月琴WS@亀戸 2023年3月!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2023年 月琴WS@亀戸!3月!!


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 やよい場所 のお知らせ-*


 2023年,3月の清楽月琴ワ-クショップは,18日(土)の開催予定です!

 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 もう咲いてるかな?サクラさかりのお昼さがりの大開催。
 美味しい飲み物・ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか阮咸とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。相談事は早めの時間帯のほうが空いててGoodです。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 いきおくれのウサ琴EX2。(w)
 お嫁入りさき募集中です!
 うむ,がんじょう。それなりに弾きまくったので響きもあがってきましたよ。板が薄いせいか,楽器の育つのがちょいと早いですね。2年も弾いたら,かなりすごいことになるんじゃないかな?
 清楽月琴の上澄み技術でこさえた1本,ぜひWSにてお試しください。

『声光詞譜』電子版 補遺6曲公開!

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斗酒庵 告知 の巻『声光詞譜』電子版 補遺6曲 復元楽曲と解説を公開!!


 今回復元した補遺6曲は,明治6年の『声光詞譜』には載っていない曲です。

 明治10年に出された,山本小三郎の『月琴手引草』(1枚刷り)と吉見重三郎『明清楽譜』(雪月花3冊)は,タイトルは違ってますが,内容は実質『声光詞譜』と同じで,本の最初のほうにある内題にも「声光詞譜」と銘打っています。要は本の内容をあッちからそッちうちしたもの。剽刻本とでも言いましょうか。
 ただ,この両書の巻末には,平井連山の『声光詞譜』には収録されていない譜が6曲収録されています。それぞれ版形も字組みも違いますが,各曲題も曲順も,譜の内容もほぼ一致しています。
 明治6年から10年の間に,この6曲を含んだ『声光詞譜』の増補改訂版が出てたのかもしれませんが,いまのところ不明ですね。
 明治17年に連山の妹・長原梅園とその息子の春田が出した,連山・梅園派の主要楽曲をまとめた第二楽譜集とも言うべき『清楽詞譜』にも,これらの曲はタイトルを変えて収録されてます。6曲中の3曲はいわゆる「裏曲」で,オモテにあたる曲と同時に演奏すると,あらふしぎ,かっこよく聞こえるよ!----というコンセプトの譜なのですが,もともと「○○(主曲の題)裏」となってたのを,この本では「秋籬香」とか「寒松吟」なんていう,一見してみやび~な感じに変えたりしてます。

 梅園の『清楽詞譜』が出た明治17年には,渓派でも中興・富田渓蓮斎が同派の第二楽譜集にあたる『清風柱礎』を刊行し,この前後には両派ともに楽譜の整理・統一や歌曲の音韻修正などをさかんに行っていたようです。まあ,どっちの「修整」も,もともと実は中国にも音楽にも大して詳しくないような酢豆腐連が,勢いにまかせてイロイロやらかしちゃったもンで----この時やったことのほとんどは,百年ちょいしてからその不正を庵主に暴かれてはプギャーされるハメになってますが。
 今回の6曲はそのはちゃめちゃ修整以前の譜ですんで,初期の連山派における演奏の様子がけっこう色濃く残ってる感じですね。

 1月なかばからほぼ1ヶ月,雪かきしながら組んでおりました。
 資料がそろわなかったものが多いので,標準化の作業までたどりついていないものがほとんどではありますが,閑時聊御笑納あれ。

『声光詞譜』電子版補遺
0)目 次
1)月 宮 調
2)耍 棋
3)松 風 流 水
4)茉 利 花 裏
5)平 板 調 裏
6)四 季 如 意 裏

(つづく)


連山派『声光詞譜』電子版(いちおう)完成!

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斗酒庵 告知 の巻『声光詞譜』電子版(いちおう)完成! 復元楽曲と解説を公開!!

 ----はいけい,ありまきねんがきますね。

 ことしのわたしのゆめはえふふ君です。
 あ,ぷぼ君もがばってね。

 なつやすみからこっち,かせぎ仕事のほかは,ずつと,このさぎょうやってまた。
 かなりへんたいだったでの,ねると,ねむるとやつがゆめにでてくるのです。

 これわ「もずべっろ」くん。

 いもうとの「えれがんとるびー」ちゃんもいたますよ~。

 おかしひ,ワタシのしってる「もずべっろ」くんはこんなんじゃなかったはずだ。
 あ,どうたいが…くびがへにょんとのびてぶらぶらおどってる。(SAN値判定 1d100=3)




 3年かかりましたねぇ…あ,いや,ずぅッとヤってたわけじゃなく。
 途切れとぎれの作業ではありましたが。
 ……長かったですねぇ。


 さて,清楽の楽譜「工尺譜」に使われている「符字」というのは,ドレミ…を「上尺工…」という漢字の羅列にあてはめただけのもので,書き込みがないと,基本その曲がどんな音階で進行するのかは分かりますが,それぞれの音が「どのくらいの長さ」かは分からない状態となっております。

 この「それぞれの音の長さ」を表わすために書きこまれる点とか記号が,「拍点」「付点」「符号」といったものなのですが。

 庵主がさいしょに取組んだ東京の「渓派」と,今回やった大阪の「連山派」とでは,その「音の長さを表わす」方法--付点法--が違っているんですね。

 ごくごくカンタンに解説しますと----

 渓派の付点法では,音が出てる間にタイコが3回鳴ったら,「タイコ3回分の長さの音」とします。
 曲がゆっくりで,音が長くなろうが,軽快な曲で音が短かろうが,「タイコ3回分の長さの音」はいつでも「タイコ3回分の長さの音」です。

 これに対して連山派の場合は,1・2・3…と心のフィーリングで数えて,たぶん3拍の長さだったら「3拍の長さの音」として,文字の横に点を3つ打ちます。1拍なら1つ,4拍なら4つですね。

 まあ分かりやすいっちゃあ,分かりやすい。

 渓派の譜は,基本的にごく数学的,数理的に読み解くことができるのですが,そのまま再現すると,人間味のないオルゴールみたいな音楽になっちゃうことがよくあります。
 これに対して連山派の方法は,長いところは長く短いところは短く記録されるので,いい意味で言うと,蝋管レコードとかみたいに,当時の人の演奏に近く再現されてるんですが。テンポやら拍子やらという概念がごくごくうす~くしかないために,「3拍だ」って書いてあるのをうかつに信じて,そのまんま五線譜とかにおこすと,拍子ズレまくりのはっちゃめっちゃな音楽にしかならない----そんなことが多々あるのです。

