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痩蘭斎旧蔵月琴-依頼修理01(1)

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斗酒庵,縁ありて修理いたす の巻2025.10~ 痩蘭斎旧蔵月琴ー依頼修理01 (1)

STEP1 出所はおなじ

 さてもさてさて、縁とは奇なるものかな----(○年ぶり×回目)
 現在、修理報告連載中の01号と時ほぼ同じく、先年お亡くなりなられたさる先生のところで、未修理のまま収蔵されていた楽器のうちの1面が、めぐりめぐって庵主の許へとやってまいりました。

 あ----これは前にお話ししたウチの3面とは別口の依頼修理です。

 ※※※今期の修理作業、賑わってまいりました!※※※

 パッと見はかなりキレイ。

 みごとに景色のある、もっくもくの表板が目を引きますね。
 では頭から見てゆきましょう。

 まず蓮頭。

 ツゲで作った木地に、透かし彫りを施した唐木の薄板をはめ込んでいます。凝ってますね~。
 意匠は龍なんですが……雲龍、ですかね。かなりデザイン化されちゃってるのと、大陸の定則からちょっとはずれちゃってますんで、確定はできませんが。

 糸倉はやや厚めで、アールがきつめ。
 このへんの形状は国産月琴よりは唐物月琴に寄っています。

 うなじ部分は唐物に多い絶壁型ではなく、曲面でなだらかになってますが、続く棹背のラインは唐物寄りで、握りの中央部分がエグれているタイプです。
 糸巻は細く繊細な作りで黒檀製。握りが六角で溝が各面3本、凝ってますね。

 唐物月琴に似せて作られた倣製月琴という類に分類される楽器ですが、まあこのくらいになると、「大陸から輸入された月琴のコピー品」というよりは、「倣製月琴」から「国産月琴の定番」へと移行する中間的存在で「唐物月琴の影響が強い」楽器、といったところが正確でしょうか。

 馬喰町の菊芳・福島芳之助なんかも、初期にはこうしたスタイルの楽器を作ってますね。

 庵主が「倣製月琴」と呼んでいるのは、厳密には、流行当初大陸から輸入されたものを模倣・参考として、長崎などで作られていた楽器、つまりコピー品を指しますが、その後、そうした楽器がさらにコピーされ、さまざまな職種の作家(楽器屋とは限らない)がそれぞれの解釈で、零細的に、独自に製造していった楽器----それらもまた「唐物の影響を強く受けた」月琴という意味で「倣製月琴」としております。


 やがてこうした、「楽器」というよりは贅沢な「音の出る飾り物」として作られていた、高価で中間的な形状の「倣製月琴」は、「明清楽」というイベント音楽の大流行の中で、そのムーブメントを作り出した連山派の影響の強い関西の松派----松音斎・松琴斎や、渓派の祖・鏑木渓菴の自作楽器に影響を受けた石田不識、頼母木源七等の作り出した、糸倉・棹が細く、胴の薄い、国産月琴の定番的なスタイルに呑み込まれ、数を減らしてゆきますが…まあ実際には、月琴自体の流行期間がさほど長くなかったので、国産月琴が定型化した後も、こうした倣製月琴のスタイルの楽器をそのまま作り続けていた作家さんは、けっこういたようですがね。

 さて、楽器の観察に戻りましょう。

 ニラミ(胴左右の飾り)は「鳳凰」…つか「鸞」ですね。

 左のニラミ、最下部ツバサの先っちょがちょっと欠けちゃってますね、ここは要修理。材質は紫檀だと思います。

 国産月琴の数打ちモノに付いてるのは、左の天華斎のと同じような、シッポの飾り羽根が直線的になっているのが多いんですが、先っぽがくるりと優雅に巻いている凝った形状になってますね。

 ただ、意匠としてはより形骸化しており、画像としての情報を失いかけてはいます。たとえば、これが「鸞」なり「鳳凰」である場合、本来は片方が「笙」、もう片方が「笛」を咥えており、左右でわずかに意匠が異っているわけで。作家さんによっては全体の意匠は崩れていても、口元に「L」と「-」がそれぞれ咥えていたりするのですが、ここにはそういうのは見られません。吉祥の模様としての意味合いが薄れ、「カタチとしての美しさ」に傾いて行ってるわけですね。

