「明清楽復元曲一覧」 部分更新!!

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斗酒庵 夏休みのしくだい発表 の巻「明清楽復元曲一覧」 部分更新!!

 さて,庵主は毎年,春先と夏の帰省時に,データベースへの入力や研究のまとめをやってるんですが。

 最初に入力する時は,ただひたすらに入れ込んじゃればイイものの,データベースってのは,大きくなればなるだけ,個々のデータ間に関係性が出てきて複雑になり,改訂が難しくなってゆくもんです。
 春先の帰省時の作業で,連山派の基本楽譜『声光詞譜』の楽曲についての記事を書き終わり。これで清楽・明清楽の東西の二大流派,渓派と連山派の基本的な曲目については,だいたい網羅しえたのですが。前回までの作業では,各楽曲の「器楽」の部分,なによりも各曲の曲調の基本的な目安となる「標準譜」の作成に重点を置いていたのと,とにかくデータベースとしての体裁を構築するため先を急いだもので。「歌」のついてる曲について,その歌詞や意味についてのあたりはかなりすッとばしました。
 今回からは,そうした「歌」のついてる曲の歌詞の部分。その意味や発音などを語学や民俗学のほうから調べて増強していきたいと思います。

 最後に入力した『声光詞譜』の記事が,フォーマットとしてある程度完成していますので。そちらの記事を基点にして内容を増強し,そこから係累のある過去記事を改訂してゆくカタチにしました。ほんとうはどの記事を一見さんで訪れても同じように理解できるよう,ぜんぶ均等にやってゆきたいのですが,ワタシの寿命と個人作業の労力を考えますと,このあたりが限界かと(w)

 まあ単純にやってもけっこうな分量になるのと,いままで別個に入力してきた,それぞれの流派の記事を擦り合わせる必要もありますんで,そんなにポイポイとは進めませんね。

 今回は『声光詞譜』天・地・人巻の2冊目地巻までの歌曲が中心。
 「金線花」とか「将軍令」みたいな長めの曲までは届きませんでしたが,「九連環」「算命曲」「茉莉花」「紗窓」といったメジャーどころについては,だいたいまとめられました。

 まず各曲解説の曲調復元部分----ここに関しては些少の訂正を加えたほかは,ほとんど手を付けていません。各派複数の版本における工尺譜およびその付点の比較,近世譜への起譜,符号譜や五線譜など,標準的な曲調の復元に関して有用な情報はなるべく取り上げてあります。

 それぞれの派で,その楽曲がどのような曲調で弾かれていたか,分かる限りの資料を駆使して,当時の誰が聞いてもその曲だと分かるような,基本的で「標準的な」メロディラインをさぐってゆきます。この「標準譜」がないと,どの資料がどう間違ってるのか,とか,記録された譜の個人的なアレンジの範囲はどうなのかとかも区別がつけられませんからね。
 今回の改定ではまず,前回までに制定したこの「標準譜」と,歌詞との関係を視覚化するところからはじめてます。曲のどの音「符」が,歌詞のどの語に割り振られるのか,というのを「符割り」と言いますが,これを1拍1マスの表仕立てにしたものを付けました。

 庵主が純粋に音楽畑のヒトだったら,ぜんぶ五線譜に起こしちゃえば済むことだとは思いますが,オタマジャクシの行列がメロディに見えるほどの修業は積んでませんもので(w)。この工尺符字と歌詞をマス目で区切って表示するやりかたは,明楽の楽譜のほか,関西大のアーカイブで公開されている遠山荷塘の『嫦娥清韻』などでも用いられてますね。
 どう考えてもややこしくなる点打ち式の付点法に比べると,分かりやすい点もあるんですが,けっこう描くのが面倒くさいのもあって,清楽家の間では普及しなかったようです。

 次に歌詞の全文とその読みを追加しました。
 前回までは漢字の部分とフリガナを別枠で横に並べていたんですが,今回はいちおうフリガナっぽく見えるよう,上下に配置しています。
 さすがにルビみたいに,漢字とカナの位置をぴったり合わせるとこまではできませんが,まあこれで少し見やすくはなったかと。

 続いて語釈の部分を大幅増強。
 清楽家のほとんどは,中国音楽の専門家でもなければ中国語の専門家でも民俗学者でもありませんから,歌詞に関しては文字も意味もかなりテキトウです。もともとの歌詞の意味も知らないで書き写すものだから,伝言ゲームの間に違う字になってたり読みになってたり,しまいには分んなくなったところを捏造してたりで散々です。
 庵主はもともと中国方面のほうが専門ですから,大陸の古い資料なんかも駆使して,なるべく歌詞のもともとの意味に迫れるよう,いろいろと調べてみてますので,日本での通説や過去の解釈なんかとは違ってる部分も多々出て来てます,あしからず。

