月琴63号唐木屋(3)

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斗酒庵夏にもさかる の巻2020.3~ 月琴63号 (3)

STEP3 ふたりはカラキヤ


 「唐木屋」 というメーカーさんは,楽器を扱う商店としてはお江戸の中でも古いお店----いわゆる 「老舗」と呼ぶに値する楽器屋のひとつだったわけで。

 これくらいのお店になりますと当然,当主自身が楽器の製作や修繕に関わることは少なく。おそらくは自身の店で職人さんを何人も雇い,もしくはあちこちの町にいる手飼いの職人さんたちに,各個仕事を割り振って商売をしていたと考えられます。

 そんな唐木屋で月琴を作っていたのは,おそらく二人の人物。
 どこの誰かは知らないけれど,誰もがみんな知りはせぬ,この二人の製作者を仮に 「唐木屋A・B」 と呼称いたしましょう。

 18号とぼたんちゃん,あとたぶん9号早苗の製作者は「唐木屋A」。
 Bに比べると糸倉左右がやや薄く,棹本体も少し細めになっています。棹茎は細く長く,先端に向かってテーバーがつき,先細りになっています。
 胴材や胴表裏の板はかなり薄く,半月は浮彫のある曲面形が多く,全体に繊細な作りになっています。また,この人は棹茎や胴内に付せられるシリアルを漢数字で書きます。

 これに対し,庵主が常用している7号コウモリさんや,クリオネ月琴からニャンコ月琴へと変わった31号。
 そして今回の63号を作ったのが「唐木屋B」です。

 糸倉の形状はほぼ同じですが左右は厚めで,指板の左右はあまりすぼまらず,ほぼまっすぐに見えるくらい。棹背もが峰の狭い----ギターで言うところのVシェイプに近くなっているところ,は峰の広いUシェイプなため,くらべるとBのほうの棹はかなり太めに感じられます。棹茎は幅太く,ほとんどまっすぐで,先端まであまり幅が変りません。半月は平たい板状。シリアルはアラビア数字で,かなりちゃっちゃと素早くなぐり書いています。

 あと見分け方としましては,Aの糸巻は寸法的にふつうだがBはかなり太めだとか,蓮頭の意匠が同じでも形状がわずかに異なるとかいろいろありますが,技術的なところから言うと,のほうがやや工作が繊細・精密で,にはやや雑というか稚拙なところがあると申せましょう。

 そして,ここからはまだ証拠が少なく,あくまでも庵主の推測なんですが……

 お江戸は下谷,伝七親分の住んでた黒門町に 「栗本桂五郎」 という楽器屋さんがおりました。
 そんなに大きな店ではなかったようですが,腕は良く,明治のころの商人録にもたびたび取り上げられております。

 庵主,「唐木屋A」 の正体はこの人ではないかと考えております。

 ひとつに,楽器の特徴がよく似ていること。ただし,唐木屋の月琴自体が,明治のころの関西風国産月琴としてはごく標準普通なものなので,これは糸倉とか棹の形状から類似のニオイがわずかに感じられる,くらいのことでしかありません。栗本桂五郎の楽器に触れる機会がもっとあれば,さらに確かめられる点も多いとは思いますが,現状では印象ていどですね。

 ふたつに,この連載の最初のほうでも取り上げましたが,栗本桂五郎のラベルは左のように,唐木屋のものとほぼ同じ形状・体裁をしています。このカタチのラベルは,関東では唐木屋と彼,そして後述の「漢樹堂」くらいでしか確認されていません。
 唐木屋の楽器と関連があると思われる大阪の松派の作家たちなんかでもそうなんですが,ラベルのカタチとか体裁といったものは,同じ系列の作家間ではけっこう共通してしまうもの----当時の状況などから考えますと,たぶん商売上の縁故から,同じ印判屋さんが使われるせいだとは思いますが。

 では 「唐木屋B」 は?----というと。
 こちらにも実は容疑者が一人います。
 それが先にもちょと触れた,「漢樹堂」という作家です。

 「漢樹堂」のラベルには名前だけの縦書きのものと,唐木屋などとほぼ同じタイプの二種類があります。庵主,当初これは,唐木屋が月琴や清楽器の高級品にだけ付けていたラベルだと思っていました----なにせ「漢樹」は訓読みすれば 「からき」 とも読めますし,住所も同じ日本橋区の「本石町」でしたからね。

 先に 「高級品」 と書いたように,いままで庵主の見た「漢樹堂」の楽器は,比較的手の込んだ細工や装飾の施されたものが多く,簡易な量産品と思われるものを今のところ見たことがありません。唐木屋の数打ち普及品や栗本桂五郎の楽器に比べるとかなり装飾過剰気味で,実用的にはどうなんだろう?と思うくらいですが,太めの糸巻やコンパクトな半月の形状,そしてその糸孔に取付けられたやや大きめな牙板など,彼の楽器は 「唐木屋B」 の楽器と一致する特徴を有しています。

 「漢樹堂」の本名は上に挙げた2枚目のラベルの文面から,「駒井」姓と推測されますが,いまのところ「楽器商リスト」にとりあげた資料等からは,これに相当する人名があがってきていません。
 いくらなんでも同じ町内で赤の他人に「漢樹堂」なんていう紛らわしい名前の出店を,老舗である「唐木屋」が容認するとは思えませんので,唐木屋で長く仕事をしていた職人をひも付き状態でのれん分けさせたものか,あるいは月琴流行期のごく一時的な支店----たとえば大量の注文をさばくため,店のごく近所で「月琴製作部門」を独立させた,というような扱いだったのかもしれませんね。



STEP4 Yes!カラキヤ63号!

 さて,では月琴63号の修理にもどります。

 この暑い中修理作業をするうえで,いつもけっこう気にするのが 「ニカワ」の状態です。

 ……腐るんですよ。

 ニカワは不純物の多いものほど接着力が高く,精製されたものほど接着力は弱くなります。逆に,不純物をほとんどふくまないゼラチン----お菓子のゼリーの材料なんかは比較的腐りにくいのですが,工芸用のなんかはちょっと放っておくとスグ腐っちゃいますね。

 腐ったニカワは,もちろん作業には使えません。
 そこでこの時期は作業のたび,必要なぶんだけ少量づつ溶いて使用し,作業の合間は冷蔵庫に入れたりして使っています。いちいちニカワをふやかすとこからやりますんで時間もかかりますし,グルーポットにしてるワンカップ横目に 「ああ,腐る!アタシ腐っちゃううううッ!」 なんて気にしながらの作業は,けっこう辛悩なのであります。

 そんなわけで----つい水加減を間違えまして。

 暑い中,シャバシャバのニカワを使ったために,胴四方および内桁の再接合,一回目は失敗しちゃいました----塗ったニカワが木に吸い込まれて,ほとんど接着されてません。

 クランプはずしたら補強材がポロポロはずれてきやがんの(泣)接着部の養生のため,丸一日置いといたんですが,時間がムダになっちゃいましたね。

 新しいニカワの準備の合間,ちょいとほかに出来ることをやっておきましょう。

 「唐木屋B」の尻ぬぐいその1です。

 あまりといえばあまりな内桁の音孔を整形します。

 まあこの音孔,楽器作りの経験のある人にとってはごく自然な…こういう楽器にいかにも 「あって当然」 そうな工作なのですが。実のところコレ,月琴という楽器においては,ほぼ意味のないものの一つなのですね。

 もともと唐物で内桁にあいていた孔は,響き線を通すためのものでした。
 胴内を半周する長い響き線を入れるため,内桁の片側に一つ,円か木の葉型の孔が穿っただけのものです。松派の楽器なんかでは,響き線の形状が国産月琴で多い横向き型になり,響き線を通す必要がなくなっているのに,内桁の片側にだけ,唐物と同じように孔が一つあけられたりしてますね。

 実際,この孔が素晴らしくキレイにあけられているのに,まったく鳴らない楽器もあれば,孔のないただの板で区切られてるのに,素晴らしく鳴る楽器もあります。そもそも,この楽器は胴内の空間がきわめてせまいので,ここに孔を開け,ちょいと空気の通りを良くしたところで,さして劇的な変化は望めないんですよ。

 とはいえ,航研機の木村先生もおっしゃってたように,「機能の優れたものは美しい」 はず。

 外からは見えない内部構造ではありますが,物作りにおいて,見てウツクシクナイものをキレイにしとくことに,意味がないわけがありません(「気分の問題」もふくむwww)

 胴材との接着ははずれてるくせに,上桁も下桁も表板にはガッチリとへっついちゃってますので,中途半端に作業しにくい状況ではありますが,いまはなき稲荷町深沢さん謹製の特製ヤスリを駆使し,ヘロヘロだった音孔の縁を,強度の許す範囲でビシッと削り直し,ととのえました,見よ!----びふぉああふたあ。

 そうこうしてるうちに(w)新しいニカワの準備もできましたので,胴内各接合部の再接着,気を取り直しての再挑戦とまいります。

 こんどはニカワの状態もばちーり。
 かき混ぜたワリバシから,ほそーくたらーりたらりとガマの油のように糸を引きます。うむ,ベストなこんでぃしょなーである。
 前回,接着自体には失敗したものの,いちどたっぷりとお湯を含ませ,さらにシャバシャバのニカワを塗った上で一晩矯正したため,けっこうあった接合部の食い違いや段差が改善されてますし,木口表面が軽く目止めされた状態になっているので,一回目よりは作業がいくぶんラクになりました。

 一晩置き,補強板の余分を切りはらって側板と面一に整形します。

 さあ,これで響き線をつけ直したら,胴体を箱に戻ませすよぉ!----と,いったあたりで,今回はここまで。


(つづく)


月琴15号張三耗 再修理(1)

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斗酒庵張三耗と再開 の巻2020.5~ 月琴15号最終利 (2)

STEP1 張三耗の大冒険

 月琴15号が帰ってまいりましたあ。

 15号か----記録によれば最初に修理したのが2009年の暮れ……もう11年も前のハナシなのですねえ。

 倒れてぶつかった拍子に,糸倉が根元のところからパックリ逝ったとのこと。

 重症ではありますがなんとかしましょう。
 庵主,11年前よりはずっと誤魔化すのが上手くなってますからね(「修理が上手くなった」とは言わないwww)。

 当時はまだ,いまみたいに詳しい記録をとってませんでしたので,フィールドノートもペラ1枚で,図もテキトウ,書き込みもほんの備忘録程度でしたから,今回は再修理のついでにいろいろと調べ直しちゃいます。

