明笛について(25) 明笛38号(3)

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斗酒庵 ひさびさにまたまた明笛を買う(W) の巻明笛について(25) 明笛38号(3)

STEP3 唄口の中心は愛をうたう

 さて,問題の明笛38号。

 貫きなおした唄口にはいまだ調整の要がありそうですが,とりあえず音は出る状態となりました。まだ「完全」とは言えませんが, 「鳴らない筒」 から何とか 「笛」 といえるモノにまでは戻ってくれたかと(w)

 もともと,管体は新品のように綺麗な保存状態でしたが,唄口の修理調整のため,その周辺を中心にけっこう傷をつけてしまいました。
 また,古いタイプの明笛としては珍しく,材料として表層の皮が付いたままの竹が用いられていますので,このまま使用を続けると,46号のように温度湿度の差によってヒビ割れの生じる懸念があるため,管全体に薄く保護塗りをほどこしておきたいと思います。

 月琴でもそうですが,楽器の修理では,切った貼った削った組んだの作業より時間と手間のかかるのは,染めや塗りの工程です。
 いちど塗ったら次は三日後とか,けっこうなインターバルが空きますので,その合間になくなっている管尻のお飾りを作っておきましょう。

 材料はブナパイプ。

 実のところ,入手直後に素体の状態まで加工してあったのですが,その後,笛本体と同じくずっと放置しちゃってましたね。


 まずは整形。
 作りかけのお飾りは,ラッパの広がりが少しキツめでした。管頭のお飾りも笛全体も,どちらかといえばスマートな感じですので,それに合わせて少しすぼめます。

 つづいてスオウで赤染め。
 ブナパイプは,このところ使ってる¥100均めん棒にくらべると,若干染まりにくいですね。
 塗っては乾かしで,三日ぐらいかけて染め上げ,下地完成。


 いちど磨いて,黒ベンガラとオハグロで二次染めします。
 頭飾りと色合いが近くなるまで染めを調整し,乾いたところでカシューで塗り固めました。
 赤っぽい部分は,実のとこ磨きの時にちょっとガリッっとやっちゃった(w)箇所なんですが。何か意図せずしてイイ感じになりましたのでそのままにしときます。

 あちこち削り直しているうちに,取付が多少ユルくなってしまいましたので,例によって管の取付け部にニカワで和紙を巻いて調整します。

 メイン作業の管体の保護塗りでちょっと失敗して,ほぼ完了していた塗りをいちどハガして塗り直すというトホホがあり,予定よりかなり時間がかかってしまい,ワークショップでのお披露目もできませんでしたが,帰省前ギリギリの七月末になってなんとか完成しました。

 さあて,駆け込み試奏とまいりましょう!

 音階は----

 ○ ■ ●●● ●●●:合 4B+30
 ○ ■ ●●● ●●○:四 5C#+34
 ○ ■ ●●● ●○○:乙 5Eb
 ○ ■ ●●● ○●○:上 5E+35
 ○ ■ ●●● ○○○:上 5E-5F
 ○ ■ ●●○ ○●○:尺 5F#+25
 ○ ■ ●●○ ○○○:尺  〃
 ○ ■ ●○○ ○●○:工 5G#+10
 ○ ■ ●○○ ○○○:工 5G#+25
 ○ ■ ○●○ ○●○:凡 5Bb+35
 ○ ■ ○●● ○●○:凡 5Bb+25
 ○ ■ ○●● ○●●:凡 5Bb+30

 西洋音階の +30 のあたりでかなりきっちりとまとまっていますね。
 清楽の音階は最低音をドとするとミにあたる音,3番目の音が 20~30%低めというのが定番なんですが,これも 5Eb プラマイ0でちゃんと体現しています。

 ちなみに月琴の場合,最低音は なので3つめの が20~30%低めとなりますが, と同じフレットの高音弦がわの音は ですから,当然これも同じように低くなります。つまりは7音階の3・7番目が西洋音階のそれよりやや低い,というのが清楽音階の特徴。この笛の場合,上述のとおり はバッチリ。 は右手全開放の指遣いだとやや高めになりますが,中指をおろしたほう (右手が○●○のほう) だと誤差の範囲----教則本でもこちらの表記のほうがやや多いようですね。

 唄口の工作はめちゃくちゃでしたが,孔の配置に使用されたたスケールもしくはテンプレートの精度が良かったんでしょう。かなり正確な清楽音階になっているかと思われます。

 管体が細めな割りには音量もそこそこ出ますし,勘所が合えば笛全体が震えるような状態にもなりますのでピッチも合っているようです。
 ただし,唄口の小さな古いタイプの笛なので,篠笛などにくらべると多少癖があり,慣れないと吹き始め,全閉鎖からの低音が少し出しくい傾向があります。
 まあ曲前の音出しで,出しやすい右手開放の高音からはじめ,低音域での息の方向や笛の角度を少し確認しておけばいいことですし,いちど身体がこの笛に最適の構えさえつかんでしまえばさほどの問題もなかろうかと思われます。


(おわり)

明笛について(25) 明笛47/48号(3)

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斗酒庵 ひさびさにまたまた明笛を買う(W) の巻明笛について(25) 明笛47/48号(3)

STEP3 彩湖ぱす

 7月もおしませってきましたので。

 仕事先から一日おヒマをもらい,朝から近所の公園へ。
 修理の終わった笛の試奏と,音階の計測に行ってまいりました。

 これに合わせて新しい計測表も作成。

 ふつうだと考えられない----というか,ふつうの人は考えない変態的な運指も含め,「可能性」として吹いてみます。

 金属やプラスティックの笛と違い,竹笛の場合はほんの小さな管の状態・加工の差が原因となって,通常のピタゴラスさんでは考えられないような現象が生じちゃってることもなきにしもあらず……というか,そういう結果をもとに管に異常がないか,あらためて確かめるのも目的の一つです。

 まずは47号タマネギ----

 ○ ■ ●●● ●●●:合 5C-5C#
 ○ ■ ●●● ●●○:四 5D-5Eb
 ○ ■ ●●● ●○○:乙 5E+30
 ○ ■ ●●● ○●○:上 5F#-25
 ○ ■ ●●● ○○○:上 5F#
 ○ ■ ●●○ ○●○:尺 5G#+5
 ○ ■ ●●○ ○○○:尺 5G#-15
 ○ ■ ●○○ ○●○:工 5Bb-10
 ○ ■ ●○○ ○○○:工 5Bb
 ○ ■ ○●○ ○●○:凡 6C-30
 ○ ■ ○●● ○●○:凡 6C-35
 ○ ■ ○●● ○●●:凡 5B+40

 「上」 から 「工」 には2種類,「凡」 には3種類の指遣いがあります。
 おもに教則本による違いですね。このほかに長原春田らの提唱した,全閉鎖を 「凡」 とする音階法がありますが,清楽の音階とは関係がないので,ここでは用いません。

 う…うむ,波瀾な音階ですな。
 全閉鎖と1孔開は音の安定がイマイチ。「上」 以降は比較的安定してます。
 「工」b なことから,筒音を # としての配置だったと思われますがさて。
 次にいろんな指遣いを呂音の息遣い(ふつうに吹いた場合)で試してみます。
 やはり筒音が # だと,半開きをしないと は出せませんでしたが,

  ○ ■ ●●○ ●●●

 の運指で,+20 ほどで安定した音が出ました。 

  ○ ■ ●○● ●●○

 もしくは

  ○ ■ ●○● ●○○

 という変態的運指で比較的安定した音が得られます。
 呂音の最高は----

  ○ ■ ○●● ●●●

 で,6C#-35 ,やはり # のちょっと高めなあたりが基音となってるみたいです。




 続いて48号。これは吹きやすい笛ですね。

 47号と比べると管自体がやや太めなのもあり,比較的軽めの息で安定した音が出せます。
 長さからして,もしかすると全閉鎖BかBbの清楽笛かも----と思ってたんですが,全閉鎖Cのドレミ笛でした。

 ○ ■ ●●● ●●●:合 5C
 ○ ■ ●●● ●●○:四 5D+30
 ○ ■ ●●● ●○○:乙 5E
 ○ ■ ●●● ○●○:上 5F+35
 ○ ■ ●●● ○○○:上 5F-5F#
 ○ ■ ●●○ ○●○:尺 5G+20
 ○ ■ ●●○ ○○○:尺  〃
 ○ ■ ●○○ ○●○:工 5A+25
 ○ ■ ●○○ ○○○:工 5A(やや不安定)
 ○ ■ ○●○ ○●○:凡 5B+15
 ○ ■ ○●● ○●○:凡 5B-30
 ○ ■ ○●● ○●●:凡  〃

 呂音の最高は----

  ○ ■ ○●● ●●●

 で,6C ピッタリくらいが出せました。
 高音域が少々安定しない時がありますな,あと,ちょっと甲音が出しにくい。
 吹きはじめはほとんど出ませんで,10分ほどやってたら出るようにはなりましたが多少安定が悪い。
 大甲音(2オクターブ上)は無理っぽいなあ。


STEP4 調整湖の調整

 ----修理は終わっても,「調整」は続きます。
 楽器の場合,外見上また機構的に問題がなくなったとしても,「音」との関係はまた別物。そこからまた,最適な音を出すための細かな調整を経ていなければ,音を出す道具としての復活はあり得ません。

 前回修理の46号も,修理後の試奏の結果を踏まえて唄口の向こう岸や反射壁のへりを小整形したら,かなり吹きやすくなりました。庵主はこの「調整」というのを「穴を埋める」とか「ヒビ割れを継ぐ」といった修理工作とは,まったく別次元の作業だと思っています。時には「音のため」にせっかく修理した箇所を,自分自身を呪いながら(w)破壊したりしなければならないこともありますしね。

 47号は試奏の結果,音階等にさほど問題はない(全閉鎖が から # の中間である事を「問題」としないなら)ものの。呂音で吹いている時,響孔の効果とは関係なく倍音のノイズが混じることがありました。
 この手の異常の原因はたいてい唄口にあるため,あらためて調べてみますと,ちょうど向こう岸の真ん中あたりの縁に,小さなキズが見つかりました。
 おそらくここで息が乱れて,出る音にノイズをかぶせちゃってたんでしょうねえ。

 エポキを盛って補修します。

 見た感じ,ひっかき傷程度の浅いものだろうと思ってたんですが,削って整形してみるとこれが意外と深く,底が頂点であるV字型の谷間のようになってました。
 おそらくは何か四角くて硬い物体……たとえば机の角のようなものにぶつけた痕かと愚考いたします。

 唄口の周辺は笛で最も大事なところなので,ふだんこんなキズがつかないようにいちばん注意する箇所だと思うんですが……この笛の状態や状況をいろいろと考えてみますと,この事故の原因はおそらく----タマネギでしょうねえ。
 前回も書きましたが,アレ,ちょっと重すぎるんすよ。
 演奏姿勢で構えてる時はまだいいんですが,ふつうに持って歩く時とか少しバランスが悪い。
 それで取り落とした時にはアタマのほうから行きますわな,その結果かと。




