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依頼修理の月琴(終)

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斗酒庵,重たい月琴に出会う の巻2024.11~ 依頼修理の月琴 (終)
STEP7 汝復活せし者の名を呼ばへよ(2)

 響き線のお手入れもおわり、胴の内がわからできることがようやくなくなったので、いよいよ裏板を閉じます。

 表板同様、裏板のウラ面もでっこぼっこのガッタガタでしたので。数日間、木粉舞い上げ平たくに加工しましたが、表板のときとは違って、こっちはただかぶせるだけですからね、少し気がラク----ああ、ようやっとここまできましたねえ。

 続いて、今回の再生作業で、消えちゃったり埋まってしまったりした側面の彫りを補修します。

 例のスキマ部分も、梅の幹をそれっぽく彫りつなげます。材は同じタガヤサンにしましたが、さすがに木目までは合わせられませんでしたねえ……ううむ、やっぱりちょっと目立っちゃいますか。でもここのほか2箇所は、細かい彫りがかかっていたり、文字がかかっていたりで、スペーサ埋めれるとこがここしかありませんでしたからねえ。

 あいもかわらず、しつこくしつこく調整し続けた、棹と胴との接合。

 その甲斐あってなんとかここまで。
 スキマだらけでスカスカだったのが、だいたいぴったりと密着して、振動を伝えてくれるようになりました。前回書いたように、欲を言えばもう少し傾けたかったとこですが、原作の工作と構造ではこれ以上の手出しは無理筋ですね。

 良質のタガヤサンで作られてるのに、つや消しボサボサになっちゃっていた半月も、ピッカピカに磨き上げ、組み立て直しました。

 ポケット部分にあった大きなエグレも補修してありますし、糸孔もかなり縁ギリギリのところに開いてるので、削れないよう補強しておきました。
 で、その半月がくっつく胴体のほうですが。ううむ、…いまだに陰月をなんで2つもあけたのかわかりませんな。

 そもそもこの孔、大陸の月琴ではほとんど見ない加工ですし、更にいうなら空気穴以上の役目がない…てか、そもそも空気穴要る?という、国産月琴特有のナゾ工作なのですが、それが2倍!

 いささか厨二病気質のある原作者的にはおおいなる月に二ツの闇が顕現し、そが重なり逢いし時…我が古の闇の力のすべてが解放されるであろう!とかいうようなこともあったかと思いますが……はいはい、しまっちゃいましょうねえ。
 糸を張って、半月の適確な位置と角度を測り直したうえで、接着します。

 フレットはオリジナルと同様、煤竹で作り直します。
 ……ヘタするといまや、象牙より貴重な材料になっちゃってるかもですねえ。

 オリジナルの位置にフレットを置いた場合の音階は----

開放
4C4D+74E-234F+164G+144A-195C±05D-55E+34
4G4A±04B-355C+155D+55E-295G-175A-95B+21

----と出ました。高音域のほうは少しブレてますが「開放からの第3音が30%ほど低い」という清楽の音階の特徴はしっかりと見て取れますね。全体にそろっているので、おそらくは明笛か律管で、あるていどは調整したんだと思います。
 ヒストリカルな楽器なので、このまんまでも良かろうか…とは考えたんですが、対となる明笛がないと、あまり意味がないですし、とりあえずは西洋音階準拠で並べ直しておきます。フレットはニカワでへっつけてあるだけですし、以前の位置は、あとで掲げるフィールドノートに記録してありますので、いにしえのほにゃほにゃ音階を楽しみたい場合は付け直してやってください。

 オリジナルの糸巻は3本残っていたので、わーい、1本削ればイイだけだー、なんて当初は思っていたんですが……

 いざ調べてみると、残りのもぜんぶ。折れてるわ削れてるわ割れてるわで、けっきょく1本とてマトモに使用可能なものがありませんでした。

 希少な唐木材の、さらに木目の面白いとこから取られたゼイタクな品でしたので、なるべくならそのまま使いたかったのですが。そもそも、その「木目」の方向がヤバかった模様……いくらなんでも、こういう力のかかるところで長辺に対してほぼ垂直って………(^_^;)
 そりゃ折れますわな、割れますわな。
 あきらめて代わりのを削ります。