 そこで役に立つのが「符号譜」というもの。これは音の長さを「心のフィーリング」で数えるのさえメンドくさくなっちゃった人々(www)が,

 「あ,ここは "た~らら" でいいよね。」

----と,いう具合に。口拍子とか鼻歌で採った調子を,そのまンま「た~らら」って書くと何だか馬鹿っぽくて恥ずかしいので,「それっぽい記号」に換えて,楽譜に書きこむようになったものです。
 連山派の付点法だと,あたまから1音1音記録していくわけですから,「拍点の人」は----

 「えっと…これ何拍かな…2拍?3拍?あッ!と曲,進んじゃうよ!!」

とか,なりながらやってたのは間違いないところですが,これに対して「符号の人」は----

 「ふぅむ…ここは "た~らた~らたー" だ!」

みたいに。フレーズ単位で,あるていどまとめてやれますから「拍点の人」よりはラクで,すこし余裕を持って記録できたことでしょう。
 とはいえまあしょせん鼻歌ですんで。
 それぞれの音の「音楽的な」あるいは「(五線譜的な意味での)楽譜上の」正確な長さなんて分からないわけですが。
 拍点のヒトが「3・1・1拍」だと記録したところが,符号譜で「た~らら」となってたとき,「それ(拍点)がそう(符号)聞こえるか?」というところから,拍点で記録された音長関係----音の長さの組み合わせを,妥当かそうでないか判断する助けにはなります。



 今回の復元では,この二つの情報を組み合わせて,曲の骨子である楽譜の部分と,それを「音楽」にするための演出であるテンポの変化を再現しています。
 まだまだ資料が足りないので,曲調の「標準化」の部分では中途半端なところも多く残ってしまいましたが,歌付きの曲では,以前よりもそれっぽく復元することができるようになってると思いますよ。

 まずはお試しアレ。

 ELECTORICAL EDITED GENERAL TEXT OF "声光詞譜"

----こと,「連山派『声光詞譜』楽曲の復元と解説」へは-----

1)当ブログ左サイドメニュー>
  明清楽復元曲一覧>
  上端文字列の「連山派」を
  クリック(もしくは下スクロール)>
  >連山派『声光詞譜』M.11

 各楽曲の解説へは一覧表の曲題のところから飛べます。
 付点法等の詳しい解説は総目次のところ。連山派『声光詞譜』M.11の原書画像の横にリンクがあるほか,各曲の解説上下にある「TOP」のリンクからも飛べます。
 下にもリンク貼っちゃいましょう。

 「連山派『声光詞譜』楽曲の復元と解説」総目次へ

 このほか,上のように拙HP「斗酒庵茶房」TOPページの「明清楽復元曲一覧」のリンクから。あるいは「清楽曲譜リスト」内の明05『声光詞譜』のところからも飛べるようになっています。

 いづれはすでに公開済の資料や楽曲リストとも細かくリンクさせて,「清楽」「明清楽」の各楽曲の基本情報が,まとめて,かんたんに得られるようなデーターベースに仕上げたいところですが……まだまだお先が長ぅございますよぉ。

(つづく)


【公開】古楽譜PDFと『声光詞譜』電子版 地巻途中まで!

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斗酒庵 告知 の巻【公開】古楽譜PDFと『声光詞譜』電子版 地巻途中まで!

 冬休みといいますか,恒例の雪かき帰省より帰京いたしました!

 任期満了直前にどばッと降りやがりまして。
 屋根近くまで積もったやつを2日かけてとりのぞきますた。
 まずは「明清楽復元曲一覧」にて新公開のPDF資料を2つ。

 ■長原梅園・春田『清楽詞譜』第一巻 明治17年 宮次郎追記(PDF 20MB)

 長原梅園は連山派の流祖・平井連山の妹で,大阪から東京に居を移して「梅園派」を開きました。長原春田はその息子,明治政府の音楽関係部署「音楽取調掛」に勤めておりました。
 庵主が入手したのは全二冊本の一巻のみ。いわゆる端本ですが,収録83譜中のけっこうな数に付点が付されております。口拍子にしか変換できない符号じゃなく,ちゃんと五線譜や近世譜に変換できる拍点のほう。ありがたやありがたや。

 ■小野芳連『西奏楽意譜』(上)(PDF 9MB)

 2件めは長崎派の『西奏楽意譜』。これも上巻のみの端本ですが,正直下巻が出されてるのかどうかも分からない。
 同じ書題で著者も違う譜集が何種類か伝わっているようですね。これもその一つでしょうが,奥付も刊行年記もないので,いつごろ出されたものかは分かりません。
 書題は「西 "奏"」でなく「西 "秦"」と書くものもあって,早稲田大学にある宇田川榕庵の写本などは後者ですね。長崎の研究家・中村重嘉は長崎において初期の写本家が「西 "奏"」と誤写したのが広がったのだろうと書いて(「清楽書目」『長崎談叢』27),「西 "秦"」が正解という感じのようです。
 かなりキッチリした活字の本で,オモテ表紙見返しに「崎陽・小野芳連選/東京門人・荻原芳雲,今村香蓮校正」とありますので,東京で出されたものかもしれませんね。
 収録曲は35譜。ウラ表紙見返しに「竹内福」と署名があって,連山派などで用いられた符号が朱墨で施されています。
 東京における清楽の「長崎派」というのには浅草の月琴舎瑞蘭(松本端闌)なんて人もいますが,渓派や梅園派に比べると少数派だったようで,その楽曲の全容もふくめて,イマイチ詳細の分からないところが多いので。偶然とはいえこういうのが手に入ったのもまたありがたやなハナシであります。

 以上2冊のくわしい収録曲目は「清楽曲譜リスト」 のほうにあげてあります。
 「復元曲一覧」のPDF資料では,ほかにも数多くの付点資料を公開しておりますので興味のある方は見に行ってやってください。商用でない限りDLも再配布も自由です。


 続いては,一昨年からはじめた清楽,連山派(大阪派)の第一基本楽譜『声光詞譜』(明治5年)の楽曲の復元と標準化の作業。今回は2冊目「地巻」21曲めまで----うん,終わりませんでした,あと10曲。


