連山派・梅園派の「哈々調」について

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斗酒庵 贅六の清楽に挑む! の巻2019.1~ 連山派・梅園派の「哈々調」について

 さてまた現在進行中のまとめより。
 そういえばWSではあまりやらない曲ですねえ。
 「哈々調」は別名を「鉄馬行」と言います。これは歌の最初の段に----

  紗窓紗窓外呀。鉄馬児响叮噹。
  姐児聞声睡呀。隔壁王大娘。
  軽移細歩。倒高楼上呀哈。
  哈㕽哈㕽哈々々

 と,出てくるところから採ったものですね。この「鉄馬」っていうのを田中従吾軒さんは「風鈴」と訳してます(『清楽詞譜和解』)が,これは「鉄馬兒(ティエマール)」という,満州族の女性の履く靴のこと。
 清楽に伝わっているのは物語のほんのトバ口,導入部のところなんですが,これのもとになっているのは大陸で「紗窓外」もしくは「王大娘探病」と称される俗曲だと思われます。全体の内容としては世話焼きのおばちゃんが,世間知らずのお嬢様の恋患いに首をつっこむお話。性別は逆転しますが落語の「崇徳院」みたいなお話ですね。
 古い楽譜の付点はだいたいこんな感じ----


 中井新六『月琴楽譜』および鈴木孝道『月琴独習自在』は「ハハチヤウ」と中国語読み。平井明『月琴胡琴明笛独案内』には「ほうほうちやう/ハハチヤウ」と二種類の読み方が併記されてますが「ほうほうちやう」っていう読み方はほかで見たことがない。
 たぶん「ハハチョウ」と呼んでいたんだと思います。歌の後半に「哈哈㕽哈㕽哈々々」という繰り返しがあります。ここから出た名前ですね。おそらくはここを女性の高音で,コロラチュオのようにコロコロと転がるように唱えたのでしょう。
 亀齢軒斗遠『花月琴譜』(天保3)ですでに紹介されている清楽のなかでも古い曲です。譜を比較してみると,清楽初期は野郎が多くて声が出なくかったせいか,全体に低音で唱えてたみたいですが,のちに女性が増えてきたおかげで,後半の部分が高音に戻って行ってるようです。
 たとえば,柚木友月の『明清楽譜』の譜(YNK014)は第一楽譜『声光詞譜』と符字順列が一致してますが,その付点からはこんな近世譜が再現できます----

[四--合|四-仩-|工-四仩|工--○|
 工-合四|合-工-|尺---|尺---|]
 上-上-|尺--○|四-四仩|合○工-|
 工-六-|工-尺-|尺工尺-|上-上-|
 尺工上-|四-工-|四仩合-|合-工-|
 合-合-|仩-四仩|四仩合-|合-工-|
 合-合-|仩-四-|工-尺-|--尺-|
 --|
 再現曲

 同じ連山派系なんですが『清楽曲譜』(OKINO_A014)では----

[四--合|四-仩-|工-四仩|工--○|
 工-合四|合-工-|尺--○|尺--○|]
 上-上-|尺--○|四-四-|仩-合-|
 仜-仜-|𠆾-仜-|伬-仜伬|伬-仩-|
 仩-伬仜|仩-四-|工-四仩|合-合-|
 工-合-|合-仩-|四仩四仩|合-合-|
 工-合-|合-仩-|四-工-|尺--○|
 尺--○|
 再現曲

 と,後半の符が1オクターブ高いニンベン付になってますね。

 加藤先生からいただいた『声光詞譜』と長崎歴文の『弄月余音』の付点は,どちらも符音の長さが柚木の例の半分,すなわち無印を半拍としているようです。どちらの資料も付点が完全ではないため単独での読解は不可能ですが,まあどこが長いか短いかくらいの判断材料,参考にはなります。柚木の譜と『清楽曲譜』の譜では1箇所だけ音長が違う(3行の1・2符め)のですが,これはどちらの資料でも長音を示す付点の類は付されていない。平井明の『月琴胡琴明笛独案内』でも符の横に短音を示す傍線が引かれてますので,連山派の伝統的な弾き方では,この部分は柚木の譜と同様になっていただろうと思われます。
 ちなみに渓派の類例では当該の「四仩」部分が『清楽曲譜』のように2分2分になってます。もしかすると『清楽曲譜』が2分2分にしたのは,こうした他派の演奏の影響だったかもしれませんね。

[四-合-|四-仩-|工-四仩|工--○|
 工-四仩|合-工六|尺---|---○|]
 上-上-|尺---|四-四-仩-合○|
 仜-仜-|六-仜-|伬-仜六|伬-仩○|
 仩-伬仜|仩-四-|工-四仩|合-合○|
 工-合-|合四仩-|四仩四仩|合-合-|
 工-合-|合四仩-|五六工六|尺---|
 ---○|(『清風雅譜』SG017「哈々調」)

 連山派の譜で「尺」の4拍が2音となっているところが8拍1音の長音になっているところが特徴的ですね。ただ『清風雅譜』の解説でも述べてるよう,こんな長い音はありますが,これはけっしてこの曲が緩やかなテンポの曲であるためではなく,通常の付点では符音の長短関係が分かりにくかったり拍子がとりにくいような場合などに,曲全体の符音を拡大し教授上「分かりやすい」カタチにしたもの。実際の演奏ではそこそこ軽快に弾かれたものと考えられます。

 さて歌では,高柳『洋峨楽譜 坤』鷲塚『月琴歌譜』中井新六『月琴楽譜』3冊,歌詞対照譜での発音位置は一致しています。鈴木孝道『月琴独習自在』のは例によって発音位置が部分的に異なってますね。下表赤が中井・高柳の版,緑が鈴木の歌詞対照譜によるもの。

 
 
-間-
-間-
-間奏-
-間奏-
 
-間-

 中井らの版が,連山派における標準的なかたちに近いものと考えられますので,これをもとに歌唱を再現してみましょう。

再現曲

1)紗窓紗窓外呀。鉄馬児响叮噹。
  姐児聞声呀。隔壁王大娘。
  軽移細歩。倒高楼上呀哈。
  哈㕽哈㕽哈々々

2)飄開錦紗帳呀。一陳噴花香。
  撥開紅陵被呀。小小二姑娘。
  面黄肌痩。不像姑娘呀病呀哈。
  哈㕽哈㕽哈々々

(白)二姑娘。你是什麽病呀

3)我也病児是呀。飯也不想吃。
  茶也不想量呀。昏昏又沈々。
  昏々沈々。到了如今呀哈呀哈。
  哈㕽哈㕽哈々々

(白)請個医生来。看々病麽

4)請個医生到呀。我也不要他。
  請了医生来呀。迷迷模々
  迷々模々。我也不要呀他呀哈
  哈㕽哈㕽哈々々

(白)請個和尚来。超度超度罷

5)請個和尚到呀。我也不要他。
  請了和尚来呀。乒々又乓々。
  乒々乓々。奴奴心中呀怕呀哈。
  哈㕽哈㕽哈々々

(白)請個老娘来。伏侍伏侍罷

6)請個老娘到呀。我也不要他。
  請了老娘来呀。喞々又咤々。
  喞々咤々。我也不要呀他呀哈。
  哈㕽哈㕽哈々々

(白)二姑娘你這個病。従何児起的呢

7)要問我的病呀。三月是清明。
  楊柳緑茸々呀。桃花紅噴々。
  王孫公子。出外的遊春呀景呀哈。
  哈㕽哈㕽哈々々

(白)王孫公子遊春景。与你什麽相干

8)我愛他呀。白面小書生。
  他愛我呀。紅粉小佳人。
  両人喜愛。到了如今呀哈呀哈。
  哈㕽哈㕽哈々々

(白)不怕你。爹々娘々的麽

9)我家爹々爹呀。耳目有昏章。
  我家媽々。耳目也昏呀章呀哈。
  哈㕽哈㕽哈々々

(白)不怕你。哥々嫂々的麽

10)我家哥々哥呀。常々不在家。
  我家嫂々。去往娘娘呀家呀哈。
  哈㕽哈㕽哈々々

(白)不怕你姊々妹々的麽

11)我家姊々姊呀。早去出嫁。
  我家妹々同我。一様的話話呀哈呀哈。
  哈㕽哈㕽哈々々

1)サア チヤン サア チヤン ワイ ヤ テ マア ルウ ヒヤン テン タン 
  ツヲ ルウ ウエン シン ジユン ヤア ケ ピ ワン ダア ニヤン 
  キン イ スエイ フウ タウ カウ レウ ジヤン ヤア ハ 
  ハ イ ハ イ ハ ハ ハ

2)ピヤウ カイ キン サア チヤン ヤア イ チン ヘン フハア ヒヤン 
  ホ カイ ホン リン ピイ ヤア スヤウ スヤウ ルウ クウ ニヤン 
  メン ワン キイ セエウ ポ スヤン クウ ニヤン ヤア ピン ヤア ハ 
  ハ イ ハ イ ハ ハ ハ

(白)ルウ クウ ニヤン ニイ ズウ シ モ ピン ヤア 

3)ゴウ エヽ ピン ルウ ズウ ヤア ワン エヽ ポ スヤン キ 
  サア エヽ ポ スヤン リヤン ヤア ホン ホン ユウ チン チン 
  ホン ホン チン チン タウ リヤウ ジユイ キン ヤア ハ ヤア ハ 
  ハ イ ハ イ ハ ハ ハ

(白)ツイン コ イヽ スエン ライ カン カン ピン モ 

4)ツイン コ イヽ スエン タウ ヤア ゴウ エヽ ポ ヤウ タア 
  ツイン リヤウ イヽ スエン ライ ヤア ミイ ミイ ユウ モウ モウ 
  ミイ ミイ モウ モウ ゴウ エヽ ポ ヤウ ヤア タア ヤア ハ 
  ハ イ ハ イ ハ ハ ハ

(白)ツイン コ ホウ シヤン ライ シヤウ ト シヤウ ト パア 

5)ツイン コ ホウ シヤン タウ ヤア ゴウ エヽ ポ ヤウ タア 
  ツイン リヤウ ホウ シヤン ライ ヤア ピン ピン ユウ パン パン 
  ピン ピン パン パン ヌウ ヌウ スイン チヨン ヤア パウ ヤア ハ 
  ハ イ ハ イ ハ ハ ハ

(白)ツイン コ ラウ ニヤン ライ ホ ズウ ホ ズウ パア 

6)ツイン コ ラウ ニヤン タウ ヤア ゴウ エヽ ポ ヤウ タア 
  ツイン リヤウ ラウ ニヤン ライ ヤア ツエ ツエ ユウ ツアウ ツアウ 
  ツエ ツエ ツアウ ツアウ ゴウ エヽ ポ ヤウ ヤア タア ヤア ハ 
  ハ イ ハ イ ハ ハ ハ

(白)ルウ クウ ニヤン ニイ チエ コ ピン  ツヲン ホウ ルウ キイ テ ニイ 

7)ヤウ ウエン ゴウ テ ピン ヤア サン エ ズウ ツイン ミン 
  ヤン リウ ロ シヨン シヨン ヤア タウ フハア ホン ヘン ヘン
  ワン ソヲン コン ツウ チユ ワイ テ ユウ チユン ヤア キン ヤア ハ 
  ハ イ ハ イ ハ ハ ハ

(白)ワン ソン コン ツウ ユウ チユン キン イユイ ニイ シ モ スヤン カン 

8)ゴウ アイ タア ヤア ペ メン スヤウ シユイ スエン 
  タア アイ ゴウ ヤア ホン フン スヤウ キヤア ジン 
  リヤン ジン ヒイ アイ タウ リヤウ ジユイ キン ヤア ハ ヤア ハ 
  ハ イ ハ イ ハ ハ ハ

(白) ポ パウ ニイ テイ テイ ニヤン ニヤン テ モ 

9)ゴウ キヤア テイ テイ テイ ヤア ルウ モ ユウ ホン チヤン 
  ゴウ キヤア マア マア ルウ モ エヽ ホン ヤア ハ 
  ハ イ ハ イ ハ ハ ハ

(白)ポ パア ニイ コヲ コヲ シヤウ シヤウ テ モ 

10)ゴウ キヤア コヲ コヲ ヤア シヤン シヤン ポ ヅアイ キヤア 
  ゴウ キヤア シヤウ シヤウ キユイ ワン ニヤン ニヤン ヤア キヤア ヤア ハ 
  ハ イ ハ イ ハ ハ ハ

(白)ポ パア ニイ ツイ ツイ ムイ ムイ テ モ 

11)ゴウ キヤア ツイ ツイ ヤア ツアウ キユイ チユ キヤア 
  ゴウ キヤア ムイ ムイ ドン ゴウ イ ヤン テ ワア ワア ヤア ハ ヤア ハ 
  ハ イ ハ イ ハ ハ ハ

1)睡:渓派の版では「姐兒床上睡(嬢やはベットでおねむ)」となっているので「睡」で良いが,こちらの「姐児聞声睡呀」だと状況が異なる。田中従吾軒は『清楽詞譜和解』でこの前の節からを「風鈴ノ声叮々タルヲ,女子聴キナガラ睡リ居リタリシニ」などと解しているが,「鉄馬兒」は冒頭にも書いたように満州族の女性の履きもの,ポックリ下駄のような靴である。大陸の類例から見てもここは,下駄の音響くのを姐兒が聞いて「誰?」と尋ねるのに「隣の王おばちゃんだよ」と王大娘が答える場面である。ゆえに「姐兒問声 "誰" 呀」が正しい。「聞」(wen2)「問」(wen4),「睡」(shui4)「誰」(shui2)ともに近音である。ただし「誰」「睡」の両語とも方音を含め「-n」もしくは「-ng」の音はないので,「ジュン」は「ジュイ」もしくは「シュイ」の間違いと思われる。再現では修整。
2)一陳:風・香りの量詞は「陣(zhen4)」である。陳(chen2)だと音も意味も合わないが,大陸の唱本でもよく「陳」で書かれている。 紅陵被:「紅綾被」の間違い。赤い掛布団。
4)迷迷模々:正しくは「迷迷摸摸」だが正確には文字のない語なので,これでもよい。
4白)超度:ここではお経を読んで平癒祈願やお祓いをしてもらうこと。
5白)伏侍:=服事もしくは服侍で世話をする,ここでは看病してもらう。
6)喞々咤々:おしゃべりな様子,小鳥のさえずりかわす擬音にも使われる。ピーチクパーチク。