 この楽器は,いわゆる「倣製月琴」。
 唐物をコピーして日本で作られた楽器です。
 琴華斎とか太清堂の楽器なんかと同じですね。
 コピー品ではありますが 「贋物」 として作られたわけではなく,国産月琴の中で,唐物楽器を手本にしたもの,唐物楽器の影響が強く出ているやや古いタイプの楽器,といった分類となりましょうか。ちょっとした形状だったり材質や内部構造に,日本の職人さんの独自性や国内事情による変更が加えられている場合が多いです。

 この楽器の場合,唐物にしては糸倉のうなじが曲面になっちゃってるのと,指板左右に曲線付けちゃったのはちょっと余計でしたが,全体的には 「唐物っぽい」 感じにちゃんとなってると思いますよ。内部構造は1枚桁で,響き線も唐物と同じ肩から胴内をほぼ半周するスタイル----外からは見えないとこですが,このあたりもしっかりおさえてありましたしね。

 ちなみに庵主が振った銘,「張三耗」の「耗」は 「耗子(ハオツ)」,北京弁で「ネズミ」を意味します。
 うちにきた当初は,糸倉のあちこちが派手にネズミに齧られ,ボロボロだったんですよねえ。

 表面にカツブシでもまぶしてたのかな?----とか思うくらいでしたが,これをこうやって修理して,上から補彩して……このあたり,11年前のシワザですが。
 自分でやったことながら,今回修理の過程で塗装を落としてようやく「あ,ここも補修してたんだっけ」って気が付く----

----そんな程度にはちゃんと誤魔化せてました。
 なんか嬉しい(www)

 てことで,まずはフィールドノート。
 今回の損傷の記録というより,工房に来た当初の状態を思い出しつつ,実機で確認しながらの再記録となります。

 ***画像クリックで別窓拡大***

  なお,15号前回の修理報告へは こちら からどうぞ----



STEP2 張三耗の逆襲

 まずは糸倉を継ぎましょう。

 左右2箇所づつの4箇所に,竹棒を通すための孔をあけます。
 この棒はクギみたいに,それ自体で割れを継ぐとか補強するものではなく,接着の時に各部を正確な位置で固定するためのガイドの意味合いのほうが大きいですね。

 竹棒に部品を通し,割れ目がピッタリと噛合うことを確認したら。破断面をエタノでよく洗い,少し緩めたエポキで接着します。
 同じことはニカワでも出来るんですが,ここは楽器の中でも力のかかるところですので,強度と耐久性を考え現代的な接着剤を使います。そもそもここは,月琴の「道具」としての使用上は,本来「壊れるべきときに壊れるべき」場所ではありません。その時になしうる最良の手段を以って,出来る限りの万全を尽くすとしましょう。

 エポキシ接着剤は強力なので,きちんと継げていればこれだけでもいちおう使用可能な状態とすることができますが,楽器の将来を考えるとあと2~3手補強を加えておいたほうが,より安心して長く使い続けられますね。

 明日のために打つべしその1,として,次にチギリを打ちます。
 糸倉の左右,軸孔をはさんでその両側。中央で割れ目を渡るよう,輪鼓(りゅうご-ディアボロ)の形に刻みを入れ,板の半分くらいのとこまで彫り下げます。

 ツゲの端材からチギリを削り出し,接着剤を塗って埋め込み,一晩おいて整形。
 ここまでやるともう,よっぽどのことでない限り割れが再発することはありません----が。

 チギリってけっこう目立っちゃうんですよねえ。
 庵主自身は糸倉にこういうのがついてたとしても,いかにも 歴戦の勇者 みたいな感じで悪くはないと思うのですが。15号の棹や糸倉はやや小ぶり,全体的に繊細な印象のフォルムをしているので,これだと少し悪目立ちしてしまうところがあります。

 ということで,この補修痕の目隠し兼さらなる補強のため,糸倉の左右にツキ板を貼ることにしました。
 ツキ板にもいろいろありますが,ここは木地の色味の近いマコレを使います。

 より強度が必要なら,黒檀や紫檀といった唐木材を使うところですが,今回はこの貼る板自体に強度を求めていません。糸倉左右の表面を薄いエポキシ樹脂の層で覆ってしまうのが目的。
 補強だけのためならば,エポキを練って全体に塗りつければ済むだけの事なんですが,樹脂で覆っただけだと表面の質感が異常になって,ほかの部分から浮いてしまいますし,基本透明なので,そもそも補修痕を隠すこともできませんからね。

 いま使ってる接着剤はだいたい一晩で硬化するタイプなので,片面づつ,足かけ三日の作業です。
 両面一気に貼っちゃえば?----って。いや,それやっちゃうと後で軸孔を開けなおすのがけっこうタイヘンなんですヨ。(経験済ww)
 片面を貼ったら余分を切り落とし,軽く整形して,反対がわの孔から工具を通し軸孔をあけ直します。ツキ板は薄くモロいので,孔の縁とかチップしちゃわないよう,ネズミ錐で下孔をあけ,リーマーで慎重に広げて…ぐりぐりぐり………
 ちなみにこのツキ板は,棹本体の木の目と交差するような向きで貼ってあります。

 ツキ板は薄いので,このくらいならパッと見,太くなったようには見えませんし。
 悪くはないんじゃないでしょか?

 まだ糸倉オモテとうなじのところに小さな補修痕が見えてますが,ここらはこのあとの作業で----

 糸巻を挿してみます。
 グリグリしても壊れません。
 うむ,まずまず一安心。

 では,修理工程次のフェイズに入ることといたしましょう。
 棹全体を磨き直し,スオウで染めてゆきます。

 この棹はちょっと面白い木取りの材で作られています。
 木はクワかエンジュあたりでしょうか。どちらも中心に近い芯材と皮に近い辺材で質に違いのある木材なんですが,これはそのあまり太くない樹の,芯材と辺材の中間あたりから採られたもののようです。

 こういう芯材と辺材で違いの顕著な材の場合,ふつうまあ避けるような部位ですね。
 辺材がわはかなり皮に近く,軽く病変か腐朽した部位も混じってたようです。棹背の「峰」のあたりが,木色マダラでかなりモロくなってました。原作者は全体を染め,生漆あたりを軽く塗って誤魔化したみたいですが,ツルツルに磨くはずの仕上げの作業で,そうした木地の問題で却ってついてしまった変なエグレや細いミゾ傷なんかが,そのまま残っちゃってました。

 庵主,スオウ染めのとちゅう,ようやくこれに気が付いたので,急遽染めを中断。エグレや傷を埋めエポキでシーラーをかけて,モロくなってる部分の表面を固めました。

 んで,再開。

 こんどこそツルツルに磨いたら,スオウ染め,ミョウバン媒染。
 オハグロをかける前に,前回と今回の補修箇所に目隠しの黒ベンガラを点しときます。


 ベンガラは隠蔽性が高いので,修理のアラ隠しには最適。前回はオリジナルの色にあわせて茶ベンガラでやりましたね
 ベンガラが乾いたら軽く擦って,余分を落し,色味を周囲になじませておきます。

 そしてオハグロで全体を黒染め。
 これで修理個所は自然なかたちでほとんど見えなくなります。
 画像だと真っ黒ですが,このあと油拭きしたり磨いたりしているうちに落ちて,もうちょっと赤っぽくなってゆきますよ。




(つづく)


月琴WS@亀戸 2020年7月!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2020年 月琴WS@亀戸!7月場所!!


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 7月 のお知らせ-*


 夏だ夏だよ暑いよ暑い!!

 6月の会に御出でいただいた方々,
 まことにありがとうございました。


 7月の清楽月琴ワ-クショップは月末,連休中の25日(土)の開催予定です!!
 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費は無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼下りのぱ~ぷ~開催。

 美味しい飲み物・お酒におつまみ,ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか阮咸とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。相談事は早めの時間帯のほうが空いててGoodです。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)


 64号初代不識はお嫁入り先募集中。
 修理中の63号唐木屋も,何とか間に合うかと。

 ご思案の方は,連載中の修理報告などご参考になさってください。
 まだ嫁入ってなければ持ってゆきまあす。

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

月琴63号唐木屋(2)

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斗酒庵夏にもさかる の巻2020.3~ 月琴63号 (2)

STEP2 プロレタな響き線

 さて----コロナコロコロ日も暮れて,
 万年貧乏底空飛行生活の庵主にも,それそこに影響ございまして。
 そこに6月初旬の毎天熱暑。
 完全エコロジーの全自動エアコン 「大自然」 完備のわが工房ではとても作業にならず,少々間が空いてしまいましたが----

 63号唐木屋,修理を開始いたします。

 例によって----

 1) 保存状態がやたらと良い。
 2) 使用痕がほとんどない。
 3) 一見,糸張ればそのまんまで使えそう。

 ----という感じの 「キレイな古楽器」(ふるがっき) というものには,かならずいやらしいアクマが棲みついております。
 「道具」というものは本来,メンテナンスをしながら使うものです。
 包丁や鑿なら砥ぎますし,ノコギリなら目立てします。筆だって使ったら洗うでしょう?
 そのように道具がちゃんと 「道具として使われてきた」 場合の故障は,いくらでも「直す」手段があるのですが,日常的なメンテナンスもない状態での 「使われていない道具」の故障や不具合 というものは,ほとんどの場合,さかのぼってはじめから作り直したほうがよっぽど早いようなことが多く。ちょっと前の鶴寿堂みたいに,作業がどーんと進んでからとつぜん,ふつう修理者が思いもしないようなエラい状況が発見されたりするので,庵主としては今回も,ちょいとヤな予感に身を震わせておりますですあなかしこ。(w)

 まずは小部品の除去と分解を。
 棹上に残ってるのは山口さんだけ,胴体のほうはフレットとお飾り類です。
 いまのところ半月の接着はだいじょぶそうですね。こないだ同じ製造元のぼたんちゃんが,オリジナル接着の半月ふッ飛びで帰ってきたばかりですが,さてこやつはちゃんと保つのかな?----作業しながらちょっと見守ってゆくことといたしましょう。
 工房到着時はついてたんですが,調査でいぢくッてるうちに蓮頭はとれちゃいました。接着面を見るとニカワが劣化して白くポロポロ……ほかの部分の接着が少し心配になってきましたねえ。劣化したニカワをこそぐため棹先端に濡らした脱脂綿を一枚,あとは細切りにした脱脂綿で山口の底部にぐるりと囲みます。