 48号は保護塗りをした唄口内壁の塗膜に浮きがあり,すこし凸凹していましたので,下地になっているオリジナルの塗料層までいちど削り落とし,均してから再度塗り直しました。

 あとは唄口向こう岸の縁にあった微小なキズを補修。
 47号と同じく,このあたりのキズは微細なものでも,ノイズや不調の原因になることがありますので,ちょっと丁寧にやっておきます。
 これもまた小さい割に意外と深かったため,エポキで充填。練ったエポキをキズの上に盛り,少し固まってきたところで,上からクリアフォルダの切れ端をかぶせて指で押さえつけ,キズの奥まで確実に押し込みます。
 一晩置いて整形----せっかくの黒々ツヤツヤにキズつけたくないので,きわめて精密に加工(w)。

 キズの補修後,47・48号ともに作業部分を塗り直し,磨きなおしました。


STEP5 調整池の伝説


 Web記事でときどき見かける笛子の伝説に,

 管尾の「飾り孔」は紙を貼って笛の調子を変えるためのもの

 ----というアホゥなものがあります。

 実物の笛を見て,ちょーっと考えていただければ分かると思うのですが。
 笛子・明笛の筒音すなわち笛の音の高低は「裏孔」の位置で決まります。一般の笛では,唄口から管尻の先端までの長さでその音の高さが決まりますが,笛子や明笛の場合にはそれより手前に空気の漏れる孔があいてるわけですから,そこで音が決まっちゃうわけですね。
 そして問題の2コの「飾り孔」は,たいてい「裏孔」より管尾がわにありますので,ピタゴラスさんから言ってここを塞ぐことで大きくナニカが変わることはふつうありえません。

 しかしながら,庵主とて。左腕に邪龍が封印されている人もおり,右目を解放すると世界が滅ぶという人のいることくらいは知っており,そのていどにはロマンを信じております。過去の笛でも何かの原因で,ピタゴラスさんに対し叛乱を起していた例がないではないので,いちおう確認してみることにします。

 47号で実験してみましょう。

 まず管表の「飾り孔」だけをふさいだ場合ですが
 ----ピタゴラスさんは偉大なり(w)

 計測結果は何も変わりません。

 次に飾り孔と裏孔をぜんぶふさぎます。
 あたりまえですが全閉鎖の音が低くなります……4B+35 くらいになりましたね。
 おお,これは確かに調子が…と一瞬思い,第1孔をあけてみます。

 従前と変わらず D の音が出ました (物理学的にはwあたりまえ)

 あたりまえのハナシ,「調子が変わる」というなら,全閉鎖が になれば第2音も なり # になってなきゃならんのです。このままだと,第1音と2音の間が長2度あいちゃってるわけですね----どこの超古代音階ですか?

 ほかいろいろなパターンでやってみましたが,まあマトモな音階になることはなく。
 Webの記述とそのコピペ虫どもが,こういう簡単な実験もせずにテキトウたれ流し,拡散してるのが判明したわけですが。

 ただ,この47号の場合。

 マステで裏孔を半あけ状態にすると全閉鎖が のプラマイ10くらいで安定します。その状態で使うと,最低音がCの比較的マトモなドレミ音階になりました。(デフォルトのあまり嬉しくない最低音wは上記事参照)

 ----これがまあ今回の実験のケガの功名,みたいなもので(w)

 この「裏孔」には通常,飾り紐が通されます----ということはですな。
 紐が少し太めのものなら,紐をかけることでマスキングテープと同様の効果があるかもしれないわけ……まあ作りから見て,原作者がそこまで考えてたとは思えませんが

 また,最初のほうの記事でも書いたように,47・48号の前所有者は管尾の飾り孔や裏孔を絶縁テープでふさいでいたようですが,これが「調子を変える」という目的のものでなかったことは,上の実験からも明らかで。さらに47号の場合,テープによる日焼け痕の痕跡は,裏孔のほか管尻と管頭のギリギリにあるので,おそらくは47号のともまた違って,取付がユルユルだった頭尾のお飾りを固定しようとしたものであろうと思われ,そこにWeb記事や庵主の実験のように「管の調子を変えよう」という意図はなかったものと考えられます。



(おわり)

明笛について(25) 明笛38号(2)

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斗酒庵 ひさびさにまたまた明笛を買う(W) の巻明笛について(25) 明笛38号(2)

STEP2 鳴らぬなら鳴るまでホジくれホトトギス


 さて,鳴らない笛はただの筒。

 いや,ただの筒ならむしろ,息を吹き入れさいすれば,何かしらの音が出てもおかしくないはずですが,それすら鳴らないというのですから……これはいったい,何なのでしょう?(www)

 唄口の塗装は全周ハガれ,周辺内部の塗りもボロボロですが,見た感じ唄口自体に欠ケや傷はなく,縁もきれいにピンっと切り立った状態になっています。

 まずはも一度,ふつうに吹いてみましょか。
 それ,フーーーッとな。

 …………ピーもプーもありませんね。息が完全,唄口にスルーされてる感じ。

 ふつうに鳴る笛の場合。唄口に息を吹きかけると,音が出るのと同時に唇に若干抵抗が感じられるものなんですが,これはまあ見事に無感触。

 ちょっと前にも書きましたが,古いタイプの明笛の唄口は,篠笛などのそれに比べて小さいので,息を吹きかけて音の出るスィート・スポットが小さい。
 もしかすると庵主,ちゃんと唄口に息を向けてなかったかもしれん----そこでも一度,こんどはしっかり目視で確認,さらに上唇で孔の位置をしっかり確認してから。

 フーーーーーーーッ

 ……ストローでも吹いてるみたいな感じです。 吹いた直後に管の表面の曇りを確認すると,息はちゃんと唄口に向けて流れているようす。

 ----にもかかわらず,音が,出ない。

 はてさて,理解不能。こりゃまたちょっとした怪奇現象……いや,ワレワレは科学の子。
 まずは前回言ったとおり,この笛のことを徹底的に調べ上げるところからハジメてみましょう!!

 ----ハイ,キターーーーッ!!

 調べはじめて10分(ww)……ご覧ください。
 唄口が指孔の正中線からかなりズレちゃってますねえ。
 前所有者はこれに気がついて,上の画像で見るところの左がわの縁を広げて調整しようとしたみたいなんですが,それでも音は出なかった,と。
 まあ,おそらくこれが 「吹いても音が出ない」 原因の最たるものであろうとは思われるのですが。
 実はこの唄口,ほかにもヘンなこと…いやまあ,ヘンと言いますか,ナットクのゆかないところが何点かございます。

 左を図1,右を図2とします。
 唄口のところでぶった切ったものを,管のお尻のほうから見ていると思ってください----
 材料がポリパイプとかでない限り,実際にはこんな真円であることはありませんがね。(w)

 オレンジ色の部分が唄口です。
 通常,明笛の唄口というものはこんな感じ,篠笛だともう少し幅(β)が広くなってましょうか。

 とまれ,唄口が管の正中線 i に合わせて貫かれていれば,図1のように,唄口の縁から管内側部の端までの距離 γ と δ の寸法はほぼ同じなはずです。
 それで,38号の唄口はこの絵でいうと左がわにズレてるわけですから,単純に考えると図2のように,唇に当るがわの γ はせまく,向かいがわの δ が広くなってるはずですよね----しかし。
 実際の笛を調べてみますと なぜかδがわのほうがせまい----せまいどころか,唄口の縁が内壁ギリギリになってます。

 さらにも一つ。

 図1の状態ですと,唄口βの両端 c と d の縁は,ほぼ同じ高さにあります。そして,38号の唄口が左にズレているとすると,図2のように c と d の関係は d(高)>c(低) となるはず。

 でも,なぜでしょう----

 笛を図2のように,本来の正中線に対して直角に立ててみても,c のがわから d の縁が見えません。
 指孔をふさいで,吹く時の構えにしてみると,dの縁がcの縁よりも「下に」なっている のです!
 d が c より低い位置にあると,吹いた時の息は d の角に当らず,管の表面をただそのまま通り過ぎてしまいます。横笛は集束された息が d の角に当って内外に分かれ,渦を巻くことで音が出る(----らしい。横笛の発音の正確な原理については難しすぎて庵主には分かりませんww)ので,ここに息が当らないということは,いくら息を吹きかけても,音には変換されないわけですね。

 そりゃこの笛,どやったって鳴りませんわな(w)

 ………でもナゼだ。
 庵主のさんすう脳が沸騰してきたぞ。
 唄口の孔βの中心が,管の正中線iよりも左がわにズレているのに,γ>δであり,かつ,唄口の縁 d が c よりも低いとするなら,これはいったいどうなっているのか?

 たすけてぇッ!!
  さんすう先生ーーーーッ!!
(泣)


 うむ………おそらく,基本のところはこんな感じでしょうか。

 正確な角度とかは分かりませんがこの作者,唄口をかなり妙な角度で斜めに貫いてしまったのだと思われます。

 ただ,それだけだと左右の空間が γ>δ となっている問題は解決されますが,唄口の縁の高さの問題は残ります。 そこでさらにしつこく観察を続けていきますと,この唄口のあたりで管がわずかながら平たく潰れているらしいことが判ってきました。
 左図の濃い緑色のラインは,それを少し大げさに描き入れてみたものです。

 その上で前所有者が縁を削って加工してしまった(図の青色の部分)ため状況がさらにこじれ,上述のよう,ウンともスンとも鳴らない物体になってしまった,と。

 ……ようやく,解決。(泣)

 三日ばかり修理もせず,竹ざっぽをあーでもないこーでもないと眺めていたわけですが----むかし知識の深淵に到ろうとして,友人といっしょに庭の竹を何日もニラミ続けた先生がいた,というハナシをおもわず思い出しましたわいな。(ちなみに,数日したら友人はおかしくなり,さらに数日したら自分までおかしくなってきたみたいなのでやめたそうですww)

 しかし分かってみますと………エラい笛売りやがったものですな,この作者は(汗)

 唄口というのは,笛の孔でいちばん最初に穿たれるものです。ふつう,竹はみんな太さや長さが微妙に違うので,最初に唄口をあけてその竹筒の音を確認し,指孔や詰め物の位置を調整しながら作ってゆきます。
 もしこの笛が最初からこの状態だったとすれば,音が出ないのですから,この笛の作者はその確認をしていない----ということは,彼は竹筒に孔をテキトウにあけるだけの作業をしていた,ということになります。
 まあもちろん,唄口や指孔の位置は何らかのスケールシートやテンプレートのようなもので決められていたんでしょうが……同じような例は月琴のフレットの工作なんかでもありましたので,同様に薄利多売楽器である明笛で同じようなことがされていたとしても,庵主的には何ら不思議はありませんが----

 どうれ,とりあえずその頭を出せ,このゲンノウで殴ってやろう(怒々 笑っているが目が笑っていない)

 前所有者の行為や最初に見た保存状態から考えますと,この笛はおそらく,笛屋の店先でちゃんと選んで買ったのではなく。

 通販か何かでお取り寄せ>
 吹いてみた>ダメ。
 イジってみた>やっぱりダメ。
 >ハイ押入れ行き決定!!

