11号柏葉堂/12号照葉(6)

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斗酒庵 2面同時に月琴を直す の巻(5)2009.10~ 明清楽の月琴(12号照葉)

第6回 月琴12号照葉 コモノノオウコク

  実際はほとんど同時進行,ゴチャ混ぜ作業だったんですが。

  いちおう順番どおり,11号のほうが先に片付きました。


  さて,研究用に買い入れましたる自出し月琴12号。

  1ト月以上経ってようやく, 「照葉(てるは)」 と名づけられました。

  宅急便さんから受け取った時の感想が 「重っ!!!」 だった,てのは前にも書きましたが,庵主の現在のコンサーティナ「生葉(いくは)」と,同じくらい「重量級」の月琴です。「生葉」はおそらく唐木屋さん系の人の作らしく,数種類の檀木,鉄刀木,紅木紫檀,花梨,黒檀などをぜーたくに使った楽器でした。そのため,重い。たぶん中級クラスの月琴の,2倍以上はありましょう。

  12号「照葉」の主材はおそらく「カヤ(榧)」。

  唐木を主材にした「特上品」よりは1コ落ちますが,高級家具や特上の将棋盤にするくらいで,けして安価な材料ではありません。
  そのカヤをぜーたくに使って,棹も太め,胴材もぶ厚く----そもそも棹が茎までムクなわけですから,ちょっと勿体無い,ってぐらいの木取りですね。同じくカヤを主材とした鶴寿堂でも,茎は継ぎでしたものね。

12号半月痕
  あちこち厚めなおかげか,棹も糸倉も胴体にも目立った損傷はなく,欠損部品も少ないほうですが。

  ----半月が,ナイ。

  テールピースと言うか,ブリッジと言うか。琵琶では「覆手(ふくじゅ)」と言いますね。
  弦楽器で,糸の片方を結び付ける部分が丸ごとないわけですから,楽器としてはけっこう「重症」と言えるかもしれません。

  この半月,弦の力がかかるところですからね。ふつうは,まずカンタンには取れないよう,丁寧に,強固に接着されてしかるべき部品なのですが,古物では取れちゃってるのもけっこう見かけますし,前に修理した十六夜くんなんか,演奏中にぽーんとハガれて演者のおデコ,直撃したそうですから,そういうこともなきにしもあらず。

  特上品ではないとはいえ,これだけの材の楽器です。
  蓮頭と半月も,もとは黒檀とか紫檀だったかもしれませんが,資金難かつ工房の工具では歯が立ちませんので,ここは一丁,手馴れたカツラで作ろうと思い----そのかわり,意匠で思いっきり凝ってみますね。



  まずは楽器の頭から。

  「蓮頭」と呼ばれている割には,意匠が「コウモリ」さんになってたりするのをよく見かけますが。
  今回は伝統的な蓮の花の意匠で作ってみました。

  二日かけて彫り上げたやつを,沸かしたオハグロ液にブチ込んで染めます。
  そして上から,カシューの紅溜で拭き漆風に仕上げると,ちょっと目には紅木紫檀あたりにも見えなくはない。
蓮頭(1) 蓮頭(2) 蓮頭(3)


  さて次にいよいよ「半月」,今回の修理のメインとまいります。

  半月自体は無くなっちゃってるんですが,その接着痕と製作時のケガキ線が残ってますから,だいたいのカタチや大きさは分かります。これを半透明の用紙に写し,型紙を起こして,カツラの板を切り出します。

  ( ゚Д゚)ゴルァ!! (^▽^) ってとこかなあ。
半月型起し(1) 半月型起し(2) 半月作り(1)

半月作り(2)
  平面的な形やサイズは分かるものの,立体的な形は不明です。

  材質や作りから考えて,これは関西方面で作られた楽器だと思います。
  しっかり調べたわけではないのですが,月琴の半月は,関東では平面,関西では曲面のほうが多いようです。
  同じカヤ製の鶴寿堂なんかもそうでしたしね。

  そこでまず,形はドラ○モンのポケットのような曲面構成で。
  よくある意匠は,えーと……「蓮の花」ですね。
  しまった,蓮頭を「ハス」にしちゃったんだっけ!
  うむ,じゃあ,こちらは逆に蓮頭でよく使われる意匠 「コウモリ」 で行ってみましょう。

  とはいえ,コウモリさんを一匹,ただ彫るんじゃ面白くはありませんね。もう少し,ひねってみましょう。
  デザインに二日,彫るのに4時間。おまけに塗装に2週間。

  なんかこれなら,黒檀のカタマリ彫った方が早かったですかねえ。

半月作り(3)
半月作り(4)
半月作り(5)

  蓮頭と同じく,オハグロで染めて,カシューで上塗りですが,蓮頭より若干ツヤ塗りにします。

  最後の方で黒と紅溜を二三回ベタ塗りで重ね,研いで縞目を浮き出し,指板の黒檀に似せる----っと,お江戸の職人さん伝来の技法の応用です。ちょっと見たくらいで,これを「塗り」だと気づくような輩は,プロの骨董屋さんか美術品詐欺師です,ご注意を。(笑)

  素材自体が柔らかいので,糸穴の補強を兼ねて,象牙の薄板を埋め込みました。その円盤には糸穴があきますので,これをむかしのお金「穴あき銭」に見立てます。
  コウモリさんは二匹,左右からその穴あき銭を噛んでいる。

  中国語で穴あき銭は「眼銭(イェンチェン)」,コウモリは「蝙蝠(ピェンフー)」。 「眼銭」は「目の前(眼前)」,「蝙蝠」は「福だらけ(遍福)」に通じます。これすなわち「眼前遍福(イェンチェンピェンフー)」という洒落になるわけです。

  さらにコウモリさんとコウモリさんとの間に,小さな蓮花を添えました。
  これでも一つ「福(コウモリ)縁(円)連(ハス)至(ずーっとシアワセ)」の出来上がり。 「宝珠」も抱えて目出度いなァ,と。

  月琴という楽器は,今でも中国では,吉祥の贈答品としても使われます。

  そのためその意匠には本来,こうしたお目出度尽くしの洒落が多く含まれていたはずなのですが,日本で複製されるうち,また独自に製作されてゆくうちに,もとの意匠,もとの意味を失って,何だか分からなくなってしまったお飾りも少なくはありません。



お飾り作り(1)
  さて,楽器の中心線上にある,この蓮頭と半月という二つの部品を凝りに凝って,彫りに彫りまくってしまったために……オリジナルのお飾りが,似合わなくなってしまいました。

  まあ,もともとちょっとヒドい作りですからねえ。

  一番目立つ目摂の菊なんか,「一つ目のデメ金」 みたいです。葉っぱの彫りもテキトウ。なんか全体に「ぐんにゃり」「げんなり」といった感があります。

  扇飾りはまあ,こんなものでもいいんですが,やたらと角が取れてて,彫りが丸まっちい。
  ここはもうちょっと,綾格子の窓みたいにシャープなほうが,庵主は好きです。

  オリジナルがちゃんと残っているのにそれを使わないというのは,修理の本道からははずれますが。

  今回は半月からして再製作。
  音に関係のある部品が欠けてしまっているので,オリジナルの音はハナから分かりません。
  早苗ちゃんほどではないけれど,修理楽器としては 「再生」 に近い。

  ここは12号照葉ちゃんの,楽器としての新しい門出に「花」を添えてあげようと思います。
  ぜいたくな材質と作りに合った,も少しマトモなお飾りを。
  まあ,気に入らなければ,もとのお飾りに貼り換えてもらやイイですからね。


よくある菊
  オリジナルと同じく,目摂は「菊」。

  よくあるデザインは花を真横から見たというか…花びらがそっくりかえってるというか(→図参照)。

  1号のように正面を向かせたものもないではありませんが,今回のは斜め正面,庵主のオリジナル角度です。
  お飾りは朴の3ミリ板で作ります。

お飾り作り(2)
  目摂の大きさに切った四角い板を二枚,両面テープで貼り合せ,表にコピーしたデザイン画,裏に割れ防止の和紙を貼って,透き貫くところにドリルで穴を開けたら,糸ノコで外側の輪郭をだいたいのところ切り出します。
  そのあとはひたすらアートナイフ----刃先が何本逝ったやら。
  彫り線をリューターでキレイにし,擦り板で裏を削いで,半分くらいの薄さにします。

  左をまずあるていどこさえてしまってから,それを参考に右を彫る。

  ふだんの修理ですと,目摂のオリジナルが残っていて,無くなってるどっちか一方だけを彫ることが多いんで,両方とも彫るってぇ機会はそうそうございません。まあ,けっきょくやりかたは同じですがね。

お飾り作り(3)
  庵主はむかし篆刻(書道とかで使うハンコ,「落款」なんちゅう類のものを作るアレです)のけーけんがありますんで,左右反転仕事には慣れてますが,同時にこうして左右一対のものを作る時,「完全に同じにはしない」というのが鉄則であるというのも知っております。
  人間の顔なんかもそうなんですが,右半分と左半分,同じように見えても実際にはけっこう違っています。
  月琴という楽器も,胴体はまん丸で一見左右対称のように思えるのですが,実際には歪んでいたり,中心がわずかにズレていたりします。

  月琴の「目」にあたるお飾りも,顔と同じようにわずかに違えたほうがいいのです。
  …いえいえ,けっして。
  「100%同じはムリだしぃ」とか,
  「えー,メンドイぃー」とか,
  そんなことァ,思ったこともありません!
  …ありません……ってばよ。


お飾り作り(4)
  目摂の次は扇飾り。

  扇飾りでは,これと大同小異の意匠がかなり多く見られますね。
  たぶんこれは帯が「まんじ」型にからまった「万帯(=万代)」という吉祥紋がもとだと思うのですが,ほとんどの場合,意味不明のただの唐草紋になっちゃってます。
  これとフォルムがほとんど同じで,それをはっきり植物にしたり,流水にしたり,ヘビかナマズかウナギみたいな動物っぽくしちゃったりしている例もあります。唐渡り系の古い月琴では「喜」とか「寿」の字をくずした紋様になっていることがありますから,もともとちゃんとした意味のある吉祥紋だったことは間違いありません。

  今回は,オリジナルのものを多少フクザツにした程度。
  ぐにゃぐにゃ部分の角は落とさず,切り出した時のシャープなままにしておきます。


お飾り作り(5)
  最後は中央の円飾り。

  オリジナルは黒檀の板に「桃」を線刻しています。
  桃自体が吉祥紋なのでそこはいいんですが,ほかのお飾り----左右の菊や扇飾りと,材質も違うし,彫りの手も違う(こっちのが若干上手い)。
  さらにボンドで付けられてたこともありまして,これはもともと,ほかの楽器についていたものか,前修理時の後補部品だったかもしれません。彫りはまあ悪くないんですが,今回ほかのお飾りをぜんぶスケスケにしちまいましたので,付けるにはちょっと重たいですねえ。

  さて,何を彫りましょう?