 曲自体について分かる範囲での解説と,曲調復元の過程をイチからやっています。まず原書から規格を統一した拍点譜,拍点から近世譜,符号から口拍子を読み解き。その曲がおおよそどんな感じの曲として演奏されていたか。比較対照の基準となるような,連山派内における「標準的な曲調」というのをもとめてゆく作業です。
 器楽の曲はMIDIのみですが,歌唱のつく曲は人工音声ソフトの AquesTone など使ってMP3に仕立ててます。
 コンテンツも増えてきたので,今回久しぶりにリンクチェックなどしたのですが,ファイル数が4000を越えてました。ほとんどが再現MIDIと資料の画像ですねえ。

 電子版『声光詞譜』トップページはこちらから----


 「電子版 『声光詞譜』 目次」
 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/SKALL/SK_ALL00.html

 上のページでは各解説ページの構造の説明や,連山派を含めた清楽の付点法(符音の長さをあらわすための方法),そしてそれに用いられる拍点や符号についても簡単に説明しております。

 各曲の解説へは,「清楽曲譜リスト」の『声光詞譜』の項からも飛べるようになってますからね。


 「清楽曲譜リスト」
 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/LIST.html

『声光詞譜』電子版/ 『声光詞譜』電子版・天巻公開!

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斗酒庵 告知 の巻『声光詞譜』電子版 天巻 復元楽曲と解説公開!

 夏休みといいますか,恒例の草刈り帰省より帰京いたしました!

 こたびの厳しいご時世・時局でありますれば,どこへも出れず。
 ただひたすらに庭草を狩り(襲ってきますので),書き物の毎日。

 おかげさまで去年からはじめた清楽,連山派(大阪派)の第一基本楽譜『声光詞譜』(明治5年)の楽曲の復元と標準化の作業が進みました。

 とはいえまだ先は長く,全3冊のはじめ「天巻」30曲くらいまでですが----拍点からの復元から,標準化に至る手順の制定やら,それに伴うMIDIやMP3ファイルの作り直し。渓派『清楽詞譜』など,すでに公開されているほかのコンテンツとの整合をとったり,画像や解説を整理したりと。データベースというものは大きくなればなるほど,新しく打ち込む作業より,すでにあるものの改造改訂作業のほうがずっとたいへんになっていきますね。

 トップページはこちらから----

 「電子版 『声光詞譜』 目次」
 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/SKALL/SK_ALL00.html

 解説ページ各項のざっとした説明や,清楽の付点法(符音の長さをあらわすための方法),拍点や符号についても簡単に説明しております。

 各曲の解説へは,先に公開した「清楽曲譜リスト」の『声光詞譜』の項からも飛べるようになってますからね。


 「清楽曲譜リスト」
 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/LIST.html

 作業は2冊目(地巻)の最初のほうまで進んでますが,とにかく時間を喰らう仕事なのでなかなか進めません----ご飯も稼がなきゃなりませんしねえ。

 どちらかといえば数理的に読み解ける渓派の譜と違って,連山派の付点法は,付記者の個人的な感性やら音感やらといったあたりも考慮しないとうまく読み解けないんで,文章が「と思う」とか「考えられる」で終わっちゃうことが多いです。
 さらに後に分かれて本拠地を東京に移した梅園派との関係や影響もあって,「標準的な演奏」が時に2つくらいになってしまい,流派系統としての「大阪派」全体の「標準譜」というのが決めにくいこともありましたが,まあ無難に無難に。

 歌の付いてるものは歌曲としての復元もしています。
 歌詞のカナ読みがついてないので耳で聞くしかないのですが,面白いのもあるんで試してみてください。

清楽の歌(3)

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斗酒庵流 渓派清楽歌譜 の巻清楽の歌(3)ー清楽歌譜集・完成!!

 レイアウトとか何度もいぢくってたもので,ちょっと時間がかかっちゃいました。
 渓菴の『清風雅譜』からの20曲に,渓蓮斎らの『清風雅唱』等から7曲足してぜんぶで27曲ぶんの歌詞対照譜全44ページ。PDFで3MBくらいです。

 前回作った『清風雅譜』のと違って,譜は漢字で書かれた工尺近世譜のみとなってますが,冒頭に対応表とか付けときましたので,プリントアウトして自分で数字でもドレミでもふってください(w)
 DLは以下のリンク,あるいは----

 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/LIB/SGSONG_pre2.pdf

 HP「斗酒庵茶房」>「月の琴」>「明清楽復元曲一覧」

 のリンクよりご自由にどうぞ。
 長い歌はだいたい3番くらいまで,歌詞全部は載せていないものが多いので,続きが知りたいかたは上の「明清楽復元曲一覧」の表から,各歌の項目に飛んでそこで見てくださいな。
 「明清楽復元曲一覧」は上のHPからのルートのほか,当ブログ左ブロックの上のほうから,もしくは----

  http://charlie-zhang.music.coocan.jp/MIDI/MINSIN.html

 こちらからどうぞ。


(12月14日 追記)

 プリントアウトしてみて気が付いたんですが「四不像」の最後,いちばんカッコいいところの譜が1枚欠けてました。(汗) 上記HPリンク先のファイルは訂正済み(SGSONG_pre2.pdf)に替えましたが,すでにプリントアウトとかしちゃった人は,以下の画像を1枚,はさみこんどいてください。もうしわけな~い!!

 

 http://charlie-zhang.music.coocan.jp/LIB/SGSONG_pre2.pdf(訂正済み)


(つづく)


清楽の歌(2)

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斗酒庵流 渓派清楽歌譜 の巻清楽の歌(2)ーほんじつの歌譜ー耍歌

 なんきんかんとん なんきんかんとん
  なんきんかーあーあん とーーん
 お月さん ぴーかぴか
  とっくに落ちてる 恋わずらーい
 うそでしょ ねぇー そんなもぉー
  辻占せんせ 辻占せんせ
 いうにゃー こーりゃダメー
  どンしたって なーおりゃせーぇんわーい ヤ

 尼さーん 禅寺でー
  おーもうはナンのことーー
 ああもうどうしましょ
  指先ァもーじもじ 爪先ァぴーくぴく
 しょンがなーい 気紛れ
  琴でも弾いてましょ

