではありますが。現状接着は頑強でビクともしません。
 なにかホゾのようなものでも噛ましてあるのか,それとも近年誰ぞが超強力な接着剤でくっつけたものかもしれませんが,へんな加工痕や接着痕も見えません----向きとかも正常だし,あまり音に絡む箇所でもないので,庵主としてはできればここは,このままそッとしておきたいところであります。

 今のところ,糸倉に傷らしいものは見えませんね。
 アールがきつめで左右各厚8,弦池が広めなので糸替えなどの操作がラクそうです。

 真正の唐物だと糸倉左右が頭のほうに向かってやや開き,末広がりの形になってることが多いんですが,これはきっちりまっすぐ平行。
 弦池は彫り貫きで,蓮頭取付部のあたりはかなり厚めになってます。内がわに少し作業痕が残っていますが,軽く均されてガタガタにはなっておらず,軸孔もきれいに貫かれて,歪みや縁の欠け等はほとんど見えません。
 向かって右側面先端に少しだけ白太(黒檀や紫檀で色のついていない部分)が混じってはいますが,全体としては非常に良質な素材が使用されています。そもこれだけサイズの紫檀のカタマリでアラがこの程度ですから,現在では考えられないくらいゼイタクな素材をゼイタクに使ってますね~おのれブルジョア起てバンコクのろうどうしや。

 この類の倣製月琴としては棹背のアールは緩く,中央のエグレも浅めになっています。唐物や初期の国産月琴では,ここのエグレがキツすぎて手が滑らせにくくなってしまったりしてる例もありましたが,この楽器の棹はそれらよりはずいふん実用的になってますね。  加工粗もきわめて少ないほうですが,指板面の基部左がわの縁が少しだけ欠けてしまっています。

 断面もキレイに磨かれていることから,これは使用中に欠けたのではなく,原作者が製作段階でやらかしたものと想像されます。たぶん本当は上図のように,うつくしーく末広がりにしたかったんでしょうねえ。
 損傷としては小さなものの,このせいで棹全体のフォルムがちぐはぐなものになっていますし,場所がよりによって音合わせで使う第4フレットの取付位置にかかっていますので,後でなんとかしときましょう。

 続いて糸巻です。
 いちおう4本揃ってますが,見てのとおりうち1本は寸法も材質も異なっており,間違いなく後補ですね。

 ほか1本は先端が折れ欠けており,さらに1本はそれと同じような感じで折れたのを接着剤で継いであります。
 つまり現状,オリジナルでまともに残ってるのは1本だけというわけですが,この1本も良く見ると糸孔のところからぐるりとヒビが廻ってますので,このまま使用できるか怪しい所です。

 材質は黒檀か紫檀かな?
 六角無溝のシンプルな外見ですが,かなり複雑な杢理の材を,それが最も綺麗に見える角度で木取りするという,凝った工作をしています----まあヒビが入ったり折れたりしたのも,間違いなくこの木取りと材質のせいでしょうけどね。
 つまり現状,糸巻は4本残ってはいるものの,使用できるものは0----ドラゴン怒りの糸巻全削り確定であります。


 牛角製の山口には糸擦れの痕が複数付いていますが,いづれも浅いもので,はっきりと糸溝を切った痕跡がありません。
 複弦楽器である月琴は,2本づつ同じ音に調整した弦を,それぞれ2本同時にはじくものなので,本当はここに溝を切ってコースを固定してやらないと,弾いているうちに糸がずれて間隔が開いたり,逆にくっついてしまうことで,調弦がおかしくなったり音が出なくなったりしてしまうのですが。日本の弾き手はそのあたりをあまり気にしなかったらしく,時折このように,山口に糸溝を切らないまま使用していた例を見かけることがあります。
 まあ作ってるがわも弾いてたがわも,よく知らないでやってた楽器ですからね。
 ここは完成後,きちんと糸溝を切って,ふつうに使えるようにしておきましょう。

 そのほか,棹上のフレットが1枚なくなってます。

 ちょうどこの二つの小飾りの間に入っていたんでしょう。
 また第3フレットはかなり傾いて取付けられてますから,これは最近再接着されたものじゃないかな?

