痩蘭斎旧蔵月琴02 (1)
2025.9~ 痩蘭斎旧蔵月琴02 (1)
STEP1 松音さんちのそっくりさん 稼ぎ仕事のほうの都合もあって、11~12月は修理作業のほうを優先させたため。この痩蘭斎シリーズ、修理報告がかなり遅れておりますです。 大晦日から松の内いっぱい、記事の更新に費やしましたが……まだ終わってません。(しくしく) 今回からは痩蘭斎旧蔵月琴の三面目。 かつてバラバラになった01号といっしょに、ネオクで出品されていたもう1面の月琴の記事となります----よそ様の楽器じゃなく、ウチに来た楽器のほうなので、シリーズとしては3面めではありますが、番号は「02号」となります。ややこしくてごめん。
01号松琴斎の記事でも少し触れましたが、こちらの楽器の作者は「松音斎」と推定されています。 01号の作者である松琴斎と、この松音斎の関係については、今のところ裏付けとなるような資料が見つからないので、はっきりしたことは分かっていないのですが。両者の楽器には形状・寸法から加工の手まで含め、単に「そっくり」というだけでは済まない共通点があることや、双方の楽器の工作の差異・変遷から、ほぼ同時代ながら、おそらくは松音斎のほうが若干先で、二人は親子か師弟の関係にあるのではないかと推測されます。 庵主がいままで扱った松音斎の作品は----
松音斎(2006):http://gekkinon.cocolog-nifty.com/moonlute/2006/11/post_4ccf.html
33号(2013):http://gekkinon.cocolog-nifty.com/moonlute/2013/09/post-928b.html
45号(2015):http://gekkinon.cocolog-nifty.com/moonlute/2015/11/post-6cbd.html
松音斎(2021):http://gekkinon.cocolog-nifty.com/moonlute/2021/04/post-5390d0.html ----と4面ほどあります。工作の差異から、おそらく、響き線の基部が肩部にある3面が比較的初期の作で、胴体横に移りつつある「松音斎(2006)」のみが、これらより若干時間のたった、清楽流行のなかばから晩期にかけての作ではないかと考えられます。 すでに述べたように、松琴斎も彼の楽器と寸法・外見的にそっくりなものを製造してはいるのですが、二人の作にはいくつかの特徴的な差異があります。表面処理やいわゆる工作の「手」といった細かいものや感覚的なものを除き、分かりやすいのを二つあげるなら、
1)棹の断面形状:松音斎はU、松琴斎はV。
2)内部構造:響き線の基部が松音斎は基本的に肩部、松琴斎はほぼ中央。 といったところになりましょうか。 二人の楽器は基本的に、関西の連山派の好みに沿って作られたものであり、関東の楽器に比べると棹や糸倉が少し短めです。松音斎の楽器では、その路線に即した伝統的な形状・構造のものがほとんどなのですが、松琴斎では、一部の工作がより簡略化されていたり、01号のように、関東の楽器に寄せて作られたものなどが見られます。これはおそらく、清楽の広範な流行の影響で、流派を問わず使えるような、均等化された規格の楽器が受けるようになっていったことが関係していようかと考えます。 今回の楽器の作者を「松琴斎」ではなく「松音斎」と判断した理由は、こうした各部の形状的特徴や寸法の一致が大きいですが、決め手は----- コレでしたね。
ラベルの痕。
文字は完全に消えちゃってますが、痕跡部分のサイズは 32×26。 そっくりな楽器を作る松琴斎のラベルは、これよりも一回り大きく。 スタイルの似た関東の唐木屋は、ラベルの形状自体が異なります。 そして同じ松派の一員と思われる松鶴斎は、ラベルのサイズや形式こそ松音斎と同じですが、楽器の構造や作風が他二人とは一目で分かるレベルで異なっております。 ちょっと前置きが長くなりましたねえ。 まあこりゃ、前回01号を最初「唐木屋」の作だと勘違いしちゃった言い訳リベンジみたいなもんと思ってください。 調査開始当初バラバラの状態だった01号と違い、こちらははじめから全体を俯瞰・観察できる状態でしたし、実際に持って感触で確認することもできましたので、間違いないとは思いますよ----「手の記憶」てのは、けっこう正確なもんです。 さて原状の観察とまいりましょう。 01号と同様に、扇飾りが中央に移され、それがなくなった第5・6フレット間にフレットが追加されていた痕跡があります。
