「月琴掛け」を作ろう!

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斗酒庵夏にかける! の巻2020.7 「月琴掛け」 を作ろう!

STEP1 HOOK or RACK

 さて,みなさんはふだん部屋の中で,月琴をどのようにして置いているでしょうか?

 琵琶なんかは 「琵琶掛け」 にかけて床の間に置いたりしますね。お箏なら油単に包んで壁にたてかけておくところかな。ギターはギグではスタンドにかけたりしますが,ふだんは…ケースに入れて戸棚の上とかですか。
 琵琶は床の間でもいいんですが,月琴の場合,床置きはあまりお勧めしません。弾くときは川岸とか池の傍とか,比較的湿気のあるところが好きな楽器ではありますが,部材が琵琶よりヤワなんで地面に近いところに置いたままだと湿気を吸い過ぎちゃうんですよ。
 まあ床に置いてあるとつい蹴飛ばしちゃったり,おヌコさまに爪研がれたりもしかねませんしね。
 軽い楽器なんで蹴飛ばしたら飛んでゆきますヨ?ヌコパンチでも穴あきますからね?(www)

 ほかの楽器と同じように,長期弾かないような場合には,桐箱みたいなケースにつめて保管するが最善ですが,日常しょっちゅう手にしてるような場合には,柱や鴨居からぶる下げておくのが,月琴の場合いちばんヨイ保管方法です。
 糸倉に飾り紐をつけてある方なら,それをどっかにひっかけてもいいでしょうし。袋に詰めてあるなら,お部屋にある衣類をかけておくハンガーなんかに,コートと並べてぶるさげておいても構いませんが。いつでもぱッと手に取ってちゃッと弾きたい----というムキには,紐も袋もけっこうわずらわしいものです。

 ということで,今回はそういう人向けの お手軽な月琴専用ハンガー,「月琴掛け」を作ってみましょう。

 これは糸巻のところでひっかけるだけなので,まさにぱッと取ってちゃッと弾けますからね。
 鴨居に懸けるタイプなので,「鴨居」のない未来風のお家や呪われた洋館だとちょと困るかもしれませんが。その場合も壁とか戸棚の上とかに,ちょっとした引っ掛かりになる板でも取付ければ使用可かと。

 まずは材料。

 10センチ四方の大きさ板が一枚,あとコンビニの竹割箸が1本(ふつうの木の割箸でも可)。
 そのほかは接着剤----ええ,楽器本体に使うわけじゃないので,木工ボンドでも瞬間接着剤でもかまいませんよ。

 庵主は部屋に転がってた松の板を使いましたが,まあ基本的にはベニヤだろうがアクリルだろがMDFだろが構わんと思います。楽器がヘビー級の総唐木とかじゃなく,恒久的なものじゃなくて良いのなら,丈夫な厚紙とか段ボールなんかでもイケるかと…まあそれで楽器が落っこっても責任は持てませんが。(^_^;)

 木取りはこんな感じ。

 赤い部分は切り抜いて捨てる箇所です。
 庵主みたいにこういう部分が捨てられなくなる病気(端材捨てられない病)にかからないよう,切り取ったら目をつぶってゴミ箱へ!

 フックの部分の薄い②の板が右,分厚い①の板が左。③が左右をつなぐ支えになります。

 月琴の糸巻には左右で2~2.5センチほどの段差があるので,フックの部分が左右対称じゃないんですね。
 よほどサイズが異常だったり糸倉の形が変わってるもの以外は,だいたいこれで間に合うと思います。
 これを板に写して,糸鋸やカッターで切り抜きます。

 板を切り抜くときは,真ん中の空間を先に貫いてからやると失敗が少ないですね。フックのあたりは曲線が多いので,最初にいくつか糸鋸の刃の入るぐらいの孔を穿っておいたほうがいいですよ。

 3枚そろったら,まずは③の「支え板」を加工します。
 真ん中を 4.5センチあけて,左右を一段削り下げ,①②の板のフックの根元にあるくぼみにうまくはまるように加工します。
 つぎに①②の板の鴨居にひっかけるところに3ミリくらいの孔をあけておきます。ここにはあとで割箸の支えを入れますよ。

 ここまでやったら各部材を整形。
 軽く木口や表裏をペーパーがけします。楽器をお迎えするにあたり当るあたりは,特に角を少し丸めておきましょう----日本の伝統「おもてなし」の精神は大切ですよ(w)

 部品がキレイになったところで,接着剤をつけて組み立てます。
 形が崩れないように,固まるまでは支えを置いたり,洗濯バサミとかクランプで保定したりしときましょう。

 接着剤が固まったら,支え板のはみでた部分を切り落とし,竹割箸を切って頭のところに支えを入れます。

 まあ,素材と接着の強度によっては,この頭の部分の支えは別段なくて大丈夫とは思いますが,ヴィジュアル的にはついてたほうが何か構造的に安心できるって感じですか。(w)

 コンビニの竹割箸はいちばん太いところで径7ミリ,先っちょで5ミリくらいですので,3ミリの孔に入るよう,左右を凸に加工。設計図通りならここも,真ん中の幅は4.5センチになるハズですが。まあ人生,そう思ったとおりにはならないものですので,寸法は実物合わせで調整したほうがよろしい。
 左右の凸はあんまり長くすると入れられないので,これも適当に切り縮めてください。
 実際にハメてみて,いー感じにハマるのを確認したところで,凸先に接着剤を盛り,左右の板をちょっと広げるようにしながらインストール!

 ----できあがりです。

 あとは実際に楽器をぶるさげてみて,最後の調整をします。

 月琴の糸巻には上下の段差のほか,三日月形にカーブしてるため前後にも若干の距離があります。

 デフォルトのままですと,第2もしくは4軸が②のフックの先端にひっかかったとき,第1もしくは3軸は①のフックの平らなところをすべって,楽器は右がわがやや前面に出てくる感じで安定します。
 まあ落っこちることはそうナイので,そのままでもイイんですが。どこぞの酔っ払いみたいに傾いてぶるさがってるザマは,見ててなんかカッコ悪いですからね。
 もちろんはじめから,①のフックの部分を糸巻の前後の距離ぶん厚くして,第3軸が滑らないようにするのも手ではありますが,そうすると今度は楽器を外す時にちょっとひっかかっちゃうんですよ。
 傾きの原因である糸巻の前後の関係は,上下の関係に比べると個体差が大きいのと,糸倉自体の形状とも関係してヘタに設計をいぢるとかえってグアイが悪くなっちゃうようなので,下のいづれかをおためしください----

 やりかたA:①のフックの平らな部分を曲線に削る。
  ちょっと上級者向きですか。
  曲りのいちばん深くなってるとこに,糸巻が自然とおさまるように削ります。あんまり深く削るとこんどは②のフックのほうで糸巻が浮いちゃいますからね,ほどほどに。

 やりかたB(オススメ):①の平らな部分に浅い刻みを入れる。
  実際に楽器をぶるさげ,楽器がまっすぐになる時の糸巻の位置にシルシをつけ,そこに糸巻がひっかかるていどの浅い刻みを入れます。

 うん,ラクですね。これもAと同じで,あんまり深くキザみこんじゃいますと,左右のバランスが悪くなりますのでご注意。

 まあ,ここまでやらんでも。
 ¥100均で売ってる「二股ハンガー」 を改造しても,同じようなものは作れますんで,メンドくさがりと根性ナシはこちらをどうぞ。(w)

 画像のように,片側の先っぽのキャップのところにちょっと刻みを入れ,タコを糸張るだけで,見かけはちょいとアレですが,これでじゅうぶんモノノ役にはたちます。
 ちなみに,庵主のとこでは主にコレ使ってます。楽器が増えるたび,いちいち作るのメンドくさいし,根性もナイもので~(w)


(おわり)


楽器製作・名前はまだない(7)

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斗酒庵ひさびさの製作 の巻2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(7)

STEP7 腹黒い日曜日(代官屋敷にて)

 庵主が生まれて初めて作った楽器,というのがこの「ゴッタン阮咸」でした。
 材料は近所の工事現場で拾ってきた端材に,銘木屋でもらってきた唐木の端材少々。むかし古道具屋で見た壊れかけの骨董品の記憶と,当時はまだ数少なかった文献資料などから寸法等をでっちあげ,いろんなとこで見た職人技のごったまぜで組上げた清楽阮咸(中国では双清と言う)で,ほとんど建材で出来てるんで「ゴッタン」と。これが意外とうまくいってこれがいまにつながってるんでしょうなあ。
 そんなわけで----「阮咸」という名前の楽器は,庵主にとってある意味「ハジマリの楽器」なのですが,それからおよそ15年……こんど作ってるのも「阮咸」といえば「阮咸」,材料も建材ではないものの,まあ同じようなもので出来てるわけすがまた「ゴッタン阮咸」じゃあ区別がつきませんがな。はて,どうしたものか(w)

 というわけで新楽器。

 ほんとは棹が着脱式でなく,胴に組み付けだとか,表板以外は硬い木で出来てるとか,いろいろ材質や構造とかは異なりますが,今回の製作で目指すところは伝承上の「ハジマリの"月琴"」こと「阮咸」(清楽のじゃないほうの),いろんなことを調べたいですね。

 主目的は「弦制」,つまりどういう音の弦をどういうふうに組み合わせるかとどうなるか,ということと,「柱制」つまりフレットの位置によって音階がどうなるか,の関係などを知りたいわけですが。この二つは実のところ,「知るだけ」なら計算でほとんどどうにかなります。
 ピタゴラスさんはエラいので,開放の音と長さが分かれば,糸の質により若干の違いは出ますが,だいたい何センチ何ミリのところでどんな音が出るのか,は計算で知ることができるんですね----しかしそれはあくまでも「物理的な」糸と振動との関係性。

 Aという弦制でBという柱制の楽器を,Cという弦制に変えた時,「どういう(音的な)変化が起きるのか」ということが分かったらからと言って,その変更が「その楽器の弾き手にどういう影響を与えるのか」ということは,必ずしも分かりません。いえ,その「影響」の原因と理由は判然としているのですが,「変わった,だからどうなる?」のところは,実際に楽器を弾いてみないと分からないのです。
 Aという弦制でBという柱制の楽器が,Cという弦制に変わったことで,その楽器は「弾きやすくなった」かもしれませんし,その逆かもしれません。「新しい曲が弾けるようになった」反面「前弾けてた曲が弾けなく」なる可能性だってあります。

 前から言っているとおり,弦楽器が小さくなる理由は,基本的に携帯の便のためか,高音を必要とする場合のみで,「唐代からの阮咸」が「短い棹月琴」に変化した理由として一般的に言われている「速弾きのため」とかいうことはありえないのですが。それでも「速弾きのため小さくなった」と言いたいのなら,「唐代の阮咸」の柱制と弦制では「短い棹の月琴」より「速く弾けない」ということを,実験で証明すればよろしい。
 まあ,今回庵主が実験で「知りたいこと」ってのはそれだけじゃありませんが,とりまそういう類のことですね。


 ----ということで,さて仕上げとまいりましょう。
 前回,塗装が終わり,仮糸を張って耐久テストで終わった製作ですが,この後,庵主,1ト月実家に雪かきに行ってましたので,ちょっと間があきました。
 まあ,そのおかげで。
 長期間の耐久テストもクリア,生乾きだった塗料もしっかり乾きました。さあ,実験に向けて再開です。

 まず弦をいろいろと用意しました。
 基本は唐琵琶と同じく長唄用の細めの絹弦1セットに,二の糸だけ1~2番手太いのを1本ですが,未知の楽器なのでさらにいくつか違う番手の糸を買ってあります。一の糸も数本,買ってみましょう。
 ふだんはだいたい同じ番手の二の糸と三の糸しか使いませんからねえ。一の糸見るとなんか違和感が……(^_^;)

 調弦は4単弦C・Eb・G・C,琵琶の「清風調」,今わかる唐代阮咸の弦制です。深草アキさんのブログやら,林謙三先生の本やら参考に決定。一昨年,音律関係の漢文古書読みまくったんですが---なんせ庵主,音楽の勉強ナゾしたことない民俗学屋ですので---まあくそも役に立ちァしません。(w)もちろん正倉院なんかにある本物の唐代阮咸とは寸法も弦も違いますので,基音をCとして弦間の音の関係を変更しています。
 最初,指での計算を間違えて,CEGCにしちゃってたんですが…うむ,これだとかなりバタ臭い,ほとんどギターみたいな音の並びになりますね。2弦を短2度上げるとCFGC,これは唐琵琶の「正工調」の並びとなります。

 フレットを作ります。

 今回のフレットは庵主「はじまりの楽器」であるゴッタン阮咸と同じく,竹の板を2枚貼り合わせた分厚い竹フレットです。
 高さや幅を調整しながら棹にのせてゆきます。
 実験中なので,底にかるくニカワを塗っての仮止めです。
 ちょっと違う方向から力をかけるとポロポロはずれちゃいますが,実験としてふつうに演奏する上ではあまり問題はありません。
 フレットは13枚。フレット間の音の関係は

開放10111213
開放2律1律1律1律2律1律1律1律2律2律1律1律1律

 1律が短1度,開放弦を3Cとしたとき,1弦の音階は----

開放10111213
3C3D3Eb3E3F3G3G#3A3Bb4C4D4Eb4E4F

 となります。

 この柱制でフレットをならべると,左画像で見るように,唐琵琶と同じく,あいだのちょっと開いてる場所が2箇所できます。
 この部分が短2度離れているところで,ここを境に音域が,上隔・中隔・下隔という3つの領域に分かれてます。ベース音,中メロ,高音域,と用途別になってるみたいな感じで分かりやすいですね。上から下までが単純に1度刻みじゃないあたりが,いかにも古い東洋の楽器って感じかなあ。

 弾いた感じは----そう,音の並びはやはり琵琶に近いんですが。音の出てくる場所がかなり異質な感じがしますね。琵琶よりも上,棹の部分から余計に音が出てる感じがします。そのへんはお三味の太棹なんかに近いかもしれませんが,扱いは三味線よりもっとギター寄りですね。ただしこれは,構造をスパイクリュートとしたせいかもしれませんので,本物の阮咸もこうかは分かりません。
 もっと古臭い,弾きにくそうな印象があったんですが,意外とこれは……長モノの割りには弾きやすい楽器ですね。梨胴の琵琶に比べると,上から下まで腕の動きがほぼ直線的なため,身体のポジショニングも運指もラクです。とくに高音域で変に指の角度を気にしなくていいところがイイ。

 いやほんと,なんで廃れちゃったんだろ?