 例によって100均めん棒製ですが、この材料はお手軽に購入できるものの、お店によって素材の木が違います。今回の楽器は重さ的に超ヘビー級ですんで、そのなかでいちばん丈夫な材のを使いました----この楽器の保存は、やっぱり壁にぶるさげてるのがいちばんイイのですが、だいたいはこのへんの糸巻のところでひっかけます。ヤワな材だとさすがに変形したり、折れちゃいますからね。
 元の材質はともかく、唐木ほどじゃあありませんが、樹脂も染ませてありますのでそこそこ丈夫、そこそこ保つかと。
 元の糸巻に似せて、わざとムラムラに染め上げ、木目を演出。丈夫なかわりに削りにくく、染め難いところもあるんですが----まあ、そこんところは長年のぎじゅちゅとけえけんで。

 あとはお飾り類とバチ布ですねー。

 装飾類はほぼオリジナルのままなのですが、原音階計測後、西洋音階準拠でフレットを並べ直したら、第2・3フレット間の小飾りが入らなくなってしまったので、1つだけ代わりのを作ります。この楽器の小飾りは、どうやらぼんやりと「裏八仙」になってるようなので。これは「如意笊」これは「芭蕉扇」……これは…「斬妖剣」かなあ……と、ほかのお飾りの意匠を推測したうえで、足りない「張果老」の持物である「漁鼓」(資料によっては「道籤」とされてることも)を製作。
 竹筒からヤギの角みたいのが出てる図像ですね。竹筒の底には皮が張ってあって、そこから突き出てるのは、先を反らせた竹板を二枚背合わせでくっつけたようなもの。これを片手でカスタネットみたいにカシャカシャ鳴らし、もう片手で竹筒の底をポンポン打ちながら歌をうたいます。

 最後に、お尻から突き出てるなかごの先端を止めるピンを挿しこみます。

 もとは金属製の割りピンで固定されていたんですが、これだと棹を抜くたびに破壊しないとなりませんので、象牙の端材で止め釘を製作して交換しました。金環と金具はオリジナルのものを使用。挿しこんであるだけですので、後々のメンテナンス的にもこっちのほうが都合がよろしい。

 補修の終わってるほかのお飾りや山口などといっしょに取付け、
 2025年1月、
 依頼修理の豪華な月琴、修理完了です!



 江戸から明治期にかけての、文人のステータス的文物としての色あいが強く、「古楽器」としてというよりは「歴史的な遺物」としての意義のほうが高いモノではありましたが、使用可能な楽器として再生しつつ、何とかオリジナルの部分を多く残すことができたと思います。

 今回のフィールドノートは3枚。
 いつものオモテ・ウラのほか、内部構造がかなり興味深いものでしたので、これをまとめたのが加わっています。

 画像はクリックで別窓拡大。
 寸法などの詳細は、こちらをご参照ください。

 さてこの楽器の由緒・由来についてですが----

 楽器の入っていた木箱には「月琴 西 搗野姓」と書かれてましたが、これについては未詳。
 楽器の胴側面に彫された、梅の図の署名は「天外招客」でした。

 外袋には松を中心にした山水画と、賛詞がいくつも書かれてたんですが、画用の絹布とかではないので、画も書も落款も状態が悪く、読み取りにくかったですね。

 なんとか「洋堂」「秋山達」「竹條」と署名らしいものを読み解いて調べてみた結果。「天外」は「福田天外」、「竹條」は「篠原竹条」じゃないかと思われます。両方とも徳島関連の人なので、この楽器もそちらのほうで作られたものではないかと。もしかしたら、この名前の出てこない「秋山」さんか、福田天外さんの自作だったかもです。

 何度か書いたと思いますが、少なくとも唐木の扱いから見て、ずぶのシロウトさんが作ったものではないです。
 流行当初には楽器屋ではなく、小物家具や細工物を作る指物屋や、こうした唐木材で支那趣味の道具などを作っていた唐木屋も多く製作に関わっていましたから、その点に不思議はありません。
 そもそもシロウトさんでは入手の難しそうな材料がふんだんに使われていますし、小さな金具まで、何かの流用品ではなくワンオフで作られてますからね。そういう伝手のある職人さんじゃないと作れません。

 ただし、内部構造などに見られた試行錯誤の痕や、糸巻にまで凝った材料の質、過剰なまでの装飾などから考えるに。これは「売るため」に作られたモノというよりは、「自分で使うため」に作った楽器である可能性のほうが高いかもしれません。

 「売り物」としては、どう考えても手間やコストがかかりすぎです。
 工作の詳細が分からなかったため手を抜いてるような部分はありますが、知ってるところは本職の楽器屋よりずっと丁寧に、すごい時間をかけてきっちりと、完全に採算度外視でやってますね。