 そして最後に日本語訳。
 原歌詞の「正確な意味」については語釈を参考にしてもらうとして,日本語の訳詩はその大意をとって,なるべく「歌えるように」組んであります。
 そう----原曲のメロディで「日本語で」歌ったならこんな感じかな~,と。
 「紗窓」なんかは歌詞が漢詩ですからね。訳すのなら書き下しでいいんでしょうが,中国の歌は基本ライムです。いまでは唐詩をリリックにビートを叩きつけるムキも珍しくありませんが,庵主が『中国のマザーグース』を訳したころには,「らいむ?----押韻ってなーに。」って感じで,ラップもヒップホップもまだそんなに一般的じゃなく,日本語でライムして訳したのにあんまり気づいてもらえませんでしたねー。
 まあどれもこれもライムしたわけではありませんが,原歌詞の抑揚になるべく合うように訳すのは,それはそれで面白かったですよ。

 各記事,かなりの分量がありますので,必要なところだけ飛ばし読みしてお楽しみください。とうぜんMIDIやMP3での再現も付いてますので,なんなら耳でもお楽しみあれ。

「明清楽復元曲一覧」
  http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/MINSIN.html

  -渓派『清風雅譜』『清風柱礎』
  -連山派『声光詞譜』

----の各書項目,曲目一覧から曲のタイトル部分をクリックすると,各記事へ跳べます。

「清楽曲曲譜リスト」
  http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/LIST.html

  上掲同書の各項目末「リンク」のところにある「解説」をクリック。

 どっちからでも飛べます。
 最初のほうに書いたように,まだ全面改訂ではありません。ぜんぜん改訂されてない記事もたくさんありますが,そのあたりの更新も追々やってゆきますので,これからもよろしくお願いいたします。

清楽月琴WS@亀戸 2023年7月!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2023年 月琴WS@亀戸!7月!!!



 

 

*こくちというもの-月琴WS@亀戸 ひちがつ場所 のお知らせ-*


 2023年7月,清楽月琴ワ-クショップは,22日(土)の開催予定です!8月は草刈り帰省のためお休み,9月の開催は未定でえす。夏休み前,今年前期最後のWSとなりますのでお忘れなく~。


 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼さがりの大開催。
 美味しい飲み物・ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 


 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか阮咸とか),やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。個別指導・相談事は早めの時間帯のほうが空いてて Good です。あと修理楽器持込む場合は,事前にご連絡いただけるとサイワイ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。

  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 

 

 

月琴WS@亀戸 2023年3月!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2023年 月琴WS@亀戸!3月!!


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 やよい場所 のお知らせ-*


 2023年,3月の清楽月琴ワ-クショップは,18日(土)の開催予定です!

 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 もう咲いてるかな?サクラさかりのお昼さがりの大開催。
 美味しい飲み物・ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか阮咸とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。相談事は早めの時間帯のほうが空いててGoodです。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 いきおくれのウサ琴EX2。(w)
 お嫁入りさき募集中です!
 うむ,がんじょう。それなりに弾きまくったので響きもあがってきましたよ。板が薄いせいか,楽器の育つのがちょいと早いですね。2年も弾いたら,かなりすごいことになるんじゃないかな?
 清楽月琴の上澄み技術でこさえた1本,ぜひWSにてお試しください。

『声光詞譜』電子版 補遺6曲公開!

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斗酒庵 告知 の巻『声光詞譜』電子版 補遺6曲 復元楽曲と解説を公開!!


 今回復元した補遺6曲は,明治6年の『声光詞譜』には載っていない曲です。

 明治10年に出された,山本小三郎の『月琴手引草』(1枚刷り)と吉見重三郎『明清楽譜』(雪月花3冊)は,タイトルは違ってますが,内容は実質『声光詞譜』と同じで,本の最初のほうにある内題にも「声光詞譜」と銘打っています。要は本の内容をあッちからそッちうちしたもの。剽刻本とでも言いましょうか。
 ただ,この両書の巻末には,平井連山の『声光詞譜』には収録されていない譜が6曲収録されています。それぞれ版形も字組みも違いますが,各曲題も曲順も,譜の内容もほぼ一致しています。
 明治6年から10年の間に,この6曲を含んだ『声光詞譜』の増補改訂版が出てたのかもしれませんが,いまのところ不明ですね。
 明治17年に連山の妹・長原梅園とその息子の春田が出した,連山・梅園派の主要楽曲をまとめた第二楽譜集とも言うべき『清楽詞譜』にも,これらの曲はタイトルを変えて収録されてます。6曲中の3曲はいわゆる「裏曲」で,オモテにあたる曲と同時に演奏すると,あらふしぎ,かっこよく聞こえるよ!----というコンセプトの譜なのですが,もともと「○○(主曲の題)裏」となってたのを,この本では「秋籬香」とか「寒松吟」なんていう,一見してみやび~な感じに変えたりしてます。

 梅園の『清楽詞譜』が出た明治17年には,渓派でも中興・富田渓蓮斎が同派の第二楽譜集にあたる『清風柱礎』を刊行し,この前後には両派ともに楽譜の整理・統一や歌曲の音韻修正などをさかんに行っていたようです。まあ,どっちの「修整」も,もともと実は中国にも音楽にも大して詳しくないような酢豆腐連が,勢いにまかせてイロイロやらかしちゃったもンで----この時やったことのほとんどは,百年ちょいしてからその不正を庵主に暴かれてはプギャーされるハメになってますが。
 今回の6曲はそのはちゃめちゃ修整以前の譜ですんで,初期の連山派における演奏の様子がけっこう色濃く残ってる感じですね。

 1月なかばからほぼ1ヶ月,雪かきしながら組んでおりました。
 資料がそろわなかったものが多いので,標準化の作業までたどりついていないものがほとんどではありますが,閑時聊御笑納あれ。

『声光詞譜』電子版補遺
0)目 次
1)月 宮 調
2)耍 棋
3)松 風 流 水
4)茉 利 花 裏
5)平 板 調 裏
6)四 季 如 意 裏

(つづく)


連山派『声光詞譜』電子版(いちおう)完成!