 ありそうなのは琵琶ほど音圧のある音が出せなかったからかな。
 本物は胴裏面が堅い木で表面のみ桐板ですので,これよりは音が前方に飛ぶでしょうが。胴内の共鳴空間はどっこいどっこいですんで,音量そのものは大して違いありますまい。弦にもっと太いのが張れると少しは違うかもしれませんが,それでも劇的な変化はない感じです。
 清楽月琴と同じく,単体や少構成の合奏ではいいんですが,大勢種々な楽器といっしょだと埋もれてしまいそうですね。

 ためしに1弦を番手かなり上の津軽三味線用のにしてみました……あ,これ,さすがに壊れますね,弾けるくらいのテンションで張ると。(w)
 ヤバげなのでヤメて,1・2弦を2~3番手あげてみましたがまあ,弦圧が変わるので弾き心地にやや違いは出ますが,やっぱりさしてそれほどナニは……それに太くするとチューニングがやや難しくなるくらいですか。C・Eb・G・Cの調弦を同じ関係で1度2度変えたほうがラクですね



(つづく)


楽器製作・名前はまだない(6)

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斗酒庵ひさびさの製作 の巻2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(6)

STEP6 そしてわたしは のぞむ それを 塗って まっくろけのけ

 「長い棹の月琴」 が「短い棹の月琴」になったとする説には,納得のゆかない点がいくつもあります。

 その最大の問題が「短い棹の月琴」にしかない 「響き線」 という構造です。

 いまのところベトナムや台湾の長い棹の月琴に,こうした構造が入っている,もしくは過去には入っていたという情報はありません。もちろん,正倉院の阮咸にも入ってませんし,韓国のウォルグムにもありません。
 ではなぜ----

 長い棹の月琴が短い棹の月琴になるに際し,
  「響き線」が入れられるようになったのか。

 日本で清楽器を作っていた人たちは,音楽におけるメインの楽器である月琴に仕込まれていたのだから,と琵琶から弦子から果ては洋琴(ピアノにあらず,短いお箏に金属弦を張った和製ダルシマー)にまで,何でもかんでもこの構造を仕込んでおりますが,オリジナルの中国琵琶や向こうで作られた双清(清楽で「阮咸」と呼ばれた長棹八角胴の楽器)にこの構造はありません。*

 中国の楽器の研究書などには 「(短い棹の)月琴には響き線が入っている」 といったような説明しかありません。それはあたかも,どの楽器にでもある普通のことみたいに書かれているのですが,実際にいろいろ調べてみますと,中国の楽器でこの構造を有していると確実に分かるものは,ほぼこの「(短い棹の)月琴」だけということになります。

 同じ「月琴」という名前の楽器でも,古い輸入品の月琴と国産の清楽月琴にしかないもの----それがこれら表板に貼られた薄板や凍石製の飾りと,この響き線。

 「長い棹の月琴」が「短い棹の月琴」を産んだとするのなら,そこには必ず,この二つの起源と理由がなければならないのです。

 *ベトナムの琵琶---ダン・ティパの覆手(テールピース)の接合には接着剤のほかやや長めの鉄釘が用いられており,釘の先端が胴内部に出ていて,共鳴音にわずかな金属味を与えている。また弦子(中国蛇皮線)の皮のいちばん端の部分は,胴をぐるりと巻いた真鍮線によって止められている。この線もまた,主なる目的は胴皮の固定であるが,月琴の「響胆(響き線)」のように弦音に金属的な余韻効果を与える部品ともなっている。同様の例はほかにもないではないが,月琴の響き線のような,余韻効果のための独立した構造を持つ例はほぼ見当たらない。



 さて,製作です。

 黒よりも黒く,闇よりも深き漆黒に,
    我が真紅の混淆を臨みたまふ----

 むかし,染めの人が言ってたのですが。
 黒く「塗った」ものと黒く「染めた」ものの色味の差異は,
 「壁」と「闇」の違いなのだとか………

 「向こうの無い」黒さ と「向こうのある」黒さ,とでも言いましょうか----分かるような分からないような。(w)
 我らが闇をのぞきこむとき,闇もまた我らをのぞいておるのですな。

 いちど真っ赤に染めた楽器に,黒ベンガラを塗ります。

 ベンガラは隠蔽性の高い----すなわち下地を覆い隠して見えなくできる----塗料です。
 国産月琴ではけっこう使われていますね。
 高価な楽器は,なにか塗ってあってもまあ生漆をさっとていどで,木地が見えてるのがふつうですが,特に安価な楽器では,その「隠蔽性」を利用して,材料や工作の粗を隠すため,こんなふうにどばちゃとばかり塗ったくられていることがあります。
 実際こうして塗ってみると分かるように,表面はべったらとして艶もなく,いかにも「安物」っぽい感じに仕上がります。しかしこの塗料,もともと漆塗りなどで,貴重なウルシを節約する目的でも使われていたわけで。使い方次第ではいくらでも高級っぽい感じに仕上げることが可能です。

 ベンガラはあらかじめエタノールで溶いてしばらくなじませ,使う寸前で柿渋で溶いて塗りあげます。

 このままベンガラ塗りで仕上げたい場合は,ベンガラが乾いた上から柿渋と亜麻仁油などの乾性油を塗り重ねますが,今回は乾いたところで,糸倉や基部の部分をのぞき,布で擦ってほとんど落としてしまいます。
 「落とす」と言っても,服なんかに着いたらちょっとやそっとじゃ落ちないくらい頑固な塗料ですんで。けっこう拭いても,棹の表面には薄くまんべんなくベンガラがかかっております。糸倉と棹基部のあたりを残したのは,異材を継いでますので,その継ぎ目を隠すためですね。
 ベンガラの上から,こんどはオハグロをかけてゆきます。
 スオウの上から直接オハグロをかけても反応がイマイチなんですが,いちどベンガラをかけて落としてからだと,かなり染まりがいいのですよ。
 何度か塗り重ねてゆくうちに,ベンガラとスオウ,オハグロとスオウが再び反応し,これによって,ベンガラの「塗り」の黒が,より「染め」の黒に近い,木地の透けた奥のある黒になってまいります。

 染まったところで木地を軽く整えて,上塗りに入ります。
 「黒」を使わない「黒塗り」…ってのも不思議なものですが。ここで塗るのはカシューの「透(すき)」ですね。

 下塗りをしっかり乾かして固め,中塗りをなんどか重ねて,中砥ぎ,上塗り,仕上げ磨き。

 棹頭の飾りと半月も磨いて,胴の表裏板はヤシャブシで染めます。

 出来てきましたねえ。

 山口(トップナット)はツゲ。糸を張って半月を接着する位置を探ります。有効弦長は651と決まってますが,棹が細くて長いので左右のバランスとるのがけっこうタイヘンですね。なんせ今回は2弦でも3弦でも4弦でも,いちおう弾けるようにせにゃなりませんし。

 半月がついたところで,とりあえず手元にある糸を張って耐久テスト。
 一見丸胴の箱三味線ですが,弦高が高いのでまだ開放弦しか音は出せませぬよ,おほほほほ。

(つづく)


楽器製作・名前はまだない(5)

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斗酒庵ひさびさの製作 の巻2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(5)

STEP5 わたしは 見ます ひとつの 赤い とびらを


 長棹の台湾月琴に現在統一された規格はなく,寸法は作家により微妙に異なっているようですが,だいたいは----

 全長:850~900
 胴径:360~400,多くは370前後
 棹長:500±30
 有効弦長:650±20

 といったあたりなようです。

 まあ清楽月琴などもっとバラバラで,個体によって全長や有効弦長が4~5センチ違ってたりしますからね,よそさまのことはとやこう言えぬ。(w)

 徳川美術館所蔵の御座楽(琉球の古い宮廷音楽)の月琴は,全長820,胴径400,棹の長さは420,有効弦長は510で,有効弦長をのぞけば外見上の寸法は,この台湾の月琴に近いのですが,棹と胴体のバランスから見ると,清楽月琴のほうにいくぶん近い----中間的な楽器ですね。

 ただ御座楽の月琴がずっとこういう姿だったかというと,若干疑問があります。現に「座楽並躍りの図」(沖縄県立博物館蔵)の絵巻に見える月琴は4弦なところは同じなものの,琴頭が現在の台湾やベトナム月琴と同様,三味線のような海老尾型となっていますし,天保時代に描かれた琉球楽器図の月琴も,棹が長く琴頭も海老尾型。琉球関連の資料の絵図で見られる「月琴」には現存南方の長棹月琴の姿に近いものしか見られません。

 このシリーズの第2回で紹介した「丐弾双韻」が,長870,棹360(おそらく糸倉琴頭ふくめず),胴径351,胴厚55,有効弦長551。有効弦長からすると,台湾月琴と徳川美術館の御座楽の月琴の中間くらいですが,図で見る限り,この楽器の糸倉と琴頭の形状は徳川美術館の御座楽の月琴と同じです。もしかするとこれ自体が本来は「丐弾双韻」として作られた楽器だったのかもしれませんね。

 徳川美術館の「月琴」に響き線が仕込まれているかどうかは分かりませんが,荻生徂徠が見たという琉球使節の楽器には,「琵琶に似ていて,茶筒を横に切ったような丸い胴体で,胴の中に仕掛けがあり振ると金属の音がする」というものがあったようです(『琉球聘使記』宝永7=1710)。

 残念ながら寸法などについては描写がないため,これが長棹タイプであったのか短い棹の清楽月琴タイプの楽器であったのかについては判然としません。

 これらのことから考えて,御座楽で「月琴」として使用された楽器には,実際にはいろいろな種類のものがあったと推測されます。
 また,琉球使節招来の楽器については,唐渡りのものであった可能性も,唐渡りのものを模して当地で作られたものである可能性もありますから,そこで何らかのアレンジが加えられたかもしれませんし,琉球オリジナルの楽器であった可能性もないではありません。
 こうした長棹円胴4弦の楽器が,そのまま中国南方を含む地域で当時流行っていたものかどうか。またこれらが,今の台湾月琴や清楽月琴を含む「短い棹の月琴」に直接つながってゆく楽器なのかどうかについては,まだいまひとつ調べが足りませんが,ともかく,長崎ルートで清楽月琴が流行る以前の「月琴」には,長棹のものも含まれていたことは間違いないようです。


 さて製作です。

 裏板がついて胴体が箱になりました----まあ,エレキ仕様なんで穴だらけですけどね(w)
 まずは周縁を削ってキレイにしましょう。

 裏蓋のふちも,テープで蓋を仮止めして,いっしょに削ってしまいます。
 表板は厚みを落としましたが,裏板はそのままでいきますよ。

 次にやることは棹孔の補強。
 側面の材エコウッドの原材料はスプルース。ギターの表板なんかに使われる木ですので,音響特性とかは問題ないものの針葉樹材です。内部に1センチちょい厚みのあるネックブロックが付けられていますので,強度的な面では問題がないんですが。表裏板の桐と同じで表面が柔らかめなので,糸を張り続けてると接合面が圧縮されて棹が微妙に傾く可能性も考えられます。