 バチ皮はでんぷん糊----「そくい」かな?
 しばらく濡らしたらペロ~っとハガれてくるんで,あとは残った糊をこそげればおしまいです。

 柱間のお飾りとフレット,山口なんかは10分ほどではずれましたが,頑丈にがんばったのが胴左右のニラミ----今回のは意匠が少し細かいので,接着剤のついてる部分が多いんですね。途中から,水がより細部まで行きわたりやすいよう,小さく千切った脱脂綿をお飾りのスキマに詰め込みました。2時間ぐらいふやかしたところで,周縁のわずかに浮いてるとこにクリアフォルダを挿しこみ,しごいてこそげとります。

 接着はすべてオリジナルでした。最期にニラミでちょっと苦労はしましたが,ボンド類での再接着箇所とかがなかったので,そのへんはラク。
 さすがは老舗・唐木屋。この楽器についてある程度 「分かって作ってる」 ので,基本的にメンテナンスの時はずせるものはちゃんとはずれるように組まれてましたね。

 つづいて板を片面ハガして内部の確認をします。

 表板も裏板も,天地の側板部分を中心に同じくらいハガれてるんですが,後々の作業を考えると,やっぱり裏板をハガすほうが無難かと。
 すでにはがれている部分に刃物を挿しこんで,ぐるりと回してゆきます。ふつうは最後に,内桁から板を剥がすため曲尺をつっこんで挽いたりするんですが,今回は胴体の縁を一周したら「パッコン」と音がして,あっけなくはずれてきました。

 内桁の裏板がわの接着面にホコリが……板のほうにも…ついてますね………
 これ,もしかしたら製造当初からちゃんとくっついてなかったんじゃなかろか?

 さてでは,内部の観察とまいりましょう----

 内部構造は二枚桁で,上桁がやや中央がわに寄り,一番上の空間がいちばん広くなっています。二枚の桁は完全な平行にはなっておらず,下桁がわずかに傾いて,画像だと左がわのほうがほんの少しだけ広くなっているようです。

 同じ関東の作者では,石田不識をはじめ,ここはほぼきっちり平行なことが多いんですけどね。

 二枚の桁が平行になっていないこの内部構造は,関西の「松派」の楽器の影響だと庵主は考えています。「松音斎」や「松琴斎」など,名前に「松」のつく大阪の作家…いままで何面か修理してきましたが,卑近だと50号フグの「松鶴斎」なんかもそうですね。
 「松派」の楽器では唐木屋のと同じように,二枚の桁を平行ではなく片がわをわずかに広げて配置しています。構造としてそのほうが安定している,とかいうことはありませんので,おそらくは長い弧線を胴内におさめるための工夫であったとは思われますが,これは彼らと唐木屋の楽器のほかではあまり見られない内部構造です。

 このほかにも唐木屋の月琴は,彼らの作る楽器と寸法や構造がきわめて似通っています。たとえば前にも書きましたが,関東の月琴は渓派の影響で棹がやや長く,第4フレットが棹上に置かれていることが多いのですが,唐木屋の月琴はここも関西準拠で,胴体の端に置かれていることが多いですね。

 上下桁ともに,胴体との接合は木口と内壁の単純な接着によるもので,内桁を固定するための溝や補助材はついていません。

 上桁は薄く厚さ5ミリほどしかありません。下桁は8ミリありますが,加工が粗く板の表裏がちょっと不均等に凸凹してますね。
 上桁は棹茎のウケ孔を中心に左右に音孔,下桁は中央に長く一本貫いてますが,どちらもまあ見事にテキトウな切り抜き加工。ラインはヨロヨロ,孔のフチがガタガタです。

 上にも書いたように内桁と裏板の接着は雑で,へっついてなかった部分のほうが多いくらいでしたが,表板がわとは全面かなりしっかりと接着されており,こちらにハガれているところもハガれそうな気配のあるところもありません----上下桁ともに胴材との接合も剥離しちゃってますから,この楽器は正直,この部分がついてるってだけでなんとかカタチを保ってた,という状況ですね(w)

 響き線は鋼線。線の太さは0.8ミリくらい。
 楽器正面から見て左がわ,上桁の下に基部を置いて,そこから弧を描き,先端は上桁の音孔から少しつき出ています。

 基部はサクラの木片で,側板の内壁と表板に接着されていますが,裏板からは6ミリほど離れ,上桁との間にもわずかなスキマがあってくっついてはいません。

 いままで扱った唐木屋の響き線は,これまた松琴斎などの楽器と同様に,根元のところでぐいッとキツく下方向に曲がり,下桁に近づいてから横方向へゆるくカーブしてゆく----そうですね~旧ソ連の国旗に描かれてた山鎌(下画像参照)みたいなカタチ----になっているものが多かったんですが,今回のようなカタチは庵主ハジメテ見ましたね。

 これまで見てきた唐木屋の響き線と比較すると,アールが浅くちょっと中途半端で不格好な感じがします。
 演奏姿勢に立ててみますと,いちおう機能はしてるんですが,振幅の三回に一回ぐらいは先っぽがどっかに当って止まっちゃったり,上桁の端に刺さっちゃったりしているので,正直「響き線」としてマトモに働いてた感じはありません。

 航研機の木村先生もおっしゃってるとおり,「機能」と「美しさ」というものがあるていど連動してるってのは本当ですわい。

 この響き線は,基部の木片に孔をあけて線の根元をつっこみ,短い竹釘で止めてるのですが,この時,竹釘を固定する目的か,余計な心配からか,根元にニカワをたっぷりと盛ったらしく。そのせいで現状,響き線の根元が朽ちてしまっているようです。アートナイフの刃先でちょっとコスったら,モロモロとどこまでも削れてしまいました。

 響き線のほか大部分は,それほど酷いサビつきもなく健全なほうなんですが……こりゃどッちにせい,ほじくり出して付け直してやらんとイカんかと。

 側板の接合部は4箇所ともにトンでますし,内桁も左右がはずれてます。おまけに調査でいぢってるうちに地の側板もポロリしちゃいました。蓮頭接着部のこともありますので,保存環境に,ニカワにキビしい何かしらの問題があったろうとは推測されますが,こちらははずれた痕がやたらとキレイ。これは使用したニカワが薄すぎたか,もともとの接着作業が雑だったんでしょうね。

 そのほか,内部構造で書いておくこととしましては書き込みでしょうか。大したものはありませんが,上桁と表板ウラなどに指示線がいくつか,あといちばん上の空間右手に大きく「62」に見える数字が書かれています。

 うむ…どう見ても「62」なんですが,たしか棹なかごに書いてあった数字は「12」だったかと----シリアルだとするとどっちが正しんでしょうねえ?

 書き込みはかなり薄めかすれ気味ですが,どれも墨線。ただし,線に沿って少し圧による筋が見えますので,おそらくはこれらは筆でなく,竹や木を削いだ道具……たぶん 「墨さし」 によるものだと考えられます。

 板中央に「こっちがウラ面」というつもりで付けたと思われる,圧縮痕による目印があるんですが,これもおそらく同じ道具によるもの。墨を付けないで使ったんでしょう。

 楽器職や指物屋なんかの人が使うのはもう少し線が細いのですが,この楽器についてるのは,大工さんが家の柱の加工とかで使うのの太さそのまんまですね。加工が大雑把なこともあるし…この楽器作ってた人は,大工さん出身のニワカ楽器職だったのかな?----なんてことも考えてます。

 はやいろいろと問題は出てきたものの,とりあえず内部構造の確認まで終わりましたので,あと詳細の確認は,恒例のフィールドノートでどうぞ----

 ***画像クリックで別窓拡大***


(つづく)


月琴WS@亀戸 6月場所開催日変更!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2020年 月琴WS@亀戸!6月場所,開催日27日に変更!!


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 6月 のお知らせ-*


 ※※※※ ATTENTION! ※※※※

 2020年6月の月琴WSの開催日は,事前に予告の 20日 から,翌週の 27日(土) へと変更になりました!
 参加予定の方々,ご注意ください。

 ※※※※ ATTENTION! ※※※※

 コロナコロコロどう転がるか分からない中,
 5月の会に御出でいただいた方々,
 まことにありがとうございました。


 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費は無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼下りのとぅるとぅ~開催。

 美味しい飲み物・お酒におつまみ,ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか阮咸とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。相談事は早めの時間帯のほうが空いててGoodです。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 62号・64号の修理は完了。
 例によってお嫁入り先募集中。
 ご思案の方は,連載中の修理報告などご参考になさってください。
 まだ嫁入ってなければ持ってゆきまあす。

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

鶴寿堂4(終)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 鶴寿堂4(6)

STEP6 昼間助けていただいたツルはルルイエへと飛んでいった,いあいあ。

 およそ2ヶ月ぶりに胴体が箱に戻った鶴寿堂4。
 さあて,仕上げますか!

 まずは胴側面。
 飾り板はオリジナルよりもはるかにニカワ少なく,精密かつ均等に胴側本体にへっついております。そのため,元は浮いていたところや,ニカワで増量されていたところなどは,へっこんだぶん板縁が余っておりますのでこれを削り落とし,側面を面一にします。

 表板はほとんどオリジナルの状態のままですし,裏板もいつもよりきっちりギリギリの位置でもどしてますので,削られるぶんはさほどもないですね。
 飾り板の表面にまだ補修の痕が残ってますので,そこもいっしょに均して磨いてしまいます。

 #400くらいまで番手を上げたところで側板をマスキング,表裏板の清掃に入ります。

 そんなに汚れては……うむ,意外と汚れてましたね。
 汚れかたが全体に均等なので気づきにくい手合いかな。

 表裏清掃が終わったところで,再接着の時にがんばってくれたガイド孔を埋めます。桐板の端材を削って細い丸棒を作り埋め込みました。
 よーく見ると気づくていど。補彩もしておくので何年かして色があがってきたらほとんど分からなくなるんじゃないかと。
 表板も半月剥離の時についた小さなエグレなんかを埋めておきます。

 表裏板がキレイになったところで,今度は板の木口のほうをマスキング。
 飾り板にサンディング・シーラーをかけます----ツヤッツヤですなあ。
 翌日表面を削り直し,#1000くらいまで磨いたら油拭き・ロウ仕上げ。

 半月も表面をシーラーで固めてからとぅるッとぅるに磨き上げます。
 うん木目が清々しい。
 いい木には飾りなんていらんのです。
 エラい人にはそれが分からんのです!

