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痩蘭斎旧蔵月琴-依頼修理01(4)

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斗酒庵,縁ありて修理いたす の巻2025.10~ 痩蘭斎旧蔵月琴ー依頼修理01 (4)

STEP4 アポロチョコが月面に着陸するころ

 さて、第2回でも触れたように。
 今回の楽器は同じ作者の55号「お魚ちゃん」同様、本来は柱間に凍石の小飾りの付いた、お飾り満艦飾な月琴であったものと想像されます。

 [※上画像55号詳細、クリックで別窓拡大※]

 痩蘭斎先生はフレットを半音刻みに配置して使ってましたので、追加のフレットをつける関係上、こうした小飾り類は除去・廃棄されてしまったものでしょう。
 改造前の楽器の資料はなく、前の回にも触れたように、このフレット追加の作業等の影響で、元の装飾の形状は痕跡からも推測が出来ないため、今回の修理では「お飾り満艦飾」にはしてあげられませんが、この高級楽器の材質と、きれいな工作にふさわしい「実用的な」装飾を施しましょう。

 今回のフレット、ちょっと凝らせてもらいますよ。

 主材はタガヤサン。漢字で「鉄刀木」と書くくらいで、唐木の中でも最凶(注:間違いではない)と云うくらい硬い木ですが、意外と擦れにはモロいので、弦に触れる部分にツゲを貼って、可愛い二色コンバーチブルに仕立てます。

 主部に使用する材はウサ琴で指板に使ったりしたのと同じ、むかし銘木屋さんからもらった端材板ですが、これ単体だと厚みが少々足りないので、細く切った二枚を重ねて接着します。
 タガヤサンは暴れる事でも有名(だから「最凶」)な木ですが、こうして木目を工夫して合わせると、このくらいの小物でも狂いが少なく、安定するはずです。

 二枚合わせにした細板を整形し、上面にツゲの板を接着してゆきます。これだけでもそれぞれ1~2日くらいかかってますからね。手間はそれなり。

 フレットの形に削ると、なんかチョコ菓子みたいですね。カワイイ(W)

 さあて、素体の数がそろったところで、どんどんフレットをこさえてゆきますよ。

 数日かけて、まずは8枚。

 これをオリジナルの指示線やフレット痕に置いて、まずオリジナルの音階を測定します。

 今回は、前使用者の接着痕等をキレイに清掃したら、原作者による指示線等がかなりはっきり見えるようになりましたので、フレットの原配置はそこそこ正確かと思います。
 オリジナルのフレット配置による音階は----

開放
4C4D+124E-474F+84G+14A+235C+245D+285F+40
4G4A+164B-465C5D-75E+145G+75A+185C+9

 開放からの第3音がかなり低めで、最終フレットあたりが少し怪しげですが、その他に関してはそこそこそろっているかと。特に低音>高音の音合わせで使う第4フレットがかなり正確に合っているんですが。前述のとおり、この楽器は製作当初、調弦がちゃんとできるような状態じゃなかったはずなので、偶然じゃなければ、原作者の使ったスケールの型紙とかが、よほど正確だったのだと思います。

 並行で作業中の、コウモリの扇飾りが仕上がってきたところで、追加の2枚(高音F、高音B)を削ります。

 さらに全体を微調整をして樹脂をしませ、ツゲの笠木部分はヤシャブシで染めて、ラックニスを擦りこんでツヤ出し。亜麻仁油やロウで磨いて仕上げます。

 オモテ面から見ると、黄色いツゲか竹製の、比較的地味なフレットにしか見えないんですが、演奏者からは縞目つきツートンカラーがバッチリ眺められます----こういうのも、着物の裏地にこだわる江戸ッ子好みみたいで素敵じゃあないですか?

