清楽の人々

SHINGAKU.txt
斗酒庵 古い写真を入手す の巻 清楽の人々

写真(表)

  この古い写真は,つい最近,ネオクで落としたものです。
  普通の人には琵琶くらいしか分からないかもしれませんが,明清楽の演奏風景。

  古い紙焼き写真を周囲を添金した厚紙に貼り付けてあり,厚紙の裏面には,写っている人物と,撮影者の名前が書かれています。

  当初は 「あ,月琴が写ってる。」 というくらいの気づもりで入札したのですが,調べてみると,これがけっこうタイヘンなもので。

  -----まあ,庵主にとっては,ですが。

写真(裏)


  撮影されたのは明治二十五年七月三十一日。
  西暦に直すと1892年-----そうするとこれは,117年もむかしの光景なわけですね。

  今回はこの写真と,そこに写っている人々,楽器について,調べたことを書いてみましょう。



津田旭庵
  裏面に列記された名前の順番からゆくと,右端の「明笛」を手に持った老紳士が 「津田旭庵」

  どうやらまだ,頭にはチョンマゲを結っているようです。
  明治8年発行の東京の芸人録,『諸芸人名録』の「清楽」の部にも----

  池ノ端カヤ丁   津田旭庵

  と記されていますが,『中日音楽交流史』(張前 人民音楽 1999)などによれば,この津田旭庵さんという人は,なんとお江戸明清楽の祖,鏑木渓庵の直弟子の一人であるようです。

  見た目の風格から言っても,順番から言っても,この中でおそらくいちばんエラい人でしょう。

三上聖道/中島春久
  つぎの「月琴」を弾いてるおヒゲの方が 「三上聖道」

  次の年若い青年の持っているのは,おそらく 「提琴(テイキン)」 だと思います。
  現在の中国楽器で言うと「板胡(バンフー)」の類ですね。

  四弦のものもあるようですが,この楽器では軸が2本しか確認できませんね。
  裏書の順からいくと彼が 「中島春久」

女性陣
  つぎの楽器は 「唐琵琶(トウビワ)」

  雅楽の琵琶や,薩摩・筑前よりは現在中国の「琵琶(ピーパー)」に近いもので,フレットは14本。
  撥ではなく,指に月琴のと同じような長い義甲をつまんでいるのが,なんとか見えます。
  この人は 「増田元子」 さんですね。


  おつぎの古風な老婦人が 「津田八重」
  旭庵さんの奥さんでしょうか。
  なんと持っている楽器は 「阮咸(ゲンカン)」 です。

  自分でも作っといて何ですが(「ゴッタン阮咸」参照)

  この楽器,今ではほとんど弾く人が絶えてしまっているので,演奏姿勢が見られるのは珍しいのです。
  資料では 「爪弾くか,もしくは義甲を用いる」 とありますが,手元をよく見ると,これもどうやら月琴型の義甲を握っているようですね。


  となると,最後の娘さんが「伊藤清子」さん----美人ですね。

  前にある楽器は,一見日本のお琴のようですが----
  猫足が四本(お琴は2本),琴柱の位置もすこしおかしいですね。
  琴背になにやら丸い飾りが.....サウンドホールでしょうか?
  さらに糸が,ふつうのお琴と違って左右のブリッジにピン止めされてます。

  これは日本の明清楽独自の楽器といわれる 「洋琴(ヨウキン)」 だと思われます。

お手元アップ
  音読すると同じになる中国の「揚琴(ヨウキン=ヤンチン)」は,西洋のダルシマーが明代にイタリアから伝わったものですが,これはそれを源流として,日本のお琴をベースにしてみた楽器,といったところでしょうか。

  ふつうのお琴のように,指にツメをはめて弾かれることもあったようですが,写真の楽器は間違いなく,ダルシマー風に打奏されたもののようです。

  よーく見ると,清子さん,手になにか先っぽの「へにゃ」っと曲がった,細い棒を持ってます。

  たぶんこれがバチでしょう。




撮影者
  撮影のいきさつは分かりません。
  撮影場所についても記述がないので分かりませんが,もしかすると旭庵さんの自宅か稽古場でしょうか。
  床の間の横の柱に,何か漢文の彫られた板が掛けてありますね。
  残念ながらよく読めません。
  書いてあるのが難しい漢詩か何かなら,宴会場や貸し座敷ではないと思いますが。

  写真の保存状態から見ると,ずいぶん大切にされていたようです。
  旭庵門下の記念写真だと思われますが,元の所有者はこの中の一人だったかもしれません。

  ちなみに,当時の写真技術だとまだ,20秒くらいはそのまま動かないでいないとならなかったはず。

  こういう室内だと,もっとかかったかもしれませんね。

  旭庵大師匠はまさに静謐枯淡と端坐しておられますが,まだ写真機の珍しい時代,ただでさえ緊張して楽器を持って,そのままのポーズでいるのは,あんがいツラかったでしょうねえ。

  「三上聖道」 「中島春久」 の両名については,どっかほかでも見た名前のような気がしてるのですが,今のところ思い出せずにいます。女性陣についてはまったく不明。

  裏書の最後の方には,この写真を撮った人の名前があります。
  これもまた興味深い。

   技主 有藤金太郎
   手伝 近藤操

『素人写真術』表紙
  ネットで調べると,「有藤金太郎」という人は,日本の写真術草創期に名を残す写真家の一人だそうです。

  さて,その有藤さんの名前の前に, 「外国人門弟」 なんて書いてありますよね------こりゃなんでしょう?

  この写真の撮影時期に近い明治27年に彼が訳した『素人写真術』の奥付を見ると,彼の住所が 「麹町区永田町1丁目七番バルトン方」 となっています。
  さらにその「バルトン」というのを追ってゆくと,これはかの 「浅草十二階(凌雲閣)」 を設計したお雇い英国人,W.K.バートン(William.K.burton,1855-1899)のことだと分かりました。

  当時,帝大工科の教授だったようです。

  写真好き だったことでも有名で,日本写真学会 創設者の一人でもあり,先に触れた有藤の訳著『素人写真術』も,アメリカ人原著の本を彼が編輯したものがベースになっているようです。

  現在まだ有藤の詳しい履歴とか生没年が分からないので,バルトン氏との関係もはっきりとはしませんが,自宅に下宿してるぐらいだから,教授とその教え子だったのかもしれません。
  有藤氏が当時帝大の学生だったとすると,本郷から旭庵さんの住んでいた池之端まではわずかな距離。

  ふだんからこの「清楽の先生」と接近遭遇していたような可能性も考えられ,ちょっとドラマティックな連想などもしてしまいますね。

  最後のお手伝いさん。「近藤操」もバルトンのお弟子さんらしいのですが,詳細不明。



  庵主の月琴は独学で,明清楽の演奏は,明治期の資料をもとにあれこれ見ながら復元してます。
  なかでもよく使っている資料は 「渓派」 の人たちのもの。
 
  鏑木渓庵を祖とする渓派は,江戸~明治にかけて,東京では最大派閥でした。
  今残ってる譜本や,そこに加えられた細かいアレンジの部分などを見ると,この派の人たちの演奏は,ほかの流派,たとえば連山派などの演奏にくらべると,概していかにも 「お江戸好み」 というか,軽快で派手やかなのが特徴だったようです。
  同じ曲でも,ほかの派の譜では長い単音で弾いているようなところを,ぱらぱらぱらっと細かに流し弾き----おそらくは三味線音楽や俗曲の影響が強く,そういう手が自然に混じっているのだと思いますね。

  東京で活動し,その渓派のお流れとして「お江戸流」を僭称している庵主のところに,ホンモノの「お江戸流」の人々の写った写真が舞い込んでくる。

  まあ「月琴」なんていう,もともとごくせまいマニアックな楽器の世界の話しですから。
  確率で言うと,たいしたことじゃないのかもしれませんが。

  なんにゃら因縁じみたものも,感じてしまいますね。

臨時増刊 8号/9号弾き比べ

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斗酒庵 明清楽月琴を弾きくらべる 之巻臨時増刊・8号/9号弾き比べ


くらべてみませう!

8号生葉/9号早苗
  絃停は8号には緑の桐唐草,9号には前にウサ琴で使った丹色の梅唐草を貼りました。
  修理はこれにて,ほぼ完全完了。あとはしばらく病後の様子見と各部の微調整ですね。

  8号生葉は棹から胴材から高級な唐木で出来た,かなり上物の月琴。

  これに対して9号早苗ちゃんは棹から胴材から,クリという,この楽器では一般的な素材で作られた,普及品~お手軽価格クラスの楽器であります。

  これだけレベルの違う月琴が,いちどき同じ場所にあって,しかも両方とも演奏可能状態,というのも一般家庭ではあまり例のないことなので(あるかッ!),今回のデーターは,両機の音声が比較可能なように一緒にまとめて載せたいと思いまする。


  まずは開放弦の響きをどうぞ――

■ 8号生葉・開放弦
■ 9号早苗・開放弦

  つづいて全音階。Fまでは低音絃,G以降が高音弦で,13音です――

■ 8号生葉・音階(29kb)
■ 9号早苗・音階(33kb)

  試奏。まずは明清楽の基礎曲第一歩め「韻頭」

■ 8号生葉・韻頭(121kb)
■ 9号早苗・韻頭(112kb)

  つづいて定番の「九連環」

■ 8号生葉・九連環(166kb)
■ 9号早苗・九連環(100kb)

  本記事にもあったように,8号の音は余韻が強く,早弾きの曲には向きません。
  そのかわり,たとえばこんな曲をやると響きが深くてステキでした。

■ 8号生葉・散花落(117kb)
■ 8号生葉・蝴蝶飛(115kb)
■ 8号生葉・四季曲(160kb)