 というような過程をへてウチに来たのではないか----と推察されます。
 ホレ今だって,雑誌やTVの通販とかネットのお取り寄せで同じような目にあったオボエのある人----周りにけっこういますよね?(www)


 唄口の問題も含めて,観察から判明したこの笛の要修理個所をまとめると,だいたいこんなものでしょうか。

 まずは唄口にいろいろと部分的な補修・調整をやってみましたが,どれも音が出る,まではゆくものの実用的なレベルには達しませんで。もう少し,もう少し,と調整してゆくと,こんどはまた音が出なくなるというのの繰り返し……原作者のあけたこの孔,よっぽど絶妙にイヤな位置と角度であけられてたみたいですね。

 これはもう根本療治,これしかありません----

 いちど埋めてあけなおしましょう。

 範囲が広く,後で精密な加工をする必要がありますので,パテの骨材にはいつもの竹粉ではなくツゲの木粉を使っています。
 あらかじめ管の中にラップを巻いたガリ棒を差し込んで固定し,内がわにあふれないようにしてから。
 たっぷりのパテを唄口に盛り付け,半固まりの状態の時,さらにしっかりと押し込みます。

 用心のため数日置いてきっちり硬化させ,表面を平らに整形したら穴あけ作業です。
 こんどはしくじらないよう,管の中央を出すのと,唄口の中心決めはかなり神経質に何度もやり直しました。
 さらに工作でも万全を期すため,穴あけのさいに位置がズレないよう,角材ではさみクランプでしめて管をがっちり保定します。

 最初はネズミ錐。
 竹に孔をあける時の手工具は主にこれです。穿孔の際に竹が割れにくいんです。

 指孔の正中線上に丸い孔があきました。
 吹いてみましょうかね----うむ,笛というよりまさしく瓶の口に息かけた時のような,ぼーっていう音が鳴ります。

 あとは吹いて音の出具合を確かめながら,ナイフやリューターで慎重に慎重に広げてゆきます。指孔とほぼ同じか,わずかに大きいくらいがふつうですね。
 あるていど広がったところで中を覗いてみますと----埋めこみの際,パテが内がわにあふれないよう,いちおう処置はしておいたんですが,それでも漏れた少量のパテが反射壁や内部の周縁にへっついて固まっちゃってました。こういうのももちろん音の邪魔になりますんで,ガリ棒やリューターで掻き出し削って取り除きます。

 こんどの唄口の中心は,指孔の正中線とほぼ同じです!


(つづく)

明笛について(25) 明笛48号(2)

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斗酒庵 ひさびさにまたまた明笛を買う(W) の巻明笛について(25) 明笛48号(2)

STEP2 ナイスバルク!ナイスバルク!!

 48号の修理は,まず貼られていた赤い絶縁テープを剥がすとこから。

 すでに粘着力はほとんどなく,テープ本体はカッチカチの板みたいになっており,裏面についていた接着剤は笛の表面に残って変質し,硬いツヤツヤの層をなしております。
 このカチツヤ層……水やエタノでぬぐったぐらいじゃビクともしませんな。
 かと言ってシンナーなどの乾性油系を使うのは,下の塗装が解けちゃいそうで怖いですねえ。

 ここはいっちょう職人ワザ(w)で。

 接着剤層の表面をペーパーで軽く荒し,エタノを塗ってはナイフでこそぎます。(原始的www)
 おおおおおお……もとは接着剤なのに粘りはゼロ,なんか完全に固まって,別の物質になっちゃってますね。
 シャリシャリと伝わる指先の感覚だけで,下地紙一重のところまで削ってゆきます。

 まあ,多少キズがついちゃってもしょうがないか----とは思ってたんですが,意外とうまく取り除けました。

 つぎに指孔の2-3付近で,竹表面のカケから浅い溝が出来ちゃってますのでこれも埋めちゃいます。これ自体はそんなに深刻な故障ではないんですが,指孔の周辺にこういうのがあると,わずかな空気漏れとかで運指や音に微妙な支障が生じる場合がありますのでいちおう念のため。
 色が黒いんで,いつもの竹粉ではなく唐木の粉のパテを使います。
 これもテープ痕と同じく下地紙一重まで削り込んで……ほーれ,ちょっと分かりますまい?

 あとはこちらも内外の保護塗りと,お飾りの補修のみ。

 こちらの要補修箇所は管尻の黒いラッパ飾りの縁にあるネズミの齧り痕と,白いリングの欠ケ
 頭飾りにも多少のキズはありますが,このくらいなら磨けば目立たない程度ですね。
 頭飾りは二つに分解できますが,基部のほうがかなりガッチリ接着されており,ひっぱったりひねってはずれるような感じでもなさそうでしたのでそのままに。お尻飾りのほうも同様しっかりと接着されちゃってましたが,こちらははずさないと修理ができない状態ですので,大きめのコップに水を張って,そこにお飾りの縁まで2時間ほど漬け込みました。
 これで無事はずすことには成功したんですが……うわあ,接着剤べっちゃりつけられちゃってますねえ。

 黒い部分の齧り痕は唐木のパテで埋めるとして,問題はこっちのリングですね。
 フレットに使った牛骨の端材で継ぎましょう。
 小さい部品なんで保定しづらく,加工するのがけっこうタイヘンです(w)
 うまくはまるようあらかた整形した部品を,作業台にくっつかないようクリアフォルダの切れ端にのせ,そこでそのままたっぷりのエポキで接着します。上からもう一枚クリアフォルダをかぶせ,クランプではさみこむと,はみだした接着剤に補修部分がいい具合に包まれ,その後の作業がしやすいカタチでガッチリ固定されます。
 小さいもの,細かいモノを作る時は,素材をケチったり最初からきっかりピッタリ仕事をしようとすると,後でかえって仕事が増える可能性があります。
 いつも言ってるように 「小さいものは大きく」「大きいものは小さく」 して作業するのが基本(w)

 一晩置いて整形し,磨き上げます。
 ちょっと色味が違っちゃってますが,まあこんなものでしょう。

 お飾りの補修も終わったところで,塗りの終わった管を磨きます。

 #1000の Shinex に石鹸水をつけて表面のホコリや凸凹を取り除き,さらに細かいペーパーで磨きこみます。

 最後に,亜麻仁油とカルナバ蝋に#3000のコンパウンドで全身磨き上げました。
 見よこの上腕二頭筋!…ではなくお飾りのテカり加減を!!(w)

 おおーぅ,黒く艶光りするこの管体…やや太めのがっちりした印象もあいまって,思わず 「ナイスバルク!」 と叫びたい(w)

 管頭飾りが中空でないので,けっこう持ち重りがしますね。
 今季修理した明笛の中でいちばん重いかも。
 演奏姿勢に構えると,お飾りの重さで頭がわがやや下がりますが,大きめの笛なのでバランスは悪くないですね。

 管の修理は完了しましたが,47号ともども,実際に演奏レベルでの音を出しながらの最終的な調整がまだなので,この時点では 「楽器としてちゃんと直ってるかどうか」 はまだ分からないのですが……まあ,やたらキレイに仕上がりましたねえ。
 調整作業と並行して行うので,試奏と音階計測の結果については,あとでまとめて報告します。

 さてこれで,あと残るのは明笛BOXから出てきたやり残しの38号……ふうむ,今度は鳴るように直せるでしょうか?


(つづく)

 

明笛について(25) 明笛47号(2)

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斗酒庵 ひさびさにまたまた明笛を買う(W) の巻明笛について(25) 明笛47号(2)

STEP2 タマネギ畑で皮むいて!

 今回入手した47/48号は,内外多少ヨゴれてはおりますが,どちらもヒビやら割レといった深刻な故障は少なく,唄口の状態もほぼ健全。管内のクモの巣とかをはらって少しキレイにしたら,現状でもそこそこ音は出ました。
 とはいえ,内外の塗装の劣化もありますし,ヨゴレやらいろんなモノが表面にこびりついてもいますので,掃除してすっぽんホイではさすがに終われませぬわいね。(w)

 47号の修理はまず指孔4-5間のヒビ割レから。
 エタノをしませてヒビ内部と周辺をキレイにしてから,緩めたエポキを流し込み,ホースクランプで締めて固定。


 翌日,残った薄ヒビの溝に例の粉を盛り上げ,もう一晩置いて整形。
 あとはこの上から保護塗りをほどこせば問題ありますまい。
 この一箇所の処置だけで,基本的には管の部分----笛という楽器としての部分の修理は完了です。

 塗りは内がわを小豆色で,外がわを本透明にすこし透を混ぜたぐらい----前回の46号でも使いましたな,これ。
 元の色合いをあまり損ねないていど,一度でサぁーーーっと済ませてしまいたいとこだったんですが……この笛,管表面のオリジナルの仕上げ加工が若干粗く,竹の表皮を落とした時の細かな作業痕がそのまま,あちこちに残っちゃってます。そこらを埋め込むため,少し塗りを重ねなきゃなりません。
 47号は 「紫山」 銘----いちおう現代でも続いている老舗メーカーさんの古作なんですが,この仕上げは………(^_^;)
 月琴と同じく,明笛という楽器も比較的廉価な薄利多売系の商品だったので,老舗とはいえ数打ちのために,仕上げとかかなり手ぇぬいてたんでしょうねえ。明笛の内塗りが漆じゃなく,顔料系の塗料が多いのも,同じ理由だったことが多いんだと思います。

 管を塗っている間に,お飾りの補修をやっちゃいましょう。
 ふつう明笛のここは,先端の少し開いた長いラッパ型の部品であることが多いのですが,この笛の管頭飾りは少し特徴的です。
 資料を調べてみますと,タマネギの先端がこれよりちょっと尖ってるのと焼印が少し違うようですが,同じ 「紫山」 銘の笛に似たものがありました。

 メーカーさんの独創かな?----とちょっと思ったんですが,さらに調べてみますと 「胡山」銘の笛 にも似たようなお飾りのついてるものが見つかりました。一時期,この種のデザインが流行ったことがあったのかもしれませんね。
 とはいえこれ,笛のお飾りというよりは杖とかステッキの先端,握りの部分なんかに使われるような意匠ですよね。タマネギ部分を掌に握りこんでると,手触り的にも何かキモチいいですが,明笛でここをこんなふうに握って持ち歩くようなことはありませんし(w)……そういえば「明治大正楽器商リスト」の作成で見つけた製作者さんにも,竹杖と笛の両方を作ってた人がいました。材料が同じですからね,こらぁ分からあでもない。
 明治から大正にかけての時代。モダーンな紳士たちの間でステッキが流行するなか,案外そういう部品の流用があったのかもしれませんね。

 おっとイケねぇ脱線だ………修理に戻ります。(w)


 管尾のラッパと白いタマネギ部分にはキズひとつありませんが,その下の黒い牛角の部分にネズミの齧った痕があります。
 そんなに深くはありませんが,一部分かなり集中的にヤラれちゃってる箇所もありますねえ。

 唐木の粉を混ぜて練ったエポキのパテを盛りあげて整形します。
 開口部の小さい深いキズや充填するだけのミゾなら,エポキにアクリル絵の具混ぜたもののほうが色合わせもラクでイイんですが,硬化後の整形が必要なものだとこの唐木や木粉を混ぜたののほうがイイようですね。絵の具や顔料混ぜただけのものだと,モロモロしててくずれやすく,精密な整形がしにくい----こういう浅いキズの補修にはあまり向かないようです。

 少したっぷりめに盛り上げて……ほかのものを混ぜると多少硬化時間が長くかかりますので,二三日置いてから整形。よーく見ると,補修部分に混ぜ込んだ木粉のツブツブ感で分かっちゃいますが,このくらいならまあ一目で分かっちゃう人はかえって詐欺師認定 (その人はプロです!関わっちゃあなんねえwww) のレベルでしょうね。

 塗りの乾くのを待って,管体を磨き上げます。
 最初のほうで書いたように,表面仕上げが粗く,オリジナルではちょっとザラザラした感触でしたが。
 それをほーれ…ピッカピカのツルッツル!