 西洋音階準拠の配置に並べ直し、接着します。
 タガヤサンは接着性も良くないほうなので、いつもより接着面をしっかり荒らし、ニカワを染ませておくのが大事ですね。

 お飾り類を接着します。
 補作した半月の装飾からいきましょうかね。まずは下地となる半月の上面を徹底的に磨いておきます。

 うん、ヨシ。これだけでもかなり高級感漂いますね。
 コウモリの扇飾りは、接着前に裏側を削って、染色時のヨゴレを取り除いておきましょう。ニラミは割れや欠損部分を補修し、磨亜麻仁油とロウで磨いてあります、中央飾りも同様。

 硬い唐木製品が多いので、それぞれを確実に接着してゆくため、一度きにではなく順繰り順次接着してゆきます。

 棹の調整中に、蓮頭にはめ込まれていた飾り板もポロリと取れてしまったので、これも同様に磨き上げて、元の場所に接着し直しておきましょう。

 飾りは紫檀、下地はツゲ。ここもニカワの沁みが悪く、もともと取れやすかったんだとは思います。接着面を一度濡らし、古いニカワを丁寧にこそぎ除いてから、乾かないうちに新しいニカワを挿して接着です。

 補作の扇飾り以外、ニラミも中央飾りもこの蓮頭の飾りも、かなり良質な唐木材が使われており、細工も実に繊細で、このへんの原作者の唐木工作の腕前自体については、文句のつけようもありませんね。

 最後に蒼いバチ布を貼って、
  2025年11月15日。
 痩蘭斎旧蔵、原作者不明の依頼修理楽器、
  修理完了いたしました!

 …そういえば修理前は、裏板にナゾの平行線が浮かび上がってましたっけねえ。

 後に判明した、この楽器の内桁の配置とも若干位置が違っていたので。おそらくは他の楽器に一度使おうとした板を、何らかの理由で裏返して再利用したんじゃないかと思います。

 清掃の時も、特にここからニカワがにじみ出てきた、というようなことはなかったんですが、おそらくは、いちど板にしみこんだニカワが、部屋の湿気等で板表面に浮かび上がり、ごく薄く表面を保護したため、こんな日焼け痕みたいになってしまったものかと。その表面のニカワは空気に触れて劣化し、いまはほとんど落ちてしまっているでしょうし、裏板はほぼふつうの柾目板でしたので、けっこうしっかり清掃し、染め直しましたから、今後は薄くなってゆくかと思われます。

 今回のフィールドノートはこちら。(※画像クリックで別窓拡大)

 前所有者が貼りつけたフレットやその痕跡については省いて、原作者によるオリジナルの工作の位置や配置に基づいて記録してあります。
 各部寸法等の詳細は、こちらをご参照ください。

 左のニラミの下にあった補修痕が意外と大きかったので、もしかするとこの板は、このあたりに木理的に弱い箇所があるのかもしれません。お箏の甲くらい厚みがあったら、それほど問題ではないのですが、このサイズ、この厚みではまたここから割れるくらいのことはあるかもです。景色としてはキレイですが、共鳴板としては多少問題のある板なので、そのあたりはご留意あれ。

 この板の質的な影響もあるとは思いますが、音はやや硬めなものの、わりとよく響いております。
 棹孔から棒っコ突っこんで、響き線の渦巻きを、棹なかごの先端から少しだけ離すことが出来たんですね。おかげで、現在は響き線が、それなりに機能するようになっているわけです。
 渦巻線はスプリングリバーブと同じ理屈ですから、余韻の深さと音の増幅性能に関しては折り紙つき。ただし搖動にきわめて敏感で、どこかに触れてなくても、線自体が意図せずノイズ発生源となっちゃうことがあるので、演奏姿勢・動作によっては、かなりキツめの胴鳴りが発生することがあるかと。
 このあたりは、とにかく演奏の場数を踏んで、なるたけ胴鳴りの起きない、かつもっとも音がキレイに響くような楽器の保持姿勢を探ってゆくしかないようです。
 楽器が軽いと、ちょっとした力加減で演奏姿勢が崩れちゃうことがママありますが、この楽器は材料のせいもあってかなり重たいので、一度ベストな位置が決まれば、比較的安定してその姿勢を保持し続けられるとは思いますね。

 音が硬いのはあと、これが楽器としてほとんど使われないで来たせいもありましょう。これも何年か弾いてやってると、もう少し角のとれた音になるとは思います。

 この原作者と庵主では「音楽性の違い(笑)」が顕著にあるため、今回の修理の結果、原作者の意図とは多少違ったサウンド、操作性の楽器となっているかもしれませんが。
 しかしながら、そもそも楽器として生まれしが、楽器として扱われないできたモノに、再び楽器として生きる道を与えてあげられた(というかムリヤリ引っ張りあげた)ということには、それなりの意味があったと、信じたいところでありますあなかしこ。

(おわり)


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