 あ奴ゃキライー クズ奴ー
  あっちゃあこっちゃあ ひっかきまわし
 ようよう逢えた似合いの二人も
  はーなれ ばーなれよーー

 書生さん 勉強部屋
  おーもうはナンのことーー
 ほンにただただナーンのことーー
  いッそね かーけおち
 どこまでー ずっと いっしょ
 どこまでー ずっと いっしょ
  でもねー旦那にバレたら
 どうーしょうおしまいだ

 張さんやー町で きーれいな盆買うたーー
 きーれいなねーちゃんも おーそろいの鉢買うた

 鉢ァ盆になびかん 盆ァ鉢ャなびかん
 鉢ァ盆 盆ャ鉢 しまいにゃ
 どッちも割ーーらかすーーー

 正月ァ元旦 二月ァ花見
 三月ャ もうこりゃ はーるめいて
 四月五月 おー祭りにぎやかさーー

 六七月 半年 八月中秋
 九月ャ お月見 十月 なれば
 しょうーしょう 冷えるね
 十一月 十二月 雪だって ちぃーらちら

 庭木も かーおおるーー
 あなた いッそネェ
 手折りに きません かーーーー


 楽譜(近世譜)の読み方や,工尺符字とドレミの対応なんかは過去記事参照。

 庵主,翻訳の世界では和ラッパーやヒップホップの連中よりはるか前から,ライムにライム叩き返してましたからねYoYo(ww 拙著『中国のマザーグース』もよろしく)いちおう全編,ちゃんと「歌える翻訳」になっております。
 小説とかお芝居のキャラが出てきてるんですが,ぜんぶひらたーく訳してます。なので,それぞれのくわしい解説は「明清楽復元曲一覧」SCS009「耍歌」をご覧アレ。

 「耍歌」は「ざれ歌」。
 芸人さんなんかが客の呼び込みやるときにでも唱える歌だと思ってください。
 なので往来の人が「おぅ?」と思ってくれるよう,にぎやかに,軽快にかつテキトウに弾き歌いましょう!
 「尺-尺上|尺--○|」に「ポンガポンポンポーン」と書いてあるからには,太鼓が入るの前提のようで。そういう打楽器系鳴物入るとより面白い。


(つづく)


清楽曲「泊船肝胎」について

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斗酒庵 清楽曲に惑う の巻清楽曲 「泊船肝胎」 について

STEP1 「はくせんかんたい」 どんな曲?

  お忘れのかたも多いかとは存じますが(w)
  庵主,ほんらいの専門分野は机にしがみつきヴァーチャルな世界で調べものする系のニンゲンでありまして。楽器の修理だとか演奏だとか,リアルの世界に属するシゴトは,およそ大いに二の次なはずなのですが,ここ数年は筆先仕事も減って,リアルの世界でリアルなモノを扱ってばかりおりました。
  そのなかで去年,長崎まで行って,いろいろと資料をかき集めてきた結果。このところの宿願であった,渓派(東京派)の基本楽譜にある楽曲の再現・研究が,ほぼ完了しました----といってもまあ流派内でメジャーだった曲について 「だいたいどんなメロディだったのか」 を再現したていどのことで,まともな付点資料があれば誰にでもできることではありますが。

  渓派における第一基本楽譜,流祖・鏑木渓菴(徳胤)の『清風雅譜』(31曲)と,中興の立役者・富田渓蓮斎(寛)の『清風柱礎』(65曲)の再現については,以下をご参照アレ。

  渓派の楽曲について--総合INDEX


  このブログと違って,なンにゃらいろいろと小難しそうなことを書き散らかしてますが無視してけっこう。インデックスから「これ」と思うタイトルの曲に飛んで,項目の最後のほうに 「再現曲」 と書いてリンク張ってありますところをクリックすれば,その曲のMIDIが再生されます。WindowsだとWMPが起ち上がってくるはずですね。歌付きで再現できるものは,AquesTone を使ってMP3を組んであります。こちらはクリックするとブラウザ内蔵のプレーヤーによって,別窓再生されると思われます。
  なお,不具合・リンク切れなど見つけられましたらぜひご連絡を,けっこう大部な資料なもので,直すのにも目が行き届きません。

  さて,今回はその渓派の楽曲中のある曲について。

  これは『清風柱礎』に収録されている 「泊船肝胎」 という曲です。
  画像は国会図書館のアーカイブにある版本から。
  今のところ,ほかに収録例がないので詳しいあたりはちょと分かりませんが,題からしても曲調から言っても,まあ,お船でどんぶらこ,みたいな状景を歌ったもの,と考えて間違いないでしょう。

  この原譜に,読み解きのためのシルシをつけるとこんな感じになります。

  工尺譜はそのままだと単なる漢字の羅列ですからね。こうやって記号をつけ,「ここは伸ばす」 とか 「ここはつなげる」 といったことを指示して,ようやく 「楽譜」 として使えるものになるわけです。伝系により人により,微妙に差異はあるんですが,複数の付点資料を校合して,当時の渓派での標準的なキマリに従って再現すると,だいたいこんな感じだったと思いますよ。

  これを4/4拍子の文字譜----近世譜----に直すとこう。

  1文字が1拍,「-」は延ばす音,「○」は休符です。「●」は笛のみ息継ぎ,月琴は入れても入れなくてもいい休符だと思ってください。

  これをさらに,中国の民楽なんかで使ってる数字譜に直すとこんな感じになります。

  こちらのほうが分かる人は多いかな?「1=ド」で高音は数字の上に,低音は下に点が付きます。
  月琴は再低音が「1」なので「567」の下に点のついてるのは,点を無視して弾いてください。明笛は右画像,赤で書いた「56」にはさまれてる上点付きの符の,上点を無視して吹いてください----この3行目から4行目3小節まで,月琴で高音にあがって弾かれるフレーズは,ぜんぶ低音ですね。ほかも下点の「56」にはさまれてる上点の「1」はぜんぶふつうの「1」,低いほうの「ド」になります。
  明笛のパートをMIDIにやってもらって,実際に月琴で弾いてみました。
  特徴的な2分半4分の4分のところが,油断すると途絶えちゃいますので,なるべく指をちゃんと当てて,しっかり弾きましょう。


STEP2 ふねは泊まるよレバーにコブクロ

  で,まあ,再現作業が終わって数か月----
  そろそろ落ち着いて,イロイロと見直しをしていかなきゃあ,と見回りながらふと気が付いたんですが----この曲のタイトル…「泊船」 はともかく 「肝胎」 ってなんじゃ?