 さて,棹を挿して半月の取付けです。

 オリジナルの状態で山口にはいちおう糸溝がついてましたが,なにやらお情けていどの刻みで,浅いわ左右のバランスも変だわだったので,木粉パテでいちど埋めこみ,新たにちゃんとしたものを刻み入れます。

 糸を張り,新しい中心線を決め,左右のバランスを考えながらの位置決め……まあ結局ほぼ原位置に落ち着きましたが(w)

 この楽器の半月は位置が板縁からやや離れているため,庵主の家にあるクランプ類では届かず,直接押さえつけることができません。
 さてどうするか?

 ----こうしましょう。

 あらかじめ,半月の裏面と接着面はよく湿らせ,ゆるめに溶いたニカワをふくませておきます。
 つぎに半月を取付け位置に置き,当て木で固定。
 そして,その上にコルクをのせ,柔らかめの板をその上に渡して,左右端をクランプで固定します。

 この楽器の胴表裏は浅いながらアーチトップ・ラウンドバックになっているので,この半月辺りも微妙に平らではありません。オリジナルの工作で左右端が少し浮いていたのは,原作者が自分でやっておきながらソレを忘れてたせいですね。
 今回は半月裏の接着面の真ん中をわずかにくぼませてますし,この方法だと半月の左右端に均等な力を加えられるので,前よりはちゃんとつくでしょう。

 半月さえついちゃえば,あとはもうハナシが早い----

 オリジナルのフレットは竹。

 煤竹ですらないふつうの晒し竹,白竹ですね。
 7枚残っており,加工も悪くはありませんが,さすがにちと安っぽい。
 ほかの部分はけっこういい材を使っているのになんでここだけ,って感じもしますし,未来へのお土産に,ちょっといい材料で一揃い作ってあげましょう。

 ひさびさ,黒檀の黒フレットでいきます。
 全体的に色味の淡い楽器ですので,かなり映えるかと思いますよ。

 端材箱から縞黒檀の角材を発見。
 マグロや青にくらべると,黒檀の中では下のほうの扱いをされる材ですが,くっきりした縞模様は逆にこれにしかない持ち味ですよね。もちろん,フレットの材料としての強度や質に問題はありませんが,庵主のとこにある材料ですから,とうぜんそんなに高いもンではありません。割れが入ってたんで切り捨てられた部分ですね。実際,素体作りの段階で何枚かそっから割れちゃいましたが……もちろん継いで使います。ムダは出しません,モッタイナイ。
 ちなみに加工の時に出た削り粉も,修理の際につかうパテの骨材になるためとってあります,エヘン(端材不可捨病膏肓ニ入ル,ともいう)

 で,糸を張ってフレッティング…………あれ?
 なんでしょう,ヘンですね。
 指板の歪みは直しましたし,あれだけ事前に棹と胴体のフィッティングをやって,棹と胴体はピッタリのはずなんですが……糸を張ると,棹が微妙にねじれやがります。

 これじゃフレッティングどころじゃありませんね。
 急遽棹をはずし,あらためて調べてみたところ----

 これですね,これ。
 ここ,スキマはあったもののそれほど大きくもなく,部品同士はいちおうちゃんとくっついているんでそのままにしておいたのですが。
 このスキマが意外と悪者だったらしく,糸を張るとこのぶん傾いてわずかに棹を浮かせてしまっていたようです。
 カヤは針葉樹としては硬いほうですがしなやかさもあるので,このくらいじゃ割れたりハガれたりしないんですねえ。

 お湯とニカワを流し込み,薄く削いだ板をスキマきっちりに打ち込んで,クランプで固定。
 くそーちくそー,この期に及んで原作者の奴。
 大事な場所なので,用心のため二日ばかり間をおきました。

 二日後,ふたたび糸を張ってテスト。
 うん,こんどはかなりキリキリに張ってもビクともしません。

 さっそくフレッティングを再開。
 オリジナル位置での音階は----

開放
4C4D+354E-464F+134G+404A-315C+255D-5Eb5F+41
4G4A+314Bb-4B5C+45D+225E-465G+115A-5Bb6C+7

 うわ…かなり波瀾に富んでますね。
 そもそもこの楽器が原作者の「若作り」実験的な楽器らしい,ということはすでに述べましたが。ほかの楽器と違うところは,このフレットの配置にもあります。第4フレットが棹の上なんですよね----前にもちょっと書きましたが,これは主に関東の,渓派の楽器の特徴で,連山派の強かった関西では唐物月琴と同じく,胴の上,棹との接合部ギリのあたりにあることが多い。前に扱ったバラバラ鶴寿堂も22号も,第4フレットは胴体上にありました。
 じゃあこれは渓派の楽器として作ったものか,と言うと……この音階のバラけ具合だとちょっと信じられませんね。清楽の音階をちゃんと理解してなかったのか,あるいは実験したせいなのか……いや,むしろ 「デザインまずありき」 で組んだ結果だとか言われたほうがまだナットクがゆきますね。
 ただ最低音オクターブの高音弦3と最終フレットの音はほぼ合ってますから,完全にテキトウ,というわけではなさそうですが。

 このあたりも最初の持ち主がちゃんと使っていれば 「ちょっとォ!コレ音がぜんぜん合ってないじゃなぁい!」 とかクレームがついて,ある程度は直されてたんでしょうがね。

 原作者のフレットは糸が切れちゃうんじゃないかと思うくらい,頭が尖ってて薄いのが特徴。
 計測作業の後でさらに削りこみ,庵主のフレットもいつもよりは先端薄作りでまいります。
 フレット頭を尖らせると正確な音階がとれ,運指に対する反応が敏感になりますが,反面音の深みや柔らかさはなくなります。指先の感触的な好みもありますが,庵主は若干尖ってるほうが個人的には好きです。

 計測を終えたフレットは,#1000まで磨いてラックニスの瓶にどぼん。1時間ほど漬け込み,三日ばかり乾燥させてさらに磨きます。

 完成したフレットを,最低音4Cの西洋音階に近い配置にたてなおして接着----シマシマ…うちゅくすぃです。

 続いてお飾り類。

 同時修理の62号と同じく,この楽器のお飾りも唐木製です。
 やや大きめなのと,62号ののようなちょっとした工夫(反り防止)がされてなかったため,右のニラミの端が反ってしまってます。62号のニラミを参考に,裏面に切れ目を入れてから接着します。

 まずふつうの手段(w)で固定してから,クリアフォルダの切れ端など使って,浮いてる部分を見つけます。
 浮いてるところに挿しこんだクリアフォルダとお飾りの板のスキマにお湯やニカワを含ませた筆を当てると,表面張力か何かしりませんが,そんな力(w)で,ニカワがお飾りの裏に吸い込まれてゆきます。

 何度かやってから,クリアフォルダをそっと引き抜くと,ただ筆で垂らしこんだ時みたいに余計なところには散らばらず,お飾りの裏だけに接着剤を広げてやることができます。
 62号同様,丈夫な唐木のお飾り,やや厚めですので,今回も浮いてる場所はクランプかけてガッチリおさえこみ,再度接着!

 バチ布はオリジナルのものを。

 フレットやお飾り類をはずした時いっしょにハガし,裏打ちをしなおして,いままで板にはさんでおきました。

 多少傷んでますが,端のほつれたあたりを少し落として貼りつけます。
 ここはニカワじゃなく,ヤマト糊ですね。

 62号・64号に遅れること一週間。
 2020年4月30日,
 明治二十五年十月,名古屋市上園町
 鶴寿堂・林治兵衛作,銘「燕花林」
 ----修理,完了!!!!


 最初の最初のほうで言ったとおり。
 今回手がけた4面のなかで,いちばんキレイで保存状態の良かったこの楽器が,ハンガーアウトはいちばん最後。
 キレイなバラにはトゲがある,キレイな古物にゃ悪魔が住みます。(w)

 未使用放置品であるゆえの,使い込まれた楽器ではありえない初期不良のこじれた故障。かてて加えて原作者のやらかす,なかなかキツい厨二病的工作加工(w)。

 いままで扱った彼の楽器の修理では 「ああ,接着がヘタだよなあ」 くらいの印象だったんですが,林治兵衛……「向こうにいったらゲンノウで殴りたいリスト」に載せときましょう。

 とはいえ----何度も書いてるように,庵主,この人の楽器はキライじゃありません。
 切った削ったの木の仕事の腕前は確か…というより相当高い技術力を持ち,棹背のラインやお飾り見ても分かるように美的センスもかなりなもの。内部の書き込みからも分かる通り,漢文やら漢詩やらにも通じてるようですしね。清楽家とのつきあいもけっこうあったのでしょう。

 前回も書いたよう,この楽器は鶴寿堂・林治兵衛の実験作であった可能性が高いと思います。まあ庵主のウサ琴みたいに,とくに「実験しよう」と思って作ったわけではなく,ふつうに作って売ってたうちの1面だったとは思うんですが,ちょうど「こういうことをしたかった」時期に作られたものだったんでしょうねえ。

 音にはなにも問題がないです。
 音量・音圧の面では多少物足りないところもあるかとは思いますが,カヤの胴体と柔らかな真鍮の響き線の紡ぎだす余韻はやわらかくあたたかく,聞いていて気持ち良くなる音ですね。
 響き線を二本入れる,という工夫は,ほかの作家の楽器でも時折見られるのですが,上下に真鍮線を方向互い違いに入れた彼の構造は,そのなかでは数少ない成功例のひとつです----たいていは「やってみた」だけで,効果がまるでないのが多いんだよなあ。

 操作性の面では,糸巻が細すぎるのがまず欠点ですね。
 握りが細く若干力を入れにくいうえ,先端も細すぎ,材質的な強度にも多少不安があります。実際,ほかの部分はほとんど損傷がなかったのに,糸巻だけ1本欠損,1本は先端が欠けてましたしね----あんまり無理してねじ切るような操作はしないほうが良さそうです。

