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痩蘭斎旧蔵月琴-依頼修理01(2)

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斗酒庵,縁ありて修理いたす の巻2025.10~ 痩蘭斎旧蔵月琴ー依頼修理01 (2)

STEP2 とんで王柏

 棹孔から確認したところ、幸いにもこの楽器の内部はキレイで内桁や響き線に、現状修理補修の必要な箇所は確認できませんでした。

 側面に唐木の薄板を貼りまわしたこのタイプの楽器は、完全分解となるとエラい大工事になるので、ありがたいところです。

 上左画像、内部棹孔のすぐ右に見えてるのが響き線の基部。

 全容は見えませんが、響き線の形状はおそらく渦巻型で、ここから上桁にぶら下がるように取付けられ、根元の部分が棹なかごの先端と一部接触しているようです。
 棹なかごの延長材側面に、釘が2本打ちこまれてましたが、これはたぶん、この響き線との接触による金属的な余韻の効果を増すための工夫だと思われますね。(実際の効果のほどは未詳)


 だいたいの調査計測が終わったので、さっそく修理してゆきましょう。

 まずは例によって、現在へっついてる余計なものを、ぜんぶひっぺがします。

 指板上のフレット痕は最近のもので、おそらく木工ボンド。少しでも残ると後々ニカワでの接着に支障がありますので、刃物や歯ブラシ、スポンジやすりで丁寧に除去します。

 胴体も同様に、ニラミや中央飾り、後補のフレット、バチ皮を除去してゆきますが、表板がいかにも暴れそうなもっくもくの板目杢板ですので、どれもできるだけ短時間で、湿らせる範囲もなるたけ最少限としときたいところですね。
 ニラミはある程度浮いてきたら、クリアフォルダを細長く切ったものをスキマに挿しこんで挽き切りました。

 右がわのニラミが、挽き切ったら二枚に分かれちゃいましたが、この程度で済んだなら無問題です。
 半月は接着に浮きもなく、状態も悪くないので、このままとしましょう。

 作業箇所が乾いたところで、胴体表裏板の清掃にかかります。

 まずは側面をマスキング。
 この作業も、あんまり湿らせたくないので、擦っては拭い、擦っては拭いで、ふだんより格段素早くやってゆきます。

 まあ元があまりひどくはヨゴレてなかったので、今回は清掃というより、フレットや小飾りの脱着により変色したりシミになっている、過去の作業痕を補彩するような意味合いのほうが強いかもしれません。

 左のニラミが接着されてた部分に、そこそこ大きな補修痕がありますね。板表面がめくれたように割れたものでしょう。木目の入込んだ板なので、何もなくてもある日突然このくらいのことが生じても不思議ではありませんが、ニカワで補修してあるので、おそらくは最初の使用者か、原作段階での補修と思われます。

 さて、こうして濡らしてみると、ふつうは見えてくるはずの使用痕が、今回の場合はまったく見つかりません。

 黒っぽくなってるところはだいたい木目の関係、節の部分なんかですね----バチ先で突いた痕も、擦ったりひっかいたような筋傷も、どこにもありません。
 そもそもヨゴレ具合が、板のどこでもほぼ均等です。
 ふつうに使っていれば、手の当たる半月の横とか、胴の両肩とかに、黒ずんだ手垢くらいつくものですが………

 つまり、この楽器には「楽器として用いられたことがほとんどない」可能性があるというわけです。

 月琴は見めの良い楽器なので、同じ支那趣味として同時代に流行った、煎茶事のしつらいとして、お飾り的に使われることもありましたし、この作者の楽器にはそういうお飾り月琴の傾向も確かにありはするのですが。
 時折、なんらかの理由があって、そもそも「お飾りにしかならなかった」というようなケースもありはするので、早計には結論付けられません。
 とりあえず、いまのところ、楽器として使用するのに致命的な損傷・故障、工作不良の類は見受けられませんので、このあと、その理由につながる何らかの発見があることに期待します。

 表裏板が乾くまでの間に、お飾り等の補修をやってゆきましょう。
 まずは二つに割れちゃった右のニラミ。

 木目に沿ってパックリ逝っただけ、割れ目もキレイですし、これは比較的簡単に直りますね。

 左のニラミは下部先端、羽根の先っちょが欠損してしまっています。
 右のと重ねてみますね----

 ----この部分がなくなってるわけです。
 端材箱から似た色味の紫檀材を見つけ出し、右のニラミを参考に切り出して接着します。

 こんな感じですかね。接着剤が固まったところで、表面を磨いて完成です。

 左右ともに裏から薄い和紙を貼り、樹脂を浸透させて、補修した箇所を補強しておきます。この部分は軽くペーパーがけをして荒らしておけば、ニカワによる接着でも支障はありません。

 胴や指板に残る痕跡から、おそらく本器には、55号同様フレットの間に凍石の小飾りが付き、5・6フレット間には扇飾りが貼られていたはずですが、前所有者が半音刻みにする段階かそれ以前に、それらの飾りは除去されてしまったようです。