痩蘭斎先生も半音のフレットを追加しちゃう方でしたが、ネオクでの出品写真の段階からすでにこうなってましたので、これは元の所有者の仕業でしょう。 01号と同じように各部真っ黒になっちゃってますが、ネズミの食害は、こちらのほうがはるかに少ないようです……とはいえ、
あっちゃあ…糸倉のうなじのところ、かなり派手に齧られちゃってますねえ。 棹を抜いてみましょう。
棹なかごが細くて長い----これも実は松音斎の特徴なんですね。 松琴斎の棹なかごはもうすこし太目ですし、唐木屋のだともっと横幅が広い。国産月琴の中でも、この松音斎のなかごがいちばん細いんじゃないかな。
基部に何枚かスペーサが貼られてます。 ヒノキか杉のツキ板のようですね。 なんか基部の端にごく細い糸が結わえられていますね。 見たところ延長材も抜けてないし、基部にも割れらしい痕跡は見つかりませんが……延長材接着の補強みたいなものでしょうか。 延長材はおそらくヒノキ、ワンチャン栂(ツガ)の類かな?びっちりと目の詰んだ材です。 先端部分が妙にガタガタになっています。これもおそらく原作者じゃなく後の使用者による加工のようですが、何があってこんな風にしたのかは、現状では分かりません。 ----とりあえず、この楽器はこのあたりに何か問題がありそう、ということは分かりました。 さて、01号もヨゴレがスゴすぎ、木部が隠れちゃってたので、先に少しキレイにしましたが、今度のもオリジナルの指示線とか加工痕が見えないんで、本格的な調査計測の前に軽く清掃しておきたいと思います。
布や歯ブラシを使って、棹や側板をゴシゴシ…っとな。前回同様、側板に使われてる染料が分かりませんので(たぶんスオウ)ぬるま湯で。ガンコなヨゴレのみ中性洗剤をちょっとつけ、取り除いてゆきました。 この作業中、気が付いたんですが。 今回の楽器、棹口のところに3本、斜めに線が書いてありますよね。調べたら、これと同じもの、45号の同じところ(下右画像)にもついてたんですよ。
他の作のは全部違う漢数字だったので、製造番号だと思ってたんですが、同じものがあるということは、製作年とかなのかもしれませんね。 少しキレイになったところで、ちょっと面白い比較をしてみましょうか。
紐のついてるのは松琴斎の楽器の棹です。ほら、長さも糸倉の形も、糸巻の孔の位置までそっくりでしょう? 違っているのはここ----
山口を乗せる「ふくら」と、握りの部分の間にある段差。 ここが松音斎はぬるりと滑らかなのに、松琴斎は比較的くっきりとしています。
これは既に述べたように、松音斎の棹が根元からうなじのところまで同じUシェイプになってるのに対して、松琴斎では、根本部分は同じUシェイプながら、うなじの方に向かいVシェイプとなっていることに由来します。松琴斎の棹のほうが、松音斎のより若干握りが細いんですね。 平面的に描き出した時のフォルムや寸法はぴったり同じになるので、両者ともこれを同じ型紙から作っているのではないかと想像されます。それでいて立体とした時の加工にのみ差異があるというのは、ちょっと面白い事態かもしれませんね。 おそらく後発と思われる松琴斎が、なぜ棹の握りの形状を変えたのか、詳しいことは分かりませんが。 庵主の個人的な感想から言うなら、一般的なUシェイプ型のほうがいくぶん使いやすいですね。庵主は棹を握りこまず、棹背につけた左手の親指の腹だけで楽器をコントロールするのですが、このときVシェイプの棹ではポイントが少しせまいため、指がずれてしまう危険性があるのですよ。 さらに調査を続ける前に。 この楽器、糸倉先端の間木がなくなってしまっており、このままだとちょっと危険なので、とりあえず先行してここを補修しておきます。 この状態だと、ちょっと何かにひっかかっただけで、折れたり割れたりしちゃいそうですからね。
棹の材はおそらくサクラ。 端材箱の中から似た色味と硬さのものを見つけ出し、接着しておきます。新しい間木、これはサクラかな…いやカツラかも…いやいや、材の厚みから見て、たぶんサクラだと思います。
くっついたところで整形。 この蓮頭が接着される部分、松琴斎ではほぼ真四角になっていることが多いんですが、松音斎は背側がわずか~に浅い曲面となってますので、ちょっと慎重にカタチを合わせます。 といったあたりで今回はここまで----まだちょっと、調査が続きます。 (つづく)
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