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痩蘭斎旧蔵月琴01 (5)

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斗酒庵,縁ありて修理いたす の巻2025.9~ 痩蘭斎旧蔵月琴01 (6)

STEP6 かすかに香る菊と蘭

 さあて、痩蘭斎旧蔵月琴、推定作者:唐木屋あらため松琴斎。
 修理も終盤となってまいりました!


 まずは半月をあらかじめ確認しておいた正位置---楽器の現在の中心線に沿った位置---に接着しました。
 これが原作者の設定したもとの場所から微妙にずれてる原因については、長期バラバラになっていた影響なのか、庵主の組み立てのせいか、あるいは元からそうだったのかはけっきょく分かりませんでしたが、流行期の日本の月琴は多分にいいかげんな作りのものが多いので、このくらいのズレならさほど問題ではありません。
 大陸のものなんかだと、棹が見て分かるレベルでへにゃ曲がって取り付けられていたような例もありましたからね。

 胴が桶状態のうちに、棹の角度調整もあらかた済ませており、現状この楽器の棹は、胴オモテの水平面に対し、指板の先端、山口のあたりで5ミリほど背面側に傾いております。やや雑だった胴体の棹孔や、棹の基部も薄板や樹脂等で修整・補強してありますので、ガタつきもなく、スルピタでおさまるようにしてあります。

 では完成に向けて。足りないものをイロイロとこさえてまいりましょう。
 まずは蓮頭----糸倉のてっぺんにつく飾り板ですね。


 本器は痩蘭斎旧蔵月琴の修理の第一号となりましたので、ちょっと象徴的なデザインにしようと思います。
 材料の板はカツラ。
 ホオとともに版画や彫刻でよく使われる木ですが、繊細な意匠を彫りこみたいとき、庵主はホオよりこっちを選ぶことが多いですね。
 と、木彫はじめるその前に----

 凍石で二つばかり作っておきたいモノがあります。
 これらは----

 ----こんな感じに付く予定です。

 蓮頭の飾りに凍石を埋め込むのは、庵主ときどきやってますが。モロい材料なので、あんまりこまかかったり細かったりするフォルムは作れないんですが……けっこう強度限界に近いとこまで削りましたねえ。

 今回は陽刻で木地は背景部分を彫り下げるだけ、意匠が複雑すぎて強度不足になる懸念があるため、透かし貫きはしません。
 さあて彫れ彫れどんど彫れ!!

 無地の背景部分をぜんぶ彫り下げたところで、花の内がわを軽く彫りこみます。葉や茎の部分は基本的にシルエット設定なので、前後関係等は強調しません。そして、全体の絵柄が彫りあがったところで、最初に作った凍石のお飾りを埋め込むため、いちど彫りあげた絵柄の一部を破壊します……ううう、なんかキツいけどしょうがないなあ。

 ここでスオウで染めつけ、オハグロで軽く重ね染め。
 今回は、あまり黒くなく、棹や糸倉とあまり変わらないくらいの色合いにとどめます。
 染まったところで凍石を接着。

 強度の関係で、二つともかなり厚めに作ってあります。接着剤が固まったところで、これを薄く削り落とし、表面を彫りこみます。もともとハンコの材料なので、けっこう細かい彫りこみが可能です。

 最後に、凍石飾り周辺のモールドを少し修整して、「幽菊痩蘭図」完成です!

 続いて糸巻。

 オリジナルのものと思われる糸巻が2本残っていたのですが、けっこうネズミに齧られちゃってたのと、使用により先端もかなり消耗しており、いちおう修復はしたものの「使えるっちゃあ使えるけど…」くらいな状態です。

 うむしょうがない。
 ウチの修理は文化財としての復元ではなく「楽器としての再生」が主眼。次の使用者がストレスなく演奏できなきゃ意味がありません。
 新しく1セット削りましょう。

 材料は例によって百均のめん棒。いろんなお店で売っており、材料も白楊やヤナギの類から集積材まで様々ですが、これはブナ・ナラの類で出来てるやつ。カシの仲間ですから硬さは問題なし。
 ----まあ、「硬い」ということは、削るのもずいぶんタイヘンなわけですが(w)

 二日かけて4本、削り上げました。
 今回は実用楽器っぽく、装飾はナシ。

 ドングリの仲間は硬いけれど、パサパサしてて比較的モロいところがあります。樹脂を浸透させて補強し、ステインで染めてカシューで保護塗り。材としては丈夫なんですが、木目が入込んでいるものが多いので、時間のかかる伝統技法で染めると、作業中に歪んだり曲がったりしちゃいますので、比較的負担の少ない現代のモノを使っちゃいます。