 工房に来た時すでに,47号のお飾りは頭尾どちらもニカワが落ちて取付けはユルユル。手を放すとポロリとはずれちゃうような状態でした----ただでさえなくなってることの多いこの部品,むしろよくついたまま残ってたなあという感じでした。
 この部品,修理者としましては,はずしたい時にスッポリ手間なく気持ちよくはずれてくれるくらいのほうが有難いんですが(w),さすがにこれでは,吹いてる時に気持ちよく飛んでゆきかねないものですので。
 お飾りをはずれにくくするため,接着部となる両端凸の部分に,ニカワで薄い和紙を巻き重ねます。
 もっともこのタマネギ……笛のお飾りとしてはけっこう重さがあるんで,何かの拍子にまたいづれ取れちゃうこともあるかもしれません。

 何度も書いてるとおり明笛の管頭には,演奏時にバランスをとるカウンターウェイトの役割があります----ただしそれが本当に必要なのは,60センチを越える大型の笛の場合ですね。47号くらいのサイズでこれだとちょっと重すぎる気が----このデザインが大きく流行らず,けっきょく主流にならなかったのは,これも理由でしょうねえ。

 あとはお飾りをガッチリと組み付けて,明笛47号,修理完了です!

 テープによると思われる日焼け痕は,擦っても洗っても抜けませんで若干残っちゃいましたが,楽器としての本体である管部分の損傷はきわめて軽微でしたので,性能・機能的な部分に関してはオリジナルの状態をほぼ損なわないまま再生できたかと思われます。

 ほかの明笛を知ってると,頭のタマネギ飾りのデザインに好嫌肯否があるかもしれませんが。
 これもまあ,明治末から大正ごろのモダーンな雰囲気とかが好きな人にはかえってポイント高いかもしれませんな。(w)

 (試奏と音階計測の結果については,あとでまとめて報告します)

(つづく)

明笛について(25) 明笛47/48/38号

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斗酒庵 ひさびさにまたまた明笛を買う(W) の巻明笛について(25) 明笛47/48 そしてなぜか38号

STEP1 増殖する明笛団(ZMD)

 46号の修理がうまくいってなかった時期,

   ちょっと荒れながら夜中にポチって,

 朝気がついたら,明笛が増えておりました(w)

 前回は2本だて,今回は3本だてですが,いちばん下の長い1本は響き孔もなく,飾り孔も後づけで不自然。「明笛風」に作られたか魔改造された笛のようです。
 今回はこれを除いた2本を修理することとします。


明笛47号


 47号は全長480,今もある「紫山」銘の明笛です。
 当代の「紫山」の焼印は楕円形ですが,こちらのはほぼ四角。
 何代目のころの楽器なのかは分かりませんが,お飾りの意匠や寸法などから考えて,大正期以降に作られた,比較的新しいタイプの1本だとは思われます。

 お飾りは頭もお尻も,すっかりニカワが飛んでガタガタ,すぐ抜けちゃうくらいになってますが。このタマネギ型の頭飾りは特徴的ですね。

 今売られている明笛のお飾りは木とかプラ製が多く形も異なりますが,これには牛角や骨が使われており,けっこう重たいですね。

 この白いタマネギ部分はねじ込みで,回せば蓋みたいにはずれるようになってますが,黒いほうの胴体にあいてる孔は材料の牛角にもともとあいてたもの,特に加工した様子もなく,浅くてせまくて何も入れられんので,よくあるようここが小物入れになっているとかではないようです。

 まあそもそも----前にも記事で触れましたが----明治の広告なんかで 「ここに竹紙(響孔に貼る薄紙)が入れられる!」 とか,世紀の大発明みたいに書かれてるこの工作なんですが。ちょーーーっと,考えてみれば分かるように,こんなところに竹紙入れてても,演奏中にパッと取り出せるわけはありませんし,こんなものいちいちキコキコはずして中からつまみだすより,何かあけやすい,ちょっとした小物入れ持っていったほうが早いですわな。
 古い中国の随筆,『揚州画舫録』なんか読むと,笛子吹きは足元に 「笛膜盒」 とかいう蓋物の小物入れを置いて,そこから芦紙や接着剤の阿膠をとりだして使ってたみたいですね。明笛のモトとなったような中国の笛で,ここをそういう小物入れにしたなんてハナシは聞かないなあ。(ww)
 以前ここがそういうふうになってる笛で,実際に竹紙の切ったの入れて実験してみたんですが,入れにくいわ出しにくいわ…………まぁ明笛における「思いついただけ」の工作の代名詞みたいなものの一つですわな。

 ま,それはともかく。
 内外多少白っぽくホコリにまみれちゃってはいますが,全体的には比較的きれいな状態ですね。

 簡看される損傷は指孔3-4間の割レくらいでしょうか。あとは頭飾りの側面にネズミの齧った痕があちゃこちゃあります。

 そのほかは,他2本同様テープの類が巻かれていたらしく,帯状の日焼け痕がいくつかついちゃっていることくらいで。
 演奏可能な状態にするのに,それほど手間はかからない様子です。(あくまでも,いまのところww)


明笛48号


 48号はこないだの45号同様,管体を黒染めした明笛。
 47号よりは若干長め,お飾りのカタチなどもほぼ伝統的な明笛の意匠を継承しています。
 ただしこの2本はいづれも,唄口や指孔の形状がやや大きく,より円形に近くなっています----これは大正期以降に作られた比較的新しいタイプの明笛の特徴で,清楽に使われた古いものでは,46号とかいまの中国笛子と同様,小さくて細長いナツメ型のほうが多いですね。

 この孔の形状については以前ちょっと考察したことがあるんで,興味のある方は以下の記事もどうぞ----

 1)どうやってこのカタチにする?  明笛の作りかた(2)
 2)なんでこのカタチ? 明笛について(20)

 47号にくらべると若干使い込まれたのか,表面に傷があります。
 また内塗りも,47号はツヤツヤしてたんですが,こっちのは少しつや消しで表面がパサパサした感じ。状態は異なりますがどちらも例の顔料系塗料らしく,水を通してもビクともしませんが,エタノで拭うと溶けてきてテレピン油に似たニオイがします。

 ヒビ割れは見当たりませんが,管尻の飾り孔と裏孔のところに赤い絶縁テープが貼られていました。ハガすと接着剤がカチカチツルツルの層になって管の表面を覆っております。(^_^;)

 同様の痕跡が響孔のところにもありますので,ここももとは赤テープでふさがれていたのでしょう。

 実際にやってるところは見たことはありませんが----
 笛子では管尻の飾り孔を紙でふさいで管の調子を変えることがある,(=この2コの孔はそのためのものである)という記事を読んだことがあります----いやでも,考えてみると管の調子を変えるならそこじゃなく,まず裏孔をふさがないとならないハズなので些かマユツバものではありますが----まあ,今回の場合はそういうことじゃなく,単に明笛を知らないふつうの笛吹きが,理解不能な孔をふさいだって可能性のほうが高そうですね。

 こちらのお飾りは黒い牛角と白い牛骨のリングを組み合わせたもの。
 頭飾りは真ん中のリングのところで2つに分解可能ですが,こちらも内部に空間はほとんどなく,「小物入れ(w)」 にはなっておりません。

 頭飾りのほうに目立つ損傷はありませんが,お尻飾りはリングが欠け,小さいですが端っこの方にネズミに齧られた痕があります。

 テープ痕のテカテカがどうしたものか………多少厄介そうで不安ではありますが,大きな割レやらヒビやらもないようですし,唄口の状態なども悪くないようです。
 こちらも演奏可能な状態にまで戻すのに,さほどの難はないんじゃないかと思われます。


明笛38号

 で,ここでさらに1本を追加。

 あ,いや----この状況でまたポチっちゃったワケじゃないですよ!(w)

 このところ修理が続いてるんで,いつも笛の置いてあるあたりを整理してたら,ほとんど未修理状態の笛が1本出てまいりました。
 ああ,これ……38号ですね。
 古いタイプの管と思われる37号といっしょに手に入れ,その時の記事にもちょいとだけ姿が写っておりますが,ブログでは1行で済まされております。

 「…38号は修理すれども音出ず。(泣)」  明笛について(20)

 ----と。
 お尻のお飾りがなくなってるのと,唄口のすぐ内がわあたりの塗装が多少ハガれたり傷んだりはしていたんですが。
 外面から見た感じでは新品同様のピカピカで,特に何も問題がなさそうなのに,とにかく音が出ない。
 前所有者も何かしようとしたようですし。この唄口あたりに何らかの問題があろうとは思われたものの,庵主,べつだん笛の専門家ではなく,このデリケートな箇所をあんまりイジって,かえって取り返しのつかないことになるのもやだったんで,以降放置しておりました。

 その後,数々の修羅場を乗り越え……いいえ,ウソです(w)。けっこう無茶やっても音が出せるくらいにまで挽回する(誤魔化す)手段をイロイロと身につけてきたもので。
 この機会にも一度,ちょいと挑戦してみようかと思います。

 すでに述べたとおり,唄口の問題とお尻飾りがなくなっているほかは,管体にほとんどキズのない,新品みたいな美しい状態です。
 管の竹は皮つきで,篠笛なんかと同じ女竹だと思われます。
 管頭の飾りはツヤツヤ。たぶんこりゃ本物の黒檀でしょうねえ----妙なギミックも装飾的な彫りもほとんどないストイックな作りです。

 指孔や唄口は縦に長いナツメ型ですが,古管のそれよりは丸ッこくやや大きめですので,これもおそらくそんなに古い時代の作ではなかろうと考えられます。

 唄口内壁にあった塗装面の損傷は,おそらく前所有者が管頭の詰め物をズラしてピッチを調節しようとした痕と思われます。
 明笛の詰め物は基本固定されちゃってるうえに塗りで固められてますから,これを無理に動かそうと思うとそのあたりを壊さなきゃなりません。ふつうはそうした後でまた上から塗り直しとくものなんですが,この管ではそういう痕跡もなく,詰め物をズラしたぶん塗りのない竹の地肌が出ちゃってます。
 その痕跡からすると,当初は反射壁が唄口上端のかなりギリギリ,間1ミリないくらいのところにあったようですね。

 まあ,たしかにそれだと音が出しにくかったんでしょうが……しかし,今までの経験から言うと,内部が多少荒れてようが,管頭の詰め物がなくなっていようが,こんなふうに唄口のフチの部分さえきちんとしていれば,「出しやすいか」 「出しにくいか」 の違いはあっても 「音が出ない」 なんてことはそうありませんでした。
 そこからも,この笛で音が出ない原因は,この内がわの問題だけではなさそうです。
 そもそも,口に当てて吹いてみても,唄口にぜんぜん息が引っかからない----息が音になってくれない感じなんですね。
 よく笛吹き連中は笛の吹きかたを 「瓶の口を吹いて鳴らすようなもの」 なんて表現しますが,この38号だと 「瓶の横面を吹いてる」 みたいな感じがします。

 前回はとにかく,どうやってもこうやっても音が出ないんで,ハナからあきらめてすぐ放置しちゃったんですが,
 今回の3本のなかではこの笛が,唄口から裏孔まで310といちばん長い。
 48号がちょっと微妙なんですが,こちらは清楽の明笛として作られたものである可能性が高いんです。
 うまく復活できればそれなりのデータが採れそうですので,今度はまずまず,その「鳴らない」原因のところから,徹底的に調べてみたいと思います。

 ----以上,夏の帰省前最後のチキチキ明笛修理大レース,これをもって開始とまいります!!