  「レバーとコブクロに船が泊まる」 ってのはどういうシュチュエーションなのだろう。
  もしかして船の上で 「天下一料理大会(焼肉編)」 でも開催されてるのでしょうか。

  「泊船肝胎」というからには,ともかく「肝胎」のところは地名であるに違いありません。あの広い国のことですから,どこかにそんなキドニーパイみたいな名前の町があってもぜんぜん可笑しくはないのですが,少なくとも庵主は知らないし,ぐぐって,やふって,ばいどってもちッとも出てきません。
  まずは「船 肝 胎」とか「肝胎 地名」とかで検索したりしてたんですが,だいたいあがってくるのは料理のレシピだったり,漢方薬だったり,どこかの地方の名物料理や肉屋の広告ばかりというところ。でもそのうちふと,あがってきた検索結果のなかで,いままで無視してた情報のうちに,同じようなものがくりかえし出てきてることに気が付いたんですね。
  サーチエンジンのあげてくる結果には,テキスト化された資料,すなわちコンピューターがそのまま読み込み,選別して拾ってきたもののほかに,文字の画像やPDF化された資料などを読み込んでテキストに変換したものがけっこう入ってきます。一昔前にくらべれば格段に精度はあがっていますが,基本的には紙の資料をスキャナーで読み込んでOCRかけたようなシロモノですので,漢字の読み間違いも多いし,縦書きにはほとんど対応してないしで,マトモな日本語になってなかったりもするため,だいたいはハナから無視していたんですが,そこに 「関羽が "肝胎" に行った」 だの 「懐王が "肝胎" に都した」 といった文章が,複数のソースにある同様の資料から採られて,繰り返し出てきてたわけです。
  人名のほうは間違ってないようですし,それぞれの前後に書かれたシュチュエーションにも読み覚えがありますから,ちゃんと実際の史書なり小説なりから引っ張ってきたものに間違いありません。サレバ----と,それぞれの検索結果に記されているところの書籍名をチェックし,原書を尋ぬれば----ありましたよ。

  この「肝胎」, 「盱眙」(クイ) の間違いですね。
  ****字をよく見てください,違ってますwww****

  江蘇省に現在もある地名です。南に少し下れば長江,淮安・揚州といった地にも近い淮河流域の要衝の地で,目へんに「于」,目へんに「台」,中国語だと 「xu1yi」。日本語だと一般的な読みは 「クイ」 ですが,普通語の「x」の音は,清楽では「ひ」に変換されることが多いので,清楽家の間では 「はくせんひうい」 と読まれていたかもしれません----あくまで「肝胎」が「盱眙」だと知っていた,としてのお話ですが。(w)
  字はどちらも 「凝視する」「じッと見る」 という意味で,県庁所在地が山のてっぺんにあり,見張りの適地であるところからきたものと言われています。まあ 「レバー&コブクロ」 ほどではありませんが,珍地名ではありますね(w) 

  検索エンジンはPDF文書などに出てきたこの 「盱眙」 というコトバを,よく似た 「肝胎」 という字として認識・変換しちゃってたわけですね。「盱眙」という字はどちらも,日本人にとっては馴染みのない難しい漢字です。おそらく清楽家の間でも,曲譜を筆写伝言ゲームやってるうちに 「盱眙」 が 「レバー&コブクロ」 になっちゃったんでしょう。

  コンピュータもニンゲンが作ったもの----いくら優れていても,ニンゲンと同じ間違いを犯す,という証左の一つでしょうか。(w)

  地名の目へん,たとえば 「睢陽(すいよう 現在の河南省商邱のあたり)」 の「睢」という字の目へんは,大陸の俗間の印刷物や筆記体ではよく「且」のような字体で書かれていることがあります。「雎 (しょ)」 という字はちゃんと別にあって,意味も発音も異なるのですが,広く混用されていますね。またこの「且」に似たカタチが,木版本で「肉」を基とするいわゆる「にくづき」の簡易体(彫りやすいように「月」の曲線部分を角ばらせたもの)としても使われることもあるので,大陸人の書写,あるいは原譜のもとになった唱本の段階で 「盱眙」 と 「肝胎」 が混じってしまっていたとしても,まあ可笑しくはありません。

  さらに調べてゆくと,唐の詩人・常建の詩に 「泊舟盱眙(はくしゅうくい)」 というのがあることが分かりました。

  とうとうたどりつきましたね(w)

  清楽譜では 「泊舩」,この 「舩」 は 「船(せん chuan2)」 の通用字で,「舟(しゅう zhou1)」 ではありませんが,まあカタいことは言わない。
  この曲はおそらく,この漢詩をテーマにしたか,もしくは歌詞として歌うためのものだったと考えられます。

  泊舟淮水次 霜降夕流清 夜久潮侵岸 天寒月近城
  平沙依雁宿 候館聴雞鳴 郷国雲霄外 誰堪覊旅情

  舟を泊(とど)む淮水の次(やどり) 霜降の夕べ流れは清し 夜は久くして潮 岸を侵(おか)し 天寒くして月は城に近し
  平沙 雁の依る宿 候館に雞鳴を聴く 郷国は雲霄の外 誰か堪えん覊旅(きりょ)の情

  「晩泊盱眙」と題している資料もあります。2句目,「霜降る」と訓じてる記事もありますが,あとで「天寒くして」と言ってるぐらいですから,これは「霜降(そうこう)」,二十四節気の一つ。されば季節は旧暦の九月ごろでしょうか。5句目,「平沙落雁」といえば古琴の曲題にもありますが,この詩の「平沙依雁」も似たような表現,川辺の干潟に雁が群れて休んでいる様子。「候館(こうかん)」は「やど」「宿屋」とも訳されてますが,それはかなり古い意味で,この場合は町の物見台。港などでは船舶の監視のためかならずあります。「盱眙」は港町ですからね。また「雞」の字は「鶏」の通用字ですが,夜の詩なので,この場合はニワトリではなく「水雞(くいな)」を指しているのかもしれません。「郷国(きょうこく)」は故郷・ふるさと,「雲霄(うんしょう)」は空の彼方,雲の向こう,はるかなる事のたとえ。「覊旅(きりょ)」は旅行の雅語です。
  作者の常建さんは伝に 「水上の景を詠むに巧み」 とあります。お仕事はなんと,この盱眙県の知事。ただし,その仕事と地位に満足できなくって,ほとんど職場放棄してたようなヒトですんで,この詩は 「水上を旅している優雅な光景」 を詠ったものではなく,お役所の物見台から港のほうをのぞきながら 「あぁいいなあ……あいつら気ままに旅しやがって!」 と,うなってる 「リア充爆発しろ」的詩 と解釈したほうがよいかもしれません。

