ベトナム琵琶魔改造!!

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斗酒庵工房魔改造編 の巻2017.2~ ベトナム琵琶を魔改造して清楽琵琶に

STEP1 きちゃった(テヘペロ),パート2

 さてと,3月の3面月琴修理も完了し,修理報告もブジ書き終えましたところで。
 ハナシはちょっと時をさかのぼります。
 それは2月の末つごろ。
 1年以上のブランク越えたとたん,次から次と月琴が舞い込んでくるちょっと前あたりのこと----なにげなく見てたネオクの出物に,なんとなく入札していたら。思いもかけず開始値段で楽器が落ちちゃいました。
 楽器の値段は¥500,送料が¥2000くらい(w)
 まあ,ネオクではよくあることですよね。
 以前,同じような事して「楽器の玩具」に入れてたつもりが,けっこう巨大な本物の楽器がとどいて,びっくらこいたこともありましたなあ。

 それで,今回とどいたのがこれだ!!

 ベトナムの琵琶 「ダン・ティパ」 ですな。
 映像とかでは見たことがありますが,庵主でも実物を触るのはハジメテであります。
 基本,中国の琵琶(ピパ)と同じ類の楽器ではありますが。がらが小さいのと,弦高がかなり高くなっています。あと,中国琵琶は,1~4フレットまでが 「相(シャン) 」 というカマボコやオニギリ型になっていますが,ベトナムのは上から下まで板状のフレットで構成されています。中国では,この板状のほうを 「品(ピン)」 と言って区別してますね。
 月琴のフレットは基本的にぜんぶ「品」ですが,長い棹の台湾月琴なんかは,琵琶と同じように低音部が「相」になってますね。

 おっと----ちょい話が逸れました。
 我が家にはすでに1面,清楽で使われた古い唐琵琶があるのですが,槽が全面紫檀で作られてる高級楽器ではあるものの,そのせいで重すぎて(w)ふだん持ち歩くのにはあんまり適しておりません。
 それに比べると今回入手したこの楽器----何で作られてるんでしょうねえ。軽いしサイズも小さめで,ふだん使いにはよさそうです。

 日本で作られた唐琵琶には,庵主のもののように紫檀や黒檀と言った高級な材を使ったものも,たまにあるんですが。当初唐木で作られていた月琴が,やがてホオやカツラといった安価な雑木で作られるのが主流になっていったように,清楽の唐琵琶にも,けっこうどこにでもあるような材料で作られたものが少なくありません。
 筑前とか薩摩琵琶だと,唐木でなくても,クワやケヤキといったそれなりに重く硬い木がよく使われますが,唐琵琶の場合はもっと軽い,スギとかヒノキみたいな針葉樹材が使われてたりもしますね。月琴でも41号のように総桐作りなんつーのがあってビックリしたことがありますが,そういう唐琵琶も,たいがいスオウとかで染めて,もとの木の質感を消してあるものの,持ってみるとバカみたいに軽くてかなーりビックリします。

 塗りで誤魔化してはいますがこの楽器,腹板の周縁とか棹の部分にカリンなんかが使われているものの,全体にかなり細かく寄木細工になってるみたいです。 槽の大部分はなんでしょう?---なんか,ラワンみたいな軽く柔らかい材料が使われてますね----いや,バルサかもせん(w)

 並べてみると,うちの唐琵琶より10センチ以上小さい。可愛らしい楽器です。

 さて今回は,このベトナム月琴を魔改造し,清楽の琵琶として使えるようにいたしましょう。


STEP2 ぶッた斬りのバラード

 まずはこのごっつい 「乗絃(じょうげん=トップナット)」 をぶった切ります。

 こういうカタマリを,樹脂系接着剤ベットリでガッチリ本体にへっつけ,さらに上から塗料で塗りこめてますんで,水で濡らしたりドライヤーであっためればどうにかなるようなレベルではありません。(w)
 うちにある最強兵器,ピラニア鋸(大)で横ざまに切り落としてしまうのがいちばんです----ガリガリゴリゴリ!----ああ,好きだなあこういう野蛮な作業!

 中国琵琶の乗絃は,基本,月琴の山口と同じ,カマボコを縦半分に切ったようなシロモノですが,ベトナム琵琶のものはむしろ,日本の薩摩や筑前琵琶のものに近い。 庵主は専門じゃないのでよく知りませんが,日本の琵琶は,中国のものより,あんがいこういう南方の楽器を参考に作られたのかもしれませんね。
 ちなみに棹の長いベトナム月琴(ダン・ングゥイット)のトップナットもこれと同じカタチです。


 続いてフレットを取り去ります。

 こちらも接着剤バリバリでへっつけてはありますが,ものが板状なので,ナイフで根元にキズを入れ,ペンチでモギると比較的かんたんにはずれました。

 なんか,ジゴクで亡者の拷問してるみたいで,正直ちょっと楽しいです。(闇)

 作業した部分をキレイに均して第一段階終了。
 おつぎは「覆手(ふくじゅ=テールピース)」をはずしましょう。

 オリジナルの状態で,覆手下縁部の高さは1センチほど。月琴の半月とあまり変わらないくらいではありますが,この覆手,乗絃の高さに対応するため,上縁のほうがやや上むきに,すなわち横から見て斜めに取り付けられているのです。
 唐琵琶の覆手は高さ1センチほどで,底はほぼ平らです。新しい乗絃にはふつうの唐琵琶と同じタイプのものを取付けるつもりですので,このままにしておくと覆手のところでの弦高が高くなりすぎ,運指に影響が出てしまいますので,これを一度取り外し,取付け部を削って平らにする必要があります。

 この部品も,接着剤でベッタリへっつけられているうえ,そのほかになにか補強もされてるみたいです。ここはもう一度,ピラニア鋸さんにご登場願いましょう。まあ,どうせ削り直すつもりのモノですので----そりゃあっ!ザリザリザリザリッ!!!

 うん,クギですね。
 細めの鉄釘が2本,固定補強のためにぶッこまれてたみたいです。
 それにしてもさすがピラニアさん,木もクギもいっしょに,スパッっと切れましたわ。

 この釘。槽の内部まで達していて,ちょっと月琴の響き線みたいな役割もしているようです。
 腹板を叩いてみると,反響に金属音が混じっているのは,どうやらこの釘のおかげのようですね。はじめはほじくって取り除こうかと思ったんですがやめときましょう----このまま残しておくのが吉,と出た。

 とりはずした覆手の底を均して平らにし,ふたたび胴に戻します。こちとらは古式通り,ニカワによる接着でまいります。

 オリジナルの状態では,このうなじの部分は塗り込められていましたが,唐琵琶ではここに工作隠しのため,象牙や骨材の小板が貼られています。さすがにもったいないので竹で同じようなもの作りましたが,まあだいたいはこんな感じ。

 塗装をはがした下は黄色い木材です。ちょっとツゲに似た色味ですが,削った感触はツゲじゃない。同じくらい硬いですが,もうすこしモロモロと繊維質な感じですね。軽い木で作った胴体に,この比較的硬い黄色い木を継いで,楽器の背がわ部分を構成し,棹の指板となる表がわにカリンのようなさらに硬い材の薄板を貼りつけてあるようです。
 日本の琵琶なんかはやたら一木っぽいところにこだわりますが,このベトナム琵琶。いったい何ピースぐらいの材料で構成されてるんでしょうねえ。

 オリジナルの糸巻も4本そろってはいるんですが,少し短いのと,庵主,もともとついてた横ジマのタイプの糸巻の感触がどうも好きになれんので,慣れてる月琴と同じ,六角形タイプのを1セット,削ってあげることとします。
 材料箱を漁ったらちょうど,以前に予備として削っといた素体が4本ぶんありましたので,これでまいりましょう。
 1本ちょっと色味の違っちゃいましたが,まあよろしい。

 月琴の山口をちょっと大きくしたような乗絃を付けます。
 材料はツゲで,高さは15ミリ。加工して低くした覆手との高低差は,およそ5ミリあります。月琴より弦長が長くフレットも多いので,いくぶん高低差が大きいほうが,後の作業がラクになるでしょう。

 さあ糸を張りましょうか----とその前に。


STEP3 正調唐琵琶調弦講座

 日本で出された清楽の本 にはよく,唐琵琶の調弦を 「合・上・尺・合(六)」 だと書いてあります。

 使用する弦については,『物識天狗』あたりに,「和琴の糸・三味の一の糸・月琴の太いの・月琴の細いの」 と,書いてありますね。(参考:左画像,クリックで別窓拡大) 月琴では通常,三味線の二の糸と三の糸を2本づつ使ってますので,うちの唐琵琶には,通常のお三味の1セットに,さらなる低音弦として,義太とか津軽の一の糸(同じ一の糸でももっと太い)を1本加えて張っています。

 その糸での月琴の調弦 「上/合」 を 4C/4G とした場合,すなわち 「上=4C」 の時,この琵琶の調弦 「合・上・尺・合(六)」 は,3G・4C・4D・4G となるわけなのですが。 これで実際に糸を張ってみると,月琴より弦長がはるかに長いこともあってテンションはパッツンパッツン。前の楽器では,見事覆手がふッとびました。
 清楽における実際の音階は,これより3度ほど高い 「上=4Eb」 ですから,もしそっちに合わせたとしたら,さらにシメあげなきゃならないわけで………間違いなく器体が保ちません。
 可能性として,全体を1オクターブ下げた調弦も試してみましたが,そうするとこんどは弦がユルユルになって弾けませんでした。

 しょうがないので,庵主はふだん,弦の音関係が同じ4度1度4度の 3C・3F・3G・4C の調弦で弾いていますが----どうもおかしい。
 文献の記述が,実情と合わないのです。

 音楽が専門のヒトはこういう場合,もっと太い弦を,もしくは細い弦を張ってみたりして,現実との擦り合わせをするようですが,庵主は真の意味での 「文献第一主義者」 ですので,本に書いてあることと現状が合わない場合は,本に書いてあることをまっさきに疑います。
 これは 「本に書いてあることが間違っている」 と言うことではありません。その書いてあることの解釈,もしくは書いた本人の,書いてあることに対する認識が間違っている可能性がある,ということです。


 さて,中国の本を見ると,琵琶の調弦は,「正工調」 だと日本の本にあるのと同じく 「合・上・尺・合(六)」 ,ほかに 「小工調」 だと 「尺・合・四・尺」 だと書いてあります。
 「上=C=ド」 として,これをそのままドレミに直しますと,正工調の調弦は ソ・ド・レ・ソ,小工調のは レ・ソ・ラ・レ ですね。
 ソ・ド・レ・ソ----すなわち G・C・D・G だと,楽器の実情に合わないというのは,すでに述べたとおりですが,もう一つ書いてある レ・ソ・ラ・レ のほうなら,ふだん庵主がやってる ド・ファ・ソ・ド の1度上に過ぎません----こッちならぜんぜん大丈夫。

 さてここで,日本の記事には出てこない「正工調」「小工調」という言葉が,調弦の前にへっついてますよね。清楽の本で,月琴や明笛の音階を表すものとして用いられている工尺譜の符字の順列----

 合 四 乙 上 尺 工 凡 六 五…

----というのは基本的に,中国の本でいうところの「小工調(正調)」で使われるものと同じです。もうひとつの「正工調」というのは,これの「四」を「工」に読み替えたときの音階ですので,同じ音を表す時に,符字の並びは----

 尺 工 凡 合 四 乙 上 尺 工…

----と,なります。
 仮に小工調の「上」を「ド」としますと,正工調では同じ音が「六(もしくは合)」の字で表される,ということですね。

 日本の清楽本に出てくる琵琶の調弦 「合・上・尺・合(六)」 が,中国の本に書いてあるのと同じ意味,すなわち本来は「正工調」のときの音階だったのだとしたら。これをふだん使っている月琴の音階(小工調)に変換すると 「上・凡・六・上」 になります----わあ,これって「上=4C」でいうとまさしく ド・ファ・ソ・ド。 庵主がいつもやってるチューニングじゃないですか!