(つづく)

 

明笛について(24) 明笛46号(2)

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斗酒庵 ひさびさにまた明笛を買う の巻明笛について(24) 明笛46号(2)

STEP2 フラットウッズへようこそ!

 管本体がワレワレのヒビヒビ補修の養生に入ったところで。
 この間にお飾りでも作っておきましょうか。

 管頭・管尾のお飾りともになくなっていますから,もとどんなのがついてたのかは分かりませんが,やや細身でスマートな感じの笛なので,あんまり凝ってない,シンプルなのがいいでしょう。

 材料は百均のめん棒(長33センチ)を使います。
 ちょっと前に44号(招月園)の修理で使った余りですね。
 庵主の修理ではおなじみ,月琴の糸巻の材としてよく使ってるもの----そういやこのお飾りも,整形の途中までは糸巻の工程とあんまり変わりがありませんな。


 まずは根元になる部分に,糸ノコで平均3ミリほどの深さの溝を1本,ぐるりと刻みます。
 そこに向けてカッターや小刀で削ってゆき,全体を先の開いたラッパ状に整形。

 ある程度カタチになってきたところで先端に孔を穿ち,リーマーで内がわもラッパ状にエグってゆきます。
 前まで使っていたブナパイプだと,この真ん中の孔をあける手間はなかったんですが,カタくって----切削の加工はこの百均めん棒のほうがずっとラクですね。

 中心の孔があるていど広がったところで首チョンパ。
 こんどは反対がわの取付部をえぐります。
 こちらの孔にはテーバーをつけず,中心孔をそのまま広げて,まっすぐ凹状に彫り込んでゆきます。
 この頭飾りは長さが8センチもあるので,手持ちのドリルビットでは反対がわまでとどきませんが,両方から穿ってうまく貫通させました。
 構造と機能からすれば,頭飾りのほうは演奏時のバランスをとるカウンターウェイトとしての意味合いのほうが強いので,べつだんパイプ状にする必要はあまりないのですが……まあ今回は気分ということで。(ww)

 管尾のお飾りは3センチ。
 工程は同じようなものですが,小さいぶんこっちのほうが加工はタイヘンです。
 首チョンパのあとは適当な丸棒をさしこんで,回しながら整形。こうでもせんと保定できません(w)
 本来は旋盤とかで作る部品ですもんね。

 肉の厚みを確かめながら,整形してゆきます。
 けっこう薄くしてもまあそう壊れることはありませんが,削りすぎて穴でも空いちゃったら,そこまでの苦労がダイナシですからねえ。

 同じような手旋盤で,一次整形段階ではほとんどまっすぐな側面だった頭飾りも,端の方が少し反り立ったなだらかなラッパ型に整形します。

 このめん棒の材は削るとボサボサした質感で,そのままだといかにも「木」----といったちゃッちイ感じですが,色自体はきれいな白ですので,しっかり磨いて導管を埋めると存外に骨っぽい質感になります。
 今回は百均エポキをエタノでシャブシャブに緩めたものをシーラー(下塗り剤)の代わりに塗ってみました。
 2度ほど塗って表面を磨くと----うむ,ちょっと見木っぽくなくなって悪くありません。


 一回めの補修で 割レ自体は継がれ,ヒビもかなり薄くなりましたが,まだ表面近くに浅いミゾが残っています。
 ここに再び緩めたエポキを2度ほど流し込み,最後に秘蔵の「粉」をかけて盛り上げます。

 ふふふふふ…ダンナ,粉ですよ,例の粉。

 前にも使ったことがありますが,これは煤竹の虫食い部分に詰まってた虫の食いカス----竹というのはながーい糸状繊維のカタマリで,通常は削っても砕いてもボサボサになるだけ,なかなか「粉状」にはなってくれませんが,これは虫さんが分解して粘土質の土のようにしてくれたもの。砕いて擂ってふるいにかけると,こんなふうにすごく微細な粒子状に…「粉」に変ります。
 竹由来の物質ですので,竹との相性がいいんですね。

 こういう修理は,深いミゾより----浅いミゾのほうが難しい。

 そもそもミゾ状のところにエポキをきっちり行き渡らせるためには,その粘度を下げなければなりませんが,エタノで緩めるとそのぶんわずかに引ける(エタノールの蒸発した分が減る)のと,蒸発時にエポキがエタノに引っ張られ,塗った範囲の外がわに寄ってしまうので,肝心の中央部分がいつまでも埋まってくれないという目に遭います。もろんその作業を繰り返せばいつかは確実にキッチリと埋まってくれはしますが,何度も充填と整形を繰り返すことになり,埋めたいところよりもその周辺が傷ついたり削れたりしてしまいがちです。
 まあ結局,どうやっても整形の時にどっかこっか削っちゃったり傷つけちゃったりはするんですが(^_^;)。
 作業の回数を減らし作業による損傷を少なくするためにはどうすればいいか----そう(w) 凹 をいッそ 凸 にしてしまえばいいのです。

 まずは浅いミゾに緩めたエポキ(ここはもう強度も硬化時間もさほど要らないので,硬化時間の短い百均のでおけいww)を筆で流し込んだら,粉をかけて軽く払い落し,10分ほど置きます。
 エポキを吸って少し固まり,粘土状になった粉をヒビの上に寄せて盛り上げ,さらに10分後,その上にクリアフォルダの欠片やラップの切れ端をかぶせ,指の腹で軽く押し付けて,溝の中にキッチリと埋め込みましょう。
 固まったらカバーをはずし,上からシャブシャブに緩めたエポキを2度ほど染ませて完了----ヒビの上の狭い範囲だけに,凸った部分を作り出します。
 もちろんあらかじめ粉をエポキで練ったパテを使う方法もあるのですが,いくぶん手間は少なくなるものの,「充填箇所の上で直接パテを作る」このやりかたにくらべると,やはり粘度の問題があるため確実さと精密さが劣るようです。

 ヒビ埋め箇所を整形したら,あとは内外の保護塗り。

 内がわの塗りは,ハミ出してる接着剤を軽く削ったあと,すでに塗られているオリジナルの顔料系塗料にカシューを滲ませ,下地として固めた上で2度ほど上塗り。
 最初のほうでも書いたよう,オリジナルの塗装に劣化や損傷が少なかったので,こちらはあまり問題なく仕上がりました。

 最後に外がわ。
 いつもなら拭き漆ていどで済ませますが,46号の管は皮つき(ニセの斑模様をつけるためですね)。皮のついた竹はもともと割れやすいですし,補修箇所も多いので,今回は補強のため表面に薄く塗膜を作るくらいに塗りこめます。
 カシューの本透明に透を混ぜ,古管っぽく少し飴色に見える感じに----

 と………庵主,ここでちょいとしくじりまして。

 一度塗り終わったところで,塗装を全面ハガすハメに……


 詳細はハブきますが,まあ 「ちョしちゃイケない時にちョした」 結果----このブログでも,自戒を込めて何度も書いてるくせに----とのみ書いておきましょう。(^_^;)

 この塗装のほうの失敗をとりもどす関係で,ちょっと作業に間があいてしまいましたので,気をそらす意味も兼ねて少々悪戯を----

 頭飾りにこれを仕込みます。

 自作の明笛や胡琴の棹,あとエレキなカメ琴シリーズなんかでも仕込んでますが,庵主はこれを「金鈴子(チンリンツ)」って呼んでます。
 太清堂の月琴の響き線から思いついた構造ですね。
 管体がうまく共振すると,金属っぽい余韻がわずかにつきます。

 笛の場合,聞いてるほうに聞こえる影響はわずかなんですが,吹いてるほうの耳のすぐそばにあるので,むしろ演奏者のほうにハッキリと聞こえます。吹音がちゃんと管に伝わって,全体ブルブルの状態,すなわち楽器のスペックがじゅうぶんに発揮されていないと作動しないので,これが聞こえない時には,聞こえるようになるように角度とか傾きとかを微調整し,ベストポジを探すわけです。その時の息とか唇の具合や調子とかを測るメーター,なんといいますか----「演奏者のためのエフェクター」って感じですね。


 さてさて,自らなしたしくじりの影響で塗装作業は大幅に遅れ,二週間で終わるはずの作業が,けっきょく一ヶ月近くもかかっちゃうこととなりましたが。(泣)

 最後の捨て塗りを乾かし一週間----右手に封印された邪悪な龍をおさえこみ,左手の邪鬼王の力を解放せぬよう,聖衣で編んだ包帯を巻き付け拘束しつつ,今回は無事に最後までちョさないでいられました(www…バンザーイ!!!)