 中井の版では9番以降,歌詞が2フレーズ足りなくなってるので,再現は8番までとします。
 ほかの資料でもこの8番以降は歌詞がグダグダです。
 可能性としては,構成上この7番なり8番以降から曲が短くなってるとか,あるいは時間短縮のためセリフと不完全な唱(メロディの一部をなぞる程度の)との組み合わせになってるなんてことも想像はされます。
 しかし大陸の唱本における類例などから考えるに,これはそもそも物語のトバ口。しかもその出だしの1曲の途中にしかなってないんですよ。雑劇や民間の唱え物においては,この問答を繰り返したところで,お嬢の患いを「恋の病」と見切った王大娘が最後に「おばちゃんにまかせな!」と啖呵を切って終わり,物語が本格的にはじまるのでありますから,長すぎて後ろのほう,口伝がついてゆかなかったとかのほうが分かりやすそうですね。


(つづく)


連山派・梅園派の「紗窓」について

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斗酒庵 贅六の清楽に挑む! の巻2019.1~ 連山派・梅園派の「紗窓」について

 さて,九連環・茉莉花と並んでWSでよく演奏される「紗窓(サアチャン/しゃそう)」についてです。

 工尺譜の詳しい読み解きなんかは,HPのほうに本うpするのを待ってもらいまして,今回は連山派の「紗窓」と,あと渓派の「紗窓」の違いなんかを中心にお話ししましょう。

 「紗窓」という曲は連山派では第一楽譜の『声光詞譜』にはもう載ってますし,よく演奏されたらしいので同派内ではメジャーな曲でした。
 山本有所の『雅俗必携月琴自在』では「紗窓」ではなく「七言絶句」と題されてるとおり,清楽家の間では「漢詩の七言絶句を歌う時の曲」と認識されていたようです。文人趣味に偏ったところのある渓派の清楽家連中がいかにも好みそうなものですが,渓派のほうだと譜は渓蓮斎のお弟子さんたちが編集した『清風雅唱 外編』くらいにならないと出てきません。長崎派の譜集には入ってますんで,それ以前から伝わっていたとはおもうのですが,花井信『清楽指南』(M.25)なんかでも「新曲」の分類に入ってますので,渓派の清楽家にとっては「あまり馴染みのない曲」だったのかもしれません。
 「紗窓」は薄絹のかかった窓,現代中国語だと「網戸」の意味になります。障子紙のかわりに薄い絹布が張ってある,と思えばよろしい。そういう薄布をカーテンみたいに垂らしてある窓もそう呼ばれたようです。
 ほか「砂窓」「沙窓」と書いている例もあります。こちらだと「砂窓」が最近の中国で「すりガラス」みたいなのを表すことがありますが,基本的にイミフですね。「紗窓」というのは,俗曲では女の子もしくは女性の部屋の暗喩で,なかにいるのはたいてい美人です。艶歌めいた曲題なわけですが,歌詞がお堅い七言絶句というあたりになにやら違和感は感じますね。あんがい「紗窓」なんて題で広まっちゃった後,そういうあたりに気が付いて,慌てて字面を変えやがったんじゃないかとも思います。(w)
 連山派の「紗窓」はこんな感じ----

 六--○|六--○|工-上-|尺-工-|
 尺--○|四-仩-|伬-四仩|合--四|
 合--○|工-工-|六--○|工-尺-|
 上-工-|尺--○|四-仩-|伬-四仩|
 合--四|合--○|四--○|四--○|
 四-仩-|四合工合|四-仩四|合--○|
 上-工-|尺-四-|上-工-|尺-四仩|
 合--四|合--○|

 歌詞は基本的に七言絶句ならなんでもあてはまるようになってるんですが,李白の「春夜洛城聞笛」とか張継の「楓橋夜泊」になってることが多いですね。連山派系では2種類の歌いかたがあったようです。

 
(中井)
(鈴木)
 
(中井) 
(鈴木) 
 
(中井)
(鈴木)
 
(中井) 
(鈴木) 
 
(中井) 
(鈴木) 
 
(中井)
(鈴木)
 
(中井)
(鈴木) 
 
(中井)
(鈴木)

 (中井)は中井新六『月琴楽譜』(M.11),(鈴木)は鈴木孝道『月琴独習自在』に基づいたもの。歌詞のかかってない真っ黒な部分は楽器の演奏だけになるわけですが,2行目と5行目で発音のタイミングが異なるのと,最期のほう,シメにかかる直前,鈴木のほうに3音1小節半の「溜め」があるのが特徴的です。

 WSではよくこれと裏曲を合奏する,ということをやっています。清楽で「裏曲」「伴奏曲」と呼ばれるものは,オーケストラのパート分けのようなものではなく,ある曲のために作られたものでありながら,それぞれいちおう基本的には独立した曲として扱われます。同時に演奏した時に「アラ不思議,なぜかぴったり合っちゃうわ!」みたいな感じなんですね。

 「紗窓」には「弄月(ろうげつ)」「露月(ろげつ)」という裏曲があります。「弄月」のほうが少し古く,「露月」のがちょっと新しい曲みたいですね。まずは「弄月」の譜----

 合四仩四|合-工-|○合工尺|上-尺上|
 四-合-|凡合凡合|四-四合|仩伬仩四|
 合--○|工合四-|合-工-|○合工尺|
 上-尺上|四-合-|凡合凡合|四-四合|
 仩伬仩四|合-四-|○乙乙四|乙伬乙四|
 合-四合|工-尺-|上尺工-|尺上四合|
 凡合凡合|四-上合|仩-仩伬|仜-上伬|
 仩-四仩|合--○|

 「露月」のほうはこんな感じです。

 合-合凡|合四仩伬|仜仜𠆾-|伬-仜𠆾|
 伬-伬仩|五凡六六|尺上尺凡|合-五仩|
 合--○|仜𠆾仜仜|𠆾-五-|仜𠆾伬仜|
 仩伬四仩|伬-伬仩|五凡六六|尺上尺凡|
 合-五仩|合--○|四四仩仩|四-仩-|
 四仩四仩|四合工尺|工-合四|上--○|
 仩合仜合|伬仩四合|仩合仜𠆾|伬-四仩|
 合凡合四|合--○|

 「茉莉花」にも「秋風香」と「秋籬香」という似たような名前の裏曲があることを,前回の記事で話題に挙げましたな。あちらには「三曲伴奏スル,尤妙ナリ。」と3曲同時弾きするとキレイ,みたいなことが書かれてましたが,こちらにはそういう注釈は見つかりませんね。
 歌いかたの異なるもの2種類と,裏曲2種類----それぞれを組み合わせて歌付きのファイルにしてみました。聞き比べてみてください。

 再現曲(弄月+中井)
 再現曲(弄月+鈴木)
 再現曲(露月+中井)
 再現曲(露月+鈴木)

 ちなみに渓派の「紗窓」。
 歌詞対照譜が少なく,結局『清風雅唱 外編』くらいしか見つからなかったんですが,こちらのはこんな感じです。

 再現曲(渓派)

間 奏
間 奏
間 奏
 
 

 連山派で全符の長さだった出だしの2音が,半分の2分になっています。あとは3行4小節の「上-工-」が「上-工六」になってますが,歌は「上-工-」で「六」はおそらく楽器で出す音なんだと思います。そして曲尾まで歌詞がかからず,最後の「四合」もまた楽器だけになります。裏曲がないんでテンポは少し遅くしてあります,連山派のにくらべると,ちょっとおとなしい感じがしますね。


(つづく)


連山派・梅園派の「茉梨花」について(1)

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斗酒庵 贅六の清楽に挑む! の巻2019.1~ 連山派・梅園派の「茉梨花」について(1)

 小人閑居シテ不善ヲナス,冬の雪かき帰省の間庵主はずっと,清楽流行期,関西を中心に活躍した連山派とその分派で東京に拠点を置いた梅園派の曲譜にとりくんでおりました。
 いづれまとめてHPのほうにうpりまうが,今回はその成果の一端を少々。


 弄月RY02_003は「茉䔧花」,柚木YNK062は「抹梨花」と表記する。
 また「含艶曲」という呼び方がある。基本的に「茉梨花」は曲牌(汎用的な定型メロディとしての名称)の名で,「含艶曲」はそれで『西廂記』を内容とする歌唱としての名称である。
 弄月RY02_003は付点不備のため単独での解読は不能。朱の読点はおそらく,句点より短い小息継ぎ・小休符の挿入箇所を指すものであろう。
 なお柚木YNK062は冒頭の繰り返し部分を,清曲OKINO_A005は後半の繰り返し部分を展開している。比較対照を容易にするため,上画像と以下の近世譜ではそれらを声光・弄月の例に合わせて繰り返し表記に戻して,譜の形をそろえることとする。
 柚木YNK062の付点からは以下のような近世譜が再現できる。

[工-工六|五-仩五|六--五|六--○|]
 工-合-|工合四-|仩四合--○工-|
 尺-工六|工尺上-|-尺上-|-○[工-|
 上-尺-|尺工六-|五-六五|六工尺工|
 六-尺六|工尺上-|上--○|四仩伬-
 --伬仜四合-|-四合-|--]
 再現曲

 この譜には符字がほかの2例と異なっているところが8箇所あるが,すべてオクターブの高低関係である。月琴は最低音が「上」で,低音の「合四」と高音「六五」を同じ高さで弾くため関係がないが,明笛は最低音が「合」であるので吹き分けることができる。ここでこうした差異が生じている理由については後に詳しく述べたい。付点がほぼ一致し,再現される各符の音長関係には変化がないので,この柚木の譜の音長関係を参考に,声光SK01_05を読み解いてみよう。この場合,無印を1符1拍とすると----

[工-工六|五-仩五|六--五|六---|]
 工-合-|工合五-|仩五六-|-○工-|
 尺-工六|工尺上-|-尺上-|--[工-|
 上-尺-|尺工六○|五-○六五|六工尺工|
 六○尺六|工尺上-|上--○|四上尺-|
 -○
尺工|上四合-|-四合-|--]
 再現曲

 と,なると考えられる。こちらの2行8符め「六。」は3拍だが,柚木の当該箇所は4拍になっている。そのままだと1拍ズレとなるのでこれは間違いとして修正しておく。5行末「尺。」も同前。もしかするとこの2件に関しては,句点「。」を1拍に含めているのかもしれない。
 符字下の朱の読点は句点よりも短い区切り,また3拍1拍の間に入っている返し線はおそらく「返しバチ」の指示と思われる。また,付線はここでは短音を表すものではなく,2音を抑揚をつけず平均に弾けという指示であろう。4行4・5間の挿入線はこの先1符1拍の連弾となることから,「五」2拍のところで少し息継ぎを入れろということだろう。再現では8分休符を挿入して表現してみた。
 
 再現された曲調は北條芳三郎『音楽初歩』に見える五線譜による採譜ともほぼ一致する。

 清曲OKINO_A005の近世譜は以下の通り。

[工-工六|五-仩五|六--五|六--○|]
 工-合-|工合四-|仩四合-|○四合-|
 ○○
工-|尺-工六|工尺上-|○尺上-|
 ○○[工-|上-尺-|尺工六-|五-六五|
 六工尺工|六-尺六|工尺上-|上--○|
 四仩伬-|○○伬仜|仩四合-|○四:合-|]
 合-○○
 再現曲

 曲尾「合」は1度目が2分,2度目が2分+休符2拍である。ほかの3例と比べるとオレンジで強調した部分が1小節ぶん多いが,そのほかの部分の符字と音長は柚木の例とほぼ一致する。

 梅園派の「茉梨花」は,「秋籬香」「茉梨花裏」「秋風香」などという裏曲と合奏される。『清楽曲譜』などでは「伴奏」と称されているが,現在の「伴奏」とはいささか概念が異なり。これらの譜は「茉梨花」の一部ではなく,あくまで単独でも演奏される独立した曲譜として扱われている。渓派にも「厦門流水」「如意串」という表裏となる曲が伝承されているが,これらを同時に弾くという解説は見たことがなく,連山・梅園派において広く行われていたことのようである。
 『清楽曲譜』に収録されている「茉梨花」は,同書にある裏曲「秋風香」(OKINO_A030)とそのままでは合わせることができない。上で述べたよう,同書の「茉梨花」は柚木等の譜よりも2音多く,その部分が妨げとなるためである。上掲の譜からその余分な2音を含む2行4小節めを丸々削り,曲尾の「合」を休符合わせて4拍の長さで統一,すでに述べた2例の譜各符の音長関係を同じにすると,以下のように合奏が成立する。