  逆に9号は軽やかな曲に向いています。楽器も軽いしね。
  向き不向きのおためしに,8号とおなじく「四季曲」を弾いてみましょう。

■ 9号早苗・四季曲(164kb)

  うむ…これはこれで悪くはないが,音符の間がちょっと保ちませぬ。
  そのかわり,こんなのはけっこういいですね。

■ 9号早苗・茉莉花(152kb)

  長崎明清楽の「茉莉花」はもっとゆっくり弾きますが,当時の楽譜を現在の中国民歌版のテンポで弾くとこのぐらいになります。もっと早くてもいいかもしれない。




  例によってSPWaveで,開放弦の音の波を視覚化してみましょう。

  まずは8号,右が全体,左が二番目の音(高音の開放弦)を拡大したものです。

8号開放弦拡大 8号開放弦

  続いて9号。以下同文。

9号開放弦拡大 9号開放弦

  音の胴体(線が太くなっている部分)は,9号の方が多少太く,長いですね。
  最大音量も9号の方が上でした。

  余韻のはじまりは8号のほうが先,全体の音の減衰はなだらか。音のしっぽの付け根部分が,いちどくびれて,ぷくんと膨れてますよね。ここで弦音が楽器内で増幅された効果,音の胴体とは違う,いわゆる「余韻」が発生しているわけです。
  また,しっぽのあとのほうの線の太さを,アタック直前のそれと比べてみてください。一見,弦をはじく前と同じくらいに戻ってしまっているようですが,わずかに太くなっています。拡大図では切れてしまっていますが,このわずかな余韻が,最高で4秒以上かかることもあるようです。

  一方,9号のしっぽの付け根の減衰は急激で,8号のような盛りかえしはなく,「余韻」というよりは音の胴体がそのまま小さくなった感じになっています。たんにボリュームをしぼって出すフェードアウトみたいなものですね。また音の胴体が太く長いため,実際の演奏では,前の音が「余韻」になる前に,つぎの音がかぶさってしまいがちです。

  うん,ちょっとお勉強もしたので,さいきん少しづつこの波形図の見方が分かるようになってきたぞ。(ホントか?)


  最後におまけ。

  この音は弦が生み出す楽器の音色とは直接関係ないのですが,これもまた「月琴の音」
  大流行していたころは,町のあちこち,お師匠さんのところへ通う女の子たちの背中から,こんな音が鳴っていたことでしょう。
  それぞれの楽器でそれぞれに違う響きなので面白いですよ。

■ 8号生葉・響き線
■ 9号早苗・響き線

工尺譜の読み方(2)

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工尺譜の読み方(2)工尺譜の読み方(2)

「柳雨調」の巻

朱入りの『清風雅譜』(明治17年)
  前回は こちら をどうぞ。

  工尺譜は音階だけの文字譜なんで,それだけでは通常,どんな曲なのかはわかりません。

  ドレミが分かっても,ドードレミーミーなのかドドレミミーなのか――つまり音の長さが分からなければ,メロディにならないからですね。
  工尺譜というものは,西洋の五線譜のような「音楽の設計図」として,ある程度完成されたものではありません。基本的に「すでに知っている」曲を演奏するための,まあ備忘録のようなものでしかなく,本来はお師匠様から教えてもらいながら,その文字の羅列に拍子の点を打ったり,くっつけて弾くところに線を引いたりして使うものなのだからです。

  「九連環」とか「紗窓」とか。有名な曲はまだいいのですが,珍しい曲になればなるほど資料も少なく,どんな曲だかを知る手がかりは少なくなってゆきます。

『清楽雅譜』「柳雨調」
  そういう,あまり見かけない曲の一つに「柳雨調」というのがありました。
  明治15年に出された『清楽雅譜』(村田きみ)という本に載ってたのですが,ぜんぶで48コしか音のない,ごく短い曲ながら,ごらんのとおり,簡単な区切りが「○」で示されているほかは手がかりがない。

  似た曲名に「柳青娘」♪ というのがあって,庵主はずっとそれの間違いか別名だと思ってたんですが,いざ工尺譜をくらべてみると,これがまあぜんぜん違う曲。

  ふつうはこれでおしまい。こりゃ分からんわ,となるんですが。

  最近,月琴の譜面以外の雑多な資料を整理していたら,明治末期の『明笛清笛独習案内』(明治42 香露園主人)という本に,同名の曲が入っているのを見つけました。
  こちらの楽譜は新式の数字譜で書かれているので,なんと音長が分かります。

  やった!そいでは今回は,これを手がかりに「柳雨調」を解読・復元してみましょうか。



  そのまえにちょっと,この本がどんな楽器の「独習本」なのか,解説をしておきましょう。

清笛の図
  明笛・清笛というのは,月琴と同じころ流行した中国風の横笛。竹製で指穴は六個,日本の横笛と違うのは,吹き口と指穴のほかに「響孔」とか「紙穴」という穴があって,ここに薄い紙を貼り付けて塞ぎ,共鳴させるところ。サッカーの応援で使うカズーとか,おもちゃのブーブー笛みたいなものに,同じような膜を使った仕組みが使われてますよね。
  「明笛」「清笛」といちおう分けて書かれていますが,明治時代のこうした独習本では,一般に同じものとされていることが多いですね。たとえばこの本の著者も――

  明笛とは横笛にして清笛といへるものと相同じ。人或ひは相異なれりといへるものなきにあらずと雖も,決して否らず。

  と言ってますし,『月琴胡琴明笛独稽古』(明治34 秋庭縫司)という本では――

  明笛又の名清笛と云ふ清国より伝わりしものにして,高尚爽快の妙音を発す。

  と,かんたんに一緒のものとして解説されちゃってます。『明笛清笛…』と同じ年に出された『明笛尺八独習』(津田峰子)には――

  世の人明笛と云い,清笛と云う時は,別に異なれる笛あるが如く思うものあれど,其実は共に二尺余の長さある同じものなり。されど唯の清笛の方には,竹紙と云いて竹の裏皮を張る響き孔ありて,此孔は明笛には無し。而して明笛は支那・明の時代に流行したるものなりとぞ。


  と,響き孔のアル,ナシで分けるのだ,という説が載ってます。そのほかにも明笛のほうが低音とか,開口部の飾りが違うとか,いくつかの説があるようですが,いづれも確証的なものではないようで,現在も音楽の解説書とか辞典を見ると,本によって違うものと書かれてたり,同じものとされてたりしてます。

  百年たっても解決してないんですね~。



  まずはその笛の数字譜を読み解かなきゃなりません。このころのこういう譜面はだいたい同じような形式ではあるのですが,明治という新進の時代がら,時には「こッちのほうがイイ!」と,画期的な(でもそのあと誰も使ってない)形式を提唱したりする「革新犯」も多いので,短くても解説の部分はちゃんと読んでおく必要があります。

  『明笛清笛独習案内』の数字譜は,音階をあらわす漢数字に,●○を付けたもの。
  「●」は弱く吹いた時に出る低音をあらわし,「○」はその反対,強く吹いた時の,1オクターブ上の高音です。

  同書の解説をもとに,指譜・工尺譜・西洋音階と対照させると,次のようになります。

指 譜(弱)(強)
●●●●●●一●一○G/G1
●●●●●○二●二○A/A1
●●●●○○三●三○B/B1
●●●○●○四●四○イ上C/C2
●●○○●○五●五○イ尺D/D1
●○○○●○六●六○イ工E/E1
○●●○●●七●七○イ凡F/F1

  工尺譜と西洋音階の対応は「上=C(ド)」としてあります。
  指譜の「●」は笛の孔をおさえるところ,「○」はあけとくところですね。
  音長は4分音符が無印とすると8分が下線,16分が二重下線。逆に伸ばすほうは一拍を「-」で表すほか,スラーやレガートの表記も付いています。ごく簡単,かつ当時としては一般的な記譜法の一つですね。

  右のが『明笛清笛独習案内』に載ってる「柳雨調」の譜面です(クリックで拡大)。これをMIDIに組むため,MMLで書き直すとこうなります。
d2d>e<|g2<g>a|>c2c<a|>c2.r4<|
>c2<<ag>|d2.r4 |>d2<de|g2.r4 |
<a2ag>|>e2.r4<|<a2>a<g>|e2.r4 |
a<g>ad|c2.r4 |d2>d<c|<a2.r4>|
>d2<dc|<a2.r4>|a2<ag>|>c2<a<g>|
e2.r4 |>d2<de|g2<ga>|>c2c<<a>|
>c2.r4<|
『明笛清笛独習案内』「柳雨調」

  上の●○の印刷が潰れてしまって,高低がはっきり分からないところもあるのですが,こんなところでしょうか。
  ギターとかやっている方にはすぐピンと来るとは思いますが,cがド,dがレ,rは休符,><ではさまれてる部分の音は1オクターブ上で,4とか2というのは音の長さ,つまり2が二分音符,無印と4は四分音符,・は半拍のばすところです。

  3小節目が楽譜のまま組むと「>c2 c2<a 」と,4拍子なのに5拍になっちゃいますが,前後の関係から考えて,ここは6行目のお尻と同様のフレーズ,単純な書き間違えでしょう。


  MMLといっても知らない方が多いでしょうが,コンピューターに音楽を演奏させるための言語の一つとして,かなり以前からある方法で。かんたんにいうとオタマジャクシをマウスで動かすのでも,音楽用のキーボードで打ち込むのでもなく,コンピューターの上で「ド」と文字を書いて,「ド」の音を出させるやりかたです。
  使うのはただの英数字記号ですから,その「楽譜」自体は,メモ帳やテキストエディタで書けちゃいます。
  あとはその文字の羅列を音楽に直してくれる,「コンパイラ」というソフト(たとえば「サクラ」)にかければ,曲が聞こえてくるわけで。