 #1000のShinexで磨いて表面に付着したホコリや凸凹を削り落とし,亜麻仁油とコンパウンドで均し,#3000で磨いてカルナバ蝋で仕上げます。

 亜麻仁油の乾燥を待ってさらに数日。

 梅雨の合間を見計らい,お待ちかねの試奏へ----

 うむ----予想はしていましたが,ちょいと難しい笛ですわ。

 もともと,明笛はほかの笛類に比べると唄口が極端に小さいので,息を吹きかけて音が出るスィートスポットが篠笛とかよりずっと小さいんですね。さらにこの笛は管がやや細めなので,その範囲がさらに狭くなってるみたいです。

 慣れてくると唇のカタチで調整できるんでしょうが,ふつうの笛と同じつもりで吹いた場合,息の量に対し音に変換されるぶんが少なく,慣れてない現状ではしっかり音を出そうと思うとそれなりに息量が要ります。

 まあ庵主,もともと息継ぎが上手ではないせいもあるのですが,最初の1時間くらいはドレミだけでもうゼーハーの状態でした。(w)

 清楽における基本的な運指をもとに試奏してみた結果は,以下のようになりました。

 ○ ■ ●●● ●●●:合 4Bb+15
 ○ ■ ●●● ●●○:四 5C+32
 ○ ■ ●●● ●○○:乙 5D-5
 ○ ■ ●●● ○●○:上 5Eb+22

 当初の予想通り筒音,全閉鎖「合」はBbでした。
 古い清楽音階の基音ですね。全閉鎖からここまでは順調。
 続く「尺」が----

 ○ ■ ●●○ ○●○:尺 5F+30
 ○ ■ ●●○ ○○○:尺 5F#-24

 とやや乱調。本にあるこの2種類の指ではやや安定しませんでしたが,いろいろ試してみて----

 ○ ■ ●●○ ○○●

 という変則運指がF+15で,音も比較的安定していました。「工」は

 ○ ■ ●○○ ○●○:工 5G+35
 ○ ■ ●○○ ○○○:工 5G+25

 で,右手を全開放したほうが安定がよかったです。対して「凡」は

 ○ ■ ○●● ○●○:凡 5A-5
 ○ ■ ○●● ○●●:凡  〃

 と,どちらの運指でも問題ありません。
 呂音の最高は----

 ○ ■ ○●● ●●●

 で,筒音のほぼオクターブ上,5Bb+25が出ました。
 ピッチはだいたい合っているみたいですね。

 べつだん音が出ないわけじゃありませんが,ふつうに勘所をとらえるようになれるまでがちょっとタイヘンそうです。

 甲音もはじめはほとんど出せませんでした。
 集束した息がひっかからず,スカー,スコーっと唄口を通り抜けちゃう感じ。
 何度かくりかえし,少し慣れてくるとふつうに出せるようになりましたが…全体にクセのある,「プロ用の道具」って感じがします。

 「初心者用」は誰が使っても比較的使いやすく,そこそこのパフォーマンスを発揮しますが,プロ用ってのは性能的につきぬけたところがあるぶん,扱いが難しいものです。見栄張って「初心者用」でなく,いきなり「プロ用」の楽器とか道具買っちゃって,けっきょく放り投げたヒト----周りにもけっこういますよね?(ww)

 なるほど 「ほとんど未使用」 の状態で放置されちゃったわけだ。

 使い込むとけっこうなパフォーマンスを発揮するでしょうが,すくなくとも庵主みたいな(w)初心者向けの笛ではありませんねえ。

 塗りがまだ完全に乾いてないので本意気の響きはしませんが,塗膜がカッチリしてきたらかなり鳴りそうです。
 同じ理由で「金鈴子」システムの効きがまだ悪いんですが,こちらも管体が乾いたらリンリンと金属音ひびかせてくれると思います。

 とまあ,自業自得の失敗の結果ではあったものの,思いがけず試奏までに時間のかかってしまった明笛46号の修理ではありますが----実はこれに手間取っている間に,さらに2本ばかり増えてまして……
 次回からもまだしばらく,笛の直しが続きますです,ハイ。


(つづく)

 

明笛について(23) 明笛46号

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斗酒庵 ひさびさにまた明笛を買う の巻明笛について(23) 明笛46号(1)

 


STEP1 ヒビヒビノワレワレハウチュウジンダ

 さてさて,もう1本の46号。

 ヒビヒビでワレワレなのは最初にも述べたとおり。
 歌口上下にも2本入ってますし,棹背のものは上から下までパッキリ貫通しちゃってます。

 直るか?----と問われても確約はできない。
 上手く行ったらメッケもの,というくらいのシロモノです。

 


 しかしながら,この笛,ドレミ明笛の45号に比べると,ずっと古いタイプの貴重な笛であろうと考えられます。

 頭尾のお飾りなしで管全長448ミリは,古いタイプの明笛としてはさほど長くもありませんが,歌口の中心から裏孔まで328ミリ,同じく指孔の一番下第1孔まで277ミリというのは調べてみますと歴代でもトップクラスの長さ。
 清楽の演奏に使われたことがほぼ間違いない31号が管長539に対して裏孔まで320,第1孔まで279,こないだ直した44号が535に対して312の274----どちらも長大な明笛ですが----管の全長に対してそれらより長いのは管の太さの関係でしょうが,こうした寸法からだけでも,おそらくは全閉鎖BもしくはBbの清楽音階の笛と見て間違いないでしょう。

 資料としても貴重な笛です。何とか直してあげたいものですにゃ。

 


 主要な損傷個所は以下 (下解説画像,クリックで別窓拡大)----

 


 ヒビ割れのうち特にひどいのは,歌口の上方と,指孔の2~4孔間のもの。

 


 歌口上方の1本は,場所により1ミリ近く開いており,指孔のほうのは真ん中あたりが管内まで貫通し,少し盛り上がって食い違い段差も出来ちゃっています。
 45号とは違い,いづれの損傷箇所にも修理の痕跡はありません。

 


 ヒビヒビのワレワレで,内も外もバッチイ状態ではありますが,歌口周縁や管内の塗りに損傷や劣化した部分は少なく,響孔のところの紙貼り痕をふくめて管表面にもほとんど使用痕らしい使用痕がありません
 もしかするとほとんど未使用のまま放置され,この状態になったものかもしれませんね。

 簡見の時にエタノでさっと拭いはしましたが,管内いまだ一面灰色の世界ナレド,ここまでワレヒビてるとさすがに中性洗剤で洗ったり水を通したりもできません。

 キレイにする前に,まずはとにかく,管を漏れのない状態にいたしましょう。

 エポキのなるべく硬化時間の長いやつを買ってきました。
 これを練ってからエタノールでゆるめて,細い筆で割れ目にふくませてゆきます。
 庵主は百均で買ったネイルアート用の小筆(5~6本入り)を使ってますね----使い捨てでも惜しくない感じ?

 


 先にエタノールだけをヒビの中に流しておくと,それに沿って緩めたエポキも流れてゆきますので,何度かやれば,見えないような細くせまいところまで,接着剤をじゅうぶんに行き渡らせることができます。

 


 割れ目がエタノと接着剤でダボダボ,飽和状態になったところで,近所のDIYで買ってきたホースクランプの類をかけてゆきます。

 


 この時はみだした接着剤はなるべく,綿棒などで丁寧に拭っておきましょう。
 硬化時間が長いのを利用し,割れ目を締め付け閉じながら接着してゆきますので,けっきょく接着剤はハミ出ちゃうでしょうが,ここで最初の余分なぶんをちゃんと処理しておくと後々の作業がラクになります。

 



 割れてる箇所が多いので,すこしづつ,順繰りやってゆきます。
 エポキ自体は半日ほどで硬化していますが,エタノで緩めたりしているので,接着養生の時間もじゅうぶんにとりたい----けっきょく 歌口・指孔がわで3日,管背に2日 ほどもかかりました。

 




(つづく)

 

 

 

明笛について(22) 明笛45号

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斗酒庵 ひさびさにまた明笛を買う の巻明笛について(22) 明笛45号

 

STEP1 明笛45号


 ひさびさ…でもないか。(W)


 そういやちょっと前に44号がありましたっけ----
 今回は2本同時の出品でしたが,1本は比較的状態良好だったものの,もう1本はお飾りもなく,管もあちこちヒビヒビのワレワレはウチュウジンだ。

 庵主,月琴に比べると明笛のほうはけっしてまったく----いえいえ,ケンソンとかそういうのじゃなく,もう割と本気と書いてマジなほうで(^_^;)----得手でなく,いまだにドレミに毛の生えた程度の演奏がせいぜいではありますが。清楽という音楽分野を研究するうえで,基音楽器である明笛という楽器のデータは,曲の音階や奏法を考える上でのもっとも大切な資料の一つですからな。
 なんとかせめて。
 音階だけはふつうに吹き出せるようになろうと荒川河川敷で練習中,酸欠で倒れた頭の上をキジが走ってゆくという事態(事実ですww)に遭遇してなお,その探求だけは絶賛続行中。こうして,手に入るものは修理して,データを採っておるのでございます。

 とりあえず状態の良い黒いほうを45号。
 ヒビヒビの斑管を46号とします。



 まずは45号から。

 修理前の所見・採寸は以下。

 


 明笛でよく見る この黒い色の管は,竹の表面を硫酸などの薬品で焦がしたもの。
 黒竹とか紫竹とか,もともと色つきの材料を使ったようなわけではありません。

 ちなみにもう1本の46号管表面の斑模様も自然のものではなく,同じように薬品で処理した模様です。明治時代の 『新発明なんたら』 という類のDIY裏ワザ本には 「牙骨に色を付けるやりかた」 とか 「人造金の製法」「人造珊瑚製造法」(w) なんてのに並んでかならず,この 「人工斑竹の作りかた」 が紹介されてたりしますね~。
 つてもまあ,皮つきの竹の表面に薬品をてきとうにふりかけるだけのことなんですが…全体をズポっと漬ければこんなふうに黒竹風になりましょうし,棒かなんかにつけてパッパと振り撒けば斑模様になるし,型紙様のものを使えばもう少し複雑な模様を作り出すことも可能----ふつうの斑模様のほかに豹柄っぽい不定型な輪模様のある管も時折見かけますが,あれもおそらくはこの手での加工によるものでしょうね。

 焼印は「竹雨」か「竹両」。

 


 二文字目が少し潰れてるのでハッキリしません。
 ただ,この焼印,ちょっとヘンなところに捺されてます。
 ふつうこの手の刻印は,管背中心線上のどっかか,管頭の背側にそッと刻まれてるものですが,これは歌口のすぐ横あたり。
 焼印の熱でバッキリ逝ったら,せっかく作った笛が台無しになっちゃう危険のあるような場所ですね。工作によほど自信があったのかもしれませんが,あまり感心はいたしません。

 響孔のところに何か貼ってありますな。

 模様があるからラベルかな?----と,はじめは思ったんですが,そもそもここにラベルを貼るのもヘンなもの。
 周縁にちょっとギザギザが残っているし……古い切手かな,証紙の類かもしれん。
 最初から裏にノリがついてますので,竹紙・笛膜の代用品として使ってみたのでしょう。

 


 あと,管頭のほうにあるコレ----前所有者が「銘」を刻もうとしたみたいですね。

 「月魄」 でしょうか?
 ザンネンながら(w)「月」の2画めで挫折したようですが…ふっ……庵主も以前やろうとして苦労しましたっけね。
 けっきょくはルーターでガリガリっとやっちゃいましたが,竹になんか彫り込むのって手工具だとかなり難しいんですよね。繊維が一方方向でやたら頑丈なので,刃がぜんぜん思った方向に進まないんですよ。

 管頭・管尾の骨製お飾りが完備。  この両端の骨飾りが,明笛とほかの日本の笛を区別する時まっさきに目につく特徴の一つなんですが。今回の46号もそうなように,古物だとよく,ハズれてなくなっちゃってることのほうが多いですね。
 これも前所有者のシワザだと思いますが,かなりガッチリと接着固定してあります。管頭のお飾りの縁に,はみ出たニカワをぬぐった痕がバッチリとついてます。
 そして----この管頭のお飾りの中か,管のほうの反射壁の詰め物との間かに,なにか詰め物がされているみたいです。
 管頭のほうが不自然に重くなってますね。

 31号や44号なんかもそうですが,古い明笛は歌口から管頭の飾りまでの間がこれよりもずっと長く,そこにカウンターウェイト-----演奏時のバランスを衝る重しとして,たとえば鉛,たとえば唐木の棒とか鉄砂なんかを詰め込んであることがあります。
 同じようなことをして,演奏時の笛のバランスを調整したのでしょう。

 管頭のお飾りの付け根あたりと管尾の裏の飾り孔周辺に何本か,割レを補修した痕。
 歌口周辺もけっこうイタんでます。前所有者はこの笛をかなり大事に使い込んでたみたいです。

 要修理個所をまとめると,こんなとこでしょうか。(画像クリックで拡大)

 


 管尾裏孔のあたりにかなり長い未補修のヒビが1~2本見つかりました。
 これらはおそらく,使われなくなってから後,放置されてる間に生じたものでしょう。管長の半分くらいまで伸びてはいますが,ごく表面的な薄ヒビのようですから,保護塗りで固めるていどでも問題はなさそうですね。
 ほか大きなヒビはだいたい補修済で,さほど問題となるような割れもないようです。ただいくつか,小さなヒビやキズをウルシではなくニカワで埋めようとした素人修理がありますので,そこらはいちどキレイにしてからやり直しておかなければなりますまい。


 歌口の内がわ,
 とくに息があたる唇と対面がわの壁面は,塗装もボロボロでほとんど竹の下地が出ちゃってます。ごか上下にちょちょっと,濃い緑色の塗料で補修塗りしようとした痕跡も見えますな----なんでミドリ色?