(茉)工-工六|五-仩五|六--五|六--○|
(秋)仜-仜伬|仜仜𠆾-|仩伬仩四|合-合四|
  工-工六|五-仩五|六--五|六--○|
  仜-仜伬|仜仜𠆾-|仩伬仩四|合-仩伬|
  工-合-|工合四-|仩四合-|○○工-|
  仜仜伬仩|四合工合四|仩四合-|仩伬仜-|
  尺-工六|工尺上-|○尺上-|○○工-|
  𠆾-仜伬|仜四仩-|-伬仩-|○○仜伬|
  上-尺-|尺工六-|五-六五|六工尺工|
  仩合伬合|伬仜合-|五-仩五|六-伬仜|
  六-尺六|工尺上-|上--○|四仩伬-|
  𠆾仜伬仩|四合仩-|○伬仩-|四上尺-|
  ○○伬仜|仩四合-|○四合-|○○工-|
  尺上尺工|上四合-|○四合-|○○仜伬|
  上-尺-|尺工六-|五-六五|六工尺工|
  仩合伬合|伬仜合-|五-仩五|六-伬仜|
  六-尺六|工尺上-|上--○|四仩伬-|
  𠆾仜伬仩|四合仩-|○伬仩-|四上尺-|
  ○○伬仜|仩四合-|○四合-|○○  |
  尺上尺工|上四合-|○四合-|-○  |
  再現曲

 「秋風香」の譜は未加工であることからも,柚木の譜の付点から再現される曲調が,やはりこの曲の標準に近いものであろうことが分かる。
 ワークショップでも常連と度々演奏しているが,この2曲の合奏は,双方がうまく流れた時には実に美しい。
 「秋風香」は柚木YNK073としても収録されている。清曲OKINO_A030との違いは,17小節目の「仜」が「仩」になっていることだけで,ほかは符字順列,音長ともに一致する。
 『清楽曲譜』の注に「秋風香ハ茉梨花ト秋籬香ト両曲ヨリ組織シタル曲ナル故ニ,三曲伴奏スル,尤妙ナリ。」とあるので,同様に伴奏曲としてとりあげられる「秋籬香」よりは後発の伴奏曲ということになる。『清楽曲譜』に「秋籬香」は収録されていないが,同じ編者の『洋峨楽譜』に近世譜(OKINO_A030)が見える。

 仜-伬-|仩伬仩四|合-四仩|合--○|
 仩伬仜-|伬仜仩伬|仩四合-|尺工六-|
 五工六-|工六工上|尺工上四|合-仩伬|
 仜-伬仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩--○|
[仩-四合|工尺上-|仩-合-|合仩合伬|
 合-𠆾仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩-四仩|
 四合仜伬|仩伬仩四|合-四仩|合--○|]

 ただしこのままでは小節数が標準譜の「茉梨花」と合わないため,合奏は不能である。
 音長のわかる「秋籬香」の譜はほかに『音楽雑誌』41号の渡辺岱山による近世譜がある。

(茉)工-工六|五-仩五|六--五|六--○|
(籬)仜-伬-|仩伬仩四|合-四仩|合---|
  工-工六|五-仩五|六--五|六--○|
  仩伬仜-|伬仩仩伬|仩四合-|尺-工六|
  工-合-|工合五-|仩五六-|-○工-|
  五工六工|六工上尺|工上四合|--仩伬|
  尺-工六|工尺上-|-尺上-|-○工-|
  仜-伬仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩-仩-|
  上-尺-|尺工六-|五-六五|六工尺工|
  四合工尺|上-仩-|合-合仩|合伬合-|
  六-尺工|工尺上-|上--○|四仩伬-|
  𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合|
  --伬仜|仩四合-|-四合-|-○工-|
  仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|--仩-|
  上-尺-|尺工六-|五-六五|六工尺工|
  四合工尺|上-仩-|合-合仩|合伬合-|
  六-尺六|工尺上-|上--○|四仩伬-|
  𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合|
  --伬仜|仩四合-|-四合-|-○  |
  仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|-○  |
  再現曲

 雑誌での掲載のため,印刷が悪く,原記事では拍点がどの符に付したものなのか判別のしにくい箇所がある。「茉梨花」3行1小節目の「合」が1拍4分,3小節目の「六」が休符を含め5拍となっているように見えるが,再現するとここだけ不自然に合わなくなるため他譜の例を参考に訂正した。「茉梨花」2行2~3小節のフレーズが「工合四-|仩四合-|-○」ではなく「工合五-|仩五六-|-○」と『声光詞譜』などの例と同じになっているのをのぞけば,後半の符字順列は柚木や沖野の例とほぼ同じである。
 柚木の集には「秋香」(YNK048)という曲が収録されている。この「雛」はおそらく「籬」の誤植で,内容からも「秋籬香」で間違いはない。

(茉)工-工六|五-仩五|六--五|六--○|
(籬)仜-伬-|仩伬仩四|合-四仩|合--○|
  工-工六|五-仩五|六--五|六--○|
  仩伬-仜|伬仜仩伬|仩四合-|尺工六-|
  工-合-|工合四-|仩四合-|-○工-|
  五工六-|工六工上|尺工上四|合-仩伬|
  尺-工六|工尺上-|-尺上-|-○工-|
  仜-伬仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩○仩-|
  上-尺-|尺工六-|五-六五|六工尺工|
  四合工尺○|上-仩-|合-合仩|合伬合-|
  六-尺六|工尺上-|上--○|四仩伬-|
  𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合|
  --伬仜|仩四合-|-四合-|--工-|
  仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|--仩-|
  上-尺-|尺工六-|五-六五|六工尺工|
  四合工尺○|上-仩-|合-合仩|合伬合-|
  六-尺六|工尺上-|上--○|四仩伬-|
  𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合|
  --伬仜|仩四合-|-四合-|--  |
  仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|--  |

 この2例も実際に合奏として再現してみると,どこかしらに小問題があるようで,先に掲げた「茉梨花」と「秋風香」の合奏ほどの一体感や自然さは感じられない。それぞれの符の異同を確認するため,3例の近世譜を並べて表示してみよう。

洋峨楽譜(繰り返し部分を展開)柚木(同前)音楽雑誌
 仜-伬-|仩伬仩四|合-四仩|合--○|
 仩伬仜-|伬仜仩伬|仩四合-|尺工六-|
 五工六-|工六工上|尺工上四|合-仩伬|
 仜-伬仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩--○
 仩-四合|工尺上-|仩-合-|合仩合伬|
 合-𠆾仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩-四仩|
 四合仜伬|仩伬仩四|合-四仩|合--○|
 仩-四合|工尺上-|仩-合-|合仩合伬|
 合-𠆾仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩-四仩|
 四合仜伬|仩伬仩四|合-四仩|合--○|
 仜-伬-|仩伬仩四|合-四仩|合--○|
 仩伬-仜|伬仜仩伬|仩四合-|尺工六-|
 五工六-|工六工上|尺工上四|合-仩伬|
 仜-伬仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩○仩-|
 四合工尺○|上-仩-|合-合仩|合伬合-|
 𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合|
 仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|--仩-|
 四合工尺○|上-仩-|合-合仩|合伬合-|
 𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合|
 仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|-- |
 仜-伬-|仩伬仩四|合-四仩|合---|
 仩伬仜-|伬仩仩伬|仩四合-|尺-工六|
 五工六工|六工上尺|工上四合|--仩伬|
 仜-伬仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩-仩-|
 四合工尺|上-仩-|合-合仩|合伬合-|
 𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合|
 仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|--仩-|
 四合工尺|上-仩-|合-合仩|合伬合-|
 𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合|
 仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|-○ |

 2行1小節,柚木のみが「仩伬-仜」と真ん中を2拍とするが,ほかは「仩伬仜-」となっているので,こちらのほうが正しいだろう。3行目,音楽雑誌の版は1小節目の「六」を1拍,3小節目の「合」を3拍とするがこれは不自然である。拍の総数は合っているので,おそらくは当時の印刷技術上の問題からくる誤植であろう。「六」「合」をともに2拍とすれば,ほかの2例と同じになる。最後に『洋峨楽譜』4行4小節目の「仩」を4分+休符に切り詰め,以降を前送りにすると----

 仜-伬-|仩伬仩四|合-四仩|合--○|
 仩伬仜-|伬仜仩伬|仩四合-|尺工六-|
 五工六-|工六工上|尺工上四|合-仩伬|
 仜-伬仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩○仩-|
 四合工尺|上-仩-|合-合仩|合伬合-|
 𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合|
 仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|-○仩-|
 四合工尺|上-仩-|合-合仩|合伬合-|
 𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合|
 仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|-○  |

 とそろう。この譜はもちろん「茉梨花」の標準譜と合奏が可能である。上記の校訂を加えたこの版が,おそらくこの曲の標準的な曲調にもっとも近かろう。沖野の注によれば「三曲伴奏スル,尤妙ナリ。」という話なので,これがある意味,連山派系の「茉梨花」の演奏における究極であろうと考えやってはみたが,筆者の耳ではいささか複雑にすぎて,「茉梨花/秋風香」だけのほうがまだ良いような気はする。
 なお弄月RY03_016に「茉梨花裏」として収録されている曲も,符字順列の一致からこの「秋籬香」と同一のものであることが分かっている。下画像の無印を1拍,1朱点の符字を2拍長音,2朱点を1拍+休符,返し線を4拍全符とすると,上掲の標準譜とほぼ一致する曲調(下右上段(A)の譜)が得られる。

(A)仜-伬-|仩伬仩四|合○四仩|合--○|
  仩伬仜-|伬仜仩伬|仩四合○|尺工六○|
  五工六○|工六工上|尺工上四|合○仩伬|
  仜-伬仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩[仩-|
  四合工尺|上-仩-|合-合仩|合伬合○|
  𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩|四仩四合|
  仜伬仩伬|仩四合○|四仩合-|--] |


(B)仜-伬-|仩伬仩四|合○四仩|合--○|
  仩伬仜-|伬仜仩伬|仩四合○|尺工六○|
  五工六○|工六工上|尺工上四|合○仩伬|
  仜---|𠆾-仜伬|仩-合四|仩○[仩-|
  四合工尺|上---|合-合仩|合伬合○|
  𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩○|四仩四合|
  仜伬仩伬|仩四合○|四仩合-|--] |

 2箇所朱点のない句点箇所があるが,扱いは2朱点のものと同じとした。原譜では2箇所の句点に朱で消し線が入り,3符が胡粉で消されている(上画像グレーで表現)。前者に関しては長音の位置が実際の演奏と異なるための訂正と見られる。後者はこの譜の所有者の弾いていた「茉梨花」(同書収録の「茉梨花」ではない)と合わせるための加工か,あるいは上右下段(B)の近世譜のように,合奏時の難所と見られる部分の音数を減らして,演奏を容易にするためだったのではないかと考えられる。

 最初のほうで述べたように,初期の譜である『声光詞譜』と柚木や沖野の譜の間で見られる符字の高低の差異は,こうした裏曲との合奏上の兼ね合いからの改訂ではないかと筆者は考えている。「秋風香」のような独立した裏曲が伴奏されない場合,曲の深みやはなやかさは,月琴と明笛もしくは人声といったものとのオクターブユニゾンによってのみ表現せられる。冒頭の繰り返し直後,近世譜2行めで古い譜は「工合」の部分でのみ限定してその手法を用い,そこから先は完全なユニゾンになっている。ここで一度高音にそろえておいたほうが,高低の分かれる次のフレーズとの間にメリハリをつけることができるからである。これに対して柚木の譜などではこの行ほぼまるまる,明笛は呂音で吹き月琴は高音を鳴らし続ける。演奏としてはそれぞれに平坦であるが,これに裏曲がかぶさることを前提に考えるなら,このほうが都合が良いのであろう。
 後半5行末から6行目にかけては逆に古い『声光詞譜』の版のほうが低音でそろえられ,器楽による演奏は平坦である。これは歌唱が高音にあがってゆくため,同じフレーズを楽器で伴奏するよりは,そちらを低音に抑えて「歌唱(高)・月琴(中)・明笛(低)」という三段階のオクターブユニゾンにより深みを増すほうがよいと考えられたためであろう。
 清楽の曲の多くはもともと大陸のごく通俗な民謡や流行歌,民間演劇の類に由来する。初期の清楽の担い手であった知識層にとっては,それこそが求めていた「大陸の生の情報」であったのだが,それが金銭を媒介して教授される芸能となる過程で,都合の悪い条件となっていったため,流行の後期,多くの曲が歌唱を伴わない大人数の器楽合奏となっていた。『声光詞譜』より後発の柚木や沖野の版で,歌唱と同じ高音のフレーズが楽器で演奏されるようになったのは,その歌唱の代わりに月琴を同じパートにあげて,楽器のみでのより複雑な音の絡み合いを演出しようとしたものだろうと筆者は考える。

 中井『月琴楽譜』の歌詞対照譜の工尺譜は声光SK01_05と符字順列が一致する。これは全13段に渡るけっこうな長曲で,同じく全段の歌詞を収録しているものは少なく,中井のほかは村上復雄『明楽花月琴詩譜』(M.11)の例(歌詞・譜別掲),そのほか歌詞の全文は渓派の譜本に2・3見られる程度である。筆者のDBにある資料で連山・梅園派と見られる歌詞対照譜には,高柳精一『洋峨楽譜・坤』(M.17),鈴木孝道『月琴独習自在』(M.26)『月琴哥譜備忘録』(写・筆者所蔵 2番に添符)『清楽』(写・笛道山人,長崎歴文所蔵),鷲塚俊諦『清楽歌譜』(M.14)がある。これらから比較可能なものを声光SK01_05の近世譜と対照させて,まずは歌詞の発音位置とその範囲を検討しよう。

(中井)          
(高柳)          
(鈴木)        
(笛道)          
(鷲塚)  
 
(中井)       
(高柳)       
(鈴木)     
(笛道)       
(鷲塚)     
 [工
(中井)           
(高柳)           
(鈴木)        
(笛道)           
(鷲塚)           
 