  MMLの考え方は,工尺譜のような「文字譜」に似てます。というか使う字が違うだけで,ほとんど同じです。和音の多い高度な楽曲の再現には向きませんが,メロディがそれほど複雑でない明清楽の研究では,入力もラクだし,楽譜が読み解きやすいので,曲の類似や比較をするうえでも,意外と役に立つのです。
  また東洋の音楽では,楽器の調子は人の声に合わせることが多く,これを実際に五線譜で組むと,それぞれ調が違うので,同じ曲なのに譜面上,同じに見えないことがあります(楽譜を読むのがヘタなだけダロ!というハナシもある)が,MMLでは「ドミソ」と書いてから,「これ,ホ短調ね」とかいう指示を頭につけてやるだけなので,「ドミソ」の曲は,ホ調でやっても,ハ調でやっても,「ドミソ」と書く。どんなに調が違っても,メロディーが同じなら,見かけ上記述はいっしょになるわけです。

  明清楽の月琴は,基本全音しか出ないので,ハ調以外の曲をやるとき,庵主はチューニング自体をイジってやっちゃうのですが,それとある意味,通じるところもありますね。


  さて,「柳雨調」に戻りましょう。
  『明笛清笛独習案内』のおかげで,曲全体,だいたいの音長は分かりました。
  次にこれを,最初に見つけた『清楽雅譜』にフィードバックして検証してゆきます。
  まずは『清楽雅譜』の工尺譜から,その音階だけを,MMLで書き直して並べてみましょう。

  音階対応表にもあったように笛は最低音がG,最高音がFなんですが,庵主がいつも弾いている月琴は,最低音が「上(C)」なので,その下の「合(G)」「四(A)」は,楽譜に書いてあっても,実際には1オクターブ上の「六(G)」「五(A)」で演奏されます。
  笛譜以外の独習本ではだいたい,後者の月琴方式,つまり「合/六」「四/五」は同じ音,と解説されているものが多いですね。そのへんは前回でもお話したとおり。

  『明笛清笛…』のほうには工尺譜が付いていなかったので出来なかったんですが,庵主は曲を復元するときは,実際に弾きながら確かめてゆくことが多いので,こちらの工尺譜の音の高低は,そういうときに一般的な月琴方式で読み解きましょう。
  ここでは区切り線は小節ではなく,工尺譜にあったフレーズの区切り,「○」の位置です。

  dega>c<|a>c<|>c<ag
  d|ddegaage|a
  age|agadc|dc
  a|dca|aag>c<ag
  edeg|aca>c<|


  こういう作業を長いことやってると,この時点でもう「あ,おんなじ曲だ」というぐあいに分かってしまうのですが,はじめから説明してゆきましょう。

  『明笛清笛…』のほうの出だしは「ddegga」で,こちらは「dega」ですが,前者は二音を三音にして演奏しているのだと考えられます。よくあるアレンジですね。またそこから,後者のはじめの「d」は,次の「e」と同じ長さじゃなく,少し長いんだろうな,てことにも気づく。「gga」と「ga」も同じ理屈ですね。
  つぎに,工尺譜の「○」のついた区切りの部分というのは,たいがい直前の音が長いか,そこに休みがあるわけで。てことは「dega>c<」の「>c<」つぎの「a>c<」の「>c<」,そのつぎの「ddegaage」の最後の「e」は長い音符になるはずだなあ,とか考えながら,『明笛清笛…』のMMLを参考に,こっちのを一小節4/4であてはめてゆくと――

  d2. e |g2. a |>c2< a>c< |[2 >c2.r4<
  a2.g |d2.r4 |d2 de |g2.r4 |a2 ag |
  e2.r4 |a2 ag |e2.r4 |ag ad |c2.r4|
  d2.c |a2.r4 |d2.c |a2.r4 |a2 ag |
  >c2< ag |e2.r4 |d2.e |g2.a |c2.a |
  >c2.r4<| ]


  ――だいたい,こんなところになりましょうか。
  『明笛清笛…』の楽譜にはなかったくりかえしの指示([ )が,『清楽雅譜』の工尺譜には付いてますので,1行目の4小節目から最後までをリピートさせます([2 ]でかこまれた部分)。最後の「aca>c<」の最初の「a」だけが,区切りどおりでなく,長くもならず,前の小節に組み込まれてしまいましたが,資料が少ないので,どちらかの間違いなのか,あるいはアレンジ違いのヴァリエーションとかなのか,今の時点では分かりません。

 ■ 『明笛清笛独習案内』の版
 ■ その音長をもとに組んだ『清楽雅譜』の版


  『明笛清笛…』では,題名の下に「四拍子(急)」とあります。
  そのわりにはゆっくりした曲だなあ~,とお思いになられるかもしれませんが,「九連環」とかが Tempo 64(一分間で64拍)くらいなのに比べれば,この曲は Tempo 88 ですから早いといえば早い。
  明清楽の曲はほんらい,ほんわかのびりーしたのが多いので,「急」とあっても,もっと遅くてもいいのですが,コンピューター音楽の場合,あんまりゆっくり演奏させると,いろいろとその,ボロが出ますんで。

  今回の曲はまだ類例が少ないので,これだけでもって,これらの復元が「正しい」なんてことは毛頭申せません。今後,たとえばモロ録音資料が見つかった,とか,五線譜におこした明治時代の演奏の採譜資料が出てきた,とか(キセキ!),そこまでではなくても朱の入った,実際に使用されて朱の入った工尺譜がせめて見つかると,より当時の演奏に近い再現ができるとは思うのですが。

  もうちょっと,遊んでみましょうか。

  『明笛清笛独習案内』はもともと笛のための譜面。
  『清楽雅譜』の版を月琴や胡琴の譜として,これと合奏させたらどうなるでしょう?
  『明笛清笛…』のMMLの,音階・音長はそのままで,本来は付いてないリピートの記号だけを加えて,二つを合わせてみます。

  うまくソレっぽく…つまりは合奏してるみたいに聞こえたなら,御喝采アレ。
  今回はまあ,こんな方法で,こんなふうに曲を復元してるんだ。
  という,例として。

 ■ 合奏版「柳雨調」


月琴の軸の調整(1)

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斗酒庵 糸巻の調整を伝授す の巻4月琴の軸の調整(1)

月琴の軸の調整(1)

中国月琴・軸
  前4回に続いて,問い合わせの多いことをもう一つ。

 ▲ 月琴の軸がゆるんで,調弦が安定しない。
 ▲ せっかく〆あげてもすぐ,するんぱすっと戻ってしまう。


  ――と,お嘆きの,そんなアナタに。

  弦楽器は弦を張ってナンボですからね。調弦が決まらなければ,演奏も何も,それ以前の段階。

  おハナシにもなりません。

  明清楽の月琴の場合は,糸も絹絃でテンションも弱いため,糸巻がくるくるっと戻ってしまうようなことはめったにありませんが,中国月琴は近年の「改良」で,糸もナイロンや金属のワウンド弦にしたのに,糸巻はなんの工夫もなく,ほぼ旧来のまま,ただの丸い木の棒なのですから。糸巻きにはつねに強い張力と復元力がかかっており,ちょっとしたはずみ,ちょっとした衝撃で軸の固定がゆるんで,たちまちわわわわわっ,とひとりでに回って,ユルユルになってしまうことも珍しくありません。

  じっさい月琴を買ったものの,弦がすぐユルむのがシャクに触ってやめてしまった,という人もいますが,これもちょっとの調整,工作で改善される場合が多いので,まあまずはカンシャクを起こさず,試してみてくださいな。



1)月琴の軸・基礎知識篇

明清楽月琴・軸
  例によって基礎知識講座からまいりましょう。

  庵主は「軸」と呼んでます。
  西洋の楽器用語で言うと「ペグ」。機械式の糸巻きと区別して「ウッドペグ」とも言いますね。

  例によって用語があまり固定化されてないんですが,そのほかには「糸巻き」「音締め(ねじめ)」「轉手(てんしゅ)」「轉軫(てんしん/てんじん)と書かれることもあります。

『筠庭雑考』
  「弦軸」もしくは「軸」というのは,中国の一般的な楽器用語。
  「音締め」は三味線,「轉手」は琵琶,「轉軫」とか「軫」というのは琴の用語ですね。

  江戸時代の『筠庭雑考』という随筆では「吟車」,『月琴詞譜』(1860)には「唫車」と書いてあります。中国語で読むとどちらも「jinche」なんで,字は違うけれども同じ語なんでしょうが,あまり他では見ませんね。

  ちなみに糸巻きのささっているところを,庵主は「糸倉」と言ってますが,これは西洋では「ペグボックス」,中国語では「弦槽」,『筠庭雑考』では「吟池」となってますね。

  現在の中国月琴はほかの中国楽器と同様の,工具のドライバーの握りのようなカタチが多いようですが,明清楽の月琴では握りが六角形で先がラッパ型に広がったものが主流です。
  強度の必要な箇所なので,材質は黄楊や黒檀・紫檀などの丈夫な硬木の類が多いのですが,明清楽の月琴の中級以下のものでは,正体不明の雑木がいろいろと使われております。
  だいたいは胴体や棹と同材,たとえばクリやサクラを唐木風に染めたものが多いのですが,時には糸を張って大丈夫かいなというくらい,軽い柔らかな木で作られていたりもしますね。

  ちなみに庵主のウサ琴シリーズは,チークを使っています。
  黒檀や黄楊にくらべると,強度上は少し足りませんが,加工性が良い。
  せっかちで,黒檀や紫檀を悠長に削ってられない庵主には合ってますし。
  金属弦を張るならともかく,ナイロン弦くらいまではぜんぜん大丈夫なようですね。