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斗酒庵 告知 の巻『声光詞譜』電子版(いちおう)完成! 復元楽曲と解説を公開!!

 ----はいけい,ありまきねんがきますね。

 ことしのわたしのゆめはえふふ君です。
 あ,ぷぼ君もがばってね。

 なつやすみからこっち,かせぎ仕事のほかは,ずつと,このさぎょうやってまた。
 かなりへんたいだったでの,ねると,ねむるとやつがゆめにでてくるのです。

 これわ「もずべっろ」くん。

 いもうとの「えれがんとるびー」ちゃんもいたますよ~。

 おかしひ,ワタシのしってる「もずべっろ」くんはこんなんじゃなかったはずだ。
 あ,どうたいが…くびがへにょんとのびてぶらぶらおどってる。(SAN値判定 1d100=3)




 3年かかりましたねぇ…あ,いや,ずぅッとヤってたわけじゃなく。
 途切れとぎれの作業ではありましたが。
 ……長かったですねぇ。


 さて,清楽の楽譜「工尺譜」に使われている「符字」というのは,ドレミ…を「上尺工…」という漢字の羅列にあてはめただけのもので,書き込みがないと,基本その曲がどんな音階で進行するのかは分かりますが,それぞれの音が「どのくらいの長さ」かは分からない状態となっております。

 この「それぞれの音の長さ」を表わすために書きこまれる点とか記号が,「拍点」「付点」「符号」といったものなのですが。

 庵主がさいしょに取組んだ東京の「渓派」と,今回やった大阪の「連山派」とでは,その「音の長さを表わす」方法--付点法--が違っているんですね。

 ごくごくカンタンに解説しますと----

 渓派の付点法では,音が出てる間にタイコが3回鳴ったら,「タイコ3回分の長さの音」とします。
 曲がゆっくりで,音が長くなろうが,軽快な曲で音が短かろうが,「タイコ3回分の長さの音」はいつでも「タイコ3回分の長さの音」です。

 これに対して連山派の場合は,1・2・3…と心のフィーリングで数えて,たぶん3拍の長さだったら「3拍の長さの音」として,文字の横に点を3つ打ちます。1拍なら1つ,4拍なら4つですね。

 まあ分かりやすいっちゃあ,分かりやすい。

 渓派の譜は,基本的にごく数学的,数理的に読み解くことができるのですが,そのまま再現すると,人間味のないオルゴールみたいな音楽になっちゃうことがよくあります。
 これに対して連山派の方法は,長いところは長く短いところは短く記録されるので,いい意味で言うと,蝋管レコードとかみたいに,当時の人の演奏に近く再現されてるんですが。テンポやら拍子やらという概念がごくごくうす~くしかないために,「3拍だ」って書いてあるのをうかつに信じて,そのまんま五線譜とかにおこすと,拍子ズレまくりのはっちゃめっちゃな音楽にしかならない----そんなことが多々あるのです。

 そこで役に立つのが「符号譜」というもの。これは音の長さを「心のフィーリング」で数えるのさえメンドくさくなっちゃった人々(www)が,

 「あ,ここは "た~らら" でいいよね。」

----と,いう具合に。口拍子とか鼻歌で採った調子を,そのまンま「た~らら」って書くと何だか馬鹿っぽくて恥ずかしいので,「それっぽい記号」に換えて,楽譜に書きこむようになったものです。
 連山派の付点法だと,あたまから1音1音記録していくわけですから,「拍点の人」は----

 「えっと…これ何拍かな…2拍?3拍?あッ!と曲,進んじゃうよ!!」

とか,なりながらやってたのは間違いないところですが,これに対して「符号の人」は----

 「ふぅむ…ここは "た~らた~らたー" だ!」

みたいに。フレーズ単位で,あるていどまとめてやれますから「拍点の人」よりはラクで,すこし余裕を持って記録できたことでしょう。
 とはいえまあしょせん鼻歌ですんで。
 それぞれの音の「音楽的な」あるいは「(五線譜的な意味での)楽譜上の」正確な長さなんて分からないわけですが。
 拍点のヒトが「3・1・1拍」だと記録したところが,符号譜で「た~らら」となってたとき,「それ(拍点)がそう(符号)聞こえるか?」というところから,拍点で記録された音長関係----音の長さの組み合わせを,妥当かそうでないか判断する助けにはなります。