 このように、蓮頭やニラミは意匠として「こんな感じのモノ」的なイメージになっちゃっているようですが、これに対して中央飾りは妙に具象的ですねえ。

 コウモリとモモ、ですか。

 コウモリ(蝙蝠)は中国語で「ピェンフー」、これは「遍福」と近い音。月琴の丸い胴体は「円銭(イェンチェン=穴あき硬貨)」に見立てられ、こちらは「眼前」と近音。で、今回の場合、そこに「桃(タオ)」が加わっているわけですね----いくつか考えられますが「蝙蝠円銭桃」で表わす意味は、「遍福眼前到(来てるよぉ!幸せのビックウェーブ!)」ですか?
 または、桃が「三多」の一つとして「多什」(物質的な豊かさ)の意味を持つことから、コウモリと合わせて「遍福多什」(しあわせいっぱいモノいっぱい)かもしれませんね。

 ここまでの蓮頭・ニラミ・中央飾りともに彫りは緻密で、材料もかなり良い唐木材が使われています。
 こういう中国風の意匠にも、あるていどは造詣があるようですから、作者はこういうのの得意な、煎茶趣味のお道具や文房具などとして使われる中国風家具を作る、唐木細工の指物職人さんとかだったかもしれませんね。

 側面には唐木の薄板が貼りまわされており、棹口のところで終始してます。
 この細工自体はほかの作家さんもやっていますが、この人の工作は唐木の特性を分かってやっており、かなり上手です。

 この部分も棹もお飾り類も、唐木で作られた部分には表面にウルシ塗りが施されているらしく、ツヤツヤしています。

 前所有者はこれに半音付きの全音階のフレットを付けて使おうとしたようですが----わたしは先生がこれを使ってるとこを見た記憶がありませんね。

 糸巻・山口・半月と、弦楽器として使用するうえで主要な部分がすべてそろっていたわりには、棹上のフレットは全部はずされてしまってますし、胴上のフレットも配置はやや雑…なんか再生作業を途中でやめて放置しちゃった感がありますね。見映え的はかなり良い楽器だと思いますが----なんでだったんでしょう?

 さらに観察を重ねてゆきましょう。

 棹を抜いて、なかごのところを見ます。

 ----うん、これは庵主が「よく知ってるけど分からない作家」さんの一人の楽器ですね。
 修理や資料でちょくちょく見かけ、同じ作者の作であることは確実なのだけれど、その作者がどこのなんという人なのか分からない…けっこうあるんですよ。

 唐木を贅沢に使用、装飾多し、倣製月琴----中でもこの、短く太めで断面のタテヨコの差が小さい、カッチリした形の棹なかごが、この作家さんの特徴です。あと、響き線が渦巻型なことが多いみたいですね。
 うちで過去に扱ったものだと、55号「お魚ちゃん」が同じ作家の作品だと思われます。

 55号のほかにも数件、同じ作者のものと思われる楽器を見かけたことがあるので、それなりの数を作ってる人だとは考えられるのですが。残念ながら今のところ、どこのなんという人なのかまでは突き止められていません。

 表板の材質は違うし、55号のほうが胴が数ミリ大きいのですが、画像ご覧のとおり、棹から糸倉にかけての形状、左画像のようにニラミもソックリですね----使用している木材の質や加工から、名古屋より西のヒトだとは思うんですけどねえ。
 この「55号お魚ちゃん」の記事も見てもらえば分かるとは思いますが、この人の作品は装飾を全面に施した豪華なものである一方、楽器としては多少問題がある場合が多いです。いわゆる典型的な「お飾り月琴」ですね。
 主構造には唐木材のかなり良質なものが多用され、加工・工作技術そのものも悪くはなく。いちおう楽器として使用できるように組まれてはいますが、たいていどこかしらに疑問・問題のある工作をやらかしています。
 カタチも構造も知っているのだけれど、楽器という「道具」としての「使われかた」がちゃんと分かっていない、という感じ----とはいえ実は、当時のけっこうな大手でも、同じような楽器の作り手は流行期にはおったわけですが。