(中井)         
(高柳)         
(鈴木)  
(笛道) 
(鷲塚)         
 
(中井) 
(高柳) 
(鈴木) 
(笛道)  
(鷲塚)
 
(中井)   
(高柳)   
(鈴木)  
(笛道)   
(鷲塚)   
 
 縦書きの刊本の場合,歌詞の文字間が広くとられていないと,どの文字にどの文字の符が何文字あてられているのか判別しにくい場合が多い。上の表の基となっているのは,あくまでも筆者の読み解きである。
 1行目,繰り返し句は問題がない。鈴木・鷲塚に変異が見られるがほかの3例は一致している。2行目は「的」がどこからはじまりどこまでかかるかが問題である。高柳・笛道が一致しているが,発音開始の位置はその1符前「工」ほうが多い。「花」の開始位置は3例が一致しているので,「的」を「工合」2音とするか「合」1音とするかの違いである。歌いやすいのは前者で,後者の1音のズレには多少の三味線楽臭さが感じられる。ここは演出の違いでどちらでもかまわないとは思うが,中井の例が中間的で妥当であろう。3行目,鈴木以外は一致しており,問題はない。4行目,「一枝」の発音位置に差異がある。3例は一致して「五○六」までが「一」,「枝」が「五六工」である。「一」の開始位置については問題がないが,これに対し2音3拍をあてるのは多少不自然さが感じられなくもない。笛道の「一」を「五○」,「枝」に「六五六工」をあてるのがもっとも歌いやすく自然なのだが,ここは一致する3例に倣っておくのがよさそうだ。5行目「恐怕」の扱いが問題である。中井・鷲塚は「六○」1音2拍にこの2字をあてている。演奏上は器楽が「六○」歌唱は「六」2拍2分を分割すると考えて「六六」で唱えればよいが,見た感じ,納得できないのは分からないでもない。この部分の変異がもっとも顕著である。鷲塚と中井が一致しているほか,渓派でも同様になっているのでこの2例に従う。「罵」の位置にも変異があるが,開始位置は3例が一致する「尺」のところ。次の「卟」の発音位置は多少微妙であるが高柳と笛道の一致する「合」からというのが,実際に歌ってみても納得はゆく。
 発音位置の差異については,あまりにも顕著なものを除いて1音2音の前後は一句の長短の影響や演出の範囲ていどに考えてよいとは思うが,いちおうあるていどの基準・平均となる標準的な対照譜を組むなら,以下のようになろう。

 
 
 
 [工
  本
 
 
 
 
  
  

 これを基本として,各段の歌詞に合わせ多少の修整を施しつつ,全段を再現したものが以下のmp3ファイルとなる。主となるメロディに古いタイプを用いたので,伴奏曲も「秋籬香」のみを用いた。通しで聞くと17分ほどとなるが,実際の演奏ではもう少しテンポをあげてもよかろう。

 再現曲

1)好一個抹梨花。好一個抹梨花。
  満園的花児開。賽也不過他。
 [本待要採一枝又。恐怕栽花。人罵卟
2)好一朶杜鮮花。好一朶杜鮮花。
  有朝的有日。落在我家。
 [本待早出門又。恐怕看鮮花。児落卟
3)八月裡花香。九月裡菊花黄。
  勾引的張生。跳過粉墻。
 [好一個崔鴬鴬花。剌剌門関。児上卟
4)求紅娘姐。求紅娘姐。
  可憐的小生。跪到半夜。
 [你是不開門。跪到東方。日亮卟
5)慌忙把門開。慌忙把門開。
  開了的門開児。不見人来。
 [你那里是何人。敢則是賊。強来盗呀
6)今日又来明日又来
  来的去。哥你知道了。
 [你那里去懸梁。奴這里無梁。去吊呀
7)我的愛哥々。我的愛哥々。
  哥々的那門前。隔了一條河。脚踏着。
 [独木橋叫奴家。如此何得過呀

8)我也没奈何。我也没奈何。
  攝緊着花鞋。走将過河。
 [好一個有情郎急。忙々午児来。扶呀
9)我的心肝為。我的心肝為。
  着我心肝走。過几重山。
 [本待要会情郎又。恐怕爹娘卟。来到呀
10)雪花児被風飄。雪花児被風飄。
  飄了的飄了。去三尺余高飄。
 [好一個雪美人。怎比我寃家。俊臉呀
11)錦児光上。錦児光上。
  写着的好詩句。到有両三行。
 [本待要送情郎又。恐怕傍辺人。取笑呀
12)我的嬌姑娘。我的嬌姑娘。
  你会手弾琵琶。我会吹簫児。
 [簫児在口中吹。琵琶在膝児。上抱弾呀
13)吹呀吹得好。吹呀吹得好。
  吹弾得唱歌。好人都知道了。
 [本待要再吹弾又。恐怕知音。贅来呀
 ハウ イ コ メ リイ フハア ハウ イ コ メ リイ フハア 
 マン エン テ フハア ルウ カイ サイ エヽ ポ コウ タア 
 [ペン タイ ヤウ ツアイ イ ツウ ユウ コン パ サイ フハア ジン マア ヤ
 ハウ イ ト ド セン フハア ハウ イ ト ド セン フハア 
 ユウ チャウ テ ユウ ジ ロウ ザイ ゴウ キヤア 
 [ペン タイ ツアウ チユ メン ユウ コン パア セン フハア ルウ ロ ヤ 
 パ エ リイ キン フハア ヒヤン キウ エ リイ キヨ フハア ワン 
 ケウ イン テ チヤン スエン テヤウ コウ フン シヤン 
 [ハウ イ コ ツイン イン イン フハア ラン ラン メン クワン ルウ ジヤンヤ 
 アイ キウ ホン ニヤン ツヲ アイ キウ ホン ニヤン ツヲ 
 コウ レン テ スヤン スエン クイ タウ パン エヽ 
 [ニイ ヂヤ ズウ ポ カイ メン クイ タウ トン フハン ジ リャン ヤ 
 フハン マン パア メン カイ フハン マン パア メン カイ 
 カイ リヤウ テ メン ルウ ポ ケン ジン ライ 
 [ニイ ナ リイ ズウ ホウ ジン カン ツエ ズウ ツエ キヤン ライ タウ ヤア 
 キン ジ ユウ ライ ツヤウ ミン ジ ユウ ライ ツヤウ 
 ツヤウ ライ テ ツヤウ キユイ コウ ニイ ツウ ダウ リヤウ 
 [ニイ ナア リイ キユイ ケン リヤン ヌ チエ リイ ウヽ リヤン キユイ テヤウ ヤア 
 ゴウ テ アイ コヲ コヲ ゴウ テ アイ コヲ コヲ 
 コヲ コヲ テ ナア メン ヅエン ケ リヤウ イ テヤウ ホウ キヤア ダ ヂヤ
 [ド モ キヤウ キヤウ ヌ キヤア ジユイ ツウ ホウ テ コウ ヤア 
 ゴ エヽ モ ナイ ホウ ゴ エヽ モ ナイ ホウ 
 ゼ キン ヂヤ フハア ヒヤイ ツエウ ツヤン コウ ホウ 
 [ハウ イ コ ユウ ジン ラン キイ マン マン ウヽ ルウ ライ ホヲ ヤア 
 ゴウ テ スイン カン ヲイ ゴウ テ スイン カン ヲイ 
 ヂヤ ゴウ スイン カン ツエウ コウ キイ ジョン サン 
 [ペン タイ ヤウ ホイ ジン ラン ユウ コン パア テイ ニヤン ヤ ライ タウ ヤア 
 シ フハア ルウ ピイ フヲン ピヤウ シ フハア ルウ ピイ フヲン ピヤウ 
 ピヤウ リヤウ テ ピヤウ リヤウ キユイ サン チエ イユイ カウ ピヤウ 
 [ハウ イ コ シ ムイ ジン ツエン ピ ゴウ エン キヤア ツイン レン ヤア 
 キン ツエン ルウ クワン ジヤン キン ツエン ルウ クワン ジヤン 
 ス ジヤ テ ハウ ス コウ タウ ユウ リヤン サン イン 
 [ペン ダイ ヤウ ソン ジン ラン ユウ コン パア パン ペン ジン ツユイ シヤウ ヤア 
 ゴウ テ キヤウ クウ ニヤン ゴウ テ キヤウ クウ ニヤン 
 ニイ ホイ シユ ダン ピイ パア ゴウ ホイ チユイ スヤウ ルウ 
 [スヤウ ルウ ヅアイ ケウ チヨン チユイ ピイ パア ヅアイ スエ ルウ ジャン パア ダン ヤア 
 チユイ ヤア チユイ テ ハウ チユイ ヤア チユイ テ ハウ 
 チユイ ダン テ チヤン コヲ ハウ ジン トウ ツウ ダウ リヤウ 
 [ペン タイ ヤウ サイ チユイ ダン ユウ コン パア ツウ イン ツイ ライ ヤア 

 *1)又。恐怕:他譜「又」の前で句切る。
 *2)又。恐怕:同上。
 *3)「桂」の読みが「キン」:他譜では「クイ」,現代中国語で gui4 で方音でも「キン」に近い音はない。おそらく誤記誤写。「花。剌剌門関。」:句切りに疑問。「花剌剌」は「咲く花のように美しく」で前の「崔鴬鴬」にかかる。字数からみても「花。」の句点は「花」の前がふさわしい。 張生:他譜では「張先生(チャンスヘンスエン=張さん)」,「張生」でも通じなくはないが,このフレーズほかの段より1文字少ないため欠字の可能性あり。
 *4)「愛」は他書「哀」とする。現代中国語では ai4 と ai1 の違い。意味から考えて「哀」が正しい。「小」の読みを「スヤン」とする。おそらくは「スヤウ」の誤植。また他書では「小生」ではなく「小生(スヤオシュイスヤン)」となっている。あるいは3)の「張生」に合わせたか? 你着:他譜「着」を「若」とする。「あなたがもし-」なので「若」が正しい。おそらく誤写。跪到東方:他譜では「我就跪到東方」。「あなたがもし-したら,わたしはすぐに-」なので「我就」がないとここまでが「你(あなた)」の仕業になる。内容的にはおかしいが,省略できないこともない。
 *5)敢則是賊。強来盗呀:「敢則是賊」のほうはともかく「強来盗」は意味不明。他譜では「敢則是強賊来。来盗呀」
 *6)樵:「瞧」(ちら見する)の誤写で間違いない。長崎歴文『清楽』(写・笛道山人)などでは目偏が「扌」のように略書されている。俗間の唱本などでも「土」のわずかに縦棒が下に突き出たかたちに書かれることがある。それを「木」の略書と思ったのだろう。もちろん「樵」では意味不明である。 3フレーズめ「樵来的樵去」,他譜では「樵来的樵去」と1文字多い。
 *7)脚踏着。:原書ではここまでが繰り返し部の外であるが,この段までのパターンから考えると,この3文字は繰り返し部分に入るはずである。渓派・太田連『清楽雅唱』の歌詞対照譜でもそのようになっている。[脚踏着独木橋。叫奴家如此何。得過呀 がおそらく正しい。
 *8)急。忙々午児来。扶呀:まず句切り位置に疑問。他譜では「急」の前に句点。「忙々午児」,ここでどうして「ウマ」が出てくるのか意味不明。読みも「ウー」になっているが他譜では「午」が「手(ショウ)」になっている。おそらく誤写。「来。」の句点位置も他譜では「来」の手前である。
 *9)又。恐怕:1)2)と同じ。爹娘卟:村上は「爹娘」で渓派の諸譜もだいたいこれと同じ。笛道は「爹呀」とする。
 *11)扇:中井は読みを「ツエン」とする。現代中国語 shan1 ,類似の読み例なく「ェン」の誤植と思われる。 又。恐怕:同上。
 *12)児。上抱弾呀:他譜での句切りは「児上。抱弾呀」。
 *13)又。恐怕:2)9)11)と同じ。

 早稲田風陵文庫所蔵の唱本『花鼓子』(腰にくくりつけた太鼓を叩きながら歌い踊る民間芸能の歌詞)に,ほぼ同じような内容の歌詞が見られるほか,大陸の古い唱本中にも「鮮花調」の名で類歌は多い。
 現在の中国童謡としての「茉莉花」は単純に花の美しさを歌ったもので,『西廂記』とは関係ないが,地方で採集された類歌にはまだその内容を残したものが数多く認められる。


補:演奏スタイルとしては古い型を踏襲している渓派の「茉梨花」の後半が,『声光詞譜』とほぼ同様に低音で構成されていることもこれらの証左となろうか。『清風雅譜』における「茉梨花」の近世譜は以下----

 [工-工合|四-仩四|合--四|合--○|]
  工-合合|工合四-|仩四合-|-○工-|
  尺-工六|工尺上-|-尺上-|-○[工-|
  上-尺-|尺工六-|五-仩五|六○尺工|
  六-五六|工尺上-|上--○|四上尺-|
  尺工上尺 |上四合-|-四合-|-○]




(つづく)


長曲「仁宗不諗母」の復元

funen01.txt
斗酒庵 「秘曲」をひもとく! の巻『清風雅唱-外編』「仁宗不諗母」の復元(1)

STEP1  前説・簡解

 本稿では富田渓蓮斎『清風雅唱-外編』に掲載された長曲「仁宗不諗母」の歌曲としての復元を行う。テキストとして用いた国会図書館アーカイブの資料は乱丁本であり,歌譜は画像のコマ数でいうと----

・16-20コマ(5)>
・30-31コマ(2)>
・24-28コマ(5)>
・57-58コマ(2)