  もと付いてた「桃」を敷衍して「三多」といきましょう。
  「三多」----すなわちモモとザクロとブシュカン。
  モモは汁が多い(多汁=多什=物持ち),ザクロは種が多い(多子=子だくさん),ブシュカンはなんだかわからないけど多い(多宝)。三つまとめて多いづくしで目出度いなァ,と,よく吉祥画などに使われます。
  ザクロとブシュカンは,月琴の目摂の意匠としてもけっこう使われてますね。

  元の円飾りを型にエンピツでなぞって,内側にだいたいの図柄を直接描きこみ,あとは彫りながら考えます。
  やれほれ,それほれ,ここほれワンワン。
  けっこうテキトウですが,まずまず,このあたりでヨロシイかと。


  お飾り三種類,彫りあがりまでの所要時間はおよそ12時間。

  音にはあまり関係のない部品ですが,小物作りはもともとキライではないですからねえ。
  そこそこに,キアイ,入りました。

お飾り作り(6) お飾り作り(7)

  蓮頭,半月と同じくオハグロ染め。
  色どめ程度にカシューを滲ませて,こちらのお飾り群は,比較的フラットな仕上げにします。


軸・オリジナル
  オリジナルの糸巻きは棹・胴体と同材のカヤか,あるいはサクラくらいの硬さの木で出来ているようです。

  黒っぽく見える表面は塗りですね。漆の溜塗りってとこでしょうか。
  けっこう反り返りのある,ミカン溝のない型です。

  最初,11号の軸のついでに,同じクルミでこさえたんですが…糸倉に少し負けてますね。
  柔らか過ぎました。
  色形は満足ゆける仕上がりになったんですが。
  棹が柔らかいホオの木で出来てる11号と違い,もう少し硬い木のほうが良いようです。

軸一代目・クルミ 軸二代目・スダジイ

  いつものスダジイでもう一本,作り直しました。
  前作と同じように,オハグロで染めて,カシューの黒と紅溜でツヤ塗り。


  ふう……今回は小物の紹介で終わっちゃいますが,ちゃんと楽器本体の修理もしてんですよ。

  次回は,そのあたりを…でわでわ。
(つづく)

11号柏葉堂/12号照葉(5)

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斗酒庵 2面同時に月琴を直す の巻(5)2009.10~ 明清楽の月琴(11号柏葉堂)

第5回 月琴11号柏葉堂,修理完了!

  さて,もともとこの楽器は,軸さえ作ってしまえば,ほとんどお終まいだったのを,庵主の不手際により,かえって余計な補修をするハメとなったもの---ばっきゃろーっ!オレ!

蓮頭
  というわけで,あとは蓮頭と山口,フレット,それに絃停。

  蓮頭のデザインは菊芳さんのものと同じ,ということは,うちのコウモリさんと同じ。
  簡単な線刻だけの如意宝珠模様です。
  なんか三回目くらいなので,ほとんど見ないで作っちゃいましたねえ。

山口
  山口は,前回菊芳さんのときに作っておいた予備のやつを使います。
  ローズウッド+象牙の斗酒庵仕様。

  先だってネオクで,これと同じようなのを付けた清楽月琴が出てましたが,これほとんど庵主のオリジナル工作ですからね。
  カタマリで象牙を買う金もないし,そもそも硬いのでやりたくない。
  かといって,檀木のカタマリ削っただけじゃ味気ないので,工夫してみたんですよ----まあ,黒と白がツーピースになって,何やらかっこいいし。

面板レベル計測中
  さあ,フレッティングです。

  フレッティングの作業の前に,山口から半月までの高低差とか,棹の傾き具合とかを知りたくて調べたんですが,おかしなことに,測るたびに数値が違う。何度測っても,ヘンな誤差が出ます。

  当初,30センチの曲尺で測ってたんですが,へんだな?---と,もう少し大きな定規を持ってきてみたところ。
  この月琴の表面板が,軽く 「アーチトップ」 状態になっていることに気がつきました。
  楽器の中心が,わずかばかり盛り上がってたわけですね。どうりで楽器の水平線が決まらないわけだ。
  縁辺との高低差は最大で2ミリ,ほぼ均等で,360度一定してますから,おそらくは部材の収縮や,過去の修理で削られた結果,こうなったのではなく,製作者が最初からこうした,のだと思われます。

フレット
  フレットは象牙,残存するオリジナル5本も,じゅうぶん使用可能な状態ですので,あとは棹上の三枚を作るだけ。

  このくらいの材料の月琴だと,ニセ象牙,練り物のことも多いのですが,オリジナルもちゃんと本物の象牙ですね。

  浅草橋あたりで買い込んだ,象牙のカケラを切り出し,削り出し----あいかわらず,硬いなあ。
  カタチにするのは早いが,そのあとが大変な竹製フレットとは逆で,象牙や檀木のフレットは,カタチにするまでがちょっと大変ですが,仕上げはラク。
  軽く磨けばピッカピカですからねえ。

  山口を着け,外弦を張り。
  ニカワ鍋をあたためて,楽器のわきに空砥ぎペーパーを貼った擦り板を置いて,フレッティング開始!

  クルミの軸,やはり柔らかいですねえ。
  最下の一本なぞ,ただでさえ軸先が細いので,無理に回すとなんかネジ切れてしまいそうですよ。

  軸穴の修理は今回も上手くいったようで,現在までのところ,張りっぱなしにしていても,ヒビ等再発せにずいますが,もともと糸倉全体が華奢ですし,この軸ですから。ほかの月琴よりもチューニング時には,多少気をつけてあげないとなりませんね。

  フレット位置は,ほぼオリジナルの目当て,接着痕どおり。
  西洋音階のほうに近くなってますね。

フレッティング

  はずしたお飾りをもどし,新たに作った蓮頭と,絃停を貼ります。

  今回の絃停の模様は「荒磯」。
絃停
  古裂の名物模様の一つなんですが,「磯」って…これお魚,コイですよねえ。
  いつもの紺地の花唐草とどっちにしようか,ちょいと悩んだんですが,華奢で繊細な感じの楽器には,逆にこれくらい大ぶりな柄のほうが似合うみたいですね。

  中国語でおサカナは「魚(ユ)」で「余裕」の「余」に通じるとて,お目出度い意匠によく使われます。
  この楽器のフォルムには,カミソリのような,ちょっと 「余裕のない鋭敏さ」 みたいなものも感じられるので,「余裕のお魚」,こいつは悪くない,と思います。

  最後に,棹と胴体側部をたんねんに磨いて,2009年12月9日,自出し月琴11号・柏葉堂,修理完了です!


11号月琴・修理後全景

修理後所感


  今回は少し辛口ですヨ。

糸倉修理箇所(1)
  11号柏葉堂,「巧い楽器」 なんですが,正直なところ 「良い楽器」 である,とは言えません。

  楽器としてはやっぱり,中の上,くらいですね。

  いえ,けっして。そんな…コワしちゃったから,誤魔化すのにケナしてんじゃないですよ。

  音も姿も,美しい楽器です。

  音量は出ないけれども,やや硬質な,澄んだ響きで,ガラスの玉がコロコロと転がるような明るい音色。
  まさしく「玲瓏」----月琴という楽器の音としてはふさわしい音色が出ます。
  「月琴」としては十二分ですが,楽器としては 「のびしろ」 の無さが多少感じられます。

  前回の菊芳さんは職人として,12の実力のうち,8出せば,10までにはなる楽器を作れるウデがありました。 しっかり手抜きもしてますが,中級クラスのモノでも,手を入れると,ちょっと驚くくらい,良く鳴る楽器に育ちます。

  柏葉堂さんは,工作の手抜きもきわめて少なく,作業は丁寧で,その技術レベルもけして低くはありません。
  技術自体は高い---しかし,極限に細い糸倉,わずかにアーチになった表面板----いづれも独創的で高度で,それなりに意味も考えられますが,それが現実に活かされるところまで,すなわち,楽器としての操作性や音に反映されるところまでには到っていません。

糸倉修理箇所(2)
  そのため,10の力で出来上がった10のモノも,「楽器」としてみると,6か7あたりに落ち着いちゃうのですね。 しかも,もともと独創的かつ精巧に----ギリギリのところで作られているため,これ以上,手の入れようがありません。

  「巧い楽器」,でも「のびしろ」がない,と評するが由縁であります。

  コンサート楽器にはちょっと足りませんが,個人で楽しむ室内楽器としてはこれでじゅうぶん----むしろ最上クラスでしょう。

  まあ庵主は,落としても踏んでもコワれないような丈夫なモノ,精密な特殊工具よりはナタとかマサカリみたいな楽器が好きなんで,評価は低いですが,ガラス細工のような,カミソリのような,繊細な楽器がお好みの方には,ちょっと堪らないかもしれませんねえ。


  さて,次からはカヤ材の重量級月琴12号。

  到着以来ずっと「名無し」の楽器でしたが,このたび,ようやく「照葉」と銘名されました。
  やれやれ。どこまで続くか,この年末修理地獄よ~。
  るるら~。





11月琴柏葉堂・音源

  1.開放弦(21kb)
  2.音階(1)(39kb)
  3.音階(2)(55kb) 低音弦/高音弦それぞれ
  4.如意串(92kb)
  5.久聞曲(136kb)
  6.きらきら星(228kb)
(つづく)

11号柏葉堂/12号まだ名は無い(4)

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斗酒庵 2面同時に月琴を直す の巻(4)2009.10~ 明清楽の月琴(11号柏葉堂)

第4回 そしてまた日は昇る

  さて,自分で壊してしまった糸倉の補修をのぞけば,この楽器にはもともと,さしたる大変な修理箇所はございませんでした。
  メインの軸作りは一日二日で終わったんですが,上に塗ったオイルニスの養生に約一週間かかりますので,その間に,そのほかの部分をやっつけましょう。

11号お飾り除去
  まずはお飾り類をハガします。

  この作者,ニカワ付けが上手です。
  フレットをはずした痕が,ほんのわずかに凹んでます。
  おそらく,簡単にハガれないよう,軽く圧をかけて丁寧に接着したものでしょう。

  難関は,中心の石の円飾りと絃停でした。

  例によって,悪の秘密結社・世界ボンド教団から派遣された何者かの手により,ボンドが…いや,今回はセメダインですね,これ。

  円飾りの方はそれほどでもなかったのですが,絃停のほうは,上から1/3くらいまで,かなりべったりと塗られてまして,それがぐにゃぐにゃの虫食い穴に入り込んで,木粉と一緒に固まっちゃってます----板表面についたボンド自体は,こそいでハガしちゃえばどってこともないのですが,こいつは取れませんねえ。下手にほじくると,かえって板に被害が出そうです。

絃停・フノリ
  ちなみに絃停の残り2/3の部分は,フノリかソクイで接着されていたようです。
  こちらは湿らせて,こそいで,最後に布でぬぐえば,キレイさっぱり----。

  ほら,呪われちゃいなさい!
  -- ここらへんに,のろいのコトバが埋め込まれています --
  古楽器の修理にボンドとかセメダインなんて使う輩は,永遠にいっ!


  さて,月琴に使われている桐板というものは,衣装ダンスの材料にされるくらいで,本来は 「虫がつきにくい」 のが特長の一つです。
  板自体がもともとタンニンを多く含んでおり---つまりは齧ると苦いわけで---さらにその上から,ヤシャブシというタンニンな液体をこすりこんでるわけですから,虫さんとしても,食って美味いわけがない。
  それでもこうして食われてしまうのは,一つに保存状態。
  ほかにエサとなるものの少ない,蔵の中やら納屋の中で,長い間放置されてしまったから。

9号早苗・表面板
  まあ,さすがに桐板なので,早苗ちゃん(→)のように板がスカスカになるまで,美味しくいただかれてしまうことはまあ稀で,ふつうは先に見た絃停(ヘビ皮=動物性タンパク)や,胴体周縁部,あるいは板の矧ぎ目といったニカワ(膠=煮皮,原料は動物の皮膚)の使われているあたりだけが狙われます。

  今回の11号でも,数箇所そうした痕が見つかっています。
  裏板のほうが被害が大きく,板の矧ぎ目を食われてしまったせいで,何箇所か大きなヒビやハガレになってしまっていますね。

  裏板の要補修箇所は,大きなものが三つ。
  左の虫食いは,ほぼ上下を貫通し,板が完全に分離してしまっています。。
  右のものは「柏葉堂製造」のラベル横数ミリのところを,上から中心に向かって1/3強のあたりまで。
  同じ板の矧ぎ目に下からも,同じくらいの長さ食い荒らされた痕がありますが,この二つはそれぞれ違う虫の仕業らしく,貫通はしていません。

  どちらも横方向への被害は少なく,ほぼ直線的に食われているだけなので,右側の二箇所は,虫食い痕をただ埋めれば済みそうですが,問題はやっぱり左端の一角。

裏面板ヒビ
  この部分はヒビから左側が,内桁からもハガれてしまっているので,板がベコベコに浮き上がっていて,単純に埋め木で間をつなぐだけでは修理になりません。

  事が内部構造に及んでいますので,当初はこの部分の板をぐゎばーっ!----とひっぺがして,再接着,と考えていたんですが。
  あらためて楽器各所,いろいろと観察をしているうち,気がついたことが二点あり,ランボー,少々作戦を変更いたしました。