 「正工調」の時の唐琵琶と,月琴の音符の読み替えの対応表を作って右に置いておきます。

 いまのところ清楽の本で 「唐琵琶の"尺"は,月琴の"合"の音だよ」 なんてことを親切に書いてくれてる本は見つかってませんが,おそらく日本の清楽家は,中国音楽のこういう基本的な部分を全無視で,向こうの本に書いてあったそのままを,意味も分からずに転載しちゃってたんでしょうねえ。

 「正工調」で C・F・G・C にしたとしても,「小工調」で D・G・A・D にしたとしても,2・3弦間は1度しか違いません。
 ふと思ったんですがコレ----要は三味線の本調子と二上リが同居してるカタチなわけですよね。 いままではお三味の糸を1セットのほか,最低音の弦として一回り太い糸を使ってましたが。お三味の糸の1セットで,二の糸だけを2本にするくらいでもえーのじゃないでしょか。

 琵琶と言うと日本では,重厚な低音楽器のイメージが強いですが,大陸の琵琶はもっと軽やかで華やかな楽器です。今回は,楽器自体も本式よりいくぶん小さいので,文献よりやや細めの,こっちの糸の組み合わせ(三味の1セット二の糸だけ2本)でやってみることとします。


STEP4 必殺!仕上げ人

 数年越しの懸案であった唐琵琶の調弦の問題がなんか片付いたところで,フレッティングとまいりましょうか。

 まずは「相」をこさえてゆきましょう。
 前回の唐琵琶ではオニギリ型にしましたが,今回はカマボコ型にチャレンジです。
 材料は,黄色くないですがこれでもいちおうツゲ。
 青筋とかの混じった下等品ですが,いちおうこれでも国産。薩摩琵琶のバチの端材だそうな。

 つづいて相と乗絃の間に黒檀の板を接着。
 これも本来は,糸倉と棹本体部分との接合工作を隠す目隠し板ですが,乗絃の固定補強の意味もあるかと思われます。
 できあがった相は磨いてニスをかけます。
 質の良くないものなんで,模様が出ちゃってますが,これはこれでマーブル模様みたいで良いですね。

 5フレットから先は,板状の「品」になります。
 こちらは手熟れた竹で。
 清楽の唐琵琶だと10枚ですが,今回は月琴と同じく西洋音階準拠にしますんで,2箇所,半音の欲しいところを足して12枚にします。

 できあがったフレットと糸巻をヤシャブシで黄色く染め,作業で塗装の剥がれたあたりはカシューで補彩。
 そして相と第5フレット,さらに第5フレットと第6フレット間の二箇所に飾り板を接着。

 最後に腹板の左右に半月を刻んだら完成です!

 ベトナム琵琶改の清楽琵琶。
 小さいので振り回しも良いですし,本家の唐琵琶にくらべるとやや軽めながら,音も響きも悪くはありません。

 そもそもなんで,ベトナム琵琶を改造して清楽琵琶にしたかったかと申しますと。

 清楽琵琶には庵主のこれと同様,細長くて薄っぺらなものが多いんですが,現在の中国琵琶はこれより大きくて幅ももう少しありますよね。 中国琵琶はこれらと同じく,フラットな腹板になってますが,清楽がやってきた福建や台湾の南管音楽などで使われている琵琶には,日本の薩摩琵琶みたいなアーチトップタイプもあり,形も中国琵琶よりは日本の琵琶に近くなっています。

 んじゃこの細長い琵琶は,どこから来たのか。

 清朝俗間の古い芝居本などではよく,女性がこのタイプの細長い琵琶を抱えてるとこが描かれたりしてますから,中国で古い時代に,こういう琵琶があったことは間違いありませんが,清楽流行のその時代,大陸で現実に弾かれていた琵琶の多くは,現在の中国琵琶とほとんど変わらないタイプのものでした。
 中国より過去に伝わったものがそのまま残った,とも考えられますし,そういう本に出てくる楽器を真似て作られた,と考えることも出来ます。そして,実は中国からではなく,もっと南の地方で弾かれていた,このタイプの楽器が伝わったものだったのだ,と考えることも………もしそうならば,ベトナム琵琶と清楽琵琶の間には,どこかに互換性があるのではないか,とか。

 まあ言うたかて庵主,琵琶は専門でないので。
 楽器の起源やらなんにゃら難しいあたり,あとは琵琶弾き。月琴弾きよりずッと数いるんだから,あンたらがどうにかしなさい。(w)

 そのほか,研究のほうでは----庵主,いままで清楽の琵琶譜,読み解けなかったんですが。
 今回の調査で,あれどうやら「正工調」で書かれてるかも,ということが分かってきました。

 ----さあて,これで琵琶譜のナゾに挑戦ですね。


(おわり)


最新改訂版・斗酒庵流月琴ピック製作記

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斗酒庵 またまたピックを削る の巻2016.11 最新版 斗酒庵流牛蹄ピック製作記!

STEP0 スーパーギューテーターイムッ!!!

 さてさて,何ヶ月かにいちどのピック作りタイムがやってまいりました!(w)

 庵主が牛蹄でピックを作るようになったのは,そもそもBSEがきっかけだったわけですが(過去記事参照w)ここ数年来,こんどはアメリカにおける口蹄疫の流行の影響とやらで,材料の牛蹄が見当たらなくなったり,高騰したりしておりました。
 このごろはそれも落ち着きつつあるようですが,前は¥200ほどで買えたものが,いまでは¥300越えくらいしておりますねえ----1コのヒヅメから,だいたい月琴ピック2~4本とギターピックが3~4枚採れますから,それ考えればまだ安いもんじゃでございますが。

 撥弦楽器弾きにとってピックというものは,いちばん身近でたいせつな道具ではあり,こだわりはじめたらキリがないものの,ギターピックなんてだいたい¥100くらいで買えるものですし,ちょっとまあ手に合う,使いやすい,ってくらいのモノがあれば,それで満足してふつうは自作なんて思いも寄らないものではあります。

 清楽月琴の場合はまあ,売ってるところもそうないので,自分で作っちゃったほうがずっとメンドウなく,安上がりなわけですね。(w)

 同じようなカタチのものなら,プラスチックの下敷きを刻んで作ってもちゃんと使えますが,ここは一発「うしのひづめ」で作ってみませんか?
 ベッコウより柔らかく,プラスチックみたいに滑らない。もとが「爪」と同じものですので,弦を弾いた時の感触が,自分の爪で弾いた時のそれに,もっとも近い素材だと,庵主は思っております。

 ご家庭で出来る(w)牛蹄ピックの作りかた。
 今回はまたまた改訂版でございます。


STEP1 牛蹄を切り分ける

 このへんの手順は従前と変わりません。
 まず,牛蹄は2~3日水に漬けこんで,あらかじめ柔らかくおきます。
 水に漬けてると表面がヌルヌルして,ヤナ臭いもしてきますんで,とちゅう何度かタワシで擦りながら洗い流して,キレイにしてやりましょう。


 水から出したヒヅメを3つのパーツに切り分けます。
 工具は糸鋸,¥100のとかで構いません。

 まあ,どこからでも構わないとは思うのですが,庵主はだいたい,「軸側壁(じくそくへき)」 から分けて行きます。
 牛はぐーてーもくの動物ですので,一本の足にツメが2本あるわけですね。その片足2本のツメとツメの間になっている部分が「軸側壁」。いちばん小さな板で,形が歪だったり小さすぎたり,凸凹がヒドかったりで,あまり使い物になりませんが,繊維が複雑に入り組んでいる部分なため,たまに素晴らしい出来の一枚が取れることがあります。

 次に切り離すのが 「蹄側(ていそく)」
 靴でいうと甲の部分にあたる場所で,いちばん大きな板が取れますが,弓なりに曲がっております。さらに繊維が板の長辺に対して斜めに入っていますので,鉄板ではさんで「焼き」をかけ,繊維を潰し癒着させ,平らな板状にしてやる必要があります。

 この二枚を切り離して最後に残る,靴底に当たる部分が 「蹄底(ていてい)」

 上の二枚と「蹄底」のぶつかるところには 「白線」と呼ばれる少し透き通った部分があります。繊維と繊維の癒合点で,だいたいはこれに沿って切ってゆくことが多いですね。

 ちなみにこの「白線」の部分が残って,ピックの先端に入ったりすると,先っちょが透明になって,けっこうカッコよかったり(w)します。

 「蹄底」の板は,踵から爪先に向かってまっすぐ,いちばん長い繊維が走っているので,縦に長い月琴のピックをこさえるのには最適です。
 やや柔らかいので加工は楽ですが,ほかの2枚にくらべるとぶ厚いことがあります。厚いものから削り出したほうが良いものはできますが,ピックの形に加工する前,平らな板の状態にまでするのに手間取ることがやや多いですね。

 切り分けたパーツは,切った時に出た粉とかをよーく落として,また一晩くらい水漬けしておきます。
 すでに何日か漬け込んではありますが,切り分けて新しくできた切断面なんかには,水がぜんぜん滲みてないので,そこらだけ硬くなっちゃってることがあるんで。


STEP2  新技法-蒸す- > 焼き熨し

 いつもですとこのあと,水漬けしたパーツを鉄板に挟んで平らにする「焼き熨し」の作業となるのですが,今回はここにもう一つ工程を追加します。

 それが「蒸す」という作業。
 水漬けしたパーツを蒸し器にぶっこんで蒸しあげます。

 薄いものだと30分ほど,ふつうの厚さでだいたい1~2時間。蹄底などやたらぶ厚いものなら,3時間ばかりも蒸しましょうか。
 ただし作業中,ずっと火を入れ続けて蒸らす必要はありません。いちど蒸しあげたらあとは,鍋が冷めかけたらしばらく沸騰させる,というくらい断続的で構いません。つぎの「焼き熨し」の直前に,30分ばかりふかし直す,ってのでもいいようです。

 牛蹄は,水に漬けただけですと,ごく薄いパーツでも,芯まで水が滲みるのに何日もかかります。

 それでもまあ,ある程度は柔らかくなっているので,従来は,これをかなり無理矢理クランプで押しつぶし,焼きを入れて整形していたわけですが,「柔らかくなってる」とはいっても板の中心まで全体柔らかくなってるわけではないので,芯の部分が残ってたり,繊維が詰まって特に固くなっていたりする部分に,この作業でよく,割れたりヒビが入ってしまったりしていました。