 棹孔の周りにブナの突板を貼りました。

 そういえば同じ工作----以前,ウサ琴シリーズでもやったことがありましたね,なつかしい。
 あの時の製作実験は,同一の胴体に対して複数の違う種類で作られた棹を挿し,その音質等の変化を探るというもの。一つの胴体で何度も棹を抜いたり挿したりする必要があったので,棹孔のまわりを補強したのでした。
 同じような補強工作は,ベトナムの長棹月琴でも見られます。あちらは台湾月琴よりもさらに棹が長いですからね。ここにかかる弦圧もけっこうなものだからでしょう。

 ほぼ同時の作業として棹の染めも開始。
 まずは赤染め。

 いつものようにスオウを刷いてミョウバン媒染----なんですが。
 今回は棹本体が米ツガ。
 染まり自体は悪くないんですが,染めの作業による退けがすごくて…染液塗ってから乾かすと,せっかくツルツルにした表面がでっこぼこになってしまいます。
 これを防止するため,ニ三度下染めをしたところで,サンディング・シーラーを塗って磨き,染液の吸いを抑制しました。

 シーラー塗ってもちゃんと染まりますからね。
 もちろん,塗る前より染液の浸透は悪くなりますが,これで表面の退けもほとんどなくなりました。
 これで,たださえ細い棹を,色付けのためにさらに削るようなことは避けられたわけです。

 胴のほうも----側面はスプルースですからね。
 同じような加工が必要でしょう。
 こちらはもう染める前にシーラーを塗布しちゃいました。

 今回はいつものウサ琴シリーズのように竜骨(内部から側面形状を支える構造)を仕込んでいないので,染めの作業で胴側が歪んだりしたらタイヘンですし。

 さて,棹も胴もまっかっか。
 剣をとっては日本一か,3倍速い赤い人のザクのようになりました。
 このままでも悪くはないのですが,今回はこれを----


 ----黒く塗れ!


(つづく)


楽器製作・名前はまだない(4)

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斗酒庵ひさびさの製作 の巻2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(4)

STEP4 裏(板)に命を賭ける男

 そもそも,唐代の古い「阮咸」は,四川省の墓地から出土した青銅で出来た楽器を木で作り直したもの,とされています----

 もちろん晋の時代の音楽家である阮咸が弾いていた楽器というのはこじつけですし,だいたいが四川省に阮咸さんが行って弾いていたわけも証拠もありません。それ以前にあった「秦漢子」という似た楽器がこれと同じものだ,という説もずいぶんと見るのですが,肝心の「秦漢子」という楽器自体がどういうものであったのか,の部分が,たいへんアヤフヤで話にもなりません。

 中国の西南地方などで阮咸に似た,長い棹で丸い胴で4本弦の楽器が古い壁画になっていたり,古いお墓の装飾レンガに刻まれているのが見つかったりしていますから,四川省をふくむそうした地方にそういう楽器が古くから存在していたことは確かだろうとは思いますが,いまのところそうした古い楽器の実物そのものが,スッポンと遺跡から出土してきてもいませんし,絵や模様からだけではもちろん,その詳細は分かっていません。

 たとえばそれが琵琶や阮咸のように 「4単弦」 の楽器であったのか。
 あるいは清楽月琴や八角胴の「阮咸」(双清)のように 「4弦2コース」 の複弦楽器であったのかさえもです。

 いまたとえば,唐の時代にあったように,どこかのお墓から大昔の楽器を模した祭器が出てきたとしましょう。

 史書には「青銅で出来た楽器」というようには書かれていますが,それが演奏可能なものであったとか,誰かが弾いてみた,とは書かれていません。
 そもそもお墓にお供えされた副葬品ですからね----しょせんは装飾品です。 細かな形状も弦やフレットの配置も,どこまで正確であったかは疑問です。

 実際に演奏可能な楽器を,そういうモノから復元製作するとしたら。

 そうした 「分からない部分」 は,自分たちの身近にある少しでも似たような楽器を参考にするしかないでしょう。

 『唐書』などにあるように,墓地から出た祭器を木で作り直した,というお話しが本当なら,同時代に流行っていた同じ4弦の楽器である琵琶や,まだ当時はどこかに残っていたかもしれない「秦琵琶」「秦漢子」に倣った弦やフレット,そしてチューニングが参考にされただろうと思います。

 以前あげた「月琴の起源について」のシリーズで庵主は,この壁画やレンガ,そして唐の時代にお墓から出てきたものの 「モデルとなった古い楽器」 を 「原阮(げんげん)」 と名付け,それを唐宋の阮咸や短い棹の月琴の共通の祖先としました。

 「原阮」 は,西アジア起源のリュート属の楽器とは別に,いまも東南アジアから中国西南部にかけて広く分布している,原始的な弦楽器の一つだったと思われます。2本の糸を間4度もしくは5度に張って,かき鳴らす----弓の弦を弾いたり擦ったりして音を出す「楽弓」の,ちょっと先くらいのものですね。音数は少なく,それ自体単体で音楽をなす,というよりは,歌に合わせたり複数で合奏したりするのに使う伴奏楽器だったと思いますね。

 そうした「原阮」を青銅で模した祭器をモデルに,分からない部分を琵琶の構造や調弦で補したのが唐宋の(正倉院の)「阮咸」という楽器だということです。
 いまある円胴で長い棹の「月琴」は,唐宋の「阮咸」よりはむしろ,そのモデルとなったであろう「原阮」の仲間に近く,短い棹の月琴はそれがおそらく中国の西南地方あたりでショートスケール化したものと思われます。
 いうなれば,現行の長い棹・短い棹の「月琴」の祖先は正倉院にある「阮咸」ではなく,その 「元となった楽器」 である----すなわち,先祖が同じという意味では親戚の関係にはあるものの,阮咸=月琴はあくまでもその外形をのみ真似たもので,現行の長い棹・短い棹の「月琴」と楽器としての直接的な因果関係はない,ということですな。


 さて製作です。

 最初のウサ琴を作った時もそうだったんですが,この楽器をエレキ化する上でのネックの一つが,表裏板が「桐」であることでした。
 月琴の表裏板の厚みは3~5ミリ。
 軽くて柔らかい桐でも,これだけ厚みがあるとまあ,赤ちゃんパンチで穴があくことはないですが,表面がいささか柔らかすぎるんですね。
 通常はクギやネジが使えない材料で,ノブやジャック部分のように動かしたり抜き差ししたりと言う動作にもあまり強くはありません----穴が広がって,すぐ取付けがユルくなっちゃったりしますね。

 カメ琴2号ではスピーカーやスイッチ等の取付け部分の裏に黒檀の薄い板を貼り,実質この板に取付けることで表面の桐板には力がかからないよにしましたし,カメ琴1号にスピーカーユニットを増設した時には,板の裏がわにブナのツキ板を貼り回して強化しました。

 今回はまた違う方法を験してみましょう。

 取付け孔のふちとその板裏の周縁を中心に,エタノールで緩めたエポキを塗布します。

 桐は多孔質なので滲みこみがいい----という性質を逆手にとって,この部分を樹脂浸透の強化木化してしまおうというわけです。

 この夏,江別の博物館で,戦中に作ってた 木製戦闘機キー106 の展示見てて思いついたんですな。

 キー106と言っても,主翼の一部とか増槽,骨組みに刻む前の強化木の板材とかタイヤしか残ってないんですが,男の子なのと初期航空マニアなので,それだけでもずいぶん血沸き肉躍りましたわあ。

----まあそれはともかく(w)

 この方法なら強度の必要な部分だけピンポイントで補強できますし,板自体は材として完全に連続している上に,余計な板を貼りつけるわけでもないので,音への影響をかなり軽減できるかとも思います。

 さてお次です。

 修理もメンテナンスもしないつもりなら,回路を組み込んでから裏板でフタしちゃえばいいんですが,楽器と言うものは常にメンテナンスの必要な道具です。エレキ楽器というもの,しょっちゅう開けたり閉めたりすることはないものの,なにかあったときのために,いつでも内部にアクセスできる環境がないといけません。
 表板は共鳴板ですので,こちらはなるべく一枚板であってほしいわけですから,当然メンテ孔は裏板がわにするのがふつうでしょう。

 この後の作業の便で,八角形に切った裏板の一部を切りぬいて,蓋になる部分を作ります。

 前回書いたように,この蓋の部分に電源となる9V電池と,アンプの回路が取付けられます。回路のほうは楽器自体がもうちょっと組み上がらないと正確な位置が決まらないんですが,電池のほうはもうだいたい決まってますので,裏蓋の一部に四角い穴を切って,先に電池ボックスを作っておきます。

 表裏板の端材を刻んで組んでっと…あとで組み付けながら切り刻むので,ちょっと大きめに作りました。
 最終的には縦横半分ぐらいになっちゃいましたね(w)

 この電池穴の表面周縁には後で薄板を一枚貼り回すことにしています。電池のお尻部分が2~3ミリ隠れるくらいの感じですね。電池は指で少し押し上げ,頭のほうを楽器内部がわに傾けると,お尻のほうが上ってきてつまめるようになります。

 通常,箱電池1本で2~3時間は保ちますから,オールナイトライブでもない限り,そんなにしょっちゅう交換することはないとは思いますがね。

 ウサ琴1号の時,ちょっと苦労したのがこの裏蓋でした。

 ウサ琴1号も今回の楽器と同じく,胴体が箱のフルアコエレキ楽器でしたが,弦を鳴らすと裏蓋のあたりから強烈なビビリ音が……原因は裏蓋と裏板の接合部の工作でした。
 裏板と裏蓋の間にスキマがあると,それは裏板にヒビが入ってるのと同じ状態になり,それを中心として変な振動が発生しちゃうんですね。

 裏板と裏蓋の接合は,スキマなくピッタリキッチリ,これ理想----

 宮大工級の腕前ならまあそういう工作も可能でしょうが,こちとら凡夫の身(w)でごぜえやす。さらにこの裏板と裏蓋の接合部である木口の部分は,脱着する部分であるゆえに補強もしなくちゃなりません。さっきも書いたとおり,しょっちゅう開けたり閉めたりする部分ではありませんが,動作には必ず危険が伴います。木材の木口部分というのは縦方向の圧力に関してはでえらー強いのですが,その他の方向からだとけっこう容易く欠けたり割れたりしちゃうとこですからね。

 カメ2号の時には,木口の接触する部分に突板を貼って補強しました。洋楽器の製作者なら,唐木かプラスティックの薄板を貼り回してバインディングで保護するところかな?
 さて,凡夫は凡夫なりに,さらなる最善の方法を模索することとしましょう。
 目的は板木口の補強と,その接合の精度をあげること----この二つをまとめて一度でやれれば,ムフフのワハハですわな。(これをこれ不捕狸算用皮といふ)

 まずは蓋部分の板の木口にラップをかけます。
 次に裏板本体を板に固定----台板も表面をラップで覆っておきますね。
 続いて,裏板の裏蓋と接触する部分に,木粉をエポキで溶いたパテを盛りつけ。
 木口をラップでマスキングした裏板を当てがって,ギュギュっとな----

 一晩おくと…何ということでしょう!

 裏板の木口が薄い樹脂の層でキレイにコーティングされているではないですか!
 さてさて,パテがじゅうぶんに固まったところでハミ出した部分を削り落とし,こんどは裏板がわの木口をラッピング。

 裏蓋のほうの木口にパテを盛って,もう一回ギュギュッと----

 あらかじめ木口にエタノールを滲ませてからやってるので,樹脂の層は一部木口にしみこみ,ほぼ一体化しております。これならプラのバインディング材みたいにハガれることもありませんし,合わせ目のスキマを充填しているようなものなので,接合部はまさしく「寸分の狂いもなく」ピッタリキッチリ合わさっておりまする。

 今回は木粉でやりましたが,この方法。
 骨材をたとえば胡粉(貝殻の粉)とか砥粉(石の粉)にするとか,アクリル絵の具を混ぜるとか工夫すれば,さまざまな素材や色にすることが可能ですねえ。
 新しいバインディングの方法としては,ちょっと興味深い。

 難点と言えば,今回はもともと合わさるようになってる裏板と裏蓋という関係ですし,作業範囲もそれほど大きくないからいいんですが。たとえばこれをギターなどに応用したいと思うなら,胴やネックに合わせた外枠か,最低でも部分枠のようなものが必要になるわけですね----ふむ,それはそれでけっこうタイヘンですな。

 裏蓋の問題が片付きましたので,裏板を接着します。
 ----と,その前に。

 これは仕込んでおきましょう。

 唐宋の阮咸はもちろん,台湾やベトナムの長棹月琴にも付いてませんが,日本の清楽器の阮咸には付いてますね----

 響き線をつけます。

 胴の片がわに回路やスピーカーが入りますので,直線や曲線では長さが限られ,効果が期待できません。そこで今回の響き線は渦巻型,直径約75ミリ。
 「目指せ,カルマン渦!」 を合言葉に,指にマメを作りながら3時間ほどかけてみっちり巻き上げました。まあ,けっきょく焼き入れで少し歪んじゃいましたけどね。

 取付け部を中央にしたところ,そこまでのアーム部分がちょいと長すぎて振れ幅が大きくなり,反応はきわめて良いものの,線が胴内に触れてのノイズ(胴鳴り)がヒドくなってしまったので,急遽,桁の音孔の中央に支えを作りました----うむ,最初からここを基部にすれば良かったか。(泣)

 改造後の反応は上々。
 胴鳴りはかなり抑制されましたし,板をタップした時の余韻の雑味も薄れました。

 響き線が片付いたところで裏板を接着,いよいよ胴体が箱になります!