----の計14コマで完成する。
 他の資料に収録された同題の歌譜に基づき,画像を正しい順でつなぎ合わせたものが以下である。


 歌詞対照譜,符字のほかには句点と音の長さがきめられていない不定拍長音の記号だけが付されている。もちろんこの譜単体で曲調が読み解けるようなものではない。
 歌詞の頭に「○」と「・」の指示がついている。どちらもの記号も書中に解説はないが,ほかの資料ではここが「oo」と「・」となっていることから考えると,板(=拍板:打楽器)の指示ではないかと思われる。「○」が2拍「・」が1拍,もしくは「○」で板を入れ「・」は板の入らない歌詞の切れ目ということかもしれない。

 譜は長くはあるが,曲は最初と最後の部分以外ほぼ同じようなフレーズとその小バリエーションの組み合わせ,および繰り返しで構成されており,そのほかに2箇所「白」,すなわち短い科白の挿入がある。

 復元作業は,以前に手がけた「四不像」などと同じく,符字順列上の類似や句点などを参考として,全曲をあるていどの大きさのフレーズに区分し,音長の手掛かりのある他資料を参照しつつ,再現された曲調をMIDIで組んで実際の音楽としながら,頭から一つ一つ読み解いてゆくこととなる。

 今回,主として用いた参照資料は,土岐達『月琴雑曲集』である。これに収録された「仁宗不諗母」の譜には,不完全・不正確ながらいちおうの音長指示が付されている。基本は----

 無指示の符字:1字1拍
 符字下に「レ」:2拍
 「。」:休符1拍
 傍線:半拍

 そのほか作者による解説はないものの,復元される楽曲と他の譜との比較から,「レ。」は2分半+休符の全符(近世譜だと「上--○|」),「上~尺」と符間に「~」の記号をはさむものが2分半4分もしくは4分半8分の不均等関係,「…」が不定拍長音である可能性が高い。
 本稿では以降これを「土岐達」と略称する。
 土岐達の長音指示は,あくまでも備忘録的に曲中の「ここは必ずのばす」「ここでぜったい切れる」といった重要点を指し示しているだけのもので,渓派の付点や四竃訥冶などの近世譜のそれのように,それによって全体の曲調を再現できるようなものではない。ただ本曲の場合は,使用されているフレーズの多くが他の清楽曲,とくに「○○流水」と題されるような一群の曲中に類似の例を数多く見いだすことができるため,フレーズ中の数箇所,長音や句点の位置が分かるだけでも,そうした類例との比較検討上,相当に役に立つものとなることだろう。
 ほかに符字や歌詞の参考資料として,河副作十郎『清楽曲牌雅譜』(=略:河副)と,筆者所蔵の写本『小蘇女史清楽譜(仮)』(=略:小蘇女史),長崎歴文所蔵の『清楽』(中村18:34 地巻=略:歴文清楽)などを用いる。

 以下各項,はじめに掲げた3桁の数字が小分けにしたフレーズの番号と工尺譜,次段に歌詞,続いて各フレーズの考察とそれによって再現された曲調を,4/4,1字1拍の近世譜で表わすこととする。


(つづく)

funen02.txt
斗酒庵 「秘曲」をひもとく! の巻『清風雅唱-外編』「仁宗不諗母」の復元(2)

STEP2 復元前半

001 尺六五。工工尺上四合。尺工。尺上尺上(切)。

 ニイ イュイ エー ツャン ツィン サア ツァヲ チュウ リャウ
○你 与 爺 ・将 青 沙 𦋃 住 了

 ニャン ニャン レン フワア ラ ラ イン シャン リャウ 
・娘 々 臉 ・花 喇 々 引 ・上 了
 ウ チャウ メン ワイ
 午 朝 門 外

 はじめの「尺六」2音,歌詞「你与爺」,土岐達では「…」で不定拍の長音が指示されている。以前本書の譜では「你与」までが「尺」1音,「爺」は「六」がのびて小さな「五」につながっており,句切りの「。」が添えられている。不定拍長音の尻に付いた「五」は器楽に対する指示だろう。

(器楽)尺---|----|----|六---|
    --五○|
(歌唱)尺---|----|尺---|六---|
    你         与    爺
    ---○|

 「工工尺上四合」歌詞は「将青沙𦋃住了」,1字1音で末尾の「合」には不定拍長音の指示がある。土岐達はすべてを2拍としているが,不定拍指示のある末尾「合」を全符+2分,4小節として体裁を整えよう。

 工-工-|尺-上-|四-合-|---○|
 将 青  沙 𦋃  住 了

 続く「尺工」不定拍長音の2符で「娘娘臉」「花喇々引」という2つの小フレーズが唱えられる。画像の上では「花喇々引」のほうが長いが,後者の「喇々」は語気音の繰り返しであるので,両者同じくらいの長さで良いと思う。

(器楽)尺---|----|工---|----|
(歌唱)尺--尺|尺--○|工-工工|工--○|
    娘  娘 臉    花 喇々 引

 つぎの「尺上尺上」を土岐達は,はじめの「尺上」と末の「上」を各2拍,3符めの「尺」を不定拍長音とする。本書ではすべて不定拍長音で,3符め「尺」の不定拍の傍線の内がわ,歌詞「門」の横に小文字で「四」,末「上」の不定拍指示の尻に「切」と書かれ,句切りの「。」が添えられている。小文字の「四」は歌唱に対する指示ではないかと思われるので----

(器楽)尺---|上---|尺---|--上-|
    ---○|
(歌唱)尺---|上---|尺-尺-|四-上-|
    上    了    午 朝  門 外
    ---○|

としてみる。次の歌詞の頭に「○」があるのて,一度ここで句切ろう。


002 上工六尺。工四上尺。工四上尺。工四上尺四上尺工上四仩合。

 タウ キン チャウ ツウ テン キ
○到 今 朝 ・子 登 基
 クヮン ワン ミン ム キャウ キャイ ポ ネン ニャン ツィン
・管 万 民 ・母 叫 街 不 諗 娘 親

 「上工六尺」歌詞は「到今朝」で土岐達は頭の「上」のみ2拍,本書の譜より真ん中の「今」に「工六」2音があてられていることが分かる。3度くりかえされる「工四上尺」はいづれも「工」と「尺」が2拍,最期の「四上尺工上四仩合」は2つめの「四」にのみ2拍の指示がある。これをそのまま近世譜に直すと

  上-工六|尺工-四|上尺-工|-四上尺|
  -工-四|上尺-四|上尺工上|四-仩合|

となる。4/4の8小節ぴったりでおさまりはよいのだが,調子に対する長音の位置,前後の関係を考え,長音でないはじめの小フレーズの区切りに休符を置く,また次が器楽間奏であるところから末尾「合」をのばして2分半+休符の全符とするとやや見られる形に整った。

 上-工六|尺○工-|四上尺-|工-四上|
 到 今  朝 子  登 基  管 万
 尺-工-|四上尺-|四上尺工|上四-仩|
 民 母  叫 街  不 諗  娘親
 合--○|

 ここまでがいわゆる「序曲」「解説」にあたる導入部のようなもので,つぎの間奏から先が芝居の本筋である。


003 合四合四仩合四仩仩。伬伬仜合合四仩合。四仩仩

 間奏部,譜横に「流水」とある。本曲の間奏部の曲調は「○○流水」と題される他曲に文字順列上,フレーズの似通ったものが多い。土岐達の音長指示に従うと----

  合四-合|四仩--|○合四仩-|仩伬伬工|
  合○合四|仩--○|合四仩-|仩○

であるが,まず出だし「合四」以下の小フレーズは連山派の「林氏流水」など「○○流水」と題する清楽曲中によくある出だし部分と同じものであろう。それら類例から考えると,出だし2符「合四」は1拍2拍ではなく各2拍,すなわち「合-四-|」である可能性が高い。
 1番目の句点以降,2・3番目の小フレーズは符字順列上,「漫板流水(漫波流水)」の出だしと一致する。同様の曲調はまた「林氏流水」のほか「竹林流水」,連山派『声光詞譜』の「流水」,「如意串」などの中などにも見られる。
 これらを参考にすると----

 合-四-|合四仩-|合四仩-|仩--○|
 伬-伬仜|合-合四|仩-合四|仩-仩○|

という曲調が得られる。土岐達の指示・句点や原譜の2番目の句点を無視するかたちになるが,清楽曲としてはこれがもっとも妥当であろう。次の歌唱との間を考えると,末尾の「仩○」を全符の長さで揃えたほうがよいかとも思われるが,曲導入部のはじめの一段めが終わったところであり。間奏でぴったり8小節,これ以上間があくのもやや不自然なので,とりあえずはこのままとする。


004 尺六。工尺工尺工上

 ニ イュイ エヽ ツャン クヮン カゥ
○你 与 爺 ・将 官 告

 「尺六」にいづれも不定拍長音の指示,歌唱は「尺」で「你与」,「六」で「爺」を発音する。出だし部分と類似したフレーズなので,長さは 001 と同様か,それより少し短いくらいが適当であろう。本譜では「六」の後に小区切りの「。」が入っている。「工尺」で「将官」各1字,「告」に残りの4符があてられており,土岐達ははじめの「工尺工」までを各2拍としている。不定拍長音の部分だけは不明だが,あとは末尾「上」と次の器楽部分の間に休符を1拍置く程度でいいのではないかと考える。

(器楽)尺---|----|----|六---|
    -○工-|尺-工-|尺工上○|
(歌唱)尺---|----|尺---|六---|
    你         与    爺
    -○工-|尺-工-|尺工上○|
      将  官 告


005 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 011,017,022,027,033,036,039,042,049 として同じフレーズが出てくる。
 歌唱なしの間奏部分。土岐達の指示だと----

  上四上-|尺工六-|尺六工○|工尺工尺|
  工六--|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

となる。16符めの「六」とつぎの「五」の間に音長の不均等関係を表すと思われる「~」が入っているが,これは2分半4分か4分半8分か分からない。長崎歴文の写本『西奏楽意譜』(中村18:57)の「林氏流水」の中などに,これと一致するだろうフレーズが見られる。符字順列は----

  上四上上尺工六尺六工工尺工尺工六五六工尺上合四上

この長崎歴文写本の「林氏流水」は符字順列から推測して,渓派や連山派で一般的な「林氏流水」とは少し異なり,「徳健流水」の出だしを「林氏流水」のそれに替えただけのような曲である。該当箇所は渓派の「徳健流水」(SG016)で言えば,2段8小節目からの以下のような部分にあたる。

                 上四上-|
  上-尺-|六-尺六|工--○|工尺工-|
  尺工六○|五六工尺|上-合四|仩--○|

これらのことから,前の間奏部分と同じくこの箇所も,「林氏流水」や「徳健流水」中のフレーズのヴァリエーションであろうと推察される。土岐達の長音指示とこれら類例の曲調を参考に少し整形すると----

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上○合四|
 仩-仩○|

というあたりが妥当であろう。


006 上尺工六工尺 合合四仩合四仩仩

 ホー パン リィ
○部 班 裡 

 018,034 に同様のフレーズがある。
 前半歌唱は3文字で符の配分は「上 尺工 六工尺」,土岐達はこのうち「上」と「六」に2拍の指示を付す。後半は器楽のみで,土岐達は1符めと7符めに2拍の指示,近世譜にすると

  上-尺工|六-工尺|合-合四|仩合四仩|-仩

となる。前半はそのままで良いが,後半「合合四」以下は前項同様,流水調の曲によくあるフレーズなので----

(器楽)上-尺工|六-工尺|合-合四|仩-合四|
    仩-仩○|

と整形する。
 「工尺」4分で切れるため,このままだと歌唱部分の切れかたがやや唐突でつながりが悪い。伴奏とは別に,歌にもう1音低い「上」を足して,間奏に少しかぶさるくらいにくらいすると,歌いやすく,また聞きやすくなるだろう。

(歌唱)上-尺工|六-工尺|上--○|○○○○|
    部 班  裡
    ○○○○|

007 (白)家 爺 為・何 不 穿 帯

 器楽なしの科白部分。


008 尺尺工六五仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 ニイ キャア エー エヽ ヽヽ イュイ スエン ワン
○你 家 爺   与 先 王 

 013,019,024,029,044,046 に同じフレーズがある。
 前半歌唱部分,土岐達の指示によれば----

  尺-尺工|六○五仩|五○仩五|五-仩六|工六 

となる。これに歌詞をあて,合わせて多少整形すると

  尺-尺工|六○五仩|五○仩五|五仩六-| 
  你 家  爺 エエ エ エエ 与ガ先ナイ
  工-六-|
  王

というあたりになろうか。4小節目「五」をのばすか「六」をのばすかは少し悩ましいところなのだが,ここでは歌詞の「与」に語気音「ガ」がついているので,こちらを長音とした。歌詞の配分によっては「六」が長音で良い箇所もあるかと思う。土岐達による後半間奏部分は----

  六-尺六|工○工尺|工尺工六|--五六|
  工尺上-|合四仩-|仩

であるが,これも連山派の「林氏流水」「清響流水」「徳健流水」に,   六-尺六|工--○|工尺工-|尺工六-|   五六工尺|上-
というほぼ同じフレーズが見える。これにほかでも繰り返される末尾「合四仩仩」を足したものが妥当であろう。

  六-尺六|工--○|工尺工-|尺工六-|   五六工尺|上○合四|仩-仩○|

(器楽)尺-尺工|六○五仩|五○仩五|五仩六-|
    工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
    尺工六-|五六工尺|上○合四|仩-仩○|
(歌唱)尺-尺工|六○五仩|五○仩五|五仩六-| 
    你 家  爺 エエ エ エエ 与ガ先ナイ
    工-六○|○○○○|○○○○|○○○○|
    王
    ○○○○|○○○○|○○○○|○○○○|