 細い,ということは,糸巻を支える摩擦面が小さい,ということでもありますので,音合わせの時,糸を巻き上げてすぐ手を離すと,張力に負けて糸がもどりがちです。調弦の際,チューナーの針がピッタリのとこに来ても,糸巻は押し込んだまま一息二息,しばらく手を離さないでいてください。

 補作の糸巻のほかに,先端の欠けてたオリジナルも補修して,予備の糸巻としておくことにします。まあこれでポッキリポッキリ逝くようなら,ツゲとか黒檀とか,この太さでも壊れないような素材で作り直すくらいしか手がありませんなあ。(泣)

 あと棹背の曲線はこの人の楽器の特徴であり,いちばんの美くしい部分でもあるんですが,この楽器ではちょっとやりすぎちゃったらしく。うなじの下あたりで太さが2センチありません。
 そのため他の人の楽器で慣れてる人がいつもの調子で弾くと,低音部で指が糸に届かない----スカっと空振り(w)----みたいな事態が起きます。
 また,ここを細くした影響で棹背のアールが全体にややきつくなっており,とくに低音域から高音域へと手を滑らせた時,一瞬,演奏姿勢が崩れ気味になることがあります。

 いづれもあらかじめ分かっていれば,また楽器に慣れてしまえばさほどの問題になるものではありませんが,いちおうご注意までに。

 姿も音も美しい楽器です。
 長く大事に使ってください。


(おわり)


月琴64号(終)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 月琴64号 (5)

STEP5 サリーちゃんのともだち

 月琴64号・初代不識。
 胴体のほうはすでにがんじょうな桶----水入れてもたぶん漏れませんね,こりゃ。前回棹も仕上がったことですし,裏板のついてない今のうち,まずはてって的に胴体とのフィッティングをやっておきます。

 棹基部で延長材を継いだ一般的な構造だと,胴体が箱になった後で,棹の角度などに大幅な修整が必要となった場合でも,延長材をはずしてかなり大胆な調整が可能ですが,糸倉から棹なかごまで一木造りの不識の棹では後からの調整が難しいので,いざとなったら内桁の棹孔までいぢれるこの状態で棹と胴体の接合具合を確かめておくのが得策です。

 同時進行でやっておくことのひとつめは裏板の補修。

 表板よりは少ないものの,こちらもやはり下縁部----補作の側板がついていたあたり----を中心にクギ打ちの痕やヘコミなどがあります。まずはこのあたりを重点的に。
 つぎに中央付近に虫食い由来の割れがありましたので,ここから切り離して2枚に。せまいはぎめの木端口にうねうねと広がっていた虫食いは,木粉パテで埋め込んでキレイに均しておきます。
 あと,右肩のあたりに10センチほどの割れがありました。
 ここは虫食いではなく,板の収縮によってはぎめが裂けたもの。少しせまいので,細い三角形に切り広げてから埋め木を押し込みます。

 板裏のヘコミやキズも見つけたら埋めて均しておきます。

 同時進行ふたつめは半月の製作です。

 オリジナルの半月も直せば使えないこともないのですが,糸孔のところの損傷が厄介そうですし,材質や加工などの面から,これも地の側板同様,後補部品である可能性もありますので,もうちょっと良い材料で作り直してあげようかと思います。


 とまれ,この半月を不識のほかの楽器と同じように唐木のムクで作るとなるとフトコロ具合的にタイヘンですし,元ついてたのと同じホオやカツラで作り直すのも味気ないので,庵主はちょうどその中間をゆくことにしましょう。
 材料はカツラと黒檀の板。カツラの土台の上に黒檀の板を貼りあわせ,半分に割ったプリンみたいのをつくります。
 半月の上面,楽器前面に向いた部分は本物の唐木。側面さえうまく誤魔化せば,ちょっと見,ぜんぶ唐木で出来てるように見えるでしょ?

 半月の下縁部が面取りされて角ばってるのが,不識の月琴の半月の大きな特徴の一つなんですが。この加工,やってみると意外にタイヘンですね。
 削りが足りないと角がピンと立たないし,一面削りすぎるとほかの面にも影響が出ちゃう----いやいやどうして,けっこう繊細な作業です。
 正直,ふつうの斜面にするか全体をなだらかな曲面にしちゃうほうがよっぽどラクですわい。

 形が出来たところで,裏中央を櫛げに刻んでポケットになる部分を作り,糸孔を二重にして骨で作ったパイプを埋め込みます。
 この骨パイプ,径5ミリ----骨材を丸く削って孔をあけただけのシロモノですが,なにせ小さいので作るのがそれそこタイヘンです。今回もこれだけの部品に4時間くらいかかりましたかね。

 半月側部,プリンみたいな二重構造が見えちゃってる部分には緩めたエポキを塗って,表面補強かつシーラーとし,その上からスオウで赤染め。黒ベンガラとオハグロで黒染めをほどこし,カシューで固め,黒檀の上面部分を平らに砥ぎだしますと-----

 ----じゃん。

 ちょっと見には元プリンだと分からない物体となりました。

 部品がそろったところで,まずは裏板を接着。
 接着後,二枚の小板のスキマにスペーサを埋め込み,整形します。

 補作の地の側板は若干厚め大きめに作りましたので,この時点では板縁から最大で2ミリ近くハミ出てるところがあります。
 ただ,表板はほぼ柾目だったのでさほどではなかったんですが,裏板はあちこちにフシ目のある低質な小板をはぎ合わせたため,表板より縦方向の縮みが大きかったらしく,このまま表板に合わせて削ると,板端に一部足りないところが出来てしまうことが分かりました。

 といってもまあ,1ミリあるかないかといった段差なのですが。あるていど削ってから,へっこんでしまいそうなあたりに,補材を足しておくことにしました----桐板の端材を木目の方向に合わせて刻み,接着面の木口を平らに削って貼りつけます。
 この状態で,地の側板を中心に削り込み,側面を面一に。

 板の縁が均等に削られ新しい面が出たところで,側板をマスキングして表裏板を清掃します。
 表も裏も見事に真っ黒ですからねえ~やりがいがありますヨ。(w)
 あとこれだけ色ついてますと,清掃の時出た汁を補修部分になすりつければ,一次的な補彩になって目立たなくなりますんで,それはそれで有難い。

 重曹を溶いたお湯をShinexにふくませてゴシゴシ----
 不識の楽器は染めに使ってるヤシャブシが濃く,砥粉も多めなので,10分もしないうちにお湯は真っ黒ドロドロです。

 二日ばかり乾燥させたら,こんどは表裏板の木口をマスキングして側板を染めてゆきます。

 まずはスオウで赤染め。
 ミョウバンで発色させ,鮮やかな赤色になったところで,オハグロで黒味をつけ,ムラサキから深みのあるダークレッドに。

 表面に浮いた余計なオハグロを,亜麻仁油で軽く拭いながら染めを定着させ,カルナバロウで磨いて仕上げます。
 補作の地の側板以外はそんなに削り込んでないんですが,接合部をしつこいくらい補強した甲斐あって,側面はいまやほとんど一本の輪----光の加減によっては継ぎ目も見えなくなりますね。

 胴体と同時進行で,棹も同じ色に染めました。

 こちらは糸倉のあたりを若干黒っぽく,紫檀の指板は染めずにそのまま。磨いてラックニスをはたいて仕上げます。

 糸巻は蓮頭や半月側面と同じく,スオウ下地のベンガラ・オハグロによる黒染め。亜麻仁油と柿渋で仕上げています。

 山口はオリジナルのがしっかり残ってますのでこれを取付け,棹を挿して楽器の中心線を計測。黒檀コンパチな補作の半月を取付けます。

 一度糸を張ってみた結果,山口がわのほうがわずかに弦高が低いせいで,4~5フレットあたりで音に狂いが出ることが分かりました。
 月琴の棹は低音域での音響効果のためフレットを高くするのと,弦の張力への対抗として楽器の背側に傾いています。トップナットである山口の高さは本来,この傾きを考慮したうえでいちいち決められるべきなのですが,量産期の楽器は数をこなすため,同じ規格で作られた部品を組み合わせて作っているので,これはよくあること。
 煤竹のゲタを噛ませ,半月がわの弦高を1ミリ下げて対処します。

 フレットもオリジナルが7枚残ってます。こちらで作るのは最終第8フレットのみ。オリジナルのは使用によってちょっと上面が削れちゃったりしてますが,半月にゲタした影響でもとよりいくぶん弦高が下がってるんで問題ありません----いやむしろおかげでピッタリ----かな?

 オリジナル位置での音階は----

開放
4C4D+124E-24F+54G+114A+195C-5C#5D+255F#-33
4G4A+64B-215C+25D+35E+25G+105A+186C#-49

 5フレット以降にやや乱れがありますが,これは上に書いたよう元の弦高設定だと,このあたりからピッチに狂いが出てたはずですのでその影響でしょう。

 お飾りは,柱間のコウモリさんの羽根が片方欠けてます。まずはこれを修復。

 左右のニラミは色が褪せていたくらい。修復したコウモリさんといっしょに染め直しました。

 一気に組上げます。

 2020年4月24日,
 初代不識・神田錦町石田義雄作の月琴一面,修理完了!

 最初見た時は----表裏真っ黒,板ボロボロ,棹と側板にはナゾの塗料がベットリ,端にはクギまで打ってある----と,まあ。正直,だいじょぶかなコレ?という状態だったんですが。

 直るもんですねえ。

 しかし考えてみますと,完全になくなっていた部品は糸巻くらいなもので。
 山口やフレット,お飾り類は,一部壊れてはいたもののほとんど揃ってましたし,内部や棹,糸倉にも部材単位では深刻な損傷がなく。
 地の側板が補作だったことを除けば,想定外の事態のほとんどない,順調な修理でした。

 塗料は削り落とせばよかったし,クギ打ちの処理なんかもやることをやればイイだけでしたしね。

 指板に紫檀の良材を貼り,半月も数割が唐木(w)。いちど完全に分解し,ゆるんでいた側板や内桁の接合を強固にしたうえ,さらにガッチリ補強してありますし,棹や弦高の調整もかな~りしつッこくやっております。多少手前味噌ではありますが,おそらく現時点ではただの量産型だったオリジナルより良い楽器に仕上がっているかと。(www)

 庵主のつけた銘は「涼葉」。

 不識の月琴は棹やや長く,胴も薄く大きいため,運指の感触や構えるポジションが一般的な作の月琴と少し異なり,操作性にちょっとクセがあります。

 そのあたりのクセがバッチリはまると,けっこうなパフォーマンスを発揮するんですが,合わないとちょっとしたジャジャ馬。乗用車というより,レースに特化したスポーツカーとかF1みたいなもので,ギリギリな工作に起因する多少余計な手間もかかります。

 庵主は最初に出会った月琴が不幸にも(w)この人の作だったせいで,かなり慣らされちゃいましたが,さて,あなたはどうなるか?
 まあ,楽器は音を出すための道具。合うものを使うのがイチバンだと思いますが。
 吾と思わん方はどうぞご連絡を----お験しのご要望も含めて,絶賛お嫁入り先募集中であります!