 重たいタガヤサンをふんだんにつかっているぶん、低音の響きはなかなかのものです。太めの響き線もそれそこに効いて、かなり深い余韻が残ります。

 ただ「月琴」という楽器としてはちょっと重すぎて取り回しに少し難があります。あと棹の傾きが少し浅いので、運指への反応がやや甘い。
 表裏板をかなり削ったので、現状、音ヌケは悪くありませんが、板自体がかなり硬質なため、音量はあまり出ず。余韻がややこもりがちです。
 まあ野良の演奏家レベルに立った時の評価ですので、室内楽器としてふだん使ううえには何の支障も問題もありません。阿波国から来た文人楽器----明治の文化史の一端が垣間見える逸品ですね。
 どうか大切に伝え継いでいってください。


(おわり)


月琴WS@銀狐!2025年10月!!

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斗酒庵 WS告知 の巻月琴WS@銀狐! にちようかいさい 2025年10月!!!


*こくちというもの-月琴WS@銀狐 10月のお知らせ-*

 
10月の月琴WS@銀狐は、
19日(にちようび)16;30よりの開催となりました。

 
月琴WS、ひさびさの日曜開催でえす!


 会場は台東区下谷・小野照崎神社(通称・小野照さん)のお隣、「銀狐」さん。
 最寄駅はJR「鶯谷」もしくは地下鉄「入谷」となりまあす。

 前とかわらず、参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに Drink or Food のオーダーお願いいたします。
 ほぼ銀狐さんの通常営業にまぎれての、酔いどれ飲み会WS。

 予約は特に不要、参加自由、途中退席自由。
 楽器は余分に持っていきますので、手ブラでのご参加もお気軽に~~~!

 初心者、未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい、弾いてみたい方はぜひどうぞ。


 うちは基本、楽器お触り自由。
 絶滅楽器「清楽月琴」なんてぇものに触れられるエエ機会。
 1曲弾けるようになっていってください!



 明清楽・長崎派の楽曲まとめ。
 『大清楽譜』乾024「断板」まで進みました。
 夏休み1ト月半かけて6曲かあ。
 ほんに週イチペースになってますねえ。
 最近は寄るトシナミで、2時間ぐらい集中するとキゼツしそうになりますから。物事は何でも、「集める」よりは「まとめる」ほうがタイヘンなんですよぉ。

依頼修理の月琴(6)

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斗酒庵,重たい月琴に出会う の巻2024.11~ 依頼修理の月琴 (6)

STEP6 汝復活せし者の名を呼ばへよ(1)

 月琴は胴体の造りで音のほとんどが決まる----とはいっても。
 ライアーじゃないので、ネックがなければただの丸い筐…まあ演奏はできませんな。

 愛しい胴体とのフィッティング作業は後ほど、偏執的かつ延々と行うことになるとして(確定事項)、まずは外見的に気になるところを補修しておきましょう。

 棹の根元付近、指板側から見た時に左右が対称ではなく、左側の縁が少し欠けてしまっていますね。
 この楽器の作者の工作には中二病的傾向があるので……なるほど、ここのラインもふつうの直線ではなく、いま地上に降り立った天女の裳裾のように、美しく、左右対称に流れるテーバーアールを描きたかったんでしょうなあ。キモチは分かる----やンれ仕方ないねェ…この爺ィがなんとかしてやろう。

 まずは欠けたんだか欠いたんだかしちゃった箇所を、整形して平らに均します。
 ここに端材箱からちょうどいい大きさの唐木材のカケラを接着。元から接着の悪い唐木x唐木なうえ、最大幅3ミリくらいの極小部品の接着ですので。ここは当然、現代カガクの強力な接着剤を使います。製作当初には難しかったでしょうが、今ならカガクの力で、最少範囲での補修が可能ですものね。

 完全に固定されるのを待って、慎重に加工。ちょっと色味に違いはありますが、ほとんど周囲を傷つけずに整形完了。うんなるほど----キレイなフォルムですね。

 さてと、原作者のやり残しをまた一つ、片付けたところで。胴の組み立てに入りましょう。
 板ウラ面の補修と整形の終わった表板に、これもまた接着面や接合部を整形した側板を、きっちり並べて接着してゆきます。
 桐板のほうはともかく、側板は最恐の唐木といわれる鉄刀木。
 いつもよりも接着面をじっくり湿らせ、薄めに溶いたニカワをたっぷりふくませておきました。