009 上尺上尺六五六工尺 合合四仩。合四仩仩

 チョエン ヒャア サン リン
・穿 孝 喪 霊 

 014,020,025,030,037,043,047 に同じフレーズが見える。
 前半歌唱,土岐達の指示では----

  上-尺上|尺六-五|-六-工|-尺 

だが,これは歌詞の配置から考えて,2音を2拍にするだけで整う。後半は 006 と同じだが,最初の「合四仩」の後に句点があるので,「仩」を2拍から1拍+休符とする。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 穿    孝    喪  ガ 霊
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|


010 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 ツャン ヒャン パンアヽアヽ ア アアア ターウ レエヽヽ ヅァイ
・将 香 盤 桃  列 在 

 同様のフレーズはここのほか 016,026,032,035,038,041,048 として登場する。
 土岐達の版では「六五」のくりかえし,連続する「六」の回数などに小変異がみられるが,本譜の場合,その文字順列はすべて同じである。
 土岐達ははじめの「尺」のほか,連続する「六」の後の「工尺工」3符および末尾の「上」に各2拍の指示が付けている例がある。近世譜に直すと----

  尺-尺工|六五六五|六五六六|六六六工|
  -尺-工|-尺工上|-

となるが,長音指示のない「尺尺工」から「六」の連までが,そのままだと不自然である。歌詞の配分のほか,連山派の「清響流水」中に類似のフレーズが見られるので,その音長を参考にすると

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 香  盤 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  桃 列  エ ヽヽ 在

という曲調が得られる。本項では一つながりになっているが,この後につづく例ではすべて,5連の「六」の最後のところに句点があり,2つの小フレーズに分かれている。そのためここだけは類例と異なり,「六」の2拍ではなく1拍+休符とするのが妥当であろう。


011 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 005と同じ間奏。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上○合四|
 仩-仩○|


012 工尺工上尺上合乙四 四合四。合四仩四仩四合工工。六五六尺尺工六五六。尺工六五六工尺上。合四仩仩

 ツィン ランアヽヽヽ シャン 
・進 廊 上 

 本項のほか,023,040,045,050 に同じフレーズがある。また1符少ない 028 もこのヴァリエーションである。
 土岐達の版に長音の指示はないので,そのままだと1符1拍となるが,曲中の類似フレーズ中に----

  工尺工上尺上合乙四 

と長音指示がなされているものがある。これに従えば近世譜は----

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|
 進ガ廊    アヽ ヽヽ上

となる。歌詞との兼ね合いも,次とのつながりもよいのでこれで良しとしよう。。

 後半の間奏部分に関しては,連山派の「林氏流水」をはじめ「徳健流水」「清音流水」「漫波流水」などの中に前後を含め,ほぼ同様のフレーズが見られる。沖野竹亭『清楽曲譜』「漫波流水」では----

                 四合四-|
  合四仩-|四仩四合|工-工-|合四合-|
  尺-尺工|合四合-|尺工合-|四合工尺|
  仩仩合四|仩-仩-|

 柚木友月『明清楽譜』「清音流水」では

                 四合四-|
  合四仩-|四仩四合|工-工-|六五六-|
  尺-尺工|六五六-|尺工六六|五六工尺|
  上-合四|仩---|

 小差異はないでもないが,曲調はどの曲でもほぼ同じである。この種の曲における典型的なフレーズの一種らしく,これらを参考に組むと本譜は次のような曲調となる----

                四合四○|
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 土岐達の版ではこれの前の歌唱部分にほとんど差異はないものの,こちらの間奏部分は----

1)五六五六五仩、五仩五六工工六五六、尺尺工六 五六、尺工六五六工尺上、合四仩
2)五六五六五仩五仩五六工工六五六尺尺工六五六工工六五六工尺上合四仩
3)五六五五六五仩五仩五六工工六五六尺尺工六五六尺工六五六工尺上合四仩
4)五六五六五仩五仩五六工工六五六尺尺工六五六尺工六五六工尺上合四仩
5)五六五六五仩五六工工六五六、尺尺工六五六、尺工六五六工尺上、合四仩仩
6)五六五六五仩五仩五六、工工六五六、尺尺工六五六、尺工六五六工尺上、合四仩仩

と長音の指示にわずかな差異がある。しかし1)を基本と考え「~」となっている箇所を「レ」と同じ2拍指示とし,2箇所長音を足すと----

                 五六五-|
  六五仩○|五仩五六|工-工〓|六五六○|
  尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
  上○合四|仩-仩〓|

と,筆者の組んだ上記の例と曲調上の差異のほとんどないフレーズとなる。出だしが「四合四」でなく「五六五」になっているが,これは符字が1オクターブ上のものになっているだけで,月琴で弾いた場合の曲調はほぼ同じである。


013 尺尺工六五。仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 ショェン チ クィイヽヽヽ メン チャウ テン 
○双 膝 跪   面 朝 天 

 句点の位置が異なるだけで,008と同じ。土岐達の版ではこの箇所の該当フレーズに長音指示がないが,ほかの4箇所では出だしの「尺」に2拍の指示がある。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 双 膝  跪  イ ヽ ヽヽ 面ガ 朝
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   天
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 5小節目「天」は間奏の頭にかぶさる。この小節の歌唱は「工 六-○|」となろう。


014 上尺上尺六五六工尺 合合四仩。合四仩仩

 ゴ ハイ スェンナイ ワン
・哭 拝 先 王

 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 哭    拝    先    ナイ王
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|


015 工工工工工上工尺尺 合合四仩合四仩仩

 アイ イヽヽ スェン ワン ヱ
 噯 先 王 爺

 土岐達は前半歌唱部出だしの「工」5音を1音不定拍に,また末尾の「尺尺」を1音の「尺」2拍としている。後半は 009,014 と同じである。出だしの「噯イヽヽ」の部分は調子を整える語気句であるから長さ的にはどうとでもなるが,構成的に見て 014 と対で,014 の「先王」を受けて強調するだけのフレーズであると推察される。そこから考え,続く「上工尺尺」を各2拍として,「先王」の発音位置やフレーズの長さはそろえたほうが良いだろう。また「爺」の「尺尺」は,伴奏では「尺」2拍2音,歌唱では「尺--○|」1音として唱えるほうが自然である。

 工-工-|工工工-|上-工-|尺-尺-|
 噯    イヽヽ  先 王  爺
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|


016 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上

 ネン ウィ ジン イヽヽヽ アヽヽヽヽ シウ ギュイン エン
・念 微 臣   ・受 君 恩

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 念 微  臣 イヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  受 君    恩

017 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上合四仩仩

 005 と同じ間奏。末尾「合四仩仩」前の「上」に句点がないので,ここを4分+休符でなく2分とする。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 土岐達の版は8小節目の「上」に休符がついているだけで,全体としてはこれに近い。


018 上尺工六工尺 合合四仩。合四仩仩

 ユウ スウ ザァイ
○有 数 載 

 006と同じ。後半の句点に小変異。

(器楽)上-尺工|六-工尺|合-合四|仩○合四|
    仩-仩○|
(歌唱)上-尺工|六-工尺|上--○|○○○○|
    有 数  載
    ○○○○|


019 尺尺工六五。仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上合四仩仩

 ミン ヲィ ジン エヽヽヽ ヒャ テン チウ
○命 為 臣   下 澄 州 

 末尾「合四仩仩」前の句点がないだけで 008 と同じ。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 命 為  臣  エ ヽ ヽヽ 下ガ澄
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   州
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|


020 上尺上尺六五六工尺 合合四仩合四仩仩

 シン チイ キーヤー ミン
○賑 済 飢。 民 

 句点が省略されているだけで 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 賑  カ 済    飢 ヤ    民
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|


(つづく)

funen03.txt
斗酒庵 「秘曲」をひもとく! の巻『清風雅唱-外編』「仁宗不諗母」の復元(3)

STEP3 復元後半

021 上上上四合工尺工尺工上

 ヲイ チャウ チョエン ナ シュイ イヽ ヅゥ
○回 朝 転 ・那 誰 知

 土岐達は----

  上-上-|上四合工|-尺工尺|工上-

 とする。フレーズの間に休符を一つはさむだけで

 上-上-|上四合○|工-尺工|尺工上-|
 回 朝  転    那 誰  イヽ知

 となり,これで特に問題はない。

022 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六五六工尺上合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

023 工尺工上尺上合乙四 四合四。合四仩四仩四合工工。六五六尺尺工六五六。尺工六五六工尺上。合四仩仩

 チャウ チョン アヽヽヽ ロワン
・朝 中 乱 

 012 と同じ。

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 朝 中    アヽ ヽヽ乱
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|


024 尺尺工六五仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 ヘウ コン リー イヽヽヽ チュウ リャウ
○後 宮 裡   出 了 

 008 と同じ。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 後 宮  裡  イ ヽ ヽヽ 出ガ了
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ----
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

025 上尺上尺六五六工尺 合合四仩。合四仩仩

 スャウ コー ヲイ ワイ
○小 郭  淮 

 009 と同じ

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 小    郭    ヲ イ    淮
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

026 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上

 ツャン ベン パウアヽヽヽ アヽヽヽヽ ター レイヽ ヅァイ
・将 莾 袍  打 列  在

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 莾  袍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  打 列  イ ヽヽ 在

027 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

028 工尺工上上合乙四 四合四。合四仩四仩四合工工。六五六尺尺工六五六。尺工六五六工尺上。合四仩仩

 カイ フヲン アヽヽヽ  フウ
・開 封  府 

 012 とほぼ同じ。「尺」1符を欠くが,本譜における歌詞の配分から考えて,以下のようになるものと思われる。

 工-尺工|上-上-|合乙四-|四合四○|
 開ヤ封  ア ヽ  ヽヽ府
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|


029 尺尺工六五。仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 ニイ キャア エーヽ エヽヽヽ シャン キン デン
○你 家 爺   上 金 殿 

 008 と同じ。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 你 家  爺  エ ヽ ヽヽ 上ガ金
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   殿
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

030 上尺上尺六五六工尺 合合四仩合四仩仩

 チャウ ハイ シンナイ ギュイン
○朝 拝 新 君 

 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 朝    拝    新    ナイ君
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

     ワン スイ ユフ ツ セン パウ キン
031 (白)万 歳 有 旨 宣 包 卿 上 殿


032 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 ホ ティン テ エヽヽヽ アヽヽヽヽ キン パイヽヽ セン
○忽 聴 得  ・金 牌 宣 

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 忽 聴  得 エヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  金 牌  イ ヽヽ 宣

033 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

034 上尺工六工尺 合合四仩合四仩仩

 ニン ハイヽヽ チャウ
○銀 牌 招 

 006 と同じ。

(器楽)上-尺工|六-工尺|合-合四|仩○合四|
    仩-仩○|
(歌唱)上-尺工|六-工尺|上--○|○○○○|
    銀 牌イ ヽ ヽ招
    ○○○○|

035 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 イ プ ルウヽヽヽ ウヽヽヽヽ ライ ヂゥヽヽ ヅァイ
・移 歩 児  ・来 住 在 

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 移 歩  児 ウヽ ヽヽウ  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  来 住    ヽヽ 在

036 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

037 上尺上尺六五六工尺 合合四仩。合四仩仩

 ツウ スー クワンナイ チャウ
・仔 細 観  瞧 

 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 仔    細    観 ナ  イ 瞧
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

038 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 ナ シャン メン アヽヽヽ アヽヽヽヽ ヅヲ デ エヽヽ ズウ
○那 上 面  ・坐 的 是 

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 那 上  面 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  坐 的  エ ヽヽ 是

039 上四上上尺工六尺六工工尺工尺工六五六工尺上合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

040 工尺工上尺上合乙四 四合四合四仩四仩四合工工六五六尺尺工六五六尺工六五六工尺上合四仩仩

 チン ミン アヽヽヽ ツイ
・真 命  主 

 012 と同じ。

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 真カ命    アヽ ヽヽ主
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

041 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 ナー リャン パン アヽヽヽ アヽヽヽヽ ザン リイヽ ヅァイ 
・那 両 傍   ・詀 立 在 

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 那 両  傍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  詀 立  イ ヽヽ 在

042 上四上上。尺工六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

043 上尺上尺六五六工尺 合合四仩合四仩仩

 チョン ヲイヽ コンナイ キン
○象 位 公  卿 

 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 象  ガ 位イヽ  公    ナイ卿
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

044 尺尺工六五仩五仩五五仩六工六 六尺六工。工尺工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 ナー チョン ジン エヽヽヽ  ケン ガアヽ アン
○那 忠 臣 見 俺 

 008 と同じ。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 那 忠  臣  エ ヽ ヽヽ 見ガア
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ヽ 俺
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

045 工尺工上尺上合乙四 四合四。合四仩四仩四合工工。六五六尺尺工六五六尺工六五六工尺上合四仩仩

 ウヒ ウヒアヽヽ シャヲ
・微 微  笑 

 012 と同じ。

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 微 微    アヽ ヽ 笑
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

046 尺尺工六五。仩五仩五五仩六工六 六尺六工工尺工尺工六五六工尺上合四仩仩

 ナー ケン シン エヽヽヽ   ケン ガアヽ ツァ
○那 奸 臣   見 咱 

 008 と同じ。

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 那 奸  臣  エ ヽ ヽヽ 見ガア
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ヽ 咱
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

047 上尺上尺六五六工尺 合合四仩合四仩仩

 モ モ ウワイ エン
・黙 黙 無 言 

 009 と同じ。

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 黙  ガ 黙    無    ワイ言
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

048 尺尺工六五六五六五六六六六六 工尺工尺工上 

 ツャン ベン パウ アヽヽヽ アヽヽヽヽ  ライ チェエヽ ポー
・将 莾 袍  来 扯 破 

 010 と同じ。

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 莾  袍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  来 扯  エ ヽヽ 破