 といったあたりで,次回をごろうじろ!!----

(つづく)


楽器製作・名前はまだない(3)

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斗酒庵ひさびさの製作 の巻2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(3)

STEP3 長いアナタと短いワタシ

 長い棹の月琴と短い棹の月琴の関係は良く分かっていません。

 また棹の長い「月琴」と呼ばれるよく似た構造の楽器同士の関係についても,前回述べたように,今のところきちんとした資料に基づいた研究は出されていないようです。
 まあ棹の長い連中(w)は,古代に「月琴」と呼ばれていた「阮咸」にカタチが近いのは自分たちの楽器だからこちらのほうが古く,現代の短い棹の月琴は,うちらの楽器が縮んだモノだろう----てなことを言いたがる,とは思いますが。

 事態はそう簡単に問屋がおろし金。

 そもそも,弦楽器が小さくなる理由は古今,高音が必要か,携帯の便のためかのいづれでしかありません。以前から書いてるように,一部の資料でもっともらしく書かれている 「月琴は清代に音楽の変化に伴い,速弾きする必要から縮んだ」 なんてことはありないわけです。

 台湾にもベトナムにも,長い棹の月琴のほかに,わたしたちの清楽月琴や中国の現代月琴と同様の,棹の短い円形胴の楽器が存在しています。台湾ではとくに名前を違えず,どちらも「月琴」と呼ばれています。分ける必要のある時は長い棹のほうを「南月琴」とか「丐仔琴」と呼んだり,短い棹のほうに「大陸の」とか「北の」とか「小さいほうの」みたいに言ったりするようですね。使用される音楽分野が異なるらしく,伝統的な音楽の演奏ではこの大小の月琴が合奏しているような例をあまり見たことがない。

 台湾の短い棹の月琴は,外見上4弦2コースの中国月琴--古い型の--とよく似ています。大陸の楽器がそのまま使われてたりすることもありますが。台湾製のものでは響き線がなく,胴側が木片の組み合わせではなく,ギターとかと同様に薄い板を曲げたもので出来てる,きわめて軽量な楽器をよく見かけますね。(上画像の楽器などがそう)
 細かいところを言うなら,胴がぶ厚く,棹が大陸で一般的なものよりやや長くなってますね。大陸の月琴では棹上のフレットは2枚が一般的ですが,台湾のは3枚----日本の清楽月琴の関西型に近いでしょうか(関東型,とくに渓派の月琴は,棹が長く棹上のフレットは4枚ある)

 ベトナムでは短い棹の月琴は 「ダン・ドァン」 と呼ばれています。
 前にも書いたように 「ダン」 は弦楽器につく冠詞ですが,「ドァン」 は数の 「4」 のことですので 「四弦」 とか 「四本弦の楽器」 と言った意味になります。
 中国の西南少数民族にも,自分たちの弾く短い棹の月琴の類の楽器を 「四弦」 と言っている例がありますから,地域的にもそちらと同じと考えています。
 これも作りは古型の中国月琴とほぼ同じですが,フレットの形状胴の厚みにやや違いがあります。長い棹の月琴「ダン・ングイット」と同様に,全体にインレイ装飾が入っている美しい楽器をよく見ますね。
 最近はうちのウサ琴みたいにエレキになっているものもあるようです----ううん,興味深い。

 さて,前回も述べたように,唐宋代の阮咸と「月琴」という楽器との関係は,文献上の名称のみの符合で。弦制や楽器としての構造を考えると,長い棹の月琴と古代の阮咸の間の共通項は「棹が長くて胴が丸い」というごく浅い外見上の部分でしかありません。さらに,長い棹の月琴には,短い棹の月琴にも増して文献上での裏付けがない。
 これらの楽器が短い棹の月琴より前から存在していたかどうか,そしてそれが短くなって今の月琴となったということを証明するだけの根拠となるような資料は今のところ見つかっておらず。今ある資料からはどちらの楽器の存在も,それほど大昔までさかのぼることはできません。

 基本的に,庵主は 「阮咸が(長い棹の)月琴」 になったという説をちゃんちゃらアホらしく,可笑しなものとしてしか捉えていません。

 その大きな理由の一つが 「弦の数」 です。

 唐宋の阮咸は4単弦,琵琶と同じく4本の弦がそれぞれ違う音階に調弦された楽器です。
 清楽月琴の弦も4本ですが,2本づつ同じ音に揃えられており,実質,弦が2本しかない楽器と同じです。
 有効弦長が同じだったとしても,4単弦の楽器と4弦2コースの楽器では,出せる音の数がまったく異なります----そうですねフレットの数が同じだとしたら,複弦楽器のほうは単弦楽器の半分ぐらいでしょうか。

 4弦2コースの楽器が4単弦の楽器になることがあるとすれば,その理由はまさにその 「出せる音の数」 です。実際,現代中国月琴は「改良」の結果,4単弦もしくは3単弦で弾くことのできる楽器となっていますね。逆に,4単弦の楽器が4弦2コースの複弦楽器になったとしたならば,演奏家としては,出せる音の数が半分以下になることを許容しなければならないわけです。
 まあ,ふつうに考えるなら……音楽が幼児退行レベルで単純化されたような状況----たとえば 北斗の拳の世界レベルで文明が崩壊した とかぐらいしか原因が思いつきませんね。

 弦を複弦にするのは,同じ弦長でより大きな音を出すためか,音に深みを与えるためか。どちらにせよ演奏上影響の大きな音の数には関係なく,むしろ音色表現の上での必要からで,基本的には4単弦の楽器が複弦化するなら,通常8弦の楽器になるはずです。複弦と同じような効果は,アルペジョーネとかシタールみたいにもっそい共鳴弦を仕込むとか,ドブロみたいにリゾネーターを付けるといった構造によっても得られるので,それ自体は演奏家にとって,楽器の音の数を半分に削ってまで追求するようなものではないと考えられます。

 これ以外にも推論上はいろんな理由で否定できますが,それでも 「4単弦の楽器が音数を半分以下に減らしてまで4弦2コースに変った」 というなら,そこには音の数が半分に減っても問題がないくらいのメリットか,あるいは互換性のようなものが存在している必要が出てくるのですが,残念ながら既存の研究でそれらのことを実験により調査した例は見つかりません。

 ないならば,いっちょうやってみようではないですか。(w)


 さて製作です。
 今回はまず糸倉の孔あけから。

 孔の数は8コ----4本ぶんですね。
 半月の孔は4単弦なら等間隔,4弦2コースなら2本づつ寄せてあけなけばなりませんが,糸巻のほうは基本的に同じ間隔でいいわけですね。

 毎度のことですが,糸巻の孔は単に左右にぶッ通せばよいのじゃなく,使い勝手を考えて微妙に角度をつけます。
 糸巻は,糸倉に対して垂直に出てるよりは,わずかに上下に開き,楽器前面方向に傾いでいるのが,人間工学的に正解です。

 で,糸巻と反対がわ,テールピースのほうですが。

 前回書いたように,台湾月琴のテールピースはベトナム月琴や唐琵琶と同じ凸形のものと,清楽月琴などと同様の半円半月形の2種類があります。正倉院の阮咸のテールピースは楕円形ですが,弦を止める部分は基本的に現代の薩摩や筑前琵琶の覆手と同じような構造になっています。『皇朝礼器図式』の「丐弾双韻」と韓国のウォルグンは凸型ですね。

 今回は資金難からくる材料上の制限(w)もあり,全長800ほどのなかに651の有効弦長を確保しなければならないため,テールピースの取付け位置も胴体のかなり端っこのほうにせざるを得なくなっております。
 円形胴の端っこのせまいスペースなため,横幅もさほど広げられません。こうなると凸型の場合,接着面がせまくなり,安定に若干不安が出ないでもない。
 弦を替えていろいろと実験する関係上からも,より接着面を広くとれ,安定の良い半月形にします----まあそのほうが,ウサ琴や月琴の修理で作り慣れてるのもありますしね。

 さて素材をどうするか----と端材箱をひっくり返してましたが,どうもいいものに当らない。
 それでふと手周りを見渡してましたら,大きさがちょうど手ごろだったため,切削の時の定規としてずっと使っていた紫檀の板材が目に留まりました。

 幅は35ミリ。
 月琴のテールピースとしてはやや小さめですが,現在のベトナム月琴のテールピースとほぼ同じ大きさですね----これでいきましょう。
 横幅は月琴の普通サイズの半月と同じ10センチ,やや縦長の半分に切った木の葉に近い半円形に切りだし,下縁部を整形。

 上面の直線になった上端部から5ミリほど下がったところに,5ミリ幅の溝を一本彫り込んでおきます。
 ひっくり返して,ポケットになる部分も刳っておきましょう。
 糸鋸や回し切りで切れ目を入れて,鑿でほじくり,ヤスリで整えます。

 上面に彫った溝の中心に,2ミリ幅でもう一段溝を彫り込み,底を丸く整形しておきます。
 今回はここにピックアップを仕込みます----そう,基本的に実験とは関係ないんですが,今回の製作楽器はエレキ仕様なのですよ,ハイ。

 え,聞いてない?
 はい,いまハジメテ言いましたから。(www)

 今回使うピックアップはワイヤータイプのピエゾで,本来はギターやウクレレのブリッジのサドルの下に仕込むやつです。
 ギターだとブリッジのところでサドルの上に弦が乗っかって,その下にあるピエゾ----すなわち圧電素子が圧迫され,振動が電気信号に変わるわけですが,月琴のテールピースにはその形式でピエゾに圧をかけれるような場所がありません。

 そこで今回は,糸孔の位置をふつうより若干下げ,この溝に上面よりわずかに高い板を渡して,その下にピエゾを仕込みます。
 半月に弦を結わえると糸の輪がこの板の上にかかり,それが締まってピエゾが圧迫固定されるわけですね。

 ウサ琴1号やカメ琴シリーズでは,共鳴板である表板の裏がわに板型のピエゾを貼りつけていたのですが,それだと胴体が小さいせいもあって,楽器に手が触れたり服が擦れたりするような音までけっこう大きく拾ってしまうんですね。
 こちらとしてはより「弦の音」だけを拾ってもらいたいので,今回このような工作にしてみたわけで----
 まあはじめての工作なので上手くゆくかどうかはお楽しみですが,上手くいったら今使ってるカメ琴なんかも同じ形式に改造しようかと思っております。

 さまざまな実験に対応するため,糸孔は7つ。

 孔の裏がわは,前方向に軽く溝を刻んでおくと,糸を通す時に糸先が半月の外に出やすくなります。関西の松音斎なんかがやってる細かい気遣いの一つですね。

 半月での間隔は4弦2コースの時が外弦間27,内21,内外3ミリ。
 4単弦の時で8~9.5(現の太さが違ってくるため)。
 棹が細いので,山口のほうでの間隔は4弦2コースと4単弦の時でほとんど変わりません。4単弦の時に内弦が糸1本分中心がわにズレるくらいかな?