 反射壁の塗りはだいじょうぶそうですが,その周辺はけっこうボロボロですね。
 とはいえ,このあたりは使用による通常の劣化で,管内のそのほかの部分の状態は比較的よく。例によって灰色一色になってたのをジャボジャボと水洗(w)してもビクともしませんでした。
 エタノールを使うと若干溶けてきますので,ベンガラと柿渋かそれにスピットニスを混ぜたような類の顔料系の塗装だったのでしょうか。

 洗った後,ちょっと吹いてみましたが,現状でも音が出せなくはない状態です。

 ----まあもっとも,かなり出しにくいし不安定ではありますが。

 このいちばんの原因は,歌口の周縁がガタガタになっちゃってることでしょう。

 歌口のふちに比較的大きなエグレが2箇所,上下の縁にも細かいキズが見えます。
 これじゃ吹きつけた息が乱れて,ちゃんとした鳴りませんね。

 では,今回の修理は,この歌口の補修からはじめることといたしましょう。

 


 まずは月琴の修理で出た唐木の粉を茶こしで軽くふるい,特に細かいのを集めて,エポキでよく練り,なめらかなパテにします。
 喰いつきが良くなるよう,歌口の周縁はあらかじめ綿棒や布を使って,エタノでよく拭っておきましょうね。

 これを----こうと。

 パテを盛ったあとは,こういうクリアフォルダの切れ端などをかぶせ,軽く押しつけておきます。
 こうしますと少ないパテを細かな凹にきっちりと押し込められ,余計なぶんが自重で流れたりもしにくい。
 無駄に竹の表面を荒らしたくないので,パテ自体の量も盛りつける範囲も,必要最小限にしときたいですもんね。

 


 一晩ほど置いてから整形。

 木片に目の細かなペーパーを貼ったもので,軽く軽くこすりながら余分を削り落とし,均してゆきます。
 試し吹きしながらの作業でしたが,表面の凸凹がなくなるほど息の流れがまとまってゆくのが,吹いた直後の曇りから分かります----面白いものですね。

 繊細な作業なので,けっこう時間がかかりました。

 


 新しくできたヒビの類には,ゆるめたエポキを流して留めておきましたので,これであとは管の内外を保護塗りすれば,まず大丈夫でしょう。

 


 まずは管の内がわから。

 最初にカシューの「透(スキ)」をジャブジャブに溶いて,これを細めの筆を使って歌口や指孔から流し込むよう置き,先端にShinexの切れ端をくくりつけた細い棒を出し入れして均して,管の内壁にじっくりたっぷりムラなく染ませます。
 これで顔料の層が残っている箇所は,そのまま固めて下地にしてしまうわけですね。

 

 最初の塗りは三日以上置いて,キッチリカッチリ乾燥させます。
 何回も書いてますが,カシューの塗りは最初のコレが大事。(w)

 しっかり固まったところで,#1000くらいのペーパーを先に巻いた丸棒で管内を軽く均し,上塗りに入ります。
 今回は「朱」で。最初に特に荒れてる歌口周辺や指孔の縁を部分的に塗ってから,使い古しのShinex(薄いスポンジっぽい研磨用具)を細棒にくくりつけたのに塗料を吸わせ,全体を塗りこめてゆきます。

 外がわは「透」の拭き塗り。
 塗っては布で拭き取り「拭き漆」風に仕上げますが,使用で荒れやすい歌口・響き孔の周縁とヒビ割れの補修箇所は,別に何度か筆塗りして部分的に少し厚めに塗膜を作っておきましょう。

 


 一週間ほどおき,ピッカピカに磨いたら修理完了!!

 5月の晴れた日の昼下がり,近所の公園で試し吹きをしてきました。
 清楽の運指での音階は以下の通り。

  ○ ■ ●●● ●●● 合 5C+25
  ○ ■ ●●● ●●○ 四 5D+30
  ○ ■ ●●● ●○○ 乙 5E
  ○ ■ ●●● ○●○ 上 5F+40
  ○ ■ ●●○ ○●○ 尺 5G+30
  ○ ■ ●○○ ○●○ 工 5Bb-21
  ○ ■ ○●● ○●● 凡 5B

 筒音(全閉鎖)がドの30%上,ミとシをのぞいて西洋音階と比べると全体に2~3割高めとなっていますが,清楽器の音階は西洋楽器のそれと比べると,第3音が2~30%低いのが特徴。全体が高くて第3音の「乙」がピッタリなんですから,「明笛」という楽器としては音階,合ってるわけですね。(W)
 まあ耳で聞くかぎり,筒音をドとしたときの音階に,そんな不自然な感じはありません。ふつうにドレミ音階の笛として使えそうです。

 古いタイプの清楽の明笛は,全閉鎖がBからBbですので,全閉鎖Cのこの笛は音階からも全体のカタチからも明治後期から大正時代にかけて作られた,比較的新しいタイプの明笛で,清楽の演奏に使われたかどうかには疑問がありますが----まあ「月魄」なんていう漢文厨二病的な銘(w)を刻もうとしていたところからすると,もしかしたら使ってたかもしれませんね。
 全閉鎖Cなので,清楽の楽譜をそのまま使っての合奏は出来ませんが,うちのWSでやってるみたいに,月琴がC/Gの調弦なら演奏に合わせること自体はふつうに可能です。ただしその場合のメロディは,本来の笛のパートじゃなく,月琴と同じのをユニゾンで演奏することになっちゃいますけどね。(w)

 吹きやすい笛です。

 古い明笛は歌口が極端に小さいので,勘所(息を吹きかける場所というか角度というか…)をつかむのがちょっと難しいんですが,これは篠笛風に改良され,歌口がやや大きめなんで,比較的ラクに音が出せます。

 ただ,庵主はふだん筒音の1オクターブ上を

  ○ ■ ○●● ●●●

 という運指で出すことが多いんですが。この笛だと音の安定が悪く,むしろふつうに甲音を使ったほうが安定して鳴りますね。これも歌口が大きめなおかげだと思いますが,古いタイプの明笛よりずっと甲音が出しやすいです。ヘタクソの庵主でも2オクターブ上くらいまでは余裕で出せました!(甲音,ふだんうまく出せないのでとてもウレしいwww)

 清楽の資料としてはあまり価値がありませんでしたが,楽器としては面白く使いやすい----悪くない笛でした。

 

 



(つづく)

 

 

明笛44号 「招月園」刻銘

MIN_21.txt
斗酒庵 「招月園」の明笛を調べる の巻明笛について(21) 明笛44号 「招月園」刻銘
STEP1 刻まれた詞(コトバ)

 ひさびさに笛を落札しました。
 前回の記事との間に4本ぐらい開いてるんですが気にしないでください。(w)

 今回入手したのは,漢詩の彫ってある古いタイプの明笛。
 清楽に使われた長ーい笛ですね。
 管頭2行に書かれた文字は

 茅 屋 何 人 共 住 石 林 似 我 曾 遊 白 雲 只
 在 半 嶺 青 山 誰 到 上 頭 亥 極 月 〓 〓

 明・藍仁「題青山白雲図」ですね。

 茆 屋 何 人 共 住,石 林 似 我 曾 遊。
 白 雲 只 在 半 嶺,青 山 誰 到 上 頭。

 茆屋 何人か共に住まむ,石林は似たり我が曾て遊ぶに。
 白雲只だ半嶺に在す,青山誰が上頭に到らむ。

 (絵の中の)あの田舎家には,どんな人々が住んでいるのだろう,
  そそりたつあの岩山は,まるでむかし旅したあの地のようではないか。
  山のなかばは白い雲に隠れている,あそこで
  あの青い頂をあおぎみているのは誰なんだろう

 題からするに,実際の景色ではなく「青山白雲図」という絵を見て詠んだ詩なわけですね。
 本では「茅」が「茆」になってますが,意味はおんなじ。
 「茆屋」であばらや,質素な田舎家を指します。

 漢詩の授業ではまず教わらない「六言詩」,しかも李白とか杜甫の詩じゃないあたりが,いかにも本意気の「清楽家」の笛----うん,このくらいイヤミじゃないと(www)----っぽいです。

 「極月」は十二月のこと。「亥年の十二月」,この笛の完成年記でしょうか。
 これに続く歌口の左下にある二文字(右画像)が今のところ解読不能です。「暖済」にも見えますが……さて。



STEP2 「招月園」について

 漢詩のとなり,左下に三文字あるのが,この笛を購入した理由----「招月園」の銘ですね。

 手もとの資料でこの名前が清楽家としてはじめて現れるのは,明治12年の『西京人物志』。
 「月琴」の項目に

  上京区第三十組麩屋町御池南
   招月園女史

 翌明治13年の『大日本現在名誉諸大家獨案内』では

 ○明清合奏
  麩や丁姉小路 招月庵

と,「招月"庵"」になってます。「招月庵」だと歌だか俳句だかの名跡で同じ名前の人がいますが,調べた限りでは関係はなさそうです。住所も同じ「麩屋町」ながら,その後がちょっと違ってますが「姉小路」は「御池通りの南がわ」にありますんで,同じ場所を指しているのだと思います。
 続いて14年,遠藤茂平の『京都名所案内図会』にも

 ふや丁
  御池南  招月園女史
 と,出てきます。
 3年連続してなにかしらに取り上げられてるとこからしても,この明治10年代に名を売ったヒトのようですね。
 最初の資料で「上京区第三十組」となってましたから,中白山町,いま旅館が何軒かあるあたりですかねえ。

 福田恭子「山口巌の生涯」によれば,お箏の山口巌氏の京都盲唖院時代の資料中に「"音曲研究会" 京都府盲唖院 三月廿六日 於 東山知恩院内午前正六時始メ午後五時終リ…」(『検査一件書』 明治18年3月)と「音曲研究会」により演奏会が行われたという記事があり,その参加者として----