(おわり)


月琴62号清琴斎(終)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 月琴62号 (5)

STEP5 黒の戦士--最後の戦い!

 この楽器は,胴体に損傷らしい損傷や加工上の問題がなかったので,棹さえ直ってしまえば,あとはルーチン----なくなってる部品を補充してあげればよいだけです。

 まずは糸巻。
 ここまでの調整は他の楽器の糸巻を借りてやってましたが,4本,新しいのを削りましょう。

 清琴斎の糸巻はこのころの楽器としてごくごく一般的な形状,六角一溝で,量産化のためか,少しだけ短めで11センチくらいです。
 同時進行の不識や鶴寿堂の糸巻と比べるといくぶん太めですね。
 ----というか,あッちが細すぎるンじゃ。(w)

 今回は棹が後補で軸孔も開け直したもの,孔それぞれが完全に同じ寸法,とまではまいりませんので,それぞれにきっちり合うよう削りました。

 糸巻の先端にはシルシが入っており,どれがどこに入るのか分かるようにしてあります。いちばん下から1・2本線,3つめは無印でいちばん上はX印です。

 スオウ下地のベンガラ・オハグロで黒染めし,柿渋と亜麻仁油で定着させます。

 不識の糸巻より,握りの帽子の部分が浅い。でもこのくらいのほうが当時の月琴界(w)では多数派ですね。

 おつぎは蓮頭----うちに届いた時にはなくなってましたが,棹のてっぺんにはニカワがついてましたから,オリジナルの棹が交換されたあとも,なんらかのものが貼られていたとは思います。このクラスの清琴斎の楽器だと,

 ----こんな感じのがついていたかと思うんですが。
 まあ,時節流行にのりますか。(w)
 祈願もこめまして----

 アマビエ様!
 こう,海からドバーンと出現!----みたいな感じで。(w)

 彫りあがったビエさまは,スオウとミョウバンで僻邪の赤に染め,
 ベンガラで不穏な黒靄をムラムラにまとわせてから,
 破邪漆黒の黒へと仕上げます。

 うむ,思ったより色モノっぽくなりませんでしたね。
 ただまあ,数年後にこれが何だか分かる人がいるかどうか(w)

 おつぎはフレット。
 オリジナルが5枚無事で加工に問題もありませんので,新たに作るのは棹上の3枚だけ。

 ここはワンちゃんのおやつ,カットボーンで補作。
 だいたい板状のところまで加工してくれてるんで,従前,骨まンまから切り出すのよりははるかにラクですが,硬いですからねえ,手工具だとそれなりにタイヘン。
 ヤシャブシで染めてロウ磨きで仕上げます。

 山口はオリジナルのが残ってますので,これを取付け----この部品,いまは白いですが,最初汚れて真っ黒だったので,洗うまで黒い唐木製のものだと思ってました----糸を張って音階計測開始です!
 棹上の目印は整形作業で消えてしまいましたので,フィールドノートを頼りに原位置にエンピツでシルシをつけます。
 まあそもそも棹自体が後補別人の作ですので,計測結果がどこまで当初の楽器のそれに近いのかについては疑問が残りますが……

 オリジナル位置での音階は----

開放
4C4D+404E-204F-284G+144A-35C+145D+285F+19
4G4Bb-484B-285C-335D+85E+155G+45A+116C+17

 うむ…もうシルシつけてる時点で思いはしたんですが----第1フレットの位置がヘンです。半月がわに寄り過ぎ,半音近く高いです。第3音が西洋音階のドレミより20~30%低いのが清楽器の特徴ですので,第2フレットの音はこれでヨイ。
 ただそれに釣られた感じで第3フレットの音も3割ばかし低くなってますから,これは明笛などほかの清楽器の音を参考に位置決めをしたわけじゃないようですね。5度の第4,オクターブの最終フレットはだいたい合ってますので,完全にテキトウというわけでもなさそうですが。

 さて,部品は揃いましたね。
 まずはフレットを最低音4Cの西洋音階に近い配置でたて直し,接着します。

 柱間の飾りと左右のニラミはオリジナルのまま。
 かなり質が良く,丈夫な唐木製なのでキズもほとんどありません。

 裏面,花の部分の中心に刻まれてるスジは,反り防止のためのものですね。このあたり,木使い…いや気遣いがしっかりしております。
 軽く油拭きするだけで元通りのしっとりツヤツヤです。

 剥離の時割れちゃった中央飾りは修復済。胴上に日焼け痕が残っておりレイアウト的にも問題はないので,どれも元の位置に戻すだけですが。
 左右のニラミなどは唐木製,通常の方法で接着してから,部分的に浮いちゃってるようなところを,クランプなどを使ってガッリリおさえこみ,再度接着しています。
 硬い素材でできており,通常のお飾りよりいくぶん厚めなので,浮いたところがあると変なビビリの発生源ともなりかねませんし,ハガレが出た時,ここまでの接着は器具がないと出来ないでしょうから,次の人が困らないように,しっかりやっておきます。

 いつもは悩むバチ布ですが,
  今回は蓮頭をアマビエさまにした時点でこれに決まりですね!

 「荒磯」----蓮頭が浜辺ならここらは水中,半月を海底といたしましょう。

 そんなこんなでコロナ禍騒動のただなか
 2020年4月23日,
 月琴62号,浅草蔵前片町清琴斎二記・山田縫三郎作,修理完了!

 棹が後補だと分かってから後の展開がけっこう怒涛でした。
 とくにあの糸巻の配置は……はじめてのことでしたので目を疑っちゃいましたよ。
 多少慣れてない感はありましたが,工作自体はそんなに悪くなかったし,見た感じ,たいした問題もなさそうだったんですが。
 あとでフィールドノート見たら,数字はちゃんと物語ってましたもんねえ。
 いやいや,庵主,さんすうが不得手なもので 「数字のコトバ」 が届かなかったのですよハイ----ええ,反省してもうちょい勉強します。(汗)

 さて。
 一般的な清琴斎の月琴の,楽器としての評価はだいたい「中の上」くらいです。
 工作は精密ですし見た目も悪くない。

 操作性にクセはなく,音もそこそこ。
 よく言えば「万人向け」なんですが,ふだん,ピーキー気味ながらポテンシャルの高い不識の楽器なんか使ってる庵主としましては,物足りないところがナイでもナイ----そんな感じです。

 今回の楽器は,お飾り類がけっこう良い唐木で出来てたあたりから見て,清琴斎の月琴としては高級品の部類に入るものであったと推測されます。とはいえ,楽器自体の材質や構造が,量産数打ち品とそれほど違うわけでもありませんが,出来は良い。うちに届いた時点では,うかつに触るのもちょっとハバがカラレルくらい真っ黒でしたが,棹以外は部品の欠損・損傷も少なく,特に胴体は意外と良い状態で保たれていました。

 現状,かなりいい音を出してます。
 そしてなにより弾きやすい。

 楽器のバランスがよく,ヘンなクセもないので,演奏姿勢や運指のポジションが多少違ってても,ちゃんと鳴ります----演奏者に優しい楽器ですね。

 はじめて手にする清楽月琴としてはじゅうにぶん。
 思ってたより良い楽器に仕上がってると思います。ああ…アマビエさまが気になる方は言ってください。(w)何かふつうのに取替えますから。

 お嫁入り先,ぜっさん募集中です。


(おわり)


鶴寿堂4(5)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 鶴寿堂4(5)

STEP5 昼間助けていただいたツルですと手で片目を隠しながら厨二病の彼氏は言った。


 依頼修理の鶴寿堂4----

 古物としては新品同様,使用痕ほとんどなし,欠損部品少なしの優良物件ですが。長年の未使用放置と,原作者の月琴製作者特有の厨二病的シワザの数々のあいまって,思いのほか作業が滞っております。

 とくに後者,いろんなところで細かく細かく入れてきやがりますねえ。(w)

 前回,さて胴体はなんとかなりそう,では棹のフィッティングだ!……と意気込んだとたん発覚した棹の歪み。
 詳しく測ってゆきますと,基部における指板の水平面を基準とした時,指板の右がわが上端から第1フレットの上くらいまで左回転でややねじれ,持ちあがっている状態。

 同時修理の64号不識も同じように指板部分の先端が持ち上がっていましたが,あちらの原因は材料とした木材自体の変形,こちらは糸倉先端側と棹基部がわの二方向から工作を進めたことにちなむ工作不良と考えられます。
 そもそも,これが同じような素材の狂いから生じたねじれだったら,へっついてる,さなだきに薄い唐木の指板がタダでは済まないハズですからね。

 原則的には糸倉左右の垂直面と指板の水平面は90度の関係になってなきゃならないわけですが,どっちかを調整してるうちにズレちゃったんでしょう。
 この場合,糸倉は多少ならどちらかに傾いていても,さほどの支障にはならないので,とにかく指板面を面一で水平にしてくれれば問題は起きなかったんですが,鶴寿堂----

 間をなだらかに削って誤魔化しやがったようです(怒)

 ううむ,ある意味なんと大胆な工作。

 とはいえ弦楽器の常識として,ネックがねじれたままではハナシになりません。
 とりま指板をハガして,指板面を削り直しましょう。

 指板は薄くはありますが滲みこみの悪いカリン。
 濡らした脱脂綿で全面を覆い,ラップでくるんで約1日----

 ハガれた痕を刃物でこそげば…うわあぁあ…なんという量のニカワ。
 たかだかこの面積にこの量,いくらなんでも盛りすぎです。

 さらにこの板,加工がヒドすぎます。
 表面はキレイですが,裏がこれでもかというくらいデコボコ。
 これじゃそりゃ,あれくらいニカワ盛ってスキマを充填しなきゃくつきませんわな。

 棹本体のほうにも少しエグレがありますね。
 どちらも木粉粘土で充填しておきます。
 翌日に軽く整形,上からエタノで緩めたエポキをたっぷり滲ませておきます。
 さらに翌日,硬化を確認してから整形。
 指板裏面の凸凹を均します。

 棹本体は指板の接着部分を擦り直し。時折山口を置いて具合を確かめながら水平面一に削ってゆきます。
 先端での傾きがなくなったところで指板を再接着。
 棹本体のカヤは針葉樹,材に微量の油分をふくんでいますので,いつもより少ししつこめにお湯をふくませてからニカワを塗布します----量は原作者の1/10も使いませんヨ!