 すでに触れたように、全体に状態はよろしい。

 前所有者の多フレット化工作の痕以外は、糸倉先端にちいさな補修痕があるほか、本体部分にはさして「損傷」と言えるようなものは見つかりません。

 ただ。
 まず気になりますのがこの裏板……なんか横に2本、桁の接着痕みたいのが浮き出てますよねえ。

 近接で見てみても、ニカワの残りなんかは見られないんですが、コレ、なんでしょう?
 聖骸布じゃないんだから、さすがに~聖なる内部構造が板を貫通して浮き出し~て見えてたりしてるわけじゃないですよねえ。

 次にナゾなのがこの半月。

 材質は黒檀。形としてはごくごく定番の板状半月形なんですが…
 コレ、やたらに低いんですよ。

 月琴の半月の高さは、だいたい9~10ミリ程度ですが。今回の楽器のはそれが7ミリほどしかありません。
 いえね、ここが低いということは弦高も低くなるので、この楽器的に、音質や操作性のためには良いことなんですよ。
 月琴のことをよく分からんで作っている作家さんの楽器は、弦高がむやみに高いことが多いので、修理楽器の性能向上のため、庵主はよくここの糸の出口のところに「ゲタ(スペーサ)」を噛ませたりすることが多いくらいですからね。

 しかし……言っちゃあ何ですが、過去に扱った楽器の例からして、この作家さんが 「うし!音が良くなるから半月を低く作ろう!」 なんてこと考えるとは、庵主、どうにも考えられないんですよ。

 このあたりも、とうぜん、ほかに何か理由がありそうでしかない。


 というところで、次回に続く----
(つづく)


痩蘭斎旧蔵月琴01 (4)

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斗酒庵,縁ありて修理いたす の巻2025.9~ 痩蘭斎旧蔵月琴01 (4)

STEP4 襤褸着一枚足る身とて

 さて、表裏板と側板の一次清掃内桁の補修補強も、響き線のお手入れもだいたい終わりましたので。
 いよいよ胴体を組み立てていきましょう。

 組立ての際の基準となる表板は、小板の接ぎ目からぱっくり二枚に割れちゃってます。ここまでは、マスキングテープで仮止めして使ってきましたが、まずはこれを一枚に戻しましょう。
 接ぎ面端っこのほうに、ごく軽微な虫食いがありましたが、割れた原因はこれではなく、劣悪な保存状態によって、ごく自然に剥離したもののようです。接ぎ面自体は、全体的にキレイな状態だったので、ちょっとした凸凹を桐塑で軽く埋め込んでから接ぎ直します----カモン!簡易接ぎ台くん・スーパーデラックス!

 まあ、いつもの、作業台の板にビニール袋かぶせて、クランプで角材固定しただけのやつですがね。

 作業中に数箇所、板の端のほうに小さな割れが見つかったので、このあたりは一枚に接ぎ直した後、ニカワを流し込んで順次補修しておきました。

 表板がしっかり一枚になったところで、ここに部品を接着してゆくわけですね。
 最初にくっつけるのは、棹口のある天の板からです。
 原作者による中心線や、そのほかの部品の接着位置を示すような目印も、あちこちについてはいますが、量産器だとこういうのに必ずしも信用がおけないので。すべてあらためて測り直した上で、最終的には仮組した際の実物合わせで、胴体と棹の中心線が合う、最適の位置を探ってゆきます。

 天の板が確実に固定されたところで、左右、そして最後に地の板と接着してゆきます。
 経年の歪みや狂いは、この地の板のところで消化するとしましょう。

 この場合、地の板左右の接合部を削ったり足したりして、寸法の辻褄を合わせるわけですが、今回はけっきょくぜんぶ合わせても1ミリほども削りませんでしたね。
 木肌も見えないくらい真っ黒で、部材ぜんぶバラッバラという劣悪な保存状態で、何十年か放置されていたにも関わらずですよ----量産機とはいえ、良く乾燥していて狂いの少ない木が使われてるようですし、作者もちゃんと木取りのできる良い腕の人だったみたいですよ。