 今回の復元では,この二つの情報を組み合わせて,曲の骨子である楽譜の部分と,それを「音楽」にするための演出であるテンポの変化を再現しています。
 まだまだ資料が足りないので,曲調の「標準化」の部分では中途半端なところも多く残ってしまいましたが,歌付きの曲では,以前よりもそれっぽく復元することができるようになってると思いますよ。

 まずはお試しアレ。

 ELECTORICAL EDITED GENERAL TEXT OF "声光詞譜"

----こと,「連山派『声光詞譜』楽曲の復元と解説」へは-----

1)当ブログ左サイドメニュー>
  明清楽復元曲一覧>
  上端文字列の「連山派」を
  クリック(もしくは下スクロール)>
  >連山派『声光詞譜』M.11

 各楽曲の解説へは一覧表の曲題のところから飛べます。
 付点法等の詳しい解説は総目次のところ。連山派『声光詞譜』M.11の原書画像の横にリンクがあるほか,各曲の解説上下にある「TOP」のリンクからも飛べます。
 下にもリンク貼っちゃいましょう。

 「連山派『声光詞譜』楽曲の復元と解説」総目次へ

 このほか,上のように拙HP「斗酒庵茶房」TOPページの「明清楽復元曲一覧」のリンクから。あるいは「清楽曲譜リスト」内の明05『声光詞譜』のところからも飛べるようになっています。

 いづれはすでに公開済の資料や楽曲リストとも細かくリンクさせて,「清楽」「明清楽」の各楽曲の基本情報が,まとめて,かんたんに得られるようなデーターベースに仕上げたいところですが……まだまだお先が長ぅございますよぉ。

(つづく)


【公開】古楽譜PDFと『声光詞譜』電子版 地巻途中まで!

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斗酒庵 告知 の巻【公開】古楽譜PDFと『声光詞譜』電子版 地巻途中まで!

 冬休みといいますか,恒例の雪かき帰省より帰京いたしました!

 任期満了直前にどばッと降りやがりまして。
 屋根近くまで積もったやつを2日かけてとりのぞきますた。
 まずは「明清楽復元曲一覧」にて新公開のPDF資料を2つ。

 ■長原梅園・春田『清楽詞譜』第一巻 明治17年 宮次郎追記(PDF 20MB)

 長原梅園は連山派の流祖・平井連山の妹で,大阪から東京に居を移して「梅園派」を開きました。長原春田はその息子,明治政府の音楽関係部署「音楽取調掛」に勤めておりました。
 庵主が入手したのは全二冊本の一巻のみ。いわゆる端本ですが,収録83譜中のけっこうな数に付点が付されております。口拍子にしか変換できない符号じゃなく,ちゃんと五線譜や近世譜に変換できる拍点のほう。ありがたやありがたや。

 ■小野芳連『西奏楽意譜』(上)(PDF 9MB)

 2件めは長崎派の『西奏楽意譜』。これも上巻のみの端本ですが,正直下巻が出されてるのかどうかも分からない。
 同じ書題で著者も違う譜集が何種類か伝わっているようですね。これもその一つでしょうが,奥付も刊行年記もないので,いつごろ出されたものかは分かりません。
 書題は「西 "奏"」でなく「西 "秦"」と書くものもあって,早稲田大学にある宇田川榕庵の写本などは後者ですね。長崎の研究家・中村重嘉は長崎において初期の写本家が「西 "奏"」と誤写したのが広がったのだろうと書いて(「清楽書目」『長崎談叢』27),「西 "秦"」が正解という感じのようです。
 かなりキッチリした活字の本で,オモテ表紙見返しに「崎陽・小野芳連選/東京門人・荻原芳雲,今村香蓮校正」とありますので,東京で出されたものかもしれませんね。
 収録曲は35譜。ウラ表紙見返しに「竹内福」と署名があって,連山派などで用いられた符号が朱墨で施されています。
 東京における清楽の「長崎派」というのには浅草の月琴舎瑞蘭(松本端闌)なんて人もいますが,渓派や梅園派に比べると少数派だったようで,その楽曲の全容もふくめて,イマイチ詳細の分からないところが多いので。偶然とはいえこういうのが手に入ったのもまたありがたやなハナシであります。

 以上2冊のくわしい収録曲目は「清楽曲譜リスト」 のほうにあげてあります。
 「復元曲一覧」のPDF資料では,ほかにも数多くの付点資料を公開しておりますので興味のある方は見に行ってやってください。商用でない限りDLも再配布も自由です。


 続いては,一昨年からはじめた清楽,連山派(大阪派)の第一基本楽譜『声光詞譜』(明治5年)の楽曲の復元と標準化の作業。今回は2冊目「地巻」21曲めまで----うん,終わりませんでした,あと10曲。


 曲自体について分かる範囲での解説と,曲調復元の過程をイチからやっています。まず原書から規格を統一した拍点譜,拍点から近世譜,符号から口拍子を読み解き。その曲がおおよそどんな感じの曲として演奏されていたか。比較対照の基準となるような,連山派内における「標準的な曲調」というのをもとめてゆく作業です。
 器楽の曲はMIDIのみですが,歌唱のつく曲は人工音声ソフトの AquesTone など使ってMP3に仕立ててます。
 コンテンツも増えてきたので,今回久しぶりにリンクチェックなどしたのですが,ファイル数が4000を越えてました。ほとんどが再現MIDIと資料の画像ですねえ。

 電子版『声光詞譜』トップページはこちらから----


 「電子版 『声光詞譜』 目次」
 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/SKALL/SK_ALL00.html

 上のページでは各解説ページの構造の説明や,連山派を含めた清楽の付点法(符音の長さをあらわすための方法),そしてそれに用いられる拍点や符号についても簡単に説明しております。

 各曲の解説へは,「清楽曲譜リスト」の『声光詞譜』の項からも飛べるようになってますからね。


 「清楽曲譜リスト」
 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/LIST.html

『声光詞譜』電子版/ 『声光詞譜』電子版・天巻公開!