 とくに,弓なりになってる蹄側の板は,最初に潰すだけでもかなりの力をかけるもので,よほど注意して作業しても,数箇所はヒビさせてしまうことのほうが多かったですね。


 一度の焼き熨しで平らにならなかったり,焼きムラがヒドかったりした場合は,板とクランプをかけ直し,あらためて焼くんですが,これを繰り返していると繊維に火が通りすぎて,オレンジ色の「焼き過ぎ」状態になっちゃうことも多かった----「焼き過ぎ」の材料は硬くてもモロい。
 そうなったら,いくら平らになったとてもうマトモなピックにはなりません。弦に当てたとたん,パキャッ!っと四散するかもせんのですわ。(w)

 全体ムラなく,芯まで火が通っていて,繊維がほぼ癒着した平らな一枚板になってるのが理想なのですが,牛蹄の表面にはもともとこまかな凹凸がけっこうあります。
 浅い凸凹なら勝手に潰れてくれますが,素材に厚みがあったり,繊維の方向が特殊だったりすると,わずかにでも鉄板に触れていない個所が,何度焼いても火が通らず,繊維がちゃんと癒着してくれないので,その部分だけ使い物にならなくなったりしてましたね。

 ここで「焼き」に入る前に「蒸し」の作業を入れておくと,水漬けだけの場合よりもずっと柔らかくなっているので,平らに潰しやすいんですね。しかも前より表面が柔らかなので,ちょっとした凹凸でも完全に潰れて,まっ平らになってくれます。表面が平らだと,全体に熱がまわるので,繊維の癒着も均一になります----より素材としての「理想」に近づいた,って感じかな。



STEP3  素体切り分け > 油焼き

 平らな板状になった素材は,一週間ほどさらに乾燥させてから,ピックの「素体」に切り分けます。

 素材が薄いものなら,この前の焼き熨しの作業がうまくいってれば,いきなり最終的なピックのカタチに加工整形する工程に入っちゃっても良いんですが,厚みのある素材,また繊維が斜めに入っている蹄側の板から切り出された素体は,このあとさらに 「油焼き」 という作業を施しますので,もう一手間。


 細長く切った素体表面を削って,焼き熨し時についた焦げの部分や小さなデコボコを均し,ついで左右の長辺を削ぎ落として,表裏ともに中心部が少し盛り上がった甲状にしておきます。

  **左 図 参 照**

 これはひとつに,細長いピックの中心線となる部分をより圧縮して,ピックに「芯」を入れるため。ふたつにはこうして焼き板からわずかに離すことで,弦に触れる縁の部分が固焼きになりすぎないための工夫ですね。


 切り分けて表面加工した素体は,いちどどっぷんと油瓶につっこんで,全体を油でヌルヌルにしてから鉄板にはさみこみます。「焼き熨し」の際にも,蹄が鉄板にくっつかないよう,油を引いて焼いてはいますので,素材にはあるていど油が滲みてますが,この「油焼き」の工程では,全体にたっぷりまぶして焼き上げます。

 水分だけだと,ある程度まで高温になると蒸発してしまい,繊維の癒着が始まる前に表面が焦げちゃうんですね。油は沸点が水より高いので,高温高圧の状態が長続きして,より確実に繊維を癒着させる----「焼しめる」ことができるんです。

 左画像,左がもとの素材,右が油焼き後の素体ですね。

 油焼き前の加工で少々表面を削ってはいますが,だいたいこのくらい圧縮されるわけです。はじめの段階ではこの素材の,さらに3割増しくらいの厚みがありました。

 新技法の導入により,素材段階でかなり均一で密な板に出来るようになりましたので,この「油焼き」でトドメの熱圧を加えれば,さらにぎゅっとしまった固くて丈夫なピックが出来上がります。
 庵主は油焼きに,乾性油の亜麻仁油を使ってます。亜麻仁油が乾燥する目安が最低48時間ですんで,作業後の素体は二日以上乾かして,次の作業に入ります。

STEP4  整形 > 仕上げ


 こっからさきもまあほとんど変更はありません。
 あとはもうただただピックのカタチに削ってゆくだけでございます。

 庵主が使ってる工具は,木の板や角材に紙ヤスリをはりつけた当て木何種類かと,ヤスリと小刀
 小刀で削ってますと,オーバーランした刃先がときどき,左手の中指の関節のあたりにところに当たって血まみれになることしばしば。そこでいまは,¥100均で買った指ぬきをはめてやっています。買ったばっかりですがもうこんなに傷だらけに……これ,ホントちょうどいいですわ。

 基本的にカタチは自由ですが,庵主はこんな感じに削っています。薄いほう厚いの好みもさまざまですが,庵主の場合はトレモロ演奏やらかす関係で,やや厚めのほうが好きです。握りが安定しますんで。


 むかしの絵図ですと,先端は四角くいほうが多いみたいですが,実際に残っているピックの実物を見る限り,その形状はけっこうさまざまで,現在中国で売ってる月琴用のピックや長崎あたりで使っている一般的なピックも,庵主のコレと同じように,先っぽはまあるくなっています。
 この先端部分,どうしても尖らせてうすーくしちゃいがちなんですが,弦楽器のピックは刃物とは違うんで,多少厚くても大丈夫。あんまり薄いと弦が切れるばっかりで音が出ません(w)。弦に当たるあたりの周縁のカドを軽くまるめた程度でけっこう。
 先端の薄い・厚いはむしろ,弦を弾いた時の感触の好みの違いですね。

 おしりの孔は飾り紐とかを結いつけるためのものですが,ほとんど使いませんね。2ミリのドリルで孔をあけた後,5ミリのドリルの刃先で孔の周縁をイングリモングリすると,こんなふうにキレイな二重孔になります。

 カタチが整ったら全体を磨いてゆきます。

 まず#240を貼りつけた木片でこすって,細かな凸凹とナイフやヤスリの削り痕を消します。
 つぎに#400の Shinex で研磨。細かなキズを消して。
 仕上げは亜麻仁油と白棒(研磨剤)の削ったのをまぶして,#1000相当の Shinex でひたすらゴシゴシ。

 ほりゃあ!どうじゃあああっ!!


STEP5  まとめ

 細工物,ってのはなんでもそうですが,素材の段階で下ごしらえがしっかりしていると,けっこう上手く作れちゃうもんです。

 今回「蒸す」という工程を入れて,牛蹄の板の質が格段によくなり,また焼き入れ工程による歩留まりをかなり軽減することが出来ました。
 前よりも全体に均質な素材となったので,捨てるところも少なくなりましたね。

 というわけで,どこまで長いピックを作れるものか,やってみました。
 以前ならこの長さの板を切り出しても,焼きムラや質の違いから,結局は先っちょの部分しか使えなかったりしたんですが,今回はほぼ切り出したままの長さのピックが製作可能です!

 完成したのがこちら。

 銘:「高尾」。
 長:14.3センチ。

 握りかたが安定しない初心者は,やや長めのものを好む傾向がありますが,慣れてしまうと長かろうが短かろうがあまり関係なくなり,むしろあんまり長いと手から余っちゃうぶんがジャマになっておえねえわな,となります。
 庵主がふだん愛用しているピックはだいたい7~8センチくらい。
 長さよりも幅の広いせまいとか厚みのほうが,ピックとしての操作性に大きな影響があるようですね。

 ゆえにまあ,月琴のピックとしましては実用度外視で,たんに「どこまで長いものが作れるか」という興味から作ったもんですが,もちろんちゃんと問題なく使えるシロモノになっていますよ。
(おわり)


カメ琴1号改修

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斗酒庵 自作楽器を魔改造 の巻2016.6 サイレント月琴・カメ琴改造

STEP1 改造怪人カメハープ

  …そうかあ,2007年かあ。
  もうコレ作ってから10年近くになるんだあ。

  ----と,感慨にふけっておりました。

  庵主作の自作楽器としては初期の作であるこの 「カメ琴」 は。 当時,清楽月琴の構造などを調べるため作ってた実験楽器・ウサ琴シリーズの,しくじって余っちゃった材料と,その頃まだ新木場にあったウッディ・プラザさんで大量に買い込んだチークの粗材。そういうのを組み合わせ,YAM○HAのサイレントなんちゃら みたいのを作れないかなあ----と,かるいキモチで,三週間ほどでデッチあげた楽器です。
  本体は,ウサ琴の胴体に使ってたエコ・ウッド(スプルース製)の輪っかに,チークの角材一本噛ませただけ,ピックアップはアキバで買った圧電素子(¥70)が2枚,それにボリューム端子とピン・ジャック(♀)をシールドでつないだだけのシロモノですが,その後いくたのギグやレコーディングで活躍してきてくれました。

  なんせ清楽月琴は生音が小さいもので,ステージ上でほかの楽器と合奏するときなんか,PAさんナミダ眼になりますもんね。

  今回は,夏の帰省を前にこれを改修。
  スピーカー・ユニットを増設し,「YAM○HAのサイレントなんちゃら」 から 「FERN○NDESのZ◎-3っぽいナニか」 へと,デジモンばりに 「進化」 させようと思います。(w)

  基本的にはエレキと同じ,アンプがないと鳴らない楽器ですので,以前から,これを外で弾くときは,専用に作ったスピーカー付ミニアンプ 「マスヲさん(1合升製)」 を持って歩いてたんですが。よくよく考えてみますと,これあんまり意味がない。合体させてラインアウトを付ければいいだけのハナシですが,生来メンドくさがり屋なもので,なかなかそれに踏み切れず。現在,たまたま修理や研究作業が中断してますので,この機会にパッパとやっちしまいましょう。

 増設ユニットは本体の表板と同じく桐で,ただしそれだけだと強度不足ですので,裏面にブナのツキ板を,木目を交差させるかたちで貼りつけます。これに穴をあけ,スイッチやジャック周りは表面からもツキ板で補強。

 増設部表面の塗装は桐板表面に柿渋一刷け,ツキ板部分を茶ベンガラで塗り分け,¥100均のラッカースプレーで固めました。下地の柿渋がそのうち発色して,面白い感じになると思います。

 カメ琴2号の時にも書いたんですが,この手の楽器の場合,電池の交換の難易が,使い勝手を大きく左右してしまいますので,電池は例によってほとんどムキ出し状態です。改修前にボリュームやジャックをつけてた部分が,ちょうど9V電池の入る大きさでしたのでここに収めます。ほんとただ差しこんでるだけなんですが,木部の寸法がピッタリなんで,ます勝手にはずれませんね。

 従前はこれ自体に電気は使ってなかったんで,回路も配線もムキ出し状態でしたが,今回は9Vとはいえ電池内蔵。電気ゲッキンに電撃されることになるのもイヤなので,裏ブタをつけます。
 圧電素子も露呈している面にエポキを塗って固めてあります。絶縁とか回路保護策というより,これも感電対策ですねえ。

 はじめはただ板切れ一枚をかぶせただけだったんですが,そうしたらスピーカーからの音が,前に飛ぶより,横からダダ洩れするほうが大きくなってしまったので,急遽,そこらにあった端材で側壁を作り,裏ブタに貼付けました。全面ぐるりと囲ったわけでもなく,スピーカーにかかってる上面部だけの壁ですが,これだけのことで,音がちゃんと前に向かって飛ぶようになりましたね。フシギなもんじゃ。(w)
 ただ,こんどは前に飛ぶ音がちょっと硬く,あまりに広がりがなくなっちゃったんで,裏ブタのスピーカーの真裏あたりに孔をいくつかあけてみました。
  

