月琴65号 清琴斎初記(6)

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斗酒庵,春秋を思ふ の巻2024.4~ 月琴65号 (6)

STEP6 運河を穿ちお城のお濠を埋めたてた男の楽器は行く

 半月の手入れが終わったところで,全体の組上げに向け,表裏板の清掃に入ります。
 工房到着時の状態では表面板に水ムレの痕が見てとれ,ちょうど胴体の半分ぐらいのところで上下うっすら色が分かれてましたね。

 今回のヨゴレはけっこうキツくしつこく。

 最初の洗浄液は表板の半分ぐらいで真っ黒になってしまいました。あと中央部や左右のニラミ周辺に薄いシミが残ってしまっていたので,清掃作業はなんどか乾燥をはさんで間をおき,楽器の状態を確認しながら3度ほど繰返しました。
 ヨゴレの状態は保存してあった場所や環境の影響もあったのでしょうが,この楽器の表裏板の染めは,二記山田縫三郎のに比べると若干濃く,砥粉もやや多めに感じられましたね。

 けっきょく,このところ修理したのの平均からすると,まだ少し色黒な感じになっちゃったんですが,この色味には桐板自体の質も関係しているようなので,水ムレや大きなシミが目立たなくなったあたりで終わりにします。

 数日乾燥して,いよいよ組立てに入ります。
 まずは半月の接着。
 楽器の中心線を出し,正確に位置決めをします。

 保定中にズレないよう,周りを板で囲んで軽くクランピング。
 一晩置いて完了です。

 これで棹のほうに山口をのせ,フレットを置けばいよいよ楽器としての復活!----と,なるわけなんですが…ここで非常事態発生!!!

 いちおう仮組みして糸を張り,フレットを置いてみたところ。
 低い,低すぎる!

 フレットの頭と糸の間が3ミリくらい開いちゃってますね----残念ながら,このオリジナルフレットは使えませんや。

 前回書いたよう,半月にはすでにゲタを噛ませてありますので,そっちの弦高はもうじゅうぶんに下がっているはずです。
 さらに山口のほうをさらに2ミリほど削っても,オリジナルフレットがまともに使用できるような高さにまで糸を下げられませんでした。こうなるともうあとはどっか削って棹角度の設定を変えるとかなんですが,これも前の記事で書いたように楽器自体がかなりギリギリな作りなので,これ以上は難しい所……現状の弦高に合ったフレットを作り直したほうが断然早いですね。

 補作のフレットは竹製。オリジナルフレットが真っ白な骨牙製でしたので,山口も色を合わせて白っぽい材料で作ってたんですが。かなり削っちゃったので,またツゲで作り直しました。板がちょいと色黒ですし,竹フレットもこれに合わせてちょっと濃いめの色に染めるとしましょう。
 新旧のフレットをならべてみるとこんな感じになります。

 新旧の高さの差は最大で2ミリ近く。
 他の作家さんの楽器でも似たような事態はちょくちょくあるんですが,これは当時の職人さんの「フレット楽器への無理解」のほか,こうした量産楽器では生産数を上げるためもあったかと思います。

 この楽器のフレットの加工は,本来なら庵主がやっているように,個々の実器合わせで正確な設置位置を探りつつ,各フレットの頭と糸の間をギリギリに,かつ前のフレットに干渉しないような高さに調整してかなきゃならないんですが,これは手間もかかるし時間もかかる。
 そこで基準となる楽器,あるいはスケール定規のようなものを用意して,それを参考にフレットの位置をどの個体でも同じ固定のものとし,各フレットを本来の理想的な高さよりいくぶん低めに製作する事で,製作と調整の手間を省き,製品としたときの歩留まりを回避したのだと考えています。

 まあ,このころの日本人にとって,月琴と似たようなフレット楽器となると琵琶くらいなものでしたからね。薩摩や筑前といった同時代に一般的であった日本の琵琶は,糸が太く弦高がきわめて高く,フレットは少なく,細かな音程は弦をフレットに「押しこむ」ことによって取ります----だからたぶん,月琴もそうやって「糸を押しこん」でも問題ないくらいに思ってたんでしょうね。

 琵琶とは違って月琴のフレットは基本的に1枚で1つの音にしか対応していません。弦長が短く糸のテンションも弱いので,琵琶のように押しこんで押さえると音程が安定しません。いくら「正確な位置」に設置してもあっても,「正確な音」は出せないんですね。そのあたり何となく伺い知れるのが,下に掲げた音階調査表----

開放
4C4D+104E+74F+114G+144A+115C+275D+45F+29
4G4A+114B+45C+65D+145E+25G+165A+45C+27

 このころの月琴としてはかなり露骨に西洋音階寄りですね。これは頼母木源七や山田縫三郎が,ヴァイオリンとかも作る人だったからかもです。清楽の音階としてはEのところが30%くらい低いのがふつうですが,西洋音階準拠と考えると,チューナーで測って,平均10%前後の誤差なのだから,かなり正確なほうです。
 ほぼ均等な低~中音域に比して,高音域,特に最後の3枚のあたりで誤差の幅が搖動し,最終フレットで30%近くになっているのは,高音域のほうが耳で差異を拾いにくいのもありましょうが,まさに上に書いたよう,オリジナルのフレット高では音程が安定しなかったろうことも影響しているかと思います。

 さあて,まあフレットの問題が片付きますれば,あとは組上げです!
 オリジナルのお飾りは左右のニラミと,窓飾り。ともに細工も良く,唐木のそこそこ上等な材で出来てます。剥離の際に片方がバラバラに割れてしまいましたが,すでに修復済。これらはキレイに清掃して,さッと油拭きすれば元のツヤが甦ります。

 欠損していた蓮頭も用意しました。
 清琴斎初記の楽器は参考となる例が少ないので,二記・山田縫三郎の作例の中から,最もここの工房のオリジナルだと考えられる意匠を撰んでます。
 とはいえ,これ自体,田島真斎の楽器に良く付いていた蓮頭の模倣ではあるのですけどね。

 糸巻は2本がオリジナル,2本が補作。
 ベンガラとスオウで似た感じに補彩してあります。今はまだ補作のほうが多少色濃いですが,数年するとスオウが褪せて,似た色合いに落ち着くでしょう。

 最後にバチ布と修理札を貼って,2024年11月19日。
 「運河を掘ってお城のお濠を埋めた男」こと,
 清琴斎初記・頼母木源七の月琴,修理完了いたしました!!