  まあ,常建さんもこの詩を書いた時には,まさかにこれが 「盱眙の舟やどり」 から 「レバー&コブクロに泊まる船」 の歌になろうとは思いもしなかったでしょうねえ。(www)

  『唐詩選』や『三体詩』に入ってるレベルの超メジャーなものではないとはいえ,大陸では 「郷国雲霄外,誰堪覊旅情」 のフレーズでけっこう有名な詩のようです。お江戸の月琴音楽の祖である遠山荷塘(専門は中国小説)とか流祖・鏑木渓菴(実家は漢学者の市河家)なら,まずない間違いだったと思いますが,それだけ明治になると清楽家の知識レベルも下がってた,ということでしょう----まあ庵主自身,専門っちゃあ専門のクセに気づきもしなかったんですから,あまり他人のことは言えませぬが(^_^;)

  ちょいとこんな実験をしてみました。

  五言律詩の切れ目に,曲の長音の部分がくるように合わせてみたんですが----うむ,尺的には問題なさそうですね。
  5句め「平沙…」のところで高音にあげましたが,ここは低音でも良かったか。
  「紗窓」など,同じように漢詩をテーマにした曲の例からして,どこかにインストの部分が入るはずですが,わからないのでぺろーっと歌わせてあります。あくえちゃん,ごくろうさま。

  こういう資料や実例があったわけじゃなく,あくまでもお遊びですが,意外とまあ,こんな感じの曲,くらいにはなっていましょうか。
  ご笑納あれ。

(つづく)


胡琴譜の読み方 (2)

KOKIN_05.txt
斗酒庵 胡琴譜を読み解く の巻2015.5~ 胡琴譜の読み方 (2 西皮調)

STEP2 西皮は西瓜の皮ではない。


  月琴の場合,ほとんどの曲は 「上/合(六)」,すなわち 「上=ド」 としたとき 「ド/ソ」 にあたる調弦で弾かれますが,一部の曲に 「尺合調」,すなわち 「レ/ソ」 で弾くことになっているものがあります。

  清楽の胡琴も,前回解説した「二凡調(にはんちょう)」,すなわち「合/尺(ソ/レ)」の調弦のものがほとんどなんですが,そのほかに 「西皮調(せいぴちょう)」 もしくは 「四工調(すいこんちょう)」 という調弦で弾かれるものが何曲かあります。
 「四」 は 「ラ」,「工 」は 「ミ 」ですから,「二凡調」を 「ソ・レ」 とすると,一音づつあげて 「ラ・ミ」 のチューニングで弾かれるわけですね。

  「四工調」では工尺符号の 「四・五(ラ)」 は同じ低音開放弦で弾かれ,オクターブ上の 「ラ」 には 「伍」 もしくは 「伵」 とニンベンが付けられます。 「合・六(ソ)」 はどちらも高音弦,楽器の構造上この音のオクターブ上はありません。

  そしてこれが「四工調」の譜読み,最大の特徴なんですが,同じ 「ミ」 を,「工」 とあったら低音弦で 「仜」 とあったら高音弦で弾きます。 通常の工尺譜において 「仜」 は,「工」 のオクターブ上の音を表しますが,ここでは「高音開放弦」を指示する記号であるわけですね。

  「二凡調」では曲の流れで,「仩(高いド)」 がオクターブ下の 「上」 に書き換わったりしますが,「西皮調」ではその手のことはありません。「上(ド)」 のオクターブ上はふつうに 「仩」 ですが,明笛を基準とした音符の並びと違うところは,「仩」 が 「仜」(本当なら工(ミ)の1オクターブ上) や 「伍」(本当なら五(ラ)の1オクターブ上で,四の2オクターブ上) の後になることですかね。

  すべての曲に「二凡調」とか「西皮調」と書いてあればいいのですが,そうでないとき,その胡琴譜がどっちの調弦なのか,どう見分けるかといいますと。庵主所有の『清風雅譜』17年版で言えば,後付で 「合・四/六・五」  にニンベンの付いてるのが「二凡調」,「四(五)」 と 「工」 に付いてるのが「西皮調」ということになります。

  清楽曲に「西皮」もしくは「西皮調」と題される曲があって,タイトル通りこれは西皮調で弾かれます。ちょっと長い曲ですが,まずは『清風雅譜』17年版の原譜を。

  (楽譜画像はクリックで拡大)

  これを1文字=1拍,4/4拍子の近世譜に直すと以下のようになります。黒い文字の部分から読み解かれる,月琴や明笛による標準的な曲調(一部にテキストクリティーク上の変更アリ)は左,同じ楽譜を,前所有者の朱字書き込みから,これを胡琴譜に組みなおしたのが右です。