049 上四上上。尺工六尺六工。工尺工工尺工六。五六工尺上。合四仩仩

 005 と同じ。

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

050 工尺工上尺上合乙四  四合四合四仩四仩四合工工六五六尺尺工六五六。尺工六五六工尺上。合四仩仩 

 ナン フヘンアヽヽヽ ペン
・難 分  辨

 012 と同じ。

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 難ガ分    アヽ ヽヽ辨
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

051 尺六工尺工上工尺上工尺

 ツー ロ テ キャウ ドン アン チョン ディ ヒョン
○只 落 得 叫 同 俺 象 弟 ・兄

 土岐達は「尺六…工-尺工上-工…尺-上工尺-」とする。004 に近い。既出の項を参考に,また「象」にあてられた「工」の不定拍長音の傍線が「弟」横の「尺上」にかかっているのを,伴奏と歌唱の違いととると----

(器楽)尺---|----|----|六---|
    -○工尺|工-上-|-○工-|----|
    --工-|尺--○|

(歌唱)尺---|----|尺---|六---|
    只         落    得
    -○工尺|工-上-|-○工-|--尺-|
      叫同 俺      象 
    上-工-|尺--○|
    弟ヤ兄

とでもなろうか。不定拍長音のため実際の音長は不明だが,指示のない「叫同」を思い切って短くしたところ,緩急の変化がついて,より「それらしく」なった感があった。

052 工尺上尺 工尺上尺

 ツヲー パン ユウ プー キウ キン スゥ スャン
・左 班 右 部 ・九 卿 四 相

 土岐達は「工-尺上尺 工尺上尺」とする。後半の「工尺上尺」に長音指示がないのは,同じフレーズくりかえしとみて略したものとおぼしい。あとはフレーズの切れ目である「尺」を4分休符とするか2分半休符とするかだが,終曲の盛り上げ部分であり,前のパートが「緩」だったことを考えると,このあたり3フレーズは「急」の部分であろう。ならば----

 工-尺上|尺○工-|尺上尺○|
 左 班右 部 九  卿四相

と短くまとめるのが妥当と思われる。

053 上尺上尺 上尺

 ター ツウ スャウ パウ フ マ ペ
・太 子 少 保 ・附 馬 伯

 土岐達に長音の指示はない。
 ここまでが前からの続きで比較的「急」な箇所,次からふたたび「緩」となってゆくわけである。

 上-尺-|上-尺○|上-尺○|
 太 子  少 保  附馬伯

054 上尺 尺六

 ツィン リャウ ツャン ペン パウ
・請 了 ・将 莾 袍

 土岐達に長音の指示なし,最初の「上尺」までは前節からのつながりで,まだ「ゆっくり」程度。

 上-尺○|尺---|----|六---|
 請ガ了  将    莾    袍
 ---○|

055 六上六上 六上六上

 ツァ ヅァイ ペ ヨ°タイ  マウ ザァイ キン
○扎 在 白 玉 帯 ・帽 載 金

 ふたたび「急」。土岐達に長音指示はないのでそのままだと各1拍であるが,「玉」に符があてられていないことなどを考えて,全体を2拍とした,実際の演奏ではテンポのほうを調整して,ゆるく単調に繰り返す部分であったと思われる。

 六-上-|六-上-|六-上-|六-上-|
 扎 在  白玉帯  帽    載 金

056 尺上 尺上

 しめの4音。すべてに不定拍長音の指示傍線。4/4で組む関係上8拍,12拍の長さとしたが,実際の演奏では前項同様,しだいに遅くなってゆくテンポに合わせて音を自由にのばしてゆくところだろう。

 チェン ポ リ ギュイン メン チャウ トン
○臣 不 理 君 ・面 朝 東

 尺---|----|上---|---○|
 臣    不 理  君
 尺---|----|上---|----|
 面    朝    東
 ---○|

 今回の復元はあくまでも,全体的な曲調の把握を目的とした「おそらくこんなものだろう」というレベルの作業なので,歌詞や発音についての考察もなく,繰り返しされるフレーズもほぼ同じ一律に再現したが,実際の演奏では同じメロディでも,箇所によりテンポを違えたり,ブレスや長音の位置を移動させるなどして,単調にならないよう工夫していたことだろう。
 数年前に行った「四不像」の復元でもこれと同じく,はじめは音長の分かる資料が1つしかなく,作業は困難を極めたが,今回の場合は符字順列上の同定から,他の清楽曲のフレーズがほとんどそのまま流用できる箇所が多く,はるかに容易かった。むしろ今回は過去に入力した楽曲のデータがメインで,音長参考の資料である土岐達のほうが,補助的な確認・参考資料の位置にあったとも言える。
 より正確な再現は,もっと詳細な音長指示の入った新たな資料の発見を待たなくてはならないが,これまで行った「四不像」や「孟浩然」などの復元試行でもそうであったように,そうした資料が見つかった後で比較しても,出来栄えとしては意外に「それほど間違ってはいない」というくらいにはなっている,という程度には,憚りながら自信がある。(w)
 長曲であるが一定のメロディの繰り返しなため,演奏は比較的容易である。
 いっちょう覚えてみても面白いかもしれない。


(つづく)

funen04.txt
斗酒庵 「秘曲」をひもとく! の巻『清風雅唱-外編』「仁宗不諗母」の復元(4)

STEP4 仁宗不諗母(全曲近世譜)



 つなぎあわせた歌譜の画像と,MIDI と AquesTone で再現した曲を合わせて動画を作ってみました。
 以下の全曲譜とともに練習のお伴としてください。
 MIDI作製は SAKURA。もともとの工尺譜は文字譜,「"ド"と文字入力すればドの音が出る」というMMLとの相性が良く,五線譜と違って楽譜をテキストエディタで変換すればそのまま曲になります。それゆえに,この 2010年代末になってまだMMLなどという古代の技術を使っている庵主なのでありました。(w)

 尺---|----|----|六---|
 你         与    爺
 --五○|工-工-|尺-上-|四-合-|
      将 青  沙 𦋃  住 了
 ---○|尺---|----|工---|
      娘  娘 臉    花 喇々
 ----|尺---|上---|尺---|
 引    上    了    午 朝  
 --上-|---○|上-工六|尺○工-|
 門 外       到 今  朝 子  
 四上尺-|工-四上|尺-工-|四上尺-|
 登 基  管 万  民 母  叫 街  
 四上尺工|上四-仩|合--○|
 不 諗  娘親

 合-四-|合四仩-|合四仩-|仩--○|
 伬-伬仜|合-合四|仩-合四|仩-仩○|

 尺---|----|----|六---|
 你         与    爺
 -○工-|尺-工-|尺工上○|上四上-|
   将  官 告
 上○尺工|六-尺六|工--○|工尺工-|
 尺工六-|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺工|六-工尺|合-合四|仩-合四|
 部 班  裡
 仩-仩○|

(白)家 爺 為・何 不 穿 帯

 尺-尺工|六○五仩|五○仩五|五仩六-| 
 你 家  爺 エエ エ エエ 与ガ先ナイ
 工-六○|六-尺六|工--○|工尺工-|
 王
 尺工六-|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 穿    孝    喪  ガ 霊
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 香  盤 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  桃 列  エ ヽヽ 在

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上○合四|
 仩-仩○|

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 進ガ廊    アヽ ヽヽ上
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 双 膝  跪  イ ヽ ヽヽ 面ガ 朝
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   天
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 哭    拝    先    ナイ王
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 工-工-|工工工-|上-工-|尺-尺-|
 噯    イヽヽ  先 王  爺
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 念 微  臣 イヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  受 君    恩

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 上-尺工|六-工尺|合-合四|仩○合四|
 有 数  載
 仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 命 為  臣  エ ヽ ヽヽ 下ガ澄
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   州
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 賑  カ 済    飢 ヤ    民
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 上-上-|上四合○|工-尺工|尺工上-|
 回 朝  転    那 誰  イヽ知

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 朝 中    アヽ ヽヽ乱
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 後 宮  裡  イ ヽ ヽヽ 出ガ了
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ----
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 小    郭    ヲ イ    淮
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 莾  袍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  打 列  イ ヽヽ 在

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 工-尺工|上-上-|合乙四-|四合四○|
 開ヤ封  ア ヽ  ヽヽ府
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 你 家  爺  エ ヽ ヽヽ 上ガ金
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
   殿
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 朝    拝    新    ナイ君
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

(白)万 歳 有 旨 宣 包 卿 上 殿

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 忽 聴  得 エヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  金 牌  イ ヽヽ 宣

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 上-尺工|六-工尺|合-合四|仩○合四|
 銀 牌イ ヽ ヽ招
 仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 移 歩  児 ウヽ ヽヽウ  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  来 住    ヽヽ 在

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 仔    細    観 ナ  イ 瞧
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 那 上  面 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  坐 的  エ ヽヽ 是

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 真カ命    アヽ ヽヽ主
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 那 両  傍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  詀 立  イ ヽヽ 在

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 象  ガ 位イヽ  公    ナイ卿
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 那 忠  臣  エ ヽ ヽヽ 見ガア
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ヽ 俺
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 微 微    アヽ ヽ 笑
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五○仩|五-仩五|五仩六-|
 那 奸  臣  エ ヽ ヽヽ 見ガア
 工-六-|六-尺六|工--○|工尺工-|
 ヽ 咱
 尺工六○|五六工尺|上○合四|仩-仩○|

 上-尺-|上尺六-|五-六-|工-尺-|
 黙  ガ 黙    無    ワイ言
 合-合四|仩○合四|仩-仩○|

 尺-尺工|六五六五|六五六-|六-六-|
 将 莾  袍 アヽ ヽヽア  ヽ ヽ
 六-六○|工-尺-|工-尺工|上--○|
 ヽ ヽ  来 扯  エ ヽヽ 破

 上四上-|上○尺工|六-尺六|工--○|
 工尺工-|尺工六-|五六工尺|上-合四|
 仩-仩○|

 工-尺工|上-尺上|合乙四-|四合四○|
 難ガ分    アヽ ヽヽ辨
 合四仩-|四仩四合|工-工○|六五六-|
 尺-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
 上○合四|仩-仩○|

 尺---|----|----|六---|
 只         落    得
 -○工尺|工-上-|-○工-|--尺-|
   叫同 俺      象 
 --工-|尺--○|工-尺上|尺○工-|
 弟ヤ兄       左 班右 部 九  
 尺上尺○|上-尺-|上-尺○|上-尺○|
 卿四相  太 子  少 保  附馬伯
 上-尺○|尺---|----|六---|
 請ガ了  将    莾    袍
 ---○|

 六-上-|六-上-|六-上-|六-上-|
 扎 在  白玉帯  帽    載 金

 尺---|----|上---|---○|
 臣    不 理  君
 尺---|----|上---|----|
 面    朝    東
 ---○|


(おわり)


楽譜を読もう!

score_01.txt
楽譜を読もう! の巻 楽譜を読もう!

STEP1 オムツを脱いで,栄光なるフンドシへ!!


 ドレミが出来るようになったら,
        曲に挑戦してみましょう。


 明治のころの清楽では,こういう「工尺譜(こうせきふ/こうしゃくふ,でも構わない)」という楽譜が使われてました。
 まあ一見漢字の羅列ですが,日本人が音階をハニホヘトイロハに当てはめたように,西洋の人がアーベーツェー(ABC)に当てはめたように,中国は漢字の国なので,ドレミの音階を漢字で表しているだけのこと。
 どの文字がどの音にあたるかさえ覚えてしまえば,何てこともないのですが,漢字=難しいモノ,みたいな刷りこみや先入観があるせいでしょうか。オトナのみなさんはだいたい,このお経みたいな見かけだけで,ワケもなく尻ごみます(w)

 この縦書きの工尺譜は,横についてる「付点」というものを頼りに,どの音が長いか短いかを読み解いてゆくのですが。その「付点」の形式が統一されてなかったことや,方式自体に表現上の限界があるので,一般人がこれだけでその曲がどんなメロディだったのかを読み解くのはちょっと難しい。
 そこで明治のころにこの工尺譜を,西洋から入ってきた楽譜の形式を使って,より分かりやすい形式にした楽譜が流行しました。これを庵主は 「近世譜」 と呼んでいます。
 より多くの人が楽譜を読めるようにするため,明治の人が参考にしたのは----イタリアあたりが発祥らしいのですが----音楽を五線譜にオタマジャクシではなく,数字であらわす 「数字譜」 というものでした。これはかんたんに言えば

 1=ド,数字一つを1拍。

 としてメロディを横書きにしたものですね。「1234567」が「ドレミファソラシド」で1文字1拍(=4分音符),休符が「0」。伸ばす音は「-」,半拍(=8分音符)は下線,四分の一拍(=16分音符)は二重下線で表現します。中国ではいまでもこの類の数字譜が使われていますので,二胡などやっている人にとってはお目馴染みですよね。

 明治の「近世譜」というものは,この数字譜の数字を工尺譜の文字記号に置き換えただけのモノです。
 基音楽器である明笛の音階をもとに,数字譜の数字と文字記号の対応表を作ると,こんなふうになります。