  1)この製作者はニカワ付けが巧い,かつかなり良いニカワを使用している。(注・参照)

  2)内部観察とケガキによる触診から,食害は矧ぎ目に沿った縦方向のみで,内桁と裏板との接着面には被害はないようだ。

注:11号柏葉堂のニカワについて

11号棹先端
  糸倉の修理が終わって,補修部に色づけする前に,棹全体をクリーニングしたんですが,先端の,蓮頭がついてたところに,黒くくすんだゴベゴベがいっぱい付いていました。

  劣化した古いニカワだろうと思ったので,脱脂綿にお湯を染ませたもので湿らせてから,ナイフで削ぎ取ったんですが,これが驚いたことに,しっかり「生きて」いたんですね。

  いえ,べつに黒いゴベゴベが水分を含んでうねうねと動き出した,とかいうゾンビーなおハナシではなく。

  汚れて黒くはなっていたのですが,キメも細かく粘着力もしっかりあり,新しい蓮頭をそのまま付ければ,しっかり再接着できそうな状態でした。

裏板再接着
  作戦とは言っても,やることは単純そのものですがね。

  まず棹穴から,お湯をたっぷり含ませた筆をさしこんで,裏板と内桁の接着面あたりをじっくり湿らせました。
  ごくごくせまいところからの作業なんで,それそこ苦労はしましたが,まあ多少狙いがハズれても,楽器を傾けたりして,だいたいお目当てのあたりに水を含ませることができました。

  内側からじゅうぶんに湿らせたら,こんどは外側から。
  ハガれている一帯をまんべんなく湿らせ,焼き鏝をゆっくり,ゆるーりとめぐらせて,板を蒸らし,温めます。
  何度かくりかえしたところで,板を渡してクランピング。

  水気と熱でオリジナルのニカワがよみがえって,浮いていた部分が見事再接着!
  ビクとも動かなくなりました----ニカワばんざい!スゴいぞニカワ!!

  内部が確認できなかったのは,いささかザンネンではありますが,楽器のためには,どちらかと言えば,より良い選択であったかと。

  板も平らに固定されましたので,安心して虫食い痕を埋めまくります。

  まずはケガキなどを使って,ヒビや虫食い穴の周囲をつつきまくり,すでに薄皮一枚になっているところや,かんたんに突き破れてしまうようなところを探し出し,ほじくりまくります。そのままにしておいても益はありません。
  いッそ,なるべく大胆にほじくって,分かるような穴やミゾにしてしまいます。

裏板補修(1) 裏板補修(2) 裏板補修(3)
裏板補修(4)
  まだ大丈夫なところまで必要以上にほじくることもありませんが,弱いとこはさらけだしてしまったほうが,いッそその後強くなる,ってのは,感動モノの少年マンガの台詞ばかりではないわけです。
  ----小さな穴より大きな穴のほうが,作業自体はラクですしねえ。

  つぎに過去の修理で出た面板の端材を削って,埋め込み,ハメこみます。
  まあさすがに,板の強度に関係のないような小さな穴やミゾは,いつもの木粉パテを使いましたがね。


  さて,裏板が片付いたら表面板とまいりましょう。

  こちらにも二箇所ばかり,ミゾになっちゃってる虫食い痕がありましたが,いづれも軽症。

  問題は,この絃停の下のぐにゃぐにゃ。

絃停の下(前) 絃停の下(後)

  これには正直,あまり手出しをしたくありません----食害痕自体はいづれも浅く,現状,板の強度に対してそれほどの脅威とはなっていません。しかし,数が多いのでこれを一つ一つほじくって,木片や板を埋めてゆくと,その作業で,かえって板を弱くしてしまう可能性があります。

  さっきも書いたとおり,一部にボンドで虫の食い残しの木粉が固まってしまっている箇所もあるのですが,これは思い切ってぜんぶ,木粉パテで埋めまくっちゃいましょう。

  場所的には,どうせ絃停で隠れちゃいますしね。
  未来の修理者に,宿題を(汗)。

裏板補修(5)
  一晩置いて,埋め木のニカワも木粉パテもかっちり乾いたところで仕上げます。
  埋め木は軽くカンナで均して,パテはペーパーかけて。
  補修の跡が,いくぶん白っぽくなっちゃいますが,問題はございません。

  続いての作業は,表面板のクリーニング。
  例によって耐水ペーパーと重曹水で,表面をこすこす----たちまち湧き出る黄色いお汁。

  いつもはすぐに拭い去ってしまうところですが,今回はこれを,補修作業で白っぽくなった箇所にコショコショっと回し,擦りつけます。あっちをキレイにして,こっちをヨゴす----全体が同じくらいの色合いになったところで,ストップ。


表面板全景(前) 表面板全景(中) 表面板全景(後)

  ほら,キレイになったし,修理痕もずいぶん目立たなくなったでげしょ?

  では今回は,ここまで。


(つづく)


11号柏葉堂/12号まだ名は無い(3)

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斗酒庵 2面同時に月琴を直す の巻(3)2009.10~ 明清楽の月琴(11号柏葉堂)

第3回 壊しもンのブルース

11号糸倉破損!
  やっちゃいました。

  11号柏葉堂の修理,裏板の状態以外は心配もなく,メインの作業は,なくなっちゃってる軸の再製作。
  こんなもン,かるいかるーいッ!ぬるーいぬるいッ!---と,作業開始。
  はじめに作った軸の材料は,このところ定番のスダジイ。
  ちょうどウサ琴5の製作と重なっていたので,同じものを流用。嫌な四面落しも終わり,やれやれ。
  さて,あとは合わせながら仕上げていこう,と,軸先を削り,軸穴に挿しては調整,挿しては調整していたら…

  ばきっ。

  ---えっ!?
  …………糸倉が,
  ………………割れ,ました。


  …故意じゃなく,直そうとして壊しちゃったのは,ハジメテのこと。
  落ち込んで,二ヶ月ばかり何も出来ませんでしたね。


  弦楽器の糸巻き,軸はふつう,黒檀とかツゲとか,重く,硬い木で作られるのがふつうです。

  しかし,今までも4号月琴や早苗ちゃんのように,およそそうした硬木とはほど遠い,柔らかめの,軽い,正体不明の木材で作られていることが多々ありました。

  あらためて考えてみますと。

  これは中級・普及品月琴では棹・糸倉自体が,ホオとかクリとか,およそ「硬い」とは言えない素材で作られているためだったんですね。

  柔らかい材質で出来た糸倉に,あまり硬い軸を挿すと,噛み付きは良いかもしれませんが,使っているうちに軸穴が広がったり,こうして割れちゃったりする可能性があるわけだ。

  気がついておくべきでした。

  「いや,これはやっぱ硬い方がいいだろう。」 ってな感じで,何も考えずに作業をしてました。

  修理人失格…orz.....ちょっと旅に出てまいります………実家に。


  と,まあ,落ち込んでばかりもいられません。
  これも一夏の経験(立ち直り,早いなー),再起を期しての全力修理----
  責任はとりましょう。


  まずは糸倉の修繕。
  いつものとおり,ヒビたところに薄く溶いたニカワを流し込み,ヒビ全体にまんべんなく行き渡らせて固定。
  乾いたところで,竹クギを何本か打ち込み,浅いミゾを彫り回して,ニカワを塗り,籐で巻きしめます。

糸倉修理(1)ニカワ接着 糸倉修理(2)竹釘打ち 糸倉修理(3)ミゾを刻む
糸倉修理(4)籐を巻く 糸倉修理(5)パテ盛り 糸倉修理(6)整形後

  籐がまだ少し湿っているうちに,焼き鏝で均し,一晩乾燥。
  木粉パテで細かな隙間をうめてから,ペーパーをかけ,籐を糸倉の面とほぼ同じく平らにします。
  このとき,角の部分をあまり削り過ぎないように。
  せっかく巻いた籐が,切れてしまっては意味がありませんから。

柏葉堂の月琴(ネオクに出た例)
  第一回・所見のところでも書きましたが,この「柏葉堂」の糸倉は実に華奢な作りで,そこがまた美しかったんですが,これがまたこの楽器の弱点であったようです。

  そういえば,以前ネオクで出た,同所製のほかの楽器(→)の糸倉も,ちょうど今回と同じようなところが割れてました。

  過去からの警告----このあたりも,もっとちゃんと留意しておくべきでしたね。


軸素体(クルミ)
  さて,ではふたたび,軸を削りましょう。

  やわらか軸材には,古例にのっとり,「クルミ」を用意させていただきました。

  いや,切りやすいね,削りやすいね。

  ----スダジイにくらべると。いや,くらべもンになりません。

  サクサクサク,しゃりしゃりしゃり,ほんと,ちゃんと糸巻きになるのかなあ,使い物になるのかなあ,といった感触です。

  しかし「菊芳(4)」で書いたとおり,「桜の棹に胡桃の糸巻き」といった楽器が作られていたのは事実ですしね。そうそう,4号月琴に付いてた「正体不明の軸」も,同じくクルミだったと思われます。
  持ってみた感じや,木目が同じですね。

  今度は慎重に…軸先の調整で抜き差しするときも,糸倉の側面を指で支えて,気をつけながら…ひぃひぃ,ふぅふぅ。
  ----四本,出来上がりました。

  上の写真の楽器の例をもとに,六角形ラッパ型,ミカン溝付きに仕上げます。

軸仕上げ(1)真ん中にしるし 軸仕上げ(2)細い角ヤスリで当り線を引く 軸仕上げ(3)両刃ヤスリで深く刻む


軸染め後
  白っぽい木地を,ヤシャブシで染め,亜麻仁油で軽く拭いて乾燥,日本リノキシンさんのオイルニスで,ナチュラルカラーっぽく仕上げます。

  いや,それにしてもこの作者は何を考えているんでしょうねえ。

  庵主,軸と糸倉はきっちり合っていて欲しいので,順繰り,軸穴に合わせながら一本一本削っていったのですが。

軸先比較
  見てください,この軸先。
  太さが見事にバラバラです。

  ふつう,軸穴の加工は,どの穴も同じ,一つの穴あけ道具,たとえばハンド・リーマーのようなものを使ってやると思いますので,多少の差はあれど,寸法はどの穴でもだいたい同じになるはずなんですが,単に太さだけではなく,軸先のすぼまる割合----「テーバー」すらも異なるとはどういうことだ?

  ここまでバラバラですと,逆にどんなふうな道具を使って,どんなふうに穴あけをしたのか…ギモンです。




  作業で棹や糸倉を眺めているうちに気がついたのですが----お飾りがちょっと立派なことを除くと,この楽器の全体的なフォルムは,以前修理した4号月琴のそれに,よく似ていますねえ。

  特に双方特徴的なのが,コンパクトで華奢な作りの,この糸倉です。
  11号には指板があり,また角度やアールの深さは違うのですが,糸倉の根元のすぼまりや,うなじへの処理の仕方がきわめて近い。
  上三枚が4号,下三枚が修理中の11号。

4号糸倉(1) 4号糸倉(2) 4号糸倉(3)
11号糸倉(1) 11号糸倉(2) 11号糸倉(3)

  4号の修理当時は,(修理技術のほうもですが)今よりも撮影技術が劣っていたので,細部に関してはいまひとつ碌な写真が残ってないんですが,4号月琴の棹基部の写真にも花押のような文字が書かれていました。
  書かれている位置が,棹の表と裏の違いはありますが,これ11号の墨書に似てなくもありませんね。

4号花押 11号署名

  また4号裏板に残っていた縦長のラベル痕も,ちょうど11号の「柏葉堂製造」のそれとほぼ同じ大きさで,しかも同じくらいの位置にありますね。

4号ラベル痕 11号ラベル

  そのほかにも,桁の音孔が笹型,棹茎の材質と形状,など,その気で見ると共通点が多く出てきます。
  ただし,記憶にある4号のものとは加工技術,「手」が多少違っているように感じるので,「同じ作者」とまでは言えないのですが,この二面の月琴はかなり近い系列の楽器であったかと思われます。

  確たる証拠はまだないので,とりあえず,邪推。


(つづく)


11号柏葉堂/12号まだ名は無い(2)

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斗酒庵 2面同時に月琴を直す の巻(2)2009.10~ 明清楽の月琴(11号柏葉堂/12号まだ名は無い)

第2回 ご隠居!内幕ってやつァ…

第2回
  こんにちは。

  自称・武闘派系修理者(たんにランボー者,とも言う)の野良犬月琴弾き,斗酒庵がお送りいたします,月琴ハラワタ・ショーの時間がやってまいりました。

  とはいえ,今回はまだ板もベリベリ剥がしてないし,胴体もゴリゴリ削ってない…今のところ,それほどのランボーはしてませんが,さてこの後どうなるやら?