 もとよりマルチな楽器にするつもりはなく,実験後はこの楽器に最も合った弦制のものに調整し直すつもりですので,不要な糸孔・糸溝はその折埋めてしまってもいいでしょう。


 エレキにするのは既定路線なわけですが。

 もちろん生音の検証も実験項目に入ってますので,カメ琴のようなシースルーのサイレント楽器ではなく,胴体がちゃんと箱になったエレアコ・スタイルでまいります。

 まずはレイアウト。
 なにをどこに置くかを決めます。
 表板上に取付けられる部品は,電源スイッチ,スピーカー,ボリューム抵抗,外部出力のジャックとスピーカー or Line-OUT の切り替えスイッチ。

 こういう時は,紙をそれぞれの部品の大きさに切って,福笑い式でやるのがいちばん分かりやすいですね。
 電源となる9Vの箱型電池とアンプの回路は裏板のほうにつける予定ですので,表板の部品が干渉しないように,軽く検証もしておきます。
 ピエゾからのワイヤーは,表板に専用の小孔をあけるとか,半月内の陰月なりから内部に取り込むことも考えたのですが,後でピエゾ自体をより良いものに交換することも考えて,ゾロっとそのまま出しておくことにしました。胴側,スピーカーとボリュームポッドの中間くらいにミニプラグを通す孔をあけて,ここに挿しこみます。
 楽器をアコでしか使わないようなときは,ワイヤーごとピエゾを取り外してしまってもいいでしょう。

 各部品の位置が決まったところで穴あけです。
 いちばんデカい,スピーカーの穴からまいりましょう。

 まずは中心位置に小径のドリルをブスリと通し,それを目印に板の裏がわにコンパスで,表に開ける穴より2ミリほど大きな円を描きます。
 つぎにその円の内がわに溝を彫り,表から所定の大きさですっぽんとくり貫き,周縁を軽く整形。

 んで,表板の端材を円形に刻んで取手をつけ紙ヤスリを貼ったものを,段になった板裏にハメこんでグリグリグリ……っと。
 ----ホイ,キレイなクボミができました。
 ここにスピーカーがはまるわけですね。

 電源スイッチは最後に表がわからハメこむだけなので,孔はただの穴でいい。
 ボリュームのノブと Line-OUT のジャックのところは,動かしたり抜き差ししたりするんで,補強しとかなきゃなりませんね----両方とも,スピーカーの板裏と同様に一段彫り下げて底を均し,薄く削った黒檀の板を貼っておきます。
 切り替えスイッチはポッチが少し出るくらいでいいので,小さな長方形の孔を穿ち,操作しやすいように長辺の左右をすこし丸く抉りました。

 まだぜんぜんですが----ここまでの作業の確認とモチベ向上のため,ちょっと仮組みしてみましょう。

 といったあたりで,今回はここまで----


(つづく)


楽器製作・名前はまだない(2)

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斗酒庵ひさびさの製作 の巻2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(2)

STEP2 月琴長いか短いか

 「月琴」 と名づく楽器の中で,韓国の月琴(ウォルグム),ベトナムのダン・ングイット,そして台湾の月琴(丐仔琴)は,庵主のやってる清楽月琴や現代中国月琴とはちがって,棹のながーい楽器です。

 韓国の月琴(ウォルグン・ノルグム) は唐宋代の円胴の「阮咸」を,宮廷音楽用の楽器としてとりこんだもの,とされています。
 「阮咸」でなく「月琴」というのも,お手本とした唐宋代の史書や音楽書に「阮咸は "月琴" とも呼ばれた」という記録があるところから持ってきたものでしょう。
 とはいえ唐代の実物である正倉院の阮咸に比べるとかなり棹が太く,幅もあります。資料では「郷琵琶」*と同類の楽器とされており,演奏上の用途も近かったようですので,ネックの形の差異は,より琵琶に近い四単弦の奏法を可能にするための変化であったか,あるいは彼らがもともと継承していた直頸円胴の琵琶類にあたる民族楽器を,唐宋の楽器に付解したものだったのかもしれません。

*郷琵琶:ヒャンピパ,5弦直頸で梨型胴,宮廷音楽で朝鮮固有の音楽を奏でるための楽器として使われた。

 この2種の楽器は,名称上また外見的には以下に紹介する長棹の「月琴」との共通項がありますが,弦制や構造は異なります。
 特に,台湾やベトナムの「月琴」は,円形の胴体に着脱可能な状態で棹を挿している「スパイク・リュート」----清楽月琴や日本の三味線などと同じ構造になっていますが,唐宋の阮咸や韓国の月琴の棹は,ギターなどと同じく,胴体に接合固定されており基本的に着脱はできません。

 ベトナムの月琴(ダン・ングイット) と 台湾の月琴(丐仔琴) はともに2弦の弦楽器。

 外見上も良く似ていますが,ベトナム月琴のほうが一回り大きく,台湾の月琴が80センチほどなのに対して,全長は1メートルを超えます。
 弦高も高く,フレットは最大で3センチほどの高さがあり。また棹がきわめて細いので(幅2センチほど),フレットの頭は日本の筑前や薩摩琵琶のように左右が広がっています。

 糸倉から弦を受けるトップナットも,筑前や薩摩の乗絃に似た鳥の頭のような大きな塊になってますね。

 台湾の月琴の山口(トップナット)は清楽月琴や中国月琴と同様の形状です。弦高もベトナム月琴ほど高くはありません。
 1~4フレットまでが中国琵琶と同じ断面オニギリ型のブロック状----「相(シャン)」----になっています。
 参考画像の楽器のテールピースはベトナム月琴と同じになっていますが,清楽月琴と同じ半円形のものもありますね。

 どちらも調弦は清楽月琴と同じ4度あるいは5度ですが,ベトナム月琴が低音を響かせその余韻を楽しむ----薩摩琵琶みたいな用法がメインなのに対して,台湾月琴は三味線に近い弾き方で,軽快に歌に合わせる伴奏楽器として使われています。
 地域的な交流からもその外見や構造からも,この二つの楽器に何らかの関係性があるだろうことは間違いありませんが,いまのところまだそれを詳細に追及・解明した研究は出てきていません。

 台湾の月琴の古いものに関しては資料が少ないので,この楽器がむかしからこうだったかどうかについては分からないのですが。
 ベトナム月琴はかつて4弦2コース……清楽月琴と同じ複弦楽器であったようです。いまもベトナム国内のどこかには,そうした古い形式のままのものが残っているのかもしれませんが,正月に貼られる年画に出てくる月琴はいまでも4弦の楽器として描かれていますし,実際,戦前に収集された古い楽器には,外見上今のベトナム月琴とほぼ同じながら,糸巻が4本ささっているものが見受けられます。
 また現在もその糸倉には糸巻4本分の孔が開けられていることが多いようですね。実際に使われるのはそのうちの2組で,残りは実用性のない装飾として開けてあるだけですが。

 清朝の宮廷音楽に関する資料である『皇朝礼器図式』には,そうした古いタイプのベトナム月琴のご先祖様だろうと推測される 「丐弾双韻(かいだんそういん)」 という,円胴長棹4弦2コースの楽器が紹介されています。
 ベトナム月琴を現地の言葉でダン・ングィットといいますが,この「ダン」は弦楽器にかかる冠詞,「ングィット」がお月様のことです。「丐弾双韻」の「丐弾」も「ダン」と同じく弦楽器につく冠詞ですが,「双韻」のほうは音訳語なのかあるいは複弦楽器であるという意味の漢語をくっつけただけなのかは分かりません。
 ちなみに文中で 「月琴に似ている」 と書いてありますが,ここでいう「月琴」は短棹円胴の現在の月琴でも,唐宋の阮咸の異名としての「月琴」でもなく,当時の清朝宮廷楽で「月琴」として使われていた,次に紹介する長棹八角胴の楽器を指します。どちらも「4弦2コースのフレット楽器」なので「似ている」と言っているだけですね。

 日本の 明清楽でいうところの「阮咸」は,正倉院の「阮咸」等とは違って,長棹八角胴,上の『皇朝礼器図式』に見える清朝の「月琴」に近い楽器です。現代中国でこの類の楽器は 「双清(シュワンチン)」 と呼ばれています。
 この楽器は清朝の宮廷楽では蒙古楽(モンゴル由来の音楽)を奏でるための楽器として使われていました。阮咸にしろほかの「月琴」にしろ,だいたいは南方に起源がある楽器ですが,これだけは北から来たものなのかもしれませんね。

 月琴と同じく4弦2コースの複弦楽器ですが,月琴がE/Bなら阮咸はB/E,C/GならG/Cという具合に,調弦は清楽月琴の調弦の高低をひっくりかえした間4度とされています。

 日本の清楽家の間では,わたしたちが使っている短棹円胴4弦2コースの「月琴」は,「阮咸から派生した楽器である」 ということになっていますが,ここでいう「阮咸」が,丸い胴体に長い棹をつけた唐宋代の「阮咸」なのか,上にある八角胴の「阮咸」のことなのかについては,誰もはっきりと書いておりません。そもそも今のところ大陸のほうの資料では,この長棹八角胴の楽器が「阮咸」とも呼ばれていた,という記述は見つかりません。
 日本の清楽家がこれを「阮咸」と呼び始めたのは,清楽の前に流行っていた「明楽」で「月琴」と呼ばれていたのがこの長棹八角胴の楽器であったことから,短棹円胴の「月琴」の前に「月琴」だった楽器,と言う意味で(史書などに見られる記述を逆にとって)呼び始めたのではないか,と庵主は考えています。

 『清風雅譜』などの口絵から見ると,清楽家のイメージしていた 「月琴の先祖の "阮咸"」 というのは,中国の絵画などにも出てくる正倉院タイプの----円胴長棹の楽器であったろうとは考えられますが,この史書でいう唐宋代に流行した「月琴」とも呼ばれた「阮咸」というのはあくまでも 「4単弦(もしくは5弦)の変形琵琶」 でしかない楽器です。

 4弦13~15柱で,その構造上も,音階や奏法上も,短棹円胴4弦2コースの複弦楽器である「(短い棹で円形胴の)月琴」とは ほとんど共通項がありません。
 そもそも,多くの記事の引く「(短い棹の)月琴の古名は阮咸である」というのは,たいていこうした史書・古資料の記述をムリヤリ短くちょん切って,都合の良い部分だけ引用したもので,それぞれの原典の述べる内容からは短棹円胴の「月琴」と,これら古代の楽器との接点は微塵も見出せません。


 ----というところで庵主の真面目容量が尽きましたので,実作業の報告に戻らせていただきます。(w)

 今回の製作でもっともはずせない部分は,「有効弦長651ミリ」 という一点になります。

 正直なところこれさえ合っていれば,角材に糸を張っただけの棒楽器でも良いのですが,ついでにいくつか解決しておきたい疑問・問題がありますので,いちおう「月琴」と名づく楽器の領域内のカタチにいろいろと詰め込ませていただく。
 結果,出来上がる楽器は,ネコミミ・メイド服に白のニーソにランドセルと,いささか属性詰め込み過ぎのシロモノになってしまうとは思いますが,はてさて,どうなることやら。

 棹に延長材を接着する前に,棹と胴体の一次的なフィッティングは行っていますが,延長材が接着されたところで実際に棹を抜き挿ししながら基部や接合面をさらに加工,棹の基部が胴体により密着するように調整してゆきます。
 棹の基部は切り出された段階では直線・平面ですので,これを丸い胴体にぴったりフィットするように曲面に削ってゆくわけですね。
 棹基部の密着具合と同時に棹自体の傾き加減も3Dで確かめながらの作業。けっこう精密で時間がかかります。修理でもいちばん手間と時間をかける部分のひとつですね。

 つぎに内桁を接着します。

 ここまでは棹の調整の関係で接着していませんでした。棹の加工の具合によっては,大きく変更を加えたり,最悪作り直してもいいくらいの部品ですんで,フィッティングが一段落ついて,ようやく固定できますね。
 内桁そのものは安価な針葉樹材の部品ですし,その加工----たとえば表面処理,あるいは音孔の有無とか大きさ----も実のところ楽器の音にあまり影響はないのですが,これが胴体の各部としっかり接着されているかどうかについては,音にも楽器の強度にも大きな影響がありますので,接着面の調整やニカワの塗りは,けっこう慎重に行います。
 両端にクランプをかけ,中央部分に重しをのせて一晩。

 重しをはずしてもう一日ばかり,用心のため接着後の養生をかましたところで。
 製作前半戦の第一難関 「表板の削り落とし」 に突入です!

 表裏の桐板は厚6ミリ。
 これを全面1ミリ落として,厚さ5ミリ程度におさえたいと思います。
 電動サンダーとかあればものの数秒で終わる作業でしょうし,最低でもグラインダーがあればさして苦労もないことなのですが,庵主の古代貧乏工房(w)にそのようなものがあろうはずもなく(w)いつものとおり,恐怖の手工具・全手作業で行います。

 音もたちますホコリもスゴい----さすがに,四畳半一間でできる作業ではないので,ご近所さんに配慮しつつお外で作業いたしましょう。
 板の表面に半丸ヤスリでキズをつけ,そのキズの直角の方向から削りカンナやペーパーで削り落としてゆきます。
 ある程度削れたら,ペーパーを一枚丸ごと貼りつけた擦り板の上でこすって均し,曲尺で水平を見ながらさらにザリザリと……

 ひぃ…ひぃぃ…うぷぷ。

 たちのぼるホコリで息も出来ない。
 汗かいたところにシャツの隙間から入り込んだ細かいオガクズがはりついてムズかゆい。
 けっこうな拷問ですよ。

 仕上げに削っては棹挿して確認を数度----胴板の端が棹の指板の端とほとんど同じ高さになるところまで削ってゆきます。
 この後の棹と胴体のさらなるフィッティングである程度は調整できるんで,この時点では完璧を目指さなくてもよかでしょう。

 ----というところで次回へと続く!!