2)レベル1:松脂をつける

  さて,軸のゆるみにはその原因と症状によって,いくつかの段階があります。
  処置は,じっくり記事を読んで,自分の楽器がどの段階なのかきちんと把握してから作業に入ってくださいな。

  ハヤトチリして,取り返しのつかないようなコトしでかさないでくださいよ。


  軸の取り付けや工作自体には問題がない,たんに「ゆるみやすい」という程度なら,松ヤニをつけましょう。

  調弦でけっこう力をいれて何度も回したりしているうち,軸先や軸穴が,摩擦でスベスベになってユルみやすくなったりしているのです。

  松ヤニ,ロジン,ですね。野球のピッチャーが,ボールの滑り止めに手にはたく粉入り袋を「ロジン・パック」って言います。ああいう粉を軸先にまぶして,穴にさしこむと,けっこうギュッとしまって軸のふんばりが効くようになります。

工芸用松ヤニ
  けっこう間違っちゃう人が多いのですが,「松ヤニ」とはいっても,月琴の軸先にこすり付けるのは,高価な「楽器用」の松ヤニでなくてぜんぜんよろしい。

  バイオリンなどの擦弦楽器で使う松ヤニは,弦と弓にこすりつけて「音を出す」ためのモノですが,軸の固定に使うのはホント,たんなる「滑り止め」,使うのは工芸用の松ヤニでけっこう。

  版画の防食材,染色の防染材として,また宝飾関係の人が,小さな鋳型を造るときなどにも使われるようで,そういうアート関係の素材屋さんで置いてあることもありますし,通販でも買えます。

  黄色い氷砂糖かザラメみたいなやつを,ほんの一欠片とって,適当な棒,たとえばエンピツのお尻などでつぶして擦ると,白い粉になります。これを軸の先端や軸穴と触れているあたりにこすりつけ,指でなぞってまぶしてあげましょう。

  工芸用なら,一袋¥500もしませんが,ほぼ一生分の分量。
  庵主も上の写真のブツを,買ってからもう3年以上も使ってるんですが,なんぼか減った,というような気すら一向にしません。

  どうしても楽器用のしか手に入らない(とか,安いのはなんとなく使いたくない,とか)ような場合には,かならず「固形」タイプのものを選んでください。柔らかい「クリーム」状のタイプだと,軸につきすぎて,ヤニが軸穴の内壁にへばりついて固まり,かえって穴を傷めてしまいます。

  また,固形タイプや工芸用のを粉にしたものも,つけ過ぎはやっぱりいけません。
  しょっちゅうつけているような場合には,たまに軸穴をエタノールなどでぬぐって,掃除してあげてください。



3)レベル2:軸先を調整する

  さて,松ヤニをまぶしても,状況があまり変わらないような場合。
  まずご確認いただくことは,軸先が軸穴とちゃんと噛み合っているかどうかです。
  中国月琴の場合はたいてい,軸の先端が握りと反対のほうの軸穴から,少しだけ突き出てるのがふつうですが(職人モノ,工作の良いものはピッタリおさまっている)――

  (A)奥まで挿しこんでも,軸先が糸倉にきちんとはいっていかない。
  (B)軸は糸倉にしっかりと挿しこまれているのに,それでもユルむ。


――という場合。(A)の場合はモロなんで分かりやすいのですが,(B)の場合,まずは軸先や軸穴に大した変形がないこと,糸倉にもへんな歪みや割れ等がないことを確認してください。
  一見して,どちらにも異常がないようならば,それもやっぱり軸と軸穴がちゃんと噛み合ってないわけで。
  たとえば軸を挿したままの状態で,糸倉の内側に光をあてて横から見ると,軸と軸穴の間のわずかなスキマから,光が漏れてきたりします。

  楽器は基本的に木材でできてるんで,はじめどんなに精確に作っても,長い間使っているうちに,寸法に狂いがでてきます。
  そうでなくても工場生産品の楽器では基本的に,規格であけた孔に,規格で作った軸を入れてるだけ。加工や調整がカンペキとはいえないものも多々あるわけで。向こうの弾き手さんは楽器を買ったら,あちこち手を入れてマトモに弾けるようにしてから弾くのがフツウなんだそうです。
  とくに中国製月琴は,もとの作りがけっこうテチトウなので,この手のハナシはよく聞きますね。

軸のすりあわせ(1)
  軸穴のほうが歪んでいる場合は次の「レベル3」へどうぞ。
  ここでは軸のほうを調整して,孔にきっちりおさめる方法を書いておきます。
  おっとその前にまずは軸と軸穴の関係がどうなっているのか,きっちり調べるところから。

  (1)紙やすり(#400~600)くらいでまず軸先全体を軽くこすり,表面をつや消し状態にする。

  (2)孔にギュッと押し込んで,二三度回す。


  こうすると,軸穴にちゃんと触れてるところはツヤツヤになるし,触れてないところはツヤ消しのまんま。
  ツヤツヤのところは微妙に凸ってるわけだし,ツヤ消しのとこは凹んでるわけですね。
  これでどこがどうなっているか分かればあとはカンタン。

  (3)ツヤ消しのところがなくなるように(ツヤありの部分を!ですぞ),少しづつ紙やすりをかけては押し込むくりかえし。

  (4)二筋のツヤツヤゾーンが,軸ぐるりにまんべんなく出来たら完成。


  これで軸と軸穴の噛み合わせがよくなり,そうはユルまなくなります。
  左に以前書いた図説を載せときます。絵をクリックすると拡大されますので,ご参考に。
軸のすりあわせ(2)
軸のすりあわせ(3)


4)レベル3:かなりヤバい

  (A)軸先が歪んでる。/軸が折れてます。
  (B)穴の奥まで入れても,軸がガタガタ揺れる。
  (C)穴自体が歪んでいる。

赤いヒヨコ・軸
  ――など。
  明清楽月琴の場合は軸もまた消耗品(よく折れたりします)なので自分で削るのが基本(売ってないし)なのですが(うう…泣),中国月琴の場合,(A)のように,軸のほうがおかしい場合は,中国楽器のお店で買うことができます。在庫にない場合は,多少時間はかかりますが取り寄せてももらえますよ。


  (B)は長年の使用(もしくは調弦がランボー)によって穴が広がってしまった場合が多いようです。
  軸はまっすぐさしこんで,しぼりこむように回すのが基本なのですが,これをぐりぐりと,メッタやたらとネジ込んでるとよくこうなります。軸先のほうの穴は大丈夫なのに,軸の握りがわ,大きい方の軸穴が広がって,左右の軸穴が不均等になっているため,軸が揺れるのです。

  あまりヒドい場合は(C)と同じ処置が必要ですが,揺れがそんなにひどくないようなら,「レベル2」でやったように,軸のほうを調整するか,もしくはユルいほうの軸穴の内側に,薄い和紙を貼り付けてみてください。

  応急処置としてはヤマト糊で貼り付ける程度でじゅうぶんですが,やや本式に,あるていど恒久的な修理にしたい方は,つぎのように――

  (1)軸穴の内側に薄く溶いたニカワで和紙を貼り付ける。
  (2)乾燥後,軸をさしてみて調整。

  キツすぎるようなら,軸先に#600ほどの紙ヤスリを巻いて削り,ユルいようなら,また和紙を重ね貼りします。

  (3)表面にカシューを刷いて,乾燥後ふたたび調整削り。

  この方法は,次の(C)の場合のうち,穴の歪みが軽度な場合にも,ある程度有効です。部分的に凹っている場所に,パテの代わりに紙を貼り付けて調整することもできますから。
  紙を貼るだけのハナシですが,紙はもと木です。
  ちゃんと加工してあげれば,強度は木でやったのとさして変わりません。


彼氏月琴糸倉(修理中)
  さて,カナしいことに,買ったら(C)だった。
  …というハナシも聞いたこともありますが。

  どうしようもなく軸穴がイッっちゃってる場合の処置です(ただし糸倉が割れているようなわけではない場合)。
  この場合の処置は多少の大工仕事が必要。

  泣きながら,軸穴をあけなおします。

  (1)ハンドリーマーで軸穴を広げ,歪んだ軸穴を○く整形。
  (2)ほかの木を削って,いったん穴を埋め。
  (3)あけなおして調整。


  カンタンに言うと,こうですね。

  失敗すると楽器がオジャンですから,しんちょーにやってください。

  埋木には糸倉と同材のものが望ましいのですが,シナなどのやわらかい材質の木材を使うと作業はラクです。ただし強度はちょっと劣るので,軸穴の内側を焼くとか,上の和紙の場合同様,カシューなどを刷いて強化しておくと良いと思います。

  軸穴のあけなおしは,本ブログ内記事,「ゴッタン阮咸(2)」とか「彼氏月琴」の項なんかでやってます。
  ご参考に。


 

月琴のフレットの作り方(4)

FLET_04.txt
斗酒庵 フレット削りを伝授す の巻4斗酒庵流 月琴のフレットの作り方(4)

フレット作り(実践篇 3)

高さ調整ヒケツ(クリックで拡大!)
3)斗酒庵流もう一手間

  竹のフレットが主流なのは,その丈夫さと加工性の良さがいちばんの理由。
  慣れちゃえば月琴に必要なフレット,1セット8本,ほんの2~3時間で用意することも可能です。

  また竹はもともと,仕上げにあまり手のかからない素材で,表面を軽く磨いてあげるだけですぐツルツルになるし,ニスや柿渋を軽く塗れば,それだけでもかなり雰囲気が違ってきます。