  請う,ご期待。(^_^;)


  千里の道も一歩から。
  修理の道はまず調査から。

  回りくどくとも,足らずとも,調べられる部分はどんな些細なことでも調べておく。

  ちゃんと調べないで作業を進めたため,後になって二度手間,再製作,再調整。
  そういうことは良くあります。

  実際の作業に入らないと,どうしても分からない,ってことも確かにありますが。
  はじめにどれだけしっかり調べといたかが,あとあとの作業や手順に影響することを,身をもって知らされ続けたこの数年でありました。

  今回の2面は,欠損部品はあるものの,楽器本体はどちらも比較的健全と言え,わたしがうきーッとなって ランボー怒りの大修理 はじめるほどの箇所は,いまのところ見つかっておりません。

  恒例の板剥がしもないので,内部構造は,棹穴から覗いたり,鏡を差し込んで見たり,棒をつっこんで計ったりして調べるのが関の山。

  そこで,詳しいものではありませんが,だいたいのところを絵にまとめてみましたので,記事中の画像をクリックしてご覧になってください。



1.11号・内部簡見

11号内部
参考・4号月琴内部,裏面より
※クリックで拡大※

■ 上桁,下桁ともに松板のようです。 音孔は上下ともに左右2コ。笹の葉型ですが,例によって工作は粗く,輪郭はいささかガタガタになってます。

■ 響き線は一本。 おそらく鋼線で,4号 (←写真参照) と同様の曲線タイプ。

  鏡の角度をいろいろ変えて,基部に四角い木のブロックを噛ませてあるところまでは分かったものの,固定方法までは不明----クギは見えなかったなあ。線自体は健全で,ほとんどサビも見えません。

11号内部簡見
※クリックで拡大※

  側板内側には,細かなノコ痕が斜めに残っています。加工は悪くない。
  上下桁は内壁に接着してあるだけのようですが,かなりしっかりきっちりとした加工で,左右端にスキマ等は見えません。

  小さい鏡を差し込んで見えた範囲では,作者・年代の手がかりとなるような墨書等はないようです。

  また,上桁の棹穴などの指示線はエンピツのようです。
  下桁の裏面側左に半円が墨書されていますが,何でしょうねえ。

  下桁は中央に小さな丸い孔が空いていて,左右に音孔。その先の空間は,なんとしても見えず。不明です。
  例の裏板左端の,貫通した虫食いヒビのある部分が,桁からすっかりはずれて浮いてしまっていますね。

  やれやれ,やっぱりこの部分はハガさなきゃならないようです。


  ……って,ことは,その時また,より詳しく月琴のハラワタがっ!

  きゃっほーい!!!!

  見れるのねえ。




2.12号・内部簡見

12号内部
12号内部

  材料の面だけから言うと,間違いなく11号よりは高級月琴,12号,まだ名前考えてません(汗)。

  側板が分厚いですねえ。

  棹穴のところで計ると,ほぼ2センチ近くあります。
  このためもあって,棹穴からの画像がうまく撮れませんわい。

  また,この側板には,はじめて見る加工がされています。

  どう説明していいか……たぶん厚さ最大18ミリのうち,外縁15ミリくらいまでは表裏ともに平らで,面板とくっついているのですが,内縁に沿った2~3ミリほどの角を落とし,楽器内側に向かって,台形にせり出すようにしてあるのですね。


12号内部簡見
※クリックで拡大※


  詳しくは図説(→)をどうぞ。

  よく,桁の表面板側の両端を落として,斜めに削いでありますが,あれの逆ですね。
  そちらも今のところ理由不明の加工なんですが。内側にでっぱってる,という点ではむしろ,ウサ琴の「竜骨」構造と共通してます。

  ただこれが音のためなのか,なにか強度のためなのか,ちとよく分かりません。

  側板の内側は,ノコ痕もなく,磨かれてる,というほどではないものの,かなりツルンと処理してあります。

  ----なんとなく,ただ材料をゼイタクに使いたかった,って言う気もしますが。

  上下桁の左右は,側板の,その台形になったところにミゾを切ってハメこんであるようです。


■ 桁材はこれもおそらく松。

  音孔は,上桁が左右二つ,下桁はおそらく長いのが一つ(たぶん間違いないとは思うのですが,なにせ棹穴から覗いてるだけなので,下桁の全体は見えません)。
  庵主がウサ琴でやるのとほぼおなじ楕円形の穴で,加工が珍しく丁寧!
  きちんと,均一に切り回されています。

  これだけちゃんとしてるのは,初めて見たなあ(^_^;)。
  やれば出来るんじゃん,月琴職人!
(汗…ナニをエラそうに)

  下桁の左端と,左側板内側に「二」の漢数字が書いてあります。
  11号も同じところに墨書がありましたね。
  ここだけ墨で,ほかの指示線等はエンピツなんだなあ。

  何なんでしょう?

  見える範囲では,作者・年代の手がかりとなるような墨書等はほかにありません。
  鶴寿堂と良く似た楽器なので,何かあるかと思ったんですが…ざんねん…「○○斎」の「○○」が知りたかったんだけどなあ。


■ 響き線は1本。 直線のようです。

  上桁の下,2センチほどのところ,胴体内壁に直挿し。
  頭を潰した四角釘で固定してあります。
  そこから斜め下方向,胴径の7/8くらいまで。けっこう長い線ですね。
  おそらく鋼線。少しサビが浮いているようですが,影響があるほどではなさそうです。


(つづく)


11号柏葉堂/12号まだ名は無い

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斗酒庵 2面同時に月琴を直す の巻(1)2009.10~ 明清楽の月琴(11号柏葉堂/12号まだ名は無い)

第1回 めぐる月日は風車の弥七

  さて,前号「菊芳さん」から,ずいぶんと間が空いてしまいましたが。

  もともと,暑くなりまするとニカワが腐ったりで,マトモな修理も製作もできませんし,6~7月はパンを稼ぐお仕事期間,そして続く8~9月,猛暑の二ヶ月間は,庵主,北の生まれなもので,地元に帰り,おもに資料の整理や,清楽曲の打ち込みに日々を費やしておりました。

  おかげさまで,この四ヶ月,ほとんど工具に触れてません。

  気がついたら秋風吹いて,もうすぐ ジングルさんがベルと鳴り響く 時期ではあーりませんか。
  ちょっとキツめの作業をしても,風は涼しや,汗もひく。

  ----さあ,そろそろとはじめましょうか。

  夏,帰省の直前に一面,帰ってきてからもう一面,ネオクで落としまして。

  現在,工房には,自出しで仕込んだ二面の月琴が,修理待ち,放置プレイ 中となっております。
  去年の年末から今年の年始は,N氏の乙女ちゃん,お餅焦げたも気がつかずな特急大修理に明け暮れておりました。
  今年の末も,結句,月琴修理にて終わるかと……まったく,めぐる因果ですなあ。

  では,二面まとめて採寸と所見を。



【11号月琴・柏葉堂 修理前所見】


11号修理前全景
1.採寸

 全長:645mm
 胴体 縦:352mm 横:358mm 厚:35mm(表裏板ともに 厚3.5m)
 棹 全長:284mm 最大幅:30mm  最大厚:28mm 最小厚:18mm
 指板 長:152mm  最大幅:30mm  最小幅:26mm 厚:2mm
 糸倉 長:150mm(基部から先端まで) 幅:30mm(うち左右側部厚 8mm/弦池 12×105mm )指板面からの最大深さ:55mm

 山口欠損のため未確定ながら,推定される有効弦長: 423mm

2.各部所見

11号糸倉
 ■ 蓮頭:欠損。
 ■ 糸倉:ほぼ無傷。間木をはさまず,ムクの彫り貫。
   アールも浅く,弦池も小さく,コンパクトにまとめられている。
   全体に細めで華奢な作りだが,左右の根元の方がさらに細くすぼまっており,最下の軸孔のあたりで,幅が15mmほどしかない。

 ■ 軸:全欠損。

11号棹
 ■ 棹:損傷なし。
   糸倉とおなじく細身。背のアールはほとんどなく,直線に近い。うなじは浅く,左右のふくら下の入込みもそれほど深くはない。
   材質は桂か?ホオほどの硬さだが,やや赤みがある。

 ■ 指板:厚さ2mm ほど。
   おそらく紫檀だと思うが,不明。

 ■ 山口:欠損。接着痕のみ。
 ■ 柱(棹上):第4フレットのみ存(撮影中に剥落)。
   おそらく象牙。ほかは接着痕のみ。ケガキ線不明。


 ■ 棹茎(なかご):損傷なし。
   棹基部は 32×22.5×13mm。表面板側に,花押のような墨書アリ。
   杉材をV字継ぎ。全体の長さは 158mm。先端部の寸法は 13×4mm。
   棹基部と継ぎ材との接合には問題なし。挿込みかなりユルい。
11号なかご 11号なかご(2)

11号表面板
 ■ 胴体:比較的健全。
   表面板:5~6枚継ぎか。
   中央飾りの左に虫孔,そこから上下に小ヒビ5cmほど。
   右下に虫孔
   全体に小ヨゴレ。

   裏面板:おそらく8枚継ぎ。
   中央左,棹穴付近の木口に虫孔。右端木口に2つ虫孔
   左にヒビ,板の矧ぎ部に沿って上下をほぼ貫通,中心付近に3つほど虫孔があることから,矧ぎ面の食害によるものと思われる。
   同,中央やや右,ラベルの横にヒビ。同じ矧ぎ線,下端よりもヒビ走る,上端より13cm下端より16cm。上のヒビの上端と下端付近に虫孔。下のヒビのほうが重度か。
   下端木口に虫孔,中央付近に食害によると思われる細いエグレ溝,2~3cmほどのものが2箇所。
   中央下端やや左に虫孔,やや大きい。
   右肩より同様に10cmほどのヒビ,ただしこちらには虫孔が見られない。
   左肩に線状につながった虫孔,胴材との接着面付近に小スキマが見えることから,ニカワ面に食害ありと思われる。
   左端下部木口に打撃痕,6~7箇所。
裏面板ヒビ 裏面板虫孔・ヒビ 裏面板打痕

   側板:4枚,浅い凸凹継ぎ。棹と同材と思われる。
   部材はかなり薄く切り出されているらしく,棹穴のところでも厚みが8mmほどしかない。
   棹穴の表面板側に墨書,棹茎基部と同じ花押と思われる。
   接合は精密で,スキマはない。
   表裏面板との接着部,虫害による浮きが小数箇所見られるが,ほぼ健全である。
11号側板接合部 棹穴付近


 ■ 柱(胴体上):4本存。
 ■ 目摂:左右,菊。中央上,扇飾りに相当する位置にコウモリ。以上黒檀製。中心円飾,鳳凰。石製。
表面板飾り(1) 表面板飾り(2) 表面板飾り(3)