 分解時には試行錯誤の痕だらけだった板ウラ…あれはあれで100年以上前の工作の痕でしたから、それなりに意義はあり、古寺の大工の悪戯書き並みには残してあげたい気もありましたが、楽器は道具ですからね……キレイに平らになりました。

 板および側板各部の接着部を徹底的に整形、接合部も噛合うよう整形した結果。きっちり合わせて組み立てると、どこかの接合部にスキマが出来るだろうことは分かってました----これは部材の経年変化によるものとかじゃなく、ほぼ原作者と庵主の工作精度と時代による道具の差ですね。
 再接着の際、側板の彫刻を見比べながら、後始末がもっともラクで、かつ見栄え上の不都合がもっともなさそうなところにスキマを持ってきています。

 四方の側板と表板がくっついたところで、できた2ミリのスキマに補材を詰め込みました。
 ここだと梅の幹が少し伸びたぐらいで済みます。
 この時点ではまだ側板同士は接着されてませんので、補材といっしょに微妙に調整しつつ順次接着し、胴側を輪につなげてゆきます。

 四方接合部のウラには補強用の小板も接着しておきます。いつも書いてるように、月琴の音はいかに胴体が「ちゃんとした箱」になっているか、で決まります----この四方の継ぎ目はとっても大切。ここが密着していて、全体が一本の輪になっているのが理想ですね。

 小板の接着面は、接合部の凸凹に合うよう微妙に削って調整してあります。
 胴材が接着の悪いタガヤサンなので、何かの拍子にはずれちゃわないか少し心配ですが、現状で出来うる限りのことはしておきましょう。

 数日後、接着を確認したところで、音の邪魔にならないよう、できるだけ薄く整形します。

 ハイ、これで胴体は、いちおう安定した「桶」の状態になりました。
 ここまで各部接着時に部材がズレないよう、また構造の支えとして仮にハメてただけだった内桁を接着しましょう。

 まあ、従前は割れてるわなんかつッこんであるわカパカパしてるわで、スゴい状態の内桁でしたが(前回報告参照)、破損部の修繕補強、板との接着面の調整、両端の補強調整……たかが孔の開いた厚さ1センチの細い桐板一枚に、けっこうな手間と苦労が詰め込まれております……ううう。なんせこの楽器の背骨みたいなものですからね、コレ。原作者が思ってた以上に重要な部品なのよ。

 唐物直想のごく浅いアーチトップの実現を狙った原作者により、内桁は真ん中が微妙にふくらみ、左右端にゆくほどすぼまったカタチになってますので、接着の際もより板に密着するよう、重さのかかるところをいくつにも分散しつつ、中央と左右で重量を変えるとかイロイロ苦労しましたが…かなり上手い具合にくっついてくれました。

 これで胴体構造はあらかた完成!
 裏板を閉じる前に、棹とのフイッティングをやってゆきますよ。ほれ----上左画像、内桁の孔のところなんかスッカスカでしょ?

 棹なかごと各部の孔との接触部を、削ったり、スキマを埋めたりしながら、棹の角度や傾きを調整し、月琴という楽器としてのレギュレーションに近づけてゆきます----とはいえ今回の楽器は、棹なかごが胴を貫通しているタイプですので、胴との接触部分がいつもより多く、しかも極端に長い----調整可能な範囲には限界がありますね。

 この棹は現状、表板がわにわずかにお辞儀したカタチとなっており、基部の棹背がわと胴側面の間は1ミリ近く開いてしまっています。

 仮に現状の接合部の形状に合わせた場合、棹はちゃんとマトモな月琴の定石通り背面に傾く設定となっているんですが、原作者の工作だと指板の先端部で10ミリ…1センチも傾いちゃいます(理想は3~5ミリ)。そのうえ、棹なかごがむやみに長いので、もしこれに合わせた場合には棹なかごの先端が表板ブチ破っちゃいますね。
 おそらくは試行錯誤中、まだ棹なかごが内桁までの長さだった段階では、この設定でピッタリきっかり収まってたんでしょうが、その後、あんにゃらもんにゃらして、棹なかごが胴を貫通するタイプに変更され……そしてこうなった、というところでしょうか。

 お尻の孔を限界まで削り、なんとか少しだけ背面がわに戻しましたが、できればあと1ミリくらい傾けたかったですね。
(つづく)


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