 ----うむ,こんどは弾いてるがわにもそこそこ響くぞ。 Webとかで見た工作真似してるだけなんで,やっぱり理由はよく分からんけど(w)

 三日ほどかけて完成。
 もとが自作の野良楽器なもので,接着はほとんどエポキ,本体との接合は穴あけてボルトナットと木ネジでくくりつけてるだけですが,まあうまくいったかと。

 デザインのコンセプトは 「スチーム・パンク」----だったんですが,まあこんなものです,あはははは。

 表面,上からボリューム,電源スイッチ,スピーカー,出力切り替えのスイッチ,そしてピンジャック。ふだんはスピーカーから出力,ヘッドホンの端子をピンジャックにさせば,以前どおりサイレント月琴としても使えます。

 改修前,ピックアップになる2枚の圧電素子は,薄い両面テープで板に直貼りしてました。Webの記事ではよく,ちょっと厚めの,スポンジなどついた両面テープがお勧めされてるんで,最初そういうのでやってみたら,シールドつないでアンプで出力するとぜんぜんマトモに音が出なかったんですね。

 しかしながら今回は,前と同じにやってみますとやたらキンキンした破壊音が大音量で出よります!! うわああハウハウもぞんで起こりよる~(泣)

 圧電素子ってのは振動や圧力を電気に変える部品(逆に電気をかけると振動します。ブザーの中身)で,これに使ってるのはそんなに好感度でもない。前は長いシールドとかつないだせいで,それが抵抗になり,電気信号が弱くなっちゃってたんでしょうね。
 今回はアンプ・スピーカーとピックアップの距離もほとんどなく,線も短いから電気的なロスがない----庵主前々から言ってるように,ガンプラのザクの目玉光らせる以上の電工は分かりませんからね。本気にしないでくださいよ(w)----とゆーことじゃないかと。一度へっつけた圧電素子をハガし,厚めの両面テープで貼り直しただけで,音の甲高さやハウリング,かなり改善されました。

 さてさて,斗酒庵に新たなギアが追加されました。
 改造カメ琴1号,こんどはどんなところに連れてってくれるでしょう。


(おわり)


「渋紙張り」について

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斗酒庵 シブミを知る(w) の巻渋紙張りについて

シブバイ とは?

  そのむかし,お江戸の門付芸人さんや瞽女さんは,三味線にイヌやネコの皮ではなく,「渋紙」 を張っていた,とものの本には書かれています。真っ黒にくすんで,べこべこになった紙張りの三味線をかきならし,からっ風でガラガラ枯れた喉で唱える調子っぱずれの唄----それがお江戸の音のひとつだった,とされています----してみれば,お江戸の底辺からむくむくと湧きあがってきた,多くの俗楽・民間芸能の原点や,日本各地で歌い継がれてきた民謡の深層には,「渋紙張りの三味線」 の音が流れていたはずなのです。

  そのむかし,うちなーの若い衆は,バショウの渋を引いた紙張りの三線を持って,夜な夜な浜辺で毛遊び(もうあしびー)に明け暮れた,とたいていの三線関係の記事には出ております。いまは三線といえばヘビ皮ですが,当時ヘビ皮張りの三味線は,お大尽しか手に入れられないような高価なもので,庶民の楽器は「シブバイ(渋紙張り)」の三線だった,ともあります----してみれば,数々の島唄が生まれたその場に響いていたのは,ヘビ皮ではなく渋紙を張った 「シブバイ三味線」 の音だったはずなのです。

  さて,今回はそんな 「渋紙張り」 のお話です。

  庵主いちおう専門ながら,寡聞にして中国の俗楽や民間芸能で同じように 「皮の代わりに紙を張った楽器」 というものがあったかどうか,良く知らないのですが,日本の資料,とくに民間芸能とか流浪の芸人さん,みたいなことについて書かれたものには,必ずのように出てきますね。この「紙張りの三味線」のお話は。

  しかしながら,いざ調べてみますとコレ----「皮の代わりに渋紙を張った」という記事はうじゃうじゃ出てくるんですが,まあだいたいがどっからかのコピペみたいな文章で,その「渋紙」を「どうやって」張ったのか,みたいなことを書いてくれてる記事はほとんどありません。
  音楽の関係者からすると,楽器が三味線なら皮が猫だろうが犬だろうが紙だろうがあまり関係ないようですし,楽器の関係者からすると「渋紙を張る」という行為は,あくまでも「皮の代用」として行われる,「その場しのぎ」あるいは「一時的」な処置だったろうから,とりあえず書いておけばいいや,というような感じのようです。
  たしかに「本物」であるところの「皮張り」の楽器は,芝居小屋や寄席や遊郭に行けばいくらでも見られ,聞けたでしょう。ではそうしたところの音楽がホンモノで,「紙張り」の楽器で奏でられた音楽はニセモノなのでしょうか?----そうじゃないですよね。
  庶民とそれ以下の人々にとって,「紙張り」の三味線の音こそが音楽だった,この日本には,そんな時代もあったわけです。
  今回「渋紙張り」に挑んでみようと思ったのは,この「豊かな日本」にあって,かつての彼ら同様,最底辺の階層に属し,リア充爆発しろ金持ちはみなツね,と日々つぶやいてる庵主ならでは,当然の帰着であったかもしれません-----いえ,ウソです(w) たんに皮を買うお金がないので,手元にある紙でなんとかならないかなーと思っただけで。

  ちなみに庵主,むかし経師屋さんで少しバイトしたことがあります。ああ「経師屋さん」つてもほとんどの人は分かりませんかね。まあ,あれだ----床の間に飾る掛け軸とか作ってる人です。ほか襖とか障子の張替えなんかもしてましたね。
  ずっと修理報告をご覧になってる方々はお気づきでしょうが,庵主は楽器の修理によく和紙を使います。その修理における紙使いのテクは,もともとこの経師屋さんと古本(和本)修理の経験から得たものです。いや知識や経験というものは,どこでナニがどういうふうに役に立つか分からんもんですわ,ホント。

  で,その経験から言うんですが。基本的に----

  「渋紙」 はうまく 「貼れ」 ない。

  ----はずなのです。まあ,ただくっつけようというのなら方法はいくらでも考えつきますが,あくまでも 「渋紙」 にこだわるなら,どの方法も特別な工具が必要かそれなりに手間がかかります。
  三味線ひと棹笠ひとつで,毎日が稼ぎのような底辺の芸人さんたちが,何日もかかるような修理をやっていられるわけがありません。張り替えるにしても,修理するにしても,なるべく時間と手間と人手とお金のかからない方法をとったはずであり,そうでなければ 「紙を張る」 という行為が広く行われていた理由がありません。

  さて,そもそも多くの記事に 「皮の代わりに張った」 と書かれている,その「渋紙」なんですが。 書き手の方々は,いったいどのようなものを想像してるんでしょうか?
  上にも述べたように,これに関する限り,ほとんどの記事がコピペめいたものばかりなので,考察は,根本の根本であるそのあたりのところからはじめなきゃならないようです。

  庵主の知るところ,「渋紙」 と呼ばれていたものにはいくつか種類があります。代表的なものとしては----

  1) 包装紙としての渋紙。
  2) 衣料・生活用具の材としての渋紙。
  3) 染物の型紙としての渋紙。


  などがあげられます。
  1)は戦前くらいまではけっこう見られ,一般的に「渋紙」といって手に入るのは,この類がいちばん多かったと思います。この包装紙としての渋紙にもいろいろと等級があって,ごく薄い鼻紙みたいな紙に,2~3度軽く渋を引いただけのようなものから,番傘などと同じように表面に油やロウをひいて,光沢紙のように仕上げたものまであります。後者は多少水気のあるようなものとか量り売りの油もの(たとえばカリントウみたいな)なんかの包装紙として見かけますね。やや厚手ものは,古い瀬戸物や小さな細工物などの梱包・緩衝材としてよく見られます----このあたりは古物屋の小僧時代の経験知識から。

  2)は現在,現物にはめったにお目にかかれないんですが,紙を貼り合せて裃(かみしも)の類の上着や祭事の装束などに仕立てたものがあります。柿渋で固めた上から,さらにウルシを塗るなどして,皮のような風合いを出したものもありますね。紙の雨合羽なんてものもありました,これは紙でカタチを作って,表面に番傘と同じ防水加工(渋+油)を施したものですね。上物は紙製とはいえ意外に丈夫で,ちょっとやそっと着たくらいじゃビクともしません。そのほか紙帳とよばれる蚊帳の一種や,襖紙,壁紙,敷物などにも使われてます。いづれも1)よりはやや厚手の紙で作られます。

  3),これが問題で。沖縄の三線関係の資料には,「びんがた(琉球伝統の染物)の型紙に使ってた渋紙を三線に張った」なんて記事も見えるんですが……結論から申しまして,ムリです。 染物の型紙に使われる「渋紙」というものは,丈夫な紙を何枚も,渋を塗っては繊維を交差させながら貼り合せた,かなり厚手のものです。そうですね,厚みも硬さもプラスチックの下敷きくらいはあります。大正期以降は「紗張り」といって,さらに布を貼って強化したものもありますし,表面にウルシを塗って防水対策をしてることもあります。加工前の渋紙なら,濡らせば多少は柔らかくなりますが,乾いた状態では表面渋でガッチガチ,ニカワを染ませるのもちょっと難しいくらいですね。

  そもそも「渋紙張り」と言い「シブバイ(沖縄語 渋:張り)」というからには,その紙は皮や布のようにテンションをかけて「張り」つけられたものであったはずです。またそうでなければ,三味線の場合「皮の代用」とは言えないし,ならないはずなのです。「板のように固い」紙を「貼り」つけても三味線は鳴りますが,それならいっそ「箱三味線」として紙より木の板を貼ってしまったほうがラクですし,工作の手間もかかりますまい。

  製品として売られている一般的な「渋紙」。
  つまりすでに加工されて「渋紙」となっているものは,上にも書いたように,なんらかの方法で表面に撥水加工が施されていることが多く,接着が悪くなっています。これらをもし皮のように楽器に「張る」としたならば,事前にいちどよく揉んで表面を荒らすなり蒸らすなり,薬品処理するなりという手間が必要となります。できないことではないし,大した手間でもないので,使い古しの 「渋紙」 が再利用され三味線に張られた,ということも実際ありはしたでしょう。しかしながら,いちおう楽器に関わるものとしていろいろと考えるならば,いろんな記事で三味線に「渋紙」を「張った」,と書かれている行為は,実際には「渋紙を張った」のではなく,「ただの紙を張り重ねて,渋を塗った(最終的に紙が渋紙となる)」というのが,一般的であったろうと思われます。

  今回は弦子と二胡でやってみました。
  使用した紙は「華草紙」という画仙紙の一種。薄くて丈夫な紙です。
  これを弦子は8枚,二胡は6枚,繊維の向きを交差させながら重ねてみました。

  紙を「渋紙」にするやりかたにもいくつかあって,柿渋だけで固めるやりかたと,でんぷん糊などの接着剤を用い,紙を貼り重ねてゆくやりかたがあります。
  紙の質にもよるのですが,前者の場合は繊維がよほど柔らかい紙でなければ,層になってハガれてしまいますので,ふつう「渋紙を作る」と言えば,糊づけして貼り重ねたものを指します。明治時代の裏ワザ本に「糊にも柿渋を混ぜて紙を貼ればより丈夫な渋紙になる」とあったので,ヤマト糊に柿渋ぶちこんでかン混ぜてみましたら,みごとにモロモロになるばかりで使い物になりません。ニカワの場合にも渋を混ぜろとあったので,これも試してみましたが,へんに白濁して分離するばかりで,やっぱり駄目。くそー,ウソばっか書きやがって執筆者死ね!!(もう死んでるwww)