11号半月・絃停

 ■ 半月:損傷なし。95×41×8.5mm。
   かなり低い。材質は塗りか檀木か,現時点では不明。板状,半円型,円周部分が斜めに張り出し。糸孔に擦り止めとして,象牙か骨材と思われる材を埋め込む。
   外弦間:29mm/内弦間:23.5mm。内外弦間:約3mm。

 ■ 絃停:蛇皮。110×85mm。
   かなり傷んでおり,右下小欠損。貼りなおした痕あり。



3.11号概観

  明治中期以降の楽器,有効弦長からいうと「大型」といってもいいくらいなんですが,全体のサイズからいうと「中型」ですねえ。
  材質,作りから考えて,普及品の少し上,といったあたりでしょうか。

11号側ラベル
  今のところ作者 「柏葉堂」 の正体は不明ですが,以前,ネオクでこれと同じ 「柏葉堂製造」 のものと思われるラベルの貼られた楽器をほかにも見たことがありますので,けっこう手広く売っていたメーカーなのではないかと考えられます。

  お飾りの彫りに,多少雑な感がありますが,楽器本体の作り,工作は精密で,かなりの上手です。

  材質が,いまひとつ分かりませんねえ。

  少なくとも,檀木とかカヤではなさそうです。
  クリ(→早苗ちゃん)とかホオ(→菊芳さん)でもありませんねえ。
  使われている素材はけっこう緻密ですが,やや軽く,柔らかで,塗ってあるばかりじゃなく,実際にもやや赤みを帯びた色をしています。
  庵主のウサ琴製作で棹なんかに良く使う, 「カツラ」 じゃないかと思うんですが,自信はありません。

  棹から糸倉にかけてが,じつにスリムでコンパクトなデザインになっており,全景でもそれほど大きくはなく見えるのですが,有効弦長が平均より1cmばかり長いようです。
  棹裏はほぼまっすぐで,ずいぶんな細身ですが握って指を滑らせた感触にも違和感はなく,お飾りではない実用月琴だと思われます。

  楽器を持ち運んでいる時についたと思われる打撃痕などから,実際に使用された形跡はありますが,表面板上の撥痕も顕著ではなく,半月にも糸の擦れ痕がそれほど見られないことから,長期間演奏に使われたことはなさそうです。

  裏板の虫食いが多少心配です。

  左側の貫通しているヒビのところなど,かなり食われてしまっているかもしれません。
  最悪の場合,一部剥がして,貼りかえる必要がありそうです。



【12号月琴・名称未定】

12号修理前全景
1.採寸

 全長:645mm
 胴体 縦:356mm 横:366mm 厚:37mm(表裏板ともに 厚5mm)
 棹 全長:290mm 最大幅:33mm  最大厚:33mm 最小厚:19mm
 指板 長:155mm  最大幅:33mm  最小幅:28mm 厚:3mm
 糸倉 長:154mm(基部から先端まで) 幅:32.5mm(うち左右側部厚 8mm/弦池 14×95mm )指板面からの最大深さ:61mm

 山口・半月ともに欠損のため未確定ながら,推定される有効弦長: 425mm

2.各部所見

12号糸倉
 ■ 蓮頭:欠損。
 ■ 糸倉:損傷なし。ムクの彫り貫。
   蓮頭に隠れる部分,中級品だと間木をはさみこむ,糸倉の先端部が,かなりぶ厚く,長くなっている。

 ■ 軸:3本残る。
   長:120mm,径:28mm。おそらく棹・胴材と同じ木を塗ったもの。側面のラインが軸尻にかけて反り上がった,優美な造りである。

 ■ 山口:欠損。接着痕のみ。
 ■ 柱(棹上):全欠損。ケガキ線,接着痕4つ残る。

12号棹茎
 ■ 棹:損傷なし。
 ■ 指板:厚さ3mm ほど。黒檀。

 ■ 棹茎(なかご):損傷なし。
   棹からムク。基部で 25×13 ,根元からの長さ 124mm。先端部で 15×7,先端四面削ぎ落とし。
   表板方向にわずかに反りあり。

12号表面板
 ■ 胴体:比較的健全。
   棹穴左にササクレ小。

   表面板:5枚継ぎか。
   中央,第五フレット右端の上あたりに虫食いの溝,2cm ばかり。その右横に小ヒビ。中央下縁,木口に小ハガレ,ヒビ中心付近まで走り,ややウキあり。

   裏面板:9枚継ぎ?
   左端中央に打痕。左肩より小ヒビ,胴体の3/4ほどまで。虫損と思われる。エポキシによるとおぼしき充填修理痕あり。
   中央下に虫孔,エポキシを充填済み。右肩木口より小ヒビ,断続的に胴体2/3ほどまで。未修理。

   側板:4枚木口すり合わせ接着のみの接合,接合はほぼ健全。
棹穴ササクレ 側板接合部

 ■ 柱(胴体上):4本存。
 ■ 目摂:左右,菊。中央,帯唐草。中心飾り,黒檀板に桃を線刻。
目摂 扇飾り 中心飾り



 ■ 半月:欠損。接着痕とケガキ線のみ。
   面板上に,半月がモゲたときにできた思われるエグレ,左右にあり。左のものやや深し。
12号半月痕 半月剥離痕

 ■ 絃停:欠損。
   痕跡のみ。100×70mm。下辺,半月との境付近に,いくつか深めの虫食い痕が残る。



12号印章
  12号いまだ名はございません。

  裏板の上辺中央に「○○斎」というような名前入りの楕円形の印が捺してあるのですが,肝心の「○○」のところが読み取れません。同じような印を付けた作者に「好音斎」というのがあるのですが,これの二番目の文字は「音」ではなさそうです。

  宅急便さんから受け取ったとき,第一番の印象は 「重っ!」 でした。

  11号と持ち較べてみると,格段に重い楽器です。

12号棹
  主材はおそらくカヤ。

  この材料と,作りから言って,おそらく中部以西,関西方面で作られた楽器ではないでしょうか。
  棹の姿などは名古屋の「鶴寿堂」さんあたりのそれに似てなくもありません。
  指板の黒檀も厚めで,面板には,かなり目の詰んだ上等の桐板が使われています。

  最高級のものではありませんが,かなりの高級品だったでしょう。

  棹は横から見ると,背面に少しアールがつき,やや薄めなのですが,指板の幅が広く,ふくらの下のくびれもさほど深くはないため,全体にはやや太めな印象があります。
  糸倉の幅も広く,頑丈そうです。また棹頭がぶ厚くなっているので,持ったときややヘッド・ヘビーな印象があります。

  このあたり,演奏上多少の問題,または影響があると思うなあ。

裏板修理痕
  表裏の板にほとんどヨゴレがなく,また裏板の虫食いに補修痕があることなどから,それほど昔ではない時期に,現代ヒトの手により一度修理されているようです。
  修理の仕方は本格的で,あるていど楽器のことを分かっている者の手になるものと思われます。

  ただ,半月の剥離痕がやけにキレイで,エグレ部分がややなめらかになっていること。また,山口,フレット等が再接着された形跡が見られない。面板に較べて胴や棹にヨゴレが残っている----などから見て,前修理者は,ある程度の清掃作業まではしたものの,修理は途中で投げ出したようです。

  左右の目摂と中央の扇飾りは,いづれも多少彫りが甘く,やや稚拙な印象を受けます。中央の円飾りは,単純ですが,線刻はそれそこに上手い。どちらかは後補の部品かもしれません。

  途中でポイしたとはいえ,だいたいのところはキレイにしてくれているので,修理作業は主に,なくなってしまっている半月の再製作・取り付けと,軸1本の再製作が中心でしょうねえ。

(つづく)


10号菊芳(5)

KIKU_05.txt
斗酒庵 菊芳の月琴を直す の巻(5)2009.5~ 明清楽の月琴(菊芳)

第5回 菊芳さん,直る

完成前

  さあ,表面板が戻って,胴体も箱になったし。
  ここまでくればあとひとふんばり,がんばりましょう。
  しからば今回はここから――

  半月を付けます。

  棹や胴体に数箇所,中心の目印を書いて。山口から垂らした糸を使い,中心線を出し,左右の糸のバランスを見ながら,取付け位置を探ってゆきます。
  計測や計算はあくまで目安。
  最終的には自分の眼で決めましょう。

  ハカリより眼の方が合ってることが,結構多いもんです。

半月位置決め(1) 半月位置決め(2)

半月接着
  位置が決まったら,両面にニカワを塗って,ズレないように当て木をしてクランピング。

  接着面はよーく均し,湿らせ,面板のほうは粗めのペーパーで少し荒らしておきます。
  今回は胴体が箱になってからのクランピングですので,それほど大胆に圧がかけられませんが,これだけやっておけば,まあそうそう吹っ飛ぶこともございますまい。

  力のかかる箇所ですので,用心のため,接着の養生に二日ばかり置きます。

山口製作
  山口は今回,最近清掃・改修した愛器コウモリ月琴にいままで使用していたものを,削りなおしました。
  材質はいつものとおり,ローズウッド+象牙の,ツーピース斗酒庵仕様。
  上手く合わなかったときの用意に,いちおうもう一つ作っておきましたが,高さもちょうどよく,不用だったようですね……次の修理にでも使いましょう。

  半月が付き,山口が付けば,この楽器はほぼ完成したも同然。

第一次フレッティング
  フレットをこさえます。

  10号菊芳さんは中級の普及品なので,定番の竹フレットにします。
  竹フレットは事後の処理(強化・塗装)がタイヘンなものの,本体の製作自体は,ひじょーやり易く実にカンタン。

  スパスパ,ゴシゴシ,サッサッサー。

  しかし,胴体上の第5フレットまで作ったあたりのことでした……高い,高すぎるっ!

  弦高が高すぎます。

  普及品クラスの楽器は,あまりきちんと調整がなされないまま製作されるので,だいたい弦高が高め。
  現状での棹の傾きも,同レベルの楽器であるコウモリさんとほぼ同じで,その意味ではこんなものではあるのですが,これだとちょっと弾きにくい。

  奏法から言っても,昔はそれでよかったのかもしれませんが。
  せっかく百年の時を生き延びて,庵主の下にきた楽器です。
  これからはずっと弾いてもらえるように,ちょっと調整いたしましょう。
  まずはコウモリさんと同じ手を。

ゲタ接着
  半月にゲタを履かせます。

  ゲタ,つまりスペーサーですね。
  半月の端,糸穴の裏に竹を細く削ったものを貼り付け,糸の出る位置を下げるわけです。
  これも毎度おなじみの技法ですね。
  二度ほど作り直しましたが,絃高を半月のところで 1.5 ミリほど下げることに成功しました。


  この状態で,一度最終フレットまで完成させ,出来たフレットは柿渋+ヤシャ液のタンニンな汁にほおりこみ,色付けと強化をしておきます。
  タンニン液に一昼夜,一昼夜乾燥。ラックニスに一昼夜,一昼夜乾燥…フレット本体の工作は,ほんの4時間ほどだったんですが,その後のなんと長いことよ。

  一週間ぐらい,かかっちゃってますもんね。



塗装(1)
  さて,塗装に入ります。

  菊芳さんの棹や本体にはヒビも割れもなく健全ですので,敢てニスやカシュー塗りなど,塗膜のある塗装で表面を保護する必要はありません。
  塗装は早苗ちゃん以来定番となった,「古色付け」技法の流用。

  ベンガラと砥粉,炭粉,柿渋と亜麻仁油,で参ります。

  糸倉や半月に,オリジナルの色合いが残っていますから,それを参考にベンガラや炭粉を調合し,柿渋で溶いて布でこすりつけます。面板に滲みこむとタイヘンなので,ちゃんとマスキングしときましょうね。
  ベンガラは隠蔽性の高い顔料なので,厚めに塗ると木目がまったく見えなくなっちゃいますが,この塗料はあとで磨きながら落とすので,最初に塗るときはちょっと厚めでもかまいません。