音階ファファ
数字譜
明笛(乙)
月琴六/合五/四𠆾

 上にあげた四竃訥治の本で上下に並んでるとおり,近世譜のきまりは数字譜と同じ。
 ただし符字(音符)の字の読み解きには,基本的に工尺譜のきまりごとが適用されます。
 すなわち,月琴は最低音が「上」なので「合」は「六」「四」は「五」として弾きます。明笛は「合四乙」が出せますので低いほうの「ソラシ」で吹きますが,「合四乙」にはさまれた,また隣り合わせた「仩」以上の高音は,ニンベンのない,1オクターブ下の音として演奏します。(ちなみに 「乙」が低音か高音かはフィーリング(w))
 こうやって文字を変えることで,楽器ごとにパート分けしなくても同じ譜面を読みながらすべての楽器が合奏できるというのが,工尺譜の特異な合理性なんですが,上の表にあるとおり数字譜では「7」以上の高音は記号の上に「・」を,「1」以下の低音には下に「・」を付して表すものの,高音低音の違いが点だけで記号自体は変わらないせいか,工尺譜的なきまりごとがイマイチ直感的に把握できません。

 数字譜は,あくまでも「オムツ」です。
 フンドシ(縦書き工尺譜)にまで手を出さなくても結構ですので,はやくパンツ(近世譜)が穿けるように各人奮励努力せよ。

 なによりアナタ。
 せっかくレアな楽器を演奏してるんですから,ここらでさらに株をあげとかないと。
 1=ドの数字譜はシロウトさんでもすぐ理解しやすいですし,さっきも書いたように二胡なんかやってるヒトにとっては見慣れたシロモノです。
 ですが漢字の「工尺譜」は,今やその発祥の地,中国でも読める人が少ない。Imagin----

 「さー月琴弾くぜぇ!」

と言いながら,漢字のならんだ工尺譜をピラっとひろげ,おもむろに,何事でもなさげに演奏しているアナタ----
 たとえほんとはまだちゃんと読めてなくてほとんど耳コピの演奏だっととしても(w),またそれが数字を漢字に置き換えただけ,知ってる人ならだれでも読めちゃう近世譜であったとしても。

 衆目のマトでっせ~。

 庵主がこれまでに解読した渓派の楽曲や,月一回のワークショップで使われる楽譜の類は,本拠HPのほうに置いてあります。


 PDFに組んでありますので,DLしてコンビニのコピー機などで自由にプリントアウト可能です。
 一部の譜は近世譜/数字譜対照になってますので,そちらでまず目を馴らしてから,漢字の近世譜だけのヴァージョンに挑んでみてください。
 弾きたい曲をプリントアウトして,上にドレミなり123ふっておぼえるのがいちばん効果的かと。対応表はだいたいどの譜集にも付いてますが,別途それの載ってるページだけ印刷しとくのも手かもしれません。
 実際に耳で聞かないとおぼえられないムキには,いちばん上のページの表から,それぞれの楽曲の解説ページに飛べば AquesTone を使った歌付きの版も聞けます。
 聞きながら楽譜見て弾くと,さらに効果ありですね。

(おわり)


月琴WS@亀戸 2018年4月場所!

20180428.txt
斗酒庵 WS告知 の巻2018.4.28 月琴WS@亀戸 春爛漫の月の音 の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 4月場所 のお知らせ-*


 さて今年度のWSもはや3回目。
 2018年,4月清楽月琴ワークショップは,月末28日,土曜日の開催予定!
 会場はいつもの亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願い。

 お昼下りの,チョロチョロ開催。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。うちは基本,楽器はお触り自由です。

 1曲弾けるようになっていってください!
 三味線,琵琶,中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 57号「時不知」58号「太清堂」,引き続きお嫁入り先募集中です。興味のある方は試奏もかねてどうぞ~!

 ほか,庵主所有で弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 3月場所は桜がリーチのころでした。
 はるのうららの墨田川,墨堤下れば両国で,二つ駅行きゃ天神さん。雪のごと散りゆく花に誘われて,鶯鳴くよほーほけきょ,月の琴でも弾きにきませんか?


月琴WS@亀戸 2018年3月場所!

20180317.txt
斗酒庵 WS告知 の巻2018.3.17 月琴WS@亀戸 桜と梅,決戦!春の大怪獣(w) の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 3月場所 のお知らせ-*


 2018年,はるもやよいの3月清楽月琴ワークショップは,17日,土曜日の開催予定。
 会場はいつもの亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願い。

 お昼下りの,ウロウロ開催。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。うちは基本,楽器はお触り自由です。

 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 梅は咲いたか桜はまだかいな。
 すぐそばには亀戸の天神さんもございます。お散歩ついでにお越しあれ~。

月琴WS@亀戸 2018年2月場所!

20180224.txt
斗酒庵 WS告知 の巻2018.2.24 月琴WS@亀戸 ころきさらぎの月の琴弾け の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 2月場所 のお知らせ-*


 1月は庵主,雪かき帰省のためお休みさせていただきまあす!!

 歳の変わって2018年,第一弾は本年最初の清楽月琴ワークショップは,2月24日,土曜日の開催予定。
 会場はいつもの亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願い。

 お昼下りの,しるぶぷれ~な開催。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。うちは基本,楽器はお触り自由です。

 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41号と49号の2本の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 月琴の楽譜はHPのほうで常時公開しております。「月の琴>明清楽復元曲一覧」からご自由にDLしてください。
 インストのみの基本楽曲版と歌入り曲の版,2種類。どちらもPDFにしてありますので,モバイル,パッドの類で閲覧するなり,コンビニで印刷するなりしてご使用あれ。


 月琴57号「時不知」は引き続きお嫁入りさき募集中!!
 ご購入をご検討の方はこの機会に試奏してみてください。

 さてさて,昨年は雪かきに帰ったものの庵主のおる間,雪はちィとも降らず,こっちィ戻ったとたんにどばッと降り。役立たずだの何のために帰ってきただの(w)言われましたが今季はどうなるか。
 帰って来たら少し暖かくなってるといいなあ~。ではみなさん来月までお元気で!!

月琴WS@亀戸2017年師走場所!!

20171216.txt
斗酒庵 WS告知 の巻2017.12.16 月琴WS@亀戸 師走だがワシは走らん!絶対にだ! の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 12月場所 のお知らせ-*


 本年も多数のご参加,ありがとうございました!!

 2017年,師走12月,本年最後の清楽月琴ワークショップは,16日,土曜日の開催予定。
 会場はいつもの亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願い。

 お昼下りの,ふりふり開催。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。うちは基本,楽器はお触り自由です。

 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41号と49号の2本の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 1月は庵主,雪かき帰省のためお休みさせていただきます。
 年明け最初のワークショップは2月の開催予定です。

清楽の歌 (1)

SONG_01.txt
斗酒庵流 渓派清楽歌譜 の巻清楽の歌 (1)


 さて,月琴も手に入れた。
 曲もなんとか弾けるようになった。
 工尺譜も……まあ,数字譜と対照ならなんとか。(w)

 というあたりになりましたら,だいたい月琴弾きの第三形態。つぎの段階-----

 月琴に合わせて,歌をうたいましょう。

 ----あー,かまえないかまえない。
 清楽の歌ってのはですね,ほとんどは清の時代に流行った流行歌や俗っぽい音楽,日本のむかしで言うなら端唄・小唄・懐メロの類なんです。

 だいたいがね,長崎に乗りつけた船乗り連中が伝えた音楽なんですよ。
 百年前の日本と中国じゃ,いちばん近い九州と台湾あたりとの行き来でさえ,板コ一枚命の危険と隣り合わせ----そんな連中が 「ヨーホー!ヨーホー!ラム酒とお宝~帆を張れホイ!」 以上の,ご高尚でおキレイなお歌なんぞ歌ってたと思いますか?
 たしかに「清楽」を伝えたと言われ,各流派の祖とされている中国の船主さんや商人には,かなりのインテリもおりました。しかしながら,その伝えた曲や歌自体は,同時代の流行曲であり俗曲であり,彼らの地元で流行っていた歌謡曲ていどのもの。それは当時の「海外の最新情報」であり,その意味では当時の知識人にとって喉から手が出るほど欲しいものではありましたが,それ以上の意味をもつものではありません。
 まあ,遠いむかし,異国からもたらされた音楽,っていうあたりは,それなりにロマンチックであり,そこには現在の大陸で消え絶えてしまっている曲もあるわけですから,わたしらのような研究者にとっては,いまもそれなりに価値があるわけではありますが。

 遠来の船乗りたちが異郷の地で,歌い,奏でていた手慰みの曲----裕ちゃんか小林明が波止場で歌ってたりしたらそれはそれでカッコいいかもしれません(w)が,もともとはあまり気取って弾くようなものでも,気取って弾いてカッコがつくようなものでもなかったわけです。


 日本の「清楽」とか「明清楽」ってのは,まあぶっちゃけて言っちゃえば一種の 「音楽詐欺」 みたいなモノなんです----ビートルズって名前だけは知ってても詳しいことは知らない田舎の少年たちに,都会から来た兄ちゃんが 「こんな感じ」 つてギター片手に教えたとしますわな。それが 「すンごい!」「もっと教えて!」 とウケるので,イイ気になって教えてるうちに,なんかビートルズでない曲とか,アヤしげなアレンジとかバタやんとか古賀メロディーとか四畳半フォークとかが混じって,いつの間にか 「びぃとるず」 って名前の音楽になった----そんな感じ。

 さらにそういうものを,お金をとって教えはじめたもんだからさぁ大変。こりゃあなんとしても体裁を整えなきゃならない。「長崎に留学して,お女郎さんと遊んでるついでにオボえてきた歌だよ~」 と正直に言って,さて,どのくらいのヒトがお金を払って 「習おう」 と思ってくれるか----いやいや(w)「これはスバらしいものだ」 と教えないとだれもお金くれませんからね。そこで船乗りの歌ってたエッチな唄や,素人芝居の一幕があたかも 「清の宮廷で歌われていた」 歌みたいに,しゃっちょこばって歌われるようになったわけです。


 たとえば梁川星巌は「月琴篇」で,そういうエッチな唄を,たいそうな・アリガタイ音楽であるかのようにして広めて回ってる清楽家連中を貶してますが,ほかのところでは月琴の音楽を聞いて感動したという詩も書いてます。当時のちゃんと漢文の読めた先生たちは,その実体を分かったうえで,半分は面白がって,半分は苦々しい思いで見ていたことでしょう。

 詐欺を詐欺とは知らないままに,その害を将来にまでつないでしまうってのは問題ですが。(汗) これをむかしの人がやらかしたギャグの一つだと思えば,ギャグと知ったうえで思いっきり乗っかって遊ぶのも悪くはありません。

 たいしたものではない,エッチな唄も多い----だからこそ。
 声高々と歌いましょう。(w)

 もとは中国語の唄ですが,もともとの方言や日本人の空耳や知ったかぶりと相まって,発音的にはけっこうエラいことになってます。
 (たぶん同時代の中国に行ってやらかしたら m9(^Д^) ってレベルww)
 庵主も当初は,ちゃんとした中国語に直したろ,とか思っていろいろやってたんですが,だんだんメンドくなってあきらめました(w)
 楽譜は4/4,1拍1文字の近世譜と歌詞の対照譜。歌詞にはカタカナで読みがふってあります。江戸から明治時代の表記をもとにしたものですんで,多少分かりにくい・読みにくいところもあると思いますがまあカンベンしてください。
 すこし前に公開した楽譜集と違って,メロディ部分は工尺近世譜オンリーですが,慣れてない人は下の対応表を参考に,自分でドレミなり数字なりふってください。

ファ

 上=1=真ん中のド(4C)とします。
 じっさいの清楽の音階だと3音くらい高い上=4Ebですが,移動ドなのでそれほど気にしない。おんなじ「乙」の字が高音にも低音にも出てきたり,月琴では出ない「上」より下の音が書いてあったりしてますが細かいところは気にしない。(工尺譜の読み方に関する過去記事 など参照!)
 だって歌だもん。
 人の声なら,月琴に無い音だってふつうに出せるわけで。

 そこんとこ踏まえたうえで,ほんじゃあいっちょういってみましょうかあ!!


  再現曲

 1曲目,「韻頭(イントウ)」。
 まあこれは「歌」じゃなくて,工尺譜の発音練習みたいなものですね。
 最初の1行は工尺譜の符字の読みかたを並べたもの。
 曲を弾きながら符字を発音して慣れよう,ってとこですね。
 「四」のとこだけ,月琴では「五」の音を出しながら,声は1オクターブ下を発音するわけで。やってみるとはじめのころはなかなかに難物。(w)
 けれどこれをクリアすれば,ほかも「まあこんなものか」と,歌を合わせるときの感覚が,少し分かるようになるかもしれません。


  再現曲

 おつぎは「算命曲(サンメイキョク)」。
 辻占の先生と娘さんのコミックソングで,ほんとはもっと長いんですが,まあとりあえず3番まで歌えればいいです。
 最後のくりかえしのところ,連山派とかでは「尺」と「上」が1オクターブ高い「伬」「仩」になってます。これが歌のメロディ。連山派が伴奏とユニゾンで歌うのに対して,渓派では月琴で低音パートを弾きながらオクターブ上のメロディ (五-伬-|仩-五-|六--五|六--○|) を歌う-軽くアンサンぶってる-わけですね。


  再現曲

 つぎはおなじみ「九連環(キュウレンカン)」。
 清楽でいちばん有名な曲でしょうかね。
 楽譜は同じですが,これも前の「算命曲」のくりかえしのところと同じで,月琴と歌とでメロディが異なります。
 分からなくなったら 「オクターブ上げ」(下画像参照)で弾いて,笛のメロディ(=だいたい歌のメロディ)を擬似的になぞってみてください。

  
  (2回目の演奏が「オクターブ上げ」)

 現在,この調子で『清風雅譜』所載の曲のうち歌のあるものを,同じ渓派の歌詞対照譜などを参考にしながら,この手の楽譜に変換中。
 まとまったらまたPDFにして公開しまあす。あと1曲…最後の「四不像」が難敵です。(^_^;) もうしばらく,お待ちください。

(つづく)