  薄い紙に糊を引いて,乾く前に左右にぴんと張りながら重ねてゆきます。
  このくらいの薄さの紙ですと,最初の2枚くらいは,あらかじめ貼り重ねておいてから張りはじめたほうがいいかもしれません。
  重ねるために糊なりニカワを塗るとどうしても濡れちゃうので,最初がうすうすだと,せっかくピンと張った中心がたわむし,力入れすぎると簡単に破けてしまいますね。

  あらかじめ繊維を交差させて重ねておけば,多少濡らしてもそうそう破けることはありません。そのかわり,今度は乾いたらパリパリになっちゃいますから,楽器に張るときは,霧吹きなどでさっと湿らせておかないと,うまく貼りつけられません。

  紙の間に空気が入らないように気を付けて,重ねては周縁部を撫でるようにこすって,ピンと張ります。
  数枚重ねたところで渋を引き,渋が乾く前に 「ひのし」 をかけましょう。
  「ひのし」----つまり昔のアイロンですね。生乾きの段階で皮面に布をかけ,じゅうぶんに熱した「ひのし」をすべらせるようにかけます。
  ひとつには蒸らすことによって,柿渋や糊を紙の繊維になじませます。もうひとつには衣類のアイロンがけと同じ。デコボコをなくして平らにするためですね。この作業は,渋塗り,貼り重ね,油引きの作業それぞれの合間に,表面が生乾きの状態で行います。

  いまは珍しい工具になってしまいましたが,むかしは各家庭に普通にあったものですし,宿などでは借りることもできたそうですから,旅回り,門付の芸人さんたちでも,この工程は可能であったはずです。張り替えまでいかないような部分的な補修も,これがあれば短時間で可能だったと思いますね。

  今回ははじめてのこと,イロイロと考えながらの作業だったので,半日くらいはかかっちゃいましたが。
  作業時間だけで考えるなら,三味線でも完全張り替えで4時間ぐらいもあればなんとかなりましょうか。「ひのし」があればさらに乾燥時間を圧縮できますので,材料がそろってて慣れている人なら2時間くらいでやってしまえるかもしれません。
  また紙張りの場合,作業完了と同時にほぼ演奏可能です。

  もちろん上物の「皮張り」の楽器と,音色では比べものにもなりませんが,まあふつうに「三味線」と分かる音は出ます。板張りに比べると余韻の部分の伸びがずっと良く,アタックの部分でもへんな金切音が出ません。欠点としては高音の伸びがやや物足りないこと,あとは音量があまり出ません----しかしこの辺りは紙や糊の材質とか張りかたとかで,ある程度改善することができそうです。
  あと張ってしばらくしたら,中央の部分が少し凹んでしまいます。完成直後はかなりピンとしてたんですが。
  これは紙が水分を吸って伸びたから,というより柿渋や糊,防湿のため仕上げに引いた乾性油の固化のほうと関係がありそうです。使用上さほどの支障はなく,音にもあまり違いは出てません。今回は薄い紙を楽器に直接張ってゆきましたが,もしかするとあらかじめ重ねておき,中央部分だけ先に柿渋をしませて固化させておく,などの方法によって回避できるかもしれませんね。

  この「紙張り」,研究次第によっては,楽器方面の方にとって,かなり面白い技術になると思いますよ。

(つづく)


胡琴を作らう!2 (3)

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斗酒庵 清楽胡琴作りに再度挑戦す の巻2014.6~ 胡琴を作らう!2 (3)

STEP3 もう余ってるとは言わせない!


  さてさて,全体のカタチが出来たら,まずは磨きです。
  胴体と棹の表面を磨いて,表層を削り落とした時についたキズなんかを消します。
  ちょっと凝りたい人は,ここで染めや塗装をしてください。
  柿渋をしませてカシューで仕上げてもいいですし,亜麻仁油で磨き上げてもよし,水性ニスを全体にざッと一刷きでもけっこう。

  庵主,ここでちょっくら実験をさせてもらいます。
  従前の自作胡琴では,柿渋をしませてカシュー仕上げでした。
  しかし考えてみますれば胡琴はヴァイオリンと同じ擦弦楽器。
  そして我が家には日本リノキシンさん謹製のヴァイオリン・ニスがあります。コレを使わない手はない……の,ですが,これはアルコール・ニス。乾燥が早く,竹との相性があまりよろしくない。以前試みに塗った時も,しばらくしたらポロポロと細かな層になって剥がれてしまいました。

  塗料のせるためにガラス質の表層を削り落としたりもしてるんですが,竹という素材はそれ自体に少量の油分が含まれているのもあって,もともと塗装や染めが難しいのですね。月琴フレットの加工などで,染め汁にブチこんで10分ほども煮〆れば,かなりキレイに染まることは分かってますが,もちろんこの大きさのものを煮〆るわけにはいきません。
  しかもアルコール・ニスですからね。鍋に入れて沸かしたらさてどうなるか(w)。


  ではさて,前回これに柿渋を染ませるのに使った方法,あれをアルコール・ニスでやってみたらどうなるか?
  ----これを試してみたいと思います。

  まずは,表面を磨いた棹と胴体に,エタノールでちょっと薄めたニスを,たっぶりだぶだぶまんべんなく塗りつけます。
  んで,すかさずラップでこう……最初のニスは10~20分ほどで竹が吸ってしまいましたので,頃合いを見て,もういちどだぶだぶと塗ってラッピング。あとはそのまま半日~二日ほど放置。ラップを剥がしたあと,エタノールをつけたウェスでムラになった表面を軽く拭って,一週間ほど乾燥させました。

  んでそれを磨いたら……

  上にも書きましたように,今回の胡琴の胴や棹の竹は,表皮のガラス層を削り取ってしまってるんですが,あたかもそのガラス層が復活したかのように,竹の表面がツルツルのツヤツヤとなりました!

  こんなことやれば,木材なら芯までしみちゃっていつまでたっても乾かないとこですが,さすがに竹,一晩やってもニスの浸透は,多孔質な木口のところと,部材のほんの表層のところで止まってますね。
  ヴァイオリン・ニスは本来,木材に使用されることが前提なのですが,竹材の場合,塗装により形成される塗膜が,非常に貧弱なものにしかならないことを考えると,木材と同じようにあだ表面に塗るよりは,今回のようにして表層に染ませたほうが,仕上げの作業としては良いのかもしれませんね。
  もっとも,この加工による竹材の経年変化の結果が分からないので,まだまだ断言はできませんが----まあ実験です。
  オールド・ヴァイオリンのニスを再現した日本リノキシンさんのニスを使った胡琴が,どんな音で鳴るのか,試してみたいと思うじゃあありませんか。


  あ,この作業の前に,胴との接合部のすぐ上と,糸巻きの孔の上下に補強の糸を巻きました。
  前作までは籐巻きしてたんですが----細籐が高くってねえ----釣具屋で買える釣竿補強用の糸(中太)を各所1センチ幅ほど。
  巻き方などは釣竿自作のページ,もしくは篠笛のページなどをご参照ください。
  この補強,現代京胡にはだいたい施されてますが,古い京胡である胡琴1号にはしてありませんし,まあなくってもいいんですが,棹孔ほじくるときに結構割レが入っちゃってたりしますからね。なにかしらの補強はしておいたほうが吉かと。



  さて,いよいよ最後の難関。
  皮張りです。
  現代京胡では青蛇だとか黒いウロコの蛇の皮が主に張られますが,胡琴1号にはニシキヘビっぽい皮が張られてましたねえ。
  庵主は三線に使われるニシキヘビの皮を使いますが,三線の皮は二胡に使われるものよりかなり厚め,さらに京胡や胡琴の皮は二胡の皮よりもっと薄いものなので,まずは裏を剥いで薄くします。

  皮の加工は水に漬けて柔らかくもどしてから。まずは10センチ角に切った皮の角を落とし,八角形にします。つぎに皮をひっくりかえして包丁とかで皮裏をザリザリっとやると,繊維がほぐれてめくれあがってきますんで,それをつまんでうまく剥がしてやりましょう。
  なるべく全体,均等な厚みになるように----あと,やりすぎると皮が破けちゃいますからね,注意して。
  薄い皮がイイとは言っても,しょせんシロウト張り,ちょっと厚めのままでも構いませんよ。


  いくぶん薄くなった皮の八方に,ワリバシか竹の棒を切ったものを縫いつけます。
  道具はふつうの針と木綿糸でけっこう。
  庵主は竹棒一本につき四箇所,左右の端は力がかかるんで特に念入りに縫いますが,まあこれもそんなに気張ってやらずともよろしい。乾いてしまわないよう皮を時々水で濡らしながら,ももしきの破れでも繕うつもりで,のんびりやってください。


  皮張りの作業は二段階で行われます。
  竹棒の縫い付けが終わったら,一次張りです。まずは皮を胴体に張って伸ばすのと,胴体の型をつけるための張りなので,接着剤は使いません。

  皮張りの台にはこんなのを使います。
  ¥100均屋で買った,針金製のなべしき,ですね。

  前回まではこれを単体で使ってたんですが,今回,前よりもバリっと張っちゃろ思って紐を二重にしたら,夜中にバキッと音がして底が抜けてしまいました(右画像)----そこで今回は,これを二枚重ねで使います!