塗装(2)
  いちど塗装を乾かしてから,柿渋に亜麻仁油を二三滴垂らしたものを布につけて,拭い取るように磨き上げます。
  隠したいところは軽くこすってベンガラを残し,木目を立たせたいところは何度もこすって下地を透かします。
  ベンガラの色が薄くなりすぎたところは,また塗って,また磨く――なんどもやり直せるところが,この工法の好い所ですね。

  お飾りも塗装します。
  塗装法は同じ。

  ふっふっふ…もはやどれがオリジナルだか分かるまい。

  胴体はいー感じに出来たんですが,棹の左右にどうしても色が乗ってくれないところがありました。
  木目の関係でしょうか?
  あるいは弾き手の手の油が滲みちゃってるのでしょうか?
  エタノで拭いてもまったく効果がなかったのですが,濃い目の重曹水で拭ってからやり直したところ,今度はしっかりと色が付きました。

  ……重曹水,スゲェ。

塗装(3) 塗装(4) 塗装(5)



軸先強化   塗装の合間に,小作業をいくつか。

  軸先を強化します。
  菊芳さんの糸巻きはかなり軽く,かつ柔らかめな素材で作られています。
  使用痕として,調弦で糸の食い込んだ痕跡もバッチリ残ってるくらい。

  前回紹介した記事で,もう一つ発見だったのは 「轉手胡桃(てんじゅ,くるみ)」 の一節ですね。
  「轉手」は糸巻きのこと。

  日本の「クルミ」は西洋の「ウォルナット」と違って,木目がやや粗く,軽くて柔らかな素材です。
  糸を巻き取りチューニングをする,大事な,力のかかる部品なので,こういう柔らかめな材料で作るという頭があまりありませんでしたが,たしかに思い返してみると,4号千鶴ちゃんの糸巻きなどは間違いなくこれですね。
  菊芳さんの軸は4号月琴のにくらべると木目は密ですが,これももしかすると同じ「クルミ」で,その辺材(樹皮のがわ・木目が粗く柔らかい)と中心材(一般に辺材よりも密)の違いかもしれません。

  経年のほったらかしでツヤのなくなった全体を亜麻仁油で磨き,ちょうど塗装でも使っている,柿渋+亜麻仁油の溶液を軸先に塗って固めます。

棹茎調整
  続いて棹の調整。

  ゲタを履かせたので,このままでもオリジナルよりは絃高がかなり低くなってはいるのですが,イマイチ足りません。

  差込が少しゆるいので,その調整も兼ねて,棹茎の先端裏側にツキ板を貼ります。
  これでわずかながら棹尻のほうが上がって,棹の傾きが増すはず。



第二次フレッティング(1)
  塗装も仕上がりましたので,楽器を組み立て,フレットを再接着します。

  強化やら色付けやらで一週間もかけたフレットは,竹ながらツヤツヤのピカピカ,ですが……最後に噛ませたツキ板が効いたのか,絃高がさらに下がり,そのフレットを削りこみながらの作業となりました。

  1ミリは低くなったね。

第二次フレッティング(2)
  より強固なフレット接着をお約束。
  「フレットやする君」,今回も大活躍です!


菊芳は:
 弾きやすさが10あがった。
 音量が5あがった。


  そしてお飾りを付け,絃停を貼って。

  2009年6月13日,10号菊芳,修理完了!!!

修理完了!




  さっそく試奏してみました。

  まずやっぱり――

  江戸ッ子の月琴ですねえ。

  音の胴体は比較的短く,シャキシャキと小気味のいい響きながら,低音の余韻が深くて長い。
  音量も出ていますよ。かなり大きい。
  いまはまだ修理の影響もあって,耳に少しキツいくらいの音量・余韻が出てますが,この夏を過ぎた頃にはもう少し落ち着いた,しっとりめの響きに変わってきましょう。

  N氏や生葉にくらべるとまだやや高めではありますが,絃高下げをしつこくやらかしたおかげで,運指も何とかなめらかにできるくらいのフレット高となりました。
  材質のせいかやや軽めですが,楽器自体のバランスも悪くはありません。

  何度も言っているように,この10号菊芳は普及品中等クラスの楽器ですが,作りや材質がちょっとアレでも,あちこちに手抜きがあっても,さすが「第三回内国勧業博覧会」受賞者の作品。
  ゲタを履かせて絃高を下げたり,各部の接合を補強するなど,ちょっと手を加えただけで,コンサーティナ・レベルの楽器にも,じゅうぶん対抗できるよう楽器になっていると思います。
  まあ,もっとも音全体の深みではかないませんが,演奏者の腕前次第では,逆に食うことも可能でしょうね――そんなことさえ感じさせる,力強さと確かな音質を持っています。

  イキ,というよりはイナセ,な音です。


10号菊芳全景

  馬喰町四丁目七番地,店名は菊屋,屋号は菊芳。
  初代は福嶋芳之助(第三回内国勧業博覧会受賞者),二代岡戸竹次郎(第五回同会受賞)。
  その初代の作品,製作時期は明治10年代~20年代前半。

  平成年間修理担当:東都琴士・斗酒庵

  主要修理箇所:表面板右側補修,内部構造修復・補強,蓮頭・山口・フレット・右目摂,ならびに中央扇飾りの再製作。棹基部調整。表面板清掃ならびに棹,胴側部再塗装。


  さて,この楽器は,できればせめて,関東に残しておきたいですねえ……




10月琴菊芳・音源

  1.開放弦
  2.音階(1)
  3.音階(2)低音弦/高音弦それぞれ
  4.九連環
  5.蝴蝶飛
  6.十二紅



10号菊芳(4)

KIKU_04.txt
斗酒庵 菊芳の月琴を直す の巻(4)2009.5~ 明清楽の月琴(菊芳)

第4回 菊芳さん,箱になる

  月琴音楽の全国的な流行は,日本における印刷技術の近代化と,維新に伴う新知識への欲求からきた出版ブームと時期が重なります。それなもので,現在では弾く人もほとんどいなくなってしまった楽器ですが,楽譜や関係する当時の文献が,けっこう大量に残されているのですね。

  そういう本がいっぱい見れるのが「国会図書館近代デジタルライブラリー」。

  興味のある方は一度のぞいて「月琴」や「明清楽」で検索してみてください。

  でもって,相変わらずその国図のアーカイブをほじくってたんですが,今回は『明治十年内国勧業博覧会出品目録』(M.10)という本の中に,月琴に関する資料を見つけました――第一回の内国勧業博覧会のカタログですな,絵は入ってませんが。
  ほかの回のカタログでは,一等二等の受賞者のもの以外に,こういう記述のついてた記憶があまりないのですが,それぞれの月琴の作者についてのほかに,簡単ながら,その材料として「どんな木が使われた」のかが書かれています。

  月琴(一)紫檀外雑品,琵琶(二)黒檀,胡琴(三)鉄刀木,提琴(四)樟  東京牛込矢来町  田島勝
  月琴(一)桐胴桜棹轉手胡桃,胡琴(二)竹製  東京小梅村  石川幸蔵
  月琴(一)桐朴紫檀  東京長谷川町  井出武四郎
  月琴(一)桐他諸木,撥鼈甲  東京本所横網町一丁目  村上致信

  月琴の高級なものの本体は,紫檀・黒檀・鉄刀木といった,三大唐木で出来ています。
  そうした手合いだと一目瞭然で比較的分かりやすいのですが,中級以下の楽器の場合は種々雑多な……そりゃもう,何だか分からないような材木が使われています。
  それを,庵主も良くやってるように,ベンガラや柿渋なんかで染められちゃったりすると,表面的な色や木肌からだけでは,何の木だかはまず分かりません。

  唐木以外の材料で庵主が確認できた確実なところでは,「鶴寿堂」のカヤ(棹・胴),「1号月琴」「コウモリ月琴」のサクラ(胴)があります。また月琴の主材料として「クリ」をあげている本もあるのですが,今のところこれで出来た月琴は,早苗ちゃんくらいしか見たことがありません。胴材として「エンジュ」が使われた,という記述も見たことがあるのですが,それで出来たと分かる楽器にも,まだお目にかかっていませんね。



矯正・補強完了

  では修理です。

  前回,水をふくませ,クランプでしめた接合部の矯正は,かなりうまくいったようすで。
  接着の劣化と,木材の収縮。そして修理の過程で生じた部材同士の食い違い段差は,かなり小さくなりましたし,接合部をつなぐように裏から補修板を噛ませたので,強度的な心配ももう余りありません。

  さて,んでは開いた箱を,閉じるとしましょう。

表面板縁の補修
  まずその前に,表板の裏側,ボンド野郎のせいで剥がすときに痛めてしまった縁辺部を補修しておきます。

  これをちゃんとやっておかないと,へっつけたあと,縁が凸凹になっちゃいますからね。

下桁接着
  そして内桁……といっても上桁ははずさなかったので,再接着するのは,例のミョーなところにボンド着けされてた下桁のみ。

  前々回の記事で書いたとおり,前修理者が接着面に塗りたくった木工ボンドは,すでにキレイにこそげてあります。本来の取付け位置のすぐそばには接合部があり,この部分の補強材はあらかじめ,この下桁が乗っかるようなカタチに,細く削っておきました。
  補強材としてはかなりギリギリな大きさですが,ここに下桁を密着させれば,強度的には問題なくなりましょう。

  下桁が定位置にはピッタリまるよう,補強材をさらに微妙に削って調整,ニカワを塗って,クランプで固定します。

下桁接着(2)
  下桁がくっついたので,その両端に合わせて,補強材の上端も削りこんでおきます。

  この加工の意味はいまだに不明なので,何らかの効果があったとして,そこに影響があるかどうかも分からないのですが,内部のことなだけに後で何かあったら困ります。そういう危険は少しでも減じておきたいところ……こうしてとりあえず合わせておけば,そんなにヒドいことにはならないでしょう……たぶん。


  最後に作業中,テープでとめておいた響き線を開放し,曲がりや角度を調整します。
  楽器を立てて,演奏姿勢に構えたときに,ちょうど中心でチワワのように震えているくらい。
  最大に揺れても,表板を叩かないように,あっちを曲げ,こっちを戻し――けっこう時間がかかります。

  接合部のスキマには,ツキ板を削って埋め木をしておきます。


  これで中身はばっちり。

  なるべくなら,もう開くようなことはありませんように。
響き線調整
スキマ埋め

表面板再接着(1)
  胴体と表板を重ね,もっともピッタリな(というか,「削りなおし」の時もっとも被害の少なそうな)位置を探ります。

  今回は半月も取っぱらってしまっているので,表板のもともとの中心線もあまり気にする必要がありません。
  また,虫食いの補修部分に大きめの板を継いだので,左右にも余裕があり,多少ならズレても平気です。

表面板再接着(2)
  これぞ!という位置が決まったら,すかさず縁辺三箇所ばかりに,ピンバイスで小さな穴をあけます。

  これを 「命のアナA」 と名づけます。

  ここに削った細い竹を挿し,再接着のガイドとする――前回「N氏の月琴」でお試し済みの,スグレ技です。

  二度ばかりシュミレーションして,穴の位置と手順を確認したらいよいよ再接着。
  ニカワを塗る前に,接着部にはよーく水分を含ませておきましょう。
  たんに板をかぶせるだけながら,この作業,意外と時間がかかります。その間にニカワが乾いちゃうと,さらにやり直しですからね。

  ニカワもごく薄く溶いたものを,何度も塗っては指の腹でなじませます。

  表面にニカワの層がないのに,指を押し付けるとベタつき感がある,というくらいに染ませたら,最後に筆で軽くお湯を刷いて。「命のアナA」に挿した竹串を目安に,練習したとおりの位置に,板をハメこみます。

  んで,すかさずクランピング。
  何度やってもけっこう大変。




表面板接着完了(1)
表面板接着完了(2)
  翌日……胴体がとうとう箱に戻りました。

  再接着作業のイノチ綱となった,ガイドの竹串も引っこ抜いておきましょう。

  ――ご苦労様でした。ありがとうございます。

  ほんの小さな穴,ほんの小さな工夫ですが,これがあるとないとでは作業の精度が,そして難易度が問題にならないくらい違ってきます。

胴体整形(1)
  さあ板の余分を切り取り,胴側面を削り直しましょう。

  ジョリジョリ,ゴリゴリ…………おや?