 銘は「孤雁」,添詩は----

 寒蝉数弄咽柳條  寒蝉数弄,柳條に咽び
 孤雁一声堕江浦  孤雁一声,江浦に堕つ

 誰の詩の一節かは検索してや。

 うん凄い----「透徹」とでも形容しましょうか。
 輪郭のはっきりした,澄んだ音の楽器です。
 余韻もすごいね----「中途半端なカタチ」なんて言ってゴメン。直線型より深みがあり,曲がりの深い線より胴鳴りが発生しにくい。うちのZ線と同様,直線と曲線の特性のイイとこどりしようとした構造だったんですね…まあZ線と違って曲げが微妙なので,この部分に関しては生産性が良くなさそうです。

 木部の工作自体は精密で頑丈ではあるものの,棹と面板が面一だったことや,響き線にちゃんと焼きが入ってなかった事を考えると,オリジナルは操作性も若干アレだし,響きもこんなにはなかったと思いますよ。元は楽器として考えると「悪くないけど良くはない」程度の数打ちの量産品だったと思われますが,この楽器にとっての理想的な設定に近づけるべく調整に調整を重ねた結果,現状は市販車がレーシングカーになっちゃってる,みたいな感じですね。
 胴の厚みがあるわりに多少楽器が軽めなので,ふだん重たい楽器使っている人には,取回しに少しだけ違和感があるかもですが,現状,その程度しかアラが見つかりませんね。

 ただコレ…正直,まったく素人さん初心者さん向きの音ではないなあ。

 あまりにも「音の輪郭がはっきり」しているので,上手い人は上手く,ヘタクソはヘタクソに聞こえます。上手く弾ければそのまま上手に聞こえますが,ちょっとミスすれば誰の耳でも聞き取れる感じ。デバフはかかりませんが,補正もかかりません。

 個人的にはジャズが似合う音だと思いますよ。

 ゆうつべのほうに試奏あげています。聞いてみてください----

  1)Moon River
  2)Fly Me to the Moon

 修理は終わりましたが清琴斎初記のお話は,あと1回続きます!
 といったところで請読次回。


(つづく)


えいこうの月琴WS@亀戸!ラストワルツ!

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斗酒庵 WS告知 の巻月琴WS@亀戸・最終回! 2024年12月!!!



 

 

*こくちというもの-月琴WS@亀戸 ラストWS のお知らせ-*


 
 2024年,12月の月琴WS@亀戸は,討入もクリスマスも越えた28日(土)の開催予定です。



 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 長年会場を提供してくださっていたANZUさんが,年内でお店を閉じられるため,@亀戸での開催は今回でラスト!!----いまのところ1月以降はなんもかんも未定ですので,この最期の機会にどうぞお立ち寄りくださいませ~。

 なお,いつもどおりお昼さがりのゆるゆる開始ですが,ANZUさんフェアウェルとも重なるので,17:00までの早じまいの予定です。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器は余分にありますので,手ブラでお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!

 



 

 

 

月琴65号 清琴斎初記(5)

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斗酒庵,春秋を思ふ の巻2024.4~ 月琴65号 (5)

STEP5 ほんにそなたは枯野のススキそよぐばかりで心(しん)のない

 さてと,時系列と順番は前後しますが,今回はここから。
 この楽器,事前の調査で分かったのは,部材の加工や接合の工作はどこも丁寧精密で素晴らしいものの。明治流行期の他のにわか月琴師および儲け便乗の量産作家と同様,「月琴」という楽器に対しての理解不足からくる「足りない(あるいは余計な)工作」がいくつかあるということ。
 まあ,外から見えるカタチや寸法は簡単に真似できますが,そのカタチや寸法の意味や内部構造,ってのは,そのモノを正しく理解できてなきゃ,作者の想像や都合に流されがちになります。ストラディヴァリウスのヴァイオリンをスキャンして,3Dプリンタで内部ガン無視の樹脂のカタマリとして出力しても,「楽器」にはなりませんわな。
 その無理解による「足りない(あるいは余計な)工作」のひとつが,前回処理した「棹の傾きがナイ」ことですが,もうひとつがコレ----

 この響き線,ヤキが入ってません。

 いちおう軟鉄のハリガネではなく,鋼線ではあるんですよ。ただコレ現状,エフェクターとしてもリゾネーターとしてもほとんど機能してません……ほぼ楽器内部でぶよんぶよん揺れてるだけのシロモノですね。

 いつも書いてるように,月琴という楽器の良し悪しは,胴体がどれだけちゃんとした「箱」になっているか,でほとんど決まってしまいます。この楽器のそこらへんの工作は素晴らしいのですが。画龍点睛を欠くと申しましょうか,「清楽月琴の音のイノチ」ともいえる響き線がこの状態だと,「鳴りはするけど響かない」---月琴特有の余韻のまるでない,箱三味線みたいな音の楽器になってしまいます。

 さてこれはどうしたものか。
 響き線がサビサビか,根元が腐ってたりでもしてくれてたなら,躊躇なくヘシ折るなりぶッこ抜くなりできるのでハナシは早いのですが,表面に小サビ浮き,ヤキが入ってないものの,線自体の状態は健康そのもの。おまけに頼母木源七,基部固定の工作にもソツがなく,ちょっとやそっと引っ張っても抜けそうにありません。

 とはいうものの----まぁ,現状の取付けられたままの状態でも,なんとかやりようはありましょう。ただしそれは,表裏に板のついてる状態だと難しいので,板の補修の済んでない,胴が外枠フレームのみの時じゃないとできません。

 まずはライターで線全体をなるべく均等に熱します。
 よさげな温度になったところで,あらかじめ濡らしておいた布かキッチンペーパーですかさずくるむ!----ジュッ,とな----