  六-六-|尺工六-|-○[仩-|六仩五六|
  工-尺工|六五六○|尺工六-|五六工尺|
  上--○|尺尺工五|六--○|工六工尺|
  上--○|工六工尺|上○六六|工六上-|
  -○上四|上-上-|六-工六|工尺上-|
  尺-上-|四-合-|-四工尺|合--○|
  合-工-|四上尺-|-○尺-|--尺-|
  --四上|尺--○|工-尺工|尺上四-|
  工-尺上|四仩合-|-○五六|工六尺-|
  -○六工|六-尺工|六-五六|工尺上-|
  -○尺尺|工五六-|-○工六|工尺上-|
  -○工六|工尺上○|六六工六|上--○|
  上四上-|上-六-|工六工尺|上-尺-|
  上-四-|合--四|工尺合-|-○工-|
  合-四-|四-乙-|乙-五-|五-六-|
  -○六-|六-五-|-六工-|五-六-|
  -○五六|工五六-|-○工六|工尺上-|
  -○工六|工尺上○|六六工六|上--○|
  上四上-|上-六-|工六工尺|上-尺-|
  上-四-|合--四|工尺合-|-○上-|
  上-工-|工六尺-|-○工六|工尺上-|
  -○五六|工五六-|-○工六|工尺上-|
  -○工六|工尺上○|六六工六|上--○|
  上四上-|上-六-|工六工尺|上-尺-|
  上-四-|合--四|工尺合-|-○合-|
  四-乙-|乙-五-|-○五-|--五-|
  --工六|五--○|]
  六- 六四上|尺 六-|-合伍[仩-|六仩 伍六|
  工四上|六伍 六四上|尺|伍六 工尺|
  上--○|尺尺 伍|六--合伍|工六 工尺|
  上--上尺|工六 工尺|上○ 六六|工六 上-|
  -○ 上四|上- 上|六- 工六|工尺 上四上
  尺 上-|四 合-|-伍 合四|合--五六
  合- 工|四上 尺-|-○ 尺-|-- 尺-|
  -- 四上|尺--上尺- 尺|尺上 四上尺
  - 尺上|伍仩 合-|-○ 伍六|工六 尺-|
  -○ 六工|六四上|六 五六|工尺 上-|
  -○ 尺尺|伍 六-|-○ 工六|工尺 上-|
  -○ 工六|工尺 上○|六六 工六|上--○|
  上四 上-|上 六-|工六 工尺|上四上
  上- 四|合--伵|尺 合-|-○ 工-|
  合- 四-|四- 乙-|乙- 五-|五- 六-|
  -○ 六-|六- 五-|-六 工-|五- 六-|
  -○ 五六|工五 六-|-○ 工六|工尺 上-|
  -○ 工六|工尺 上○|六六 工六|上--○|
  上四 上-|上 六-|工六 工尺|上四上
  上- 四-|合--四|尺 合-|-○ 上-|
  上 工-|工六 尺-|-○ 工六|工尺 上-|
  -○ 伍六|工伍 六-|-○ 工六|工尺 上-|
  -○ 工六|工尺 上○|六六 工六|上--○|
  上四 上-|上 六-|工六 工尺|上四上
  上- 四-|合--四|尺 合-|-○ 合-|
  四- 乙-|乙- 伍-|-○ 伍-|-- 伍-|
  -- 工六|伍--○|]

  前回と同じく,赤文字は装飾符。後半に2箇所ただの 「工(低いミ)」 がオレンジになってるところがあります。原書ではここにニンベンはついてないんですが,前2回同じフレーズで 「仜」 になっていることから,ここはニンベン付けるのを省略したものと考えます。まあ,上にも書いたとおり,「四工調」で 「工・仜」 は同じ音の低音弦で弾くものと,開放弦で弾くという運指,すなわち指遣い上の違いでしかありませんから,基本的にはどっちで弾いても構わない(w)のですが。

  ちなみに『清風雅譜』内の曲で(調弦法の)「西皮調」を使って演奏されたことが分かっているのは,この「西皮調」のほか「三五七(尼姑思還)」,「銀鈕糸」「金線花」の4曲だけで,あとはみんな「二凡調」です。

  前回同様,このチューニングにおける三つの楽器の実音と符号の関係を表にするなら----

明笛(乙)
実際の音3G3A3B4C4D4E4F4G4A4B5C5D5E5F5G5A5B6C
月琴六/合五/四𠆾
胡琴四/五工/仜六/合伍/伵亿

  と,なります。
  前回も書いたとおり,あくまで 「上=4C」 とした場合の表で,古い明笛に合わせた実際の清楽の演奏では,これより長音2度ほど高かったと思われます。

  まあ,実際,庵主はMIDIの上では何度も組んで実験してますが,こちらの調弦で,現実(リアル)な楽器を使い,胡琴と合奏してみたことはいまのところありませんねえ。

  無段階楽器とはいうものの,胡琴は短いだけに音域がせまく,「二凡調」でも「西皮調」でも,「工」のオクターブ上(上の表で言うとあとマス2つ先)くらいまでが,なんとか安定した音の出せる高音の限界のようです----そういやまだ見たことはありませんが,四工調の場合,その音を表すときは「工」にギョウニンベンを付けることになるんだろうな~,とは思います。

  庵主,自分では弾けないので~(w)まだ実験と文献の擦りあわせが多少足りてないところもございます。
  SOS団・胡琴弾き諸君の健闘と成長を祈る!

*(曲の)「西皮調」のメロディなどについては こちら でどうぞ。

(つづく)


胡琴譜の読み方 (1)

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斗酒庵 胡琴譜を読み解く の巻2015.5~ 胡琴譜の読み方 (1 二凡調)

STEP1 「胡琴譜」読んで胡琴を弾こう!


  清楽で用いられている楽譜,「工尺譜」っていうものは,ある意味きわめて合理的な楽譜で,月琴や明笛,胡琴など音域の違う楽器が,パート分けされていない,まったく同じ譜面の同じ文字列を同時に見ながら,それぞれの奏者が自分の楽器に合わせた演奏が出来るようになっています。

  「工尺譜」は文字譜,かんたんに言えば 「ド,レ,ミ…」 という音階に 「上,尺,工…」 という漢字を,記号として当てただけのものです。 「上」 を 「ド」 とした場合の,文字の並びは 合 四 乙 上 尺 工 凡 六 五 (乙) これが ソ ラ シ ド レ ミ ファ ソ ラ シ に当たります。

  高音の「乙」から先,1オクターブうえの音には,「仩」 といったぐあいに,漢字にニンベンが付けられます。ちなみに,中国の工尺譜では低音の「乙」は「一」,高音が「乙」と書き分けられますが,日本の工尺譜ではこれがなく,「乙」がどちらの音なのかについては,それぞれの楽器の音域・音階と,前後の符の高低によって判断されていたようです。(すなわち合・四に隣り合わせ,または同じフレーズ内にある場合は低音,五・六,もしくはそれ以上の高音に隣り合わせた場合は高音となる)

  楽譜自体に何の前置きがなくても,月琴の奏者は 「合・四・乙」 を,符字の並びから言えば1オクターブ高い 「六・五・乙」 の音を使って弾きます。月琴の最低音はそもそも「上」で,低音の「合・四・乙」にあたる音はないからですね。
  また,明笛は 「五 仩 六」 と楽譜にあった場合,この3音をすべて甲音(高音)で吹きますが,「四 仩 合」 となっていた場合は,まんなかの「仩」を1オクターブ下の呂音の「上」で吹きます。明笛の最低音は「合」。後者の場合,まんなかが「上」でなく「仩」になっているのは,月琴などの高音楽器のためなわけです。