 鶴寿堂の棹はいつも見惚れてしまうくらい美しいアールが棹背と左右についているのですが,この作業ではこれがかえってアダとなり,クランプなんかだとこの薄い板をうまく所定の位置に固定できませんので,まずマスキングテープを数箇所に巻いて軽く固定してから,ゴムテープを伸ばしながら巻き付け,しめあげます。最後にさらに輪ゴムをかけてがっちりと固定。
 指板は薄いですし,カヤ材もそんなに硬くはないので,テープや輪ゴムが直接触れないよう,細幅に切った桐板を噛ませてから固定しています。

 用心も兼ねて二日ばかり放置養生してから固定具をはずしました。

 さて,この指板は棹本体よりわずかに幅広に作られています。

 左右にハミ出てるぶんは1ミリ以下,指で触って感じる程度----ではありますが。
 とうぜん指板に合わせて,てっぺんにある山口も,ふくらの部分よりわずかにハミ出してるわけです。

 いちおう元のままに戻したんですが----庵主,考えても考えてもこの工作の意味が分かりません。
 たぶん原作者が 「せや!…誰もやってないしカッコヨカろう!」 くらいの思いつきでやった工作でしょう。なんにせえ,棹を握った時,この部分が手に妙に触ったり,あげようとした指がひっかかったりしてただただジャマなので,山口ともども棹幅ピッタリに削ってしまうことにします。

 これで山口が取付けられれば,胴体とのフィッティングに移れるのですが。
 指板面を均す際に削った影響で,山口の取付け部分が前より少し広くなっているのですね。
 山口を所定の場所に取付けると,指板との間に1ミリほどのスキマが出来てしまいます。

 山口取付けの前に,これを埋めるカリンの細板を接着しておきます。
 少し大きめにしておいて,後で実物合わせで削ってゆけばいいですね。

 修整の終わった棹を油拭き・ロウ磨きします。
 油切れで白茶けていたカヤが,しっとり色鮮やかに…波打っていた指板のカリンも鏡のような平面となり,ギラギラとした杢が浮かび上がりました。
 工作はアレでしたが,材質自体はかなり良いものだったみたいです。

 さてさて,これで棹は仕上がり,胴はとうに「桶」の状態。
 表板との接着,内桁の固定,側板接合部のスキマ埋めや補強も終わっておりますが,なかなか裏板を戻す段階にまでたどりつけません。
 その最大の理由が,例の「飾り板」です。

 棹の指板もそうでしたが,この飾り板もまた加工がヒドい。

 裏面はエグレだらけ,厚みも不均等。
 薄板とはいえ,この長さになれば均質な良い材料は入手しにくいというのは分からぁでもありませんが,それならそれでやっとくべき,貼りつける前の処理があまりにも雑でなっちょりません。

 そういう板をムリヤリ曲げて,大量のニカワで固めてへっつけてたものですから,剥離の際に割れる割れる----いくつものパーツになってしまったその薄板を,何日もかけて継ぎ直してゆきました。
 割れたところはカケラをつなげて継いでから裏に薄い和紙を貼りつけて補強,エグレ部分には木粉パテを充填。急に厚くなってるような部分は削り,急に薄くなってる部分は和紙で補強。それでもあっちを直せばこっちに問題が,こっちをなおせばあっちに問題が見つかる,ってなもんで……なんか,ちゃんと終わるのかなあコレ,って思っちゃうくらいの果てなき作業でございましたシクシク。

 もう途中で,いッそ新しいツキ板買ってこようかとも思ったんですが,ヒドいとはいえ時代を生き残ってきたオリジナルの部品。
 さらにソレすると修理代がぼひゅーんとハネあがっちゃうので,オイソレともイカず。
 継いではいで埋めて削って補強して……地道な作業を続けて半月,ようやくもとの1枚の板に!!

 接着の際,この飾り板をお湯で柔らかくしてやる必要があるんですが,すでにあちこち無尽に補修してるものですから----鍋にどぼんと漬けて煮込むといったわけにもまいりませんので,長い薄板の端から端まで,アツアツのお湯をふくませた脱脂綿を貼りつけ,ラップをかけてその代わりにします。

 胴体のほうの接着面は,接合部のスキマからあちこちのちょっとしたエグレや細かいキズまでとおに補修済です。
 胴体接着面に薄目に溶いたニカワをお湯と交互にムラなくたっぷり滲ませたら,薄板の片方の端を棹口のところに合わせてクランプで固定,脱脂綿をはぎとり,ニカワを刷きながら胴をぐるりと回します----まずこの時点で飾り板がどっか「バキッ!」とか「ビリッ!」とか逝ってないことに感謝一安心。

 もう片方の端を最初の端に重ねるようにして,別のクランプで固定。
 上から太い輪ゴムを2本かけ回し,棹口のクランプを抜いて,ゴムをしごきながら薄板を均等にしめあげます。

 そのまま二日ばかり固定。

 この楽器の製作当初,彼の手元に「輪ゴム」なんかなかったでしょうから,この作業も麻紐とか革紐でやったんだと思います。
 麻紐や革紐を濡らして周縁に巻,端を棒などで軽くひねって乾燥させれば,同じようなことは可能なのですが,ゴム輪と違って締め付けの力を均等にするのは難しく,その効力も時間によって変化してしまうため,現代,庵主がやってる方法のように,確実に接着することはかなりの難事です。
 層になるほどの大量のニカワでスキマを埋めていたせいもありますが,従前は棹口のところでぴったり合わさっていた端と端が,板が余ったせいで5ミリくらい重なっちゃってます。

 二日後,重なってる飾り板の端を切り落とし,重なってたことで接着されてない部分をも一度接着し直します。
 従前はあちこちでふくらみ,ハガれ,浮いていた飾り板ですが,今度はそういう箇所がほとんどありません----100年前は腕利きの林治兵衛より,さらに高度で繊細な技術を持ってないとできなかったようなことが,輪ゴムというありふれた,一般的なモノのおかげで毛素人レベルの庵主でもできちゃってるんですからね。この重なった飾り板の5ミリこそが,林治兵衛と庵主の間の100年の時間の差,みたいなもんです。

 棹口の部分を切り直し,オープンバックの状態で棹のフィッティングを済ませたら,いよいよ裏板を貼りつけ,胴体を箱にしましょう!

 最初のほうで書いたように,この楽器の胴は内桁の加工によって,浅いアーチトップ・ラウンドバックとなるようになっています。
 平らなものに平らな板を貼り直すのは簡単ですが,平面の板を曲面に貼り直すのは難しい。
 さらには側面に飾り板を貼り回してることもあって,オリジナルの板をなるべく損傷少なくもどすためには,いつもより高い精度の作業が必要となっています。

 ここでようやく役に立つのが,修理の最初のほう,板をハガす前にあけておいた小さな孔です。
 まず裏板を2枚に分割します----ま「元に戻す」と言ったところで「無傷」で,ってわけにはいきやせんやね。
 裏板ウラにも墨書がありますんで,なるべくそれにかからないようなあたりでスパンと切り分けました。
 次に,胴の小孔に細く裂いた竹をつきたてます。これが板を原位置に近くもどすためのガイドになります。
 竹のガイドを頼りに板をもどすと……うん,左右小板の間に約2ミリのスキマが出来ました。飾り板は従前よりピッタリ胴材に貼りついてますので,胴の全周はいくぶん小さくなっています。ぐるりと回してみましたが,この状態で板縁が余っても,足りなくなってるような箇所はほとんどありません。

 確認したところで接着面を濡らし,ニカワを刷いて接着に入ります。
 いつもの道具----ウサ琴の胴整形用の外枠だった板クランプ,ひさびさの登場です。
 ガイドを使って板を所定の位置に戻し,ズレないようテープで固定してから,ガイドの竹クギ抜き取り,板ではさんでしめあげます。

 ううううう,長かった……長かったよぅ。ようやくここまで…

 一晩おいて接着を確認したら,スキマに埋め木をしてまた一晩。
 翌日整形……ああ,これでほぼ2ヶ月ぶりに,胴体が箱になりました。

 この楽器はおそらく,林治兵衛の 「若作り」 の一つなんでしょうねえ。
 ああいえ,林治兵衛サンがこの時点で何歳だったかは知りませんが,べつだん実年齢には関係なく,月琴というものを作り始めてから,それほどは経っていない頃。しかしそれなりの数をこなしたころなのでしょう----

 月琴製作者の多くは「月琴」という楽器についてそれほど知識のないまま,「流行=作れば売れる」 くらいの思いつきではじめています。
 石田義雄のように,はじめから清楽に関わりがある者だとあまり余計なことはしないのですが,そうでない連中は,あるていど作っているうちに 「ここ,こうしたらもっとヨクなんじゃね?」 とか 「こうすればもっとカッコいいべさ!」 というようなことをはじめちゃうんですね。まさしくこれが,そう。
 たぶん,この楽器と同時期に作られた 「黒歴史的楽器」 が,あと4面くらいはあると思いますね。そして,いままで扱った楽器から考えて,この前に作られた楽器にもこの後に作られた楽器にも,この楽器のような奇をてらった変な工作はない(w)のじゃないかと。