 さすがに気の抜けない瞬間ワザで。作業中の写真は撮れませんでしたので,作業後のでご容赦アレ。ほかには直接コンロにかざすとか,9V電池直結して線自体を発熱させるとかも考えたのですが,どれも安全性に欠けるため却下。理想的な加熱状態が得られなかったため,完全に満足のゆく結果とまではいきませんでしたが,それでも先端がガンブルーになるくらいの根性は入れれました。
 従前は弾いても,ぶよよんぼよよんと揺れるだけでしたが,焼き入れ後はキーンカーンとちゃんとした「響き線」の音が出るようになりましたよ。

 この楽器にとっては重要なものの,きわめて地味な響き線の補修と処理は完了。
 棹の調整もひと段落し,これで内部からしなきゃならないこと,出来ることは片付きましたので,いよいよ裏板を戻して,胴体を「桶」から「箱」に戻します。

 裏板は,右から2/5くらいのところで割れて2枚になっていました。接合部の上端から半分くらいのとこまで虫に食われてましたので,表板の場合同様,小板接合部の虫食い部分を埋めて整形・樹脂浸透で補強。そのほかの虫損は,内桁との接着部や周縁部に少しある程度で,表板ほどヒドくはありませんでしたね。
 あとはこれを1枚に接ぎなおしたこれを胴に戻せばいいわけですが。
 表板の時と違って,こんどは内部構造との位置関係がまったく見えない状態でやることとなるので,1枚に接ぎ直す前に,板ウラに残っている原作者の指示線や,元々の接着痕,そして実際に合わせてみた結果を頼りに,新しい接着位置の目安になるシルシをあちこちに付けておきます。

 胴や板自体の,板の中心とかは原作者の残してくれた指示線,ほぼそのまま使えましたね----これも元の工作や木取りが良かったため,変形による誤差がきわめて小さかったおかげです。ほんと仕事は丁寧だ。再接着の作業余裕として小板の間に噛ませるスペーサも,最小の2ミリ程度の幅で済みました
 赤いクランプぐるりと回し,一晩置いて接着完了!

 あとは胴側からわずかにはみ出した板端を削り,胴体は無事「箱」に戻りました。

 棹と胴体,楽器としての主構造部分の補修はこれにて完了。
 ではいよいよこれを「楽器」に戻すために足りないあれこれを作ってゆきましょう。

 まずは糸巻。
 そういやこの楽器がはじめて工房に到着した時,ネオクの画像のとぜんぜんちがうゴッつい琵琶の糸巻が入っててビックリしたもんでしたねえ(出品者さんが同時に出してた他の楽器のと間違って入れちゃったらしい)。

 数日後に届いた糸巻は,2本がオリジナル,あと2本は三味線糸巻を改造したものとなってました。
 オリジナルの糸巻は状態も良かったのでそのまま使い,2本を補作することとしました。部品入れあけたら,ウサ琴作りの時大量にこさえた予備の素体がまだ2本だけ残ってましたのでこれを使いましょう。

 いつものように,ナイフと鬼目のヤスリでだいたいのカタチに削り,途中から実器合わせで先端を調整しながら,全体を仕上げてゆきます。

 ジグソーも旋盤もないんで,1本あたり1時間くらいはかかりますが。今回は大キライな素体作りの工程がないんで実にキラク,じつに楽しい!----ああ六角形のウツクシさ!
 というわけで。側面わずかに反りのある多面体に悶えながら,最後に帽子(握り部分のてっぺん)を研ぎ出し,溝を刻んで完成です。
 材料はいつもの100均めん棒ですが,これ数年前より素材が硬いブナの類から軟らかい白楊等になってますんで,力のかかる先端部分を中心に,樹脂を何度も浸ませて強化しときます。
 これをオリジナルの色味に合わせて補彩。

 今回は茶ベンガラを中心に,スオウ染めを組み合わせて赤茶っぽくしました。現状オリジナルより若干色味が濃いめですが,数年してスオウが褪色したらちょうど良いくらいになるかと思います。

 半月のお手入れもしておきましょう。
 オリジナルの半月は紫檀製。材質も悪くないですし,工作も良い。
 オモテ面に細い溝を刻み,そこに銀の薄板を打ち込んで装飾としてあります。意匠はたぶん水面に咲く蓮の花ですね。
 損傷は下縁部右がわに少しカケによるヘコミがあるのと,装飾の左がわの端のほうで一部銀の板がはずれてなくなっちゃってるくらい。

 ヘコミのほうは唐木の粉をエポキで練ったのでちょちょいと埋めましたが,銀の板のほうは手持ちにちょうどいい材料がないもので,とりあえず象牙の板をうすーくうすーく削ったのを埋め込んで誤魔化しておきましょう。

 あと事前の調査から,弦高を下げる必要のあることが分かってましたので,ウラ面のポケットになってる部分にゲタを貼りつけておきます。

 今回は煤竹を使用。
 弦が当って擦れる面に皮の部分を向け,細く削って貼りつけます。
 これで半月から出た時の弦高が,少なくとも1ミリほどは下がるはずです。


(つづく)


月琴65号 清琴斎初記(4)

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斗酒庵,春秋を思ふ の巻2024.4~ 月琴65号 (4)

STEP4 板コいちまい冬ジゴク,ほい。


 はい,では清琴斎初記,分解の続きです。

 とはいえ,今回は胴の主構造の作りが素晴らしく精密・頑丈で,接合部の劣化等強度的な問題もないため,表裏板を剥いでしまった段階で分解完了です。

 裏板も剥がしましょう,ぺりぺりぺり----この感触,そして濡らすと白くなる表面。最初はニカワが劣化してるのかと思ったんですが違います。

 この楽器,表裏の板だけソクイ(米粉の糊)で接着されてますね。

 同様の工作は国産の月琴で時折見るんですが(唐物では見たことがない),おそらくこれは三味線の工作の影響。日本の職人さんの 「三味線の「皮」はソクイで接着するもの > なら月琴の板もソクイだな!」 というていどの,やや短絡した思考から来てる工作----所謂「ドグマ」ってやつにハグされちまった結果ですな。

 もともとほぼ考えナシでやらかしてるともいえる意味のない工作ですし,後々のメンテや修理の関係上不便なだけなので,ここはキレイにして再接着はニカワでやります。

 劣化していなければ,濡らしただけで何度も甦るニカワに対して,ソクイは接着力こそ強力ですが,一度剥がれたら接着力は戻りません。また,三味線の皮は張り替えることが前提ですが,月琴の表裏板は通常張り替えることのない部分です。そんなとこに,一部分でも剥がれたら「全面張り替え」が必要になるような技術使いますかね?----みんな勉強がなっちょらん!