  二枚を反対合せで重ねることで,強度が格段にあがったのと,前まで三方向にしかなかったひっかけ部分が倍の六方向となり,より細かく紐がけができるわけですね。


  重ねたなべしきの外縁数箇所を,テープでくくってはずれないようにしたら,真ん中に八角形に切った板を両面テープで貼りつけ,さらにその板の上に両面テープを貼って,胴体を固定します。

  水に漬けておいた皮の水気をよく拭ってのせ,八方の竹棒に紐をかけます。
  本職は革紐とか麻紐を使ってるようですが,庵主は¥100均で買えるタコ糸(太口)を二重にして,濡らしてから使っています。
  この「濡らす」ってのがポイントですかね----濡らした糸は乾いた状態よりはるかに丈夫。また乾くと自然に縮まってくれもします。
  この二重にしたタコ糸を,庵主は上下に3本づつ,左右とななめ方向に2本づつかけてます。ヘビ皮は上下方向の張りにはけっこう強いんですが,左右方向にあまり力をかけすぎると破けちゃう傾向があるそうです。なので上下方向に余計に力がかかるようにしてるわけですね。
  最初の紐かけはそんなにきっちりとしなくてもかまいません。
  まずは上下左右の四方向に均等にかけて,皮をちょうどいい位置に固定しちゃいましょう。二本目三本目で少しづつしめあげ,さらに紐に棒を通してギチギチと巻き絞めます。


  上に書いたように,この一次張りは,皮を伸ばすのと胴体の型を皮につけるのが目的なんで,この時点ではべつにギリギリ張っちゃう必要はないのですが,きちんとした道具を使ってやる本職と違って,こんなシロウト張りでは,あんまり大きな力を皮にかけられませんから,使ってる紐や縫った竹棒が千切れないていど,なべしきの底が抜けないていどなら,思いっきりしめあげちゃってかまいません。

  ----ま,破けたらイチからやり直しのつもりでね(w)。

  一次張りをしたら二三日置いて,いったん皮を乾かし,紐をほどいて胴体からはずします。
  これをまた濡らし,竹棒をあらためて縫い付けなおし,二度目の張りをするわけですが。

  これが本番ですからねー,慎重にやってくださ~い。

  胴体の皮を張るほうの切り口と,端のところにニカワを塗ります。
  そうですね,側面は竹の切り口から1センチくらいのとこまでかな?
  接着に使われる部分は,あらかじめ粗めの紙やすりなどで荒らしてキズだらけにし,皮が食いつきやすいようにしておきましょう。
  あと,ニカワはあんまり薄いと竹にしみこんじゃったりしてくっつかないので,ちょっと濃い目に溶いてください。

  濡らした皮はそうカンタンに乾きゃしないので,紐かけの作業はゆっくり,慎重にやりましょう。
  一次張りで胴体の型がついてますから,こんどは固定するのが前よりはカンタンなはずです。
  まあ限度限界というものはありましょうが,今度はさらに思いっきり,できるかぎりしめあげてやってかまいません。
  ナニ,二三度失敗したりしたほうが,「程度」というものが分かって,次がラクになるってもんですよ(経験者は語る)。


  お天気にもよりますが二三日から一週間ほど置いたら,紐をはずします。
  この時,まずはちゃんと接着されてるかどうか,確認してください。(注意)
  皮がはずれないか,ヘンに動かないか確認したら,鼓面から1センチほどのところに切れ目を入れて,余りを剥がします。

  (注意!)「確認」:庵主はここで接着を確認する前に切れ目を入れてしまい。最後の最後で皮がすッぽ抜ける,というヒゲキを数回味わっております。切れ目を入れる前なら,また何度でも再チャレンジできますので,確認はきちんと行ってください。(泣)


  要らない部分をひっぺがしたら,側面の皮に軽くペーパーをかけ,ウロコやデコボコを均します。
  棹を挿して,最後に胴の口に2~3センチ幅の布を巻きつけたら,完成です!


  まあ細かいことを言えば,このほかに,駒(ブリッジ,皮の上に乗せる)を作ったり,弦に千斤(棹に結んで弦を引っ張る糸)を巻いたりという作業もあるんですが。
  そのあたりは二胡関係のサイトなどご参照ください。

  あと,皮に関して,二胡の世界では,生皮そのまんま派と,張った皮にアイロン当てて焼く派とが血みどろの戦いをくりひろげてるようですが(w)。


  庵主はアイロンがけ賛成派ですね。
  皮じゃなくてツメですが。すっと牛のヒヅメでピック作ってきた経験から言って,この手の素材は適度な熱を与えて変質させたほうが,耐久性もあがるし音響特性も良くなる気がします。湿気や温度に対しする変化・変形の幅も小さくなりますね。さらに上にも書いたように,しょせんはシロウト張り,どうやっても少し張りがユルいので,皮を焼いて変質させ,少しハードタイプにしたほうが,澄んだ音が出せるようですから。


  さて三回にわたって,胡琴という楽器の作り方を書いてきたわけですが。
  最初にも書いたように,庵主,この楽器は作れるけど弾けません(w)ので,弾き方なんかは教えてあげられませんよ。
  そのあたりもまた,よそのサイトをご参照あれ~。(丸投げw)

(おわり)


胡琴を作らう!2 (2)

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斗酒庵 清楽胡琴作りに再度挑戦す の巻2014.6~ 胡琴を作らう!2 (2)

STEP2 3分間的清楽器レシピ


  はーい,では,ご家庭でカンタンに出来る胡琴作り教室をはじめまーす。
  まずご用意いただくものは----

 (1) 竹(胴体)… 直径5センチ,長さ10センチ程度のもの一節ぶん。
 (2) 竹(棹)… 太さ18~20ミリ程度(六分か七分)のもの,長さ50センチほど。
 (3) ¥100均の「すりこぎ」(長32センチ)… 1本。
 (4) 生皮(なまがわ)… 少々(10センチ角)。
 (5) 三味線糸… 太いのと細いの1本づつ。

  まあ,二胡の弓は用意してくださいね。もちろん弓まで自分で作っても構いませんが,今は通販で\3000くらいで買えちゃいますし。
  手に入りにくいのは皮と糸かな?
  庵主は例によってヘビの皮使いますが,ペットショップで買える,ブタやウシの皮でもぜんぜん構いません。
  え,そんなものペット屋のどこに売ってるって?大型犬用の「おやつ」や「おもちゃ」として売られてるガムとかフリスビーとか,ああいうのがブタやウシの生皮で出来てます。あれなら質的に楽器に張るのにも充分ですし,胡琴の皮は小さくていいですからね。犬ガム一個もあればお釣りが来ます。皮とか触るのがヤなかたは,桐板でも貼ってください,それでも悪くはない。
  糸のほうもまあ,お三味の糸が手に入らなければ,二胡弦でもギターの弦でもいいでしょう。


  まずは胴体になる太いほうの竹を切ります。
  文献では長9.6センチなんですが,さすがにこれだとちと短く,膝上に置いたときの安定が悪いので,ちょっと伸ばして12センチくらいにしときます。今回の製作の目的は,清楽に使われていた当初の胡琴の再現ですが,この部分は棹と違い,演奏上のスケールとはあんまり関係ないので,多少変更してもよろしいかと。


  切った竹筒は,表面を削って,ガラス質になった表層部分を落としてしまいます。
  この部分は,強度的には最強なのですが,あまりに強すぎて,かえって割れとかの原因となりますし,この部分が残っていると竹に染料やニスをしませることができません。ぜんぶ削り落しちゃいますが,この表層部分の下には表層部分の次に強くて美しい層がありますんで,あんまり削り過ぎないようにも注意しましょう。


  棹を作りましょう。
  小うるさいことを言うならば,材料の竹は間に節が何個あって,何個目の節がどこやらになってるのがイイ----とか書いてある資料もあるんですが,いちいち気にしてもられないので,まあ長さと太さが適当ならよろしい。
  こちらも表面を削って,表層のガラス質部分を落としておきます。

  棹の片方の端,胴体に入る部分は,先端を少し余計に削って,若干細くしておきます。
  竹の肉厚にもよるんですが,上面(糸巻きのつくほう)が底面になるがわより直径1~2ミリ大きいってくらいですね。


  棹の下処理が終わったら,胴体に棹を挿す孔をあけましょう。

  竹の表面はすべりがいいので,エンピツで直接書いた指示線とかがすぐ消えちゃいますんで,こんなふうにマスキングテープ貼ったうえから書き込むとやりやすいですね。穴あけの時などは表面のハガレ割れの防止にもなりますから一石二鳥です。
  ネズミ錐で下孔をあけ,リーマーでだいたいの大きさ(直径1.5~1.7センチ)まで広げておきます。
  胴体の長さは変更しましたが,こちらの位置は文献どおりとします。
  9.6センチの半分から二分すなわち6ミリほど皮のがわということですから,4.2センチ……あ……前回の図面,寸法間違ってますねえ。(汗)
  おわびして訂正をば(図はクリックで別窓拡大)----

  棹の太さは七分の竹で2センチちょっと,六分の竹で1.6~1.8センチといったところですが,このあとフィッティングしてゆくので,はじめは竹の太さより少し小さめにあけておき,実際に棹を挿しながら,棹孔を広げてゆきます。

  自然のものですから,棹竹は完全に真っ直ぐなわけではなく,その断面も真円ではありません。

  まずは胴体の上面の孔を通します。微妙な曲がり具合なども勘案しながら,棹孔や少しづつ広げたり削ったりして,胴体からなるべく真っ直ぐに立ち上がって見えるような角度で,キッチリうまくおさまるよう棹孔の形を竹の断面に合わせてゆきます。
  ついで下孔です。
  こちらは真円であけ,棹先を削ってぴったりはまるように調整します。胡琴1号では,この部分に木の丸棒が継いでありますねえ。

  棹のお尻は,下孔から5~7ミリほど出しましょう。
  胡琴には現代二胡のような琴台はなく,ここに弦をひっかけます。

  適当に孔をあけて竹に竹を通しただけでは,演奏中に棹がぐるぐる回ってしまうのでたいへん不便ですが,上孔を竹の断面に合わせて削れば,棹は回りません。ちょっとメンドくさいですが,この棹孔あけの作業はちょっと慎重にやりましょう。
  まあ,もし削りすぎたり調整がうまくいかなくってユルユルになっちゃった場合は,最後にくさびを噛ませて固定する手もあります。

  工作としてはそちらのほうが簡単なので,最初からそッちづもりでもいいですよ。

  棹の角度や向きが決まったところで,糸巻きを差し込む孔をあけましょう。
  だいたいですが。太い握りのがわがφ12~3ミリ,先端がわがφ10ミリといったところですね。


  今回庵主は,胴体に煤竹を使ってますんでそれなりのお金,かかっちゃってますが,竹はDIY屋さんなどで数百円で買えましょうし,お近くに竹林等ございますれば,主要な材料はほぼロハで手に入るってもんです。
  お手軽な楽器ですよね。
  さて,竹はまとめて買ったのを切って使ってますし,これに張る皮も,月琴のバチ皮とか弦子の修理のために買った大きいのの端っこを切って使うので,それぞれ単価がいくら,というのが出しにくいんですが,その中で,

  ふたつだけ原料単価がはっきり分かる部品のひとつとまいりましょう。(のこり一つは糸です。w)

  糸巻きを削ります。

  材料は¥100均で買った「めんぼう」(長32センチ ¥108 スダジイ)。
  両端を四面斜め削ぎにして,真ん中から半分に切り分け,一台分の糸巻き,2本の材料とします。
  ほかは竹なので比較的加工も楽ですが,まあこれだけがカタくてちと辛悩な作業となりましょうか。

  ご家庭に小型旋盤などございます裕福な方は,それであらかた削っちゃってかまいませんが,一般庶民たるわれわれは,切り分けた素体を,糸鋸やヤスリや根性で,六角形もしくは八角形の円錐状の棒に削ってゆきましょう。

  ひっひっふ~,
   ひーはーひーはー,
     ご~りごり。


  月琴の糸巻きの握りは六角形のものが多いんですが,胡琴は八角形が本当のようですね。ただし国産の胡琴では,月琴と同じく六角形となっている例もあります。庵主も八面は削るのがツラいんで,ふだん削りなれてる六角形にさせてもらいますね。


  あらかた削りあがったら,ざっと表面の処理をして,あとは棹にあけた孔に合わせ,しっかり噛合うように先端を調整してゆきます。糸巻きの先は,棹孔の前面から5~6センチほど出します。

  まあ,胴体の切り出しからここまで,およそ半日ってとこでしょか。


  糸巻きの握りは,月琴と同じラッパ反りでもいいですし,現代の京胡や二胡と同じような,お尻の丸まったドライバーの握り型のでも結構。
  『清楽独習之栞』の図のもそうなってましたが,余裕があればお尻の真ん中に象牙や骨のポッチを埋め込んだり,色材を積層してシマシマにするのも面白いかもしれません。