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斗酒庵 告知 の巻『声光詞譜』電子版 天巻 復元楽曲と解説公開!

 夏休みといいますか,恒例の草刈り帰省より帰京いたしました!

 こたびの厳しいご時世・時局でありますれば,どこへも出れず。
 ただひたすらに庭草を狩り(襲ってきますので),書き物の毎日。

 おかげさまで去年からはじめた清楽,連山派(大阪派)の第一基本楽譜『声光詞譜』(明治5年)の楽曲の復元と標準化の作業が進みました。

 とはいえまだ先は長く,全3冊のはじめ「天巻」30曲くらいまでですが----拍点からの復元から,標準化に至る手順の制定やら,それに伴うMIDIやMP3ファイルの作り直し。渓派『清楽詞譜』など,すでに公開されているほかのコンテンツとの整合をとったり,画像や解説を整理したりと。データベースというものは大きくなればなるほど,新しく打ち込む作業より,すでにあるものの改造改訂作業のほうがずっとたいへんになっていきますね。

 トップページはこちらから----

 「電子版 『声光詞譜』 目次」
 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/SKALL/SK_ALL00.html

 解説ページ各項のざっとした説明や,清楽の付点法(符音の長さをあらわすための方法),拍点や符号についても簡単に説明しております。

 各曲の解説へは,先に公開した「清楽曲譜リスト」の『声光詞譜』の項からも飛べるようになってますからね。


 「清楽曲譜リスト」
 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/LIST.html

 作業は2冊目(地巻)の最初のほうまで進んでますが,とにかく時間を喰らう仕事なのでなかなか進めません----ご飯も稼がなきゃなりませんしねえ。

 どちらかといえば数理的に読み解ける渓派の譜と違って,連山派の付点法は,付記者の個人的な感性やら音感やらといったあたりも考慮しないとうまく読み解けないんで,文章が「と思う」とか「考えられる」で終わっちゃうことが多いです。
 さらに後に分かれて本拠地を東京に移した梅園派との関係や影響もあって,「標準的な演奏」が時に2つくらいになってしまい,流派系統としての「大阪派」全体の「標準譜」というのが決めにくいこともありましたが,まあ無難に無難に。

 歌の付いてるものは歌曲としての復元もしています。
 歌詞のカナ読みがついてないので耳で聞くしかないのですが,面白いのもあるんで試してみてください。

清楽の歌(3)

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斗酒庵流 渓派清楽歌譜 の巻清楽の歌(3)ー清楽歌譜集・完成!!

 レイアウトとか何度もいぢくってたもので,ちょっと時間がかかっちゃいました。
 渓菴の『清風雅譜』からの20曲に,渓蓮斎らの『清風雅唱』等から7曲足してぜんぶで27曲ぶんの歌詞対照譜全44ページ。PDFで3MBくらいです。

 前回作った『清風雅譜』のと違って,譜は漢字で書かれた工尺近世譜のみとなってますが,冒頭に対応表とか付けときましたので,プリントアウトして自分で数字でもドレミでもふってください(w)
 DLは以下のリンク,あるいは----

 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/LIB/SGSONG_pre2.pdf

 HP「斗酒庵茶房」>「月の琴」>「明清楽復元曲一覧」

 のリンクよりご自由にどうぞ。
 長い歌はだいたい3番くらいまで,歌詞全部は載せていないものが多いので,続きが知りたいかたは上の「明清楽復元曲一覧」の表から,各歌の項目に飛んでそこで見てくださいな。
 「明清楽復元曲一覧」は上のHPからのルートのほか,当ブログ左ブロックの上のほうから,もしくは----

  http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/MINSIN.html

 こちらからどうぞ。


(12月14日 追記)

 プリントアウトしてみて気が付いたんですが「四不像」の最後,いちばんカッコいいところの譜が1枚欠けてました。(汗) 上記HPリンク先のファイルは訂正済み(SGSONG_pre2.pdf)に替えましたが,すでにプリントアウトとかしちゃった人は,以下の画像を1枚,はさみこんどいてください。もうしわけな~い!!