 というわけで,バラバラになりました。
 さらには剥がした板も,虫食いのある弱った接ぎ目からバラしてゆきます。

 けっこうあちこち食われてましたし,表板中央部分なんかはそこそこやられてましたが,食害は幸いにも接ぎ目に沿ったものばかりで,全体に横方向への広がりはない----これならあまり手を加えないで修理できそうですね。

 まず木端口の細い虫食い部分に,桐塑(桐の木粉を寒梅粉で練ったもの)を詰め込みます。場所によっては表裏薄皮一枚,みたいになってますからね,ちょっとづつそッとですが,竹串やら爪楊枝も使い,なるべく奥までキチキチに…最後は乾燥によるヒケも考えて,木端口からあふれるくらい盛っておきます。

 中まで固まったところで平らに整形。
 もちろんこれだけではおが屑を詰め込んだだけのようなもの,この部分に強度はまったくありません。そこでここには樹脂を染ませて固め,強化しておきます。桐塑は水にも弱いんですが,こういう時は逆に樹脂が滲みこみやすくて助かります。

 作業後に,食害周辺をケガキの先とかで触診してみましたが,充填不良個所や新たな被害は確認できず。食害がもっと横へ広がっていたら,表裏からほじって樹脂注入とかになっていたでしょうが,今回の楽器の桐板は,目の詰まった硬いもの----会津あたりの桐かな?----だったのもあり,さほど食い広げられなかった模様です。
 なるべく余計なところは削らないようにしましたので,食害が表面にまで達しているところ以外は,接ぎ直せばほとんど分からないくらいになるでしょう。

 これを順繰り剥ぎなおしてゆき,再接着用の作業余裕を作るため,3ミリのスペーサを間に噛ませて,1枚の板に戻します。

 上に書いたとおり,オリジナルのソクイじゃなく,ニカワで再接着します。
 スペーサのぶんはみ出た周縁部を削って,胴体は「桶」の状態になりました。

 いつもの作業からすると,多少拙速な感じがするかもしれませんが。上にも書いたよう,この楽器の胴体の主構造は,工作も良く頑丈ではあるものの,さすがに表裏板のない状態では構造的に不安定ですので。このままにしとくと,なんかの拍子に壊れちゃったり,気候状況等により変形しちゃう可能性もあるので,今回はとりあえず表板を戻し,少しでも安定した状態にすることを優先しました----いやあ,さすがに骨組みだけの状態では,棹の抜き差しや,響き線の調整するのもコワいですからね。

 安心して作業続行可能な状態になったとこで,次だ次。
 棹角度の調整をします。

 オリジナルは面板から棹の指板面まで,鏡のように見事な面一でしたが,これもこの楽器についてちゃんと勉強しなかった作り手のよくやる間違いで。本来は楽器の背がわに少しだけ傾いでいるのがベストです。
 もちろん現状の面一状態でも楽器としては使用可能ですが,ストレスなく演奏するためには色々と不都合がありますので,いつものとおり調整しようと思います----まああんまりにも精確無比な工作でしたので,正直このままにしてやろうかとも思ったのですが,楽器はあくまでも道具。いくら見事な工作でも,それが作者の無知のあらわれでしかないのなら,それを後世に残す意味もありません。

 とはいえ。
 こういう腕に自信のある巧い人ほど,一箇所を下手にいじると全体がダメになってしまうような,余裕のないギリギリの仕事をしがちです。
 元の寸法や強度に余裕がないので,こちらも常に全体への影響を俯瞰しながらのギリギリ工作しかできません。

 けっきょく,延長材の先端・表板がわ面を1ミリほど。内桁の棹孔も同様に表板がわを1ミリほど下げました。これによって棹を傾けることに成功。ほんとうはもう少し傾けたかったんですが,これ以上削ると延長材や内桁の孔の強度に問題が出そうでしたので。

 この作業の最中に,棹基部と延長材との接合部に割れが見つかったので補修しときます。数打ちの月琴ではよくある故障の一つですね。ここもちゃんと接着はニカワなんですよねえ----なんで表裏板だけ。

 最後に胴体の棹孔のひっかかる部分を少し削り,内桁の棹孔や棹基部にスペーサを噛ませて,きっちりスルピタ抜き差しできるよう調整します。
 いつものことながら,これでまだ第一弾の調整ですからね。
 この棹と胴体のフィッティングは,楽器としての使い勝手にダイレクトに影響しますので。この後もまだまだ,修理完了の直前まで繰り返されます。

 とりあえず今回はここまで----

 分解作業も終わり,当面の記録はだいたい採り終えましたので,恒例のフィールドノートを公開しておきましょう。(下画像,クリックで別窓拡大)

 表裏部分は例によって「真っ赤だな」(w)です。


(つづく)


月琴65号 清琴斎初記(3)

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斗酒庵,春秋を思ふ の巻2024.4~ 月琴65号 (3)

STEP3 婿さん(逓信大臣)はグルメと盆栽に夢中。

 さて,前回に引き続き調査です。

 外がわから見えるところは,だいたい記録し終えましたので。とりあえず棹をはずして内部を覗いてみましょう。

 そういや以前ここの二記の楽器で,外がわはキレイなのに,中がホコリまみれ粉塵爆発寸前の真っ白!----なんてこともありましたね。あれは板の虫食いが見た目以上に酷かったのが原因でした。今回の楽器も,表裏板に虫食いが見つかってます……さあどうなってることか。