  冒頭に紹介した記事の三番目の項目で,「月琴の素材」として「朴(ホオ)」というのがあげられておりますね。ホオはやや柔らかめですが加工しやすい木で,ちょっとした細工物や彫刻に良く使われ,ほかの月琴でもよく,お飾りや目摂の材料として,よくベンガラで塗ったこれの薄板が使われています(今回,庵主が作った目摂や扇飾りもホオ板製)。
  そうした小物,付属品はともかく,この木材をこういう「弦楽器の本体」に使ったというような記述は,庵主,あまり見た記憶がありませんが――

  菊芳さんの胴体………これ,「ホオ」ですね。

  当初,庵主はこれを,楽器としての等級,また色合いから,早苗ちゃんと同じく 「クリ」 だと見ていたのですが,実際に削ってみると,感触がまったく違います。
  早苗ちゃんの胴材はもっと軽くて木肌も粗く,どちらかというとモロモロとした削れ具合だったのですが,木肌の色は似ているものの,菊芳さんのほうはずっと密で,シャリシャリと削れます。以前,彫刻材とカタマリを削ったこともあるので,たぶん間違いないと思います。

  「10号菊芳月琴,胴体はホオ。」
  訂正して了んぬ。

  ヤスリで段差をなくし,#240のペーパーでヤスリ目をキレイにします。

胴体整形(2) 胴体整形(3) 胴体整形(4)



棹基部補修(1)   さて,胴体も無事箱になりました。
  しかしここに来て,色塗りの前にどしてもやっとかなきゃならないことが一つ……

  よ~し~の~すぅ~けぇ~っ!(怒)

  てめェはホントーに,なんて雑な仕事しやがるッ!

  「はっはん,棹なんざ誰も抜いて見ねェヨ~」

  ――とか考えたろ,テメッ!
  (と,ゲンノウを投げつける)

棹基部補修(2)
  棹茎と棹本体の接合部にあるエラいスキマを,ツキ板で埋めます。


  接着は上手いヒトなので,これだけスキマってても,現状,割れもヒビもないのですが,このところココが原因の不具合をけっこう見てきたので,長期的に見るとかなり心配。

  転ばぬ先の杖,先手を打っておきまする。

棹基部補修(3)
  更に棹基を調整。

  修理作業の前に棹の傾きを調べたところ,かなり浅い方だったので,これをもうあと2ミリほど傾けたいところです。
  とりあえずは胴体にもともと刻まれていた調整用の溝を,ナイフとリューターで少し深くして,棹の背面側がもう少し落ち込むように加工。胴体を少し削ってしまったので,棹との接合部にほんのすこしスキマが出来ており,その調整と同時にやってます。
  うーっ。
  単純な面と面の問題じゃなく,3Dで考えなきゃなんで,数学恐怖症のこの脳味噌には多少キツい事態ですね。



表面板清掃(1)
  ついで表面板の清掃に入ります。

  例によって「重曹水」を使用――ぬるま湯に重曹を溶いて,これを垂らしながら,耐水の#240をブロックにつけたのでコスコスします。
  汚れ落としが主眼なので軽く軽く,あんまり力を入れると,板が削れちゃいますからね。
  ヨゴレ自体が意外とキツかったのと,染めにものすごく濃い目のヤシャ汁を使っていたようで,たちまちお湯がまッ茶色になりました。

  けっきょく一度ではキレイにならず,日を置いてもう一度作業をすることにしました。
  重曹水はエタノとかと違って揮発性はないんで,再接着したての表板の負担も考えなきゃなりません。
  元の色がかなり濃かったので,いつもの修理よりややくすんだ色になりましたが…まあいかにも古物っぽくもあるので,これくらいでヨシとしましょう。

表面板清掃(2)
  ただ,ヨゴレを剥いでみたら,虫食いの補修で継いだ部分が少し目立ってしまってました。

  汚れてたときには同じくらいの色合いだったんですがね。
  菊芳さんに使われている桐板は,目がかなり詰んでいて,細かいギラ目が横方向に入ってますが,継いだ板のほうは木目が広いふつうの板目材…なんか多少,BJ先生っぽくなっちゃったかなあ。

  最近はそうでもないですが,むかし「桐」という材料は,材木屋さんでは扱っていませんでした。
  桐は専門に扱う「桐屋」さんがあって,そこを通して買うものだったんですね。

  その理由は材木屋さんの曰く,「アレは木じゃないから…」

表面板清掃(3)
  そう,キリはゴマノハグサ科の植物。ふつうの「木」にくらべると成長も早く,どちらかといえば「草」の扱いなのです。ただ,成長が早いだけに,その生育環境は木目にはっきりと現れます。

  むかし聞いたところによると,平野部,たとえばお百姓さん家の庭先なんかでのびのび育ったキリは,年輪の幅が広めで,気胞はやや目立つものの,材質としては固めなんだそうです。

  環境のキビしいところ,たとえば山地や地味の痩せたギリギリの土地で育ったキリは,目は詰まっていますが,意外と柔らかい。ギラ目やバーズアイのような木理が生じることもあるそうな。

  オリジナルは後者,継ぐのに使った古板は前者のものだったようです。

  まあ,後世の人に庵主のシワザ(修理部分)が判って,かえっていいのかも。


10号菊芳(3)

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斗酒庵 菊芳の月琴を直す の巻(3)2009.5~ 明清楽の月琴(菊芳)

第3回 菊芳さんちょッち直される

『第三回内国勧業博覧会褒賞授与人名録』
  この月琴の作者である「福嶋芳之助」さんについて,追加情報。

  国会図書館のアーカイブにある『第三回内国勧業博覧会褒賞授与人名録』(M23)で,楽器屋さんの情報を調べてたら,「第五部・褒状」のところに――

  三絃,二絃琴 東京府日本橋区馬喰町 福島芳之助

  とあるのを見つけました。
 「島」の字は違うし店名もありませんが,住所は同じだし,別人って事はないでしょう。

  前回書いたように,明治末年ごろには「岡戸竹次郎」さんが「菊芳」の店主となっているようです。
  ということは,この明治20年代はじめころまでは間違いなく,初代菊芳,まだ現役だったというわけですねえ。初代芳之助は第3回の,2代岡戸さんは第5回の受賞者,腕のいい師系ですこと。

  日清戦役前のこのころはまだ清楽が盛んだったと見えて,「清楽器」「月琴」で受賞している人がけっこういます。この時の芳之助さんは「三絃,二絃琴」での受賞ですんで,彼が月琴を作っていたのが,これ以降だったのかこれ以前だったのかは分かりませんが,修理で各部見た限りでは,この楽器,「老練のワザ」といったところがあまり見て取れません。

  正面から見たとき,なんか左右のラインの揃ってない棹とか,茎や内部の手抜きっぽい造りとか――楽器による得手不得手とかもあったかもしれませんし,あんがい歳とってから流行に乗って,急に作り始めたため雑なだけかもしれないので,即断は避けたいところではありますがね…もしかすると,この楽器の製作年代,明治10年代後半くらいまでさかのぼれるかも………

  ――ああッ!またこんな邪推を!(汗)



  …さて,修理しましょ。

ぜんぶ剥がします
  今回の修理における最大の懸案は,表面板右端のヒドい虫食い痕をどうするか…ですが。

  まずは表面板上の物体をぜんぶ取り外します。
  片方だけ残った目摂,オリジナルかどうかは分からない竹フレット。

  今回はさらに半月もはずしてしまいます。

  月琴の胴体は丸い。

  いちど板をはずしたら,どんなに注意して精密に作業しても,これを完全に元通りにすることは出来ません。
  一つにはその円形という取っ掛かりのない形状が原因ですが,この表裏の板は,ちょうど三味線の皮のようにぴんと胴体に貼り付けられているため,これをはずすと長年部品間で保たれていたパワーバランスが崩れて,接合部や胴材にどうしても歪みや狂いが生じてしまうためでもあります。

剥がしますた
  さいわい,ギターやバイオリンなどと違い,月琴の胴体は厚めの板でできていますので,面板との間に多少段差が出来ても,胴材を削って整形しなおすことが出来ます――まあ,出来ればあまり派手にはやりたくない作業ですが。
  面板がただの板のうちに,先に半月を着けてしまうほうが,力のかかるこの部品を,より強固に接着することができるのですが,それだと板の接着位置がわずかでもズレれば,そのぶん弦の向きがズレるわけで。

  弦楽器ではそうして楽器の中心線がズレてしまうのが,いちばん困るんですね。

  胴体が箱になってからの作業には,いろいろと制約がつくものの,半月の再接着を修理の最後の方にすれば,修理再生の過程で生じるそうした誤差を,あるていど解消(誤魔化す…ともいう)ことが出来ます。

  半月の周囲と内刳の内部に筆でお湯をしませて,板の裏側に布をあて,焼き鏝で裏がわから温めてニカワをユルめます。鏝をあんまりあて続けると,板が焦げたり堅くなっちゃったりしますので,お湯を足しながらゆっくりと。
  十分ほどで上手くはずれました。

表面板(1)
  次はいよいよ,虫食い部分の補修にかかりましょう。

  板の表裏から虫食い痕をほじった結果,さいわいにもこの虫損の被害は,さほど広範囲にまでは渡っていないことが分りました。
  とはいえ一部は板自体がなくなるほど,また一部は木目に沿って縦方向にかなり食われてしまっており,強度的にも埋め木ていどでは処理し切れません。

  もっとも単純な手段とまいります。

  庵主の工房には,過去の修理で不要となった古い面板がけっこうありますので,虫に食われちゃった範囲の板を切り取り,これでつぎはぎしましょう。桐はもともと接着がいいし,表板を清掃するとき,そこで出た汁を混ぜ込んで,ついでに均してやれば,どこが新しく継いだ部分なのか,ほとんど分からなくなっちゃうかと。

表面板(2) 表面板(3) 表面板(4)

  この月琴の胴体の接合は,4枚の部材の木口同士を擦り合せて接着しただけ。
  もっとも単純な接合工作になっています。

  もともとの工作精度はさほど悪くなかったと思うのですが,経年の劣化と水濡れなど事故の影響,おまけにボンド野郎の修理作業などのせいで,各接合部ともゆるみ・歪み,反り等の不具合がオンパレードで出ております。

  いづれもそれほど深刻なものではなく,あとで削って均しちゃえばいいくらいのレベルではありますが,そのまえに。

接合部矯正中
  ちょっと矯正してみましょう。

  接合部付近によくお湯をしませて,クランプで二方向から締め付けます。
  そのまま二日ほど置いたところ,凸凹だった表面板との接着面がほぼ水平になり,段差も多少解消されました――クリというのは以外に素直な木ですね。

  ちょっとした違いですが,このほうがより原型をキズつけなくて済むし,次の作業の精度があがります。


接合部補強
  さらに各接合部裏側に桐の板を削って貼り付け,補強しておきましょう。
  下の二箇所は下桁といっしょに固めちゃいましょうか。

  さて,この接合部がちゃんと仕上がってくれないと表板も貼れないし,そもそもいつ楽器がバラバラになるか分からないので,接着は慎重に行っています。
  濡らしたらゴベっと木工ボンドが着いてたのが分かったり(けっこう苦労してコソげ落としましたぜ,ボンド野郎!),補強板の接着がうまくいかなかったりで時間がかかります――ということで。



  いささか早めなれど,S.K.T.(SUPER・小物・ターイムっ!)に入ります!!
  イェーイ!!!