(つづく)


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楽器製作・名前はまだない(1)

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斗酒庵ひさびさの製作 の巻2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(1)

STEP1  楽器はステキな実験場

 ひさびさの 「楽器製作」 となります。

 いつぶりだったかな~,とあらためて調べてみますと。
 カメ琴2号「ルナ」を作ったのが2013年……うむ,もう6年もやっておらなんだか。

 もちろん庵主,ものづくりはけしてキライ,ではありませんが----そもそも庵主の楽器作りは,月琴の構造だとか工程だとか材質による差異だとかを調べるための実験が主目的。紙資料や既存楽器の修理からでは得ることの出来ない部分を補完するための作業です。
 2006年から4年ばかりの間に,ウサ琴シリーズを20面近くも作りまくり,そちら方面での主要な問題はだいたい片付いてますので,またなんにゃら新たな問題や疑問が生じてこない限り,再開する必要があまりないのですよね,ハイ。

 まあそれでも,いつでも製作にとりかかれるように,棹や胴体の素体は複数面ぶんこさえたりはしてたのですが----作り置きの棹なんか,何本か首ナシ月琴の修理に使っちゃったりしましたね。

 今回の製作は,このところの研究から生じてきた新しい疑問への挑戦。

 とりあえず小難しいことは,これからの製作報告の中で明らかにしてゆきましょう。


 さて,では6年ぶりの製作,作業開始です。


 まずは棹です。

 上にも書いたように,ウサ琴用に作っておいた棹の作り置きもまだ何本か残ってるんですが,今回は使いません。

 今回の楽器の棹の材料はこちら----

 長いのは米栂(べいつが 針葉樹)の角材,25ミリ角で長40センチ。

 糸倉はカリン(ブビンガ)で,以前八角胴の阮咸をもう1面作ろうと考えて,切り出してあったもの。
 厚さ1センチ。
 かたーい材なんで切り取るのにエラい難儀したキオクがありますね。そのせいでしょうか。片方の下端,少しだけですが欠けちゃってます。ここはあとで継いでおきましょう。

 指板はむかし銘木屋さんからもらってきた3ミリ厚の黒檀を使用。
 赤太(黒檀になりきれなかった部分)が混じってたため切り落とされた部分ですが,ほとんど最高級のマグロ黒檀ですよコレ。
 大きさや厚みがちょうどよかったんで,ずっと定規がわりや板を接着するときの当て木に使って重宝してました。
 赤太の部分に少し虫食いがありますので,唐木粉をエポキで練ったパテで軽く埋めておきましょう。

 あとてっぺんの間木として,端材袋から見つけたメイプルの欠片を少々使います。
 ちょいと予算がこころもとないので(w),なるべく材料箱に入ってたモノでこさえます。

 まずは米栂の角材の先端を凸に削り,さらに左右の角を三角形にえぐって,糸倉左右の板を挿しこむように組み込みます。
 糸倉の幅はおよそ3センチ。
 棹本体より5ミリほど太くなったこの糸倉と棹との接合部分が,山口(トップナット・乗絃)の乗る 「ふくら」 となります。

 この「ふくら」のところから,胴体に挿しこむ基部の手前まで,棹の上面に指板として黒檀の板を貼りましょう。
 糸倉の材は,もともとほかの楽器を作るためのものだったので少し大き目になってます。
 少し余分に切り欠いて,指板の先端が少し糸倉に埋まりこむ感じになるよう接合しますね。

 糸倉左右の接着に一晩,指板に一晩。

 さあ,ただの角材になにやかやへっつけただけのシロモノを 「弦楽器の棹」 にしてゆきましょう。
 指板左右の余分をざっと切り取り,糸倉も切り削ってカタチをととのえてゆきます。

 棹の本体部部分はまだ四角いですが,だんだん楽器の部品っぽくなってきました。
 棹裏を角材の四角から船底U字型に,半分から上(糸倉がわ)はそこからさらにシェイプして,V字に近いU字型に削ります。

 角材がだんだん楽器の棹になってゆく----庵主の知る限り,このあたりの作業が嫌いな楽器職はいないと思いますね。(w)

 棹背全体を整形する前に,胴体に挿しこむ基部に近いところに小さな部材を足します
 今回の棹材は25ミリ角と細いので,そのまま全体を均一にU字なりV字に削っちゃうと基部の部分もいっしょに細くなります。
 そうするとまあ,そこから削り出すホゾの部分はさらに小さく細くなってしまうので,接合部の強度や安定に不安が出てしまいます。
 そこで基部に近い部分を少しだけ厚くして,棹裏の整形加工によりこの部分が細くなってしまうのを防止しようというわけです。
 格好としては,ギターでいうところのネック基部の 「ヒール」 ってやつみたいになりますね。
 高さ1センチほどの端材ですが,この付け足された余裕のおかげで,棹背の峰部分をよりせまく,握りやすく滑らせやすい棹に削ることができます。

 それやれ削れ!ショコショコショコ………

 ……まあ,まだちょっと太めちゃんですが(w)

 棹の整形がだいたいできたところで,基部を刻んで胴体への差し込み部をこさえましょう。
 指板面から10ミリ,棹背がわと左右を3ミリくらいづつ落として四角い凸のカタチにととのえます。
 幅2センチ,長3センチ,厚さ1.2センチ----ヒール追加のおかげで,なんとか実用に耐えうる太さですね。

 胴体はウサ琴・カメ琴でもおなじみのエコウッド。

 厚さ5ミリほどのスプルースの板をほぼ円形に加工したもので,直径は清楽月琴の一般的なものからすると5センチほど小さい31センチ。
 もとは5センチほどの幅があるのですが,これを横半分に切り分けたものを1面ぶんとして使い。接ぎ目のところにエンドブロック,その反対がわにネックブロックとして2センチほどの厚さのカツラ材を貼りつけて補強してあります。
 これに内桁を入れて表裏に桐板を貼れば,月琴の胴体としてほぼ完成ですが,今回はまず表板だけを貼っておきます。

 このあたりからふだん通りのニカワ作業になります。
 やや薄めに溶いたニカワを,お湯をふくませた接着面にじゅうぶんにしませ,クランプをかけて一晩。

 余分を切り落とし,さらに削って整形します。
 本格的な整形は裏板接着後にやるんで,とりあえずは棹の入るネックブロックの周辺だけしっかり削ってあれば良いかと。

 棹孔を貫きます。

 まずはそこらのものを組み合わせて作業台を……見栄えは悪いですが,これでじゅうぶん。
 胴体がしっかり固定できてりゃなんの問題ありません。
 ドリルで貫き,彫刻刀やヤスリ,回し挽き鋸などで整形します。

 ちょっと棹挿してみましょう。

 表板がわで指板の間に1ミリほどの段差が付いてますが,後で表板を削る予定なのでこれは問題ナシ。
 裏板のほうには削らないそのままの厚さの板を貼りますので,とりあえず余った板を当て,ヒールの高さを調整しておきましょう。

 うむ,5ミリほど高かったみたいですね。

 つぎは内桁と延長材です。

 内桁はヒノキ,今回は1枚桁です。
 真ん中に棹の受け孔・左右に音孔をあけます。
 取付け位置は中央よりすこし上になります。そこにぴったりおさまるように,両端を胴の内面に合わせて少し削っておきましょう。

 延長材には端材箱から出てきたイチイを使いました。
 針葉樹の中でもトップクラスの硬さとしなやかさを持つ材----切るのがタイヘンでしたあ。
 棹の接合部にV字の切れ目を入れて,きっちりハマるように加工した延長材を接着します。


 延長材が接着されたところで,ちょっと組んでみましょうかね。
 このあと,棹と胴体のフィッティングをするので,内桁はまだ接着していません。

 ここまでのところ,製作中の楽器の全長は820。
 棹上の指板相当部分の長さは400,胴体はすでに書いたよう310ですから,指板の先っぽから楽器のお尻までの寸法は710ミリ。

 ここに今回は651の有効弦長をつめこむ予定。

 そうすると,半月(テールピース)と山口(トップナット)に使える余裕は,合わせて5センチくらいしかないわけですね----山口にだいたい1センチ,あとは半月を楽器のお尻がわにギリギリに下げて……さて,どうしたものか。

 ----と,いったあたりで次回に続く。


(つづく)


ベトナム琵琶魔改造!!

VB01_01.txt
斗酒庵工房魔改造編 の巻2017.2~ ベトナム琵琶を魔改造して清楽琵琶に

STEP1 きちゃった(テヘペロ),パート2

 さてと,3月の3面月琴修理も完了し,修理報告もブジ書き終えましたところで。
 ハナシはちょっと時をさかのぼります。
 それは2月の末つごろ。
 1年以上のブランク越えたとたん,次から次と月琴が舞い込んでくるちょっと前あたりのこと----なにげなく見てたネオクの出物に,なんとなく入札していたら。思いもかけず開始値段で楽器が落ちちゃいました。
 楽器の値段は¥500,送料が¥2000くらい(w)
 まあ,ネオクではよくあることですよね。
 以前,同じような事して「楽器の玩具」に入れてたつもりが,けっこう巨大な本物の楽器がとどいて,びっくらこいたこともありましたなあ。

 それで,今回とどいたのがこれだ!!

 ベトナムの琵琶 「ダン・ティパ」 ですな。
 映像とかでは見たことがありますが,庵主でも実物を触るのはハジメテであります。
 基本,中国の琵琶(ピパ)と同じ類の楽器ではありますが。がらが小さいのと,弦高がかなり高くなっています。あと,中国琵琶は,1~4フレットまでが 「相(シャン) 」 というカマボコやオニギリ型になっていますが,ベトナムのは上から下まで板状のフレットで構成されています。中国では,この板状のほうを 「品(ピン)」 と言って区別してますね。
 月琴のフレットは基本的にぜんぶ「品」ですが,長い棹の台湾月琴なんかは,琵琶と同じように低音部が「相」になってますね。

 おっと----ちょい話が逸れました。
 我が家にはすでに1面,清楽で使われた古い唐琵琶があるのですが,槽が全面紫檀で作られてる高級楽器ではあるものの,そのせいで重すぎて(w)ふだん持ち歩くのにはあんまり適しておりません。
 それに比べると今回入手したこの楽器----何で作られてるんでしょうねえ。軽いしサイズも小さめで,ふだん使いにはよさそうです。

 日本で作られた唐琵琶には,庵主のもののように紫檀や黒檀と言った高級な材を使ったものも,たまにあるんですが。当初唐木で作られていた月琴が,やがてホオやカツラといった安価な雑木で作られるのが主流になっていったように,清楽の唐琵琶にも,けっこうどこにでもあるような材料で作られたものが少なくありません。
 筑前とか薩摩琵琶だと,唐木でなくても,クワやケヤキといったそれなりに重く硬い木がよく使われますが,唐琵琶の場合はもっと軽い,スギとかヒノキみたいな針葉樹材が使われてたりもしますね。月琴でも41号のように総桐作りなんつーのがあってビックリしたことがありますが,そういう唐琵琶も,たいがいスオウとかで染めて,もとの木の質感を消してあるものの,持ってみるとバカみたいに軽くてかなーりビックリします。

 塗りで誤魔化してはいますがこの楽器,腹板の周縁とか棹の部分にカリンなんかが使われているものの,全体にかなり細かく寄木細工になってるみたいです。 槽の大部分はなんでしょう?---なんか,ラワンみたいな軽く柔らかい材料が使われてますね----いや,バルサかもせん(w)

 並べてみると,うちの唐琵琶より10センチ以上小さい。可愛らしい楽器です。

 さて今回は,このベトナム月琴を魔改造し,清楽の琵琶として使えるようにいたしましょう。


STEP2 ぶッた斬りのバラード

 まずはこのごっつい 「乗絃(じょうげん=トップナット)」 をぶった切ります。

 こういうカタマリを,樹脂系接着剤ベットリでガッチリ本体にへっつけ,さらに上から塗料で塗りこめてますんで,水で濡らしたりドライヤーであっためればどうにかなるようなレベルではありません。(w)
 うちにある最強兵器,ピラニア鋸(大)で横ざまに切り落としてしまうのがいちばんです----ガリガリゴリゴリ!----ああ,好きだなあこういう野蛮な作業!