 思ってたよりずっとキレイですね。

 視界良好,ホコリもほとんど溜まってません。
 上桁の音孔の向こうに,少し太めな響き線が覗いています。これも基部のほうにちょっとサビが浮いているようですが,銀色に光っている部分も多く。表板に水ムレがあったことを考えると,こんなもんで済んでて幸いといったところです。

 以降の作業に支障ナシ,と判断いたしましたので,フィールドノートに諸元寸法書き入れ終わったところで,分解作業へと入ります。

 まずはいつもどおり。表面にへッついているものをへッぱがします。
 脱脂綿を細く切ったのをたくさん用意。

 はずしたいモノ周辺に筆でお湯を刷いたら,これで囲んで堤防を作り,それから中心部に水気をふくませてゆきます----なるべく余計な部分,濡らしたくないですからね。
 表面が乾かないよう濡らした脱脂綿で覆い,ちぎったラップをかぶせたら1~2時間放置します。

 はずれてくれるお飾りはヨイお飾り,はずれないお飾りはワルいお飾りだぁ!

----というわけで,接着がオリジナルのまま,あるいは修繕が加えられていたとしても,それが古い時代のものならば接着剤はニカワなので,たいていのモノはこれで接着がユルみ,ハガれてきます。

 胴上,中央上部のフレットは4枚現存,第4フレットのみ欠損で。残っているうち第5フレットには最近の修理痕…というか,なんか接着剤ハミ出てんぞオイ。
 というわけで2,この第5フレット以外もまあ下が桐板ですから,近世の接着剤が使用されてても,木地が緩んだらはずれてはくれましたが。
 ニカワでの接着痕は,布でぬぐうていどでキレイになるのですが,こういう最近の接着剤による接着痕はちゃんと除去しとかないと,次のニカワの着きが悪くなりますので,後始末がかえってタイヘンなんですよ。
 第5フレット以外では,楽器向かって左がわのニラミ(左右のお飾り)が頑固でしたね。どちらもニカワ付けではあったものの,右がわは点付けで,一度めの作業で比較的簡単にハガれてきたのですが,こちらは後で補修したものか,裏全面にべったりとニカワを塗ってへッつけたものらしく,部品・板の精度が高かったのも災いし,容易にはずれてくれません。

 ふだん苦戦することの多い半月(テールピース)なんかは,下地の板が虫食いで弱ってたためか,左がわが半分がほとんどついておらず,右がわの端っこだけで板についていたみたいなんですが……このへッついてた部分がなかなかに頑丈で,ここも最後まで残ってしまいました。
 というわけで3。あんまり時間をかけると,ただでさえ古くて傷んでいる板への影響が大きくなってしまうので。どちらもあるていどスキマができたところで,クリアフォルダを細く切ったものを挿し入れ,ゴシゴシと挽き切ってはずしてやりましたよ。

 さて次だ,前回書いたとおり,棹上のものはぜんぶ後補部品。その形状や寸法から見て,楽器として機能させうるようなシロオノではないため,最近になってから,カタチだけ整えるためにへっつけられたものだろうことは明らか。

 手順は同じですが,基本的には「ハズす」「ハガす」というより「モギとる」ってのが正しい表現ですかな?
 木地を湿らせるとこまでは同じですが,これは接着剤を緩めるためでなく,木を軟らかくしといて,モギる際の被害を抑えるためですね。また,こういう最近の修理者は,だいたい前からあった接着痕を清掃もせず,そのままへッつけちゃってることが多いんで,そこに前のニカワの層が残っていれば,多少ヤバい接着剤が上に盛られても,下にあるニカワの層がしみこみを止めてくれてるはず&そこは水で濡らせばゆるむので,比較的安全にモギれてくれやがるだろう,という算段があります。

 結果----山口(? トップナット)とフレットはこちらの想定通りにモギれてくれましたが,糸倉てっぺんのゴッコさんだけはビクともしやがってくれません。
 なんかコレ,ほかと違う,もっと凶悪な接着剤が使われたみたいですね。頼母木さんの下地の工作が精確すぎたせいもあり,これがもーばっちり密着・極悪接着されちゃってます。おまけにこのゴッコさん自体がなんかユルい染料で染められてるようで,濡らしたら脱脂綿に赤い汁が滲んできました。
 こりゃ通常の方法だと,下地が緩むまでに相当かかりそうです。この糸倉部分は,この手の弦楽器にとって重要ななしょですからね----方針を変えましょう。
 いったん乾かしてから,ぶッた斬ることにします。

 ごとん----
  へへ…へ。
  やったぜ,やっちまったぁ……


 うんむ,裏面に紐を通すようなクボミがありますね。
 もとは帯留か根付でしょうか。
 彫りからして,これ自体は古いものっぽいんで,犯人は古物屋かながっでむ。

 表板にじゃまものがなくなったところで,さらに分解を進めてゆきます。

 といっても今回の楽器,胴体の輪になった主構造部分は頑丈健全なので,基本的に表裏の板をハガしたところで終わりですね。表裏板とも接着の浮いているところ剥がれているところから刃物を入れて回してゆきます。
 ペリペリパリパリ,キモチ良いくらいハガれてきますねえ。表板は虫食いのところから割れちゃいましたが,このくらいは想定内。

 ハイ!表板剥けました!
 まずは概況ですね-----埃はある程度入ってますが,表面的なヨゴレのわりには,やはり少なめです。
 墨書の類はナシ。接合部や,内桁の孔をあけたところの周囲に番号・指示記号や線みたいなものはありますが,特に文章になっているような書き入れはありませんね。「浅草の観音様の下にこの世のすべてを隠してきた。」みたいなメッセージでもあったら良かったのに(w)----指示線はぜんぶ墨書きです。