 ○明清楽
 水滸伝武鮮花,二宗不諗母流水
  招月園 社中

と「招月園」の名が出てくるようです。「社中」とあるからには清楽のお教室として参加したということでしょう。「二宗」は「仁宗」でしょうね。この「武鮮花」「仁宗不諗母」といった曲は芝居仕立ての大曲なので,あまり月琴独奏という形式では演奏されない曲です。(「仁宗不諗母」がどういう曲だったかにつきましては今夏の復元記事をどうぞ!)
 どっちかというと大勢でいろんな楽器を持ち寄ってワイワイやる手合いですね。
 明治25年の『音楽雑誌』20号,大阪東区の「備一亭」で行われた平井連山(初代)の七回忌の演奏会についての記事中にも,この「招月園社中」が協力した旨が見えます。これも当時の清楽関係としてはかなり規模の大きな催しだったようですから,それに手助けを頼めるくらいの規模で,あるていどの人数を教授していただろうということがうかがい知れます。

 しかしながら,庵主も現状文献から追えるのはこのくらいなもので。

 そもそも「招月園」というのは「○○亭」とか「××庵」と言ったのと同じ,自分の家や庭や部屋などの名前を以て,自分の名前に代える----いわゆる「室号(しつごう)」という類。庵主の「斗酒庵」てのもそうですが,ペンネーム・芸名,雅号てのの一つです。
 つまりこの人,現状本名も分からないわけですね。
 ただ最近,大正13年に出された『日本音楽の聴き方』(那智俊宣)という本の中に,こんな一節を発見しました。

 …この期の初めから末期にかけて流行を極めましたのは,文政年間長崎に伝来した支那近代楽の「明清楽」でありました。南宗画及び煎茶の普及と共に。支那近代趣味の人に迎へられ,其雅筵にはこれが演奏を絶たない有様でありました。明治の初年から,二十年頃までを極盛期といたしまして,日清戦役に至って一時に音を絶ちました。長崎派と渓庵派の二派ありまして,長崎派では久留米の人仙台の箏曲の山下検校,渓庵には東京に長原梅園,春田母子,京都に岡崎招月園女史など覇を称しました。管絃楽を重とし,月琴,阮咸,提琴,胡琴,明笛,太鼓等はその楽器の重なるものであります。(「七、諸樂交替期」より)

 あー,細かいことを先に言っときますと。長原梅園と春田は「渓庵派」ではありませんね……たぶんこれは東京を中心に活躍した長原梅園の一派を,本家の連山派が「大阪派」と呼ばれるのに対し「東京派」と呼ぶこともあったところからきた混乱でしょう。鏑木渓菴が興し富田渓蓮斎が継いだ「渓庵派」も,活動の中心を東京としていたことから「東京派」と呼ばれることもありましたが,伝承の系統が違っています。
 また長崎派の代表にお箏の山下検校入れちゃうのか!ってあたりも文句がないでもないんですが(w),山下検校が清楽にも関わってたのはまあ事実。長崎派ってのもふつうだと小曾根乾堂・三宅瑞蓮とか東京なら奥山の松本瑞蘭あたりでしょうねえ。

 そりゃまともかく----ここには「岡崎招月園女史」と書かれています。清楽家で「京都に」っていうから,ここまで追ってきた「招月園」のことで間違いないでしょう。

 もっとも,京都ですからもしかすると「岡崎」は左京区の「岡崎」なのかもしれないんですが(心配性)----まあほかの人名がその形式になってませんので,ここは素直に名字と受け取って良いでしょう。
 「招月園」の名字が「岡崎」だというのは,現在までの所この記事以外に見たことがありません。

 さてこの文の筆者「那智俊宣」は鈴木鼓村の別号。
 明治~昭和にかけて活躍したお箏の人で京極流の創始者。北原白秋などのやっていた「パンの会」のメンバーでもあり,交遊は広く趣味も多彩にして多才の人。大正時代にはこの名前で,京都で日本画家としても活躍していたそうです。
 明治8年,宮城県の生まれなので,招月園の活躍時には直接的な交流はなかったと思われますが,明治30年代以降は京都がその活動の中心であったので,そこで手に入れた情報だったのか…または,この人の祖母・母ともに京都の人らしいので,あるいはそのあたりの伝手からの情報だったのかもしれません。
 もっとも,ほぼ独学で『日本音楽の話』なんていう大著を書きあげちゃうくらい音楽全般に底知れぬ造詣を有していた人ですので,たんに「知っていた」だけなのかもしれませんが。


STEP3 笛の状態と修理

 さて,今回入手した笛に戻りましょうか。
 招月園女史本人の作ったものか,社中で作らせたものに銘を刻んだだけか,そのあたりはまあ分かりませんが。

 庵主の刻文の読みが合ってたとして「亥年」の作だとすると明治では8(1875),20(1887),44(1911)。招月園の活躍時期や笛の状態からすると真ん中の,明治20年代の作かなあ。

 以前音大で見た伊福部先生のところの招月園の清笛は,色の薄い地に変り斑をちらばせたキレイなものでしたが,こちらは全体が茶色。
 煤竹っぽい色ですが,管尻のところを見る限り竹の肉の色や感触は違いますので染めでしょう。
 お飾りをはずした状態で管長は543。
 明治~大正の頃に売られていた標準的な明笛で長さはだいたい45センチくらいなので,10センチ近くも長いですね。

 管頭のお飾りがなくなったか,お飾りの接合部分が破損したかしたらしく。凸になった部分を切りとり,内がわを削って少しラッパ状に加工してあります。
 まあこのタイプの明笛は,歌口から管頭までの部分が長いので,飾りがなくてもこれで格好はつくだろう,ということでしょうか。
 管尻のお飾りは残ってますが,虫やらネズやらにやられ,かなりボロボロな状態です。素材は牛の角ですね。
 管径は管頭で外22,管尻で外20,内11.5。
 歌口は12x8,指孔はそれよりわずかに小さく10x8ていどの棗型。響き孔と裏孔はφ6の円形。

 歌口から各孔までの寸法は以下の通り----

歌口響孔調子孔1調子孔2裏孔
73137164191218247274332356312

 明笛の場合,歌口の中心から裏孔までが,弦楽器で言うところの有効弦長にあたりますね。反射壁(管頭の詰め物)は歌口の上端から4ミリほど下がったところとなっています。
 すでに述べたよう,管頭のお飾りはなくなっており,管尻のお飾りもボロボロですが,そのほかの損傷個所は以下----

 歌口のあたりの塗りが傷んでいるのは,使い込まれた笛としてはまああたりまえの故障なのですが,反射壁手前の塗りの剥離は,状態から見て,前の所有者が反射壁の位置を後で調整したのではないかと思われます。

 現状で息を吹きこめば音が出る状態,しかも管全体がビビるくらい共鳴してますんで,この前所有者によるピッチの調整はバッチリGJ。製作当初はもうすこし歌口がわというか,手前に位置していたようですね。
 周辺の内壁,そして歌口と響孔の中間部位の管背がわにも数箇所の剥離が見られます。これらも使用による劣化というよりは,反射壁調整の巻き添えを喰らったものだと思われます。そのうえ,塗りが剥離した状態でそのまま使っていたようで,露出していた竹の地が,ヨゴレで真っ黒になっていましたよ。

 あとは管尻がわ指孔の第1孔周辺,塗りも竹の表層部も剥がれ,竹肉の部分が露出して表面がガサガサになっています。指孔の縁もちょっとボサボサになってますし,孔の壁の塗りも傷んでますね。竹の表層ってのはふつうけっこう丈夫なものなんですが……これは削れたとかでなくて,管表から管背にかけて,液体が滴ったような痕跡が見られますね。
 単なる水濡れではありません。
 なにか薄い酸とかアルカリとかで,時間をかけて浸食,溶かされたみたいな感じです。
 管内の塗りには損傷が及んでおらず,指孔も押さえた時の感触が悪いだけで使用上の問題はさほどなさそうですが,軟らかい竹肉の部分が出てしまっていますし,表面がこんなだと何かにひっかかって傷んでしまいそうですので,少々表面を固めてやらなければなりますまい。

 音が出せる----つまりは楽器として使用可能なわけで,この時代に作られた古楽器としては保存状態がかなりよろしい。塗りの補修と傷んで竹の肉の出てる第1孔周辺を固めれば,ふつうに使える状態に戻るでしょう。

 正直音階を調べるだけなら,管頭と管尻のお飾りは楽器としては無くてもまあ構わないんですが。管頭のお飾りについては,演奏時に長い管体のバランスをとるカウンターウェイトとしての機能も持ってますんで,「笛として使う」なら作らなきゃなりますまい。

 管尻のほうはボロボロながら残っているものの,管頭のお飾りに関しては現物が残ってないので,どんなものだったか分かりません。カタチよりは重さを考え,だいたいの大きさを決めて作りました。
 今回の材料は,いつも庵主が月琴の糸巻作るのに使ってる百均のめん棒----ふつうなら旋盤で作るような部品ですが,持ってナイもので,根性と手ヤスリで削り出します(w)
 管尻のほうはだいたいのカタチを出した後,管尻方向から中心に孔を通してリーマーでグリグリして内がわをラッパ状に。管の接続部をさしこむほうは,彫刻刀で深さ1センチほどの凹に彫り込みました。

 もともとの塗りがかなりしっかりしていたようなので,内塗りは基本的に管内や指孔の縁の剥離箇所の補修と保護塗りていどで済みました。外がわは第1孔周辺の損傷個所に塗料を染ませて毛羽立った表面を固めたほかは,かるく全体を拭いたていどですね。
 一週間ほど硬化養生させてから磨き,公園で試奏してきました。

 口 ●●●●●●  合/六  4Bb+35~4B-42
 口 ●●●●●○  四/五  5C+25
 口 ●●●●○○  乙  5D-12
 口 ●●●○●○  上  5Eb+15
 口 ●●○○●○  尺  5F+20
 口 ●○○○●○  工  5G-10
 口 ○●●○●○  凡  5A-25
 (口は歌口,●閉鎖,○開放)

 全開放は5A+30
 呂音での最高音は 口 ○●●●●● で,全閉鎖のほぼオクターブ上,5Bb が出ました。

 西洋音階にあてはめると,筒音がかなりビミョーな感じではありますが,「"合" がBbからB」というのは文献通りの当時の音。かなり正確な清楽音階になっているのではないかと思います。
 修理前にも思いましたが,非常に吹きやすいですね。研究用に購入したものですが,ふだん使いの楽器としても使えそうです。
 ほぼ同じ大きさの31号とくらべても,音の安定がとてもよろしい。
 呂音から甲音への切り替えもスムーズ。
 笛へたっぴな庵主でも,苦労せず甲音が出せます。
 さすがほんとうの清楽家が作ったマジ笛,ちゃんと分かって作ってる,って感じですか。

 楽器として庵主にはもったいないくらいの上等品ですんで,こりゃもう少し練習しなきゃなあ。

(おわり)