  しかし,庵主はひねくれものなので,この「早くて安い!」がウリの竹製品に,さらに余計な手間をかけています。



(1)材取り

  カタチの作り方,切ったり削ったりの工作自体は,前2回のそれとなんら変わりありません。
  素材の竹板を楽器に当てて,高さをはかりながらフレットを削ってゆきます。

高さをはかる 高さ調整-2本ぐらいづつ一緒に作る


  ただ庵主のフレットは,ちょうど中国月琴と明清楽のそれを合わせたような感じになっています。

材取り
  材取りは明清楽のに近く,フレットの片面を表皮のがわに向けて取りますが,ざっくりと半月型に削ぎ取るのではなく,頭の部分がちょうど皮の表面のところにくるように,やや斜めに傾けて取り,両面を削ぎ取って,カタチとしては中国月琴のフレットのようにしています。

  前にも言いましたが,竹の皮の表面には,竹でいちばん硬くて丈夫なガラス質の層があります。

材取り(2)
  この部分はきわめて硬く,面では糸擦れ等に強いのですが,層の横からだと意外とモロい。またこの層の部分が水分をはじいてしまうので,竹はふつう耐水耐染,あると染めたり塗ったりが,けっこうタイヘンです。

  この最表皮の層の,まさに薄皮一枚下には,竹の繊維がぎゅっとつまった層があります。

  この部分はガラス質ではないけれど,繊維が詰んでいるので,じゅうぶん丈夫。

表皮を削ぎ去る
  庵主,ガラス質の部分はあえて捨てて,その下の美味しいところを利用します。

  材を斜めに取るので,ほかのフレットよりゼイタクな材取りにはなりますが,大量生産しているわけではないので,それでもよろしいかと。
  両面を削ぐので,あとでのカタチの修整はラクですし,片面のほとんどが,肉よりはずっと丈夫な層で覆われているので,摩擦や衝撃にも強く,また表層ほどモロくありません。

  さらに,塗料の類がしみこまないガラス質の部分を取り去っているので,このフレットには,色を比較的容易つけることができます。


(2)うでる・染める

  整形したフレットを,ヤシャブシの液に砥粉を少量混ぜた汁(面板を染めるのに使ってるのと同じもの)の中で煮つけます。弱火で30分~1時間ほど煮たら,紙で落とし蓋をして,そのまま一晩ほど放置し,色を染みこませます。

煮しめ(1) 煮しめ(2)紙で落し蓋

(3)ニス漬け

  煮〆たフレットを引揚げて,一日ほど乾燥。

  乾いたらそれをそのまま,今度はラックニス(棹や胴体を雑巾ポリッシュするのに使っている,エタノールで薄めたもの)のなかにドボン!

  またまた一晩~二晩漬け込みます。


(4)磨き

完成!
  ニスから引揚げたフレットを数日乾燥させ,#1500~2000くらいの耐水ペーパーで空研ぎ。
  ついで同じくらいの番手のペーパーに,研磨剤と亜麻仁油を少しつけて仕上げ磨き。
  油が乾くまで,また二晩ほど乾燥させます。

  ヤシャ液で煮ると,白い竹の肉の部分に色がついて,どっちが表だかわからなくなるのと,全体が茶黄色くなって,古色めいた風合いが出ます。ニスに漬け込むのは,このヤシャ液の色止めのためですが,染み込んだニスで竹自体が強化されるのも余禄ですね。
  木口からのササクレだちとか,しにくくなりますし。


  とはいえ,最初に言ったように,ただ削るだけなら数時間で仕上がるものに,数日…きちんとやれば一週間もの時間をかけようというのですから,物好きでないとできません。演奏とメンテで必要なフレットの工作テクニック,それ自体は,前回までのぶんでじゅうぶん,じゅうにぶん。

  こちらはあくまで,ヒマと手間が惜しくない方向きですよ――ハイ。


 

月琴のフレットの作り方(3)

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斗酒庵 フレット削りを伝授す の巻3斗酒庵流 月琴のフレットの作り方(3)

フレット作り(実践篇 2)

『物識天狗』
2)明清楽の月琴のフレットのつくりかた

  そのまえに,基礎知識ちょっと追加。
  フレットの名称について。
  右は明治26年の『物識天狗』という本より。
  ここではフレットを「糸枕」と書いてますね。
  この本はべつだん月琴の専門書じゃありませんが,こうやって用語を調べてゆくと,日本人はどうやらフレット楽器に疎かったらしい,といったところが分かってきますね。コトバが固定化されてません。

  このころ月琴大流行で,そこかしこにお師匠さんがいたはずなんですが,いったいどうやって教えてたんでしょうね?音の場所――

  「ああ,そこそこ!その…三番目のアレのとこおさえて,そうそう。次は六番目のソレ。違う!太い方じゃなくて細い糸のほうの!」

  ――とか。たぶん一般的には,「工のところ」とか「高い尺のところ」と,当時使われていた文字譜「工尺譜」の音の名前で,音階の場所を指示してた,とは思いますが,それだと生徒さんが,月琴のどのフレットが工尺譜のどの音だかちゃんと覚えてくれてるのが前提…いやいや,そうは言っても,なかなか覚えてくれないもンですよ(実話)。
  そうするとやっぱり「細い糸の3番目のところ!」とかいうことに……ああ,そうか。それはそれで「フレット」に当たるコトバを使わなくても済むんだ!

  なっとくなっとく(自家消化\(^_^;)。



  さて,ではいよいよ庵主の本職。
  明清楽の月琴のフレットを,作ってみることといたしましょう。

  材料や工具は同じですが,明清楽タイプは,竹の表皮の側をそのまま片面として,その反対側の面と,底の部分を削ぎとって作ります。
  この方法だと,それこそ裏庭に生えてるような細い竹でも作れますし,削ぐのも一箇所減って,二箇所だけ――しかしながら,だからといって中国月琴のより作るのがカンタンかというと,そうでもないのでありますね。


(1)竹を切り分ける。

  ここはまったく同じ。糸ノコでシャキシャキと切り分けましょう。


(2)木口から割る。

材取り   やることは同じながら,違うのはココから。

  まず竹の木口を楽器に当てて,フレットの材取りを決めましょう。

  図のように,フレットを横から見たとき,表皮側の面がそのまま二等辺三角形の片方の辺になるわけなので,そことのバランスを考えながら,糸と指板のところ,底と頂点になる位置を決め,目印をつけといて,裏面のラインを描きます。

  木口に底と裏側のラインを書き込んだら,ノミで割ります。

  言うまでもないことですが,この時点では必要な大きさより,少し高め,少し厚めに割っておいたほうが,アトアトお得です。というのも,この底と裏側の角度が意外と微妙で,庵主もよく,実際に楽器にたててみてから,少し前倒れぎみだったり,反対にそっくりかえったりしてしまってることに気づくくらいですから,あとでじゅうぶんに修整できるように,てげてげのところ,ちょっと大きめに割っておきましょう。

割る(1) 割る(2) 割る(3)
(3)高さを調整。
頭を削る(1)
  実際に楽器に当てながら,フレットの高さを調整します。

  削るのは中国のと同じく,まず底面から。
  左右の高さが狂わないように,というのにプラス。横から見た角度にもご注意。

  両面どちらでも,あとから削って修整できる中国型と違って,明清楽型では表皮の側の角度が一定。せっかく高さが決まっても,そっくりかえったり前倒しになっちゃったら,また作り直しですよ~。

  かなり高さが近くなって,まだ少しビビるかな~。
  というところで,頭の部分をけずって仕上げてゆきます。

鶴壽堂 第1フレットはかなり鋭角
  明清楽タイプだと,フレットの頭を極限までシャープにすることができます。

  実際,古物でも刃物みたいに切り立ったフレットがついているのを,見たこともありますね。

  この部分が鋭角だと,指圧により敏感に反応し,精確な音程を出せるようにできるのですが,あまり尖らせると糸切れの原因になったり,かえって糸擦れで減りやすくなってしまうこともありますので,ほどほどに。

頭を削る(2)
  竹の表皮部分はガラス質で,面に対する摩擦には強いのですが,層の横がわからだと意外にモロいのです。

  庵主の場合,頭の部分には 0.6~0.8 ミリほどの厚みを残しておきます。


(4)左右の切り詰め。

左右切り詰め(1)   これも手順は中国月琴と同じなのですが。
  こちらのほうが,ちとツラい。

  というのも,明清楽タイプの場合,竹でいちばん丈夫な表皮の部分がヨロイのように片面を覆っているので,肉の部分の多い中国型にくらべると,カタくて刻みにくいのですね。

  裏の,柔らかい肉のがわからやるとラクそうに思えますが,そうすると,よく皮のほうに思わぬササクレとか割レが走っちゃうんで,やっぱり表がわからチマチマ刻んでゆくのが一番のようです。

  もっとも,堅いといっても厚みはたかが知れてますから,それほど大変でもありませんが。
左右切り詰め(2)
  幅を切り詰め,左右の木口を斜めに落として,ヤスリで磨きます。

  このときも,ヤスリはかならず「皮のがわ」から,裏側の「肉のがわ」に向けて走らせてください。
  反対にするとやっぱり,皮のはじっこのほうが欠けたり,へんなササクレが立ったりしますよ。


(4)磨く。

  最後に裏面をざっと磨いて仕上げましょう。
  皮のほうも,表面に染みとか汚れがついていることがありますので,軽くこすっておいてください。
  あんまりこすりすぎると,せっかくの皮の部分がだいなしになってしまいますから,ほどほどにね。

  幸運にも本物の煤竹が手に入った,とかいう方はべつですが,そうでない方で,削りたて,磨きたての竹の白っぽさがどうにもガマンできないというムキは,このあと柿渋を染ませるなり,生漆かカシューの類で茶色く塗装なされるとよろしいかと。