 側板は薄めで4枚とも均等に形が揃ってますし,音孔なんかも指示線内きっちり同じようなカタチで貫いてあります。
 数打ちの楽器では手抜きされることの多い内部構造ですが,各部ともに仕事が丁寧ですね。
 響き線は楽器垂直方向の中心あたりから,下桁ギリギリのあたりまで,ごく浅いカーブを描いて伸びています。線が若干太めな気もしますが,このあたりは二記山田の楽器でも同じです。
 響き線の基部は小さな花梨か紫檀の角材。大きさは 11x15xh.15 くらい。側板の内壁に,かなりの量のニカワでがっちり接着してあります。響き線自体の固定は基部に穿った孔に直挿し。とはいえ,たぶん先端を潰すかして突っ込んであるんだと思います。しっかりと固定されていますね。後代の月琴だと,ここは大きめの孔を穿って線を挿し,四角釘や竹釘を添え打ちして止めていることが多いんですが,これにそういうものは見当たりませんね。

 線の長さや基部の取付け位置は,山形屋や柏葉堂等ほかの関東の作家とあまり変わりありませんが,ほかは上画像のように,弓なりになっているのがふつうで,この清琴斎のような中途半端な曲がりのものはほかで見たことがありません。直線・曲線ともにメリット・デメリットがあり,その形状でそれぞれの作家さんの目指す「音」が見えてくるところですが,正直このていどの曲がりなら,いッそ石田不識や鶴寿堂のように直線を斜めに挿したほうが加工や調整もラクだし,効果も高いんじゃないかとは庵主個人的に思います。

----といったところで,今回はここまで。

(つづく)


月琴WS@亀戸!2024年11月!!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2024年 月琴WS@亀戸!11月!!!


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 ろうどうに感謝するWS のお知らせ-*


   起てバンコクのろうどう者。

 2024年,11月の月琴WS@亀戸は,きんろう感謝の日・23日(土)の開催予定です。


 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼さがりのゆるゆる開催。
 美味しい飲み物・ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 特にやりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の基本的な取扱いから楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。個別指導・相談事は,早めの時間帯のほうが空いてて Good です。あと修理楽器持込む場合は,事前にご連絡いただけるとサイワイ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!


 「65号の修理は…"順調"。」
 佐官:「はぁ?」
 庵主:「"順調",だ。上には "順調",とだけ報告しておけ!…シベリアで凍ったピロシキを食べたくなければな。」

 ----というほどには苦戦してません。メンテと魔改造のため64号ちゃんが帰ってきてます。同時進行中です。



月琴WS@亀戸!2024年10月!!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2024年 月琴WS@亀戸!10月!!!


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 かんなづきWS のお知らせ-*


   2024年,10月の月琴WS@亀戸は,菊花賞前日・19日(土)の開催予定です。

 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼さがりのゆるゆる開催。
 美味しい飲み物・ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 特にやりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の基本的な取扱いから楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。個別指導・相談事は,早めの時間帯のほうが空いてて Good です。あと修理楽器持込む場合は,事前にご連絡いただけるとサイワイ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!


 夏休みのしくだいを提出にむけてまとめちゅう。

 データ入力した清楽譜とか,復元した曲とか,古い関連資料の現代語訳とか。
 そのほか,春に落札した65号・清琴斎初記の調査計測も開始。

 稼ぎ仕事もあるんで,修理に入れるのは何時になることかですが,まあ気長に情報お待ちください。


月琴WS@亀戸2024年9月ぅ!!!

202409.txt
斗酒庵 WS告知 の巻2024年 月琴WS@亀戸!9月!!


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 帰還場所 のお知らせ-*


   2024年,はずかしながら、内地に帰ってまいりましたあー9月の月琴WS@亀戸は,28日(土)の開催予定です。

 1ト月半、北の大地で次々と襲いくるなぞの人食い植物や、可愛らしい容貌で油断させて脳漿を啜ってくる人食いシマエナガと闘っておりました。自然は、敵だ!!(庭仕事、ともいう)
 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼さがりのとろとろ開催。
 美味しい飲み物・ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 特にやりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の基本的な取扱いから楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。個別指導・相談事は,早めの時間帯のほうが空いてて Good です。あと修理楽器持込む場合は,事前にご連絡いただけるとサイワイ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

月琴WS@亀戸!2024年7月!!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2024年 月琴WS@亀戸!7月!!!


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 草刈り帰省直前最後のWS のお知らせ-*


   2024年,7月の月琴WS@亀戸は20日(土)の開催予定です。

 例年どおり実家の草刈りのため1ト月ほど帰省いたしますので,8月のWSはお休みさせていただきます。夏休み前,最後のWS。どうぞふるってご参加ください!

 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼さがりのゆるゆる開催。
 美味しい飲み物・ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 特にやりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の基本的な取扱いから楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。個別指導・相談事は,早めの時間帯のほうが空いてて Good です。あと修理楽器持込む場合は,事前にご連絡いただけるとサイワイ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!


 ウサ琴EX3,かんぜんに完成いたしました。

 すでに一度イベントで使い,6月のWSに持っていきましたが,いまのとこ好評価。
 楽器としては,清楽月琴に2枚フレットを足しただけのシロモノですが,修理や研究・実験で得たデータや知識を下敷きに,最上の設定と,清楽月琴には訪れなかった「もしもの未来」を詰め込んだ楽器です。

 3面のうち2面,B号「芙蓉」とC号「逍遥」は,お嫁入り先ぜっさん募集中!!
 *6月30日「芙蓉」ちゃんお嫁に行きましたあ!
 *7月7日,七夕の日に「逍遥」さんお嫁入り。
  うれしいけど,すこしサミしいですねえ……
  WSには相棒の「扶桑」さんを持って行きまあす。

 よろしかったら,ぜひWSで触って試してやってください。


ウサ琴EX3 (終)

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斗酒庵 ことしもウサ琴づくり の巻2023.10~ ウサ琴EX3 (7)

STEP8 ダザイさんとアンゴくんに逢ってきたウサ琴

 さあて,間に修理やらなんにゃら入ったのもありますが,すでに最長,半年以上の時間がかかっている,ウサ琴EX3の製作です。
 まあ今回はいままでのウサ琴の「量産するための工作」を知るためとは真逆に,「どれだけ丁寧にやったらどんなふうになるか?」の実験もコミてますので,時間がかかるのは織り込み済みとして----染めにも塗りにも,いつも以上に時間をかけてやっております。