 中国琵琶の乗絃は,基本,月琴の山口と同じ,カマボコを縦半分に切ったようなシロモノですが,ベトナム琵琶のものはむしろ,日本の薩摩や筑前琵琶のものに近い。 庵主は専門じゃないのでよく知りませんが,日本の琵琶は,中国のものより,あんがいこういう南方の楽器を参考に作られたのかもしれませんね。
 ちなみに棹の長いベトナム月琴(ダン・ングゥイット)のトップナットもこれと同じカタチです。


 続いてフレットを取り去ります。

 こちらも接着剤バリバリでへっつけてはありますが,ものが板状なので,ナイフで根元にキズを入れ,ペンチでモギると比較的かんたんにはずれました。

 なんか,ジゴクで亡者の拷問してるみたいで,正直ちょっと楽しいです。(闇)

 作業した部分をキレイに均して第一段階終了。
 おつぎは「覆手(ふくじゅ=テールピース)」をはずしましょう。

 オリジナルの状態で,覆手下縁部の高さは1センチほど。月琴の半月とあまり変わらないくらいではありますが,この覆手,乗絃の高さに対応するため,上縁のほうがやや上むきに,すなわち横から見て斜めに取り付けられているのです。
 唐琵琶の覆手は高さ1センチほどで,底はほぼ平らです。新しい乗絃にはふつうの唐琵琶と同じタイプのものを取付けるつもりですので,このままにしておくと覆手のところでの弦高が高くなりすぎ,運指に影響が出てしまいますので,これを一度取り外し,取付け部を削って平らにする必要があります。

 この部品も,接着剤でベッタリへっつけられているうえ,そのほかになにか補強もされてるみたいです。ここはもう一度,ピラニア鋸さんにご登場願いましょう。まあ,どうせ削り直すつもりのモノですので----そりゃあっ!ザリザリザリザリッ!!!

 うん,クギですね。
 細めの鉄釘が2本,固定補強のためにぶッこまれてたみたいです。
 それにしてもさすがピラニアさん,木もクギもいっしょに,スパッっと切れましたわ。

 この釘。槽の内部まで達していて,ちょっと月琴の響き線みたいな役割もしているようです。
 腹板を叩いてみると,反響に金属音が混じっているのは,どうやらこの釘のおかげのようですね。はじめはほじくって取り除こうかと思ったんですがやめときましょう----このまま残しておくのが吉,と出た。

 とりはずした覆手の底を均して平らにし,ふたたび胴に戻します。こちとらは古式通り,ニカワによる接着でまいります。

 オリジナルの状態では,このうなじの部分は塗り込められていましたが,唐琵琶ではここに工作隠しのため,象牙や骨材の小板が貼られています。さすがにもったいないので竹で同じようなもの作りましたが,まあだいたいはこんな感じ。

 塗装をはがした下は黄色い木材です。ちょっとツゲに似た色味ですが,削った感触はツゲじゃない。同じくらい硬いですが,もうすこしモロモロと繊維質な感じですね。軽い木で作った胴体に,この比較的硬い黄色い木を継いで,楽器の背がわ部分を構成し,棹の指板となる表がわにカリンのようなさらに硬い材の薄板を貼りつけてあるようです。
 日本の琵琶なんかはやたら一木っぽいところにこだわりますが,このベトナム琵琶。いったい何ピースぐらいの材料で構成されてるんでしょうねえ。

 オリジナルの糸巻も4本そろってはいるんですが,少し短いのと,庵主,もともとついてた横ジマのタイプの糸巻の感触がどうも好きになれんので,慣れてる月琴と同じ,六角形タイプのを1セット,削ってあげることとします。
 材料箱を漁ったらちょうど,以前に予備として削っといた素体が4本ぶんありましたので,これでまいりましょう。
 1本ちょっと色味の違っちゃいましたが,まあよろしい。

 月琴の山口をちょっと大きくしたような乗絃を付けます。
 材料はツゲで,高さは15ミリ。加工して低くした覆手との高低差は,およそ5ミリあります。月琴より弦長が長くフレットも多いので,いくぶん高低差が大きいほうが,後の作業がラクになるでしょう。

 さあ糸を張りましょうか----とその前に。


STEP3 正調唐琵琶調弦講座

 日本で出された清楽の本 にはよく,唐琵琶の調弦を 「合・上・尺・合(六)」 だと書いてあります。

 使用する弦については,『物識天狗』あたりに,「和琴の糸・三味の一の糸・月琴の太いの・月琴の細いの」 と,書いてありますね。(参考:左画像,クリックで別窓拡大) 月琴では通常,三味線の二の糸と三の糸を2本づつ使ってますので,うちの唐琵琶には,通常のお三味の1セットに,さらなる低音弦として,義太とか津軽の一の糸(同じ一の糸でももっと太い)を1本加えて張っています。

 その糸での月琴の調弦 「上/合」 を 4C/4G とした場合,すなわち 「上=4C」 の時,この琵琶の調弦 「合・上・尺・合(六)」 は,3G・4C・4D・4G となるわけなのですが。 これで実際に糸を張ってみると,月琴より弦長がはるかに長いこともあってテンションはパッツンパッツン。前の楽器では,見事覆手がふッとびました。
 清楽における実際の音階は,これより3度ほど高い 「上=4Eb」 ですから,もしそっちに合わせたとしたら,さらにシメあげなきゃならないわけで………間違いなく器体が保ちません。
 可能性として,全体を1オクターブ下げた調弦も試してみましたが,そうするとこんどは弦がユルユルになって弾けませんでした。

 しょうがないので,庵主はふだん,弦の音関係が同じ4度1度4度の 3C・3F・3G・4C の調弦で弾いていますが----どうもおかしい。
 文献の記述が,実情と合わないのです。

 音楽が専門のヒトはこういう場合,もっと太い弦を,もしくは細い弦を張ってみたりして,現実との擦り合わせをするようですが,庵主は真の意味での 「文献第一主義者」 ですので,本に書いてあることと現状が合わない場合は,本に書いてあることをまっさきに疑います。
 これは 「本に書いてあることが間違っている」 と言うことではありません。その書いてあることの解釈,もしくは書いた本人の,書いてあることに対する認識が間違っている可能性がある,ということです。


 さて,中国の本を見ると,琵琶の調弦は,「正工調」 だと日本の本にあるのと同じく 「合・上・尺・合(六)」 ,ほかに 「小工調」 だと 「尺・合・四・尺」 だと書いてあります。
 「上=C=ド」 として,これをそのままドレミに直しますと,正工調の調弦は ソ・ド・レ・ソ,小工調のは レ・ソ・ラ・レ ですね。
 ソ・ド・レ・ソ----すなわち G・C・D・G だと,楽器の実情に合わないというのは,すでに述べたとおりですが,もう一つ書いてある レ・ソ・ラ・レ のほうなら,ふだん庵主がやってる ド・ファ・ソ・ド の1度上に過ぎません----こッちならぜんぜん大丈夫。

 さてここで,日本の記事には出てこない「正工調」「小工調」という言葉が,調弦の前にへっついてますよね。清楽の本で,月琴や明笛の音階を表すものとして用いられている工尺譜の符字の順列----

 合 四 乙 上 尺 工 凡 六 五…

----というのは基本的に,中国の本でいうところの「小工調(正調)」で使われるものと同じです。もうひとつの「正工調」というのは,これの「四」を「工」に読み替えたときの音階ですので,同じ音を表す時に,符字の並びは----

 尺 工 凡 合 四 乙 上 尺 工…

----と,なります。
 仮に小工調の「上」を「ド」としますと,正工調では同じ音が「六(もしくは合)」の字で表される,ということですね。

 日本の清楽本に出てくる琵琶の調弦 「合・上・尺・合(六)」 が,中国の本に書いてあるのと同じ意味,すなわち本来は「正工調」のときの音階だったのだとしたら。これをふだん使っている月琴の音階(小工調)に変換すると 「上・凡・六・上」 になります----わあ,これって「上=4C」でいうとまさしく ド・ファ・ソ・ド。 庵主がいつもやってるチューニングじゃないですか!

 「正工調」の時の唐琵琶と,月琴の音符の読み替えの対応表を作って右に置いておきます。

 いまのところ清楽の本で 「唐琵琶の"尺"は,月琴の"合"の音だよ」 なんてことを親切に書いてくれてる本は見つかってませんが,おそらく日本の清楽家は,中国音楽のこういう基本的な部分を全無視で,向こうの本に書いてあったそのままを,意味も分からずに転載しちゃってたんでしょうねえ。

 「正工調」で C・F・G・C にしたとしても,「小工調」で D・G・A・D にしたとしても,2・3弦間は1度しか違いません。
 ふと思ったんですがコレ----要は三味線の本調子と二上リが同居してるカタチなわけですよね。 いままではお三味の糸を1セットのほか,最低音の弦として一回り太い糸を使ってましたが。お三味の糸の1セットで,二の糸だけを2本にするくらいでもえーのじゃないでしょか。

 琵琶と言うと日本では,重厚な低音楽器のイメージが強いですが,大陸の琵琶はもっと軽やかで華やかな楽器です。今回は,楽器自体も本式よりいくぶん小さいので,文献よりやや細めの,こっちの糸の組み合わせ(三味の1セット二の糸だけ2本)でやってみることとします。


STEP4 必殺!仕上げ人

 数年越しの懸案であった唐琵琶の調弦の問題がなんか片付いたところで,フレッティングとまいりましょうか。

 まずは「相」をこさえてゆきましょう。
 前回の唐琵琶ではオニギリ型にしましたが,今回はカマボコ型にチャレンジです。
 材料は,黄色くないですがこれでもいちおうツゲ。
 青筋とかの混じった下等品ですが,いちおうこれでも国産。薩摩琵琶のバチの端材だそうな。

 つづいて相と乗絃の間に黒檀の板を接着。
 これも本来は,糸倉と棹本体部分との接合工作を隠す目隠し板ですが,乗絃の固定補強の意味もあるかと思われます。
 できあがった相は磨いてニスをかけます。
 質の良くないものなんで,模様が出ちゃってますが,これはこれでマーブル模様みたいで良いですね。

 5フレットから先は,板状の「品」になります。
 こちらは手熟れた竹で。
 清楽の唐琵琶だと10枚ですが,今回は月琴と同じく西洋音階準拠にしますんで,2箇所,半音の欲しいところを足して12枚にします。

 できあがったフレットと糸巻をヤシャブシで黄色く染め,作業で塗装の剥がれたあたりはカシューで補彩。
 そして相と第5フレット,さらに第5フレットと第6フレット間の二箇所に飾り板を接着。

 最後に腹板の左右に半月を刻んだら完成です!

 ベトナム琵琶改の清楽琵琶。
 小さいので振り回しも良いですし,本家の唐琵琶にくらべるとやや軽めながら,音も響きも悪くはありません。

 そもそもなんで,ベトナム琵琶を改造して清楽琵琶にしたかったかと申しますと。

 清楽琵琶には庵主のこれと同様,細長くて薄っぺらなものが多いんですが,現在の中国琵琶はこれより大きくて幅ももう少しありますよね。 中国琵琶はこれらと同じく,フラットな腹板になってますが,清楽がやってきた福建や台湾の南管音楽などで使われている琵琶には,日本の薩摩琵琶みたいなアーチトップタイプもあり,形も中国琵琶よりは日本の琵琶に近くなっています。

 んじゃこの細長い琵琶は,どこから来たのか。

 清朝俗間の古い芝居本などではよく,女性がこのタイプの細長い琵琶を抱えてるとこが描かれたりしてますから,中国で古い時代に,こういう琵琶があったことは間違いありませんが,清楽流行のその時代,大陸で現実に弾かれていた琵琶の多くは,現在の中国琵琶とほとんど変わらないタイプのものでした。
 中国より過去に伝わったものがそのまま残った,とも考えられますし,そういう本に出てくる楽器を真似て作られた,と考えることも出来ます。そして,実は中国からではなく,もっと南の地方で弾かれていた,このタイプの楽器が伝わったものだったのだ,と考えることも………もしそうならば,ベトナム琵琶と清楽琵琶の間には,どこかに互換性があるのではないか,とか。

 まあ言うたかて庵主,琵琶は専門でないので。
 楽器の起源やらなんにゃら難しいあたり,あとは琵琶弾き。月琴弾きよりずッと数いるんだから,あンたらがどうにかしなさい。(w)

 そのほか,研究のほうでは----庵主,いままで清楽の琵琶譜,読み解けなかったんですが。
 今回の調査で,あれどうやら「正工調」で書かれてるかも,ということが分かってきました。

 ----さあて,これで琵琶譜のナゾに挑戦ですね。


(おわり)


最新改訂版・斗酒庵流月琴ピック製作記

pick2016oct.txt
斗酒庵 またまたピックを削る の巻2016.11 最新版 斗酒庵流牛蹄ピック製作記!

STEP0 スーパーギューテーターイムッ!!!