 周縁部が組みあがったところで、つぎは内桁を組み込んでゆきましょう。

 とはいえ胴四方接合部の補強もあるんで、まずは上桁だけです。
 この楽器の内桁は、基本的には側板の内がわに接着しているだけという、もっとも単純な工作ですが、上桁の場合は響き線の基部とその反対がわにある木片に懸けるようにわたされており、いちおう木口とここに触れる部分の二方向から固定されるカタチにはなってます。のりしろはどちらもせまいものの、きちんと接着されていれば、そう簡単にはずれることもないでしょう。

 接着面にニカワを塗ります。このときメインの接着箇所となる木口面は吸い込みが良いので、接着前に薄めに溶いたニカワをじゅうぶん吸わせていちど完全に乾かし、ある程度の滲みみ止めをしておいたほうが、接着不良の心配がよりなくなって良いですよ。

 板との接着面にも、じゅうぶんにニカワをふくませ、クランプや当て木で固定して、スキマなく密着させます。
 「構造の要(かなめ)」と言っていい部品ですからね。
 外からは見えなくなるとこですが、それだけに逆に、見えなくっても大丈夫なくらい丁寧な仕事を心がけましょう。

 二三日置いて、上桁が完全に固定されたのを確認。
 続いて、胴四方の接合部の補強をします。
 この部分がしっかり接合されているかどうかも、この楽器の楽器としての基本性能に大きな影響があります。
 単純なハナシ、ここの接合にスキマがあればそこで音の伝導は止まっちゃうわけですから。4つの部材が密着して、1本の輪っかのようになっているのが理想なのです。
 庵主自作のウサ琴が、オリジナルの月琴にくらべ素材や寸法で分が悪いハズなのに、オリジナルの月琴よりデカい音でキレイに鳴る理由の一つも、この胴の側面部分が、ほぼモノコック構造、一枚板の輪っかで出来てるからなんですね。

 この楽器の側面接合部は、凸凹の組継ぎとなっています。ほかのメーカーのものだと、外側からはピッタリ組み合わさって見えるものの、内側がスカスカ、スキマだらけだったりしますが、今回はオリジナルの工作が良いのでスキマも少なく、いつもほどガッツリやらなくても大丈夫のようです。

 まずは接合部裏側を桐塑で埋め込み、小さなスキマをふさぎ、裏面の凸凹を均します。

 つぎに部材を渡るように、薄くて丈夫な和紙をニカワで重ね貼り、柿渋を塗って防虫・補強をしておきます。

 下桁は接着位置がちょうどこの接合部にかかるため、作業は接合部の補強作業終了待ちとなっております。

 こちらには上桁のような支えはないので、接着面となる左右端を、側面内壁の曲面に合わせて慎重に整形します。
 接着は上桁と同じ。クランプと当て木で、上からも軽く圧をかけつつ、定位置に固定します。

 ほぼ同時進行で、棹の組み立てとフィッティングも開始です。
 まずは指板の補作と接着。
 オリジナルの指板は、山口のあたりをネズミに食い荒らされてたのと、前使用者の魔改造により傷みが激しいので、手持ちの唐木板で新しいのを作ることとなりました。

 手持ちの材料にオリジナルに近いものがなかったので、紫檀から黒檀になっちゃいましたが、たぶんこの板のほうが質は若干高いと思いますよ。
 厚みをそろえてから、だいたいのカタチに切り抜き、各種テープと輪ゴムでふン縛り、固定して接着します。

 接着後、棹からハミ出た部分を削る…のですが……うん、このくびれたところが難しいですねえ。ハマグリ(根付なんか作る時のヤスリ)があって本当によかった。

 まずまずキレイに仕上がりました。

 次に棹なかご、延長材を接着すれば棹は完成、なんですが。
 前使用者はどうやら棹と胴の水平面を面一に----つまり胴から竿先までを平らかまっつぐにしたかったらしく、棹基部や延長材に数多くのスペーサを接着して調整しています。

 庵主としましてはとりあえず、ここらを製造当初のカタチに戻し、原作段階での設定がどのようなものであったのかを調べてから、再度調整を考えてみようと思います。まずはこの、ゴテゴテへっつけられた薄板はぜんぶひっぺがしちゃいましょうね!!