 今回、小飾りについては現物が一つも残っておらず、痕跡も薄いことから推測が難しいため諦めますが、扇飾りは補作しようと思っております。
 なお、現オーナーさんより、10フレット化の御希望を承っておりますので、補作する扇飾りは、内側にフレットを立てられる10フレット仕様のデザインでいきますね。

 第一回で述べたように、この楽器の半月は低い。

 いや、演奏する側としてみれば、それ自体は操作性が良くなるので有難いんですが。
 この原作者の他作品における行状から、おそらくこの低さは、そうした「操作性の向上」以外の目的でもってなされたモノと、庵主は確信しております。
 そこで過去資料をいろいろと精査してみると、どうやらこの半月の上面には、もともと透かし彫りの飾りが付けられていたらしいことが分かってきました----この飾り板の厚みぶん、半月本体の厚みを低くしたわけですね----うん、やっぱりこのヒトが操作性とか考えてやるワケがないよねえ。

 半月上面に同様の飾り板を貼った例は、老天華や玉華斎など福州の作家にも例があり、意匠は「海上楼閣(蜃気楼)」をモチーフとしたものが多くなっています。
 もとの図像がけっこうデザイン化されていたのもあって、日本の作家さんの多くは、その意匠の意味がよく分からなかったらしく、やがては右の画像のように、フォルムをさらに単純化した唐草文様のようなものにしてしまいました。
 55号では、装飾自体はなくなっていたものの、半月上面にその接着痕がべっとりと残っていました。本器の場合、前使用者か古物屋により、半月の上面がきれいに磨かれてしまっていたので、オリジナルの装飾の形の手掛かりとなるような痕跡は認められませんでしたが、過去にネオクで出品された、同じ作家によると思われる楽器の画像の一つに、該当の装飾が残っている例があったので、それを参考に、今回はここの装飾を復元してみようと思います。

 扇飾りと同時進行で作っていきますねえ。

 まず材料は桐板です。
 オリジナルはたぶん、扇飾りは紫檀、半月の装飾はツゲあたりで作られていたと思いますが、材料が高いし硬いので作るのがタイヘンですし、ウチにはそれ用の工具もありません。それに桐なら基本表裏板と同材、あんまり音の邪魔になりにくいですから。

 半月の装飾は、まず参考となる楽器の画像を実物大に拡大、それをトレーシングして板に写します。
 つぎに薄くて丈夫な和紙を、でんぷん糊で板の裏面に接着。割れ止めをしときましょう----細かい作業になりますからね。

 そしてトレーシングされた図柄の、貫く予定のところ----背景に当たる部分を彫り下げてゆきます。この時点でズボッと貫いちゃうと、細かいところが、間違いなく欠けたり割れたりしちゃいますので、ここでは輪郭外周を彫り下げるだけです。なお、彫りこみがもっとも細かくなる唐草の先端、渦巻になっている部分の中心には、あらかじめピンバイスで孔をあけておきました。

 うーん、お祭りのカタヌキ感がハンパねぇ。
 すべての背景部分をギリギリまで薄く彫り下げたら、樹脂を浸透させて固めます。

 樹脂が固まったところで、半月の飾りは下縁部を切り落とし、実器に当てながら実物合わせで輪郭を微調整。半月上面の輪郭に合ったところで、縁をななめに削り落とし、内側を抜いてゆきます……ちちち、しくじった。中心部分がちょっと大きすぎましたね。このままだと内がわの糸孔を塞いでしまいます。せっかくここまで削ったモノですが、

 こうしましょ----ていッ!

 ばっさりこんとな。
 糸孔にかからないよう、リデザインした板をへっつけ、彫り直しました。

 ここまでも、ちょっと彫ったり削っては度毎樹脂を染ませてますんで、この時点ですでに、工作時の感触が桐板のなんかソレじゃないふうになってます。上左画像なぞ、そぎ落とした縁のところをヤスリやリューターでゴリゴリ削ってキレイにしてるんですが、ただの桐板だったら、ボロボロに崩れちゃうとこでしょうねえ。
 細かいとこまでだいたい彫りあがったので、全体をヤシャブシと砥粉で軽く染め、さらに樹脂掛けして固め、磨いてゆきます。


 触った感じも色つやも、桐板とは思えない風に仕上がりましたね----ツゲには見えませんが、それに近い何か?…みたいな----なぜか虎杢っぽいテカリも出てますし、かなり良い感じ、ヨシヨシです。


 扇飾りのほうも同様に、削っては樹脂で固めながらで。
 画像だと分からないかもしれませんが、このコウモリさん、胴体のところ、タカアシグモの胴体と同じくらいの大きさですからね(w)
 同形のフレットは自作楽器のウサ琴シリーズでも作りましたが、翼の間の空間に追加のフレットを抱え込むようなカタチになるんですね。
 こちらはスオウ染め、オハグロがけで黒染めです。
(つづく)


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