フレット比較(1)
  この明清楽の月琴の方法ですと,モウソウチクやマダケでなくとも,メダケのような,細く比較的肉の薄い竹からも作ることができますので,より材料選択の幅は広がります。また,片面がいちばん丈夫な皮の層で覆われているおかげで,かなり薄めに作っても丈夫で,衝撃等に対しても中国型のそれよりずっと強く,ヨゴレなどもつきにくい。

  ただ硬い皮の部分をそのまま使うので,ちょっと材取りのときにカタチのバランスで悩むのと,加工性においてすこし中国型には劣りますが,これらはいづれも,現在より日常的に竹という素材に親しんでいたむかしの時代には,さほどの問題ではなかったかとも思われます。
フレット比較(2)
  竹というものは,むかしは,いまのプラスティックやビニールにあたる日常の生活素材でしたので,いまよりずっと多くの人々が,我知らず,素材としての竹のいろいろな特性に通暁していたはずです。そのころには,自分でフレットを削ることも,誰教わることなく,見よう見まねでふつうに出来ていたんでしょうね――月琴弾きも。


 

月琴のフレットの作り方(2)

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斗酒庵 フレット削りを伝授す の巻2斗酒庵流 月琴のフレットの作り方(2)

フレット作り(実践篇 1)
4号フレット製作中
■ 基本的に,月琴のフレットの材料は,ある程度の硬さ,糸擦れに対する耐久性をもっていれば,なんでもよろしい。

  庵主も象牙や檀木からはじまって,そのコンパチ。またタモなどの硬木からアクリルやプラスチックまで,いろいろと試してきましたが,じつのところこの部品,何を使っても,楽器の音色上には,ほとんど変化がありませんでした。

  高級な月琴で象牙が用いられているのは,指滑りの感触が良いのをのぞけば,おもとして高級感を出すためだけのことで,音色や操作の面で,これがとくに優れているというわけではありません。
  また象牙は,たしかに素材としては粘りもあり,丈夫ですが,日本の琵琶の柱くらい厚さがあるならともかく,月琴のフレットていどの薄いものだと,けっこう糸擦れで削れて減ってしまうので,さほど耐久性が高いともいえません。

  月琴のフレットは消耗品です。

  減ってしまったら取り替えなきゃならないし,なくなってしまったら削って作らなきゃなりません。

  さてそこで――

  象牙や黒檀などの稀少材は,今後とも安定した供給があるとは限らなかったり,ワシントン条約にひっかかったり…そもそもがところ,単価が高い。

  入手が容易なことからいっても,加工が容易なことからいっても,庵主はやはり「竹」をおすすめいたします。



竹材各種
■ 材料の竹は,あるていどの厚みがある(8ミリ~1センチくらい)ものなら,なんでもけっこう。

  ホームセンターなどでは,園芸用として,垣根などに使う割り竹の板が売られています。
  180センチくらいの長さで,1本¥200くらい。
  長いものなんで,これ1本あれば,じつに何セット分ものフレットができます。


百均竹材
  また,百均屋さんの園芸コーナーや,台所用品のコーナーなどにも,使えそうな竹製品がけっこうありますので,そういうものでもぜんぜんかまいません。

  お手元に,竹板は用意できましたでしょうか?
  では,いよいよ作ってみましょう。
  基本的な工作はじつにかんたん。

  切って,割って,削って,磨く。
  ハイ,それまでよ。




1)中国月琴型フレットのつくりかた
フレットの違い
  まずはどんなタイプのフレットを作るのか。   同じ竹のフレットでも,明清楽の月琴と中国の月琴では,竹の割り方や加工の手順が若干違っています。

  「月琴」で検索して,このブログにたどりついた方々の多くは,中国月琴のユーザーだと思いますし,まずはそっちから始めましょうか。

■ 中国月琴のフレットは,肉厚の竹を用いて,頭の部分に表皮を残し,そこを中心に両面と底の部分を削ぎとって作ります。

  竹の表皮の部分はガラス質の層になっていて,糸擦れに対する耐久性も強いですし,なにしろ一枚の竹板から数多くのフレットを取ることができます。さすが中国,大量生産に向いてるやりかたですなあ。

切り分ける
(1)まずは竹を切り分けます。

  竹を横に切るのは糸ノコがいいです。
  ふつうのノコギリとか精密なピラニア鋸なんかより,サクサクシャリシャリとよく切れます。
  必要な幅より,ちょっと大きめに挽いておきましょう。また失敗した時の予備も考えて,素材はちょっと多めに作っておくといいです。


(2)木口から割ります。

  はじめからサイズぴったり超うすーく,なんて考えず,ちょっと厚めに割っておいたほうが,失敗がなくて良いですよ。 モノは竹ですから,木口にノミの刃先を当てて,木槌でかるくたたくだけでスパッ!と割れます。ヘンにリキんで「トゥッ!!」とかやって,飛んだカケラでケガなんかしないでくださいな。

  この時点ではまだ両面はケバだってガサガサ,底の部分は竹の内側そのままですから,わずかに凹んでますが,これだけでもう,カタチはほぼ楽器のフレットそのものですね。

割る(1) 割る(2) 割る(3)

底削り
(3)底の部分を削って,高さを調整します。

  実際に楽器に当てて弾いてみながら,削ってゆきます。
  糸に触れるくらいの高さまでは,刃物などで一気に。
  そのあとは,ひとつ前のフレットを押えても,ビビりの出ないところまで中目くらいの紙ペーパーで慎重に削り減らしてゆきます。
  あたりまえのことですが,高いフレットを低くすることはできても,その反対はできませんから(笑)。
  あと,左右片ぴっこにならないように,注意してください。
  透明な方眼定規とかがあると,ちゃんと上下まっすぐ,幅均一にできてるかどうか,調べやすいですね。

両端削り
(4)必要な幅に合わせて,両端を切ります。

  幅の切り詰めは,5ミリ以上なら糸ノコで切り落としますが,それ以下ならカッターやヤスリで切り取り,削ってしまったほうがラク。そのように刃物を使う時や,最後に左右の上角を斜めにそぎ落とす時には,右「図1」のように,いちばんはじめに頭の部分に切れ目を入れておくと良いです。
  フレットの胴体部分は柔らかい「肉」の部分なので削りやすいのですが,調子にのってザクザクやってると,ふと工具がひっかかって,いちばん大事な頭の部分が,図2のように丸っこ剥がれてしまったりします(ここまできてると,けっこうヒゲキ)。

  最初に刻みを入れておくと,まずそうしたことは起こりません。

両端削り(1) 両端削り(2) 両端削り(3)

  早くて安くて簡単がモットーの中国式。

  修理をお急ぎの方,ワイルド好きなムキは,最低ここまでもよろしい――ちょっとブ厚く,両面が多少ボサボサしてても,フレットとしては,じゅうぶん用をなします。
  まあでも,せっかくですから少しキレイにしてあげましょうか。

磨く(1)
(5)磨きます。

  まずは両面を粗めのペーパーで,繊維方向ではなくやや斜めにかけて,厚みを削ぎとります。

  厚いフレットは,楽器上での安定が良く,大きな音を出すため強く弾いてても安心感があるのですが,設置のとき,なかなか精確な音程の出る位置におさまらなかったり,押える場所によっては音に bebung 的なうにょんうにょん効果が,期せずしてかかってしまうことがあります。

  一方,薄いフレットは弱い指圧でも反応がよく,精確な音程が出せますが,薄すぎると接着面がせまいのでポロリしやすくなります。
  また敏感なだけに,弦をはじくタイミングや押える力加減ひとつで,残響が死んでしまったり,音程が狂ったりしてしまいますね。強く押えられないので,大きな音をだすときや,トレモロ演奏などが多少やりにくいといった面もあります。

磨く(2)

  好みの厚さになったら,細かいペーパーで仕上げ磨きを。
  このとき,頭の部分の両辺もかるくこすって,四角い頭を少しだけ丸くしてあげましょう。
  指滑りがかくだんに良くなります。



中国型・完成
  中国型の利点は,なんといってもその工作の容易さにあります。

  細かいことを気にしなければ,3回割っただけで出来てしまうのですものね。
  庵主はちょっと丁寧に,ノミやら紙ヤスリやら,いろいろと工具を使いましたが,極端なハナシ,この中国型は,切り出し小刀一本あれば製作が可能です。ちょっと慣れたら,それでじゅうぶん,機能的にまったく問題のないフレットを,短時間でこしらえることが可能でしょう。

  欠点としては,まず第一に,かなり肉厚で径の大きな竹が必要となることがあげられます。
  明清楽の月琴に比べると,中国月琴はやや絃高が高く,フレットの高さは最大15ミリくらいになります。日本でふつうに売ってる竹だと,ちと厚みが足りませんので,同じようなものを作るとなると,すこし斜めに材どりするしかありません。

  さらにフレット本体のほとんどが,表皮ほど丈夫ではない竹の「肉」の部分であるため,衝撃の方向によってはかんたんに割れてしまうことがあります。またそういう繊維質の部分が外に晒されているわけなので,多少,汚れがつきやすいですね。

  このあたりの対策としては,柿渋を染ませたり,ニスを軽く刷いたりしておけば,いくぶんか違ってくると思います。

 

月琴のフレットの作り方(1)

FLET_01.txt
斗酒庵 フレット削りを伝授す の巻1斗酒庵流 月琴のフレットの作り方(1)


十六夜・再製作フレット   再三再四,けっこうあちこちで。
  言うて回ってることなのですが。

  月琴のフレットは消耗品です。

  よくポロリと取れるし,なくなります。
  家の中で落ちても見つからないことがあるくらいで,ライブの時なんかに,薄暗いステージの上でポロリしようものなら,もーぜったい見つかりません。