 スペーサをぜんぶハガしたところ、延長材の先端に前使用者が削ったヘコミとかも見つかりました。削って足してと…お忙しいことですなあ。ここは樹脂と木粉のパテで埋めて、加工前のラインを復活させておきましょう。

 こうしてスペーサをハガしエグレを埋めた状態で、仮組みして測ってみますと、原作者による元々の設定は、棹なかごの上面(表板がわ)が表板とほぼ平行、棹本体は山口のあたりで3~5ミリ、背がわに傾くという、この楽器の理想値にほぼ近いものだったことが分かります。

 前使用者に棹基部(胴体と触れる部分)も少し削られちゃってるようなんで、この後も微調整は必要ですが、とりあえずはこのまま組み立てて問題ないようですね。
 棹と延長材にマスキングテープを貼って目印をつけ、新しく中心線を出してから、これに合わせた位置で接着・固定します。

 棹がととのったところで、胴体側の棹口と内桁の孔を棹なかごに合わせて調整・加工。また、棹口に原作段階の加工不良によるヘコミが見つかったので、ここもパテ埋めしておきます----こういう小さなところをきちんとしとかないと、この後の調整に支障が出ますからね。

 ううむ、こうして見てきますと今回の「修理」、どうやら庵主の仕事は基本的に、前使用者の「やらかし」を是正して、楽器を「原作状態に戻す」ことになっちゃうみたいですねえ。

 では、今回はこのへんで----
(つづく)


今年最後の月琴WS@銀狐!2025年12月!!!

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斗酒庵 WS告知 の巻月琴WS@銀狐! 2025年師走!!!


*こくちというもの-月琴WS@銀狐 12月のお知らせ-*

 
…今年も暮れましたねえ。

12月の月琴WS@銀狐は、20日(土)。
いつもより30分遅い17:00からの開催となります!


 会場は台東区下谷・小野照崎神社(通称・小野照さん)のお隣、「銀狐」さん。
 最寄駅はJR「鶯谷」もしくは地下鉄日比谷線「入谷」となりまあす。

 前とかわらず、参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに Drink or Food のオーダーお願いいたします。
 ほぼ銀狐さんの通常営業にまぎれての、酔いどれ飲み会WS。

 予約は特に不要、参加自由、途中退席自由。
 楽器は余分に持っていきますので、手ブラでのご参加もお気軽に~~~!

 初心者、未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい、弾いてみたい方はぜひどうぞ。


 うちは基本、楽器お触り自由。
 絶滅楽器「清楽月琴」なんてぇものに触れられるエエ機会。
 1曲弾けるようになっていってください!



 依頼修理の月琴、痩蘭斎01唐木屋。
 ともに修理報告は執筆中なれど、修理は完了いたしました。

 唐木屋のほうはお嫁入り先募集中です。
 流行時の量産数打ち品ですが、唐木屋さんは当時、けっこうな大手で老舗なんで、材質も職工さんの腕も良い。
 そのうえ原作の手抜き部分は、前使用者の魔改造部分を是正するついでに、庵主怒りの大修整を施してますんで、たぶんオリジナルより良く鳴ってると思われます。

 ぜひこの機会にWSで飲み…いや弾いて試してみてくださいね~。

痩蘭斎旧蔵月琴01 (3)

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斗酒庵,縁ありて修理いたす の巻2025.9~ 痩蘭斎旧蔵月琴01 (3)

STEP3 雨風好きで吹くではないも

 部材の一次クリーニングも完了。
 ヨゴレにまみれて見えなかった楽器の詳細が、いろいろと分かってまいりました。
 ということで、今回はここでフィールドノート公開!

 (画像はクリックで別窓拡大)
 いつもですと、バラバラにしてから描きあげるものですが、なにせ今回は、スタートからしてすでにバラバラな状態だったもので(www)
 バラバラじゃなかった状態が分からないのですから、今回の場合は逆に、これが「完成予想図」みたいなものにもなるわけですねえ。

 さて、情報があるていどまとめられたところで、今期の楽器修理作業開始とまいりましょう!