 さてさて,何ヶ月かにいちどのピック作りタイムがやってまいりました!(w)

 庵主が牛蹄でピックを作るようになったのは,そもそもBSEがきっかけだったわけですが(過去記事参照w)ここ数年来,こんどはアメリカにおける口蹄疫の流行の影響とやらで,材料の牛蹄が見当たらなくなったり,高騰したりしておりました。
 このごろはそれも落ち着きつつあるようですが,前は¥200ほどで買えたものが,いまでは¥300越えくらいしておりますねえ----1コのヒヅメから,だいたい月琴ピック2~4本とギターピックが3~4枚採れますから,それ考えればまだ安いもんじゃでございますが。

 撥弦楽器弾きにとってピックというものは,いちばん身近でたいせつな道具ではあり,こだわりはじめたらキリがないものの,ギターピックなんてだいたい¥100くらいで買えるものですし,ちょっとまあ手に合う,使いやすい,ってくらいのモノがあれば,それで満足してふつうは自作なんて思いも寄らないものではあります。

 清楽月琴の場合はまあ,売ってるところもそうないので,自分で作っちゃったほうがずっとメンドウなく,安上がりなわけですね。(w)

 同じようなカタチのものなら,プラスチックの下敷きを刻んで作ってもちゃんと使えますが,ここは一発「うしのひづめ」で作ってみませんか?
 ベッコウより柔らかく,プラスチックみたいに滑らない。もとが「爪」と同じものですので,弦を弾いた時の感触が,自分の爪で弾いた時のそれに,もっとも近い素材だと,庵主は思っております。

 ご家庭で出来る(w)牛蹄ピックの作りかた。
 今回はまたまた改訂版でございます。


STEP1 牛蹄を切り分ける

 このへんの手順は従前と変わりません。
 まず,牛蹄は2~3日水に漬けこんで,あらかじめ柔らかくおきます。
 水に漬けてると表面がヌルヌルして,ヤナ臭いもしてきますんで,とちゅう何度かタワシで擦りながら洗い流して,キレイにしてやりましょう。


 水から出したヒヅメを3つのパーツに切り分けます。
 工具は糸鋸,¥100のとかで構いません。

 まあ,どこからでも構わないとは思うのですが,庵主はだいたい,「軸側壁(じくそくへき)」 から分けて行きます。
 牛はぐーてーもくの動物ですので,一本の足にツメが2本あるわけですね。その片足2本のツメとツメの間になっている部分が「軸側壁」。いちばん小さな板で,形が歪だったり小さすぎたり,凸凹がヒドかったりで,あまり使い物になりませんが,繊維が複雑に入り組んでいる部分なため,たまに素晴らしい出来の一枚が取れることがあります。

 次に切り離すのが 「蹄側(ていそく)」
 靴でいうと甲の部分にあたる場所で,いちばん大きな板が取れますが,弓なりに曲がっております。さらに繊維が板の長辺に対して斜めに入っていますので,鉄板ではさんで「焼き」をかけ,繊維を潰し癒着させ,平らな板状にしてやる必要があります。

 この二枚を切り離して最後に残る,靴底に当たる部分が 「蹄底(ていてい)」

 上の二枚と「蹄底」のぶつかるところには 「白線」と呼ばれる少し透き通った部分があります。繊維と繊維の癒合点で,だいたいはこれに沿って切ってゆくことが多いですね。

 ちなみにこの「白線」の部分が残って,ピックの先端に入ったりすると,先っちょが透明になって,けっこうカッコよかったり(w)します。

 「蹄底」の板は,踵から爪先に向かってまっすぐ,いちばん長い繊維が走っているので,縦に長い月琴のピックをこさえるのには最適です。
 やや柔らかいので加工は楽ですが,ほかの2枚にくらべるとぶ厚いことがあります。厚いものから削り出したほうが良いものはできますが,ピックの形に加工する前,平らな板の状態にまでするのに手間取ることがやや多いですね。

 切り分けたパーツは,切った時に出た粉とかをよーく落として,また一晩くらい水漬けしておきます。
 すでに何日か漬け込んではありますが,切り分けて新しくできた切断面なんかには,水がぜんぜん滲みてないので,そこらだけ硬くなっちゃってることがあるんで。


STEP2  新技法-蒸す- > 焼き熨し

 いつもですとこのあと,水漬けしたパーツを鉄板に挟んで平らにする「焼き熨し」の作業となるのですが,今回はここにもう一つ工程を追加します。

 それが「蒸す」という作業。
 水漬けしたパーツを蒸し器にぶっこんで蒸しあげます。

 薄いものだと30分ほど,ふつうの厚さでだいたい1~2時間。蹄底などやたらぶ厚いものなら,3時間ばかりも蒸しましょうか。
 ただし作業中,ずっと火を入れ続けて蒸らす必要はありません。いちど蒸しあげたらあとは,鍋が冷めかけたらしばらく沸騰させる,というくらい断続的で構いません。つぎの「焼き熨し」の直前に,30分ばかりふかし直す,ってのでもいいようです。

 牛蹄は,水に漬けただけですと,ごく薄いパーツでも,芯まで水が滲みるのに何日もかかります。

 それでもまあ,ある程度は柔らかくなっているので,従来は,これをかなり無理矢理クランプで押しつぶし,焼きを入れて整形していたわけですが,「柔らかくなってる」とはいっても板の中心まで全体柔らかくなってるわけではないので,芯の部分が残ってたり,繊維が詰まって特に固くなっていたりする部分に,この作業でよく,割れたりヒビが入ってしまったりしていました。


 とくに,弓なりになってる蹄側の板は,最初に潰すだけでもかなりの力をかけるもので,よほど注意して作業しても,数箇所はヒビさせてしまうことのほうが多かったですね。


 一度の焼き熨しで平らにならなかったり,焼きムラがヒドかったりした場合は,板とクランプをかけ直し,あらためて焼くんですが,これを繰り返していると繊維に火が通りすぎて,オレンジ色の「焼き過ぎ」状態になっちゃうことも多かった----「焼き過ぎ」の材料は硬くてもモロい。
 そうなったら,いくら平らになったとてもうマトモなピックにはなりません。弦に当てたとたん,パキャッ!っと四散するかもせんのですわ。(w)

 全体ムラなく,芯まで火が通っていて,繊維がほぼ癒着した平らな一枚板になってるのが理想なのですが,牛蹄の表面にはもともとこまかな凹凸がけっこうあります。
 浅い凸凹なら勝手に潰れてくれますが,素材に厚みがあったり,繊維の方向が特殊だったりすると,わずかにでも鉄板に触れていない個所が,何度焼いても火が通らず,繊維がちゃんと癒着してくれないので,その部分だけ使い物にならなくなったりしてましたね。

 ここで「焼き」に入る前に「蒸し」の作業を入れておくと,水漬けだけの場合よりもずっと柔らかくなっているので,平らに潰しやすいんですね。しかも前より表面が柔らかなので,ちょっとした凹凸でも完全に潰れて,まっ平らになってくれます。表面が平らだと,全体に熱がまわるので,繊維の癒着も均一になります----より素材としての「理想」に近づいた,って感じかな。



STEP3  素体切り分け > 油焼き

 平らな板状になった素材は,一週間ほどさらに乾燥させてから,ピックの「素体」に切り分けます。

 素材が薄いものなら,この前の焼き熨しの作業がうまくいってれば,いきなり最終的なピックのカタチに加工整形する工程に入っちゃっても良いんですが,厚みのある素材,また繊維が斜めに入っている蹄側の板から切り出された素体は,このあとさらに 「油焼き」 という作業を施しますので,もう一手間。


 細長く切った素体表面を削って,焼き熨し時についた焦げの部分や小さなデコボコを均し,ついで左右の長辺を削ぎ落として,表裏ともに中心部が少し盛り上がった甲状にしておきます。

  **左 図 参 照**

 これはひとつに,細長いピックの中心線となる部分をより圧縮して,ピックに「芯」を入れるため。ふたつにはこうして焼き板からわずかに離すことで,弦に触れる縁の部分が固焼きになりすぎないための工夫ですね。


 切り分けて表面加工した素体は,いちどどっぷんと油瓶につっこんで,全体を油でヌルヌルにしてから鉄板にはさみこみます。「焼き熨し」の際にも,蹄が鉄板にくっつかないよう,油を引いて焼いてはいますので,素材にはあるていど油が滲みてますが,この「油焼き」の工程では,全体にたっぷりまぶして焼き上げます。

 水分だけだと,ある程度まで高温になると蒸発してしまい,繊維の癒着が始まる前に表面が焦げちゃうんですね。油は沸点が水より高いので,高温高圧の状態が長続きして,より確実に繊維を癒着させる----「焼しめる」ことができるんです。

 左画像,左がもとの素材,右が油焼き後の素体ですね。

 油焼き前の加工で少々表面を削ってはいますが,だいたいこのくらい圧縮されるわけです。はじめの段階ではこの素材の,さらに3割増しくらいの厚みがありました。

 新技法の導入により,素材段階でかなり均一で密な板に出来るようになりましたので,この「油焼き」でトドメの熱圧を加えれば,さらにぎゅっとしまった固くて丈夫なピックが出来上がります。
 庵主は油焼きに,乾性油の亜麻仁油を使ってます。亜麻仁油が乾燥する目安が最低48時間ですんで,作業後の素体は二日以上乾かして,次の作業に入ります。

STEP4  整形 > 仕上げ


 こっからさきもまあほとんど変更はありません。
 あとはもうただただピックのカタチに削ってゆくだけでございます。

 庵主が使ってる工具は,木の板や角材に紙ヤスリをはりつけた当て木何種類かと,ヤスリと小刀
 小刀で削ってますと,オーバーランした刃先がときどき,左手の中指の関節のあたりにところに当たって血まみれになることしばしば。そこでいまは,¥100均で買った指ぬきをはめてやっています。買ったばっかりですがもうこんなに傷だらけに……これ,ホントちょうどいいですわ。

 基本的にカタチは自由ですが,庵主はこんな感じに削っています。薄いほう厚いの好みもさまざまですが,庵主の場合はトレモロ演奏やらかす関係で,やや厚めのほうが好きです。握りが安定しますんで。


 むかしの絵図ですと,先端は四角くいほうが多いみたいですが,実際に残っているピックの実物を見る限り,その形状はけっこうさまざまで,現在中国で売ってる月琴用のピックや長崎あたりで使っている一般的なピックも,庵主のコレと同じように,先っぽはまあるくなっています。
 この先端部分,どうしても尖らせてうすーくしちゃいがちなんですが,弦楽器のピックは刃物とは違うんで,多少厚くても大丈夫。あんまり薄いと弦が切れるばっかりで音が出ません(w)。弦に当たるあたりの周縁のカドを軽くまるめた程度でけっこう。
 先端の薄い・厚いはむしろ,弦を弾いた時の感触の好みの違いですね。

 おしりの孔は飾り紐とかを結いつけるためのものですが,ほとんど使いませんね。2ミリのドリルで孔をあけた後,5ミリのドリルの刃先で孔の周縁をイングリモングリすると,こんなふうにキレイな二重孔になります。

 カタチが整ったら全体を磨いてゆきます。

 まず#240を貼りつけた木片でこすって,細かな凸凹とナイフやヤスリの削り痕を消します。
 つぎに#400の Shinex で研磨。細かなキズを消して。
 仕上げは亜麻仁油と白棒(研磨剤)の削ったのをまぶして,#1000相当の Shinex でひたすらゴシゴシ。

 ほりゃあ!どうじゃあああっ!!


STEP5  まとめ

 細工物,ってのはなんでもそうですが,素材の段階で下ごしらえがしっかりしていると,けっこう上手く作れちゃうもんです。

 今回「蒸す」という工程を入れて,牛蹄の板の質が格段によくなり,また焼き入れ工程による歩留まりをかなり軽減することが出来ました。
 前よりも全体に均質な素材となったので,捨てるところも少なくなりましたね。

 というわけで,どこまで長いピックを作れるものか,やってみました。
 以前ならこの長さの板を切り出しても,焼きムラや質の違いから,結局は先っちょの部分しか使えなかったりしたんですが,今回はほぼ切り出したままの長さのピックが製作可能です!

 完成したのがこちら。

 銘:「高尾」。
 長:14.3センチ。

 握りかたが安定しない初心者は,やや長めのものを好む傾向がありますが,慣れてしまうと長かろうが短かろうがあまり関係なくなり,むしろあんまり長いと手から余っちゃうぶんがジャマになっておえねえわな,となります。
 庵主がふだん愛用しているピックはだいたい7~8センチくらい。
 長さよりも幅の広いせまいとか厚みのほうが,ピックとしての操作性に大きな影響があるようですね。

 ゆえにまあ,月琴のピックとしましては実用度外視で,たんに「どこまで長いものが作れるか」という興味から作ったもんですが,もちろんちゃんと問題なく使えるシロモノになっていますよ。
(おわり)


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