  ちなみに庵主の糸巻きは,こんなんなりました----

(つづく)


胡琴をつくらう!2 (1)

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斗酒庵 清楽胡琴作りに再度挑戦す の巻2014.6~ 胡琴を作ろう!2 (1)

STEP1 出会いはいつでも


  ちょっと前の明笛の製作実験でお世話になりました四竈訥治の『清楽独習之友』。

  この本,楽譜だけじゃなく,楽器の自作方法や寸法まで載ってたりします。 むかし怪獣図鑑見て,カネゴンやペスターを作ってみようと思ったような方々(年齢が知れるなあ…)には,なんとも嬉しい資料じゃあーりませんか。

  ま,カネゴンはともかく。(w)

  明笛の製作実験を通して,この本における楽器の寸法は,実際に使われていた楽器と比較して,かなり精確なものであることが分かりました。つまりこの本の寸法に従って作れば,当時の一般的なサイズの清楽器が,あるていどは再現出来るということですね。

  清楽の楽器中,月琴や明笛はやってたものも多く,流行辞における生産数も膨大なものだったので,現在でもけっこうな数が残っており,ネオクなどでも見かけることがありますが,胡琴・提琴・阮咸・唐琵琶といったあたりは,まずそうそうお目にかかれるもンじゃあありません。

  そこでまあ,作っちゃえ----と,明笛に続いての文献による楽器再現,第二弾は「胡琴」となりました。
  資料により流派により,多少違ったりすることもあるのですが,清楽で「胡琴」というと,たいていは竹で作った小さな二胡。現代中国楽器でいうところの「京胡(ジンフー)」の類の楽器となります。
  ではまず,今回の基礎資料となる『清楽独習之友』の「胡琴」の記事からどうぞ(画像はクリックで拡大)----

  さてこの本の記述によれば,清楽の胡琴の基本的な寸法は----

  棹の長さ:一尺四寸(=424.242mm 以下単位同じ)
  胴の長さ:三寸二分(=96.9696) 径:最大一寸八分(=54.5454)

  そのほか

  1) 棹を挿す孔の位置は「胴の中央より二分ほど皮の方に寄りて」とありますから,皮の貼ってないほうから 57mm のあたり。
  2) 「胴と棹との合口より第一着なる糸巻きまでの距離」一尺五六分 ,すなわち 318~321 mm。

  そうすると,胡琴の駒はだいたい皮の中央あたりに置かれますから,有効弦長は 350 くらいってとこになりますね。
  清楽の胡琴には玩具の楽器みたいに小さいのがけっこうあるんですが,これだとまあ現行の中国京胡あたりとあまり変わらないんじゃないかな?あとは----

  3) 「糸巻きと糸巻きの間は凡そ二寸位」だいたい 6センチ。

  「棹の長さ」というのに「胴体にささってる部分」を含めると,寸法が足りなくなっちゃいますから,四竈さんの書く「棹の長さ」とは,棹と胴体の接合部から上端までの長さということになります。そうしますと部品としての棹の全長はおよそ 480mm というあたりとなりましょう。

  ハイハイ,文章だけだと分かりにくいですよネ~。(汗)
  図にまとめますと次のようになります。(画像はクリックで拡大)


  ちょうど中国京胡の古いものである胡琴1号が,皮の張替えで帰ってきておりました。
  おそらく戦前に作られたもので,現在の中国京胡とは構造とか寸法が微妙に異なっております。
  これが唐物楽器として実際に清楽に使われたかどうかのあたりは微妙なんですが,古いには古いものなので,前回の製作ではこの楽器を参考にしておりました。今回,あらためて寸法を測ってみますと……おや,こりゃあ。
  多少の差はありますが,主要なところは清楽の胡琴とほとんど変わりませんね。
  面白いものです。(画像はクリックで拡大)

  前々から何度か書いてるように,庵主は「はじく」系の楽器は,まあ なんでもばちこーい,なのですが「ふく」のと「こする」系統の楽器は大のニガテとしております。作るのがカンタンとはいえ,自身ちゃんと弾けるわけでもない楽器ですので,実験としては数年前の製作でだいたいのところは分かっており,何度もくりかえす必要はさほどなかったのですが,
  今回はまず『清楽独習之友』によって明治時代の胡琴の寸法が分かったことと,もうひとつ,コレ。

  この画像真ん中の黒っぽい竹が手に入った,というのがきっかけとなっております。
  ----きったねー竹!
  なんて言ってはいけません。(w)これは煤竹。本物の煤竹ちゅうのは,古民家の天井などで百年なり燻された竹で,現在ではけっこうな貴重品であります。
  このところ,月琴のピックをこれで削ってたんですが,今回たまたま手に入れた材料が,胡琴の胴にぴったりなサイズと質でして----これで胡琴作ったら,どんな音で鳴るやろ?---なんて,思いましてん。(w)

  さあて,資料と材料がそろっての製作実験。
  どうなることやら続きはお楽しみ!

(つづく)


カメ琴2号(5)

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斗酒庵 ふたたびサイレント月琴を作る の巻2013.4~ カメ琴2号 (5)

STEP5 カメ,あがる


  しとしとぴっちゃん。

  一日雨の降り続く,梅雨の先触れみたいな5月のとある日,カメ2号のカシュー塗り作業ははじまりました----

  ううう,シンナーくさいぃ。(泣)

  みなさん,カシューの溶剤は揮発性なんで,塗装は風通しのいいところでしましょうねえ。

  今回はこってり呂色塗りとまではいきませんが,全体にうっすらと塗膜がある程度の薄塗りでまいります。
  25号の修理の時にも書きましたが,カシュー塗装は下地が勝負です。
  表面の磨きや目止めを念入りにやっておくのは別だんカシューでなくても同じですが,最初の下地塗りのとき,薄めに溶いたカシューをたっぷり吸わせ,少なくとも2日は置いて,しっかり乾燥させとくのがコツです。目止めが甘かったり塗料が薄かったり,乾燥が不十分だと,何回塗っても木地が塗料を吸い込むばかりで,いい感じに塗膜を張ってくれません。


  下地塗りがしっかり乾いたら全体を軽く磨いて,あとは2日おきぐらいに2度ほど重ね,一週間乾燥させます。

  満願日の前日あたりになりますと,ちョしたい(北海道弁「触りたい」)のをガマンするのがタイヘンです。

  とにかく 「一週間」 と決めたら 「一週間」 待つのです----

  前より気温が高かっただの,天気が良かっただの,今日は茶柱が立っただの,脳内の悪魔はいろいろな理由をつけて誘惑してきますが,負けてはイケませんよ!イケません………らめらったらあっ!!


  うむ,この待ち時間は精神衛生に良くないなあ。
  -----なんとか気を紛らさんと。(汗)

  というわけで,ここらで小物作りに入ります。

  今回も蓮頭はコウモリさん。
  月琴の蓮頭は,雲形板のものが多いのですが,カメはまあ新楽器ですからね。
  そのへんは比較的自由にやらせていただきます。



  中のコウモリさんは伝統的な意匠を踏まえたものですが,全体をちょっとハートに近いようなカタチにデザインしてみました。
  棹の端材のカツラ板を,刻んで彫ってスオウ染め……うむぅ,ここまでで半日もたなんだか!
  乾いたところでオハグロ媒染,黒染めにします。
  一晩干してラックニスをかけ,木灰をつけた布で擦って磨き上げ,ツヤとサビを同時に出しますね。

  いっしょに写っているのは山口(トップナット)
  今回の棹は山口の手前で指板が切れるタイプ----ウサ琴シリーズはこのタイプにしたのが多かったかな,あとホンモノの月琴だと名古屋の鶴寿堂さんなんかの月琴がこの工作をしてますね。
  カメ琴は絹弦よりテンションの高い,ナイロンとかテトロンの弦を使うので,山口は棹にガッチリ食い込んでてくれたほうがいいんです。指板も厚いぶん背も高いので,より強固に接着されるよう,底面の中央に溝を切ってあります。
  ふだんはしない工作ですが,これもまあ試し,ってことで。

  そうやってなんにゃら,あとはブログのほかの記事書いたりなんにゃらで数日間過ごし,すんでのところで誘惑の悪魔に打ち勝って。


  さあ,仕上げましょう!

  まだ塗りっぱなしの状態なんで,かなりギラギラしてますねえ。

  糸巻きは少しスオウを混ぜたヤシャ液で染め,亜麻仁油でオイル仕上げしてあります。
  ちょっとさびた感じの黄金色が,なかなかイイでしョ?


  まずは全体の磨き。

  今回の塗膜は薄いのであんまり力いっぱいゴシゴシするわけにはいきません。Shinex の#2000相当のに石鹸水をつけて,全体をまんべんなく,やさしく撫で回し,柔らかな布で水気をよく拭い去ったら,おなじものに今度は亜麻仁油をしませてふたたびナデナデ----ギラついてた表面が,しっとりツヤツヤになりました。

  この状態で1日~2日乾燥させ,表面の塗膜を落ち着かせます----もうここまできましたら1日2日くらい,その前の一週間のガマンにくらべりゃ,たいしたもンじゃないですね。


  蓮頭と山口を接着したら,アコースティック楽器としては完成。もういつでも演奏可能な状態ですが。

  さて……回路を組みましょう。(汗)

  ジマンじゃありませんが庵主,実のところ電工の知識や腕前はからッきしです。
  プラスとかマイナスとかだけでも考えたら頭イタくなるのに,抵抗やダイオードのことなんか構ってられない(笑),ましてやザクの目を光らせるために麦球仕込んだ以上の回路となりますと,ナニがナニやらてんで分かりませぬ。(ああ,年齢が知れるなあ…第一次ガンプラ世代…)


  アキバで買ったアンプの回路(¥700)は,部品挿してハンダづけするだけなんで,まあなんとか。それぞれの部品が,どこのどなたさんでご職業が何なのかは知る必要がないもんね。
  とりゃいずはそれを中心に説明書を読みながら,まず楽器として肝腎な音の入出力関係を,指でたどりたどり,あれこれ悩みながら配線(2度ほど間違いた),つづいて外に露出させた電池からハジマる電源まわりを配線……ここまでですでに三時間以上もかかっております。(泣)
  さてさてさて,これで通電しましたらおなぐさみ,と,電池を取付けて電源スイッチを入れましたところ。


  「クキ---イィィィィン!」

  ---と,いきなりスピーカーが絶叫!
  うわう,ハウハウしよった!

  うむ,何はともあれよく分からんが。いちおう電気は通ってるみたいですなあ,めでたいめでたい。

  最後にエレキだとピックアップにあたる圧電素子を両面テープで表板に貼り付け,内部構造は完成!


  表板をタップするなどして出力検査したところ,スピーカーからは音が出るけど,ジャックのほうから音が出ない----切り替えスイッチの配線,間違っちゃってたんですねえ。真ん中の端子をバイパスしたら音がちゃんと出るようになりましたが……はうあ,原因がなかなか分からず青くなりましたよ。

  こげなもん,電工得意な人にとってはまあ玩具以下の構造なんでしょうが……どッと疲れましたわ,どッとはらい。

  さてラストスパート!
  弦を張って,フレットを削ります!