 まずはいちばん見た目がヒドいことになっている、糸倉からいきましょうかね。
 ----っと、その前に。
 指板がハガレかけてます。
 これをハガしちゃわないと、糸倉側部の損傷個所に直接アクセスできませんし、棹本体と材質が違うので、取り付けたままだと修理が無駄に複雑になります。これは取り外して……ほとんど接着がトンじゃってましたので、ちょっと濡らして引っ張ったら、いとも簡単にハガれちゃいましたねえ。

 厚さ2ミリないほどの薄板で、丈夫な唐木製(紫檀)。直して直せないものではないのですが。ネズミの食害に加え、前使用者による魔改造(山口取付け部の削り下げ、フレットの追加)によってもかなり傷んでいますので、ここはあとで新しいのをこさえて、付けかえてあげましょう。

 あらためてさて、糸倉はあちこち見た目派手にネズミに齧られてはいますが。それぞれの損傷個所はどこも、部材の強度に問題がでるほどではないため、回復の方法が悩ましいところです。

 というのも----齧られた部分を均して木片を接着・整形してゆく、というのが真っ当な手法でありましょうが。今回のこれは、単純に割れたとか欠けたものではなく、意志のある動物によってかなり複雑に齧られています。こうしたところをキレイに「均す」となると、けっこう深く削る必要があり。そうすると、場所によってはむしろ、修理のせいで強度に不安が生じちゃう、という事態にもなりかねないので。

 現状、強度に不安はないわけですから。
 言っちゃえばこれはほぼ「見栄え」だけの問題。とすれば手段はともかく、外見だけ回復させちゃえば良いわけですな----というわけで。

 パテ埋めしちゃいましょう。

 棹と胴側の材はおそらくサクラ
 まずはこれに近い質と色合いの木粉を骨材にして、エポキで練り、パテを作ります。

 齧られている場所は、だいたい角っこにあたるところなので、ただ漫然と盛っただけだと、パテが自重で垂れたりつぶれてしまいます。

 なによりも回復させたい場所、フォルムのかなめがその「角っこ」のところなのですから。まずはパテを大盛り、損傷個所からあふれるくらい盛ったところで、平らな面にクリアフォルダの切れ端をかぶせ、「壁」を作ります。壁の上から木片や板で押えて、周囲の平面と同じ高さに均したら、木片を当てたままの状態で、開いてる部分からさらにパテ追加。ぎゅうぎゅうに詰め込んだうえ、さらに盛り上げておきます。

 広範囲な箇所、あるいは逆に小さいけれど深い箇所等には、パテ盛りの前に数箇所、ごく浅い小孔を彫りこみ、エタノをしませておくと、パテの食いつきがよくなって以降の作業がラクになりますよ。

 またエポキは「10分硬化」のものでも「90分硬化」のものでも、完全に硬化するまでにはけっこうかかります(「○分硬化」というのは、あくまで「次の作業が可能になるまでの時間」と思うべきです)。
 異物も混ぜてるので、ここはしっかり時間をかけて、一晩以上は置いておきましょう。

 かっちり固まってるのを確認し、整形作業に入ります。
 角をしっかり出すため、手指で直接ではなく、作業箇所のカタチに合わせ、いろんな木片にペーパーを貼った各種の当て木を駆使します。

 曲面になっている前面部分なんかには、竹を割ったのにペーパー貼ったのがちょうどよかったですね。

 パテ盛り部分は、削りすぎてもやりなおしが効きますが、周辺オリジナル部分への被害はなるべく抑えたいので、一発勝負だと思って慎重に削ってゆきます----これで補修部分だけうまく補彩してしまえば、ピンポイントでぶつけて欠けでもしないかぎり、そうは分からんでしょう。