 

 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/LIB/SGSONG_pre2.pdf(訂正済み)


(つづく)


清楽の歌(2)

SONG_02.txt
斗酒庵流 渓派清楽歌譜 の巻清楽の歌(2)ーほんじつの歌譜ー耍歌

 なんきんかんとん なんきんかんとん
  なんきんかーあーあん とーーん
 お月さん ぴーかぴか
  とっくに落ちてる 恋わずらーい
 うそでしょ ねぇー そんなもぉー
  辻占せんせ 辻占せんせ
 いうにゃー こーりゃダメー
  どンしたって なーおりゃせーぇんわーい ヤ

 尼さーん 禅寺でー
  おーもうはナンのことーー
 ああもうどうしましょ
  指先ァもーじもじ 爪先ァぴーくぴく
 しょンがなーい 気紛れ
  琴でも弾いてましょ

 あ奴ゃキライー クズ奴ー
  あっちゃあこっちゃあ ひっかきまわし
 ようよう逢えた似合いの二人も
  はーなれ ばーなれよーー

 書生さん 勉強部屋
  おーもうはナンのことーー
 ほンにただただナーンのことーー
  いッそね かーけおち
 どこまでー ずっと いっしょ
 どこまでー ずっと いっしょ
  でもねー旦那にバレたら
 どうーしょうおしまいだ

 張さんやー町で きーれいな盆買うたーー
 きーれいなねーちゃんも おーそろいの鉢買うた

 鉢ァ盆になびかん 盆ァ鉢ャなびかん
 鉢ァ盆 盆ャ鉢 しまいにゃ
 どッちも割ーーらかすーーー

 正月ァ元旦 二月ァ花見
 三月ャ もうこりゃ はーるめいて
 四月五月 おー祭りにぎやかさーー

 六七月 半年 八月中秋
 九月ャ お月見 十月 なれば
 しょうーしょう 冷えるね
 十一月 十二月 雪だって ちぃーらちら

 庭木も かーおおるーー
 あなた いッそネェ
 手折りに きません かーーーー


 楽譜(近世譜)の読み方や,工尺符字とドレミの対応なんかは過去記事参照。

 庵主,翻訳の世界では和ラッパーやヒップホップの連中よりはるか前から,ライムにライム叩き返してましたからねYoYo(ww 拙著『中国のマザーグース』もよろしく)いちおう全編,ちゃんと「歌える翻訳」になっております。
 小説とかお芝居のキャラが出てきてるんですが,ぜんぶひらたーく訳してます。なので,それぞれのくわしい解説は「明清楽復元曲一覧」SCS009「耍歌」をご覧アレ。

 「耍歌」は「ざれ歌」。
 芸人さんなんかが客の呼び込みやるときにでも唱える歌だと思ってください。
 なので往来の人が「おぅ?」と思ってくれるよう,にぎやかに,軽快にかつテキトウに弾き歌いましょう!
 「尺-尺上|尺--○|」に「ポンガポンポンポーン」と書いてあるからには,太鼓が入るの前提のようで。そういう打楽器系鳴物入るとより面白い。


(つづく)


清楽曲「泊船肝胎」について

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斗酒庵 清楽曲に惑う の巻清楽曲 「泊船肝胎」 について

STEP1 「はくせんかんたい」 どんな曲?

  お忘れのかたも多いかとは存じますが(w)
  庵主,ほんらいの専門分野は机にしがみつきヴァーチャルな世界で調べものする系のニンゲンでありまして。楽器の修理だとか演奏だとか,リアルの世界に属するシゴトは,およそ大いに二の次なはずなのですが,ここ数年は筆先仕事も減って,リアルの世界でリアルなモノを扱ってばかりおりました。
  そのなかで去年,長崎まで行って,いろいろと資料をかき集めてきた結果。このところの宿願であった,渓派(東京派)の基本楽譜にある楽曲の再現・研究が,ほぼ完了しました----といってもまあ流派内でメジャーだった曲について 「だいたいどんなメロディだったのか」 を再現したていどのことで,まともな付点資料があれば誰にでもできることではありますが。

  渓派における第一基本楽譜,流祖・鏑木渓菴(徳胤)の『清風雅譜』(31曲)と,中興の立役者・富田渓蓮斎(寛)の『清風柱礎』(65曲)の再現については,以下をご参照アレ。

  渓派の楽曲について--総合INDEX


  このブログと違って,なンにゃらいろいろと小難しそうなことを書き散らかしてますが無視してけっこう。インデックスから「これ」と思うタイトルの曲に飛んで,項目の最後のほうに 「再現曲」 と書いてリンク張ってありますところをクリックすれば,その曲のMIDIが再生されます。WindowsだとWMPが起ち上がってくるはずですね。歌付きで再現できるものは,AquesTone を使ってMP3を組んであります。こちらはクリックするとブラウザ内蔵のプレーヤーによって,別窓再生されると思われます。
  なお,不具合・リンク切れなど見つけられましたらぜひご連絡を,けっこう大部な資料なもので,直すのにも目が行き届きません。

  さて,今回はその渓派の楽曲中のある曲について。

  これは『清風柱礎』に収録されている 「泊船肝胎」 という曲です。
  画像は国会図書館のアーカイブにある版本から。
  今のところ,ほかに収録例がないので詳しいあたりはちょと分かりませんが,題からしても曲調から言っても,まあ,お船でどんぶらこ,みたいな状景を歌ったもの,と考えて間違いないでしょう。