 フレットも実用性重視、竹でいきます。

 オリジナルは牛骨か象牙だったかと思いますね。
 竹は入手が簡単ですし、加工もラクなので、できるのは早いんですが。
 ウチの場合、これをさらに染めたり磨いたりしているので、じつのところ、かかってる手間は、牛骨や唐木で作った場合とさほどかわりがありませんね。

 前使用者は、二箇所ほど追加のフレットを付けて使っていたようですが、原作者によるオリジナルの目印をもとに、フレットを配置した場合の音階は-----

開放
4C4D+24E-274F4G+444A+265C+275D+305F+29
4G4A+74B-325C5D+175E+105G+155A+135C+14

 ----となります。第5フレット以降の高音域で、やや乱れはありますが、これはおそらくオリジナルは弦高が高く、逆にフレットが低すぎて、このあたりでは糸をかなり押し込まないと音が出せなかったからでしょうね。とはいえ最高音(最低音の3オクターブ上)のところではだいたいピッチがあっており、清楽音階の定石どおり開放からの第3音もちゃんと低くなっています。

 オリジナルの音階の調査計測が終わったところで、西洋音階準拠に配置し直し、接着します。


 庵主は操作性向上のため、半月にゲタ(※右画像参照)を噛ませるなどして弦高を下げたうえ、各フレットをギリギリの高さで調整してますので、弦をぎゅっと押し込まなくても、軽く押えるぐらいで発音されるようにしてあります。
 西洋音階で並べると、オリジナルでは胴体の端に配置されていた第4フレットが、棹の上に移動しました。関東と関西の楽器を比べるとき、その相違の一つになっていることの多いのが、この第4フレットが「棹の上にある(関東)」「胴体端にある(関西)」かってとこなんですが。
 今回の報告で何度か書いたように、この楽器は関西で作られたものであるにもかかわらず、棹の形状や寸法が関東の楽器に近いものとなっています。これまで修理してきた松音斎・松琴斎の楽器は、関西方面での伝統的な設定に、かなり忠実に準拠したものばかりだったので、これはちょっと珍しい例ですね。

 各部を補彩してゆきます。

 糸倉はネズミに齧られた箇所がけっこう目立っちゃうので、やや濃いめに。
 ほかはスオウで軽く染め直してから、柿渋と亜麻仁油を染ませ、ロウ磨き----元がヨゴレて真っ黒くろだったとは思えないくらいキレイに仕上がりました。

 ニラミと扇飾りを戻し、バチ布を貼って。
 原作者変更(w)のため、急遽作り直したラベル類を貼りつけ、


 2025年11月21日。
 痩蘭斎旧蔵月琴01、推定原作者:松琴斎。
 修理完了いたしました。

 組み立てて撮影できないくらいバラバラになってたんで、「修理前全景」はありません。(W)

 代わりに、原状をまとめたフィールドノート、再掲しときますね。(※下画像クリックで別窓拡大※)

 糸巻が損耗してたり、表板に無数の使用痕が残っていたことからも、元からかなり使い込まれた楽器であったことは疑いありません。


 今回はほんとに「再生」と言って良い壊れ具合からの復活でしたが、やはり使い込まれた楽器は音が良いですね。
 オリジナルのすべての部品が、「音を出す」ということを良く分かっている、みたいな感じ。

 構造や形状がほとんど同じな唐木屋の楽器同様、操作性にクセがなく、万人向けな使いやすい楽器です。

 響き線も、このサイズにしては胴鳴りの少ないほうですし、より範囲広めで効果を発揮できるよう調整しときましたから、多少演奏姿勢が崩れても、そこそこきれいな余韻を響かせてくれると思います。内部構造や各部の接合の工作・加工精度をかなり上げ、音が漏れなく全体に伝わるようにしてあるので、音の胴体部分も太目になりましたしね。

 音色にさほどクセがないので、「個性と個性のせめぎあい」みたいなことを望む演者には不向きでしょうが、この音で自分の望む音楽を実現したいような方、これをあくまで実用品、音を出すための「道具」として必要とするかたにとっては、格好の相棒となってくれるでしょう。

 現在、お嫁入り先、絶賛募集中です。
(おわり)


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