  フレットの接着は,基本,ニカワづけです。

  たしかにボンドほどの接着力もなく,衝撃にも弱く,耐候性も劣るのですが,たとえポロリしてもなくなりさえしなければ,接着面をペロリと嘗めて,しばらくしてから元の場所に押し付けると,何度でも,ちゃんとくっつきます。

  中国製の安月琴のように,こんもりハミ出すほどの強力ボンドで,ぜったいはずれないようにへっつける,というテもありますが,そうすると今度は,修理・調整が必要な時や,糸擦れで減ってしまって取り替えたいときなどの作業が大変で,メンテナンス上,大きな支障となりかねません。

  楽器の寿命を考えないなら,ボンドづけでもけっこう。
  でも楽器をなるべく長く,ずーっと使い続けてあげたいなら,ニカワでゆる~くお付き合いとまいりましょう。

  基本的なメンテナンスもできない人に,楽器を扱う,演奏する資格はありません。

  大流行していた時分。そこらの楽器屋さんが月琴を扱ってくれていたころならともかく。
  誰も直してくれない,もらえない現在では,取れたり,減ったり,なくなったら,自分で削って貼り付けるのがあたりまえ。

  ちなみに,単にフレットぽろりの類の修理や再製作(けっこう問い合わせがくる)に関しては,古い月琴・ウサ琴を問わず,庵主,以後ぜったい引き受けません。

  今度の記事を参考に,ご自分でご修行のうえ,ご製作くだされ。

  重ねて言います――

  基本的なメンテナンスもできない人に,楽器を扱う,演奏する資格はありません。


1)月琴フレット基本知識

  まずは敵を知り,己を知れ,というわけで。
  月琴のフレットについて,ちと勉強してみることとしましょう。

『明清楽独りまなび』
  「フレット」というのはもちろん西洋の言い方で,こちらでは「柱(じ)」とか「品(ほん)」と書かれます。「徽(き)」と書いている本もありますね。

  「品(ほん/ピン)」は現代の中国の楽器での言い方で,「柱」は「琴柱(ことじ)」の「柱」,日本の琵琶でも,あの背の高くて大きなフレットを「柱(じ)」と言っています。「徽(き)」は,古琴や一弦琴などの琴面に螺鈿などで打たれている勘所,ポジションマークです。単に平面的なマークではないと言うため「徽枕(きまくら/まくら/まくらぎ)」「徽柱(きばしら)」とも書きます。

  月琴という楽器は,それだけを作る専門の職人より,三味線や,琴や琵琶の製作者がついでに作っていたことが多いので,その各部の名称には,ほかの楽器から流用された語が多いようです。唯一「月琴の用語」と言っていいのは,お飾りの「蓮頭」「目摂」のほか,絃を止めるエンドブロック,もしくはテールピースを示す「半月」くらいではないしょうか。琵琶ではこれを「覆手(ふくしゅ)」と言い,「半月」といえばそれは,胴体左右の小さなC孔,サウンドホールのことになりますね。

  ちなみに明清楽の月琴ではフレットは8本ですが,古い本では西洋楽器で言うところの「ナット」である「山口(さんこう)」もこの類に含め,いっしょくたに「九柱」とか「九つの徽枕」などと書いてありますので,そういう古い資料を読む際には,フレットの本数を勘違いしないよう,ちょっと注意してください。

象牙製(楓渓オリ) 黒檀製(2号オリ)

  古い明清楽の月琴では,楽器の等級などによってフレットの材質が違っていました。

  高級なものでは象牙・玉石のほか,黒檀・紫檀・黄楊などが用いられています。以前,工房でやっていたように,頭に糸擦れ防止で,鼈甲や象牙を貼った類もあるそうですが,今のところ実物にはお目にかかっていません。
  中級以下の品でも,一見象牙に見える紛いものの練物製や鹿角,あるいは正体不明の骨の類で作ったものも見たことがありますが,主流はやはり,現在の中国月琴などと同じくになります。

煤竹製(3号オリ)
  その竹製のものにもさらに等級があったようで,良いものにはやはり本物の「煤竹」が使われています。
  笛などの材料としても最適だそうですが,表皮の部分が茶色く艶光りして,堅くよく乾き,部材の芯まで色が染みています。
  安物の月琴で,これに似せて,竹の皮の部分を漆やニスで塗り,それっぽく仕上げたものが見られますが,こちらはちょっと擦ると,色が剥がれて,ふつうの竹の地肌が見えてしまうので分かってしまいますね。
  さらに安物だと,裏庭に生えてる竹を削って形にしただけみたいなものもないではありません。
  また,オリジナルではないのかもしれませんが,杉かヒノキのような軽い木材で作られているものも見たことがあります。


  基本的に月琴は,絃高が山口がわのほうが半月より数ミリ高くなっているので,フレットは高音のものほど背が低くなってゆきます。

フレット形状
  通常山口の高さは指板面より10~13ミリ,糸を張った時の半月との高低差は2~3ミリほど。
  第1フレットの高さは9~11ミリ,最終第8フレットで5~6ミリほどになります。

  象牙や玉製のフレットでは,厚みがあってただ四角い板の上面を丸くしただけのようなものも見られますが,多くの月琴では現在の中国月琴などと同じく,フレットを横から見たとき,頭の丸まった三角形をしています。厚みは底の部分で3~6ミリ,頭の部分で1~1.5ミリほど。

  たいがいのフレットは,正面から見たとき,頭のほうがわずかにせばまった台形になっていますが,まれに,左右が垂直に切り立った,真四角のお札のようなカタチになっているものや,現在のベトナム月琴や琵琶のように,頭のほうに向かって末広がりになっているものもあるようです。


太清堂-左右に蟻道
  古物のオリジナルでは,棹上のフレットは,指板の幅いっぱいではなく,左右に0.3~0.5ミリほどの余裕ができるよう,わずかにせまく作られていることが多いですね。
  琵琶などでも同じようになっていて,このフレット横の余裕を「蟻道(ありみち)」と言っています。

  第4フレットは楽器によって,棹の上だったり,胴体と棹の境目にあったりしますが,胴体上にある場合も,これはほぼ棹の指板の幅と同じくらいの長さであることが多いようです。

  むかし風の中国月琴では胴体上のフレットを裙広がり(「古い中国月琴」参照)に,少数民族の楽器や現在の中国月琴では,最終フレットまでほぼ同じ幅で作られていることが多いのですが,明清楽の月琴では,開放弦のちょうど1オクターブ上の音にあたる第6フレットをいちばん長くして,その前後を短く作り,ちょっと装飾的なデザインにしてあることが多いですね。

古い中国月琴胴体 現代中国月琴胴体 楓渓胴体
  第5フレットが40~50ミリ,第6が55~70ミリ,第7が40~45ミリ,最終第8フレットの幅は35~40ミリほどです。

正倉院の阮咸(胴部分)
  製作者の好みや楽器のデザイン,たとえば柱間の飾りの大きさとか,左右の目摂との関係でだいぶん違ってくるので,ここにあげた寸法はあくまでも目安に過ぎません。このデザインがどこから来たのかは定かではありませんが,通説で「月琴のご先祖サマ」とされる正倉院の阮咸の胴体部分のフレットも,ほぼこれと同じ様子になっていますね――胴体と棹の境目にあるフレットは指板と同じ幅,いちばん長いフレットをはさんで上下が短く,しかも下のほうが,上のものよりほんの少しだけ短いとこまで同じです。

  さて,誰がどういうつもりではじめたことやら?


  さて,次回はいよいよ「実践篇」。
  おてもとに材料と工具のご用意を。




 

月琴の製作者について(1)

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月琴作者列伝月琴の製作者について(1)


  古い楽器を修理したりしていると,「あ~,この楽器はどんな人が作ったんだろうなあ」という思いにかられることがあります。

  ある月琴は胴材の擦り合わせがすばらしく,ある月琴は棹から糸倉のラインが夢のよう…明治末のころの月琴だと,近代的な工作機械で加工したらしいのもありますが,それでも楽器は手工による部分が多いものですから,作り手の巧拙や手先の感覚が,修理してると弾いてると,なんとなく伝わって,分かってくるのです。
  けれど国内の月琴の製作者についての記録は,ほとんど見かけたことがありません。

  たとえば『明治閨秀美譚』(M.25 鈴木光次郎)などという本にのっている明清楽の演奏家・長原梅園の伝記中に,彼女の使用していた月琴が「初代天華齋作にて,逸雲・卓文君等の二名器とともに渡来せるもの」であったという記述があり,名人の名前が見えますが,これも月琴が輸入品であったころの,大陸における古い作者の話です。

  いまも続く十字屋楽器さんが明治のころ月琴も扱っていた,とか明清楽の独習本の巻末に,楽器の販売元や価格一覧がついてたりするので,いくつかの製造元や職人の名前は分かっているのですが,そうしたものの実物には,意外とお目にかかったことがありません。

  庵主自身こういう時,まだどこをどう探せばいいのか,ちゃんと分かってないフシもあるんですが,とりあえず今回は,最近,偶然にも分かったあたりのおハナシを。


十六夜月琴

十六夜ラベル
  先日修理の終わった「十六夜月琴」の裏面には,製造元のラベルの断片がちょっとだけ残っていました。

  こうした月琴の製造元ラベルは,読みとれないような文字で書かれた,古くさい木版の印判であることも多いのですが,これはちゃんと精緻な銅版印刷で刷られていたので,断片ながら,上に「博覧会」「第5回」,中に「東京」,下に「齋二記」といったところが確実に読み取れます。おかげで,たったこれだけではありましたが,製造元が分かりました。