  フレットははじめ竹で一そろい作ってみたのですが,どうもしっくりこないので,やっぱりローズウッドで黒フレットを再製作。こないだ修理した30号なんかもそうだったんですが,こういう「実用本位」みたいな楽器にはこの黒フレット,似合うんですよねえ。
  ただまあ,竹にくらべると材料の工作がタイヘンなんで,実はあんまりやりたくない(泣)。
  フレットはウサ琴準拠で,古い清楽月琴より2本多い10本,完全2オクターブの音が出せます。

  ----ううむ,渋い感じに仕上がりました。

  2013年5月23日。
   斗酒庵工房としては通算3本目のエレキ月琴,「カメ琴2号」完成です!




  マホガニー色のボディ,黒いフレット…漆器みたいな全体ツルツルには塗り籠まなかったので,表裏の桐板は木目の浮き出たシボ塗り風,そのほかの木部のツヤ加減と対照になっていい味が出ましたねえ。

  うすっぺらな胴体(つか輪っか)ですが,側面の真ん中あたりがストラトみたいにエグれているので,横抱きにしたとき(ウサ/カメ琴は清楽月琴より小さめなので少し横に構えたほうが弾きやすい)にフィット感があります。


  現在,庵主の初代カメ琴では低音に絹弦,高音にナイロン弦を張ってます。2号は14号玉ちゃんに操作感を似せるため,棹の寸法を若干縮めたりしたため,弦長がちょっと足りなくて,絹弦だと弦圧ユルユル,音が安定しなくなってしまいました。
  ので,今回は低音弦をテトロンの14-2に張り替えてみました----こんどはバッチリ安定,ただしふだん絹弦で慣れてると,テトロンとかナイロンは少々グアイが違うので,なんにゃら勘が狂うかもしれませんね。

  あと響き線が多少騒ぎやすいかな?
  あんまりうるさいようなら後で止めることもできますから,その時には言うてください。


  低音弦もテトロンになったので,1号より若干生音が「大きい(?)」かもしれませんが,「サイレント楽器」と言い張るには問題ない範囲の音量だと思います。
  内臓のスピーカーは最大出力が2.4Wですので,ボリュームをMAXにしたところで音量はたかしれですが,それでも生の月琴と同じくらいには響きます。

  まあ,Line-out からアンプにつなげばいくらでも大音量で鳴らせますし,そこにヘッドフォンをつなげば,結構な音量が出力されますから,まさしくサイレントなんちゃらみたいに,深夜の練習にも最適かと。

  では Ryo さん,あとはよしなに。

(おわり)

カメ琴2号(4)

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斗酒庵 ふたたびサイレント月琴を作る の巻2013.4~ カメ琴2号 (4)

STEP4 教官,わたしカメ色に染まります!

  ははは,じつはこの段階になると,あんまり面白い画像もないので,
   なんか文章にし難いのですがね。



  まずは春の晴れた一日。
  完成した本体を持って外に出ました----
  仕上げの磨きをするためですね。
  染めにしろ塗りにしろ,木地の仕上げがしっかりとしてないとなかなかうまくいきません。

  まずは#240の空砥ぎペーパーでヤスリ目などの工作痕を丁寧に取去ります。
  ついで#400相等のShinexで表面を均し,#1000相等ので,とぅるっとぅるに。

  この作業,地味ですが,時間もかかるしけっこう大変です。



  表板のウラ右側に三箇所,色の濃いとこがありますが,これは圧電素子をのっける黒檀板と,電池ボックスをとめるビス穴の補強で貼ったブビンガのツキ板。

  お外でやるのは,第一に細かなホコリが大量に発生するせいもありますが,自然光のなかでのほうが木地表面のアラとかキズが分かりやすいということもあります。自称「工房」は四畳半一間の住居兼ですから,庵主,ふだんからお外での作業は慣れてますしね。

  時間がかかるので,お弁当と燃料を買って,ホウキ持参で公園をめぐります。
  小さくてもいいからテーブルがあって,子供らが遊んでるほうとかに風が向いてないような場所,作業後にはもちろん掃除して帰りますよ~。

  まんべんなく磨き上げた本体……いよいよ染めにかかります。


  今回の楽器では,表裏の板が胴体側部になだらかに落ちて一体になってくようなデザインにしたもので,面板とほかの木部を同じ色にしなきゃなりません。輪っか真っ黒でサンバースト風に,表裏板の中央だけ白っぽい,てのも考えたんですが,うーむ,大変そうですしねえ。

  まずは下染め,ヤシャブシ汁に砥粉を溶いたのを二度ほどかけます。
  この時点ではまだ,どんな色に染めるか決定してないんですが,とりあえず木地の目止めをかねての染めです。

  この段階で磨いてニスをかければ,1号と同じような黄金色の楽器になります。

  一日,オーナー予定者の Ryo さんと,練習がてら談合。

  1.黄金色/2.真っ黒/3.赤茶色の三択でしたが,今回の楽器は木地の色にあんまりインパクトがないんで,1.がまずハブ,つぎに「白」とか「黒」ってのは服の着こなし同様意外とムスかしいということで2.ハブ----結局ある意味無難な「赤茶色」に落ち着きました。まあエレキ楽器だし,ラッカーかペンキみたいので塗ってしまうなら,アオだろうがキミドリ色だろうが自由なんですが,いちおう「清楽月琴」や「ウサ琴」と同系列の楽器,ということもありますし,工房にある自然染料で何とかできる色にとどめたいとこです。(庵主としては,全体スチールブラックで,シルバーの鋲のいっぱいついたエレキ月琴が一本欲しいとこなんですが)


  ということで----赤染め開始。
  ヤシャブシで染めた下地を磨いて,スオウ汁に砥粉を溶いたので2度下染め。
  重曹を熱湯で溶いたものを,ハケで手早く,全体が均一に濡れたように塗布して発色させます。

  余計な砥粉を落さなきゃなりませんので,これをまたお外で磨いたんですが,まだちょっとあちこち黄色っぽいですよね。本体に使ったカツラやサクラはそこそこなんですが,表裏の桐という材,染みこみはいいものの,スオウの「染まり」がそんなに良くありません。このあとも全体がなるべく均一の色になるよう,色の薄いところに部分的な染め作業をくりかえしました。

  この時点でニスをかけると,やや淡い赤味の色になりますので,少し乾燥させたところで,2次媒染に入ります。


  2次媒染剤はオハグロ液(鉄漿)。
  我が家のおハグロ液はかれこれ5年目くらい。
  ベンガラと五倍子粉を,ヤシャブシ液と酢で煮詰めて作りました。

  江戸文学なんか読んでると,この「オハグロ」,よく「クサイもの」の代表みたいに書かれてるんですが,最初に炊いた時は確かに,そりゃもースサまじいニオイでしたねえ。キゼツしちゃいたいくらい強烈な刺激臭で…現実には何年か置いたり,継足し継足しで「熟れた」ものを使うようですが,むかしの女の人はよくこんなものを口の中に入れたなあ,とエラい感心したものです。

  うちではおもに糸巻きなんかを真っ黒に染めるときに用いますが,今回はこれをお湯で薄めて使います。
  一度全体に塗布したあと,小さめの刷毛であちこちを少しづつ……はじめといてなんですが,全体おんなじ色,ってのはけっこう大変なものですねえ。

  数日作業して,染め完了!


  指板と半月は,少し濃い目のオハグロ液をつけて,ほかよりはだいぶん黒っぽく染め上げました。

  塗りの作業に入る前に,半月は接着しちゃいましょう。
  本体はこのうえからカシューを塗るんですが,カシュー塗っちゃうと,ニカワじゃくっつきにくくなっちゃいますからね。

(つづく)

カメ琴2号(3)

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斗酒庵 ふたたびサイレント月琴を作る の巻2013.4~ カメ琴2号 (3)

STEP3 カメの小細工


  ここで小さな部品をいくつか。

  まずは半月。
  今回の素材はツゲ。一風変った見慣れないカタチですが,これは西南少数民族の月琴なんかでよくある半月(テールピース)を真似したもの。

  板も狭いので通常の月琴のと違い,琵琶の覆手と同じ,片持ち型のテールピース--接着部が小さくて済む--となっております。

  次に電池ボックスを端材で作りました。
  「電池ボックス」といってもまあ,「箱」にすらなっていないシロモノで。
  9V電池をこう,マジックテープで固定するための「台」みたいなものですが。


  今回用意したアンプの回路は,以前作ったカメ琴用ミニ・アンプ「マスヲさん」のと同じですから,つけっぱなしでも4時間ぐらいはもつと思います。カメ琴もマスヲさんも,小さくて軽いし持ち運ぶのにはベンリなんですが,時折カバンの中でもみくちゃにされてるうちに,マスヲさんの電源スイッチが入ってしまっており,イザ演奏!というときになって電池切れで「はにゃ?」ということが何度かありました。

  そういう経験から言って,電池交換は容易なほうが絶対によろしい。

  当初,電源はほかの回路といっしょに胴体内部に仕込もうと思ってたんですが,交換の手間を考えるとこうして露出していたほうがいいですね。
  ----ちょっと実験してみました。


  9V電池をつなぐスナップがキツいので,一瞬,というのはまあムリですが,ポケットに予備電池を入れてたとして,だいたい1~2分もあれば交換できるかと。

  電池ボックスの上に接着中の黒檀の板は,2枚つく圧電素子の片方を貼り付ける場所。下地が硬いと高音域をよく拾ってくれます。もう1枚は桐板に直貼り。
  2枚をつないでなるべく広い領域の振動を拾ってもらう工夫です。

  胴体に響き線を仕込みます。
  カメ1号や庵主自作の胡琴「金鈴子」シリーズに仕込んだのと同じ,省スペース型の響き線ですね。
  こんな胴体で,こんなちいさな響き線ですが,それなりに効くんですよ。


  胡琴に仕込んだのと違うのは,真ん中の直線がハガネ線なとこですね。
  真鍮線だけだと反応が良すぎて,少し余韻にず太さが足りないですんで。
  表面板に触れる部分をこんな風に削ったのはちょっとした実験。
  まあこれもただの思いつきで----庵主とてべつだんそれほどの効果をキタイしてはおりませんが(笑)。


  つぎに裏板と回路部の蓋を切り出しましょう----まあ「裏板」とは言っても,表板よりさらに面積がすくないですから,もうこうなると「板」とも言えないくらいだとは思いますが。
  本体の真ん中,響き線の下の空間には,圧電素子や電池からのコードが通ります。

  左のかしげてある板,いちばん面積の広いところが,アンプやスピーカーの入る回路部をふさぐ「裏ブタ」になります。

  電池を外部に露出してしまったので,この回路部は,そうしょっちゅう開け閉めすることはないでしょう。ですので,裏ブタは木ネジ止めにしますが,裏ブタと本体がわの裏板の触れ合うところは,ブビンガの端材やツキ板を貼って保護しておきます。


  回路部の基板のおさえになるスペーサーと,電池ボックスの裏にM3のナットをエポキつけて埋め込みます。
  ここまできてようやく電源スイッチの位置が決まりました。


  まあけっきょく最初に予定していた位置(いちばん右側,アンプ回路のすぐ横)になっちゃいましたが,ここと電池ボックスの横のどちらがいいか,ちょと悩みましてん。


  裏板に補強板(ホオ,厚2mm)を貼り付けて,本体工作だいたい終了!

  さあ,続きは「染め」と「塗装」ですね。

(つづく)

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