 以前なら数日でぶッとばしてた染めや塗りの作業を,より上質な方法で。一週間以上もかけてやっとるわけですが。作業自体は極端にじみ~で単調。
 棹と胴体はスオウ染め,ミョウバン媒染,オハグロで重ね染め,と,ここまではいつも通りですが,乾性油で固着させたあと,塗膜の薄い拭き漆風の塗装で仕上げるあたりが違ってきます。

 もともと楽器表面の塗装は木部の保護のためのもので,どっちかというと音には邪魔な部分ですからね,薄いに越したことはないのですが。

 「拭き漆」っていうのは,ギターのフレンチポリッシュ同様「なかなか先に進まない」塗装技法の代表格みたいなもんですから。庵主,セッカチーナなんで,心のなかのアバレる君を押さえつけるのがタイヘンでしたよ。

 三月弥生に染め初め,塗装作業は皐月五月にようやく完了。
 6月に入って,ようやく組立てまで到達いたしました。

 山口はずいぶん前に出来てはいたんですが,けっきょくツゲで作り直しに----先に作ってたトチの,染めがうまくいきませんで。

 フレットは白竹。
 A号はアーチトップが少し遠慮気味だったので,全体にやや高め(といっても,清楽月琴の基準だとかなり低い)となりましたが,ほか2面は高音域がこれでもかってぐらい低めですね。もともとそうなるように作ってはいるのですが,あらためて工作する段階になると,現物合わせで削りながら「ホントに大丈夫か,コレ?」って思いましたね----最終フレットなんてなんてツマヨウジより細くなっちゃってますもん。

 月琴の場合は,このフレットの高低差にも,操作性や音色上の理由があるので,低音域はその効果がちゃんと発揮できるくらいじゅうぶん高くなってなくっちゃなりませんし,面板上の高音域は音の邪魔にならないようなるべく低くなってなきゃなりません。かといって弦高を無視して,むやみに高くしたり低くしたりすることもできないわけで----庵主がここまでしつこくやってきた,棹取付けの鬼調整が,ここでようやくその意味と真価を発揮するわけです。

 フレットが取付けられた段階で,楽器として機能する部分は完成。
 まだお飾りとかも付いてませんが,お外で思いっきり音出し試奏(燃料付き)で問題点を洗い出し,細かい微調整を重ねてゆきます。糸を張り,時間がたつとまた,わずかですが変化がありますからね。

 さて,何度か書いてますが。
 庵主は古物の清楽月琴のように,音の邪魔にしかならないお飾り類を,これでもかと満艦飾でへっつけるのには反対です。庵主にとってあくまで「楽器」は音を出すための道具です。鉋をスワロフスキーでデコったり,ノコギリをレースで飾っても,あんまり意味はないですな。
 しかしながら,そうであると同時に----楽器には装飾がつきものです。
 それは人間がそこに単なる「道具」以上の「美しいものを生み出すモノ」としての付加価値や,神事のような不思議な力を見出してきたからでもありますね。
 まあ唐渡りの古い清楽月琴の場合は,「東洋の蛮族に少しでも高く売りつけよう」と,キラキラにデコってた面のほうが大きかったみたいですが。(w)
 とまあ,無駄なお飾りを付けるのは反対ですが,日本の「清楽月琴」には飾りがつきもの,として作られてきたことと,なにより庵主自身が,じつは「月琴のお飾りを作るのがダイスキ」という厄介な矛盾から,今回も必要最低限なお飾りが付くもようです,ハイ。

 胴上につくのはニラミと扇飾り。胴表面板の左右に付けられる板飾りと,5・6フレット間の扇型の飾りですね。
 だいたいですね。楽器として音を出す上である意味いちばん重要な「共鳴板」の上に,その振動を邪魔するようなモノをわざわざへっつけるのですから,これを最初にやった奴は頭がどうかしてるんじゃないかと思います。

 しかも古物の月琴の高級品では,これが黒檀やら紫檀と言った高級木材で作られてたりもしてます----あたりまえのことながら,軟らかい桐板(しかもこのシリーズのはかなり薄い)の上にそんな大仰なモンへっつけたら影響が出ますし,さらに今回のEXシリーズでは,その下の板がふつうの半分の厚みになっているので,影響がデカいのです。

 そうした悪影響を最小にとどめるため,まず材料は表面板と同材の桐板で作ることにします。そういえば,唐物の量産品なんかは,けっこう桐で作ってましたね。染めが無駄に上手く,剥がすまで唐木だと思ってたケースが何度もありました。今回はアレの究極を目指しましょう。

 材料は表裏板の余り材をさらに削って,薄々にしてます。
 ただでさえ桐は軟らかく木理も荒いので,そのままでは繊細な彫刻に向きません。しかも極薄----これだとアートナイフの刃でも,お祭りのカタヌキなみにすぐパッキリ逝ッちゃいますねえ。

 そこで,これを樹脂で固めます----もちろん,ガチガチに固めちゃうと意味がないので,その時の彫る削るの細工が可能なくらいに固めながらの作業です。ただ,いちど樹脂を染ますと,硬化するまで一晩は次の作業が出来ないので,これもまたエラい時間を食う作業になりました。

 ちな,ウサ琴では弾ける音楽の幅を広げるため,清楽月琴よりフレットを2枚足してるのですが。そのうち高音のFにあたるフレットが,ちょうどこの扇飾りの付くとこに入るものですから,元と同じ場所に同様のお飾りを付けるのには,デザイン上の工夫がちょっと必要になります。前回の製作(EX2)で作った,コウモリ型のお飾りがたいへんうまく行ったので,今回もコレでいきますね。


 今回のウサ琴はウサ琴のきゅうーきょくを目指すもの----ですので,真名である「玉兎琴」にちなんで,はじめて「玉兎(ぎょくと)」を彫りました。月に棲むウサギ,西王母の眷属にして,不老不死の仙薬を搗いてるという,ワーカーウサギたちですね。