  といっても,過去に拾ってきた画像資料をあたってこれに近いものを探しただけのことですが。

  このラベルはどうやら「清琴齋」(清琴齋二記山田)というメーカーのもののようです。

清琴齋ラベル
  上のラベルで,真ん中に描かれていた円形の模様は,明治期に開かれていた「内国勧業博覧会」の受賞メダルのようです。
  同定作業で参考にしたほかの月琴の画像(右)では,このメダルは第2回(明治23年)のものだけでしたが,十六夜月琴のラベルには,大阪で開かれた「第5回内国勧業博覧会」(明治36年 1903)のメダルも加えられてます。

  ――ということは,この月琴が作られたのは1903年以降となるわけですね。明清楽はこのころすでにかなり衰退の色を見せ,明治の40年代になると楽器もあまり作られなくなったと言いますから,ここからそんなに遠くない年のことでしょう。

  思いがけず製作年代の手がかりなんかも得られました。

  第2回の方は分からなかったんですが,国会図書館のアーカイブで第5回の受賞者リスト(『第五回内国勧業博覧会受賞人名録』M.36)を調べてみると,この回には「浅草区蔵前片町 山田縫三郎」が尺八で三等,箏・月琴・木琴・清笛で褒状を受けています。

  同回における東京からの出展者で,楽器を扱い,「山田」姓のものは彼のみですから,この「清琴齋」はこの「山田縫三郎」の号である可能性が高いですね。Webでいろいろと調べたところ,明清楽器のみならず,鈴木政吉とほぼ同時期にバイオリンを製作したとか,縦笛型ハーモニカの独習本『吹風琴独案内』を編著するなど,手の広い製作・販売者だったようです。

『第五回内国勧業博覧会受賞人名録』M.36
  この「清琴齋」のマークのついた明清楽器は,東京芸術大学にも何本か所蔵されているようですし,ほかでもけっこう見かけますから,明治末期のころには大手のメーカーだったと思われます。

  糸倉の弦池の彫り込みなどは精確に真四角で,内側にも手工具によったときに見られる歪みや加工痕がほとんど見られないことから,規模は大きくないとしても,おそらくは近代的な工作機械によって,ある程度の数を加工・量産していたのではないかと考えています。


  ちなみに,人名録にあった「浅草区蔵前片町」は,今の蔵前1丁目から2丁目にかけてにあった地名で,江戸時代から大きな商業地域だったところです。
  この一帯は関東大震災や戦災で大きな被害を受け,古いものは少なくなってますが,こんど何となく散歩でもしてみましょう。



5号・鶴壽堂月琴

鶴壽堂ラベル
  裏面に「鶴壽堂」のラベルのあったこの月琴。

  内部の墨書から,明治35か36年(奇しくも「十六夜」と同じころですね)に,名古屋で作られたものであることは分かってましたが,庵主,手書きの字の判読がニガテなんで,分かったのは。

[表面板ウラ]
 明治三十五年 四月
  名古屋市上園町三丁目
   〓〓〓〓〓〓
       〓〓〓

[裏面板ウラ]
 和洋[音]楽器[等]之所
  名古屋市上園町三丁〓
   鶴[心]〓居
 明治三十六年 [春]


鶴壽堂・内部

  というところ。
  この解読も含めてその後,ずっと手詰まり状態だったんですが,最近,『愛知県実業家人名録』(M.27)という明治時代の人名録を見ていたら――

『愛知県実業家人名録』
 琴・三味線・明清楽器・西洋楽器
 上園町三丁目
 [山治(屋号)] 鶴屋 林治兵衛


  ――という方を発見しました。

  隣にある広告主は,前の記事でもちらと出てきた鈴木バイオリンの政吉さんですね。

  西洋楽器も扱ってるようなので,裏面墨書の「和洋楽器」ていうのとも合致。

  これでもってあらためて墨書の字を読み直してみると,表面ウラの三行目は「鶴屋治兵衛」「製造」,裏板ウラの三行目も「鶴[心]〓居」とかではなく「鶴屋治兵衛」を崩したものではないかと思います――先にも述べたとおり,手書き文字の判読はニガテなんで,自信はありませんが。

  こちらについてはこれ以上資料がなく,ここまで。


鶴壽堂・内部2
  「鶴壽堂」の月琴については,最近,前に直したものよりいくらか上級の月琴が一本,ネオクにあがっていました。象牙のフレット,彫刻のある半月,玉石の扇飾りなど高級感ある飾りが付いていましたが,ラベルもまったく同じものですし,棹頸のカタチや,指板,明るい黄色の木部など,基本的な工作の特徴はほとんどいっしょでした。

  当時の独習本の巻末などに載っている販売楽器の価格表などを見ると,高級品では5円,7円などというものもありましたが,低級品は1円前後からあったようです。明治38年ごろで,お米10kgが1円19銭だったそうですから,現在の値段に直すと,月琴は最低ランクので5~6000円,高いのは4~5万円てあたりだったと思います。
  琵琶が12円からとなっているのあたりと比べると,まあ庶民でも手を出せる値段だったのではないでしょうか?

  これも月琴が流行した理由の一つだったのかもしれません。

  5号「鶴壽堂」については修理中から,見かけは中級,普及品なのに,内部構造や本体の材質・工作がけっこうしっかりしていたことが印象的でした。音も良かった。おそらくこの店では,月琴の等級は,半月や蓮頭,お飾りの材質での格差で,本体の工作などはどれもほぼ均一に,同じ材質で同様に行われていたのではないかと思われます。まあ良心的。
  楽器商「林治兵衛」の名前は,明治42年の『名古屋商工人名録』にも見えますが,こちらでは住所が「西区下長者町一丁目」に変わってます。

  いづれ名古屋に行ったときには,「鶴屋」さんのあった場所なぞ訪ねてみたいものです。


月琴の弾き方(1)

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斗酒庵流 明清楽月琴演奏法月琴の弾き方(1)

  「月琴の弾き方」つーても,明清楽の月琴のハナシですんで。
  現在主流の中国月琴の方々には役立ちません…あしからず。
  本拠HPのほうにも書いてあるんですが,こちらにも書いときましょう。

  なんせブログの方が写真いっぱい載せれるんで,解説がラク。



STEP1 月琴の持ち方
持ち方
  まず持ち方ですが,明清楽の月琴は中国月琴よりも立てて弾きます。

  棹は持たず握らず――親指の腹のあたりを背面に当てている程度。
  あとは胴体が胸にちょっと当たってるのと,膝の上にのっかってるだけ。支点三箇所ってとこで,とくに身体に密着させるようなことはしてません。
  軽い楽器ですので,慣れれば親指一本でバランスをとり,かなり自由に動かせるようになりますよ。

弦のおさえかた
  つぎに弦をおさえてみましょう。

  通常,指は「フレットの上」ではなく,フレットとフレットのちょうど真ん中あたりをおさえます。

  ただ,高音域で早弾するときや,トレモロを主体とした演奏のさいには,こころもちフレットに近いあたりをおさえた方が弾きやすいですね。

  複弦楽器ですんで,2本いっしょにおさえます。

  柔らかな絹弦ですし,フレット高もあるんでおさえるのに力はいりませんが,ほぼ糸の真上から,そのまま指をおろしたような感じで。指の腹のところに2本の糸の間が気持ち喰い込んだかなあ,てトコロがベスト。

  力を入れすぎると糸が沈んで音程が上がってしまいますし,斜めから指を下ろしたりすると糸がズレて,やっぱり正確な音が出せません。

 ※ もっとも,逆にそれを利用するコトもできるワケですね――ハンマリング,プリングオフ,チョーキングなど,ギターのテクはだいたい応用できます。




STEP2 ピッキング
ピックの持ち方
  ――といってもドロボウの仕方でわない。

  で,これが良く聞かれるピックの持ち方。
  基本は影絵の「キツネ」さんです。

  まずは指でキツネさんを作って,その「お口」(中指と親指)に,ピックの先端の方をくわえさせます。
  次に「お耳」(人差し指)の付け根のあたりにピックのお尻をつけます。


  そのまま,親指だけをピックの真ん中あたりまでちょっとズラして,ぐっと押さえる――とまあ,コトバよりも写真で見てもらったほうが早いかな?


  ピックを持つ手は,ギターのように手の平を胴体に向けるのではなく,楽器の下部,半月のあたりに置いて棹のほうを向け,下から弦をすくいあげるような形にします。

  もっとも,ピンカラ弾きの場合は,ギターのようなスタイルでふつうにはじいて弾いても構いません。
  トレモロ演奏のときがちょっと難しい。

  わたしは写真のように小指,もしくは手を半月の上に置いて固定してしまいます。

  マンドリンとかのトレモロ演奏と違って,ピッキングには手首は使わず,先ほどの三本の指(親指・人差し指・中指)だけを動かして,糸のごく表面をタッチアンドゴー。擦るように弾きます。
  2コースしかないですし,ピックも長いので,手首の動きがなくてもじゅうぶんに糸を捉えられるんですね。

ピックの持ち方(2) ピックの持ち方(3)

  今残っている月琴演奏の音源などを聞くと,わたしが言うところの「ピンカラ弾き」,つまりは三味線のお稽古のように,単音でチントンシャンと弾くのが主流のようで,トレモロによる装飾も少なく,あっても曲の最後で「おまけ」のように付けられるていど。それもタララララ…でなくツタタタタと「音を揺らす」というより,ただ数多く連続して弦をはじく,というような演奏がされてます。
  わたしは基本的には「その楽器が出来るコト」なら,伝統技法に関係なく何でもするつもりでいまして,演奏スタイルはトレモロ主体,三線のように低音絃をからませて弾きますし,二弦でできるていどのかんたんなコードも押えます。伝統的な奏法には無いことかもしれませんが,まあ独学ですんで――めざせ!月琴でジミヘン!!!



   最近の演奏(MP3 PLAYIN' BY カメ琴)