 再接着されたものも数枚あるようですが,モノ自体はオリジナルの部品であろうと思われます。竹の皮目をそのまま片面に残したフレットは,国産の月琴で見られるもので,この加工自体はさほど珍しくありませんが,通常は薄く尖らせていることの多い頭頂部(弦に触れる部分)がやや太目にとられており,全体の形状も,唐木や骨牙材のフレットのほうに寄せているようです。
 糸の圧痕・擦痕もしっかり刻まれ,削れてかなり凹んじゃってるものもあるので,ここは全交換ですね。ただここから,これが飾り物ではなく楽器として実際に使用されたものであるところは間違いないようです。

 棹と胴体の関係がどうなっているのかしらべたかったんですが,表板がそうとうに歪んでいるらしく,曲尺や定規だと置いた場所で数値が異なってしまうため,山口と半月の間に糸を張って,それを基準に測ってみたところ----現状,胴表板の水平面と棹の指板面は,ほぼ面一か,わずかに前方にお辞儀をしてしまっているようです。

 実際,接合部の棹背がわがわずかに浮いて胴との間にスキマができちゃってますので,もとはちゃんと背がわに傾いていたのが,使ってるうち棹なかごが反ってこうなったのかも。ただ計測の結果で言えば,もし現在の接合面の角度で胴体についていたとすると,棹は山口のところで胴水平面より1センチ近く背がわに傾くこととなり,棹なかごも表板を突き破ってしまうことになりますので,これは原作者のもともとの工作に問題があるだけのことかもしれません。
 予想される弦高もかなり高めなうえ,山口と半月の間での落差がほとんど出来ませんね。
 このままだとやたら弾きにくい楽器にしかならないので要調整なんですが,前回も書いたよう,この楽器は棹なかごが胴を貫通しているタイプ。庵主もそう数多く扱ってるわけでもありませんし,一般的な構造の月琴より調整しなきゃならない箇所が多くなっているうえ,なかごが長大なぶん,ちょっとした加工の影響が大きくなるので難しいんです。
 ぶあーてぃ…棹と胴体のフィッティングは,ただでさえ毎回もっとも労力のかかる作業ですからね-----こりゃあけっこうタイヘンそうだぞ。


 胴は表に中央の景色が山となる板目の板が使われています。
 裏板はやや柾目っぽくはありますが,おそらくもとは表板と続きの板で,その上にくっついてた部分なのじゃないかと。それを天地ひっくり返して使ってますね。
 表裏ともに小板の接ぎ目が見えません……もしかすると一枚板なのかも。

 表板中央部・景色になっている山の中心を,斜めに横切るように割れが入り,上下をほぼ貫通しています。
 詳しい原因はもうちょっと調べてみないと分かりませんが,部分的に左右に裂けたような感じになっているので,衝撃等によるものではなく,長年の板の収縮により材質的に弱いところから壊れたと見るほうがよさそうです。
 そのほか,地の板の中央付近から半月の右端あたりに向けて,もう1本ヒビが入ってますが,ちょうど半月やバチ布で隠れてしまってるので,これがどこまで続いてるのかは不明です。

 棹口もお尻の孔も工作は丁寧で,比較的きれいに貫けてます。

 よく見ると棹口の上のほうにも,棹なかごにあったのと同じ「を」のシルシが書かれてますね。

 楽器内部も汚れはあまり見えませんね。
 棹口から覗きこんだ感じでは,内桁は中央に一枚,楽器向かって右がわに響き線が通っているようです。

 内桁が少し剥離しているようで,板との間にスキマが見えるところがありますね。実際板をタップしてみても,ボエンボエンと言うばかりでまったく響かないような箇所が多いみたいです。

 胴側,四方四か所の接合部にはスキマが目立ちます。

 月琴の胴体は内桁とここが密着してないと,ちゃんと鳴りませんし響きません。
 経年劣化による剥離だけでなく,元の工作があまり良くないようで,微妙にズレたり食い違ったりしてるとこがありますね。
 内桁の剥離やここの補修・補強等の作業は,とにかくバラさないとどうにもならないので,今回も完全分解・オーバーホールとなるのは既定の路線でありますが,この側面ほぼ全周に彫り物がされてるので,一度バラして組み直した時これがちゃんとつながるか少し心配ではありますとほほ……

(つづく)


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