 さて、次は量産楽器では手を抜かれがちな内部構造----内桁の補修へとまいります。

 ではまず上桁から----うん、ヒドいですね。

 まずなんすかこの音孔?----左右非対称なうえにラインはへにょへにょ。
 さらに片方は端に小孔をあけ、そこからまっとうに切り抜いてますが、面倒くさくなったのか、もう一方は木口から鋸を入れ、直接ぐるりと回し切っちゃってますね。
 なんとも乱暴な工作ですが…外から見えないところとはいえ、ここはこの楽器の背骨とか腰骨みたいな重要な箇所。前に見た同様の例では、この切れ目のとこからズレて板が歪み、胴構造の全体に及ぶ故障の原因になったりしてたこともしています。
 そもそもこの板、楽器上方向に向かって、わずかですが反り上っちゃってますね…板についている接着痕はまっすぐなので、これはたぶん材質と、長年分解状態で放置された結果だとは思いますが。
 ともあれこの板反りに関してはわずかなものでもあり、現状ほぼ安定しているみたいなので、原作者によるそのほかのやらかしの尻拭いをいろいろとやってゆきましょう。

 まず、切れちゃってる端の部分は、薄く削った板に接着剤と木粉まぶしたのを押しこんでつないでおきます。

 またこの板、さらに片面は多少なめらかに加工されているのですが。もう片面はほぼ荒板状態のままなうえ、木目と加工の関係で毛羽立ったり、エグレちゃったりしている部分もあります…ひでえ板だなあ。おそらく反ったのもここの質的な違いが原因でしょう。
 ただ毛羽立ってるようなところはペーパーで均し、エグれてたり質的にヤバそうな箇所は、木粉パテで埋め込んで、補強を兼ねた補修・整形をしておきましょう。

 この楽器の内桁は、上桁はヒノキ、下桁はでできてます。なぜわざわざ違う木材を使ったのかは意図不明ですが、以前にも書いたように、この楽器にとって、下桁はもともとなくてもいい盲腸的部品なので、取付の工作や材質で手を抜かれがちではありますね。
 その松板の下桁は、ちょっと面白い(修理者的には面白くない)状態になってます。

 表板がわの中央が大きくエグられています。
 どうやら陰月(半月裏にあけられる小孔)を焼き貫き加工で穿ったらしいんですが、それがちょうど見事に下桁を貫いたんですね。

 しかもこの孔あけ行為、なぜかぜんぶで3回も行われています。
 そのうち2回は、焼き棒がそれぞれやや左右に傾けて入れられた模様。この2回だけでも下桁に当たったことが分かったでしょうに、もう1回。こんどはちょっと上にずれた位置に穿ってますが、これも下桁をわずかにかすってますね。
 以前から書いてるように、便宜上「陰月(琵琶用語)」と呼んでいる、この表板の、半月のポケットになってる部分に穿たれる小さな孔は、中国の月琴などにはない工作で、虫やほこりが楽器内部に侵入する経路にもなるため、どちらかといえば迷惑でしかない工作であります。日本製の月琴でもついてないこともあるので、絶対必要な工作というわけでもなかったでしょうに、こやつはまるで取り憑かれたかのように穴あけようとしてますね----なんでしょう、なんか根性焼きとかタマシイを入れる、みたいな呪術的意味合いでもあるのかな?

 さすがに老舗の唐木屋ともあろうものが、下手をすれば外からでも分かるこんな場所で、ここまで稚拙な工作をするとは思えないですので、魔改造厨の前使用者のシワザとしたいところですが……下桁は月琴の楽器史からすると盲腸的な部品であるとはいえ、現状半月からの力を受けることになる、いちばん大切な中央部分が、薄皮一枚みたいな状態になってしまっているので、ここはもちろんなんとかせにゃならんでしょう。

 綾鼓状のエグレに合わせて木片を削り、木粉パテといっしょに押し込みます。
 埋め木の接着が確認されたところで整形。

 補修箇所が固まったところで。
 上桁も下桁も、音孔をちゃんとしたカタチに整形しときましょう。

 実のところこの「音孔」。
 この楽器の場合、どうなっていても---極端なハナシ、無かったとしても---音響上の影響はさほどない部分なのではありますが。まあ、キレイにしといて無駄ということはないでしょうよ。
 かなり広げましたが、ここの強度的な限界は、庵主、ウサ琴の製作で分かってますんでだいじょうぶ。

 表板のほうの孔も埋めてしまいますね。

 まあもともと、あいてなくても困らない(むしろないほうが楽器のメンテ的に有難い)穴ですので。

 では、今回はこのへんで----
(つづく)


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