  この原譜に,読み解きのためのシルシをつけるとこんな感じになります。

  工尺譜はそのままだと単なる漢字の羅列ですからね。こうやって記号をつけ,「ここは伸ばす」 とか 「ここはつなげる」 といったことを指示して,ようやく 「楽譜」 として使えるものになるわけです。伝系により人により,微妙に差異はあるんですが,複数の付点資料を校合して,当時の渓派での標準的なキマリに従って再現すると,だいたいこんな感じだったと思いますよ。

  これを4/4拍子の文字譜----近世譜----に直すとこう。

  1文字が1拍,「-」は延ばす音,「○」は休符です。「●」は笛のみ息継ぎ,月琴は入れても入れなくてもいい休符だと思ってください。

  これをさらに,中国の民楽なんかで使ってる数字譜に直すとこんな感じになります。

  こちらのほうが分かる人は多いかな?「1=ド」で高音は数字の上に,低音は下に点が付きます。
  月琴は再低音が「1」なので「567」の下に点のついてるのは,点を無視して弾いてください。明笛は右画像,赤で書いた「56」にはさまれてる上点付きの符の,上点を無視して吹いてください----この3行目から4行目3小節まで,月琴で高音にあがって弾かれるフレーズは,ぜんぶ低音ですね。ほかも下点の「56」にはさまれてる上点の「1」はぜんぶふつうの「1」,低いほうの「ド」になります。
  明笛のパートをMIDIにやってもらって,実際に月琴で弾いてみました。
  特徴的な2分半4分の4分のところが,油断すると途絶えちゃいますので,なるべく指をちゃんと当てて,しっかり弾きましょう。


STEP2 ふねは泊まるよレバーにコブクロ

  で,まあ,再現作業が終わって数か月----
  そろそろ落ち着いて,イロイロと見直しをしていかなきゃあ,と見回りながらふと気が付いたんですが----この曲のタイトル…「泊船」 はともかく 「肝胎」 ってなんじゃ?

  「レバーとコブクロに船が泊まる」 ってのはどういうシュチュエーションなのだろう。
  もしかして船の上で 「天下一料理大会(焼肉編)」 でも開催されてるのでしょうか。

  「泊船肝胎」というからには,ともかく「肝胎」のところは地名であるに違いありません。あの広い国のことですから,どこかにそんなキドニーパイみたいな名前の町があってもぜんぜん可笑しくはないのですが,少なくとも庵主は知らないし,ぐぐって,やふって,ばいどってもちッとも出てきません。
  まずは「船 肝 胎」とか「肝胎 地名」とかで検索したりしてたんですが,だいたいあがってくるのは料理のレシピだったり,漢方薬だったり,どこかの地方の名物料理や肉屋の広告ばかりというところ。でもそのうちふと,あがってきた検索結果のなかで,いままで無視してた情報のうちに,同じようなものがくりかえし出てきてることに気が付いたんですね。
  サーチエンジンのあげてくる結果には,テキスト化された資料,すなわちコンピューターがそのまま読み込み,選別して拾ってきたもののほかに,文字の画像やPDF化された資料などを読み込んでテキストに変換したものがけっこう入ってきます。一昔前にくらべれば格段に精度はあがっていますが,基本的には紙の資料をスキャナーで読み込んでOCRかけたようなシロモノですので,漢字の読み間違いも多いし,縦書きにはほとんど対応してないしで,マトモな日本語になってなかったりもするため,だいたいはハナから無視していたんですが,そこに 「関羽が "肝胎" に行った」 だの 「懐王が "肝胎" に都した」 といった文章が,複数のソースにある同様の資料から採られて,繰り返し出てきてたわけです。
  人名のほうは間違ってないようですし,それぞれの前後に書かれたシュチュエーションにも読み覚えがありますから,ちゃんと実際の史書なり小説なりから引っ張ってきたものに間違いありません。サレバ----と,それぞれの検索結果に記されているところの書籍名をチェックし,原書を尋ぬれば----ありましたよ。

  この「肝胎」, 「盱眙」(クイ) の間違いですね。
  ****字をよく見てください,違ってますwww****

  江蘇省に現在もある地名です。南に少し下れば長江,淮安・揚州といった地にも近い淮河流域の要衝の地で,目へんに「于」,目へんに「台」,中国語だと 「xu1yi」。日本語だと一般的な読みは 「クイ」 ですが,普通語の「x」の音は,清楽では「ひ」に変換されることが多いので,清楽家の間では 「はくせんひうい」 と読まれていたかもしれません----あくまで「肝胎」が「盱眙」だと知っていた,としてのお話ですが。(w)
  字はどちらも 「凝視する」「じッと見る」 という意味で,県庁所在地が山のてっぺんにあり,見張りの適地であるところからきたものと言われています。まあ 「レバー&コブクロ」 ほどではありませんが,珍地名ではありますね(w) 

  検索エンジンはPDF文書などに出てきたこの 「盱眙」 というコトバを,よく似た 「肝胎」 という字として認識・変換しちゃってたわけですね。「盱眙」という字はどちらも,日本人にとっては馴染みのない難しい漢字です。おそらく清楽家の間でも,曲譜を筆写伝言ゲームやってるうちに 「盱眙」 が 「レバー&コブクロ」 になっちゃったんでしょう。