  胡琴の場合,この読み解きはさらに少し複雑になります。

  胡琴には二つの調弦法があり,曲によって調弦を変えて弾きます。
  このうち「九連環」や「茉莉花」などで使われる一般的な調弦が 「二凡調(にはんちょう/ねはんちょう)」 です。上記のように「上=C(ド)」とした場合,低音弦の開放が「合」,すなわち低いG(ソ),高音が「尺」,すなわちD(レ)のチューニングになります。
  胡琴の譜では月琴と同様,工尺譜の 「合・四」 と 「六・五」 に区別がなく同じ音で弾かれまが,月琴の場合これらの音がいずれも高いほうの音で弾かれるのに対して,胡琴ではこれと反対に低音弦で出す「低い音」として弾かれます。 そして,開放弦のオクターブ高い音は「六・五」ではなく,符字にニンベンを付した 「𠆾・伍」 で表されます。
  また,明笛の場合 「五 仩 六」 とあればまんなかの 「仩」 は高音,「四 仩 合」 とあれば「仩」はオクターブ低い「上」として吹かれますが,胡琴の場合はどちらの「 仩 」も,低音,「伍仩𠆾」 の時だけ高音になるわけです。
  すなわち,胡琴の奏者が工尺譜を見たときの音の並びは----

  (合/六) (四/五) 乙 上 尺 工 凡 𠆾 伍 亿 仩…

  ----となるわけですね。
  基音楽器である明笛での工尺符字の並びを基準とし,月琴の「上」を 「4C」(ピアノの真ん中のド) とした場合,3つの楽器の音域と工尺符字の関係は,以下のようになります。

明笛(乙)
実際の音3G3A3B4C4D4E4F4G4A4B5C5D5E5F5G5A5B6C
月琴六/合五/四𠆾
胡琴合/六四/五𠆾亿


  あくまでも,わかりやすくするため 「上=4C」 とした場合の表ですからね。

  東洋の音楽は基本的に「移動ド」。
  西洋音楽のように絶対音A=440HZを基準とせず,人の声やなんらかの基音楽器の音を基準として,演奏するその時々に決められます。きょうの「ド」は西洋式に言うと「レ」かもしれないし,明日の「ド」は「ファ」になってるかもしれません。(w)

  清楽では楽器の調弦は明笛の音で合わせるのですが,清楽に使われた明笛の全閉鎖音(合)は3Bbから3Bくらいなので,実際の音階は,これより長音で3度くらい高いでしょう。

  月琴と明笛は,通常の工尺譜のままで,弾き分けがほぼ可能なんですが,さすがに胡琴となると,符と音の関係が複雑でちょっとそうはいきません。

  左の画像は庵主所有の『清風雅譜』17年版の一部。

  この本の前の所有者は胡琴弾きだったようで,朱字の装飾符に 「𠆾・伍」 の字が見えるほか,印刷された「六・五」の横に朱でニンベンを書き込んであるのが分かりますね? 上で解説したように胡琴譜のきまりでは,そのままだと「六・五」は「合・四」と同じ低音になってしまうので,胡琴で高音にすべきところにニンベン付してこれを表しているわけです。
  月琴と明笛の奏者は,黒い文字のところだけを追いますから,この状態でももちろん合奏に支障はないわけですね。

  井上輔太郎 『月琴雑曲ひとりずさみ』(M.24)という譜本の巻末に,渓蓮斎によるものという「胡琴譜」----すなわち通常の工尺譜を,胡琴用にわかりやすく書き直した譜が入っています。これを17年版の譜と対照させると,ふつうの工尺譜と胡琴譜の違いが分かりやすいかもしれません。


   (画像はクリックで拡大)

  まあ,画像だけ見ても分からんか。(w)
  ではまず,これらを4/4の近世譜に直します。上が『清風雅譜』17年版の黒い文字部分を変換したもの。下が『月琴雑曲ひとりずさみ』の胡琴譜です。

 上- 工-|尺--○|工- 四上|尺工 上四|
 合- 合四|仩- 仩合|四--○|四仩 四仩|
 四- 仩四|合--○|四合 四仩|合--○|
 工- 工-|尺工 六-|五六 工尺|上--尺|
 上--○|

 上四合六上|尺--○|工尺工 上|尺
 合尺工 四|上 上合|四--○|
 四合四|合--○|四合 四|合--四合
 工- 工六上|尺 𠆾-|伍𠆾|上-合上
 上--○|

  1文字1拍(4分音符),下線がついて小文字になっているのは半拍(8分音符),「-」が伸ばす音,「○」が休符です。

  『清風雅譜』は渓派(東京派)の祖・鏑木渓菴が著した同派の基本楽譜で,渓蓮斎は渓派中興の高弟,当然その楽曲は『清風雅譜』の版を忠実に基にしているはずですから,胡琴譜に変換されているとしても,その基礎となっている部分の曲調は『清風雅譜』の版と同じなはずです。
  下段で赤文字になっているのは,その基本曲調に対する「装飾符」の部分を強調したものですね。先に見た17年版において,朱文字で書き込まれてた小さい符字がこれにあたります。
  この装飾符をのぞくと,ほとんどの部分が基本曲調とほぼ一致していること,また上に書いたように,「仩」で表されていた部分が,オクターブ下の「上」に変換されていること,高音で弾いてほしい「ソ・ラ」が「𠆾・伍」に換わっていることなどが分かるかと思います。

  上の17年版,版の状態もよく,拍点がウラオモテ両方ついてるなど,付点が分かりやすく基本的な曲調の読み解きによいので,庵主はよく工尺譜の見本として使っていますが,先にも書いたように,こちらも胡琴弾きが使ったものなので「胡琴譜」として読み解くことが出来ます。その場合の譜面は以下に----民楽などやってる方のために,数字譜もつけておきましょう。あ,あと「茉莉花」の胡琴譜もついでに。これも調弦は「二凡調」です。記事を参考に,ご練習あれ。


   (画像はクリックで拡大)

  井上輔太郎『月琴雑曲ひとりずさみ』は国会図書館のアーカイブに,庵主の『清風雅譜』もpdfで公開されてますので,より詳しく調べてたり,読み解いて見たい方は,そちらから資料をDLしてやってみてください,ぜひぜひ。

  参照:「斗酒庵夏の資料大公開! 」(2014.7)

(つづく)