 うん?----じつは「はじめて」なんですよ。
 過去のシリーズではずっとこういう「波跳びウサギ」でしたからね。

 だってほら,「玉兎琴」に「玉兎」を付けるなんて,いくらなんでもなんかベタ過ぎじゃないですか。(www)
 でも今回はベタでいいんです。まあけっきょく「究極」とか「至高」ってのはたいがい,そんな「ベタ」を突っ切ったさらに先に転がってるもンですからね。

 画像はほぼ完成時の作業中。
 ぐうぜんなんですが----うん,なんか絵面的にきわめてファンタジー(w)

 カタチが出来たら半月同様スオウ染めの後,黒ベンガラでちょっとシマシマを描きこんでから,黒染めしてゆきます。

 裏面には染めの滲み出し防止と割れ防止のため,薄い和紙を貼り,表面は仕上げにラックニスをタンポ塗り。塗膜は作らず,染めを固着させるていどですね。

 最後に蓮頭を作って取付け,完成です!
 今回の蓮頭は,半月と対で意味を成すような絵柄にしてゆきます。中二病とカンブン屋お得意のイヤミ満開でね!!

 A号,半月は「扶桑樹」なんで,銘はまんま「扶桑」。蓮頭は「月桂樹」です。月に生えてる不死の木で,横に赤い糸持ったキコリが一人と,根元にカエルが棲んでます。地上と天空の世界樹(ユグドラジル)そろい踏みですね。添詩に曰く:

 俯して滄浪を視れば,足を濯ぐに堪え
 遥か扶桑を看れば,日の浴するが観ゆ


 視・看・観,ぜんぶ「みる」で,ぜんぶ違う----面白いですよね。
 俯瞰として見れば,半月のある一番下が地表,ってことになりますね。
 とすると片方の鳥はいままさに帰ってきたとこ,これからお風呂に入って葉っぱの上で眠るんでしょう。もう片方は次の準備。扶桑樹の向こうに月がのぼってるわけだ。ふぁんたじーですなあ。

 B号,半月は「牡丹」,蓮頭は「荷花」,銘は「芙蓉」。この名前はフヨウのほかに色んな花を意味します。蓮花は「水芙蓉」とも言いますし,牡丹とよく取り合わされますね。そういえば,伝統意匠だとハスとボタンとフヨウの区別がつかないことがあるんですよ。花の部分だけだと特にそう,葉っぱが付くと分かるんですけどね~。添詩は:

 天に接するの蓮葉,碧きこと窮まり無く
 日に映ずるの荷花,別樣に紅なり

 木目と染めの関係で,蓮頭のちょうど花の部分,下地の赤がほのかに透けて,偶然ですが,添詩のとおりになっちゃいましたよ。

 C号,半月は「海上楼閣」,蓮頭は「秋草胡蝶図」。この1面だけ,銘ふくめてテーマが判じ物になってます----銘は「逍遥」。蜃気楼,月の影の見立てであるウサギ,そして花間を舞うチョウチョ,ぜんぶ同じ漢字一文字で表現できるものになってますよ。添詩に曰く:

 知らず鐘鼓の天明を報ずるを
 夢裏栩然として蝴蝶たり
 一身輕ろし

 それぞれの添詩は,ラベルにして裏板に貼りつけてあります。各添詩の全文とか作者や意味は,ググってがんばって調べましょう。

 今回の製作は,月琴の修理とウサ琴シリーズの実験で培った技術と知識の集大成でもありますが,もひとつの当初からの目的が,庵主自身の使う楽器を作ること,でもありました。

 現在,ギグ用として使っている楽器には,古物の清楽月琴のほかエレキのカメ琴もありますが,このカメ琴同じ操作感でアコースティックな楽器も持っておきたいとこでしたので。なにせカメ琴・ウサ琴は清楽月琴より2枚フレットが多いんですが,このおかげで高音のFとBbがかんたんに出せる----それだけのことでも,やッぱずいぶんラクなんですよ~。

 しばらく弾きくらべた結果,庵主は自分の道具としてA号「扶桑」を撰びました。

 3面のうち常にこれが最初に作業に入るものですから,ほか2面と比べると,工作的に少し甘いところもあるのですが…逆に言うと,最初に作業するぶん,汎用性を考えず,とりあえずはもっとも手近な基準となる,自分の手に合わせて加工しちゃってますからね,出来上がりがやや固有寄りになるのは仕方のないことかと。まあ,たぶんそういう差は,作った本人くらいしか分からんレベルかとは思いますが。
 さらに言うなら,カメ琴,装飾が「饕餮紋」なんですが,3面のうち,これだけお飾りの意匠が,同じように古代の伝説モチーフになってます----とーたるこーでねいと,ってやつ?

 B号「芙蓉」とC号「逍遥」は,嫁入り先ぜっさん募集中です!

 *2024年7月7日,B号「芙蓉」C号「逍遥」,ともにお嫁入りいたしましたあ!

 それぞれ目指したところの違いから,操作性や音の差が若干ありますが,じゅうぶん実用に耐える出来になっていますよ。

 Bのほうがやや低音強く,響きにうねりがあります。
 響き線のセッティングを表板ギリにしてあるので,余韻がこう,すごいんですね。そのためもあって,3面のなかでは線鳴りしやすいほうですが,古物の清楽月琴みたいに演奏中に,ってことはまずないでしょうね。音のきゅーきょくを極めた感じ。

 CはA・Bより,少し明るい音かな。
 ほか2面より棹と糸倉を2ミリほど幅広に作ってますので,糸周りの操作性がかなり良いです。汎用性と操作性に特化したぶん,クセがあまりないですね。そのあたりは逆に好き嫌いが分かれるとこかも。

 胴体の主材料である輪っかがもう入手できないので,20年近く作ってきたウサ琴シリーズも,今回のがほぼラストクロップですよ~。

 お問い合わせはメールでも受け付けております。
(メアドは当ブログのWS@亀戸の記事中,もしくは拙HP「斗酒庵茶房」トップページ最下参照)
 来月のWSにも持って行きます。夏帰省前の最終チャンス,試してみたいかたはどぞどぞ~。

(おしまい)


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