  コンピュータもニンゲンが作ったもの----いくら優れていても,ニンゲンと同じ間違いを犯す,という証左の一つでしょうか。(w)

  地名の目へん,たとえば 「睢陽(すいよう 現在の河南省商邱のあたり)」 の「睢」という字の目へんは,大陸の俗間の印刷物や筆記体ではよく「且」のような字体で書かれていることがあります。「雎 (しょ)」 という字はちゃんと別にあって,意味も発音も異なるのですが,広く混用されていますね。またこの「且」に似たカタチが,木版本で「肉」を基とするいわゆる「にくづき」の簡易体(彫りやすいように「月」の曲線部分を角ばらせたもの)としても使われることもあるので,大陸人の書写,あるいは原譜のもとになった唱本の段階で 「盱眙」 と 「肝胎」 が混じってしまっていたとしても,まあ可笑しくはありません。

  さらに調べてゆくと,唐の詩人・常建の詩に 「泊舟盱眙(はくしゅうくい)」 というのがあることが分かりました。

  とうとうたどりつきましたね(w)

  清楽譜では 「泊舩」,この 「舩」 は 「船(せん chuan2)」 の通用字で,「舟(しゅう zhou1)」 ではありませんが,まあカタいことは言わない。
  この曲はおそらく,この漢詩をテーマにしたか,もしくは歌詞として歌うためのものだったと考えられます。

  泊舟淮水次 霜降夕流清 夜久潮侵岸 天寒月近城
  平沙依雁宿 候館聴雞鳴 郷国雲霄外 誰堪覊旅情

  舟を泊(とど)む淮水の次(やどり) 霜降の夕べ流れは清し 夜は久くして潮 岸を侵(おか)し 天寒くして月は城に近し
  平沙 雁の依る宿 候館に雞鳴を聴く 郷国は雲霄の外 誰か堪えん覊旅(きりょ)の情

  「晩泊盱眙」と題している資料もあります。2句目,「霜降る」と訓じてる記事もありますが,あとで「天寒くして」と言ってるぐらいですから,これは「霜降(そうこう)」,二十四節気の一つ。されば季節は旧暦の九月ごろでしょうか。5句目,「平沙落雁」といえば古琴の曲題にもありますが,この詩の「平沙依雁」も似たような表現,川辺の干潟に雁が群れて休んでいる様子。「候館(こうかん)」は「やど」「宿屋」とも訳されてますが,それはかなり古い意味で,この場合は町の物見台。港などでは船舶の監視のためかならずあります。「盱眙」は港町ですからね。また「雞」の字は「鶏」の通用字ですが,夜の詩なので,この場合はニワトリではなく「水雞(くいな)」を指しているのかもしれません。「郷国(きょうこく)」は故郷・ふるさと,「雲霄(うんしょう)」は空の彼方,雲の向こう,はるかなる事のたとえ。「覊旅(きりょ)」は旅行の雅語です。
  作者の常建さんは伝に 「水上の景を詠むに巧み」 とあります。お仕事はなんと,この盱眙県の知事。ただし,その仕事と地位に満足できなくって,ほとんど職場放棄してたようなヒトですんで,この詩は 「水上を旅している優雅な光景」 を詠ったものではなく,お役所の物見台から港のほうをのぞきながら 「あぁいいなあ……あいつら気ままに旅しやがって!」 と,うなってる 「リア充爆発しろ」的詩 と解釈したほうがよいかもしれません。

  まあ,常建さんもこの詩を書いた時には,まさかにこれが 「盱眙の舟やどり」 から 「レバー&コブクロに泊まる船」 の歌になろうとは思いもしなかったでしょうねえ。(www)

  『唐詩選』や『三体詩』に入ってるレベルの超メジャーなものではないとはいえ,大陸では 「郷国雲霄外,誰堪覊旅情」 のフレーズでけっこう有名な詩のようです。お江戸の月琴音楽の祖である遠山荷塘(専門は中国小説)とか流祖・鏑木渓菴(実家は漢学者の市河家)なら,まずない間違いだったと思いますが,それだけ明治になると清楽家の知識レベルも下がってた,ということでしょう----まあ庵主自身,専門っちゃあ専門のクセに気づきもしなかったんですから,あまり他人のことは言えませぬが(^_^;)

  ちょいとこんな実験をしてみました。

  五言律詩の切れ目に,曲の長音の部分がくるように合わせてみたんですが----うむ,尺的には問題なさそうですね。
  5句め「平沙…」のところで高音にあげましたが,ここは低音でも良かったか。
  「紗窓」など,同じように漢詩をテーマにした曲の例からして,どこかにインストの部分が入るはずですが,わからないのでぺろーっと歌わせてあります。あくえちゃん,ごくろうさま。

  こういう資料や実例があったわけじゃなく,あくまでもお遊びですが,意外とまあ,こんな感じの曲,くらいにはなっていましょうか。
  ご笑納あれ。

(つづく)