  庵主至福の時間がやってきましたねえ。
  小物,お飾り,作るのダイスキです。

目摂(1)
目摂(2)
目摂(4)
目摂(5)
  まずは失われた右目摂。

  今回,生き残ってる左は無傷ですのでハナシは早い。
  ひっくり返して板に輪郭をなぞります。

  板には割れ欠け防止に,薄い和紙を貼っておきましょう。
  細工物のちょい知恵です。

  だいたいのところを糸鋸で切り出したら,ヤスリやアートナイフ,ピンバイスを駆使して,切ったり削ったり。

  うおおおおおおおっ!意味もなく萌えるぜぇっ!!

  だんだん出来てきました。

  えいえいえいっ!

  そりゃ!そりゃ!そりゃ!

  …彫りあがりました。

  仕上げにリューターで彫り線をざっとキレイにし,軽くペーパーをかけて残った紙をこそげ取ります。
  #240,いって#400くらい。装飾の仕上げとしてはやや荒めですが,このときシャープすぎるカドや線が上手い具合に削られ,擦れ線も適度につくので,あとで塗ったときちょうどよく古物っぽくすることが出来るのですね。

  誤魔化しきかな彼の御ワザ。

ぶった切り奉行
  次は蓮頭ですね。

  その前にへっついてるこのナゾの物体,はずしてしまいましょう!
  …うむ,ボンドでベッタリがっちり接着されてますねえ。

  こんなものはこうしてやるッ!

  ハードコア系リペアーマンの本領発揮ですね。ピラニア鋸でぶッた切り。

  それにしてもコレ,いったい何の部品なのでしょう?

  はじめは椅子の背もたれかと思っていたのですが,それにしては内側のアールがキツめ……ベビーチェアでわ?という意見もありましたが,厚みが3センチ以上もあります。ちょっとゴツ過ぎるかなあ。
  色は後で塗ったものですね。左右の切り口に塗料がかかっていますから。
  そもそもが,この底面のミゾがナゾ。
  まっすぐです。凸凹になった上面の曲面との整合性がありません。
  寄木で作られたもっと大きな部品からもぎとられた一部なのでしょうか?

  ネオクの写真で見たときは,てっきり三味線の海老尾を切ったものだと思ってました。
  まあ,その程度には似せてあるわけで――コレといい,山口のところにへっつけてあった竹板といい。前修理者はおそらくこの楽器を「月琴」とは知らず,「箱三味線」の一種と考えていたんだと思いますね。

  楽器を扱うときは,いちおうちゃんと勉強しましょう。


  さてと,これはポイ。

  新しい蓮頭を作ります。
  オリジナルがどんなだったのか分かりませんが,中級普及型の月琴ですんで,そんなに凝った意匠のものではなかったと思います――ここは一丁定番で参りましょう。
如意
  材料はカツラ。モデルとしたのは7号コウモリ月琴の蓮頭です。

  この模様,このクラスの月琴では良く見る意匠なのですが,正直なところ何なのかはわかりません。
  おそらく「如意」の雲形板の紋様を簡略化したものだとは思いますが(右図参照),上のほうにある渦巻き,角ばった形にはなってますが,これの上部にも残ってますもんね。

  コウモリ月琴の蓮頭を計って,だいたいの大きさとカタチを決め,切り出します。
  あとはひたすら削る削る削る。

  最後に模様をざッと刻んで……はい,一丁あがり。

蓮頭(1) 蓮頭(2) 蓮頭(3)

扇飾り(修理前痕跡)
扇飾り(1)
扇飾り(2)
扇飾り(3)
  SKTの最後は扇飾り。

  こちらもニカワの接着痕がわずかに残っているだけで,日焼け痕も見えず,オリジナルの意匠は分かりません。
  定番は唐草紋様のようなもの(これも実のところ何なのか不明)なんですが,せっかくなのでここくらいは遊びましょう。

  「菊芳(きくよし)」さんの月琴なのですから「蘭」とまいります(分からない人は前回記事のはじめのあたりをご覧ください)。
  この「蘭秀」の「蘭」はいわゆるオーキッド,「ランの花」ではなく「蘭草」――秋の七草のひとつ「フジバカマ」の類を指す語です。

  生の花に鼻を近づけてもさしたるニオイは感じませんが,これを採ってきて部屋で干しておくと,ちょっとなつかしい,お香のようなほのかな香りが漂い,これを昔の中国の人たちは愛でたわけです。

  「蘭」というだけで記憶の中から香りが浮かぶ,だからこそ秋風の詩の中で「菊芳(かぐわしい菊の花)」と対になるというもの。

  ただこれ,じつに意匠にしにくい花なんですねえ。

  細密画にするならともかく,特徴を残したまま簡略化しようとするとなかなかムズかしい。
  蒔絵や陶器,着物には,「秋草図」という意匠のものが多々ありますが,この「フジバカマ」。いちばんおざなりにされてたり,ちょっと見には正体不明の植物と化してたりしてます。

フジバカマ
  まあ,このあたりでカンベンしてください。(汗)

  仕上がる直前に,花のところがバキッ!と半分欠けちゃったことはナイショだ。
  裏から和紙で継いであります。まあダメそうなら作り直すさ。


  3回目にしてようやく修理らしい工程に…
  

南越1号(終)

VET1_07.txt
斗酒庵 ベトナム月琴に手を出す の巻南越1号(終)

STEP9 漢の塗装道

塗装中

  うおおおおおっ!!塗るんじゃーいッ!!!!!

  ――というほどのことではありませんが,まあいつもながらタイヘンな作業なので,ちょっと気合を。

  南越1号の下塗装は,これでまいります。


ベンガラ溶いて
塗って
拭いて
柿渋/油
色ニスかけて
仕上げにオイルニス
  早苗ちゃんの修理以来,庵主は「ベンガラ」という,ずっと使ってきた自然顔料をあらためて見直しています。

  ベンガラと砥粉と炭の粉,そして柿渋という,工房に常備されている素材で,さまざまな木の色――調合の割合でいくらでも微妙な色合いが作り出せるのですね。

  古代からの知恵ばんざい!古色付けばんざい!

  まずはベンガラを柿渋でよく溶きます。
  色合いを見ながら,混ぜるのはほんのすこしづつ。
  板切れか何かで,皿の底に押し付け,すり潰すようにしながら,完全に混ぜ合わせます。
  ちゃんと混ぜておかないと,塗ってる途中でダマがつぶれて,思わぬマーブルカラーになっちゃったりしますので,気をつけましょう(経験者,談)。

  ウサ琴ですんで,月琴の修理で使うよりはいくぶん赤めの調合です。

  木目や工作部を隠したいところのみ筆でベタ塗り,そうでない部分は布で擦り込み,なるべく薄く色付けをします。上から色ニスを塗るのが前提なので,ちょっと薄めの色でいいでしょう。
  乾いたら布でこすって余分を落とし,薄くなってしまったところは再度塗装します。

  けっこう何度もやりなおせるので,前回の染めとかにくらべると気がラクですね。

  だいたい具合が良くなったところで,全体に柿渋を塗布して固め,それが乾いたら,つぎに極少量の亜麻仁油をつけた布で,表面を磨いて落ち着かせます。乾性油が乾くまで一週間,できれば一ヶ月くらいは放置したいとこですね。

  中塗りは日本リノキシンさん謹製,ヴァイオリン用ヴァーニッシュのダークレッド。下地にすでに色が付いているので,3度も塗ればウサ琴カラー。

  トップコートは,同じくオイルヴァーニッシュ。
  紫外線硬化なので,天気のいい日を狙って作業をします。

  下地の塗装に柿渋を使ったので,オイルニスの硬化とともにこれも紫外線で発色して,色がちょうどよく濃くなりました。

  さらにこれも柿渋のおかげでしょうか。
  いつもより木地が締まって,固めの感触になってるような気がします。
  ただ,この下地と上面に塗ったニスの相性がどんなものなのか不明なので,そのへんには不安もないではありませんね。

  とまあ,書き並べてゆくと,大したことがないのですが。

  実際には塗装開始から終了まで,およそ2ヶ月近い日々が流れています。
  その間にも,古い資料を漁ったり,コウモリ月琴を改修したり,鶴寿堂の再修理が終わったり,彼氏月琴の調整があったり,10号菊芳の修理が始まったりと,色々なことがございました。



STEP10 S.K.T.(すーぱー小物たーいむ)!

新作軸
  さあて,この間に小物を作ります。

  最初に作ってやった軸は鶴寿堂のほうに回してしまったので,まずは再び軸削り。
  こんどはちょっと細身のスマートな軸にしました。
  オハグロベンガラで塗って黒軸に…なかなかかっこいいですね。


目摂1
目摂2
目摂3
目摂4
  つぎに目摂,もちろんこんなもの,ホンモノのベトナム月琴には付いてませんが,ウサ琴とのハイブリット楽器ですんで何としても付けたい。

  日本に音楽をくれた国の一つに「林邑」というのがあります。
  雅楽の「林邑八楽」のふるさとですね。
  これは現在のベトナムの古い王朝の一つなんですが,そこの伝説によれば,この国の最初の王様は,川で捕まえた二匹の魚が刀に化け,その刀を使って新しい国を切り開いたことになっています。
  その魚が何だったのか――「フナ」だとか「ハモ」だとか諸説あるようですが,「魚」で「王様」と言って分かりやすいので,とりあえず「鯉」に。

  そもそも,月琴の丸い胴体はお金(銭)に喩えられます。
  そこに「魚」が付くと 「魚銭」 となり,それは 「余銭(ユウチェン)」 と同音。
  「お金が余ってお目出度や!」という洒落となります。
  しかも二匹いるから 「双鯉」  「双利」 の近音,余ったお金が倍倍倍…

  朴の木の薄板を両面テープで二枚貼りあわせてざっと切り抜き,剥がすと左右対のお魚が出来上がります。
  両面に和紙を貼って,細工中の割れ止めをしておきましょう。
  ヤスリで削って,アートナイフで刻んで。こちらもオハグロベンガラで黒く塗装。

  庵主,海浜の出なので川魚に今ひとつ縁が薄く,「鯉」のつもりでデザインしているのに,何度描いても,なぜか 「シャケ」 になってしまいます。出身地のせいでしょうかねえ?
  今回の鯉も,庵主的にはまだどこかシャケっぽい気がするんですが,まあこれ以上どうにもなりませんや。


フレット塗装
  フレットも渋く塗装しときましょう。

  胴体に使ったのと同じベンガラを,ごく薄くさッと刷いて,柿渋とラックニスで止めました。

  うん,ちょっとなんだか古楽器っぽくなってきたぞ。



STEP11 完成!!

  軸の塗装の乾燥に思ったより時間がかかり,一週間ほど余分にとられてしまいましたが。
  最後に全体を軽く研磨して,鳥口,フレット,お飾りを取り付けて。

  2009年5月27日。

  ベトナム月琴とその古形である「丐彈雙韻(かいだんそういん)」,古代楽器「阮咸(げんかん)」,そして明清楽の月琴とウサ琴の詰め込みすぎハイブリット楽器 「南越1号」 ,完成です!

完成!


  記録を見返しますに,最初に棹を切り出し,製作をはじめたのは2007年4月のこと。

  その間,しょっちゅうクジけたり,何ヶ月も放置したまま忘れたりしていたので,べつだんコレにずっとかかりっきりだったわけではありませんが。

  ――2年ちょっとかかってるワケですね。

  ウサ琴の製作が月割り一本だったことを考えると,こりゃまさに「記録」だわ。

  * 去年までの一年ちょっとで13本。製作は4本同時のことが多い。でも「楽器」の製作ペースとしては,これもちょっと異常。




南越1号・音資料

南越1号全景

南越1号試奏中!

  庵主,正直ベトナム月琴の奏者ではないので,作ったはいいものの,この楽器をちゃんと使いこなせません。

  そこで今回の音は,受け取りに来た和尚♪さんに頼んで,試奏してもらったものです。
  bebung(弦を押し込んでかけるビブラート効果)の効きかたが,もーぜんぜん違います。高音域での音がまた,庵主がちょいと弾いてみたのたあ比べものにならないくらいいい!

  祝杯挙げながらの録音,かついつもより少なめですが,まあどうぞ。




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