 細すぎる糸巻,意味不明にハミでた指板,厚すぎるアーチトップ----どれも簡言すれば「やってみた」けど,けっきょくたいした役にはたってない工作です。

 「誰もやってない」 のは 「誰も思いつかなかった」 からとは限りません。

 誰もトンカチにラジオの機能を付けないように,楽器のような「道具」では,周りを見回して「誰もやってない」事には,「誰もやらない」だけの経験的理由があることのほうが多いわけですね----曰く 「無効」 と言い 「無駄」 と言う理由が。

 まあそれでもついそういうことをしちゃうのは。
 漢がみんな厨二病であるから,と言えなくもありませんが。(w)


(つづく)


月琴64号(4)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 月琴64号 (4)

STEP4 だがしかしのいか

 ついてた地の側板が,後補で使えないことが分かり。
 側板一枚でっちあげてハメこんだ,月琴64号初代不識……

 それでもいまのところ,修理は順調----と言えますね。
 表裏真っ黒,クギ打ちに板割れにヘンな塗装……おもに前修理者のシワザ中心ですが,あれだけの損傷・不具合があったにしては,さしたるストレスもなく,再生に向け順調にコマを進めております。

 これはひとつに。
 ふだん庵主の使ってるのが同じ作者の楽器なので,この楽器について,てのひらのところで熟知しているというところがあります。
 はじめの1号から,現在使っている27・61号もぜんぶ,自分で分解し,直し,使い続けてますので,アタマのなかにはこの人の楽器の事が,内部構造や工作のクセも含めて細部まで叩きこまれてる感じ。

 あと,最初のほうでも言いましたが。
 古物のくせに,保存状態が良く未使用みたいなキレイな楽器は,かならずその内にトンでもない悪魔を抱えており。修理をしてるといづれそいつがトンでもないジャマを仕掛けてくるものですが。
 表板の使用痕などから,この楽器は62号同様に歴戦の勇者,いわゆる「使い込まれた楽器」であります。楽器という道具は不具合をメンテしながら使うもので,使われるうちに不具合が矯正されてゆくものです。すなわち,この楽器には厄介な「初期不良」はあまり残っていナイ。
 さらにここまできちゃなくヨゴレ,クギまで打たれまくっちゃってますと,貧乏神も住めないアバラ家みたいなもので,ジャマをしかける者もなく,河童の川流れのように(誤用)物事もスッキリと流れてゆくものであるらしいです,ハイ。

 庵主の修理を妨害するものがあるとすれば----それはふたつ。
 「前修理者」と「原作者」のシワザ,で,あります。(w)

 「前修理者」のほうはまあ,無邪気にクギを打ったり,ヘンな色塗ったり,ボンドでへっつけたりするくらいなものでカワイイものですが(でも呪う)

 「原作者」のシワザは,その奥に「手抜き(メンドウ)」とか「吝嗇(ケチ)」とか「無茶」とか,時には 「むしゃくしゃしてやった,どうでも良かった。あとヨロシク。」 と言った理由が透けて見えたりするうえ,間違いなくすでに故人なので(ゲンノウで)殴るのに殴れないという腹立たしさがあります。

 とりあえず写真の残っているような奴は,画像拡大コピーしてダーツの的にでもしておきましょう,エイッエイッ!

 さて,64号,棹の修理に入ります。

 糸倉の先端に,欠けた蓮頭をけっこうぶッといクギ2本,ブチ込んでとめてましたが,これは調査の段階ですでに引っこ抜いてあります。これ自体はけっこうインパクトのあるシワザではあったものの,実のところこの他には,棹に「損傷」と言えるような箇所がありません。
 壊れているとはいえ蓮頭もあり,山口やフレットもオリジナルのものがそろっています。基本的には,表面になぜかムラムラに塗られたムラサキ色の塗料をこそげ落し,糸巻を4本新たに作れば修理完了,なのですが………

 こないだ見つかった鶴寿堂4の棹の指板部分の歪みは,棹を基部と糸倉の二方向から工作していったことが原因だと思われます。ブ○タモリでやってた札幌の街のハナシのように,両端から作っていって合わせ目のところで合わなくなっちゃったので誤魔化した,みたいなものですね。問題はそれを 「ま,いいかあ」 と放置しやがったことで(呪)

 同じような棹の歪みは,この初代不識の楽器でも見られました。ただしこちらの場合は,そういう工作加工が原因ではない----いや,ある意味その「工作加工が原因」なのですが,鶴寿堂の場合とはいささか異なる原因理由により生じてますね。

 初代不識の月琴の棹は,蓮頭を除く糸倉の頭からなかごまで一木で作られています。

 もともと,高価な唐木製の唐物楽器でも,胴体に入る棹基部から先には針葉樹材を継ぐのが一般的な工作です。初代不識・石田義雄は清楽の東京派流祖・鏑木渓菴の弟子だったらしく,彼の月琴もまた渓菴自作の楽器を模していると考えられるので,そのあたりから継承された構造だったのかもしれませんが,彼の楽器は安い量産版から高級な総唐木製のものまで同じ構造,棹は一木彫り貫き削り出しとなっています。

 一木作りの棹は一般的な構造のものより加工の難度が高く,それでいて不具合が出やすい。さらには後で調整・修整するにも限界があるため,製品としての歩留まりが発生しやすいものです。さらに言うなら,一般的なものと比べてとくに強度が上るわけでもなければ,思ったほど音響的な効果が顕著に出るわけでもありません。
 「なかごを継いだものよりは一木で作ったほうが音は良いはずだ!」 という現実軽視の妄想的満足を除けばムダとしかいえないこの工作(もうヤメてあげて!一木棹のHPはマイナスよ!)の数ある欠点の一つとして,一般的な構造の棹より大きな材料が必要となるため,材料由来の歪みや狂いが出やすいというのがあります。歪み・狂いは木取りの関係で,とくに細くなる棹の先端部(糸倉の手前あたり)と基部なかごの部分に発生しやすいですね。


 棹の狂いは,だいたい基部がわから糸倉のほうを見た時に,全体が右か左にねじれるようになっていることが多く,そうしたねじれは製作時にすでに生じていたこともあったようで,はじめから山口やフレットがそれに合うように左右に傾けて加工されていた例も見たことがあります。たいていは何年か経ってから生じていたようで,使用者がフレットの頭を削ったりして修整対応しているのをよく見ます。

 この楽器では棹基部の指板面を水平の基準とした時,糸倉がわが右やや高く,左方向にわずかにねじれたようになっていました。
 取り外した山口やフレットに,左右の高さを調整したような加工の痕跡はなかったので,使われなくなってから生じたものかもしれません。

 ありがたいことに,変形の度合いはそれほど大きくなかったので,表面を擦り直して均せば直るくらいのものではあったのですが,不識の楽器はどこもかしこもかなりギリギリな寸法で作られているため,調整で削ったぶん,表板と指板部分の間に段差ができてしまいました。一般的な構造の楽器なら,棹基部の調整でカンタンに修整できるのですが,上にも書いたように,一木造りの棹は,後で修整するのが難しいので----

 削ったぶんを足してやることで調整することにします。

 材料は紫檀の板。
 かつて銘木屋さんからもらってきた端材で,白太(色のついてない部分)が混じってたために切り捨てられた部分だったんですが,おっちゃんが 「これ…けっこういい紫檀だったんだよなー。」 と,板撫でながら惜しそうにしてた逸品(w)ですね。

 埋めたい段差は1ミリ以下なので,3ミリの板を2枚に挽き割ります。
 サイズからすると3枚に割りたいところですが,道具の関係でさすがにできません。
 まあ,やったことのある人は分かると思いますが,このサイズでも手道具でやるのはかなーりタイヘンです。
 2時間ちかくかけてようやく2枚に~~(疲)
 表裏を均し,修整して胴体面と面一にした指板面にへっつけます。

 おおーぅ……悪くないんじゃないですかあ?

 この楽器はもともと指板のついてない量産版タイプだったんですが,これだけで1ランクレベルが上がっちゃいますね(w)

 続いては,糸巻をこさえます。
 全損ですので4本ですね。

 毎度言ってますが,庵主,「糸巻を六角に削る」から先の作業はキライじゃないんですよ?
 その前の「材料四面を斜めに切り落として素体を作る」という作業が大ッ嫌いなだけなのです。(w)
 今回はほかにも全損のやら足りないのやらがあるためアキラメて,最初のほうで素体を14本ぶんも作っちゃいましたので気が楽です。何本か失敗してもだいきょうぶですからねえ。

 不識の月琴の糸巻はやや細め長めで,六角一溝,握りの帽子の部分がちょっと突き出てるタイプが多いですね。
 毎日のように握ってグリグリしてる部分,てのひらがカタチをオボえてますので削るのもサクサク----

 ----とは言っても,まあ1本小一時間はかかりますが。(汗)
 月琴の糸巻は,側面が握りの先端に向かってラッパ状に反り上がってるのが多いのですが,不識の糸巻は弦池に入る部分が細いのもあって,その反りがすこし顕著です。
 素材のクセもあり,なかなか思ったような曲面にならないことも多いのですが,今回は4本ともに,何とかそこそこ,うちゅくしい曲線に仕上がったかと。

 これであとは欠けた蓮頭----糸倉の上にへっつけられてるお飾りだけですね。この手のモノの修理,庵主は得意中の得意です!

 まずは剥離の作業中にクギ孔のところから2つに割れちゃったのを継ぎます。
 ど真ん中に2つあいたクギ孔は木片で埋め,欠けた前縁部分を整形。
 もぎ取られたようにガタガタになってたのを,まっすぐに加工してから補材を接着。その補材を同じ作者でほぼ同レベルの楽器,27号の蓮頭などを参考に,もとのカタチを模索しつつ加工してゆきます。
 右がわに打ち込まれていたクギは,打ちこむときに曲がったらしく,真ん中の円形になった部分にクギ頭の横たわった痕がくっきりついてました。ここらは木粉パテで埋めてあとで彫り直します。

 整形中に補材の一部を欠かしてしまい,ちょっと修整したりもしましたが。あちこちのモールドを彫り直すついでに,表面に塗られた塗料もハガしてしまいます。
 最後にスオウとオハグロで染め直し,カシューを2度ほど刷いて完成です!

 補修中のようす,右にあるのが参考にした27号の蓮頭です。
 はっはっは----毎度言うようですが,こういうのを修復したものだと一目で見破れるようなヒトは何らかのヤバいプロですのでむしろ注意してくださいヨ。(w)

(つづく)


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